来世の来世の来世くらいのお話、

SS投稿投稿掲示板より。


1    叶奏@かなた  [id : wA9XQ8C/] [2015-10-10(土) 11:20:27] 削除依頼



`


夢をみたい僕は、いくつもいくつも生きていく。


「 はじめまして、かなたと申します。
  拙い言葉ですが、ふわふわと綴っていきます。 」

64 叶奏  [id : RIlp/1f.] [2016-02-16(火) 18:09:05] 削除依頼




「知ってる。明日になればこの幸せは消えてて、まあくんはもうおらん」

本当にきみは安直な考えを嫌っていた。本心かどうかわからないような困難な感情は、少しだけ寂しかった。服をきないきみしか僕は知らなくて、笑うきみを知らなかった。しんだっていいよと笑った時の表情、あれ、笑顔じゃないよね。錯覚するようなきれいな表情に、何度も何度も溺れてきた。琥珀色の紅茶が穴のあいたティーカップのそこからこぼれている。彼女はレモンティーが好きだった。海辺にしかないような曲を人魚姫が歌っている夢。そこに神様はいなくて、彼女たちが神だと思っているものは、卑劣にゆがんだ人間だった。そんな話が、確かに存在していて、ぼくらは何も信じられなくなる。明日の幸せも、あしたのゆめも、今晩眠りについたらなくなってしまうんじゃないかと思う。きっと彼女も、そう思ってる。

「まあくん、行かんといて」

彼女の涙が白いシーツのこぼれ落ちる。灰色のしみが広がった。彼女の小さな手が僕の頬に添えられて僕は自分が泣いていることに気がついた。目を閉じる。それでも涙は枯れてくれなくて情けなく僕は笑った。さよなら、好きだよ。本当は声に出して彼女を抱きしめながら囁きたいのに、そう言った途端にもう取り返しがつかなくなるような気がしたし、さよならを彼女の心臓に放り投げたら、このとくんとくんと動くこの心臓は止まってしまうんじゃないかと思った。

「好きだよ」

彼女の心臓は動いていた。ここに神様はいない。僕が神だと信じてたものは、卑劣にゆがんだ僕自身だった。


/ なみだのひとりあるき

65 叶奏  [id : GUl5Sgd/] [2016-02-19(金) 17:36:18] 削除依頼



( 駄目だよ、奴らが来る、彼女が言った。)


もうすぐ四月がくるね。透子ちゃんの長い髪が風に揺られると一番きれいな季節。春がやってきて、そのうちまたしん.でいくってこと、わたしたちはずっと知っていたはずなのに、どうしてあの日桜の下でずっと一緒にいるって約束をしたんだろう。もうすぐ春が来るね。透子ちゃんの、だいすきな季節。わたしの友達にね、春がすごく嫌.いな子がいるの。それなのにハルちゃんって名前なんだよ。笑えちゃうよね。あのね透子ちゃん、わたし透子ちゃんのことが本当に大好きだったよ。だから今、本当にすごく寂しくてたまに泣いちゃう。透子ちゃんは泣いた? 自分が死ん.だって気づいて悲しいって思った? 何が正しいのかわからんなくなって、わたし透子ちゃんと一緒のところに行きたいって何度も思った。人魚姫みたいに海の中で泳ぎながらし.にたいねって一緒に話したこと、覚えてる? わたしはちゃんと覚えてるよ。なみだがいつかうみになって、その海が雨になってまた涙になる。本当のことはいつでも悲しくて、残酷で、死ん.でしまいたいね。透子ちゃん、すきだよ。だからお願い、もういちど笑って。


p.s. やっぱりあの羊は盲.目だったよ。わたしも、もうじき透子ちゃんのところへ送り込まれるかもしれない。

66 叶奏  [id : YbMxOJE/] [2016-03-01(火) 22:41:38] 削除依頼




十秒前の吐息を飲み込む。まあもちろんわたしは二酸化炭素なんかで生きていけないから、飲み込んでいるつもりだけなのだろうけど、その吐息とともに、十秒前にこぼしてしまった言葉を飲み込めたらいいな、と思った。後悔なんて言葉だけじゃ間に合わないことがたしかに存在していて、あごめんね間違えちゃったって言えたらいいのになと顔を引きつらせながら思う。春が生き返る。季節は次々に死んでいってしまうらしいけれど、わたしの目の前には大きすぎる春がもう顔を出していて、なまぬるい風が頬にあたる。
「あのさ、それさ」
何も聞きたくないよ、お願い、なにもいわないでって思う。お願いだから、いまきみの目の前にいるわたしを置いてどこか遠くに行ってしまって、と思う。わたしの感情をきみに送り込みたくて本当にすごく、心の底からの感情を送り込みたくて思案した言葉は、口にしてしまえば、ただの拙い自己主張だということに気づいた。
「要するにさ」
彼のことば一言一言に神経を集中させてしまうわたしがどうも憎い。わかってる、絶対、フられる。そんなこと理解していて、本当に理解しているのに、心のどっかで期待してるじぶんがいることが憎くて恥ずかしくてたまらない。きみは優しいけれど、優しさとこれとはまた別のことで、その優しさに甘えてしまっている自分がいることにも腹がたった。
もし、もう友達でさえいられなくなってしまったら。
ぐらぐらと地面がゆれている気がした。きみの優しさが初期微動で、きみの言葉が主要動だ。わたしの体は陸地から離れてしまいそうになっている一本の木で、もうすぐくるS波に期待して、落胆している。
「俺も好き」
きみの優しさは本当は嘘もので、その言葉だけが真実だということを、わたしは信じてる。信じてやまない。紺色のプリーツスカートが揺れて、わたしはいつのまにか彼とキスしてる。ハッピーバレンタイン、チョコレートが溶ける前に、もう一度言って。「好き」「知ってる」「好き?」「好き」

/ チョコレートが溶ける前に、もう一度

>63の続きだったりします。空白を開けずに書いてみました。どちらのほうが良いんだろう……

67 叶奏  [id : gM5RXO31] [2016-03-02(水) 17:38:55] 削除依頼




寒くて寒くて死んでしまいそうな冬が、もうむり、まじむりって泣いてる。まああそこまでたくさんの雪を降らせたのだから、今年の冬はよくやったと思うよ。もうそろそろ休んでもいいと思うし、わたし的にもそろそろ死んでほしい。そのうち春が、仕方ないなあ殺してやるよって気だるそうにチューイングガムでもかみながらやってきて、弱りきった冬を春特有の刺さりそうな青色で殺すんだろう。うつくしくないよ、季節なんて。わたしも死んだら季節の一部になって、踏み潰されて茶色く変色した桜の花びらにでもなるのだと思う。うつくしくないね、ほんと。美しいのは、教室の中心部で大声で歌っているような、スカートの短い女の子たちだけだし、わたしはそれを見て、しねって思うから、ますます美しくないね。しにたい、消えたいって言うだけならいくらでも言えるけれど、一度きえてしまったらもう二度とここへ戻ってこられないことくらい、ずっと昔から気づいていて、本当はそれが死ぬほど怖くて、絶対にしねない。どうせ馬鹿だし、わたしたち。どうせ馬鹿だから、死ぬことと生きること以外、理解できることなんてないよ。あとちょっとした営みのことくらい。神様がいるいないなんて、女子中学生からしたらホントどうでもいいし、あー上空にイエス・キリストがいるんだなあ、なんて思ったことなんて一度もない。クリスマスだけは、あの子と一緒にホテルになだれ込みたくて、必死にお祝いするけれど。

あ、もう春。さくらがゆきの中に閉じ込められていて、わたしはそれをみて、冬って狂気じみてる、と思う。


/ はるやすみが来る、いや、来い。

三月に入ったのに、ちょっと寒すぎません?

68 叶奏  [id : q.Ig2An/] [2016-03-07(月) 18:28:33] 削除依頼




「自/殺は寿命です」
「では他殺は寿命ですか」
「他殺も寿命です」
「いのちは平等ですか」
「さみしいいのちは、平等に不平等です」
「あなたの寿命はいつですか」
「わたしの寿命は、すこしだけ長いですから」


きみはやさしいね。血液。わたしの体に通っている血液を、きみになら全部あげるよ。あなたの寿命が、伸びますように。たくさん吸血して、たくさん愛して、たくさん殺して、たくさんさよならして、たくさん悔やんで、たくさん生まれたことを後悔して、たくさん生きて、たくさん吸血して、たくさん愛して、たくさん殺して、たくさん殺して、たくさん殺して、たくさん殺して、たくさん殺して、少しだけ、本当に少しだけ、泣いてね。


「ユウくん、相談ってなに?」
「あいらぶゆー」
「言えないくせに」
「さよなら、」
「さよならユウくん、また来てね」
「3000年後くらいに会おう」
「あいしてる」
「やっと言ってくれた」


彼女はもういない。3000年後、ぼくはすこしだけ泣いたよ。


/

あやさんが寝言を文章化してくれるらしいです(人任せ)

69 叶奏  [id : q.Ig2An/] [2016-03-07(月) 19:37:45] 削除依頼



「生まれ変わりなんかなくて、死んだら永久に暗闇だよって言葉が、世界で一番こわい。」

わたしがそんな風に、サイダーを煽りながらいうと、彼はへえっと笑った。千尋(ちひろ)にも怖いもんとかあったんやって、付け足すように言ったあと、わたしの手にあったサイダーを取ってそれをぐいっと飲んだ。頭上で点滅している電球、あとで変えてねって頼もう。ちかちかとしていらつく。ろうかで人の足音がする。となりの住人が鍵をかちゃって回して部屋に入る音まではっきりと聞こえる。ここ防音設備最悪じゃん。四号室のあるこのアパートの、四号室の住人が彼で、わたしはなにそれ笑えるって思う。四号室の住人、あんた、そんな感じするよ。いつも三ミリくらい浮いていて、どこにも属さなくても生きていける部類。あんた、そういう人でしょう? ひどく偏った食事に、もう快感などは見いだせなくて、それでも毎日かかさずお腹が減るわたし自身にいやけがさす。何か作ろうか?とわたしが笑う。彼はサイダーでお腹いっぱい、って笑う。

