空の欠片。

SS投稿投稿掲示板より。


1    碧空.  [id : Y4g0UnL/] [2015-09-28(月) 00:02:51] 削除依頼


  拾い集めたのは欠片。

 水色の中に白い何かがあったり、
 夕色の中に紅いのが浮いてたり。

 紺色の中に瞬くものがあったり、
 紫色の中に桃色が泳いでいたり。


  拾ったのは空の欠片。


    綺麗で大切な、空の欠片。

2 碧空.  [id : Y4g0UnL/] [2015-09-28(月) 00:13:25] 削除依頼

 短編集になります。

 他にもひとつ、「或る夏の日。」と言うのがあるのですが、
そちらにはタイトル通り夏のお話を、こちらにはその他のお話を。
きまぐれに書き綴っていこうと思います。*


  色々な物語を、
色々なジャンルにのせて。


 頑張って書いていくので、休憩がてらにでも読んで下されば嬉しいです。

3 碧空.  [id : kmiTi27/] [2015-09-28(月) 13:33:07] 削除依頼


*.

 不思議な男の人がいた。

 その人はずっと絵を描いていて、しかもそれらは全て空の絵だった。他の絵は描かないのか、気になって聞いてみた事がある。
「好きだから」としか答えず、私が「勿体無いなぁ」と言うと何処か哀し気に微笑んだ事をよく覚えている。

「……充分上手いのにね。本当勿体無い事してると思うよ、私」
「……お前、なかなかしつこい奴だなぁ。前も答えただろ、俺」

 私にはどうしても、それ以外の理由がある様に思えた。勿論好きだから、と言うのも本当なのだろうが、それ以外の何か、別な理由が。
しかし彼が、頑なに教えようとしないから私も突っ込んで聞かないだけで。だってもしかしたら、それは聞いてはいけない理由かもしれない。
私みたいな中学生が、土足で踏み込んで行けない様な空気を纏っている風に感じられる。

「……画家か何かなの? あんたって」
「違う。ただ趣味で描いてるだけ。……なり損ねとも言えるかな」

 絵なんて描けないし、そもそも興味も無い。だけど彼の、空を描(えが)いていく工程を眺めるのが好きだった。
真っ白だった筈の紙が一瞬で青く、青く染まっていく。手元を見ていると、筆が踊っている様な感覚を覚える程に楽しそうに彩っていた。
どれも上手くて本物の空みたいだったけれど、同じ空模様でもひとつひとつ、少しずつ違っているのが良いなと思った。
きっと彼も、空のそんな所が好きなのだろう。


 壁に掛かっている空、立て掛けられている空、床に置いてある空。
彼のこのアトリエは、見渡す限り空に囲まれていた。

4 碧空.  [id : kmiTi27/] [2015-09-28(月) 14:52:19] 削除依頼


「……あれ?」

 ある日いつもと同じ様にアトリエへ向かうと、そこに彼の姿は見られなかった。よく周りを見てみたが、やはり居ない。
買い物にでも行っているのかなと考えたが、空の絵がごっそりと無くなっているのに気が付き、そうじゃないんだなと確信した。

「っ……何で……」

 叫ぼうとした。呼ぼうとした。だけど私は彼の名を知らない。思い返すとそれは名ばかりに留(とど)まらなかった。
名前も。素性も。年齢も。私は彼について何一つ知らない。分かっていなかった。分かるのは。分かるのはーーー「空の絵描き」だった事だけ。
歩いていく。前へ前へと、重たい足を進めた。

「……これ、は……」

 いつも、絵の具やら画材やらが並べてあった棚と壁の隙間。
そこにーーー青空の、絵。

 そう。青空の絵があった。一枚だけ。そしてその上には、真っ白な封筒。
絵を出して床に置き、封筒を急いで開ける。

「……拝啓、中学生へ……って」

 やっぱりあいつだって私の名前を知らないんだ。それなのに私を追い出さなかったのはーーー何故だろう。

「……引っ越し……両親がいる所に……?」

 手紙に書かれていたのは。
実は自分は、画家になる為に反対する両親から逃げてきたのだという事。この間久しぶりに手紙が来て、決心を固めた事。
久々に会った両親とよく話し合い、「戻って来い」と言われた事。両親ももう年寄りだし、だから引っ越しを決めたという事。

