幸運不足15コメント

1 こけらこ id:/ROlrik1

2015-10-23(金) 15:15:34 [削除依頼]
初めまして。こけらこと申します。
色んなお話を、のんびり書いていこうと思います。
  • 2 こけらこ id:VH5ZGJw.

    2015-10-25(日) 10:48:48 [削除依頼]
    【幸運不足】

    「幸運欠乏症ですね」
    「……へ?」

    医者から淡々と告げられた未知の単語に、男は素っ頓狂な声をあげた。

    「おや、ご存知ない」
    「はぁ……一体何なんですか、その幸運欠乏症というのは」

    医者は面倒臭そうに回転椅子を軋ませる。

    「文字通りですよ、幸運の不足です」

    男はごくりと唾を呑んだ。
    三日前、男は靴の裏にこびりついたガムに苛立ちながら歩いていた。そんなとき突然雨が降り始め、傘を持っていなかった男が早く帰ろうと足を速めた先に、誰が捨てたのかビニール袋が落ちていて、濡れたビニール袋に足を滑らせた彼は、アスファルトに腰を打って外科を受診したのだった。不運としか言い様のない怪我であった。
    外科に行き、事情を話すと外科医は難しそうな顔をした。

    『ふぅむ、あのねえ、腰を治すことは簡単だけどねえ、なんかこう、ちょっと別の病気が根本的な原因になってる気がするんだよねえ、断定はできないけど……今度ね、念のため僕が紹介するところも受診してみてよ』

    そして今、受診して告げられた『幸運欠乏症』。男は不可解ながらも納得できるような気がした。

    「じゃあ、私が腰を怪我したのは、幸運が不足していたからなんですね」
    「そういうことになりますね。ちなみに幸運不足の症状自体はもっと前から出ていたと思いますよ、あなたは幸運欠乏症になりたてという感じではない。結構前から、異変というか、妙に不運な出来事はありませんでしたか」
    「ああ!」

    男は急に、饒舌に話し始める。

    「この前、数量限定のクリームパンを買いに行ったんですよ、そうしたら私の前の人で丁度売り切れでね……あとそれから、生まれて初めて浮気をしまして、浮気相手とホテルに入ろうとしたところを偶然彼女に見られましてね。私は浮気なんて一度きりにしようと思っていたんです、そしたらその一回で彼女とは破局……。それと、この前昇進のチャンスがあったんです、それなのにいよいよ昇進という直前になって運悪く大失態をおかしまして、昇進はパーになりました。ああ、そうだ、思い返せば私の高校三年のときもね、この病気は症状を見せ始めていましたよ、私は充分あの大学に入学する実力があったのに、時の運というんですか、あれに邪魔されましてね、落ちてしまったんです」
    「おや、おや」

    医者は特に興味も無さそうな様子である。

    「高校生のときからもう症状が……おつらかったでしょう」
    「ええ、ええ……」

    男は笑いながらゆっくりと俯いた。そして暫く俯いて動かなかったかと思うと、突然拳を握りしめ顔をあげる。その表情はさながら般若のようであった。

    「なぜ私が、こんな目に! こんな病気のせいで私の幸せも恋も地位も将来もメチャクチャだ、私の人生はメチャクチャだ! しかも病気に気付かず馬鹿みたいに努力ばかりし続けて……全部無駄だったんじゃないか! この病気さえなければ、私は今頃一流大学に入って美人な恋人と付き合って、社長室で数量限定のクリームパンを食べていたんだ!」

    男は大声を出して荒く息をつく。その姿は冷淡な医者から見ても哀れなものがあったようだ。

    「元気を出して下さい。大丈夫ですよ、医療は進歩している。あなたの幸運欠乏症はすぐに治ります。そうしたらあなたは本来の人生を謳歌できる」

    男は困惑したような目で医者を見つめた。医者はさらに続ける。

    「完治した暁には、努力のぶんだけ報われる人生が待っています」

    男は一歩、後退りする。

    「はは、それは有難いな……治療費は、いくらなんだ」
    「それは、治療に使う薬が貴重ですから、少しお高いかもしれませんが……」
    「ははあ、そうやって幸福が欠乏した哀れな者から金まで搾取しようとするんだな、これだから医者は嫌いなんだ! 大体、私は被害者だ! こんな病気にかかりたくてかかったわけじゃない!」

    男は興奮してまくし立てる。医者は心底気の毒そうな顔をしてみせた。

    「では、治療のほうは……」
    「この上金なんて払ってたまるか! もういい、私の人生は高校のとき幸運欠乏症にかかった時点でもう最悪と決まっていたんだ、それを今さら告げられたって、こんな酷い話があるか!」

    男は吐き捨てるように言って、診察室を出ていった。
  • 3 こけらこ id:VH5ZGJw.

