来世の来世の来世くらいのお話、113コメント

1 叶奏@かなた id:wA9XQ8C/

2015-10-10(土) 11:20:27 [削除依頼]


`


夢をみたい僕は、いくつもいくつも生きていく。


「 はじめまして、かなたと申します。
  拙い言葉ですが、ふわふわと綴っていきます。 」
  • 94 叶奏 id:k9yP3Y0/

    2016-05-28(土) 23:47:57 [削除依頼]



    「本の台詞みたいな会話してみたくないですか」

     放課後、太陽がいたりいなくなったりするくらいの時間。グランドを使う部活生が片づけながらも声を張り上げている時間。黒板の光が反射して白く見える時間。赤と黄色と白の中間くらいの時間。教室。数学のプリント。帰りたいねえ、帰りたい帰りたい。と時計をチラチラとわざとらしく見るわたしを横目に、先生は信じられないくらい涼しい顔をして、問題を解けとボールペンをカチカチとする。そんな時間。

    「たとえば?」

     たとえば。先生がわたしの方をみて話をきいてくれる。珍しいことだ。いつもは何をいっても中身空っぽの返事しかしてくれないのに。

    「抽象的な、感じ」

     わたしは自分で言い始めたのに、良い答えがみつからくて言ったとたんに恥ずかしくなって視線を泳がせた。時計に目をやって、また帰りたいなあと声に出さず言う。すると先生がわたしの顔を覗き込んで、声に出さずに問題を解けという。ボールペンをかちかちさせて。
     カーテンがゆらゆらゆれて、赤とも白とも言えない色が教室を通過していく。黒板あたりにたまったオレンジ。椅子に座ったまま、窓の方を見る。夏と春の中間の夕方は、そういえば去年もこんな色だった気がする。覚えてないけど。そんな気がする。

    「へえ。宮瀬サン、そういうの好きそうだもんね」

     先生は手に持っていたボールペンを音を立てずに机に置いて、わたしの数学のプリントを取り上げた。難しい顔をしてプリントに目を通した後、すこし笑った。わたしは机に指を立てて、とんとんを音を鳴らす。帰りたいですねえ。と声に出していう。先生が置いたボールペンを手に取って、カチカチとさせる。帰りたいですねえ。

    「あ、じゃあ、さ」

     先生は思い立ったようにして、プリントを教卓に置いた後、ゆっくりとわたしの机に近づく。わたしはボールペンでカチカチとさせたまま、窓をみつめる。カーテンがゆれて、またオレンジがたまっていく。黒板は緑色のままなのに、もうあたりはオレンジに染まる。

    「月が綺麗ですね、とか」

     わたしはゆっくりとボールペンを音を立てずに置く。

    「月、まだぜんっぜん出てませんけどね。それにベタすぎます」
     このオレンジをぎゅっと凝縮したら、月になるかもしれませんけどね。それはそれで、ロマンチックですねえ。


    / 夕方の月
  • 95 叶奏 id:B/JJ5Yj/

    2016-06-08(水) 20:53:07 [削除依頼]



     HBでかかれた数式が汗で霞んでいく。

    「お前スーガクだけ出来やんの、面白い」
     水瀬くんはスーガクだけしか出来やんくせに、ばか。

     わたしは窓際の席、一番の特等席に座って、机ふたつ分の間を開けて彼が席に座っていた。風が左隣の窓から入って、対角線上にある窓から抜けていく。風はすこしだけ夏の匂いがする。風も時々聴こえる鳥の鳴き声も、グランドの部活生の声も、少しずつだんだん夏に傾いていく。身震いするほどゆるやかに、それでも確かにゆがんでいく。知らない間に、だれも気付かない間に、傾いて揺れる。

     水瀬くんはがたりと音を立てて席を立つと、わたしの数式をみてへえっと笑った。わたしのシャーペンをひゅっと取り上げてこつんとわたしの額をたたいた。いてっと声をあげるとまた彼は笑った。水瀬くんの藍色のネクタイが少しだけ揺れて、わたしはうつむきながら小さく笑った。わたしのリボンも、少しだけ揺れた。笑い声が混じってそのうち窓から逃げた。