 そしてーーー空しか描(えが)かない、本当の理由。


“……空が好きで、ずっと手元に置いておきたいと思っていた。”
“空の絵を描くと、空を切り取って自分のものにできるような気がして。”
“両親は「目を覚ませ」と超反対。「いつかごみになるのだから」ってな。”
“だけど俺は、そう思わない。”
“切り取った空は、「空の欠片」になって俺の手元に残るんだ。”


「……空の、欠片……」

 その言葉が、何故か心に響いてきた。
彼が空の絵しか描かない、本当の理由。そこには彼の、空を愛する気持ちが本当に伝わってきた。好きこそ物の上手なれ、という諺(ことわざ)は本当だね。


“ありがとな。中学生。”
“また会える日を願って。”
“P.S.絵、一枚貰ってくれ!”


 ありがとう。だなんて。本来ならば私が言わなければならなかった言葉。

「……ありがとう…………」

 聞こえないであろうあの人に向かって呟く。

 いつかまた、本当に会える日は来るのだろうか。その時は私も、もう少し大人で。彼は、もっと空の絵が上手くなっている事だろう。
描き溜めた空の絵を抱えて、きっとここで、更に描いていくのだろう。

「……つか、貰っても困るんですけど。これ」

 置いてあった絵を見詰めながら文句を一言。これはこのまま、ここに置いておこうかなと思った。そして毎日放課後は、これを見てから帰ろう。
これも、「空の欠片」なのだ。私の、私だけの空。

「……またね」


 不思議な男の人がいた。
その人は本当に空を愛していて、空の絵しか描かない人だった。
空を切り取り、「空の欠片」として大切にしていく様な、優しい人だった。


【Story 1*空の欠片。】

5 碧空.  [id : .zQvVwV0] [2015-10-01(木) 00:43:32] 削除依頼


*.

 雨が、好きだった。
雨音も静かで落ち着くし、雨粒は光って綺麗だったから。

「……唯鈴(いすず)ちゃん、変わってるよね」

 ある日の放課後。そう話し掛けてきたのは彼女ーーー美鈴(みすず)だった。
美鈴は物静かで頭も良くて、休み時間は本を読んでいるか勉強しているか。とにかく典型的な真面目な子のイメージだった。
あの日も確か、雨が降っていたな。わたしは残って、それを眺めていたんだっけ。美鈴は恐らく、もう少しで読み終えそうな本を見ていたのだろう。

「……そ、かな。わたし、自覚してなかった」

 変わってる、なんて面と向かって告げられた事なんて始めてで、そんな風にしどろもどろに答えるしかなかった。

 自分のどこが変なのか。考えを巡らせても解らない。あまり話した事の無い美鈴に言われるなんて、相当なものじゃないかな。
みんながそう思ってたらどうしよう。焦る気持ちが募る一方だった。

「……悪い意味じゃなくて、良い意味で、だよ」
「……え、い、良い意味で? 変わってると?」

6 碧空.  [id : oR3jPQe0] [2015-10-03(土) 20:34:24] 削除依頼

「……みんなみんな、雨が嫌いだと言うの。だけどあなたは違う」

 彼女とちゃんと話すのは、これが初めてだった。
誰とも仲良くしたくないんだ、って勝手に思い込んでいて。だっていつも一人だったから、話したくても話し掛けられなくて。

 ーーーだけど。

「雨の降る日、唯鈴ちゃんだけは嬉しそうな表情をしてる」
「……あ、」

 本当は優しい子なんだなって知った。友達になりたい、って。そう思った。

「だから変わってるな、って。話してみたいなって思ってた」
「っ! わ、わたしもっ!」

 きょとり、とした表情を見せた彼女。

 思ったんだよ。友達になりたい、って。一緒に居たい、って。

「わたしも美鈴ちゃんと友達になりたいって思ってたよ!!」

 二人しか居ない教室に、勇気を込めた言葉はよく響いた。それが少し照れ臭く感じたけれど、自分の想いの強さを知って貰うにはちょうど良かったのかもしれない。
彼女は綻ばせた顔でわたしを見詰め、そして暖かな声色で返してくれたのだった。


「……宜しくね、唯鈴」


【Story 2*友達。】

7 碧空.  [id : oR3jPQe0] [2015-10-03(土) 22:13:54] 削除依頼


*.