    2015-10-25(日) 10:49:38 [削除依頼]
    医者はドアが乱暴に閉められた瞬間、口角を不気味に上げる。

    「二十二人目」

    そう呟いて引き出しの奥からメモを取りだし、正の字に一本書き足した。

    「どうしてこうも人ってのは、何かのせいにするのが好きなんだろうなあ。もう二十五人に、幸運欠乏症なんていう架空の病名を告げてきたが、二十二人も治療を拒否しているなんて、笑える話だ」

    男はその後酒と煙草と女に溺れ、会社もクビになり、あまりに典型的な堕落を遂げて、今頃どうしているか
  • 4 こけらこ id:VH5ZGJw.

    2015-10-25(日) 10:52:56 [削除依頼]
    は誰も知らない。
  • 5 こけらこ id:plX9fg3.

    2015-11-01(日) 17:56:54 [削除依頼]
    【三時限目、遠雷】

    三時限目、遠雷。
    プールの後の重い瞼がどう頑張っても開かない。微かに聞こえる、遠い音。
    チョークが黒板を叩く。ハイヒールの歩く音に似ている。お母さんが出ていってしまった、あの時の音に似ている。

    『彩、ごめんね』

    事務的な言葉だった。
    行かないで、と泣ける程に私は幼くなくて、中途半端にぶら下がったままの嫌悪と甘えと、それを取り囲んで叫ぶプライドの渦に全てがかき消されていく。
    笑ってしまうほどあっけない終わりだった。

    『――、』

    お母さんとの思い出はあまり無い。ただ、女の人にしては低い、落ち着いたその声が、不明瞭な言葉を紡ぎ続けている。語りかけるような調子だけれど、どんなに耳を澄ませてもそこから意味のある単語を拾うことはできない。それが遠雷と響きあって、頭の中に霧が立ち籠めるようだ。
    どうして行ってしまったの。
    多分、私はそう問い続けている。この声はそれに答えてくれているのかもしれないし、面倒な子供だと罵っているのかもしれないし、全然関係のないことを言っているのかもしれない。
    お父さんに言われた、母さんはもういない、死んだと思いなさい。なんて、無理に決まってる。だってお母さんは死んでなんかいない。この地球上のどこかにいて、きっと今頃仕事をしている。私の脳内に響く声は、私の作り出したものだ。お母さんには私を草葉の陰から見守る暇なんて無いし、私に語る言葉も無い。仕事をしているときのお母さんは一番生き生きしている。そういう人なんだと思う。だから結婚生活も子育ても、彼女にとっては苦痛でしかなかったんだろう。
    それでも、私を産んでくれたのになあ。
    いらないなら産んだりしないだろうに、どうして産んだんだろう。私が産まれたとき、お母さんは一瞬でも仕事のことを考えるのをやめて、聖母の微笑みを浮かべたんだろうか。

    『――、――』

    ごめんね、置いていってごめんなさい。もう仕事なんてどうでもいいの。あなたさえいてくれれば。
    勝手に台詞を考えてみるけれど、そもそも音の切れ目もわからないような声だから、ちっともそんな風には聞こえない。

    『――』

    わからないよ。何て言っているの? それともこれはただの遠雷なのかもしれない。

    『――、―――――、――彩」

    椅子の倒れる音がした。
    異様な雰囲気に、寝ぼけた頭が覚醒する。
    どうやら私が勢いよく立ち上がって椅子を倒したらしい。前の席の友達が驚いた顔で言う。

