前略

SS投稿投稿掲示板より。


1     [id : 6oU11Yr.] [2016-06-04(土) 16:33:59] 削除依頼



   空がぼくを殺しにきたら

   亡骸のぼくを

   どうか

   海にへと葬ってください


                 草々

2   [id : 6oU11Yr.] [2016-06-04(土) 18:12:44] 削除依頼


 ──1.


 手にした一枚の便箋を目にして、私は自分の体が硬直するのを理解したのと同時に真っ先に自分の目を疑った。まるで死を宣言したかのように平然と物語る目の前の文章に、私は若干の吐き気を覚える。

「……なに、これ」

 乾いた喉からやっとの思いでそう一言だけ絞り出した後、私はもう片方の手で持っていた封筒にそろりそろりと目線を移した。この便箋が仕舞われていた封筒である。
 何の絵柄もない真っ白で清潔な封筒の中央には、バランスの取れた美しい楷書体で『佐々木 晴香さま』と書かれている。――――佐々木 晴香(ささき はるか)。紛うことなく、それは私の名前だった。

 悪質なイタズラだろうか。それにしてはやりすぎな気がするし、かと言ってイタズラの一言で済まして良いような内容でないことは確かだ。
 担任に相談するべきか、それともここは黙ってやり過ごすのが正しいのか。たった四行の奇妙すぎる文章を前にして、私はその場で悶々と考え込む。その時だった。

「おはよ、晴香」

 肩を叩かれようやく我に返る。私の名前を呼んだ主の方へ振り向けば、そこには不思議そうに私を見詰める親友の綾子(あやこ)の姿があった。

「こんな下駄箱の前で一人固まって何してんの?」
「あ……おはよう綾子。うん、ちょっとね。これが私の下駄箱に入ってて」

 そう言って、私が固まり突っ立っていた要因となった便箋と封筒を綾子の前に差し出した。綾子はその二つを目にすると興奮気味に声を上げる。

「うわっ、何それラブレター!?」

「古典的〜!」と、興味津々となって私の手元を覗いてくる。そんな綾子を制するように、私は一つため息を吐いてから口を開いた。

「残念ながら、そんな良いものじゃなかった」
「……なにそれ? どういうこと?」

 私の意味深な言葉に綾子の興奮はすぐさまぴたりとおさまり、怪訝そうに顔をしかめる。
 私宛に書かれた奇妙すぎるこの手紙をそう易々と他の人に見せてもいいのかと一瞬だけ躊躇したものの、私一人で抱え込むにはいくら何でも重すぎると考えて綾子に手渡そうとした。すると。

「あ……予鈴」

 予鈴を告げる朝のチャイムが廊下全体にのびのびと響き渡る。

「とりあえず教室行こう、遅刻する」

 そんな綾子の言葉にぎこちなく頷いて、私と綾子は早足に教室へと向かった。

3   [id : vMTK6zw1] [2016-06-05(日) 02:02:35] 削除依頼



「小寺彗星」

 私の席の前に座る綾子の口からぽろりと零れた。

「知ってるの?」
「知ってるっていうか、有名人じゃん」

 綾子のその言葉に私は脳の思考を目一杯張り巡らせてみるものの、やはりその名前に思い当たる節はない。
 ――――小寺 彗星(おでら すいせい)。この名前の人が私宛にあの奇妙な手紙を差し出した張本人である。名前も知らなければ勿論顔も知らない。それでもこうして名前だけ知ることが出来たのは、御丁寧にも封筒の裏の右端に私の名前を書いたのと同じように綺麗な楷書体で『小寺 彗星』と書かれていたからである。

「テレビ出演でもしてるの? 芸能人?」
「晴香、あんた全校集会の時いつもどこ見てるの」
「寝てるか窓の外眺めてる」

 恥ずかしげもなく包み隠さず素直にそう言えば、綾子からすごい呆れた表情を向けられた。

「それじゃあ知ってるワケないわ……」
「えっ、ねえ誰? 同じ学年の人? 何組?」
「違う違う。一年生だよ」
「年下? それなら尚さら関わった記憶ないんだけど、小寺くんと」