 “涙を堪えて嬉しい事が見えなくなる位なら、いっそのこと泣いちゃいなよ”

 嬉しい事があっても、悲しい事があっても。
すぐに涙が溢れてくる程に泣き虫な私に浴びせられる言葉は、いつも馬鹿にする様なものばかりだった。
身長も声も小さくて、自分の意見もはっきり言えない性格だったから言い返す事も出来なくて。

 そんな中、あの子が掛けてくれた一言。
あの一言があれば私は、幾らでも強くなれる気がした。


「……へー、なんか良いなぁ。そういうの」
「……でしょ? 今の私があるのは、その子のお陰なの」
「男の子? 女の子?」
「確か、男の子だった」
「うわっ! ……なーんで華澄(かすみ)だけそんなロマンチックな思い出を……」

 あの頃の私は弱すぎた。
からかわれるのが嫌だから泣くのを我慢して、だから存分に喜ぶ事も、悲しむ事も出来なかった。
後悔の多かった記憶も、思えばあの一言を切っ掛けに少なくなった。

 名前も知らない男の子。あの時どうして泣きそうになっていたのか、今となっては忘れてしまう程くだらない事だったのだろうなと思う。
だけどあの笑顔と優しい声だけは、今でも鮮明に思い出せる。

 今どうしているのか、私には知る由(よし)も無いけれど。
ひとつだけ願うなら。我が儘を言うのなら。


 ーーーもう一度、あの子に会いたい。

8 碧空.  [id : PhjXJKD.] [2015-10-04(日) 14:45:37] 削除依頼


 笑われる覚悟で、友達に話してみる。だけど馬鹿にせずに、彼女は応援してくれて。
信用できる友達が居るのって嬉しい。心からそう思えた。

「……会えると良いね、またっ」
「ありがとう……うん、本当に」

 あの出来事は、あの一言は。

 私が変われた境界線。あの日が来ていなかったら、私は今も苦しんでいたのかもしれない。そう考えると、感謝の言葉も言えずに別れたあの日が悔やまれる。

 あの子にとっては些細な事でも、
私にとっては大事な記念日だった。


 あれだって何年も前の事だ、彼も私も随分変わっただろう。会っても分からないかもしれない。
そもそも彼が覚えているかが問題だ。しかし会えたらまず、お礼を言おう。覚えてなかったら、思い出させればいい。

 会えたら、の事を考えると止まらなくなる。
ーーー嗚呼、いつか会えるかな。


【Story 3*思い出の境界線。】

9 碧空.  [id : 9aBYDRl.] [2015-10-10(土) 17:17:58] 削除依頼


*.

 織り成す日常と、
変わらない日常に、

ーーー……愛を詠おう。


「……なんか、面白い事起こんないかなぁ」

 そう呟いたのは私か彼か、忘れてしまった。どちらにせよあの言葉には、数々の想いが詰め込まれていたのだろうと今になって考える。
悔やんだって仕方の無い過去をいつまでもいつまでも引きずる私は変わらず臆病だった。

「んー、そうだな……例えば緋染(ひそめ)が大勢の男子に告白されるとか?」
「……何それ、私が告白されるのが超面白いって言うの? 夕橙(ゆうだい)」

 彼の提案に語気を強めて問うとけらけらと軽快に笑った。嗚呼、その笑顔を見たら怒る気も失せてしまい。

 周りから見ると、“飼い主と仔犬”らしい私たち。最初は怪訝に思ったのだが、彼の表情や行動を観察すればすぐに納得してしまう。しかし私は、彼を仔犬ではなく猫の様だと思う。
自由気ままに生きて、やる事はしっかりやって。私の知らない間に色々こなしていく姿は尊敬できるものだ。

「ごめんって。……怒った? 怒っちゃった? 緋染」
「……別に。でも誰に言われようが、私は夕橙が好きだから」

 彼にそう言うと、目を丸くしたのちに抱き付いてきた。驚き体制を崩したが、すぐに直した。
夕橙の力が強くなっていく。彼の、男なんだなと実感するのは力が強い事。私よりも数センチ背が低いのに、力が入れば私は振りほどけない。