    「シャー芯、HB使ってるん」
    「うん」
    「Bのほうがいいと思うんやけど」
    「なんで」
    「なんとなく」

     水瀬くんはわたしの書いた数式の横に、小さくまた数字を書き足していく。こうやってやるんだよばか。余計な一言を付け足して、また机二つ分あけて、わたしの同じ列の席についた。
     彼の横顔をみているのがすきだ。この時間がすきだ。わたしが英語教えたるんやん、数学教えてよ。冗談が半分以上の会話だったのにいつのまにか本当になっていた。

    「水瀬くん!」
    「なに、大声ださんでいいやん、ここおる」
    「あしたもちゃんと教えて」
    「うん」
    「明後日も」
    「うん」
    「明々後日も、そのまた次も、その次のまた次も」
    「うん」

     大丈夫、大丈夫。ずっと続くよ、大丈夫。自分に言い聞かせる。答えの出た問題なんて、わたしには必要ない。ワークをぱたりと閉じた。その振動でHBのシャーペンが机から転がって、落ちた。わたしの藍色のリボンが、夏みたいに、揺れる。


    / HBで書かれた文字に
  • 96 なごみ id:sHS4HIj0

    2016-06-12(日) 12:31:22 [削除依頼]
    はじめまして
    こんな素敵なお話が書けるんですね(((o(*゚▽゚*)o)))
    すごいです。
    カナちゃんと結子ちゃんのお話と、「さよならエイプリル」、「花束とアリス」が特に好きです。
    更新楽しみにしています。
  • 97 叶奏 id:buGqr6.0

    2016-06-13(月) 17:39:20 [削除依頼]


    >96 なごみさん

    はじめまして。
    わわ、ずいぶんと前に投稿した作品まで、読んでいただいて! とっても嬉しいです(:_;)
    ありがとうございます、また暇なときにでも覗きにきてやってください!!
  • 98 叶奏 id:cA4nzr0.

    2016-06-30(木) 21:37:51 [削除依頼]



    「エテのうそつき。」
    「春はしんじゃったのに。」
    「エテが春をころしたんだ。」
    「エテのうそつき。」


     透明な色が本当に透明かどうかなんて知らない。それでもここに広がる空はどうしようもなく青色で、見上げると吸い上げられてしまいそうだった。思わず足元をみる。春だ、と思う。風がおもう。空がおもう。きみがおもう。匂いがおもう。理由はよくわからないけれど、春だ、と思う。体の中のどこかで春だ、と思う。
     孤独になればやさしくなれる。そんなふうにあの子は言った。バカじゃないのと思うけれど、もしかしたら私もそうなのかもしれない。孤独になれば、やさしくなれる。痛みを分かち合うとか、そんな生ぬるい大人の言葉にはあてはまらない。評論家が自.殺した中学生におくる言葉なんて何の価値もない。何の意味もない、ばからしい。何がわかるの、と思う。なめんなよ。テレビの奥では今日も大人が神妙な顔つきで何かを話していて、ふざけんなと思う。
     わたしは自.殺をしない。まだしない。死んだあとに、スカートの短いクラスメイトに「とても優しい真面目な子でした」なんて言われてしまいたくない。誰かに殺されたいし、その誰かを自分自身で選びたい。陶酔した自分自身の中身を見通してしまうような、冷淡な目つきの子がいいな。しんでしまえ、お前なんか。と言われてナイフを突き立てられたあとに、そっとキスをしてくれるような子がいい。殺す前に、一緒に海にいってくれる子がいい。さよならって泣いてくれる子がいい。わたしの理想論をやさしくきいてくれる子がいい。だから、そんな子が現れる前になんてわたしは死なない。死んでしまわない。