「生まれ変わったら、たぶん千尋は生まれて五秒でパチンってされる蚊やな。」
なにそれ笑える。今まで生きてきて37回くらいパチンってしてるから、たぶん38回くらいパチンってされるんやろうな。

「ねえ、すき。」
「知ってる。」

70 叶奏  [id : WFMruj20] [2016-03-10(木) 17:50:42] 削除依頼




 やさしい愛が浮上するね。甘ったるい自分自身の吐息に、酔う。
 悲しみには終わりがないんだよ。一度悲しいねって思ったら、もう一生かなしい。終わりがないから悲しいのか、悲しいから終わりがないのか、そんなこと人類にわかるはずもないけれど、今、こうやって狭いアパートのなかで君と呼吸していると、その悲しみがなんなのか、少しだけわかった気がする。凍結するのは愛だけじゃないよ、ちゃんと恋もやさしさも凍結する。

「想(そう)くん、痕つけて」
「どこに」
「みえるところ、いっぱい」

 ピアスみたいなものだよ。リス/トカットした後の手首の傷みたいなものだよ。わたしは、ちゃんと君たちとは違うよって痕。痕跡。沈んでいく影にわたしは幸せすぎて身震いして、そのあと、すこしだけ悲しくなる。
 やさしい愛が浮上するね。想くんの目は透いていて、想くんの頭の中が見えてしまいそうだった。脳みその中身がとろんって溶けるみたいに、想くんの目の中を覗いてしまいそうになる。だめだよ、見ちゃダメだよ。そんな風に言われてる気がして、わたしはまた幸せすぎて身震いして、悲しくなる。

「だめ、足りない」
「小春(こはる)」
「だめなの、ぜんぜん足りない」

 わたしの中身が悲しさでいっぱいになる! 終わりがない悲しみ。やさしい愛が浮上するね。凍結していくのは、愛だけじゃない。やさしさと恋だけでもない。わたし自身も、きちんと凍結していく。悲しみでいっぱいになる。それなのにどうしても、想くんの瞳の中を覗いてしまいそうになって、脳みそがとろんってまた溶けていく。目が、合う。わたしの中身が、想くんでいっぱいになればいいのに。

「泣けよ」
「あのね想くん」
「いいから、泣けよ」

 わたしの中身。おねがい、悲しみ、どうかいなくなって。


/ 無秩序なかなしみ、いなくなってよ。

71 叶奏  [id : Y72YAo80] [2016-03-14(月) 17:28:35] 削除依頼




「春はきらいです。どんどん終わりに吸い込まれていくのが、みてて苦しい」
「君らしいですね」
「先生は、好きですか。春が」
「好きですよ、とても」

 あいかわらずカーディガンは脱げないくらい寒くて、それでももう春ですよ、と耳元で誰かに言われ続けている気がする。革靴のつま先でとんとんと地面を蹴ったあと、不器用ながら一所懸命コテで巻いた髪の毛をくるくるといじった。麻里がコテの使い方をおしえてくれた。下手だねえって笑われたけれど、なんとかやけどせずに済んだ。この少しだけ巻いた髪を気づいて欲しくて、わたしは何度も何度もくるくるといじる。

「髪、巻いたんですか」
「はい」

 せんせいが、少しだけ笑った。わたしも気づいてもらえたことと、笑ってくれたこと、りょうほういっぺんにうれしくて笑った。グラウンドで部活生たちの声が聞こえる。こういう時、運動部はすごく楽しそうでずるい。わたしもテニス部にはいればよかったな、って今少しだけおもった。最後の最後に思うなんて皮肉だねって自分自身に笑いかける。もうすぐ、終わっちゃう。終わっちゃうんだ。ちゃんと、終わりは来る。やさしいか優しくないか、そんなこと全然気にもかけてくれなくて、終わりが来る。
 言わなきゃ、だめだ。
 時計の針の音とか、チャイムの人工的な音とか、雨が降る前のきゅっとした匂いとか、理数科の教室のぎゅうぎゅうな感じとか、図書室の息の音だけがきこえる感じとか、職員室の珈琲の匂いとか、そういうの、全部いま思い出す。ずるいよ、わたし、ずるい。嫌いだったはずの学校が、今すごく綺麗な思い出でよみがえってくる。

「あのね先生、好きでした」

 人工的なチャイムの音。最後の、わたしと先生をつなげる音がいまちょうど、鳴り終わった。


/ はるにおもう

先輩、卒業おめでとうございます。

72 そら  [id : YK5Wizl/] [2016-03-15(火) 20:19:26] 削除依頼

ここではお久しぶりです(∩´∀`)∩
やっぱり>71センセイと生徒の
お話しいいですね。すごい好きです。
ていうか最近コメントをよくいろんなところで
させていただくのですが迷惑になっていないでしょうか、、
気持ち悪いって思われてそうで心配です←
>71も好きです。可愛いお話ですね*
では今日はこの辺でノ

73 叶奏  [id : ij0OiiR.] [2016-03-16(水) 16:20:01] 削除依頼


>72 そらさん

わあこんにちはノ
先生と生徒いいですよねえ……書いててもにやけます(笑)両方敬語ってところがっ、すごくっ、気に入ってますっ
いえいえいえいえ、そんなことは全然!!
毎回とてもうれしくって飛び跳ねています←
わああありがとうございます*

ありがとうございましたノ

74 叶奏  [id : YMmOIre1] [2016-03-17(木) 15:57:51] 削除依頼




 つぷり、と音をたてて牙が沈み込んだ。へえ、本当にきみの血は真っ赤なんだ、と頭の片隅で思いながらこぼれ落ちる血液をぺろりと舐め取る。体のそこから欲しかったものが喉を通って体に落ちる。じわじわと広がる最高の快感が、僕の体内からふつふつと湧き上がって、もっと、もっとと僕に命令する。
 また牙を沈める。今度は、もっともっと深く。牙を引き抜けばまた真っ赤な血液が次から次へと溢れ出して、とどまることを知らない。唇の隙間からこぼれてしまった血液が、彼女の白い体に落ちて滴り、赤い筋を作る。
 なにこれ、最高。

「きみ、やっぱりすごく美味しいよ」

 彼女にしっかりと聞こえるように、首筋にあてがっていた唇を耳に移動させ、かぷりとその耳たぶに噛み付きながら囁く。
「や、…いぁ、」

 じゃあもっと、痛がって、泣いてね。
 首筋に飽きた僕は唇を胸元にまで下ろす。ふわりと白い胸にまた牙を立てる。いや、と小さく声を漏らす彼女に、大丈夫だよ、心臓まで刺さらないから、と諭す。
 なにこれ、最高。
 何かを破っていくようにつぷつぷと音をたてて沈み込む牙を一気に引き抜く。どばどばと真っ赤な血液が彼女の体と僕の口を汚す。唇についた血液をぺろりと舐めとったあと、滴り赤い筋を作っていくその血を少しずつ飲み込んでいく。
 なにこれ、最高。


/ 吸血くん、やい


んんんんn最高。吸血シーンが書きたくってうずうずして書いちゃいました。

75 叶奏  [id : Q5Z8gbu0] [2016-03-19(土) 12:07:40] 削除依頼




これがさよならだと思った、思ったんだ。


 雨が降る前の匂いがした。特に山に囲まれているこの学校は雨が降る前、草木の湿った匂い強い。
 思い出はいつだって綺麗で、とてもずるい。大嫌いだったこの教室や、大嫌いだったダサい制服や、大嫌いだったあいつや、大嫌いだった数学の教科書が、今ほんとうに綺麗に蘇ってくる。わたし、ずるいよ。自分自身に笑いかけて誰もいない教室で小さく笑った。
 やさしくないね、世界なんて。ふと、インディーズバンドの湿気った歌詞を思い出す。
 これがさよならだとするなら、わたしは今まで何のために下唇をかみながらこの机に座っていたのだろう。何のために着る服さえ指定されながら生きてきたんだろう。きれいじゃないよ、ぜんぜんきれいじゃないよ、中学生。
 それでも思い出はとてつもなく綺麗なままで、クラスメイトたちの頬に涙が伝って、わたしはそれをみて少しだけ泣きそうになる。泣きそうになるんだ。


「これが、さよならだと思った、思ったんだ。」
やさしくない世界が、回転する。回転する。


/ 雨が降る前に、さよなら。

76 叶奏  [id : ssZ5y17.] [2016-03-20(日) 16:26:08] 削除依頼




「優柔不断なきみがきみ自身を銃で撃つ! とても幸せな時間さそれは。言いたいことも綺麗に覆い尽くしたから小さくとても小さくつぶやくきみに、一体何がわかるというの。足踏みだらけのきみ、踏み出せないきみ、いなくなれよきみ! レモンティーが全て穴の空いたティーカップから漏れ出す前に、わたしの前からいなくなってよ。退屈すぎるね、日々のやさしい甘ったるい空気は。そんなことわたしが喚いたって何もかわりはしないけど、きみがいなくなってくれるなら、人類は少しだけ進化する気がするんだ、ねえ本当よ。
 きみがきらい。
 そのことだけに何フレーズも何話も思いついて、浮遊するよ。どうしてきみみたいな奴がわたしの隣で笑っているんだろう。そんな価値どこにあるというの。あの子は消えた。きみが本当に嫌いで苦しくなったみたいだよ、あの子は。ああ、その顔。きみが、苦しむ顔、やっと、やっとみれた。吐き気がするよ。
 戦わないきみ、戦えないきみ、どこにも庇護されないきみが、必死にすがりつく様子はとても醜くてぞっとするよ。ねえきみはどうして何も作らずに生きていられるの。かなわないとわかりきっている夢は、ただの寝言だよ。
 誰にも守られなくなって、本当にひとりきりになったとき、ああどうしてあたしは寝言に食われていたんだろう、ああどうしてあたしは今まで気づけなかったんだろうって、きっときみ、泣くから。」

きみがきらい。それだけのことで、わたしの文章が完成した。吐き気がするよ。


/ きらいなひと

最近ほんとに暇過ぎて常に何かかいてます、することがない!!!暇!!