「……俺も、緋染が一番好きだよ!」

 嬉しそうな声色を鼓膜に響かせ、夕橙の笑顔を脳裏に描く。ありがとう、と小さく返事をして、私も腕を絡める。
好きだ、と彼に想いを告げる度、大きくなっていく恋の形。どうせいつかは壊れてしまうのだろうとは考えたりするけれど。

 ーーー……今は、このままで。


 二人で織り成す世界と、
二人の変わらない世界に向けて。


【Story 4*ありがとうの愛の詠。】

10 碧空.  [id : 1dXj40R1] [2015-10-11(日) 18:27:54] 削除依頼

【Novel Introduce.】*作品紹介です。

■[>3+4] 空の欠片。
 表題作です。空 × 絵、という、作者の好み詰め込み放題のこの作品。気に入ってます。

 風景画って、その風景の一部を切り取って自分のものにしているみたいで好きなんです。
見てるのが。はい、見てるのが好きなんですよ。
絵に微塵も興味を示さない人にとって、“絵”というのは紙の無駄だ、だっていつかは捨てるのだから。と思えるものかもしれません。
だけど私は、捨てるものでも大切だった時があるのだからそうじゃないよな、って考えてるんです。

 空が上手く描けるようになりたいです。

 CAST……名前は特に決めていません。
強いて言うなら……中学生 × 絵描き、って所でしょうか。


■[>3+6] 友達。
 今まで話した事の無かった“他人”とでも、ふとした事が切っ掛けとなって“友達”になった。
そんな経験、無いでしょうか? 例えば席が近かったり、同じ持ち物を持っていたり身に付けていたり……。
作者もそんな事がありました。その人とは今も仲の良いお友達です。
その切っ掛けを変えて、あの日を思い出しながら執筆していきました。楽しかった……。(笑)

CAST:唯鈴(いすず) × 美鈴(みすず)


■[>3+8] 思い出の境界線。
 これ、あのー……あれです。最初の言葉が書きたかっただけです。←
涙堪えちゃう女の子、周りに居ませんか? もしも居るなら、愚痴でも文句でも聞いてあげてくださいな。
それだけで心が軽くなる事もあるかもしれません。

CAST:華澄(かすみ) × 男の子。


■[>3] ありがとうの愛の詠。
 一見サバサバしているけど、実は内で深く繋がっている。そんな関係って素敵だなって思って、書きました。
二人の名前には色の名を入れています。今は普通だと思っている日常も、思い返せば大切なものに思えたり。
……青春だなあ……((

CAST:緋染(ひそめ) × 夕橙(ゆうだい)

11 碧空.  [id : 1dXj40R1] [2015-10-11(日) 18:43:59] 削除依頼


*.

 ーーー草木も眠る、丑三つ時。午前二時現在、靴をぬいで裏道を走り抜ける。小さな石が足にささって痛い。だけどそれを我慢して。
            、、、
 もう少し。もう少しで、あそこに着く。そうすれば、こちらのものだ。だからお願い、どうか警察には見付からないで。

「はぁっ……」

 聞こえないように、響かないように、抑えながら息を吐く。
夏とはいえ、この街の夜は肌寒い。冷たく暗いこんな夜は、世界に一人、取り残されている様な感覚に陥(おちい)る。

 ーーーいや寧(むし)ろ、一人なんて大歓迎、だけども。

(っ! 見えたっ……!)

 見えた。目的の場所の明かり。ちらちらと目に光を、心に安堵の明かりを灯す。

 やった。あと少しで、解放されるーーー。


「ーーー何、やってるんだ?」

12 碧空.  [id : SwM2UIT0] [2015-10-15(木) 22:14:48] 削除依頼

「…………へ……」

 やって……しまった。
この青い服装。白い手袋。胸元に付けられた紺色のバッジには、“夜凪街(やなぎまち)”と書かれている。。間違いなくこの街の警察だ。ここまで来て捕まってしまうなんて、自分の運の悪さに内心苦笑する。大体の年齢なんて身長で読み取れると思いながらも、私は幼さを見せまいと下を向いた。

「……どうしたんだ? こんなゲートの目前で……」

 男が再び問うてくる。

 “ゲートの目前”。
その若い男が降りかけてきた言葉を聞き、目線を持ち上げ前を見る。隣町と、この街との境界線、ゲート。あそこさえ抜ければ。あのゲートを通り過ぎれば後は、気を楽に生きていけた筈なのに。