 一年と二年では階が違う。相当なことがない限り関わることはないはずだ。さすがの私でも後輩の、それも相手が男の子となれば関わっていたなら多少なりとも記憶にあるはずで。
 それなのに私自身、小寺くんに対して全くと言っていいほど身に覚えがない。けれども小寺くんは私の名前を知っていた。……奇妙すぎる。それはもう手紙だけではなくて、小寺くん全てが奇妙に思えてきた。

「……もしかして、ストーカー?」
「何言ってんの。さっきも言ったけど、小寺くんは有名人だって言ってるでしょ」

 私の発言に、綾子はまた、酷く呆れた顔をした。

4   [id : vMTK6zw1] [2016-06-05(日) 02:41:04] 削除依頼


「覚えてない? 前に学校の広報誌が配られたの」

 綾子の言葉に私はゆっくりと記憶を辿る。そういえば、二週間くらい前にそんなものが配られたっけ。
 広報誌の内容は至って普通のものばかりで、綴られているページの大半が学校行事の事とか〇〇部が県大会出場だとかそんな内容のものばかりだ。

「あー……あの表紙がすごい上手な絵で飾られてたやつ? すごい賞を二つも取ってた、あの」

 それは確か風景模写だった。澄んだ青空と、柔らかそうな白い雲と、その空を駆け巡る小鳥たちと、橋の掛かった綺麗な小川と、細部まで細かく描かれた可愛らしい風車小屋が二つ。
 その絵が飾られた表紙の端っこには、小さく『郷土を描く美術展最優秀賞兼県知事賞受賞作品』と書かれていた。二重で賞を取っていたから、良い意味で刺激が強くまだ記憶に残っている。

「そうそれ、まさにそれよ。その絵を描いたのが小寺くん本人なわけ。この間の全校集会で名前呼ばれて盛大に授賞式行われてたじゃない」

 ……なんと。それは確かに有名人だ。多分寝てたな。いや、多分じゃなくて絶対に、だ。

「うーん。それはそうとして、その有名人な小寺くんがどうして私に手紙? しかも死を宣言してるやつ」
「さあね。さすがにそれは直接本人に確かめてみなきゃ分かんないけど」

 私と綾子は二人して一緒に首を傾げる。謎は深まるばかりだ。
 こめかみを人差し指で抑えて悩んでいると、不意に綾子が思い出したように「あ」と口を開いた。その声に私は俯いていた顔を持ち上げる。

「そういえば。晴香にしては、あの絵が二つも賞を取ってたことなんてよく覚えてたね。珍しい」
「……そうかな?」
「そうよ。基本的に大雑把な晴香があんな細かい所まで確認してるなんて思ってなかったし。せいぜい『すごい絵』、くらいの認識だろうと思ってた」

 綾子は私のことを一体何だと思っているのか。綾子の小バカにしたような物言いに私は少しばかし顔をしかめて口を開く。

「気になったから確認しただけだよ。……それだけ」

 ――――そう。それだけだ。本当に、ただそれだけのことだから。

5   [id : G75YtSW0] [2016-06-05(日) 17:17:16] 削除依頼


「ふうん。まあいいけど」

 綾子はどこか興味なさそうにそう言うと、再び便箋にへと目を落とした。綾子は手元のそれをまじまじと見詰める。

「それで、どうすんの?」
「……何が?」

 綾子の唐突すぎる問いかけに私はそう答える。綾子は「何が?って、あんたねえ……」と口にすると肩を竦めた。私、今そんなに変なこと言った?

「こんな物貰っちゃって、これから晴香はどうすんのって聞いてるの」
「そんなこと言われても。私、小寺くんのこと本当に何も知らないし」
「じゃあ放っておくの?」

 口を噤(つぐ)んだ。綾子の発言に対して私は一体全体何を言えば正解に辿り着くのか、とてもじゃないけれど私には分からなかった。
 何か言おうとして口を開こうとした瞬間、騒がしい教室に担任が入室してきた。「席につけー」という担任のその声に、クラスメイト達は一斉に自分の席に向かって移動を開始する。
 こちらに顔を向けていた綾子も、私からの返答を待たずに前を向いた。結局、私は正しいことを何一つ言えなかった。

.
.
.