77 叶奏  [id : M8aJfDi1] [2016-03-24(木) 15:52:07] 削除依頼




 どうしてこんなに、はやく回転してしまえるんだろう。
 未羽がわたしと口をきかなくなったのは最近のことだった。

 わたしは誰もないまっさらな教室が好きで、いつもめちゃくちゃ早い時間帯に登校する。みんなはドラマかよって渋い顔をして朝早くから学校にいるわたしを笑うけど、わたしはけっこう好きだ、あの時間。そしてわたしが机に座った十分後くらいに、未羽はいつもくる。おはようって言いながらバッグを下ろして教科書をとりだす。置き勉組のわたしには、なんであんな重いものいつももって帰られるんだろうってとても不思議だけど、未羽はたいして苦痛ではなかったようだ。
 なのに、あの日未羽はなにも言わなかった。
 わたしのおはよう、がまだカラカラの教室の中を彷徨って、消えた。あれ? と思って、わたしはすこしだけ笑った。聞こえていなかったのかもしれないし、もしかしたら、もしかしたら、とも思った。

「未羽、あのさ昨日LINEで佐藤がグループで変なこと言ってたやん」

 わたしは携帯を触りながら笑う。話題はなんだってよかったけど、そのもしかしたら、を消してしまいたかった。とにかく何か喋らなきゃいけないと思った。

「佐藤うけるよね、既読無視されてさあ」

わたしは笑った。おもしろくなんかひとつもないけど、携帯を触りながら未羽の顔をみなかったら全然笑えた。わたしはツイッターを開いてせわしなく動くTLを更新する。RTされたよくわからない画像は、本当によくわからなくて、いいねだけしておいた。

「未羽も思わんかった?」

 あ、もしかしたら、が心の底にずしんと重みをもって落下した。
 わたしが一瞬顔をあげて、未羽の方をみたときに、目があって、あ、もしかしたら、が黒色の絵の具みたいになって水を含んで落ちた。広がっている気がした、じわじわと、じわじわと。

「思わんかったよ、全然」

未羽は笑わなかった。薄く笑うわたしのことを軽蔑していた。そんな目で、わたしのことをみて。もしかしたら、がもしかしなくても今ここにあって、どうしてこんなに回転してしまえるんだろうとも思った。はじかないで、わたしを、わたしをはじかないで。スカートの短い女の子に、わたしはなりたかっただけなんだよ、それだけなんだよ。
 回転してしまえる未羽。お願いどうかお願い、とわたしは誰に願ったわけでもなく、ツイッターのよくわからない画像をやっぱりRTした。


/ 回転する教室

クラス替えやだ!!!!

78 叶奏  [id : E/Pks0d.] [2016-03-25(金) 22:44:18] 削除依頼




きみへ


 孤独になればやさしくなれるような人と、わたしはキスしたくない。やさしさと愛の区別がつかないような人と、おなじ映画をみたくない。まだ咲いてもいない桜が、もうじき散るってことは入学したての小学生がいつか自/殺するってことととても似ているね、やさしくない世界は桜にだって優しくないんだし。きみの嫌いな人がしんでしまって、それでも世界がまわるんだよって知った時の顔、わたしは知っているよ。生まれる前に記憶している神様の顔と、とてもとてもよくにていて、わたしは手首をきりたくなってしまう。そういう世界だから、わたしは好きだよ、きみのことも、きみのことが嫌いな人も好き。
 きみと一緒にみた映画の監督がしんでしまったりして、公園の遊具はだんだんと撤去されていくね。夕暮れみたいに泣いてみたら、あたらしい遊具ができたりしたらいいのに。ボール遊び禁止。犬の散歩禁止。男女交際禁止。校区外への出歩き禁止。自/殺禁止。生まれるの禁止。ぜんぶ禁止。しんじゃえ、ばか。
 雨の音を聞きながら、突拍子もないことをおもいついて、死にたくなるような休日がとても好きだよ、だから明日あいにきて。一年ぶりのキスをしよう。あとはきみに、任せるけれど。


わたしより


/ てがみ

79 叶奏  [id : h3EVzDw/] [2016-04-08(金) 13:36:16] 削除依頼




 サツキは月光花の咲く湖で、柔らかな陽に照らされ横たわっていた。辺りには破れた写真が散乱し、趣味の悪いキーホルダーの蝙蝠が見つめている。今まで辛かったよね。だいすきだよ。サツキの手には、薬のはいった瓶。わたしはすぐにその一部始終を察して、サツキの目を閉ざした。甘い甘い結末なんて、望んでないよ。望んでないけれど、ねえどうしてわたしの大切なものは、いつもこうやってかなしくいなくなってしまうんだろう。愛してる、愛してたよサツキ。横たわった彼の頬に、キスを降らす。さよなら、だいすきだよ。

「メイ? なにを、してるの。」

 背後からかかった声に、わたしは思わず固唾をのんだ。わたしが、わたしが疑われるかもしれない。サツキを殺したって、サツキの姉がその自身の弟を殺したって、疑われるかもしれない。わたしはおもわずサツキの手にあった薬の瓶を湖に捨てた。ぽちゃんと小さな音だけして、奥の奥に沈んでいった。

「ママ、サツキが死んだの。」

 予想以上に冷たい声がでて、戸惑う。わたしは泣いていなかったし、ママもふっと息を吐いて、そう、とだけ言った。おかしな子だった、サツキは。手首にはたくさんの傷があったし、屋上から飛び降りかけたこともあった。自/殺は寿命だよ。わたしはしってる。自/殺は、その人自身の寿命だ。そのことをママもしってる。だから咎めないで、色素の薄い髪の毛をそっと撫でた。

「透子ちゃんのところへ行っちゃったんだよ、サツキ。透子ちゃんのこと、好きだったから。」

 わたしの大切なものは、自/殺する。非日常すぎるさよならは、通り過ぎるともう日常になってしまう。どうして、どうしてわたしの大切なものだけ。

「やっぱり、メイは呪われてるね。」

 ママが言った。わたしは、泣いていた。しんでしまえばいいのは、わたしだ。


( すきになった人が自/殺してしまう呪い )


/ つめたくなったきみ

 似たものばっかしになったゆから、あたらしいジャンルにれっつとらいしてみたけどよくわからない。難しいなあ

80 叶奏  [id : h3EVzDw/] [2016-04-08(金) 14:00:24] 削除依頼




 「さよならを綺麗にいうために、わたしは学校に行く。灰色の呼吸が、すうすうと音をたてて繰り返されていく。タクシーの乗り方もしらないようなわたしが、ひとりでいきていけるわけがないでしょう。夕立として、この雨をきれいなものに変えてしまうけれど、空から降る水滴なんて気味悪いね。なみだがひとりであるくわけなんかありません。比喩です。なんて、そんなこと言ってみるのに、ちっとも空白は埋まらない。あーもう、だれかさん、ねえ、わたしを誘拐してよ。」


 「消/えろ、死/ね。僕のみえないところで、そんなかなしい物語はくりかえされていればいい。見えないところで、見えないところで。そんな人間らしいところ、とても嫌いで吐きそうだよ。僕は人間で、どうしようもないくらい人間で、やっぱり吐きそう。めざましじゃんけんには勝てません今日も。そんなことどうでもいいけれど、三回目の目覚ましで目覚めて、それでまた二度寝して、朝ごはんを食べ損ねました。雨、しんでくれ。水を吸った制服はとても気持ち悪い。」


 「そこにいるだけでいい、愛してるよ。そんなふうなセリフを浴びせてくれる王子様も今日を待ちます。蠅がぷんぷんと羽をならして飛んでいて、しねと思う。かわいくなりたいって言えば言うほどかわいくなれる魔法。足が細い女の子は、その細い足を露出して、もっともっと細くなる。その反対は、ずっとその反対。スカート丈の黄金比率、守らへんとあかんよ。守らへんと、かわいくならへんと、死ぬよ。へへへ、わたしからのアドバイスでしたっ」


 「ねむいねむいねむいねむいねむい、の繰り返しで眠りにつける時間がくる。けれどそのときにはもう眠くないから、結局ねむいじかんまで起きて、またねむいねむいの繰り返しでしんでしまいそう。むしろしにたい。恋に恋した女が、きょうも教室の中心部で愛愛愛愛と叫んでいて、おさるさんかよ、と思う。しんでくれ、ねむいんだ。」


 「わたしたちは、ずっとしにたいまま、しねないまま、今日も制服を着る。」


/ くりかえされる、くりかえされる、朝。


 四人のちゅーがくせーのはなし。というかこころのこえ。

81 叶奏  [id : IxMGHWw0] [2016-04-11(月) 14:53:58] 削除依頼




 幸福は、いつまでたっても来ませんねわたしには。ただそんなことはもしかしたら、生まれた時から気づいていたのかもしれません。あしたがくることが幸福なことなのか、不幸なことなのか、そんなことすらまだわからないわたしです。
 お元気にしていますか。きみのすべてをわたしは今、満足に思い出すことができません。それくらい時間が経ってしまったのですね。朝起きて、学校へ行くだけの毎日が、こんなにも一瞬ですぎさってしまうとは予想していませんでしてから、こうしてきみに手紙を書くのも、すこしばかり遅れてしまいました。
 春ですね、と挨拶をする予定でしたのに、こちらはもう夏のような空気をまとって風が吹いています。空が青いのはわたしのところだけでしょうか。
 しんでしまったり、うまれてしまったり、そんなことがわたしときみが一緒にいないときにも行われていると考えると、すこしだけ寂しくなってしまうのはなぜでしょうか。時間が、とまればいいのに。おかしいでしょうか。一緒にいられる時間でないのに、それがとまればいいだなんて、おかしいでしょうか。それでも、きみとわたしいがいの人が幸せになることが、とてもつもなく苦しくて、それでいて虚しいのです。
 しんでしまえばいいのかもしれません。それか、一緒にしにませんか。なんて、きみはそれを冗談と受け取ってくれると信じていますが、もし、もしも生きている理由がこころのそこからないのだとしたら、小さな水槽でしんでしまおうね。
 あしたはきっといい日ですよ。あさってもいい日ですよ。みらいのことはいくらでも優しく言えます。忘れてしまおうね、どのみち変えられない過去なら、やさしい未来のことを空想して、それからそっと眠ろうね。あした、目が覚めませんようにって願って、願って、願って、それでもゆめはさめるけれど、必ずいつかまた会いましょう。言葉を知らないだけかもしれないけれど、わたしはきみが好きです。きっと、きみのことがだれよりもすきで、だれよりもきみのことがすきです。おはよう、今日はきっと良い日ですよ。


