飴森くんとパラノイア35コメント

1 東雲 id:hf7Cpqw1

2016-02-28(日) 17:16:02 [削除依頼]


 
どう足掻いても壊れたらしい
  (ようやく望みが叶うらしい)
  • 16 東雲 id:yj6a1icO

    2017-02-19(日) 20:26:43 [削除依頼]



     わずかに瞳を泳がせた僕をちらと見て、くっくと笑った影の帝王は「君の影をとりゃしないよ、害はない限りね」と言ってのけたがどうだろう。是非ともそんな日がこないことを祈る。

    「そう言えば君らさ、」
    「君らって誰」

     あいにくぼっち歴イコール年齢を着実に更新している。黒崎帝は困ったように眉尻を下げた。

    「あーっと、飴森さんと孤影くんさ」
    「はあ」
    「ちょくちょく花壇に行ってるけど、あそこ何かあるの?」
    「……なんで」
    「や、だってなにもないのに。よく見かけるから」

     気になっただけ、となんでもないように言う。言葉通りただ気になっただけなのだろうが残念。それに答える前に仕事を片付ける必要ができた。

    「孤影くん、転送魔法の詠唱準備と天井から二本、太いのよろしく」
    「はいはい」

     まったく、君とやると簡単で助かるよ。
     先に行く背中を見ながら、その何処かに相棒の影を探している自分がいるのもまた事実だった。


    >16

  • 17 東雲 id:yj6a1icO

    2017-02-22(水) 22:09:04 [削除依頼]



    「孤影くんお疲れさま、飴森さんによろしくね」
    「……いや、ほんとにありがと……」

     記録をとり、確保した奴らの転送を終えると黒崎帝は涼しげに笑った。彼には無償で手伝ってもらったこともあり感謝しかない。表は優等生で通っているが、その実裏が黒いことを知ってはいた。それでもこういうところをみるとやはり優しいから、根底は優等生なのかもしれない。

    「そう気にしないでよ。あとで飴森さんに色々請求するだけだから」
    「さすが」

     とはいっても仮面優等生は健在だった。ストレス発散にもなったしね、とすっきりした顔で言われるとサンドバッグ代わりになった彼らに少し同情する。結局は仕事を増やして迷惑をかけているのだから、まぁ仕方ないのだろうが。

    「風紀委員ってメンドくさいよね。第一、委員ならフードとりなよ」
    「嫌だね」
    「まぁとったらとったで女子の風紀が乱れるか」

     くしゃりと黒い髪をかき上げる。さらさらとこぼれ落ちていくそれは透き通っていて綺麗だった。夏の夕日の淡いグラデーションを想わせた。優等生な彼もまた、端整な顔立ちをしている。

    「じゃあオレは行くよ。また明日」
    「ん」

     もしかしたら本当に、飴森勇は体調が悪いのかもしれない。女子寮には入れないけれど召喚でもしてやれば見舞いの品くらいは渡せるだろう。ここでヤツに恩を売っておくのも悪くない。あとで倍にして何か返してもらおう。彼女の無茶にいつも付き合っているのだ、これくらいは許されて然るべきだ。

    「あ、孤影くん」

     背を向け歩いていた黒崎帝は、ふっと立ち止まると何を思ったのかこちらを振り返った。丸い黒瞳が静かに瞬く。蒼く見えるほど澄んだそれはどこまでも終わりがないように思えた。

    「飴森さんを信じてあげて」
    「……え」

     唐突に意味深なことを、まるでため息をつくように吐いた彼は少しの諦めを含んだ涼しげな笑みを深めると、颯爽と角を曲がっていってしまった。文の繋がりを持たなかったそれは一体なにを伝えたかったのだろう。しんじる。あの暴君に近い彼女のどこをどう疑い、何を信じるのか。果たして今の僕に理解できただろうか。



  • 18 東雲 id:yj6a1icO

    2017-02-22(水) 22:18:22 [削除依頼]
     



    「いや、ただちょっと気になっただけだし……」

     手の中にある紙パックの野菜ジュースが汗をかく。結露だろうか、それとも手汗だろうか。召喚しようにも、本当に具合が悪くてより悪化してしまったらどうしようかなどと余計なことを考えてしまってはさらに違うことまで悶々と悩んでしまう。僕らしくもないことだ。

    「……頑丈だしいきなり呼び出しても大丈夫だよね」

     言ってみるもその頑丈なヤツが珍しく学校を休んだのだからそこら辺の境界線はあやふやなところであるけど。
     というか野菜ジュースでよかっただろうか。なんて思考を巡らせていた自分の視界の端に、見覚えのある姿がよぎる。

    「これでよし」
    「飴森、ゆう……?」

     それは花壇にしゃがむ、一見すると目立たないところにいるようだったがあまりにも見慣れすぎていてただの他人には見えなかった。今日授業に一切参加せず、予想であれば寮にいるであろうその人物。

    「え、あ……」

     彼女がこちらを振り向く。驚いたように見開かれた双眸がわずかに揺れる。いつもうるさいくらいに元気なその声音が震えるように揺れたことにも、彼女自身気づいているのだろうか。その彼女らしくない行動と表情に黒い何かが胸のあたりを支配し始める。いや、いまはそんなことどうだっていい。