「……てか、君何歳? 見たところ中学生だけどなに、何でこんな所に一人で居るの?」

 肩を掴みながら、男がべらべら問い掛けてくる。それを耳に入れた私は呆れ、そして同時に憎しみをも込めた息を漏らし、そののちきっ、と男を睨み付けながら答えた。

「連続で質問されるの、嫌いだから」
「……え。あ、ああ。ごめ……」
「名前と年齢なんて、教える訳ないでしょ。“知らない人に個人情報教えるな”って習ったしね。……ゲートに一人で居る理由、はー……」

 言葉を切り、目線を再び落とす。単純に、言いたくない。
言って、しまったらーーー。

13 碧空.  [id : Bg8olP6.] [2015-10-18(日) 11:32:54] 削除依頼


 ーーーぽん、と頭上に、何かが乗った。

「……は?」
「……まあ言いたくない事もあるよなぁ。けど、名前は教えてくれない?」

 ぽん、ぽんと、眉をひそめる私を無視して手を上下させる彼。その掌は大きくて、暖かくて、優しくて、ーーーだけれども苦しそうだった。
何故かは解らない。解らないがーーー。

「……れい。晴 黎衣(さやか れい)」

 小さな声で告げる。その声を彼が聞き取れたかどうかなんて知らないけど、それでも言ってみようと思って教えた名前。晴、なんて名字珍しくてよくからかわれたし、黎衣、なんて画数が多くて嫌になる。どうしてもっと簡単な名前にしてくれなかったんだろう、うちの両親は。
彼の掌が、やっと頭から離れる。ふっ、と笑って彼は言った。

「……黎衣、な。おっけー! 俺は弾(だん)。宜しくな!」

 弾。どこかで聞いた事のあった様な、無かった様な。それにしても夜道を一人で歩く女子中学生に、警察が宜しく、なんて笑顔で言うだろうか。
……まあいいか。捕まったら捕まったで、どっちみち楽に生きれるかもしれない。

「っし、黎衣。じゃあ行くかっ」
「はい? 行く、ってどこに?」
「はぁ? 決まってんだろ、ゲートの向こうだよ」
「…………はい?」

14 碧空.  [id : Bg8olP6.] [2015-10-18(日) 20:57:01] 削除依頼

「……待って。あんた馬鹿?」

 少し頭痛がする。どこの国に家出少女を連れ回す警察が居るというのだろう。……いや、だったらどこの国に、警察に連れ回される家出少女が居るというのか。更には態度も反抗的。大人からして見れば“反抗期の時期だからな”で片付くのだろう。

「何で? あと俺弾、ね」
「……弾。私家出してきたんだよ? それなのに何でそんな呑気なのさ。挙げ句の果てには目的地に連れていこうとするしさぁ」

 あんた、と呼ぶ事さえ許してはくれないのか。どうして名前で呼び合わなければならないのだろう。という素朴な疑問を、今は脇に置いといて。おかしいんじゃないの、と冷ややかな視線を弾に送る。
そしたらだってさ、と清々しそうな顔で呟いたのだった。

「目的地の目前で、目的を果たさず終わんのって……辛ぇだろ?」

 ーーーこの人は。
この人は今までに会った大人とは違う。なんて馬鹿げた理由で、家出少女の目的を果たそうとするんだろう。……嗚呼きっと、この人はおかしいんだ。変、なんだ。家出なんて阿呆らしい事を考える私と、同じ様に。
しかし同時に不安になる。この人に、こんなお人好しに、警察なんて国を守ると言っても過言では無い程重要な仕事が勤まるのか。どう考えたって勤まるとは思えないが、どうしてこんな人が採用されたのだろう。夜凪街でさえおかしいのかな。

「ほら、朝実町(あさみまち)だ。……皆寝てる時間だから、静かにしろよ」
「……うん。……ほんとに皆、寝静まってるね。賑わってるって聞くのに」

 水を打った様な静寂。だけど朝実町の夜はどこか心地好くて暖かい。空も同じで夜なのも同じなのに、どうして夜凪街とは変わるんだろう。……やっぱりここの人達は、人柄というものが違っているのだろうか。
空を見上げる。黒に近いのにそれでも青い夜空が、昔から好きだった。金色の星も月も綺麗に魅せてくれる、そんな夜空が。この町の夜は暖かく、世界で一番、幸せになった様な気分に陥る。