/ おはよう、今日は良い日ですよ。

82 叶奏  [id : IxMGHWw0] [2016-04-11(月) 15:14:04] 削除依頼


作品紹介

>63 バレンタイン
びゃくちゃんからお題もらって、ばばばばっと書いたやつです。バレンタインは友チョコしかしてないけど、いつかせんせーにチョコ渡したいな、なんて。

>63 なみだのひとりあるき
綺麗な女の子ときれいな男の子のお別れのはなしがすきです。さよならって綺麗です。なまってる女の子ってかわいい。

>63 チョコレートが溶ける前に、もう一度
>63の続きです。告白現場っていいなあ。みたい。覗きたい。

>63 はるやすみがくる
はるやすみもう行っちゃったよ…!! 春って狂気じみてるなあっていうつぶやきです。詩みたいなやつ。こういうの書いてるのたのしい

>63 無秩序なかなしみ、いなくなってよ
これ好きなんです、お気に入りです。想くんっていう響きも字面もすきです。こういうお話すきだなあ

>63 はるにおもう
先生と生徒ですね、さいこうです。敬語萌え。学校独特の雰囲気がやっぱり大好きです。いやなところだけど、学校ってきれいだよね。

>63 
題名もくそもありません。ただ吸血シーンが書きたくて書きたくてしかたなかったから書いたんです。吸血するまえの吐息がすきです。えろい。

>63 雨が降る前に、さよなら
これもまた卒業のはなしです。クラスでひとりぼっちな女の子も、いざ卒業となるといろいろ思い出しちゃうんです。そういうもんなんです。

>63 きらいなひと
きらいなひとって、本当にきらい。きらいだからきらいだし、もうきらいってだけできらい。何言ってんだ。きらいなひとのひとりやふたりくらい、いたほうが楽しいですよけど。

>63 回転する教室
教室めっちゃ回転するやん…!!!! RTでまわってくる画像ってあれけっこうおもしろいですよね。未羽ちゃんみたいな女の子、いるよなあ。

>63 てがみ
てがみです。てがみをだれかにかきたい。文/通したい。綺麗なてがみ、よみたいなあ。

>63 つめたくなったきみ
診断メーカーでみつけたお題で、書いてみて文章力の無さにへこたれました。こういうお話を書き上げられる人になりたい。

>63 くりかえされる、くりかえされる、朝
心情だけをかきたくなるときがあります。しんじゃえ、おまえなんか。っていう中学生。しぬってすごい素敵な言葉だとおもってます。

>63 おはよう、今日は良い日ですよ。
太宰治がすきです。あしたはいい日だといいなあ。なんて、良い日なんかくるわけねえよばかやろう。

83 叶奏  [id : 8iyKiMC0] [2016-04-19(火) 16:51:38] 削除依頼




 しにたい、と思うことはいきたいと思うことと直面していて、かなしい言葉だねえと思う。わらうと泣くもずっとどこかでつながっていて、さみしいねえと思う。
 金魚がはねた。去年、夏祭りで取ってきた金魚。はなこちゃんとか、よしこちゃんとか、名前をつけていたのに、いつのまにか大きくなって誰が誰がちっとも見分けがつかなくなった。さみしいねえと思う。はなこちゃんも、よしこちゃんも、こうして知らないあいだに忘れられていくんだ。さみしいねえ、とても。
 指先でつまんで、餌をぱらぱらと落とす。水面にちいさく波紋が広がって、消えた。はなこちゃんとよしこちゃんは、口を大きくぱくぱくとさせて、それでも水ばかりを呑み込んで滑稽だった。そんなに餌たべたいの? とてもとても滑稽で、かなしいねえと思った。

「るうちゃん、買い物行こうか」

 背後から声が聞こえた。ききなれた声だった。あおいくん、わたしはぼそりと応える。あおいくんは、いつだってさみしいと真反対にいる。あかるくて、やさしくて、すこしだけ、怖い。わたしと正反対にいる。ブラジルみたいな、あおいくんだと思う。そんなあおいくんが、どうしてわたしと一緒にいてくれるんだろうと真剣に考えたこともある。考えて考えても、やっぱりわたしはあおいくんじゃないからわからなくて、けっきょく彼自身にきいたら、好きだからと言われて、とてもとても恥ずかしくて、うれしかった。
 あおいくんは座り込んでいるわたしに手をさしだして、にこりと笑った。わたしはもう、さみしいねえなんて言わない。あおいくんの前では、言わない。はなこちゃんとよしこちゃんみたいに、わたしはならない。あおいくんがいて、いつでもあおいくんが、わたしのことをるうちゃんと呼んでくれて、覚えていてくれる。

「今日は暑いから、お家にいよう。あおいくんと、みたい映画があるの」

 手をとって、ぐいんと立ち上がる。その勢いで言った。あおいくんは少しだけ残念そうな顔をしたあと、そうだねと笑った。あおいくんと、さみしい映画を見たいの。そして、るうちゃんって呼んで欲しいの。わたしは声に出さずに、言った。


/ やさしさとさみしさの、話

七年前に夏祭りで取った金魚は普通にフナサイズ。金魚鉢でひらひらと泳いでいた赤いあなたたちはどこにいったの?????

84 叶奏  [id : qDfLd4m0] [2016-04-22(金) 22:10:55] 削除依頼




 私が三年前から通っているのは、ごく普通の公立中学で、本当にごく普通のブレザーをきて、ごく普通に授業を受けていた。田舎ではなくて、都会でもなくて、よく言えば両立がとれた環境のいい場所で、悪く言えばなにもかもが中途半端な場所だ。

「さや、さっきの英語んとき青木になんか言われとったん、あれなに?」

 背後からはなしかけられて、わたしは後ろを向く。ストーレートパーマを当てたばかりだからパーマ液のにおいが気になる。振り向いた先に視線をやると、文乃が立っていた。おしとやかな名前に、決して見合っているとはいえない短いスカートからプラスチックみたいな細くて長い足が覗く。こういうのを、かわいいって言うんだろうなあとぼんやりと思った。

「なんか、進路のやつ。青木いみわからんねん。もう一個レベルあげろーとか。そんなん面談の時に言えばいいと思えへん?」

 わたしは文乃となりに並んで、覗き込むように言う。
 青木、はわたしと文乃の担任で、英語教師だ。もう30近い年齢のはずだけど、寝癖とくせっ毛が妙にお洒落にみえて、童顔で、5つほど若く見える。間延びした喋り方がなんとなく心地よくて、とてもとても眠くなる。英語の授業点がわるいのは、だいたい青木のせい。ちがうけど。

「え? さや高校どこいくん」
「んー、たぶん西高。けど青木が中央行けっていうねんけど」

 文乃がえ、西いくん、とぼそりと言った。西。
 たぶん文乃は西にはいけない。内申、点数、たぶんぜんぶがたりない。しかたねえよなあと思う。スカート丈五センチのツケが、こういうところにまでねちねちと侵略していく。定期テストの積み上げが足りなくて、わたしと文乃の関係は終わってしまう。文乃はきっと北とか、私立とかで、そういうスカートのもっともっと短い子とLINE交換して、私のことは自然に、すうっと忘れていくんだと思う。

「さやはさ、真面目だもんね。青木に信頼されてるんだよ。だって中央って偏差値やばくね? 北の倍くらいあるし。そんなのよっぽど頭いいって認めた子にしか言わへんって」

 文乃がふっと、鼻をならしながら言う。真面目、なんていう表現がなぜが無性にムカついて、ふざけんなって言いたくなる。わたしと文乃は、住んでる世界がずっと昔から違うんだ。目指してるものが、ひとつも合わない。だから、お互いまあまあどうでもよくて、まあまあ大切で、一年も会わなければすぐに忘れてしまう。

「文乃さ、西行かない? 一緒に」


 どうしてわたしが、そう言ったのか思い出せない。その場のノリだったのかもしれないし、今はちょっと思い出せない複雑な気持ちだったのかもしれない。雲の上にあるような、もしかしたらないようなものを掴むような気分になれるのが十代の特権だとおもうし、それを大人になった時に、青春だったよって言ってしまうくらい、どうしようもなく、どうでもいい。

 文乃は西にも北にも落ちて、私立へ行った。わたしが誘った西、青木にぜったいうからないって言われていたのに、それでも受けて、やっぱり受からなかった。大丈夫、といわれていたはずの北にも落ちて、わたしはそこから文乃と連絡を取らなくなった。ツイッターもお互いリムって、ラインもお互い何も言わないまま、たぶん、ブロックされてる。
 どうして文乃が西を受けたのかわからないけど、全然わからないけど、すこしだけ、すこしだけ理解できる気がする。文乃の気持ちが理解できる気がする。
 そんなどうでもいいことを思い出しながら、ノートにペンを走らせた。


/ どうでもいいくらい、どうでもいい

文章力書けば書くほど落ちていってるの気のせいだよね????