    「……なにしてるの」

     急激に温度を失っていく音。ぴり、と空気が張り詰めるのが肌を通して分かる。僕の言葉に飴森勇は少しの間固まっていたものの、諦めたように手の中にあったもはや命のない花を捨てると肩を竦めてみせた。

    「なにって、そんなの孤影くんでもみりゃ分かるでしょ」

     こえいくん。彼女からは聞いたことのない音だった。その音は硬く、彼女のいつもの柔らかさはどこにも見当たらなかった。

    「それともフード被ってて見えないとか?」

     口の端が歪められているのが映った。途端、分かりやすいくらいにカッと頭に血がのぼる。今まで彼女にフードのことについて揶揄われたことはあってもちくりと刺すように言われたことなどなかった。

    「はァ!? バカにするのもいい加減にしろ! そもそも今日なんで授業サボったんだよ! こっちは心配して」
    「……心配? いらないお世話どうも」

     そのセリフが、彼女とまだ知り合った頃自分が吐いたものと同じだということに遅れて気づく。彼女はなにも言わない僕を見て、手についた土の汚れを払いながら冷笑した。

    「孤影くん、一年も芽が出ないの疑問に思ってたでしょ。ちょくちょく違う種蒔いてたの知ってるよ」
    「……んで、それを……」
    「そりゃあ全部、生えたのを見計らってあたしが抜いてたからね。いつか気づかれるかなとは思ったけど、まさかこんなに遅いとは思わなかったから油断してたよ」

     ハハハ、と乾いた笑いが鼓膜に響く。誰だ。目の前にいる、この冴え冴えとした絶対零度の表情を向けるこの人は。僕はこんな人、知らない。

    「まさか、最初に出会ったときに荒れてた花壇をやったのも、きみ……?」

     ぐしゃり、と紙パックが潰れる感触。ぼたぼたと地面に垂れていくのももはや気にならなかった。紙パックが生きていたなら、僕はいま絞殺していた。問いかけに、その人は目を見開いてひゅっと喉を鳴らした。そして少しの沈黙のあとに

    「……うん、そうだよ」

     そう言ってわらった。その表情は色々なモノが織り交ぜられているようで、なにを表しているのか読み取ることはできなかった。

    「……ねぇ、」
    「もう一緒に組むことは無理そうだね」

     冷淡で冷酷で冷徹に、それは言葉を遮るように発せられた。どこまでも酷く、どこまでも冷たいはずで、どこまでも突き放しているのに。それなのにくしゃりと頬を悲痛に歪めていまにも泣きそうな顔をしているその瞳にふっと相棒の影がちらついて。僕はどう声をかけていいのか分からなかった。
     

     確かに、それは飴森勇だった。


     
  • 19 ろの id:FZexoz2J

    2017-02-24(金) 00:33:48 [削除依頼]
    すいません……お話の途中遮ってしまってすみません! お邪魔します、一介のファンです

    元来あまり小説板に行かないのですが、このシリーズがすごい好きで、ときどき纏めて読ませて頂いています こちらのほうのSSもめっちゃ好きです!

    これからも応援しています、! まとまらない長文失礼しました;;
  • 20 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-03(金) 19:17:49 [削除依頼]
    >>19
    ろのさん

    あああコメントありがとうございます!;;
    小説も此処もめちゃくちゃ好き勝手書かせて頂いてますがお目通しくださって嬉しい限りです!
    とくにssはもう自分のやりたいようにやっているのでそう言ってくださって本当に有難いです!
    更新すごく遅いですがお暇な時にでも覗いてくださると嬉しいです!ありがとうございます!
  • 21 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-10(金) 15:31:15 [削除依頼]


    「で、相棒を解消したと」
    「お互いの表面上はね。まだ委員会にコンビ変更については言ってないし正式ではないけど」

     聞いてきた割にはふうん、と興味なさそうに相槌を打つ白石龍。どんな感情もすっ飛ばしてただ笑いが漏れる。自分の気の長さを試されているんだろうか。何でこうも僕の周りには神経の通ってるやつが少ないんだろう。ふっと辿り着いた答えは最近呪い関連のことに触れてないということだ。部屋に戻ったら久しぶりに呪術の本に目を通そう。

    「いつかそうなると思ってたけどな」
    「は? そうなの?」

     思いもよらなかった言葉に身を乗り出して白石龍を凝視すれば、若干身を引かれながらも苦笑混じりに頷かれる。ちょっとだけ眉尻が下がっていた。悲しそうに見えるそれは過去に何かがあったことを如実に表している。白石龍は一歩先を行く、何かを見てきた知恵のある旅人のような遠い目をしていた。

    「俺のときもユウが解消してきたし」
    「あぁ……そういえば1年前のコンビはきみだっけ」

     雷がよく落ちるコンビとして追いかけられる側の方からは恐れられていた二人。大抵落ちる原因の飴森勇はもうそれはそれは厄介で、雷を落とすのにも体力がいるだろうに飴森勇が白石龍の逆鱗に触れたときだけは雨のように雷が降り注いでいたらしい。ちなみにそれに出くわした奴らで逃げられた者はいなかったようだが実に迷惑だ。

