在。

SS投稿投稿掲示板より。


1    たわし  [id : ckyi1c8/] [2016-04-08(金) 01:04:54] 削除依頼

私が私で在る為に、わたしはわたしでなくなるときがほしい。

(気まぐれにぽつぽつと。)

2 たわし  [id : C3EE5Ls/] [2016-04-08(金) 17:56:38] 削除依頼

他愛のない日常が牙を向く。
わたしがだめになったのはいつだったっけ。もう随分前のことだ。思い出せない、思い出したくない。手は無意識に首を掻く。赤く腫れ上がったそこは熱くて、空気に触れるとぴりと痛んだ。おやすみの文字に殺される。
目を向けた窓から差し込む光がやけに眩しい。いたい。生きているということ。朝なのか昼なのか夕方なのか、それはもはや関係のないこと。今日も一日怠惰であったと私は瞳を細め、ぬるま湯を一口。一時間前に注いだそれは冷たくなっていた。子どもの泣き声が聞こえる、母親の困惑したツラが目に浮かぶ。たいへんですね、他人事のように呟く。視界の端でスマートフォンが光った。
『えり:お前、生きてんの?』
面倒くさい。横にスライド、通知はログアウトしました。溜まったメッセージが百件を超えた。最後に返信をしたのはいつだったっけ。思い出せない。思い出さないままでいい。視界が滲んだ、涙、あくび。あれだけ寝たのにまだ足りない。永遠におはようは来なくていい。
「龍、りゅう、りゅうちゃあん」
返答。なし。手探りで温もりを探す。みゃあ、一声。あった。布団の中に隠れていた。覗いた鼻先を指先でつつき、それから顔を近付ける。獣の匂い。私は龍と鼻でキスをした。みゃあ、また一声。
青い瞳。映り込むばけものは私だ。お前はこんな私を恐れないのね。あいしてるわ。すきよ。
「りゅう」
いつか私を連れて行ってね。

返事はなかった。今日もまた一日が終わりを告げる。絶望が私を呑み込む。さようなら、さようなら。スマートフォンがまた光る。

『龍:死んだの?』

おやすみ。

3 たわし  [id : 2TwTlg40] [2016-04-11(月) 01:59:41] 削除依頼

「キスして」
「しない」
「キスして!」
「しない」
「ちゅうしてぇ♡」
「言い方を変えてもダメ」
「どうしたらしてくれるのよ!」
「他人にして欲しいことは自分からするべきって知ってる?」
「え」
「知ってる?」
「………………」

ちゅっ。

「……ほ〜お。よくできました、えらいえらい」
「〜〜っ、……ばか、恥ずかし……」

むらっ。

「……偉い子にはご褒美あげねぇとな」
「え」

ちゅっ、ちゅっ、ぺろ、もみもみ、ちゅっちゅっちゅ、ちゅう〜。

「!?……〜っ、……!?!!?」
「……して欲しかったんでしょ?キス」
「っっっしね!!」


ばちーーーん!!


(「あら、どうしたんですかその頬」「家内とやらかしましてね」「あらあらまあまあ」)

4 たわし  [id : XQpcwLO0] [2016-04-19(火) 18:47:44] 削除依頼

もう子どもではいられない。私が留まっていたくても、いくら泣き喚いても、大人は、周りは、社会は。私を「大人」として見てくるのだ。
幼い頃、あれだけ望んだ成長。早く大人になりたいと口煩く言っていた日々。
こわい。怖い。恐怖で足が竦む。それでも歩みは止められない。止めてはならない。止めることは許されない。
幼き頃にさようならを。私はもう大人になるのだ。心が追い付いていなくとも、体はそれに相応しくなっていて、もう立派な大人で。周りは期待に満ちた瞳で私を見る。
理不尽に耐えよう。私は大人だ。子どもではない。笑みを貼り付け、受け流す術を学んで、そうして生きていこう。
「さようならだ」
呟いた言葉は手元に落ちた。