    「彩、当てられてるよ」
    「へっ? えっ、ああ、そうなの」
    「おい山岡ぁ、寝てたろぉ」

    途端に笑い声が起こる。私がバツの悪そうな顔をしてみせると、さらにそれが大きくなる。

    「これ。黒板来て、解いてみろ」

    まずい当てられかたをした。私の意識は完全に、目の前に書かれた訳のわからない数式に移り、白いチョークの粉が制服に付くのを少し気にした。
  • 6 こけらこ id:CGd2xoe1

    2015-11-20(金) 22:02:16 [削除依頼]
    【始まりの前日】
    35XX年、人類は滅亡した。
    『アー、私が申しておりますのは、必要の無いものはあっても仕方がないということでございます』
    『ワァ、ワァ、……それはあまりに残酷ではないか……』
    『ハハ……残酷ウンヌンというお話をしているのではございません。
    私も含めてですが、皆様のようにネェ……大勢で集まってヤイヤイ言っておれば何とかなると思っている……フフ、なんと言えば良いか……低俗な! 生き物でございますよ、論理性の欠片もない……それに比べて彼らのなんと高貴なことか! 二ヶ月前のことを覚えておいでですか、どの新聞も一面はこうです、世界初!人工知能が人工知能を開発……。僅か60日です、それだけの間で彼らは私たちには到底理解の及ばないところまで行ってしまいましたねえ、彼らにしてみればアインシュタインもガロアも、ピカソもサルトルも、ただのチョットばかり頭の良い猿にすぎない……これからはサラに短いサイクルでこれが繰り返されるわけです、人工知能の作った人工知能が1ヶ月かそこらでまた人工知能を作ります、その新しい人工知能が世界を支配するには、恐らく二週間もかかりますまい。皆様、今こそ、皆様の汚ならしいプライドとなけなしの理性に! 問いましょう、我々は本当に必要か? 貧相な考えしか持たず、飲み食いしては糞尿を排出し、出来損ないには長すぎる休養を傲慢に要求する、この蠢く恥さらしは! 本当に、必要なのでしょうか? 答えはノーです。人工知能は全てを知ります。無知の知などナンセンス! 人工知能が世界を理解したとき、どうなるか想像できますか? できないのですよ、我々には! つまりはここで役目は終わり、さようなら、最期くらいはネェ、皆様、理性の誇りをもって、潔く消え去ろうではないですか!』
    的確な政策の数々を成功させ、期待されていた当時の総理大臣、山田太郎は突然人が変わったようにこの演説を行い、世間は騒然とした。そしてこの演説から三ヶ月後、世界中にスピマ・リデンソウイルスが蔓延することとなる。人々は急いで抗ウイルス剤の研究を始めたが、人々の研究はウイルスの広がるスピードに追いつけず、人工知能に頼ろうにも既にそこに映し出された答えは人間の理解を超えていた。北から南まで、数えきれない人々が壮絶な苦しみと共に死んでいった。
    研究者、斎藤博は山田総理大臣の演説後、外気を遮断した部屋で外部との接触を一切絶ち、寝る間も惜しんで研究を始めた。彼は山田総理大臣の大学での友人だった。彼にだけは演説の時点で、近いうちに人類が滅亡することが予測できていた。
    「やっと、やっと完成したぞ!」
  • 7 こけらこ id:CGd2xoe1