85 かえで  [id : YQB2cRm0] [2016-04-24(日) 19:07:40] 削除依頼



お久しぶりです。かなたさん。
84 を拝見させていただきまして、ふわ、と涙が浮かんだのは内緒です。

かなたさんのことばには軽やかな重みがあって大好きです。
現実に存在する空気の粒に色をつけてあつめたようなかんじがします。そんな物語をつづるかなたさんも、かなたさんのことばも好きです。
なんだか好き好きばかりだと軽くきこえてしまいますね、すみません(;
ツイッターのこともラインのことも、リアルにあるからリアルに触れているから、そこに感情が混ざると一気に熱を帯びるんでしょうか。


長くなりました、ごめんなさい(;´Д`A
失礼します。

86 叶奏  [id : kZ3Mp/i0] [2016-04-25(月) 14:28:44] 削除依頼


>85 

おひさしぶりですかえでさん。
わわ、かえでさんの心の中に少しでも入り込めたことが、とても嬉しいです。

うれしいです、!
こういう風に濁り隠さず好きだといわれることがあまりないので、照れます。(笑)
わたしも、かえでさんのことばが大好きです。少し不思議な比喩のしかたとか、題材とか、登場人物のキャラクター性とか、ぜんぶぜんぶすごく好きです。

コメントすごく励みになります
暇なときにでもまた覗いてやってください(*´∀`*)
ありがとうございました!

87 叶奏  [id : dKqF91d1] [2016-04-28(木) 22:42:33] 削除依頼




「朝昼晩ってご飯食べたら、人間嫌でも幸せになっちゃうんだよ。」

 人生が銀の器みたいにどこからみても綺麗なわけないけど、幸せになるんだよ。みんな。光の反射で、睦月ちゃんの顔が見えなくなって、わたしは思わず目を伏せた。きれいだった。睦月ちゃんは、ちゃんと幸せを信じていて、見ていられなかった。
 空気が睦月ちゃんの言葉だけでもうきつきつになって、呼吸ができない。どうして、そんなこと言えるの。なにもしらないくせに、なにもつらくないくせに、なにがわかるの。幸せなんて、どこにもないよ。
 喉元まででかかった言葉は睦月ちゃんの瞳に吸い込まれてしまった。あんなに堂々と幸せを語れるのは、どうしてだろう。どうして、そんなにやさしいことが優しく言えてしまうんだろう。わたしには一生、しんでも、できないんじゃないか。
 そう考えるともういてもたってもいられなくなった。なにもしらない睦月ちゃんが、わたしより、大人になっても幸せのままなんて、許せないと思った。


/ 幸せ

88 叶奏  [id : zxVNpfe1] [2016-05-02(月) 08:22:20] 削除依頼




「嫌よ、まだ」

 闇に沈んだあたりに、一点だけ光るものが見える。それは彼女のピアスで、片耳だけについた銀色のそれは、真面目な彼女の素行からはあまりにも不釣り合いなものだった。重たいショートボブの影が落ちる。前髪あたりの影が彼女の目を隠す。暗闇だった。それでもその真白な肌は相変わらず存在を放っていて、指先をちいさく動かしているその動作は、やけに生々しく思えた。
 春の風が消えていく。アスファルトから立ち上がって、どこから来たのかわからない風に生ぬるい空気が吹かれ、動き出す。時々家々の窓をかたかたと揺らす音が聞こえるだけで、あたりは静かで、静か、だった。彼女は何も言わない。わたしは何も言えない。時間だけが異様にゆっくりと進んでいくように思えた。彼女が銀色のピアスをゆっくりと撫でる。月の光が反射する。
「ねえ」
 唇が微かに開く。そこから漏れる声はす、と風に馴染んで本当に聞こえたのかわからなくなる。彼女の声を思い出せない。

「わたし、死ぬの」

 唇の端がわずかに角度をつけた。銀色のピアスをまた静かに撫で付けて、ひゅうひゅうと風の吹く音に彼女の言葉は消えていなくなった。二度と戻らない春が、もうじきいなくなる。わたしはゆっくりと口角をあげる。さいごの、最後の言葉。きみはいなくなる。エイプリル。エイプリル。

「さようなら、春」


/ さよならエイプリル

わ〜〜〜春が終わっちゃうわ〜〜〜

89 叶奏  [id : od7W1D10] [2016-05-04(水) 22:36:51] 削除依頼




 夜になると、とてもとても明るい音楽をきいていないと怖くなってしまう。おとなりさんのリビングから、話し声が消えて街灯だけがあるのに、それでも街灯はわたしの同じ人ではないから、それさえもとてもこわいと思う。冷蔵庫から出る、昼間はまったく聞こえないジィという音がやけに耳に付くし、スプーンでかち、と鳴らした音はどこまでも反響して、それからまたわたしを追うようにどこまでついてくるような気がする。
「朝はうそつきだからね」
 きみが囁くように言った。わたしは布団を耳までかぶりながらその声に耳を澄ませていた。絵本を読み聞かせてあげたくなる。ゆっくり、またわたしも囁くように、散文詩のような絵本をきみの耳元で読んであげたい。きみの小さなピアスをわたしはなで上げる。耳を、そっと。わたしのものよ、とそっと。きみの耳はいつまでたってもきみの耳だから。夜に捨てられた犬だとしても、孤独に凍りついてしまうクジラだとしても、きみは、きみだから。大丈夫。冷蔵庫のジイという音は、きこえているはずなのに、もうきこえなくなっていた。夜のはずなのに。

「そう。それは、とても」
「とても」
「きれいな嘘で」

 わたしはその嘘、という単語をなによりも大事に赤子を抱きかかえるようにして言った。口の中いっぱいに、その言葉が浸透していくように言う。そうすれば空気いっぱいに言葉が浸透してしまうし、なによりきみの耳に、わたし以外の声がすうっと取り込まれていくのは許せない思った。きみの首筋につく赤い痕が、たとえわたしときみとのものではないとしても、それでも耳だけは、聴覚だけは、わたし以外のだれかに向けられているのを想像すると嫉妬に狂ってきみまでを殺してしまいそうになる。それくらい、わたしときみには言葉が必要だった。ことばしか、いらなかった。

「きみみたいな嘘だ」
「好きよ」
「どのくらい」
「夜の大きさ、くらいに」

 ああ、と思う。それはとても、とてもきれいな嘘だった。夜がはじまる。冷蔵庫のジイ、というおとがわたしの耳にまとわりつく。本当の夜が来る。夜明けまで、飛んでゆきたい。


/ 朝と夜の間

90 叶奏  [id : ZmXUOQA/] [2016-05-07(土) 12:36:25] 削除依頼

 

せんせ、とわたしは呼んだ。放課後の学校はとても珈琲のにおいがして先生のスーツからもその匂いがした。ん、と首をひねってわたしに視線をやった。細い淵の眼鏡から覗く瞳はどこまでも黒くて、覗き込めば吸い込まれる気がした。わたしはなにを言おうとしたわけでもないのに、呼んでしまったことに気がついて、あわてて目をそらす。用がないのに呼んでしまうのはわたしの悪い癖なのかもしれない。
せんせ、と発音するときの空気感がとても好きだ。だけどそれは先生と、いをつけてしまえばなくなってしまう空気。言うか言わないかきりきりのところで止めて、彼の表情をじィっとみるのがとてもすきだ。

「おれに甘えたくなったでしょ、いま」

 彼はきょろりと周りを見渡して、わたしの手をとって、人の目がめったに入らない第三多目的室に入った。奥の机にわたしを腰掛けさせて、シ、とわたしの唇に人差し指をあてた。がらりと音がして戸がしまり、それから緑色のカーテンをひいた。ちょうど太陽の光がそのカーテンでかくれて、電気をつけていない教室は途端に暗くなった。

「悪い教師」

 わたしは暗い教室の中で、薄く笑った。彼がわるい教師なら、わたしはもっと悪い生徒だ。彼はわたしの言葉に、困ったような表情をして、そうだねと口角をすこし上げた。
 わたしの隣の机に腰掛けた彼にまたがるようにして、唇を寄せた。触れるようにしたあと、そっと体を引こうとする。すると、彼がわたしの背中に手を回してくっと寄せた。わたしは予期せぬして近くなった距離に戸惑い、視線を彼の目から外す。それなのに覗き込むようにしたあと、また触れるようなキスだけをした。止まらないね、と笑う。学校ではまずいのにね、と彼も笑った。舌を絡め取るように押し付ければ、微かに珈琲の味がした。珈琲の飲めないわたしにとってはその味はひどく苦く感じた。思わずその舌を引き抜こうとするが、背中に回された腕がぎゅっとまた強くなり、動けなくなる。

「すっげェいいよ。いまの表情、そそるね」

 彼はすごく大人の、わるい顔をした。わたしもすっと遠くなった距離に、子どもだけの、わるい顔をした。じゃあねと彼はわたしの指筋にキスだけして教室を出た。珈琲の味だけが残って、とても大人で、ずるい。


/ こどものはなし


こんなはずじゃなかった(恥ずかしい)

91 叶奏  [id : KGbT0jn/] [2016-05-10(火) 23:09:19] 削除依頼




「天国にいくときってさ、落ちるの? 上るの?」

 きみはとても視力が悪いから、わたしの顔をみつめるときにぎゅっと顔をしかめる。焦点を合わせているのだときみは言うけれどわたしは睨まれているようにしか感じないし、眼鏡をかければいいのにと声を出さずに思う。そうだね、きみにはきっと細い銀縁の眼鏡が似合うと思うよ。いや、もしかしたら深緑の太い縁の眼鏡も似合うのかもしれない。

「のぼるんじゃない。だって天国だし」

 わたしはきみの目なんか見つめずに窓の外を見つめた。雨が、降っていた。すぐそばにある森から森独特のごうごうという音がしている。雨というのはなんて曖昧な表現なんだろう。たとえば頭上から水が降ってくれば、それは雨になるの。たとえば、空の上から熱中症対策で霧が降ってくる日だってそう遠くはないかもしれないのに、それをわたしたちは雨だと言うの。それはあまりにも、雨に失礼じゃないの、と思う。
 雨は降っている。とても。