5 たわし  [id : GZ1fK5T0] [2016-05-06(金) 22:14:18] 削除依頼

お姫様になりたい。
私、桜庭智子は、そこらの男子より運動が好きで、足が速くて、生傷だらけで、短髪で、身長がちょっぴり高くて、オシャレに疎くて、勉強はそこそこで、片付けが苦手、そんな女の子だ。一般的にボーイッシュの部類に入るのだろう。
こんな私が、実は少女趣味だなんて。
「きゃあ、桜庭先輩!」
「今日もかっこいいです!」
「あはは、ありがと」
言えるわけがない。ファンの子達の理想を崩してしまうじゃないか。
だから、胸の中にそっとしまう。そもそも王子様ってなんだ。いるわけがない。いたら嬉しい事この上ないけれど。
「とーもーこー」
「うわ健人」
「露骨に嫌そうな顔すんなよ」
現実は非情だ。王子様の代わりに用意されたのは、バカでアホな幼馴染。あ、歯に青のりついてる。マヌケも追加だ。
「何しに来たの」
「一緒に帰ってやろうかと。喜べ」
「はあ?しね。そもそも私これから部活だから」
王子様なんて、いない。
「おいこら待てよゴリラ」
「誰がゴリラだ。ちょっと、手離してよ」
いない。
「お前、足ケガしてんのに部活できる訳ねーだろ」
「…………は」
「あー、部長のササキサン?には先に話つけて許可とってっから。今日は強制帰宅コースでえ〜す」
「ちょ、何勝手に」
「うっせえなあ。お前に何かあったらヤなんだよ俺。大人しく従え、そしてしっかり治せ。いっちょまえに無理してんじゃねーよバーカ」
……ない。断じてない。こんなバカでアホでマヌケなクソ野郎が、王子様だなんて。
きらきらして見えるのは夕日のせいだ。きっとそうだ。

「お?顔赤くね?もしかして俺に惚れ」
「歯に青のり付いてる」
「そういうことは早く言えゴリラ」

6 たわし  [id : VVZtYpS.] [2016-05-20(金) 17:35:08] 削除依頼

「うちに何か用かね、お嬢さん」
数ヶ月前、座敷の奥から覗いた顔はひどく浮世離れしていた。

彼の名は九頭竜さん。下の名前は教えてくれなかった。珍しい名字ですねと言うと「みんなそう言う」と笑った。大多数の人と一括りにされたようで少し悲しかった。
九頭竜さんは人じゃない。これは私の憶測、いや妄想だけれど。普通の成人男性より伸ばした黒髪、色素の薄い瞳。「生まれつきさ」と彼は言う。切れ長の瞳は笑うと三日月になる。僅かに浮き出る皺は、この世に彼が生まれ落ちた時からの歴史を物語っている。
「コウちゃん」
九頭竜さんは私を名前で呼ばない。コウは私の名前に一つも掠ってない。曰く、彼の旧友の名前らしい。私がとても良く似ているんだと。誰かに重ねて見ているのならそれは、嫌だな。でも九頭竜さんが、コウ、コウ、と呼びながら私を見る時、とても優しい目をしている。それはきっと私がコウだからだ。「コウは飴が好きだったなあ」そう言って金平糖を渡してくる。皮肉にも私は金平糖が大好きだ。
「コウちゃん、今度海に行こうか」
デートのお誘いですか?
「、」
息を呑んだ音。一瞬僅かに見開かれた瞳はすぐ、いつもの三日月になった。
「……そう。デートだ」
私は知っている。彼はコウが好きだった。

海に行く前日、私は九頭竜さんの家に泊まる約束をしていた。親には友達の家に泊まると言って誤魔化した。あんた今年受験でしょ、そんな言葉ものらりくらりと交わした。受験、受験、それより九頭竜さんが大切だ。
闇と光の境界線のような曖昧な時間、九頭竜さんが指定した時間より早く私は彼の家に着いた。九頭竜さん。呼び掛けても何の応答もない。広い家は暗い。闇に飲まれてしまったようだ。遠くで蝉の声が聞こえる。「家が暗い時は入ってきちゃダメだよ。必ず明るい時だけ、俺が居る時だけ来なさい」そんな言い付けもあったっけな。私は暗闇に一歩迫る。じゃり、敷地に敷き詰められた石が音を立てた。
ずず。
音が聞こえる。奥。いつも九頭竜さんが居るところ。考えるより早く足が駆け出す。
「くずりゅ、」
さん。
言い切る前に襖を開け、そこに広がった光景に、ひゅっと喉が引き攣った。外が暗い。先程まで出ていたはずの夕日はもう居ない。
瞼をゆっくりと持ち上げたソレは、私を視認して、彼と同じく三日月を象る。
「……言い付け、忘れた?」
やっぱり。やっぱり。やっぱり。
彼は、人間じゃなかったのだ。
長い髪。彼のと、もう一つ。美しい顔をした女性。白い肌に伏せられた睫毛は長く影を作る。唇には血のように赤い口紅。

首から下は、無い。

「コウと君は本当によく似ているよ」
ひぐらしが遠くで鳴いていた。

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