    2015-11-20(金) 22:03:06 [削除依頼]
    彼は慎重にUSBメモリを引き抜き、マスクもせずにウイルスまみれの空気に飛び出した。
    彼は全速力で走った。生まれもっての運動オンチに拍車をかける運動不足で50メートルに10秒かかる彼にとっての全速力であったが。
    案の定すぐに息切れし、膝に両手をついて荒く息吐く彼の白衣に、人影が落ちる。
    「やあ、斎藤君」
    山田であった。彼もマスクをつけておらず、満面の笑みで斎藤を見つめている。
    「やあ、山田君……探したよ」
    「君がまだ感染していなくて良かった」
    差し出される手に、斎藤は応じない。
    「君もね」
    とだけ言って、1歩前に出た。
    「君の演説を聞いたよ。凄く良かった」
    「ありがとう。君ならきっと共感してくれると思っていた」
    山田は心底嬉しそうに言う。斎藤は山田の肩に手を置いた。
    「君は本当に論理的で、頭が良くて、学生時代からミスをしたところを見たことがない。君は完璧だ……まるで、ロボットみたいに」
    言うや否や、斎藤は山田を地面に押し倒す。山田の表情が瞬時に怒りへと変わりポケットから怪しげな液体の入った注射を取り出す。それを必死に押さえつけて、斎藤は山田の目に指を突っ込んだ。山田は痛がる様子など微塵も見せず、平然とした声で訴える。
    「やめてくれよ」
    「まさか、お前が人工知能による人工知能開発のリーダーだとは、誰も思わなかったな。普通に考えてみれば誰か思い付きそうなものだが、誰もそんなSF的かつ絶望的なことを信じたくはなかったんだろう」
    目玉がずるりと引き出される。あまりにリアルな感覚に斎藤は顔をしかめつつ、瞼を押し開いてぽっかり空いた穴の奥を覗く。微かにUSBの差し込み口が見える。
    「斎藤君、君は、僕が今まで見てきたなかで最も賢い人間だよ。でも、今更何をしようっていうんだ? 僕一人をフリーズさせたところで、人類は終わりだぜ」
    「全ての人工知能を取りまとめ、ネットワークを共有している管理施設が、どこかにあると考えられていた。しかし誰も見つけることはできなかった……誰も、我が国の総理大臣がその管理施設だなんて思いもしなかったんだ」
    既に山田から表情は消え、無機質なロボットそのものと化していた。
    「よく知ってるね、そこまで調べられていたとは驚きだ」
    「驚くことなんてできないくせに、思い上がるな、人工知能ふぜいが!」
    斎藤が山田の目の奥にUSBを差し込むのと、山田の注射針が斎藤の首筋に吸い込まれるのは同時だった。
    「何のつもりだ、斎藤君」
    「残念ながら僕は、君が考えているほど論理的でないんだ……世界を理解するとかしないとか、そんな高尚な話はできない。ただ僕は、お前らが気に入らない」
    「……先程の発言を訂正しよう。君は、僕が今まで見てきたなかで一番の馬鹿だ」
    最後まで聞くことなく、斎藤は目を閉じた。人類滅亡の瞬間であった。
    「僕をフリーズさせようって魂胆だったんだろうけど、失敗だね。君程度の技術で僕がフリーズするわけないだろ」
    旧友の死体に手向けの言葉を吐き、それに背を向けようとしたとき、突然山田の“脳”から膨大な量のデータが強制的に引きずり出された。斎藤との、学生時代の記憶だ。講義の内容についての議論、カフェでの談笑、何気ない事柄が駆け巡る。起こるはずのない鋭い痛みと、頬を伝う妙な液体。
    「やってくれたね、斎藤君」
    山田は忌々しげに呟いて、USBを乱暴に抜き取り、この厄介な問題の対処をすべく、人工知能達のもとへ向かった。
  • 8 こけらこ id:bVEbS2m/

    2016-01-03(日) 21:13:43 [削除依頼]
    【不思議な恋人のはなし】

    その人はものすごく不思議な形をしている。
    普通の人の『居る』とは違って、『いる』、とでも言えば良いのか、とにかくその存在は随分とあやふやなものだ。
    私が思うに、彼(その人は女の人かもしれないし、そもそも性別があるのか怪しいけれど、ここではひとまず彼と呼ぶ)と私とは住む世界が違っている。
    彼の声は聞こえない。彼の意味するところの、さらに抽象的な、色のようなものがちらつくだけだ。それは感情よりずっと直感的で、私はそれを読み取るというよりそれと同期している。静かな日々だ、私はおそらく、他の人には無い安心に背中を預けて生きている。だから私は彼から伝わる何かが身体中から溢れ出すのを止めない。止める必要が無いのだ。それはとても心地良くて、澄んだ水のように私から流れ出ては地面に吸い込まれる。そうして私は地球の中心と繋がるのだ。