 前を向き直って町全体を見回してみる。電柱やら建物の壁やら、掲示板やらに貼り紙がしてあった。何かのイベントでもあるのかな、と特に疑問を持つ事も無く目を離す。
家々の扉の脇には、小さなランプが取り付けられている。これが暖かさの秘訣かな。夜凪街にはこんなの無いから。等間隔に街灯が建ててある。その明かりはぼんやりと、いつかの私の過(あやま)ちを映し出し、浄化してくれる様な気さえした。

15 碧空.  [id : OJ/gT0M/] [2015-10-19(月) 22:21:16] 削除依頼


「……黎衣?」
「…………ここの街灯、好き……」
「……ああ、」

 あの街から、夜凪街から離れただけで、こんなにも温度差を感じる。それは人柄の違いかもしれないし、該当の明るさの違いかもしれない。明るい町に見せる為の工夫があるのかもしれないし、ーーー隣に誰かいるからかも、なんて思ったり。

「……なぁ、聞いていい?」
「……何を?」
「黎衣が、この町に来たがった理由」

 ああ、と思わず呟く。そう言えば言ってなかったね。

「……私、小さい頃に母親出てって。
 今父親と暮らしてるんだけど帰ってくる事少ないし、面倒臭くなってさぁ。
 学校はって思うかもだけど、はっきり言って私、不登校気味で。
 みんな興味なかった奴が一人居なくなった位で、
 いきなり興味示す訳無いしもう良いや、って思って。それで」

 こんな事を淡々と話す中学生をおかしいと思うだろう。普通の人なら。でも起こった過去は変えられないしましてやこっちは被害者なんだから、別に悲しそうに苦しそうに話す必要はないんじゃないか。

「……全部頑張ろうとしてる人間って、なーんか気持ち悪く思えんだよなぁ」

 心が汚れてるからかね。弾は苦笑しながら言う。

「……今日、つーかこれからどうすんの? 寝る場所は?」
「あー……その辺で良いと思わない? 厄介になりそうだ」

 それもそーかと静かに、でも大笑いして、弾は前へ前へと進んで行った。

16 碧空.  [id : OJ/gT0M/] [2015-10-19(月) 23:19:36] 削除依頼



  
「……弾っ。私ちょっと散歩してくるねっ」

 振り返って知らせる。昨日は進んだ先に空き家を見付け、そこを借りて泊まる事にし。何故だかリビングだと思われる部屋は真ん中に板の様な物が置いてあり、分かれて眠りについた。
がらんとした部屋に私の声は小さく響き、次いで弾の声が聞こえるかと思いきやそんな事は無く。きっとまだ寝てるのだろうと思い、静かに家を出る。

 まだ明け方。太陽も今、やっと上り始めた所だ。それを見て、私あんまり寝てないんだなと考える。だけど目覚めが良いのは、きっと場所が良いからなんだ。
多分、みんなもまだ夢の世界で遊んでいるだろう。そんな推測のもと、来る時と同じ様に靴をぬぎ、足音を消しつつ歩く。向かう先は、昨日目にした掲示板。実は内心、気になっていた。

「……え…………?」

 驚きと動揺を隠せず、持っていた靴を落としてしまった。それを拾おうともせず、ただ目前にある貼り紙を急いで手に取り身を翻して空き家へ戻る。
なんで。なんで。なんで。嘘だよ。ねえ誰か嘘だと教えて。心の中の黒い何かが、まだはっきりしない明るさを身に付ける街灯を汚していく。昨日はあんなに綺麗だったのに、穢(けが)れて汚れて、私を黒く黒く染めていく。

「弾!!!」

 思いきり扉を開け放つ。弾はそこに居た。

「黎衣、お早う。……気付いた?」
「軽いよ、言い方……これ本当?」

 情けない程に声が震える。肩で息をし握りしめていた貼り紙を弾の目前へ勢いよく見せ付ける。お願いだから嘘だよって言ってよ。ねえこの間はなに。どうして何も言わないの。
この指名手配書の男の人ーーー弾と同じ名前で、同じ顔なんだよ。