    「でも相性は良かったんでしょ? なんで飴森勇から解消してきたの」
    「……それはまぁ、色々あったんだよ」

     困ったような顔で頭を掻く白石龍を強く睨めつける。はぐらかされるのは好きじゃない。ここまできたら全部吐け。

    「……あー、大概孤影も頑固だよな。あいつにそっくりだ」

     実に心外なことを吐かれた。全部吐けという意は込めたがそういうことじゃない。

    「……リラックスして聞いてくれ」


     全然リラックスできない前置きをしながら、雷鳴の龍は双眸に懐かしさの色を滲ませた。

  • 22 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-10(金) 15:34:18 [削除依頼]




     幼馴染みとして幾分贔屓して目を瞑り過ごしてきたがこればかりは見過ごせない。

    「おい、お前ほんといい加減にしろッ!」
    「んー? なになに聞こえましぇーん」

     たたたっと逃げていく華奢な背中を追いかける。
    すれ違う奴らはまたかよ、なんて漏らしているが不平なら俺の目の前にいるヤツに言ってもらいたいものだ。こちとら被害者である。

    「あっれ〜? リュークン足遅いんでない? もしかして太った?」
    「——おい、いっぺん黙れ」

     詠唱をして一つ雷を落としても、落ちるところを予測していたのかマントを翻しながらさっと避けられる。付き合いは他の奴らより長いからこういうタイミングがお互い分かるのが幼馴染みの厄介なところだ。

    「腕も落ちたのかあ〜、あたしに全然当たんないじゃん」
    「っだから、もういい加減黙れっての!」

     こんな安い挑発に乗っている自分もどうかと思うのだが、乗らないのも乗らないで後々面倒くさいことになるのを知っている。やっぱり最後はこれしかないかとため息をついて足を止めた。

    「……祈りを聞いてくれ、神鳴り」

     脳内で耳鳴りにも近しく聞こえるぴりりとした笑い声。思考を理解したのだろうか、まるであとは任せろと言われた気がした。
     自然と上がってしまう口角を隠すように人差し指を唇に当てる。嗚呼、頼もしい限りだ。自分の中に宿る神というのは、なんでこうも。


    ——“全ては御前様のために”

    「俺も恐ろしいのを加護にしてるよな……」

     直後、耳をつんざくような轟音が辺りを支配した。それ以外の音は存在するなとでも言うような無慈悲さを形容した勢いだが、それさえも自分には心地いい。
    神々しくもみえる光はただただ眩しくて、くっと目を細めた。

     ふっと首筋にかかる吐息。

    「いやー、すごいねぇ」

     耳元でそんな音が転がり、刹那怖気がつ、と撫でるように背筋を伝う。後ろに生ぬるい気配。

    「……は、」
    「すごいけど」

     リューのところに当たらないなら意味ないよねぇ、とおどけたように笑う声。
     いや、当たるには当たる。というか根源が俺だからか僅かながらも電流は迸っているはずだ。強さでいうと痺れてちょっと動けないくらいの。

    「くっそ、お前水で……」
    「そうそう。水がうまい具合に受け流してくれるんだよ」

     ふっと沸く違和感。しかしそれを考える時間さえも与えてくれないのがこの厄介な幼馴染みである。

    「でもさ、よかったじゃん。あたしには当たらなかったけど、見てよ」

     指差す先に見えたものは、地面に転がるいくつかの物体。人だろうか。

    「アレ、名前が挙がってた問題児組。一気に始末できたね」

     まるで自分を罰するよりも先に片付けようとでも言っているかのようだった。否、毎回毎回このパターンである。
     煽り煽られ追いかけっこが始まり、雷の雨を降らせたところにたまたま委員会で注視していた人物が雷にやられ倒れているところを回収。ここのところほぼ毎日だ。

    「……なぁ、ユウ」
    「ねぇ早くしないと委員長に怒られる! あーでもあたし転送魔法知らないしな。んじゃ後はよろしく!」

     今日もまた、こうして風紀委員の仕事が終わる。そういえば最近、厄介な幼馴染みに背中を任せられていない。

    「……こんなやり方」


     あいつらしくない、なんて勝手に感傷に浸るのはいい迷惑だろうか。こちらに向ける背中はどこか、頑なな暗い赤を纏っていた。

  • 23 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-10(金) 15:48:34 [削除依頼]



    「は、」

     だから、まさかすぐこうして原因を知ることになるとは思ってもいなかったのだけど。

    「っつ……リューほんと手加減しないよなぁ」

     当人は気づいておらず羽織っていたマントを脱いでいる。マントの下は半袖だった。半袖とマントの組み合わせはなかなか理解し難いところがあるが、それがこの幼馴染みというものだった。いや、今はどうでもいい。