「それがどうしてこうなったの!?」

 そう訴えかけてはいるものの、私の声は非常に潜めいていてとても小さい。
 私達は今、一年三組の前に来ている。正確には、一年三組の後ろにある、教室の扉に身を隠すようにして教室の中を覗いているわけだが。これでは他の人から見れば私達は完全に不審者扱いだ。……ああ、一年生からの視線が痛い。

 私の上に身を乗り出してくる綾子は、私の発言に対して楽しげに口角を上げると言葉を発した。

「知らないのなら知ればいいのよ。まずは小寺彗星くんがどういう人なのか見定めるべき!」
「み、見定めるって。犯人の調査じゃないんだから……」

 私の気は知らずに未だ楽しそうにする綾子を目にして、私は小さくため息を吐いた。

6   [id : mzcKnOM0] [2016-06-06(月) 16:16:54] 削除依頼


「あっ、いたいた! ほらあの子! 窓側の前から四番目の席!」

 ため息は吐いたものの、綾子のその言葉を耳にした途端、まるで反比例するかのように胸の内では好奇心がむくむくと膨れ上がり始める。――――見てみたい。
 これが人間の性とでも言うのだろうか。私は伏せていた目線をゆっくりと持ち上げると、綾子が指をさす方面へとその目を向けた。

 ……こう言ったら失礼かもしれないけれど、私の視界が彼を捉えた瞬間、脳に自然と浮かび上がった二文字。

「……地味」

 そんな気はさらさら無かったのにも関わらず、思わず声に出してしまった。

 まるで漫画に出てくるようなクラスの委員長が、この現実世界にへと漫画から飛び出してきたかのようだった。
 何色にも染めていないであろう真っ黒な落ち着いた髪の毛に、少し大きめの丸眼鏡、更には第一ボタンまできっちりと締められている堅いYシャツ。
 こんな人、本当に居たんだ。漫画の世界だけかと思ってた。

 丸眼鏡をかけたその彼は、私と綾子の存在に気が付く様子は一切なく、自分の席で本を手にしてただひたすらに黙々と読み続けていた。

「あの子が、小寺彗星くん……?」
「そうだよ。正真正銘、あの子が小寺彗星くん」

 何だが複雑な気分だ。もっと儚げで美しい少年を想像していたのに。……あの手紙の内容からして。

「顔も分かったし、放課後にでも直接話を聞きに行ってくれば?」
「ええっ、一人で一年生の教室になんて来れるわけないじゃん!」

 無理だよ無理、絶対に無理! これ以上変な噂とか注目とかされたら困るし! ……いや、ある意味もう注目にはなっているけれども。
 綾子の言葉を必死に否定するように、私は首をぶんぶんと横に振り回す。
 
「それなら大丈夫だよ。小寺くん、美術部員だし。放課後は基本美術室にいるから」
「いやいやいや、そういう問題じゃなくてね!?」
「あの奇妙な手紙を放っておいていいの!? いいわけないでしょーっ!!」

 えっ、ええー……。

7   [id : mzcKnOM0] [2016-06-06(月) 17:00:38] 削除依頼


 ──2.


 私は一体、こんな所で何をしているんだろうか。
 若干顔を上に向けると、嫌でも視界に映り込んでくる『美術室』の文字。そして手元には“あの”手紙。……来てしまったのだ、半ば無理やり綾子に背中を押されたので仕方なく。

「う、ううん……。よくよく考えてみれば、来る途中にでも帰ることは出来たんだよね」

 そうだ。綾子に半ば無理やり美術室へ行くように促されたとしても、それでわざわざ素直に重い足取りで美術室へ来なくても、途中で帰っちゃえば良かったんだ。

「い、今からでも遅くないっ! 帰っちゃおう!」
「あれ。もしかして佐々木先輩、ですか?」
「ひいっ!?」

 帰る決心をしたのもつかの間、突然背後から自分の名前を呼ばれた。……ていうかすごい情けない声出た。恥ずか死ぬ。
 熱を帯びた頬を引き攣らせて、私はゆっくりと後ろを振り向く。――――そこには。

「やっぱり、佐々木先輩だ」
「えっ……。だ、だれ? で、すか?」

 見覚えのない男の子がいた。背丈は私と同じぐらいだろうか。けれども確かに今、紛れもなく「佐々木先輩」と呼ばれた。……ということは、後輩?
 私の言葉に目の前の男の子は「あ!」と声を上げるとすぐさま丁寧にお辞儀をする。

「す、すみません、いきなり。俺、小寺彗星って言います。一年三組の、十番です」
「……へ? え、えっと」

 ……。え、えええええっ!? お、小寺くん!? この子が、さっき見た小寺彗星くん、なの!?
 私はあんぐりと口を開ける。先ほど偵察した時の小寺くんと、今目の前にいる小寺くんの印象がガラリと変わっていて私は目を白黒させた。い、いや、だってだって!