「……ひと、ご、ごろ、しとか、弾がする訳無いもん、間違えられてるんだよね」

 写真の下、「警察官を一人こ.ろし、服と帽子を奪い逃亡。」と書かれている。噂が捻られ事実がねじまがって伝わったんだ。

「……本当だよ。俺、逃亡犯。警察なんかじゃない」

 本当だよ。弾の言葉が耳にこだまする。嗚呼、ちょっと合点がいかない。
漠然としない真実に目眩がする。何処かで泣いてる赤ん坊の声も食欲を掻き立てられるパンの香りも徐々に明るみを持つ太陽も、全て敵に思えて仕方がない。
白んでいく目の前の、明るく暖かい町の風景が私に視線をつきさしてくる。いつの間にか街灯は消え、子供の声が家々の中に響いていた。

 嗚呼冷たい夜が恋しい。嗚呼暗い夜を求めたい。あの街の風景に手を浸け指を浸け足を浸け口先を付け、そして元の場所に留(とど)まり溺れていたい。
なんて嘘の多い世界。無くなれば良いのになぁ。


【Story 5*冷たい夜に口付けを。】

17 碧空.  [id : B7nBM3G1] [2015-10-20(火) 21:48:25] 削除依頼


*.

「……こんにちは」

 四角くて、真っ白くて、何も無い世界。そんなつまらない世界に、来る筈の人では無い女の人がやって来ました。桃色の女の人。少女は不思議に思い、首を傾げます。何時(いつ)ものあの人は来ないのだろうか。この人は誰なのだろうか。不安と恐怖に駈(か)られ、少女が小刻みに震えながら一歩、後ずさります。鎖(くさり)がじゃり、と鳴りました。

「……ああ、大丈夫よ安心して。悪い事は何もしないから」

 優しく微笑むその人を、白くて綺麗なその掌を、少女は信じる事にしました。女の人は部屋に入り少女の鎖をじゃらりと鳴らした後、問い掛けます。

「今日、何時ものあの人は居ないの?」

 突如飛び出た疑問に、少女はびくりと肩を震わせます。どうして此処に、自分とあの人が居る事を知っているのだろうか。一度は抑えられた恐怖が、再び蘇(よみがえ)って少女を襲います。少女の顔を覗き混む様に姿勢を低くした女性の髪が、さらりと下へ垂れ下がる様子を、少女は怯(おび)えながら見ていました。

「ああ。そんなに恐がらないで。貴女を救いに来たのだから」

 救いに来た。その意味がよく解らずに、少女が壁にもたれ掛かります。脚(あし)を前に出しました。じゃらん、と音が鳴ります。

「……その鎖、重いでしょう? 辛いでしょう?」

 女性が近付いてきて、脚と手に繋がれた鎖をするりと優しく撫でました。辛いだとか重いだとか、感じた事も考えた事も有りませんでした。生まれ物心付いた時からこれが普通で、少女の世界に居るのは自分自身と、何時ものあの人なのでした。だからこの女性は少女にとって“未知の人”。世界を破って入ってきて、新しく世界を広げた、侵入者なのです。


「ねえーーー私と一緒に、行きましょう」

18 碧空.  [id : q2jRm4M1] [2015-10-22(木) 20:34:21] 削除依頼

 行く、……行く?
何処へ行こうと言うのか、この女性(ひと)は。少女は目を丸くさせ、女性を見詰めます。此処以外の世界があるなんて、少女が知る筈も無い事だったのです。
だから少女は、差し伸べられたその手に、未知の世界への幕開けに瞳を輝かせました。自分の世界が広がる事に希望と好奇心を懐(いだ)き、手を重ねようとします。

「何をしているの!?」

 聞き慣れた声が響き渡りました。何時ものあの人です。少女が驚いて手を引っ込めると、鎖はまたもじゃり、と鈍くぶつかり合いました。

「……あら、お帰りなさい」
「……貴女、来ないって言った筈よ。近付かないと約束した筈」
「そうだったかしら。ごめんなさい、覚えていないわ」

 二人が言い合いを始めます。少女がどうしたら良いのか分からずあたふたしていると、女性が手を取り微笑みました。

「ごめんなさいね。ーーーさぁ、行きましょう。外の世界へ」

 走り出すと、頬を風が気持ちよく撫でていきます。脚や手を繋いでいた鎖は粉の様に消えてしまいました。あの人の叫び声が聞こえます。待って、待って。行かないで。
振り返ろうとしましたが女性はやめなさいと小さく言い、黙って従うと突然目の前が白みました。思わず目を瞑ります。