    「……おい、ユウ」

     低い声が出た。背中に投げられた音に驚いたようにこちらを振り返るその表情は、しまったという色で塗られていた。実に分かりやすい。昔から。

    「うわ、え、なんで」

     かなり動揺しているらしかった。すぐにマントを着直すも、もう遅い。

    「おい、その傷……火傷はなんだよ」
    「エッ、ささささァ〜?」
    「ほんと嘘ヘタな、お前」

     隠す気があるのかないのか分からない嘘にほとほと呆れながらマントを剥ぎ取る。これを他の女子にやろうものなら悲鳴をあげられること間違いなしだが、如何せんこいつである。

    「キャー破廉恥」
    「うるせぇ言ってろ。それよりこの火傷、」

     これ、俺がやったやつだろ。
     そう言えば微かに揺らめく二つの光がもう何よりの答えだった。ほんとにこの幼馴染みは、

    「そうだよ。リューがやったんだよ」



    下手に嘘が上手い。

  • 24 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-11(土) 08:34:06 [削除依頼]



    「あいつは水が受け流してくれるって言ってたけど、ほんとはそうじゃないんだ。水は電流を通しやすくて、たとえユウが水をどんなに上手く扱えても電流には敵わない。俺が落としてきた雷を一身に浴びてきたのがダメだったらしい。服で隠せないところは薬で騙し騙しやってたらしい」

     幼馴染みなのに、全然気づけなかった。
     そう零して哀しそうにわらう雷鳴の龍は「ほんと厄介なヤツだから」と隠すように揶揄した。

    「俺を煽ってたのも、上手く誘導して問題児たちを手っ取り早く一気に片づけるためだったんじゃねぇかな。あの時はたまたま居合わせてたと思ってたけど、案外ユウも策士だよな」

     あの相棒は一体なにを考えているんだろう。白石龍と組んで自分の身体が傷ついてまで近くにいたし、多分白石龍が気づかなかったらまだ相棒のままだったんだろう。自分と組んでも、花を抜いて荒らすことを一年、隠れてこそこそやっていた。

    「孤影もなんかあって解消されたんだと思うんだけどさ、まだ正式じゃないんだろ?」
    「ああ、うん」
    「なら、あいつがなんて言おうと解消を認めないでくれ。今度お前の好きなポタージュスープ買ってやるから」

     僕の釣り代安いな。

    「……いいよ、でもポタージュスープはいらない」
    「え、嫌いだったっけ」
    「あったら飲むって程度。その代わりおしるこよろしく」
    「結局頼むのかよ」

     白石龍に解消を解消することを頼まれたこと自体、実に心外だ。僕はまだ、相棒を解消する気なんてさらさらないというのに。
     一年。一年だ。あっという間にも感じられたけど、それは一言では表すことが容易ではない一年。彼女に振り回されたその一年の借りを僕はきっちり返済していないのだから。

    「まぁとりあえず、土下座は絶対させるよね」
     

     曰く、その時の僕の表情を見て、「絶対に孤影には手を出さない出したくない」と白石龍は誓ったらしいが、それはまたの話にしよう。
     
  • 25 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-21(火) 23:01:49 [削除依頼]

     


    「ひィッ!? ちょ、イタイイタイ痛いッ!」
    「うるさいな。とりあえず僕の前にひれ伏しなよ」
    「いきなり言われてやる人なんかいないって」
    「……」
    「ねぇ聞いてる?」

     ほっぺを抓りあげると飴森勇は涙目になりながら離せという意を込めてか容赦無く胸を叩いてきた。いつかの最後に見た哀しそうな色や冷たい表情、暗い影はかけらほど見当たらなかったことに安堵すると同時にふつふつと湧き上がる苛立ち。この相棒は人の内側にずかずかと入り込んできて散々引っ掻き回したくせにすっと音もなく身を引こうというのか。身勝手にもほどがある。……嗚呼そうだ、例えるならそれは突如音もなく現れて過ごす日々に五月蝿さを及ぼしたくせになんの前触れも消えてしまう夏のそれだ。

    「きみの方こそ意見聞かずに勝手に僕と組むのやめたでしょ。五分五分だから」
    「それとこれとは話が別っ……イタイイタイイタイごめんなさい謝るからもう許して!」
    「理解が早くて助かるよ」
    「悪魔め」

     何を言われたとて痛くも痒くもない。ふん、と鼻を鳴らせば飴森勇は痛みのある場所を撫りながらため息をついた。さらりと零れた一房の髪が彼女の表情に影を落とす。

    「勝手に相棒解消してごめん……あと、芽を引っこ抜いてたことも」
    「うん」
    「うん」
    「で、土下座は?」
    「やるわけない!」

     そう言うと思ったからさして期待はしていなかった。なんだかんだで謝ってくれたことだし、今回はこちらが妥協してあげようか。なにせ僕の方が精神面では大人だ。大人だ。にこりと微笑むと、ひっと怯えられた。まったく加虐心をそそってくれる。

    「……理由は話さなくていいよ」
    「……」
    「次やったら許さないけどね」
    「……ん」

     ほっとしたようにわらう飴森勇に仕方ないか、と息をつく。話したがらないことを無理に聞いたところで意味がない。そんなことをしてもいずれ長続きしないであることは分かっていた。お互い本心を見せることができるのはまだまだ先になりそうだ。