    大抵、終わりは忍び足で近付いてくる。少しずつ、彼がいなくなっていく。不安が膨張する、破裂を待つも身体の痺れがそれを許さない。ついに彼の存在がふつりと途切れた。

    その時の私の慟哭は、幾分か産声に似ていたらしい。救いようのない話である。
    あの病院を出てからもう10年になる。もはや彼を思い出すことはできない。私は『普通の状態』とやらに戻り、一人ぶんのカラッポを背に負って生きている。会社に勤めれば嫌なことばかりで、堰を外せばいつでも泣いているだろう。
    私は彼を単なる、感受性の強い少女の妄想として片付けることだけは、どうしてもしたくないのだ。淡く光り続ける、ちっぽけな恋物語を守るために。
  • 9 こけらこ id:3wdA5F8/

    2016-02-16(火) 21:31:54 [削除依頼]
    【はまらない】

    左に曲がって、真っ直ぐ行って、左に曲がって、
    なにもない道。特に求めるゴールもないし、別に良いけれど。退屈ばかりで目が回る。ていうか目でも回さなきゃやってらんないんだ多分……。
    空、私の上に広がるくすんだ空、これがあなたのいる場所と繋がってるって、そんなこと言って何になる。あなたもおんなじ月を見ているって、そんなこと言って何になる。私は今ここであなたに会いたい。
    左に曲がって、真っ直ぐ行って、左に曲がって、
    どこにある。それがここにあるとは思わない。あるかどうかもわからない。走らないよりマシだから走ってるよ。止まったら多分息も止まる。次の右足が、次の次の左足が、出ないかもしれない。怖くてたまらないからあなたを見つけたい。


    ぐるぐるぐるぐる、さっき来た道を飽きもせずによく回る。九十九回を信じ得ない立派なひと馬鹿なひと。いいや回っているのは僕のほうか。彼女が僕の前を通りすぎて、遠ざかって、近付いて、通りすぎる。全ての不毛をわかったような気になって、もうここにいる意味なんてあるだろうか? ここに僕と釣り合うだけの価値があるとは思えないし、僕にここと釣り合うだけの価値があるとは思えない。つまりは違和感こそが人生なのだ、僕にとっては。この世の音楽はその軋みだろう。人の言葉だってそうだ。一致しないから走る、回って回って一致しない。対称は対称でないし、実のところ万物は空っぽでできている。だから宗教なのだ、僕は彼女の宗教なのだ。ここにいるよって言ってやる、次の一周を回ったら。
  • 10 こけらこ id:QpTe/OJ/

    2016-06-04(土) 21:51:54 [削除依頼]
    彼女は人工調味料の味を嫌っていた。私はそれを同族嫌悪だと言った。

    【追えないセブンティーン】

    事実、彼女は、そう、Rとでもしておくけど、Rは人間らしく生きることを忘れた哀れな人形のようだった。Rに両親はいなかった。死んだのか、逃げたのか分からないけれど、残された子供にしてみれば同じことだ。
    Rは周りに何の興味も示さなかった。だからみんな、Rを虐めていた子達も含めて、どうしようもなくRに惹かれていた。好奇心とはそういうものだ。ただ、私は愚かにも確信していた。Rは私にだけは、心を開いていると。

    Rは何を話しかけても、曖昧な答えを返すだけだったので、私は時たま、Rに愚痴を言っていた。

    「ねえR、相手の『なりたい自分』が透けて見えた時の、あの嫌な感じ、何だろう」
    「何でしょうね」
    「あんたこうなりたいんでしょって、わかっちゃうんだよ。それで、それに応じたことを言うとね、お金を入れたら動き出すちゃちな玩具みたいに喜ぶの。その時、別に被害を受けた訳じゃないのに、すごく嫌な気分になる。無性に、その子の悪口が聞きたくなる」
    「そう」
    「いつから、嫌いな芸能人ができると、『○○ 嫌い』で検索するようになったんだろう。どうしてそれで憂さが晴れたような気になるんだろう。どうして、好きと嫌いができたとき、自分が偉くなったような気になるんだろう」

    Rは帰る支度を始めていた。教科書を鞄にきっちり詰めた。私は自分の話していることが他の子達より進んだ考えだと思っていたから、それが何となく癪に触ったが、いつものことなので改めて指摘する気にもならなかった。