「ねえ、雨降ってる」
「うん」
「天国から落ちてきたんだよこの雨」
「へえ」

 ねえきみ。きみは、落ちる天国にいきたいの。それとも、のぼる天国にいきたいの。わたしは訊けない。とてもとても寂しい質問だと思った。そんな寂しい呪い、きみにかけてはいけないと思った。一緒にいれたらいいのにねェ。そうだなァ。きみは言う。わたしも言う。「最後にさ、ちょっといい」「いいよ」「あ、やっぱ」「ん」「なんもない」「へえ」「ごめん」「いいよ、どうせ」「どうせ」「もう最後だし」「うん」
 昇降口から、雨がやってくる。わたしは、どちらの天国にいくのか選ばなければいけない。選ばなければ、いけない。
 雨は、天国からやってくるのだし。


/ 雨のとき

92 叶奏  [id : LK5WhMI.] [2016-05-15(日) 14:48:28] 削除依頼




 真琴くん。


 三枝がおれの名前を呼ぶとき、彼女はものすごく、これでもかと言うほどにゆっくりと甚振るようにして呼ぶ。彼女は知ってる。おれが、おれの名前が大嫌いだということを、彼女は知っているからこんなにも楽しそうにおれの名前を呼ぶのだ。すごく、綺麗に。
 制服のスカートの裾が揺れている。霞んで見えた空の奥に、彼女の声が溶け込んでいく気がする。短いソックスと膝丈のスカートの間の足は、病的に白く細い。大丈夫なのと問いたくなるほどに脆く見えるにも関わらず、どうしても視線がそこにいってしまう。とても綺麗だった。ゆるゆると渦巻くカーテンに彼女は身を隠すようにくるまった。さっきまでの表情とは別人のように無邪気に笑う。まことくん、まことくん。スーガク教えてよ。彼女はさらさらと笑う。風みたいに、風の中に。カーテンから顔をのぞかせたり、埋まったり、窓から体を乗り出すようにしたり、おれの顔を覗き込むようにしたり。

「卯月って、呼べよ」
「やだよ。まことくん、八月うまれなのに、変じゃん」

 三枝はそう言いながら、おれの横にあった机に腰を下ろした。深緑のネクタイをすくって遊ぶようにする。ネクタイって、なんかずるいよね。なにが。首元がきゅっとしめられてる感じして、そそるの。へえ。三枝はもう一度、おれの目をみた。「真琴くん。ネクタイ、似合ってないよ」彼女はとてもずるい。

/ 名前を呼ぶとき


すばるさんとあすかさんからお題と名前もらいました。ありがとうう

93 叶奏  [id : pca7LXo1] [2016-05-23(月) 17:36:25] 削除依頼




「きみのゆめをみた。」

 夕暮れ。オレンジ色と白と赤の中間みたいな色をしている。薄っぺらい靴の裏から砂利の感触が伝わってきてとても歩きにくい。所詮1000円。紺色のスニーカーはもう砂埃やなにかでほとんど白に曇っている。
 わたしはそんなひとりきりの夕暮れの丘で、携帯電話を片手に通話をしている。時々ぷつぷつと途切れるLINEと違ってめったに使わない電話番号が必要な通話は、やっぱりしっかりと相手の声がききとれる。ゆらゆらとわたしは小刻みに体をゆらして、とんとんとでたらめなステップを踏んだ。

「そう。どんな夢。」

 オレンジ色がだんだんと沈んでいく。あたりはもう薄暗くなっていた。もう世界がおわる準備はできている。そんな風にわたしは考えてひとりきりで声を出さずに笑った。終末みたいな夕日が毎日上り下りしているんだから、もう世界なんかとっくのむかしに終わっているのかもしれないね。ただ、わたしたちが亡骸に住み着いているだけなのかもしれない。
 足を砂利に突っ込んで、じゃこりと小石を蹴っ飛ばした。そういうことするから汚れるんだよな。返ってこない返事が気に食わなくて、わたしはもう一度小石を蹴っ飛ばす。丘をすべって見えなくなった。成功。

「いなくなる夢。」
「わたしが。」
「きみが、いなくなる夢。」

 ああもうあなたは。足元にあった小石をもう一度けった。今度は道筋がそれて、また砂利にまぎれてみえなくなった。失敗だから、もう、蹴らない。

「わたしがいなくなると思ってるの。」
「思ってないよ。」
「なら、いいじゃん。」
「うん。じゃあね。」
「うん。」

 夕日がいなくなって、通話終了ボタンを押した。ばか、ばかばか。通話の終了した電話にわたしは叫んだ。ばか。ばか。ばか。もう世界がおわる準備はできている。
 わたしのなかの世界。


/ 終末

メルさんとsasakureさんにはまってしまってどうしようもありません。

94 叶奏  [id : k9yP3Y0/] [2016-05-28(土) 23:47:57] 削除依頼




「本の台詞みたいな会話してみたくないですか」

 放課後、太陽がいたりいなくなったりするくらいの時間。グランドを使う部活生が片づけながらも声を張り上げている時間。黒板の光が反射して白く見える時間。赤と黄色と白の中間くらいの時間。教室。数学のプリント。帰りたいねえ、帰りたい帰りたい。と時計をチラチラとわざとらしく見るわたしを横目に、先生は信じられないくらい涼しい顔をして、問題を解けとボールペンをカチカチとする。そんな時間。

「たとえば?」

 たとえば。先生がわたしの方をみて話をきいてくれる。珍しいことだ。いつもは何をいっても中身空っぽの返事しかしてくれないのに。

「抽象的な、感じ」

 わたしは自分で言い始めたのに、良い答えがみつからくて言ったとたんに恥ずかしくなって視線を泳がせた。時計に目をやって、また帰りたいなあと声に出さず言う。すると先生がわたしの顔を覗き込んで、声に出さずに問題を解けという。ボールペンをかちかちさせて。
 カーテンがゆらゆらゆれて、赤とも白とも言えない色が教室を通過していく。黒板あたりにたまったオレンジ。椅子に座ったまま、窓の方を見る。夏と春の中間の夕方は、そういえば去年もこんな色だった気がする。覚えてないけど。そんな気がする。

「へえ。宮瀬サン、そういうの好きそうだもんね」

 先生は手に持っていたボールペンを音を立てずに机に置いて、わたしの数学のプリントを取り上げた。難しい顔をしてプリントに目を通した後、すこし笑った。わたしは机に指を立てて、とんとんを音を鳴らす。帰りたいですねえ。と声に出していう。先生が置いたボールペンを手に取って、カチカチとさせる。帰りたいですねえ。

「あ、じゃあ、さ」

 先生は思い立ったようにして、プリントを教卓に置いた後、ゆっくりとわたしの机に近づく。わたしはボールペンでカチカチとさせたまま、窓をみつめる。カーテンがゆれて、またオレンジがたまっていく。黒板は緑色のままなのに、もうあたりはオレンジに染まる。

「月が綺麗ですね、とか」

 わたしはゆっくりとボールペンを音を立てずに置く。

「月、まだぜんっぜん出てませんけどね。それにベタすぎます」
 このオレンジをぎゅっと凝縮したら、月になるかもしれませんけどね。それはそれで、ロマンチックですねえ。


/ 夕方の月

95 叶奏  [id : B/JJ5Yj/] [2016-06-08(水) 20:53:07] 削除依頼




 HBでかかれた数式が汗で霞んでいく。

「お前スーガクだけ出来やんの、面白い」
 水瀬くんはスーガクだけしか出来やんくせに、ばか。

 わたしは窓際の席、一番の特等席に座って、机ふたつ分の間を開けて彼が席に座っていた。風が左隣の窓から入って、対角線上にある窓から抜けていく。風はすこしだけ夏の匂いがする。風も時々聴こえる鳥の鳴き声も、グランドの部活生の声も、少しずつだんだん夏に傾いていく。身震いするほどゆるやかに、それでも確かにゆがんでいく。知らない間に、だれも気付かない間に、傾いて揺れる。

 水瀬くんはがたりと音を立てて席を立つと、わたしの数式をみてへえっと笑った。わたしのシャーペンをひゅっと取り上げてこつんとわたしの額をたたいた。いてっと声をあげるとまた彼は笑った。水瀬くんの藍色のネクタイが少しだけ揺れて、わたしはうつむきながら小さく笑った。わたしのリボンも、少しだけ揺れた。笑い声が混じってそのうち窓から逃げた。

「シャー芯、HB使ってるん」
「うん」
「Bのほうがいいと思うんやけど」
「なんで」
「なんとなく」

 水瀬くんはわたしの書いた数式の横に、小さくまた数字を書き足していく。こうやってやるんだよばか。余計な一言を付け足して、また机二つ分あけて、わたしの同じ列の席についた。
 彼の横顔をみているのがすきだ。この時間がすきだ。わたしが英語教えたるんやん、数学教えてよ。冗談が半分以上の会話だったのにいつのまにか本当になっていた。

「水瀬くん!」
「なに、大声ださんでいいやん、ここおる」
「あしたもちゃんと教えて」
「うん」
「明後日も」
「うん」
「明々後日も、そのまた次も、その次のまた次も」
「うん」

 大丈夫、大丈夫。ずっと続くよ、大丈夫。自分に言い聞かせる。答えの出た問題なんて、わたしには必要ない。ワークをぱたりと閉じた。その振動でHBのシャーペンが机から転がって、落ちた。わたしの藍色のリボンが、夏みたいに、揺れる。


/ HBで書かれた文字に

96 なごみ  [id : sHS4HIj0] [2016-06-12(日) 12:31:22] 削除依頼

はじめまして
こんな素敵なお話が書けるんですね(((o(*゚▽゚*)o)))
すごいです。
カナちゃんと結子ちゃんのお話と、「さよならエイプリル」、「花束とアリス」が特に好きです。
更新楽しみにしています。

97 叶奏  [id : buGqr6.0] [2016-06-13(月) 17:39:20] 削除依頼



>96 なごみさん

はじめまして。
わわ、ずいぶんと前に投稿した作品まで、読んでいただいて! とっても嬉しいです(:_;)
ありがとうございます、また暇なときにでも覗きにきてやってください!!