    「茜くん、」
    「……ん?」

     飴森勇はふわりと笑んだ。それはまるで。

    「あたし、花を咲かせられたよ」

     僕はその花にとまる蝶を見つけたみたいだ。

     
  • 26 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-22(水) 00:46:25 [削除依頼]




     何処か懐かしい夢をみた。
     どんな内容だったのかは思い出せないし何故自分がそれを懐かしむのかも分からない。図書室で寝てしまったらしく、窓の外を見やると陽が傾いていた。帰った方がよさそうだ。少し乱れていた服を整えてフードを目深に被り席を立つ。それにしてもなんで、僕は図書室なんかに寄ったんだろうか。五分で人を呪える本はいつも持ち歩いているし、図書室は教室からも遠い。あまり足を向けない場所であるはずだった。しかもそこで寝るなんて。

     まあいいか。理由はともあれ、家で寝るより気持ちよく寝られた気がする。春の陽気に当てられたのだろうか。随分と気分がいい。

    「あれ、茜くんじゃん。図書室なんて陰気なところから出てきたね、より陰気さが増してキャラ作りにはいいと思うよ」
    「死んでくれる?」

     図書室を出て早々、面倒な人に遭遇した。ひょこひょこついてこられるが実に迷惑なので離れてほしい。飴森勇はぶうと頬を膨らませた。

    「ちぇ、仮にも相棒だよ。塩かけられすぎてもまずいし砂糖対応にチェンジ」
    「相棒?」
    「……ん?」

     ころりと転がる視線。春の陽気にぶつかったそれが惑いに泳ぐ。柔らかい紅が視界の端で小さく揺れた。

    「なんでだろ、フードマンと相棒になんてなった覚えないのに」
    「僕もこんな相棒御免被るよ」


     だよねぇ、と笑うそれに懐かしい蝶の面影を見た気がした。


  • 27 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-22(水) 00:48:54 [削除依頼]

    【余談】

    case1 飴森くんの兄弟
    某赤と青のお兄ちゃんズ大好きを擦らせました。チートなラスボス主人公が書きたかっただけの話です。ころころ視点が変わります。分かりづらかったと思います、すみません。何気4人の絡みが本編では書けてなかったので兄弟にしたのかもしれないです。リューは苦労人の親気質なので2番目。茜ちゃんは色々1人で考えちゃう不器用な末っ子かなぁと思いました。case1+の最後はご想像にお任せします。付け加えるなら彼らは兄弟だけだったということくらいでしょうか、喧嘩が強い人には学ラン着てほしさがあります。


    case2 飴森くんと神の呪い
    多分唐突に寮制の魔法使いの話が書きたかったんだと思います。こっちは時系列がよく変わります。誤字がひどい。色々ふわっとしてるので流し程度に読んでくださると有難いです。もっと詳しく書きたかったのですがSSってなんだろうと迷走しそうな気がしたので泣く泣くとどめておきます。副題で補正してくださると助かります(笑)ランク戦とかさせたかったです。またこの続きを書けれたらなと思います。飴森くんが一年芽を抜いてた理由とか没になりそうです。困ったヤツだ。


    case1+にもあったように夢オチのはずなのに続きがあるというなんともおかしな話ですがこれが飴森くんのパラノイアなのか別世界の彼らなのかはお好きに考えてください。余談の余談ですが題名にも入ってるPa/ran/oiaの人力がすごい好きで清光尊いです。よければ聴いてみてください。

    春休みはKZ全巻読み直そうと思ってます。最近は読んでる人に巡り会えないのが辛いです。

  • 28 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-30(木) 21:51:48 [削除依頼]

     


    case3.

     ゆっくりと揺蕩う舟に乗っているような感覚だった。とろとろとした暖かさと柔い風に、瞼が徐々に蓋をしていく。やさしい雲のすき間から光彩が頬を濡らして、微かに鳴くさざ波が耳を眠らせる。

    「やあ。気分はどう?」
    「ひィッ!?」

     ゆったりとした流れと静けさをいともたやすく破った軽い声音。

    「いやぁ、随分と気持ち良さそうだったから邪魔するのも悪いかと思ったけどさ、一応仕事だから」

     悪いね。そうくつくつと笑うそれは自由に転がる赤いビー玉のようだった。ひとしきりわらった青年はようやっと話す気になったみたいでこちらをじっと見つめた。薄茶色のキャスケットをきっちり目深に被り、白シャツに焦げ茶色のベスト。肩掛け鞄を身につけ、鞄の紐にはいくつもの風船がくくりつけられている。……風船?