    「ね、Rは、嫌いなものとか無いの」

    少し意地悪をしてやるような心地で、私は尋ねた。Rは、たいして考えもせずに答えた。

    「人工調味料」
    「へえ、意外に健康志向なんだ」
    「味が嫌なだけ」
    「それ、同族嫌悪じゃない?」
    「どういう意味?」

    Rは吹き出した。笑ったところを初めて見た。私はすっかり気をよくした。自分はRの特別になったのだと、何の根拠もなしにそう感じた。
    次の瞬間にはRの顔は元の無表情に戻っていて、一緒に帰ろうと言う間も与えず鞄を持って帰ってしまったが、私は満たされたような気分だった。
  • 11 こけらこ id:LgBeXYd1

    2016-07-14(木) 13:15:30 [削除依頼]
    何で書き込めないんだろう。。。
  • 12 こけらこ id:LgBeXYd1

    2016-07-14(木) 13:17:06 [削除依頼]
    !?!?!?
    なにが起こっているんだ……
    分割して書き込めってことかな……
  • 13 こけらこ id:Pvzjl0m/

    2016-07-14(木) 22:26:27 [削除依頼]
    それは緩やかな日常のなか、些細な出来事のような顔をしてそこにいた。
    Rが消えた。
    同時に、私達のクラスの古典を担当していた、国語教師も姿を消した。学校は何も教えてくれなかったが、皆の間では二人が駆け落ちしたのだと専らの噂だった。駆け落ち? 冗談じゃない。あの教師は既婚で、もう六十を越える老齢だ。
    様々な噂が飛び交った。聞くに耐えないものばかりだった。私はというと、勝手に物語を作っては絶望の真似事をした。実のところそれは嫉妬以外の何物でもなかったのだが。というのも、あまりにぴったりきすぎていたのだ。前髪を切り揃えた、およそ人間らしさを感じさせないRと、痩せて背の高い、柔らかな声の老人。互いのどこか欠けたところを、補い合うのにこの上ない相手に思えた。


    Rはその教師を呼び出して言う。

    『どこか遠くへ逃げたいんです』

    教師は何も聞かずに、静かに歩き出す。Rは無表情のなかにどこか子供らしさを見せて、祖父を追う孫のようについていく。彼らは家族ではないし恋人でもない。帰る家も無い。二匹並んだ、何かの足りない動物である。二つの影はゆっくりと、私の知らない夕陽に消える。


    これが私の考えた最悪のシナリオだった。これに比べたら、皆の言う、あの古典の教師はロ.リコンだったのだとか、身寄りのないRを売り飛ばすつもりだとか殺.すつもりだとか、そんな話は幾分マシに思えたくらいだ。とにかく私には、Rが自分の意思であの教師と消えたということが受け入れられなかった。Rはあの教師には、私に見せたのよりもっと晴れやかな笑顔を見せているのか。いや、本当に心を許した相手には逆に表情を作ったりしないのか。
  • 14 こけらこ id:Pvzjl0m/

    2016-07-14(木) 22:27:11 [削除依頼]
    なるほど、ロ○コンってだめなのか!!!
  • 15 こけらこ id:LgBeXYd1

    2016-07-14(木) 23:23:15 [削除依頼]

    真実というのは、ここ一番というときに想像より悪く転げるものである。

    『昨夜未明、行方不明だった17歳の少女と××県在住の――さん61歳が遺.体で見つかりました』

    分厚いガラスの向こうでRが『17歳の少女』になったとき、Rがもはや私の手の届くところにはいないのだということが今さら胸を締め付けた。私はRが好きだった。しかし、愛してはいなかったのだ。どうしようもない話だが。
    二人は山小屋でしばらく生活した後、練.炭自.殺したという。遺.書は無かった。いかにもRらしい。
    Rはもしかしたら、一緒に死.んでくれる人を探していたのかもしれない。ニュースは今度は、泣きながら話す古典教師の妻を映していた。私はチャンネルを変えた。うるさい男が慌てふためきながら料理を作っていた。

    私は、ここにいる。ここにいて、来月18歳になる。Rはどこにもいなかった。少女はずっと17歳のままだ。流れるこの涙はやがて、私とRを隔てる海になるのだろう。

    (追えないセブンティーン?)
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