     うそつき、と誰かがいって、その嘘に感染してしまう病気がある。名前は知らない。嘘をつくことで何かを守ることの素晴らしさを知ってしまえばあとはもう刻々とその病気は自身に浸透してしまって、最悪しぬんだろう。最悪かどうかはしらないけれど。やさしい嘘はきらいだ。くるしい嘘も、とても嫌いだ。けれど、さみしい嘘はすきだ。虚しくて寂しくて胸の隙間をそのまま言葉にしたような嘘になら、わたしは騙されたい。騙されてその隙間にキスをしてあげたい。それはやさしさなんかじゃないけれど、わたしにはそのさみしい嘘をつく理由がわかる。わかるんだ。嘘つきでもいいよ。狼少年でもいい。狼はいつもいるよ、と一緒に泣いてあげるね。さみしいきみ。さみしい子。そんなわたしも、きっとさみしい。


    「春は死んだ。」
    「うそつきはだれだ?」
    「うそつきはだれだ?」


    それぞれの季節の嘘に、わたしは騙される。


    / 「夏が来る、隠れて。」


    夏バテがけっこうしんどい
  • 99 叶奏 id:Adx6P801

    2016-07-08(金) 20:38:55 [削除依頼]



    「雨が降ってる」

     まあ梅雨だからね。雨のなかでくしゃくしゃになりながら何かきみとしたいことがあるんだけど。言おうとして口を閉ざして、それからまたキスをする感じ。この感じ。火照った脳みそがさらに沸く。冷静になれない夏は、今日もべたべたに気持ち悪い。
     きみの悪い癖をよくしっている。良い癖よりも、はるかにたくさん。良いところよりも悪いところのほうが人間よく目立って、はあ今日も良い日だからさァと軽やかに。とんとん。制服のブラウスが肌に張り付いてる。すっごく、かわいいの、きみ。白く透いた腕は、雨の中に溶けてしまいそうなくらい形なんてなかった。みえてなかった。だってきみだもの、透明人間みたいなきみだもの。すごく、綺麗。

    「たばこ吸っていい?」

     きみの笑顔はどうしてこんなにも脳みそを溶かしていくのだろう。どこかの薬物みたいに、惚けさせる。ぼうっと、こんなにも幸せなことはなにもないんじゃないかと本気で思う。僕は今日もどこにもけないままきみの肌を吸い寄せる。「いいよ」灰色の鈍い空気はひどく体に悪い。きみを汚していく空気を想像すると、興奮する。喉に、肺に、きみを汚していく。とても、そそる。吸っていいよ。

    「いつかさ」

     きみが僕の瞳を覗く。声が、どこまで深く。海。そこ。

    「きみがわたしを汚してね」

     灰皿に押し付けられた残り火が、すぐに雨の中に消えた。梅雨明けはすぐそこだよ、と笑った。


    / 梅雨
  • 100 叶奏 id:Adx6P801

    2016-07-08(金) 21:25:36 [削除依頼]



    とうとう100レス目に達成しましたいえいいえい
    普通に投稿してしらっと通りすぎようかなとも
    思いましたが、いや〜〜ここまで続くと思ってなかったので
    ちょっとうれしくなっちゃってます。
    本当にここまで続くとは予想してなかったから達成感がすごい。
    容量オーバーまで突っ走りたいところあります。
    楽しいからこれからもここに居座ると思います。
    末永く仲良くしてください(;_;)/~~~


    文章をかくのはたのしいです。すっごく。
    口下手だったり絵が壊滅的にへたくそだったりと
    文に頼るしか自分の気持ちを発信するものが
    なかっただけかもしれないですけど
    何か書いたり、読んだりしているときが今のところ一番たのしくって
    これからも続けていけたらいいなと思ってます。('ω')


    もし、読んでくださってる方がいるのなら
    いつもありがとうござます。
    これからも、ぜひよろしくお願いします!