    「あ、やっぱりこれ気になる?」
    「それも気になるけど……誰ですか」
    「あー、ごめんごめん。いつも忘れるんだ」

     にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべるその表情はどこかで見たことがあるような色をしていた。

    「俺、ディオニシス・ユーティス。ユウでいいよ」
    「へぇ……外国の人? 俺、佐々木俊」
    「シュンね、おっけ」

     青年はキャスケットをさらに深く被り直すと、鞄にくくりつけられていた風船をひとつ解いた。よくテーマパークなんかで配られているような、ヘリウムが入っている水色の風船。

    「じゃあ、シュンにはこれ」
    「え?」
    「別に爆発とかしないからそんな警戒しなくていいよ。ちなみにここ、シュンの夢の中だし、危なくないよ」
    「……は」
    「んじゃあ、快適な夢をお過ごしください! アディオ!」

     砂が風に吹かれてさぁっと消えるように、彼は消えた。嵐のような勢いだった。さながら砂嵐とでも言っておこうか。

    「……俺の、ゆめ?」

     自分の夢に、知りもしない人から風船をもらうなどどんな夢なのだ、これは。



  • 29 東雲 id:yj6a1icO

    2017-03-30(木) 21:58:55 [削除依頼]
     
     


    「ちゃんと配ってきたんだろうな?」
    「信用ないなぁ、もちろんだよ。現にいま持ってないだろ?」
    「お前の場合面倒くさくなって飛ばすことあるから言ってんだよ」

     青年は不満そうに頬を膨らましながらキャスケットをとった。そのままぽい、と床に放り投げるとどさりとソファに腰を埋める。

    「ったく、こっちはノーギャラだってんのに少しくらい労りの言葉はないんですか」
    「乙」
    「てめえ」
    「お疲れsummer」
    「もうそのネタ飽きたし。ったく、労りぐらいしろよぉ、長時間働かせてブラック企業か。あーこんな奴がホワイトの称号とか世の中どうなってんだよ〜中身ブラックだよ」
    「賭けに負けたお前が悪い」
    「狡い事したのは知ってるんだぞやっぱりこいつブラックだよ〜」

     うんざりしたようにもう一人の青年がため息をつく。きちんと締めていた白のネクタイを緩めながら、ソファに沈んでいた青年の前の椅子に腰を下ろした。

    「あと三日だろ、我慢しろ」
    「でも俺の本業じゃないし、ヒトの夢に入るとか」

     どっちかというとホワイトサマの仕事でしょ。発せられたその言葉に青年は眉を中央に寄せて濃い皺をつくった。

    「その呼び方やめろ」
    「えぇ〜、なんでもいいじゃん。この仕事俺のと真逆だし、これくらい」
    「あとなんで“俺”なんだよ」
    「いや、見た目が見た目だから何回も『どっちですか?』っていうやりとり面倒だし」
    「男らしさに拍車かけんなよ……」

     呆れたように言い、それでも青年は薄くわらった。夜に似合う、暗い微笑みだった。

    「まだやってもらうことあるからな、ほら立て」
    「げぇ」

     祈りを聞く星の礫も、慈愛に満ちた月光もない、彼らの夜はとけていく。


  • 30 東雲 id:yj6a1icO

    2017-04-09(日) 10:33:16 [削除依頼]


    ◻︎
     ユメというのは実にお気楽なものだとある優等生は言った。
     みるだけ望んで、手繰り寄せるように欲して、叶えたいと焦がれて、そこには不確かな未来への希望しか塗られていない。けれどそれが現実と遠ければ遠いほど絶望するくせ、尚も人は夢をみる。夢というのは各々自由に持っているものだからこそお気楽なのだと。それは無意味で無駄で無価値なものだとも。

    「リアリストなの?」
    「そうじゃないけど。無責任だとは思うよ、オレからしてみれば」

     くっと冷笑を落として肩を竦めると古びた皮の手帳と羽根ペンを胸ポケットにしまい込む姿に頷く以外何を返せようか。腕に光る紋章は黒い翼とミスマッチしていてどこか可笑しい。仕事に行くのだろう、楽しそうに刻まれる歩みは軽やかな音を奏でる。

    「ハピエンもバドエンも嫌いなんだ。メリバじゃないとね」

     どちらをも望む。勝手に思いそれを可能にしてしまう思慮深い優等生は、時に敵に回すと恐ろしい。


     ユメというのはまるで箱庭のようだとある根暗な友は言った。
     想像は無限大という言葉があるが、想像するにしても限度があるという。触れてきた世界が広ければ広いほど想像はその分広がるが、一色しか知らない者がどうして他の色を作れようか。光を知らない者が暗闇をどのように判断できよう。要は夢は広いように見えて実に狭い、箱庭のようだと。不自由で自分ではどうにもならない、有限があるのだとも。

    「じゃあ同じような道しか歩けないって?」
    「そうじゃないよ。そのために僕が見つめ直す手伝いをするだけ」

     亜麻色の瞳が優しく瞬く。夕日を想わせる小さな粒が首元で微笑う。分厚い本を抱え、時折みせる柔らかい表情の大半をフードで影を落としてゆらりと作業場へと向かうそれはまるで黒子のようだった。

    「それでも僕は助言しかできないからさ、見せてあげたいよね」

     無力さを誰よりも嫌う。だからこそ多くの世界をみせる根暗で思いやりのある友は、広い箱庭の果てしない宙に泣いているのを知っている。
     
  • 31 東雲 id:yj6a1icO

    2017-04-09(日) 13:27:27 [削除依頼]