「俺の顔、何かついてますか……?」
「――――め、眼鏡……」
「え?」

「眼鏡っ! かけてない!」

 今私の目の前にいるのは、先ほどの根暗委員長くんではなくて。……あの丸眼鏡をかけていない、顔面偏差が超高めのウルトラスーパー美少年だった。

8   [id : xKHWJyr/] [2016-06-10(金) 19:09:51] 削除依頼


 小寺くんがぽかんと口を開ける。その数秒後、「……えっ? あ、ああ!」と思い立ったように言葉を発すると、小寺くんは苦笑しながら人差し指で頬をぽりぽりとかいた。

「多分、佐々木先輩が言ってるのは伊達眼鏡のことだと思います」

 基本的に、学校では放課後の部活以外は伊達眼鏡をかけて生活しているんです。

 そんな小寺くんの言葉に、今度は私の方がぽかんと間抜けた表情をお披露目する番となってしまった。
 決して小寺くんの表情が間抜けだったとかいうわけではない。断じてそれはないので安心してほしい。

「だ、伊達眼鏡、だったんだ……」
「はい。紛らわしくてすみません」
「ううん、大丈夫。気にしてないよ」

 ……気にしてはいないけど、正直な所、まだあまり実感はわいていないよね。

 眼鏡を外したら(しかも伊達眼鏡)根暗委員長系男子ではなく、イケメンだったなんて。加えてただのイケメンくんではなく、まだ少し幼さが残る可愛らしい顔立ちもしている。……綾子に言ったらさぞかし驚くだろうなあ。

 小寺くんを眺めながらぼんやりとそんなことを考えていると、彼は困ったように目線をうろうろと泳がし始めてほんの少し頬を染めた。

「あ、あの。まだ俺の顔に何かついてますか?」
「えっ!? あ、ごめん! 何もついてないよ!」

 否定するようにぶんぶんと顔を思い切り横に振ってそう言えば、小寺くんは「そうですか」とホッと安堵の吐息を漏らした。

「でもどうしてわざわざ伊達眼鏡? 見えてはいるんだよね?」
「そうですね、見えてはいます。余計なモノが視えてしまうだけで」

 ……うん?

 今、小寺くん、なんて?

9   [id : xKHWJyr/] [2016-06-10(金) 19:42:50] 削除依頼


 ぴたりと動きを止めた私を察したのか、小寺くんは更に追い討ちをかけるかの如く淡々と口を開いていく。

「俺、昔からよく視えちゃうんですよね。この世のモノではないナニカが」
「こっ、この世のモノではない、……ナニ、カ?」

 小寺くんの言葉をカチカチになってもう一度自分の口で繰り返してみると、小寺くんはそんな私に向けてにっこりと、それはそれは上級の笑みで微笑んだ。

「なのであまり“彼ら”と干渉しないために、普段はこうして伊達眼鏡をかけているんです」
「かかかかか、“彼ら”……っ!?」
「それはもちろん、ゆうれ――――」

「わあああああああそれ以上は言わないで!!」

 半ば反射的に自分の手で耳を塞いでその場にしゃがみ込む。情けないことに、何年経ってもそういう類の話だけはどうしてもダメなのだ。体が受け付けない。

 すると、不意にすぐ耳元で小寺くんの申しわけなさそうな声が聞こえた。

「す、すみません。まさかそこまで怖がるとは。今話したのはれっきとした嘘ですので綺麗さっぱり忘れて下さい」

「……へ? えっ? う、嘘?」
「はい、嘘です」
「ど、どこからどこまでが嘘?」

 小寺くんはしばらく黙り込むと、意を決したかのようにまた微笑んでからその口を開いた。

「伊達眼鏡のところから、ですね」
「ですね、って……。それ最初からじゃない!」
「あはは、すみません、つい」
「ついじゃない!」

 や、やられた……っ! 大人しそうな顔してなんという小悪魔!

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