     
  • 101 そら id:vOu8myk/

    2016-07-09(土) 20:51:23 [削除依頼]



    100レス、おめでとうございます!
    ちょくちょくこそこそ読んでいます(´-`).。oO
    これからも頑張ってください、応援してます。
  • 102 ろの id:af90Zeg0

    2016-07-17(日) 21:26:45 [削除依頼]
    ここにコメントするのが初めてだということに驚くぐらい、日常的に覗かせてもらってました(ストーカーと呼んでくれたってかまわない)
    詩によく似ているけど絶対に詩じゃない、散文かと言われるとそうでもない、浮遊感のある、けれど胸の締め付けられる余韻がどこかにある、歪んでいて時に狂気的な部分も見せるあなたの話がとってもとっても好きです
    終末が特に好きです。すでに日記板でラブレター書かせてもらったな、笑

    100レスおめでとう。ずっと応援してます!
  • 103 叶奏 id:86l/0641

    2016-07-20(水) 14:51:19 [削除依頼]


    >101 そらさん

    ありがとうございます!!
    とっても嬉しいです、
    ゆっくりと更新していこうと思います、有難うございます(´-`)!
  • 104 叶奏 id:86l/0641

    2016-07-20(水) 14:56:49 [削除依頼]



    >102 びゃくちゃん

    ウアアうれしいよ
    意識していることもあれば、そういう風に受け取ってもらってるのかとびっくら。でも全部わたし自身も好きな感じだったり雰囲気な言葉なのでとっても嬉しい。
    わたしもびゃくちゃんのお話し大好きです。
    (ラブレタースクショしてるうれしかった(;_;)/~~~)

    ありがとう!
    ちびちび更新していくので気が向いたときにでもみてやってください!
  • 105 叶奏 id:ZuvBvv3.

    2016-07-22(金) 23:05:31 [削除依頼]



     夜の隙間に吸い込まれてしまいそうな光。淡い光。蛍光灯が点滅するトンネルで今日も少しずつ世界がゆがんでいくことに人々は気づかないまま朝を迎える。携帯の光は夜になれば攻撃的なものになる。ツイッターのタイムラインを指でなぞって更新する。握りなおしたコンビニのレジ袋の濁った白がカサカサと音を立てて、人気のない道に響かせる。

    「アイス、あんた好きだよね。すぐお腹壊すくせに」

     みどりが立ち止まって、わたしに言った。骨ばった手がわたしの方に差し出されていて、レジ袋を手渡した。そういうところ、いちいちすごいと思う。わたしには真似できない。みどりはわたしのことをいつも見ていてくれる。見ていないふりをしながら、見ていてくれる。

    「俺こういうストロベリーバニラとかむり。美味しいの?」

     口元を少しだけ緩めて、目が細くなる。穏やかな表情が猫みたいに見えて、首輪をしておきたくなる。どうか逃げないで、と泣いてしまいながら。

    「美味しいよ。あんたは知らないだろうけど」

     そういったとたん、足元からぐわりぐわりと寂しさがこみあげて、体中を巡っていく。夜のトンネルの光は十分に寂しさの条件を満たしていることを思い出した。わたしはいつだって一人だと、こんなにも思い知らされる瞬間。どうしたってこの孤独からは解放されないのだと。許されないのだと。ひとりきりの夜、部屋に入った瞬間の孤独と同じ感じに、呼吸が浅くなっていく。寂しさはいつだって孤独で、わたしはそれを制御できないままの人間だったから。

    「俺にだってわかるよ。あんた美味しそうに食べるから。それ、見てるから」

     だから、帰ろう。またあの表情を浮かべて、今度は頭に手までのっけて。わたしは頷いてとぼとぼと歩く。
     すべて消し去ってしまいたくなるような感情と、すべて留まらせていたくなるような感情が交差して、これからも進んでいけてたらいいねって、そんな風にツイッターでつぶやく。もちろん、すぐに消すけれど。


    / トンネルをぬけて
  • 106 叶奏 id:6SvrO6h0

    2016-08-03(水) 15:43:41 [削除依頼]



     コンクリートの世界が崩壊するゆめをみた。どこまでも一緒だよって笑えるのは、わたしたちまだどこにも行けない二人だからだよ。わたしはそれを口にせず、甘い炭酸水と一緒に体の底に落とした。炭酸の刺激がのどに残ったままだ。ちりちりと柔らかい痛みが、気持ち良いほどこの部屋は優しかった。優しいフリをした、空気ばかりがあつまった。