     
     ユメというのは移ろいやすい天気みたいだとある幼馴染みは言った。
     どれだけ他から絶望するような結果が見えていたり、不可能だと周りから嘲笑されていても、案外それは簡単に覆るものなのだと。思いもよらなかった方向に進んで叶ってしまうことがある、俗にいう奇跡や運命、というくさいものだけれど。人が夢を抱き続ける理由、そこには存外そういった可能性を含めていたりするのだとも。

    「俺らの存在が無意味だって言いたいのか?」
    「そうじゃないって。そのために俺がいるんだし」

     口許をに、と吊り上げ妖艶に顔を歪めた。キャスケットを深く被りどこからともなく大鎌を担ぐと暗闇へと歩を進めて行く。呑み込まれてしまいそうなほどの黒が、より一層孤独を際立たせる。まるで死神のようなそれが、ふっとこちらを振り返る。

    「与えるだけじゃつまんないもんね」

     夢というのは、奪われてその価値に気づく。そのために蜂蜜のような蕩ける甘美を希望と売って餌のように与える。失くなったその時の絶望に染められ黒に堕ちるその顔は死神にとってなによりも美味しい糧であるのだという。

     ユメを与えるよりも、ユメを見せるよりも、ユメを書き換えるよりも残酷な。

    「ホワイトも風船、配りにいきなよ」

     こんな仕事、できればやめたいだなんて。与えるこちら側としては人間の幸福に満ちたそれに満たされる快楽に溺れた身としては、そんなことは到底無理なんだけれど。

     
  • 32 東雲 id:yj6a1icO

    2017-04-09(日) 17:12:46 [削除依頼]
     


    「今日はあと一人ね」

     時計塔の上ではたはたと靡くコートに顔を埋める青年。大鎌の切っ先が月の泡粒に鈍く輝く。手の中にあった一枚の紙が、逃げるように風に吹かれていった。

    「シュンって……ああ、別れの挨拶しちゃったけど意味なかったかあ」

     またねという意味は込められてなかったんだよなぁ、と困ったように頬を掻きながらキャスケットを目深に被った青年、もとい死神は少し残念そうに息を吐いた。

    「風船は割れるか萎むかまでが、風船だからね」

     黒に攫われた死神は、唱うように夜闇に溶けた。

     




    「案外、与えるほうが残酷だと俺は思うんだけどなぁ」
    「うるせぇ奪ってるヤツが何言ってんだ」
    「僕なんて作業場でひたすら風船作りですけど?」
    「あーそうなると書き換えのオレが安パイかぁ」



     風船屋という小さな店には、四人の夢技師がいる。

     
  • 33 東雲 id:yj6a1icO

    2017-04-25(火) 21:04:02 [削除依頼]


    case4.
     
     ぽろり。
     ふと意識を浮上させたときに落ちた気がする。予知夢だとか胸騒ぎだとかそういったなんらかの前触れがあれば多少は驚かずにすんだのだろうが、身構えようにもこれといった対策はないのだからしょうがないのかもしれない。
     頬に触れれば少しばかりの水気があった。気の緩みやすい一瞬にため息を零さずにはいられない。これだから寝起きは困る。

    「えぇ、どうすればいいのこれ……」

     ころりと手の中で転がる碧のサファイア。それほど大きくはないが存在感をじゅうぶんにもった光彩は朝早くに葉の表面などでみられるつゆのそれだった。たしかに出どころからすると水に入る類なのだが、それでもそれは海のなかを覗きこんだ景色を映すかたい宝石だった。

     幸いだったのは初めて起こったのが家だったということくらいかもしれない。きっと学校で起こりようものなら驚きで失態を見せていたことだろう。
     どちらにしろ厄介ごとであることには相違ないが。

    「いちごジャムとハムの気分かなぁ」

     とりあえずはこの宝石を昨晩機嫌のよろしくなかった母にでも献上してご機嫌をとることに活用させていただこう。それともクラスの女の子にあげれば喜んで受け取ってくれるかもしれない。薄紅葉に頬を染めて自分にだけ向けられた柔い微笑みを想像して口許がゆるむ。勝手に湧き上がってきた恩恵は素直に受けとって然るべきだ。
     つるりとした表面をひと撫でしてからズボンのポケットに落とすと、朝食をとるために部屋を後にした。

     
  • 34 東雲 id:yj6a1icO

    2017-04-25(火) 21:06:45 [削除依頼]

     
    * 
     
     結論からいうと母にも女の子にも宝石はあげなかった。渡したあと面倒なことになるということに気づいたからだ。母は機嫌が直るよりもまずこちらの悪事を疑うし女の子に至っては誰かひとりに絞ることができないという難点。女の子には平等に、がモットーである、敵は作らない主義だ。無論受け取った女の子が良くない標的にならないようにということにも配慮して。

    「涙石病ってやつじゃない?」

     頭の良い優等生は本もよく読むらしい。案外すらりと出た名前は聞き馴染みのない突飛なものだった。聡いゆえにリアリストに思える彼が、ファンタジックな言葉を口にしているのを目の当たりにするとなんだか変な感じではある。