98 叶奏  [id : cA4nzr0.] [2016-06-30(木) 21:37:51] 削除依頼




「エテのうそつき。」
「春はしんじゃったのに。」
「エテが春をころしたんだ。」
「エテのうそつき。」


 透明な色が本当に透明かどうかなんて知らない。それでもここに広がる空はどうしようもなく青色で、見上げると吸い上げられてしまいそうだった。思わず足元をみる。春だ、と思う。風がおもう。空がおもう。きみがおもう。匂いがおもう。理由はよくわからないけれど、春だ、と思う。体の中のどこかで春だ、と思う。
 孤独になればやさしくなれる。そんなふうにあの子は言った。バカじゃないのと思うけれど、もしかしたら私もそうなのかもしれない。孤独になれば、やさしくなれる。痛みを分かち合うとか、そんな生ぬるい大人の言葉にはあてはまらない。評論家が自.殺した中学生におくる言葉なんて何の価値もない。何の意味もない、ばからしい。何がわかるの、と思う。なめんなよ。テレビの奥では今日も大人が神妙な顔つきで何かを話していて、ふざけんなと思う。
 わたしは自.殺をしない。まだしない。死んだあとに、スカートの短いクラスメイトに「とても優しい真面目な子でした」なんて言われてしまいたくない。誰かに殺されたいし、その誰かを自分自身で選びたい。陶酔した自分自身の中身を見通してしまうような、冷淡な目つきの子がいいな。しんでしまえ、お前なんか。と言われてナイフを突き立てられたあとに、そっとキスをしてくれるような子がいい。殺す前に、一緒に海にいってくれる子がいい。さよならって泣いてくれる子がいい。わたしの理想論をやさしくきいてくれる子がいい。だから、そんな子が現れる前になんてわたしは死なない。死んでしまわない。

 うそつき、と誰かがいって、その嘘に感染してしまう病気がある。名前は知らない。嘘をつくことで何かを守ることの素晴らしさを知ってしまえばあとはもう刻々とその病気は自身に浸透してしまって、最悪しぬんだろう。最悪かどうかはしらないけれど。やさしい嘘はきらいだ。くるしい嘘も、とても嫌いだ。けれど、さみしい嘘はすきだ。虚しくて寂しくて胸の隙間をそのまま言葉にしたような嘘になら、わたしは騙されたい。騙されてその隙間にキスをしてあげたい。それはやさしさなんかじゃないけれど、わたしにはそのさみしい嘘をつく理由がわかる。わかるんだ。嘘つきでもいいよ。狼少年でもいい。狼はいつもいるよ、と一緒に泣いてあげるね。さみしいきみ。さみしい子。そんなわたしも、きっとさみしい。


「春は死んだ。」
「うそつきはだれだ?」
「うそつきはだれだ?」


それぞれの季節の嘘に、わたしは騙される。


/ 「夏が来る、隠れて。」


夏バテがけっこうしんどい

99 叶奏  [id : Adx6P801] [2016-07-08(金) 20:38:55] 削除依頼




「雨が降ってる」

 まあ梅雨だからね。雨のなかでくしゃくしゃになりながら何かきみとしたいことがあるんだけど。言おうとして口を閉ざして、それからまたキスをする感じ。この感じ。火照った脳みそがさらに沸く。冷静になれない夏は、今日もべたべたに気持ち悪い。
 きみの悪い癖をよくしっている。良い癖よりも、はるかにたくさん。良いところよりも悪いところのほうが人間よく目立って、はあ今日も良い日だからさァと軽やかに。とんとん。制服のブラウスが肌に張り付いてる。すっごく、かわいいの、きみ。白く透いた腕は、雨の中に溶けてしまいそうなくらい形なんてなかった。みえてなかった。だってきみだもの、透明人間みたいなきみだもの。すごく、綺麗。

「たばこ吸っていい?」

 きみの笑顔はどうしてこんなにも脳みそを溶かしていくのだろう。どこかの薬物みたいに、惚けさせる。ぼうっと、こんなにも幸せなことはなにもないんじゃないかと本気で思う。僕は今日もどこにもけないままきみの肌を吸い寄せる。「いいよ」灰色の鈍い空気はひどく体に悪い。きみを汚していく空気を想像すると、興奮する。喉に、肺に、きみを汚していく。とても、そそる。吸っていいよ。

「いつかさ」

 きみが僕の瞳を覗く。声が、どこまで深く。海。そこ。

「きみがわたしを汚してね」

 灰皿に押し付けられた残り火が、すぐに雨の中に消えた。梅雨明けはすぐそこだよ、と笑った。


/ 梅雨

100 叶奏  [id : Adx6P801] [2016-07-08(金) 21:25:36] 削除依頼




とうとう100レス目に達成しましたいえいいえい
普通に投稿してしらっと通りすぎようかなとも
思いましたが、いや〜〜ここまで続くと思ってなかったので
ちょっとうれしくなっちゃってます。
本当にここまで続くとは予想してなかったから達成感がすごい。
容量オーバーまで突っ走りたいところあります。
楽しいからこれからもここに居座ると思います。
末永く仲良くしてください(;_;)/~~~


文章をかくのはたのしいです。すっごく。
口下手だったり絵が壊滅的にへたくそだったりと
文に頼るしか自分の気持ちを発信するものが
なかっただけかもしれないですけど
何か書いたり、読んだりしているときが今のところ一番たのしくって
これからも続けていけたらいいなと思ってます。('ω')


もし、読んでくださってる方がいるのなら
いつもありがとうござます。
これからも、ぜひよろしくお願いします!


 

101 そら  [id : vOu8myk/] [2016-07-09(土) 20:51:23] 削除依頼




100レス、おめでとうございます!
ちょくちょくこそこそ読んでいます(´-`).。oO
これからも頑張ってください、応援してます。

102 ろの  [id : af90Zeg0] [2016-07-17(日) 21:26:45] 削除依頼

ここにコメントするのが初めてだということに驚くぐらい、日常的に覗かせてもらってました(ストーカーと呼んでくれたってかまわない)
詩によく似ているけど絶対に詩じゃない、散文かと言われるとそうでもない、浮遊感のある、けれど胸の締め付けられる余韻がどこかにある、歪んでいて時に狂気的な部分も見せるあなたの話がとってもとっても好きです
終末が特に好きです。すでに日記板でラブレター書かせてもらったな、笑

100レスおめでとう。ずっと応援してます!

103 叶奏  [id : 86l/0641] [2016-07-20(水) 14:51:19] 削除依頼



>101 そらさん

ありがとうございます!!
とっても嬉しいです、
ゆっくりと更新していこうと思います、有難うございます(´-`)!

104 叶奏  [id : 86l/0641] [2016-07-20(水) 14:56:49] 削除依頼




>102 びゃくちゃん

ウアアうれしいよ
意識していることもあれば、そういう風に受け取ってもらってるのかとびっくら。でも全部わたし自身も好きな感じだったり雰囲気な言葉なのでとっても嬉しい。
わたしもびゃくちゃんのお話し大好きです。
(ラブレタースクショしてるうれしかった(;_;)/~~~)

ありがとう!
ちびちび更新していくので気が向いたときにでもみてやってください!

105 叶奏  [id : ZuvBvv3.] [2016-07-22(金) 23:05:31] 削除依頼




 夜の隙間に吸い込まれてしまいそうな光。淡い光。蛍光灯が点滅するトンネルで今日も少しずつ世界がゆがんでいくことに人々は気づかないまま朝を迎える。携帯の光は夜になれば攻撃的なものになる。ツイッターのタイムラインを指でなぞって更新する。握りなおしたコンビニのレジ袋の濁った白がカサカサと音を立てて、人気のない道に響かせる。

「アイス、あんた好きだよね。すぐお腹壊すくせに」

 みどりが立ち止まって、わたしに言った。骨ばった手がわたしの方に差し出されていて、レジ袋を手渡した。そういうところ、いちいちすごいと思う。わたしには真似できない。みどりはわたしのことをいつも見ていてくれる。見ていないふりをしながら、見ていてくれる。

「俺こういうストロベリーバニラとかむり。美味しいの?」

 口元を少しだけ緩めて、目が細くなる。穏やかな表情が猫みたいに見えて、首輪をしておきたくなる。どうか逃げないで、と泣いてしまいながら。

「美味しいよ。あんたは知らないだろうけど」

 そういったとたん、足元からぐわりぐわりと寂しさがこみあげて、体中を巡っていく。夜のトンネルの光は十分に寂しさの条件を満たしていることを思い出した。わたしはいつだって一人だと、こんなにも思い知らされる瞬間。どうしたってこの孤独からは解放されないのだと。許されないのだと。ひとりきりの夜、部屋に入った瞬間の孤独と同じ感じに、呼吸が浅くなっていく。寂しさはいつだって孤独で、わたしはそれを制御できないままの人間だったから。

「俺にだってわかるよ。あんた美味しそうに食べるから。それ、見てるから」

 だから、帰ろう。またあの表情を浮かべて、今度は頭に手までのっけて。わたしは頷いてとぼとぼと歩く。
 すべて消し去ってしまいたくなるような感情と、すべて留まらせていたくなるような感情が交差して、これからも進んでいけてたらいいねって、そんな風にツイッターでつぶやく。もちろん、すぐに消すけれど。


/ トンネルをぬけて

106 叶奏  [id : 6SvrO6h0] [2016-08-03(水) 15:43:41] 削除依頼




 コンクリートの世界が崩壊するゆめをみた。どこまでも一緒だよって笑えるのは、わたしたちまだどこにも行けない二人だからだよ。わたしはそれを口にせず、甘い炭酸水と一緒に体の底に落とした。炭酸の刺激がのどに残ったままだ。ちりちりと柔らかい痛みが、気持ち良いほどこの部屋は優しかった。優しいフリをした、空気ばかりがあつまった。

「ねえミミ」
 わたしは猫じゃないんだよ。あなたの所有物じゃないんだよ。そんな風に、そんな優しい目をして呼ばないで。

「あの時どうすればよかったとか、どう言えばよかったとか、そういうの全部無駄だと思わない?」

 彼の口調はどこか遠くのわたしの知らない人に語り掛けているようなそんな気がした。それでも視線はばっちりとわたしの瞳の中を覗いていて、視神経を伝って彼が、彼の存在をわたしは認識してゆく。
 そんな風に、すべてを無駄だと言ってしまう彼が、時々とても可哀想に思ってしまう瞬間がある。きみはどこにいきたいの。どこに、なにになりたいの。ねえもう無理だよ。きみには無/理だよ。きみはなにも変わらない、変われない。後悔を、努力を無駄だといえるきみに、今のきみにどこにも飛んでいける空なんてないよ。ねえ、もう諦めよう。

 炭酸の刺激に心揺らされて、冷房の乾いた空気がのどにまた別の刺激を与えていく。

「そう、だね」
 わたしが猫だったら、あなたはどうするの。


/ 飛んで、


(自意識お化けみたいなやつ!!!!!!やだよ!!!!)