    「ねえミミ」
     わたしは猫じゃないんだよ。あなたの所有物じゃないんだよ。そんな風に、そんな優しい目をして呼ばないで。

    「あの時どうすればよかったとか、どう言えばよかったとか、そういうの全部無駄だと思わない?」

     彼の口調はどこか遠くのわたしの知らない人に語り掛けているようなそんな気がした。それでも視線はばっちりとわたしの瞳の中を覗いていて、視神経を伝って彼が、彼の存在をわたしは認識してゆく。
     そんな風に、すべてを無駄だと言ってしまう彼が、時々とても可哀想に思ってしまう瞬間がある。きみはどこにいきたいの。どこに、なにになりたいの。ねえもう無理だよ。きみには無/理だよ。きみはなにも変わらない、変われない。後悔を、努力を無駄だといえるきみに、今のきみにどこにも飛んでいける空なんてないよ。ねえ、もう諦めよう。

     炭酸の刺激に心揺らされて、冷房の乾いた空気がのどにまた別の刺激を与えていく。

    「そう、だね」
     わたしが猫だったら、あなたはどうするの。


    / 飛んで、


    (自意識お化けみたいなやつ!!!!!!やだよ!!!!)
  • 107 叶奏 id:MB.8J3W1

    2016-08-14(日) 13:42:33 [削除依頼]



     きみの細い指先がわたしの背中をなぞる。背骨の奥を脊髄を壊されていくような気がするのに、どうしてきみはそんなに優しく耳下で笑うの。ものたりないようなもどかしい寂しさが、はだけたブラウスの隙間から落ちていく。水気のない唇が肌に触れて、頬、首、鎖骨、胸へと移動していく。
     わたしだけが好きなんじゃないでしょきみは。わたし以外にたくさん好きな人がいるんでしょ。だれでもいいなら、わたしを選んで。だれでもいいなら、その中にわたしを入れて。わたしを。わたしを。

    「なに、寂しい顔してんの、ばっかじゃねえの」

     心臓をぎゅうっとつかまれてああもうここじゃないよとまただらしなく開いた口から声が漏れる。まって、まって。この寂しさはきみの体で埋めちゃだめなの。ちゃんとわたしが、わたしがひとりきりで苦しんで、苦しんで後悔しなきゃいけない寂しさなの。お願い、まって、まって。
     生理的にあふれる涙できみの顔がもう見えない。
     きみにわかるわけないよ。わかってもらおうなんて思ってないよ。

     体がはじける。一番いいところ、腰が無意識に浮き上がる。
     寂しさがもう頭の端に追いやられてしまう。だめだよ。ちゃんと、咀嚼して飲み込んで体のなかでいっぱいっぱいに暴れて苦しんで吐いて吐いてもがいて泣いて、それでもずっと付きまとうはずのわたしの寂しさ。きみの体で、愛のないそのキスで、埋めたりしないで。


    (題名なんてないよ)
  • 108 叶奏 id:I.Ev33V.

    2016-09-02(金) 18:03:43 [削除依頼]



     梅雨が明けましたね、雨の日は嫌いです。
     きみの髪、匂い、透いた白のワイシャツ、伏せた時の睫毛、ネクタイを締めるときの仕草、手の平の厚み、すべてをもう一度、あのときのようにはっきりと思い出してしまうから。
     あの公園のシーソーが撤去され、ボール遊びさえ禁止になって、裏路地に住んでいた猫も、少し前トラックにのせられてどこか遠くへ行ってしまいました。コンクリートも塗り替えられて、自転車で下っていてもちっともお尻は痛くなりませんから、またふたりのりしようね。そういえば、冷蔵庫も寿命がきてしまって、新しいのに買い換えました。銀色が目につくこともなく、濁った白が部屋によくなじんでいます。