    「本気で言ってる?」
    「急に無言で腕引っ張ってきといて言うセリフじゃないと思うんだけど」

     オレもノンフィクションじゃなくて小説でしか読んだことないけどね、なんて言われてしまえば治療法なんてないに等しい。
     碧の粒を興味深そうにじっと眺め、それからこちらと目を合わせる。青く見えるほど澄んだ二つの黒がいたいくらいにまっすぐに届いた。

    「飴森さんのそれは、奇病だって言われてるよ」
    「きびょう」
    「うん、奇病。原因も治す方法も分からない病気って意味」

     丁寧にもネットで検索してくれたそれを覗き込むと確かに、涙が宝石に変わるというなんとも不思議な現象だった。今朝みたのはサファイアだったがルビーやダイヤも零れたりするらしい。その時の気分や機微で色や質量、宝石の種類が変わるのだからなかなか面白い。

    「泣く、にも色々あるからね。こころが泣くと物理的に現れるらしいよ。よかったね」
    「何を思って最後の言葉を言ったのか優等生の思考を読むのは難しいね」
    「飴森さんに読まれやすい思考回路ってのは複雑だと思うよ」

     苦笑され、なんだか面白くなくてふぅんと相槌を打つとよけいに笑われた。そんなに笑うとはよっぽど毎日がつまらないのだろうか。知識が人より何倍もある分、なんの面白みもない平坦なものに変わってしまうのかもしれない。それなら多少物事は知らないままでいい。

    「失礼なこと考えてるよね」
    「頭いい人の思考って読めないのに頭いい人は読めるって不公平すぎだよ」

     また笑われた。

     
  • 35 東雲 id:yj6a1icO

    2017-05-21(日) 16:16:09 [削除依頼]
     


     
    「へぇ、これすごいね」

     なかなか聞くことのない感嘆の声を上げる優等生にじわじわと優越感が心を満たしていく。透き通ったそれを上にかざして興味津々に目の色を変える彼はさながらカブトムシを手に入れた夏の日の少年のようでなんだか可愛らしいところもある。

    「光の当たり方によって色が変わるってどうなってるんだろ、成分とか分かる?」
    「あたしが分かると思う?」
    「ごめん猿も木から落ちる原因になるくらい驚きの間違いだった。あ、でも涙が変わったんだから塩とかなのかな」

     失礼だしいやに例えがまわりくどい。カタチはそこまで綺麗ではないけれど、覗くとにごることなく先がみえる世界はため息が出るらしい。赤から青に変わるその宝石はたしかに特別だった。

    「で、さ。これだけ出したってことはそのぶん泣いたってことでしょ。なにかあったの?」

     月曜日の放課後。部活がないのをいいことに優等生に学校の近くの喫茶店に付き合ってもらっている。勉強をしたいだとかあーだこーだぶつぶつ言う彼を引っ張って適当にカフェオレを注文した。つい最近飲めるようになったのだけれど、きっかけは顧問が部活に差し入れとして持ってきたそれを飲んだからだ。
     普段苦いと感じていたはずなのに渇きを覚えていた喉はそれをすんなり受け入れてあまつさえ甘いと認識した。それからは学校でのお供はもっぱらカフェオレになってしまった。飲むと授業中あまり眠くならないという点においてもなかなか気に入っている。

    「それがさぁ、」

     分からないんだよなぁとへらりと笑えば、この前みたく笑われることはなかった。褒めたくはないが、この上なく全くもって百歩も譲りたくないくらい褒めたくはないが、寧ろけなしたいくらいなのだが、つまりは不本意なのだが、この優等生はイケメンに入る類である。頭も良い上にこれ以上神は何を与えているのだと非常に不服ではあるが、現実である。

     そんなイケメンにまっすぐ見つめられて、というか睨まれて少しも怯まないというのはなかなかに神経が太く、心臓に毛でも生えているのだろう。イケメンというものは人を惹きつける独特のオーラを持っているのである。

    「分からない? その答えが分からないんだけど。泣いた理由くらい分かるでしょ、え、愚痴とか相談でオレを呼んだと思ったのにそうじゃないの?」
    「いや、宝石自慢したかっただけ」
    「理由が普通にくそだね」

     鼻で笑われた。別に今のところは笑わなくてもよかったのだけど。さまざまな形や色の石ころに目を注いだままカフェオレを口につける。

    「気になったんだけどさ。飴森さんが出した宝石って赤か青が多いよね」
    「へぇ」
    「関係ありそうじゃない?」
    「へぇ」
    「他人事だね」
    「黒崎くんよりカフェオレの方が優しい甘さだから優先順位って自然とつくもんだよ」
    「より苦さを出したくなる発言だってことにそろそろ気づくべきだと思うよ」

     もっと興味持ちなよ、とため息をつかれる。
     確かに、初めて出した宝石は青系統だったし、テーブルの上に並べてみて改めて見ると赤と青が断然多いように思う。でも、だからなんだという話ではあるけど。

    「オレが思うにさ、涙をこぼしたときの感情によって出てくる色が決まってるんじゃないかって思うんだけど」
    「へぇ」

     無言で頭を叩かれた。なにも叩かなくても、と痛みを覚える部分を抑えつつ睨みあげると、彼は思いの外目をまんまるにして惚けた顔をしていた。
     


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