107 叶奏  [id : MB.8J3W1] [2016-08-14(日) 13:42:33] 削除依頼




 きみの細い指先がわたしの背中をなぞる。背骨の奥を脊髄を壊されていくような気がするのに、どうしてきみはそんなに優しく耳下で笑うの。ものたりないようなもどかしい寂しさが、はだけたブラウスの隙間から落ちていく。水気のない唇が肌に触れて、頬、首、鎖骨、胸へと移動していく。
 わたしだけが好きなんじゃないでしょきみは。わたし以外にたくさん好きな人がいるんでしょ。だれでもいいなら、わたしを選んで。だれでもいいなら、その中にわたしを入れて。わたしを。わたしを。

「なに、寂しい顔してんの、ばっかじゃねえの」

 心臓をぎゅうっとつかまれてああもうここじゃないよとまただらしなく開いた口から声が漏れる。まって、まって。この寂しさはきみの体で埋めちゃだめなの。ちゃんとわたしが、わたしがひとりきりで苦しんで、苦しんで後悔しなきゃいけない寂しさなの。お願い、まって、まって。
 生理的にあふれる涙できみの顔がもう見えない。
 きみにわかるわけないよ。わかってもらおうなんて思ってないよ。

 体がはじける。一番いいところ、腰が無意識に浮き上がる。
 寂しさがもう頭の端に追いやられてしまう。だめだよ。ちゃんと、咀嚼して飲み込んで体のなかでいっぱいっぱいに暴れて苦しんで吐いて吐いてもがいて泣いて、それでもずっと付きまとうはずのわたしの寂しさ。きみの体で、愛のないそのキスで、埋めたりしないで。


(題名なんてないよ)

108 叶奏  [id : I.Ev33V.] [2016-09-02(金) 18:03:43] 削除依頼




 梅雨が明けましたね、雨の日は嫌いです。
 きみの髪、匂い、透いた白のワイシャツ、伏せた時の睫毛、ネクタイを締めるときの仕草、手の平の厚み、すべてをもう一度、あのときのようにはっきりと思い出してしまうから。
 あの公園のシーソーが撤去され、ボール遊びさえ禁止になって、裏路地に住んでいた猫も、少し前トラックにのせられてどこか遠くへ行ってしまいました。コンクリートも塗り替えられて、自転車で下っていてもちっともお尻は痛くなりませんから、またふたりのりしようね。そういえば、冷蔵庫も寿命がきてしまって、新しいのに買い換えました。銀色が目につくこともなく、濁った白が部屋によくなじんでいます。

 どうしてあのとき、わたしを置いて行ってしまったの。一緒にいなくなろうって、あの前の夜ベットの中で約束したのに。わたしのすべてにキスをしたくせに。ブラウスを脱がせたくせに。どうして、いなくなったりしたの。
 ねえきみ、わたしはあの時と同じように、また明日を迎えてきみのいない時間の中で呼吸をします。どうか、どうかもう一度だけきみの胸の中で、眠らせて。


/ いつだって、いつだって連絡待ってるからね


手紙かきたいなみたいな

109 叶奏  [id : hjhfNI7/] [2016-09-03(土) 22:20:00] 削除依頼




 快楽がそのまま恋に結びついてくれたらいいのになあ、そしたらわかりやすいし少子化だって改善されるんじゃない? 知らんけど。

 外は暑い。だけどそのぶん冷房が稼働して部屋のなかはとても涼しい。そういうことはわたしにとって良いこと。苦しい悲しい寂しいことはきっとこれからもたくさん起こるし、今も起こっているんだろうけど、テレビ一枚挟むだけでとても簡単に無機質な情報一つになってしまうこの世界が、わたしの中では結構好きだし、キテるよ。アイシテルって感じ。
 都会嫌いがなおらないのは否定されたくないからだよってそんな笑顔で言われても困るよ。今更どうしろっていうんだよ。でもわたしはどちらかというと自然は嫌いだよ。写真にさえなれない植物、わたしみたいだ。

 どんな曲聴くのって聴かれたらとりあえずスピッツって答えておこうみたいなソレ。交わらないとわかっているし、交わったところですぐにいなくなってしまうきみ。誰とも共有できないって気持ちを誰かと共有してる矛盾。そういうのさえ全部気持ちいい。きみならわかってくれるよね、大丈夫だよね。わたしたち、生きていけるよね。


「結局オリコン一位の恋愛ソングとかわらなくね?(笑)」

110 叶奏  [id : bwFSSt91] [2016-09-25(日) 20:35:40] 削除依頼




「大人になってみて思うけど、やっぱり人生ってどうでもいいなって思うわけよ」

 あの子がそう言って、鼻で薄く笑った。
 金色のショートカットが夜の街に良く似合ってる。小さな光さえも吸収して、自分のものにしている感じ。右手の人差し指と中指の間に挟まったままのたばこの先から、行く当てもなくゆらゆらと煙がたっている。どこかでみたことあるような制服。どこだっけ。偏差値24くらいのところ。胸元で金色のペンダントが光った。

「まああたしもさ、色々あったしさ、大変だったけど」

 その子の隣にいた男の携帯の青白い光。男の携帯のスピーカーから漏れる音楽は安っぽくて、だけどどこか安心した。どうしたって優しくなれる気がした。聞き取れない歌詞。ぐちゃぐちゃのリズム。わたしの体の中が揺れて、少し重たいべたつく空気さえも柔らかく振動していた。

「あたしらは子どもだったわけじゃん? まあほら、色々」

 含んだ笑み。ずっと昔にいた近所の女の子の笑顔に似てる。いたずらっこのような、だけどどこにだって、悪意のひとつもみえないような。
 その子の声だけが浮いてるわけじゃない。男のスピーカーからきこえる音、人の声があつまってかたまって、何も聞こえなくなったような音。全部がいっぱいにこの街にあふれてる。その中でわたしの目の前にいるこの子は、大人になったって、笑ってる。子どものころもあったって、笑ってる。

「やっぱり人生ってどうでもいいよ」

 だめだ、わたし。
 この子に勝てない。どうしたって勝てないんだ。大人になったって、お婆さんになったって。

「勝てないんだ」
 

/ 街角

111 叶奏  [id : Fpr7jLo0] [2016-10-19(水) 20:39:24] 削除依頼




 白いカーテンは病室みたいで居心地が悪かった。光をわたしたちに跳ね返してくる。目の中に入ってきたその光をわたしはまた受け止めてしまうのだから、体と心は全然一体化してないと思ってる。ねえだから白なんて嫌だって言ったじゃん。わたしは声に出さずにつぶやいた。口の中、喉をぎりぎり通り過ぎたあたりで、言った。

「どうしたのニナ、アイスでも食べたいの?」

 ちがうよ、全然違うよ。心臓の奥がきゅうっと痛くなるこの感じ。最近、よくあるね。伝わらないってわかっているし、伝える気さえないのに、わたしってどうしてこんなにわがままなんだろう。どうしてこんなに、すべてを望んでるんだろう。
 視線を上げると、その視線に気づいたきみがそっと笑った。目尻のしわが優しくて、下睫毛がながいのが、ちょっとうらやましくて。

「アイス、買いに行く?」

 ちがう、全然違うよ。

「ねえはるくん、違う、違うよ」

 わたしは見せつけるように泣いた。きみなんていないほうがよっぽど良かったよ。嘘を吐いてそれが嘘じゃなくなるまでずっと傍にいればいいって思ってる。あたりまえだと思ってる。なにも疑えない、なんにも変わらないって思ってる。ごめんね、ごめんね、わたしこれが本物だって思ってる。


/ 不正解

112 叶奏  [id : nDFQ1PuW] [2016-12-03(土) 17:59:37] 削除依頼

 


 不正解は不正解のままだった。きれいなものしか愛せないってきみは泣いていた。ならわたしは初めからきみに愛されていなかったのかな。汚れてしまった夢ばかり見る。朝、目をさますときに泣いていることに気が付くなんて遅すぎるよ。生理がこなくなってからわたしは何のために生きているのかわからなくなった。命が命を食いつぶしていく。生まれないで、わたしは生きていたい。

 きみがいなくなった。不器用な字がきみの心臓だと思った。合鍵がそえられていたメモはカレンダーの裏紙だった。
二人で暮らすにはこの部屋は少し狭かったね。明日も、明後日も、明々後日も、大の字で寝られるんだと思ったら涙が出た。どうしても止まらなかった。

 自分の体ではないような気がしている。体温が逃げていく音がきちんとするんだ、どうしようもなく。空気が抜けていくようなきみとのキスはホットケーキを焦がしたような味だったね。暗闇に投げ捨てられたわたしだって生きていくこともできるし、死ぬことだってできるよ。きみの涙がかたつむりと同じ速度で頬をつたっていくのをみた夜から、さよならを予感していた。二回折ったスカートのプリーツがゆれる。わたしが振り返ったとき、どうかきみがそこにいませんように。

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