     どうしてあのとき、わたしを置いて行ってしまったの。一緒にいなくなろうって、あの前の夜ベットの中で約束したのに。わたしのすべてにキスをしたくせに。ブラウスを脱がせたくせに。どうして、いなくなったりしたの。
     ねえきみ、わたしはあの時と同じように、また明日を迎えてきみのいない時間の中で呼吸をします。どうか、どうかもう一度だけきみの胸の中で、眠らせて。


    / いつだって、いつだって連絡待ってるからね


    手紙かきたいなみたいな
  • 109 叶奏 id:hjhfNI7/

    2016-09-03(土) 22:20:00 [削除依頼]



     快楽がそのまま恋に結びついてくれたらいいのになあ、そしたらわかりやすいし少子化だって改善されるんじゃない? 知らんけど。

     外は暑い。だけどそのぶん冷房が稼働して部屋のなかはとても涼しい。そういうことはわたしにとって良いこと。苦しい悲しい寂しいことはきっとこれからもたくさん起こるし、今も起こっているんだろうけど、テレビ一枚挟むだけでとても簡単に無機質な情報一つになってしまうこの世界が、わたしの中では結構好きだし、キテるよ。アイシテルって感じ。
     都会嫌いがなおらないのは否定されたくないからだよってそんな笑顔で言われても困るよ。今更どうしろっていうんだよ。でもわたしはどちらかというと自然は嫌いだよ。写真にさえなれない植物、わたしみたいだ。

     どんな曲聴くのって聴かれたらとりあえずスピッツって答えておこうみたいなソレ。交わらないとわかっているし、交わったところですぐにいなくなってしまうきみ。誰とも共有できないって気持ちを誰かと共有してる矛盾。そういうのさえ全部気持ちいい。きみならわかってくれるよね、大丈夫だよね。わたしたち、生きていけるよね。


    「結局オリコン一位の恋愛ソングとかわらなくね?(笑)」
  • 110 叶奏 id:bwFSSt91

    2016-09-25(日) 20:35:40 [削除依頼]



    「大人になってみて思うけど、やっぱり人生ってどうでもいいなって思うわけよ」

     あの子がそう言って、鼻で薄く笑った。
     金色のショートカットが夜の街に良く似合ってる。小さな光さえも吸収して、自分のものにしている感じ。右手の人差し指と中指の間に挟まったままのたばこの先から、行く当てもなくゆらゆらと煙がたっている。どこかでみたことあるような制服。どこだっけ。偏差値24くらいのところ。胸元で金色のペンダントが光った。

    「まああたしもさ、色々あったしさ、大変だったけど」

     その子の隣にいた男の携帯の青白い光。男の携帯のスピーカーから漏れる音楽は安っぽくて、だけどどこか安心した。どうしたって優しくなれる気がした。聞き取れない歌詞。ぐちゃぐちゃのリズム。わたしの体の中が揺れて、少し重たいべたつく空気さえも柔らかく振動していた。

    「あたしらは子どもだったわけじゃん? まあほら、色々」

     含んだ笑み。ずっと昔にいた近所の女の子の笑顔に似てる。いたずらっこのような、だけどどこにだって、悪意のひとつもみえないような。
     その子の声だけが浮いてるわけじゃない。男のスピーカーからきこえる音、人の声があつまってかたまって、何も聞こえなくなったような音。全部がいっぱいにこの街にあふれてる。その中でわたしの目の前にいるこの子は、大人になったって、笑ってる。子どものころもあったって、笑ってる。

    「やっぱり人生ってどうでもいいよ」

     だめだ、わたし。
     この子に勝てない。どうしたって勝てないんだ。大人になったって、お婆さんになったって。

    「勝てないんだ」
     

    / 街角
  • 111 叶奏 id:Fpr7jLo0

    2016-10-19(水) 20:39:24 [削除依頼]



     白いカーテンは病室みたいで居心地が悪かった。光をわたしたちに跳ね返してくる。目の中に入ってきたその光をわたしはまた受け止めてしまうのだから、体と心は全然一体化してないと思ってる。ねえだから白なんて嫌だって言ったじゃん。わたしは声に出さずにつぶやいた。口の中、喉をぎりぎり通り過ぎたあたりで、言った。

    「どうしたのニナ、アイスでも食べたいの?」

     ちがうよ、全然違うよ。心臓の奥がきゅうっと痛くなるこの感じ。最近、よくあるね。伝わらないってわかっているし、伝える気さえないのに、わたしってどうしてこんなにわがままなんだろう。どうしてこんなに、すべてを望んでるんだろう。
     視線を上げると、その視線に気づいたきみがそっと笑った。目尻のしわが優しくて、下睫毛がながいのが、ちょっとうらやましくて。

    「アイス、買いに行く?」

     ちがう、全然違うよ。

    「ねえはるくん、違う、違うよ」

     わたしは見せつけるように泣いた。きみなんていないほうがよっぽど良かったよ。嘘を吐いてそれが嘘じゃなくなるまでずっと傍にいればいいって思ってる。あたりまえだと思ってる。なにも疑えない、なんにも変わらないって思ってる。ごめんね、ごめんね、わたしこれが本物だって思ってる。


    / 不正解
  • 112 叶奏 id:nDFQ1PuW

    2016-12-03(土) 17:59:37 [削除依頼]
     





     不正解は不正解のままだった。きれいなものしか愛せないってきみは泣いていた。ならわたしは初めからきみに愛されていなかったのかな。汚れてしまった夢ばかり見る。朝、目をさますときに泣いていることに気が付くなんて遅すぎるよ。生理がこなくなってからわたしは何のために生きているのかわからなくなった。命が命を食いつぶしていく。生まれないで、わたしは生きていたい。



     きみがいなくなった。不器用な字がきみの心臓だと思った。合鍵がそえられていたメモはカレンダーの裏紙だった。

    二人で暮らすにはこの部屋は少し狭かったね。明日も、明後日も、明々後日も、大の字で寝られるんだと思ったら涙が出た。どうしても止まらなかった。



     自分の体ではないような気がしている。体温が逃げていく音がきちんとするんだ、どうしようもなく。空気が抜けていくようなきみとのキスはホットケーキを焦がしたような味だったね。暗闇に投げ捨てられたわたしだって生きていくこともできるし、死ぬことだってできるよ。きみの涙がかたつむりと同じ速度で頬をつたっていくのをみた夜から、さよならを予感していた。二回折ったスカートのプリーツがゆれる。わたしが振り返ったとき、どうかきみがそこにいませんように。



  • 113 宮村 id:nDFQ1PuW

    2017-01-23(月) 17:58:36 [削除依頼]












     吐息と混じった甘い音が耳をすべって、首筋をくすぐる。朝と夜の間みたいな不健康な時間にわたしときみ、あしたは仕事やすんで朝まで隣にいてねって言いたいのにのどの奥で音にならずに、その代わりにひゅ、と喉が何度も鳴る。わたしきみの指が好きなの。優しい顔をしているのに、その指だけが別の生き物みたいにわたしの体の奥底を探している。目をつむってなんども想像した。きみの指が動くその様が見えないのが、とても哀しかった。



     大人になれ、わたし。



     きみとわたしの生きてきた数をどうかしても埋めなければならない。世界が終わるのを待ちながら気持ちの悪い音楽を聴いて夜を、死んでいった蝉の数を数えて夏を、きみより密度の濃い一年を、一日を、一分を、一秒を。重ねて重なって追いついて追い越して行きたいと思うその気持ちは、小さすぎる手の隙間からぽろぽろとこぼれていく。



    「おねがいします、置いてかないで、どうしても私」



     ひゅ、と喉が幾度も鳴る。

     きみの細い指がわたしの首にかけれて、一番苦しいところを探していく。きみの口角が上がっていくのが涙でぼやけた視界にうつる。きみの存在が、視神経を通っていくことが快感だと心の底から思う。あいしてるの、だいすき。





    / 頭の悪いわたし
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