「あ、ああ…………」

 壊れた白い世界に、啜り泣く声がこだまします。あの人の声でした。その一歩二歩、進んだ先には緑の芝生、そしてーーー赤く染まったあの少女。
止めたのに、だからあの女を近付けない様にしていたのに。少女が望んだのは変わらない日常より、見た事の無い世界だったのです。

 外の世界に興味を示し始めている事には、薄々気付いていました。だけどあの人は頑なに拒み、外の世界について教えようともしませんでした。弱く脆い少女が、外の世界に耐えられず壊れてしまうと知っていたから。
狭くても構わない、此処で大事にしていこうと決めたのにーーー。

 後悔してももう遅い、戻って来ない少女を前に、あの人は泣き続けました。
ずっと、ずっとーーー。

19 碧空.  [id : q2jRm4M1] [2015-10-22(木) 20:42:57] 削除依頼



「……こんばんは」

 四角くて、真っ白くて、何も無い世界。そこに来たのは見慣れない、髪の長い女の人。少年は部屋の中央から一目散に駆け出し、隅に小さくなって女性を警戒します。

「……ああ、大丈夫よ安心して。悪い事はなにもしないから」

 女性は優しく微笑んで、そして少年に手を差し伸べながら言いました。

「ねえーーー私と一緒に行きましょう」


【Story 6*世界。】

 世界は色々で人それぞれで、十人十色だから。

20 碧空.  [id : kEj8dWR.] [2015-10-23(金) 21:55:08] 削除依頼

【Novel Introduce.】*作品紹介です。

■[>11-16] 冷たい夜に口付けを。
 夏って出してしまった。うっかり。
素敵な題名は、小説準備板「タイトル素材屋さん」よりお借りしました。泣き子様、ありがとうございます。
さて、この物語の主要人物の二人の名前に隠されていた秘密、分かったでしょうか。
“黎衣”と“弾”。“れい”と“だん”。“冷”と“暖”。です。

 夜凪街と朝実町。夜凪街よりも朝実町の方が若干小さな設定です。
人の名前よりも考えるのが楽しかった。……うん……(笑)
「。」が二つ繋がってるところ、ミスですね。;

CAST:晴 黎衣(さやか れい) × 弾(だん)


■[>11-19] 世界。
 童話風なお話を書きたかったんですが……難しい。プチホラーっぽくなってしまった……。
女性は少女を連れ出し捨てて、次は少年の前へ姿を現しました。そして少年はどうなったのか、女性はどうしたのか。未来を想像するもしないも、お任せします。

CAST:少女 × 女性

21 碧空.  [id : kEj8dWR.] [2015-10-23(金) 22:22:56] 削除依頼


*.

「……紅(べに)ちゃん、ですか」
「ああ。紅、だ。……俺の妹のな」

 友達の赤広(あかひろ)が、僕にこうして頼み事をしてくると言うのは珍しい事だった。わざわざ家に押し掛けて来てまで頼みたい事とは何なのだろうと、驚き身構えていたのは数分前の出来事。
そう。この珍事(ちんじ)の発端は、ほんの数分前なんだ。


『……どうしたの、赤広さん。妹を外に出したいだなんて』
『お願いだ。妹は自分の見て呉れ(みてくれ)を気にしてか、部屋から一歩も出て来ねぇ。このままじゃあいつ、おかしくなっちまうよ』

 相当思い詰めていたのだろう。僕の両肩を掴む力は強く、赤広さんのがっしりした腕と共に僅かに震えていた様な気がした。

『……なあ、頼むよ黄瀬(きせ)。どんな手を使っても良い。だからーーー』

 “五日間の内に妹を、外に出してやってくれ”ーーー。

22 碧空.  [id : bZd9qxt/] [2015-10-25(日) 00:53:10] 削除依頼

(紅、赤広、……この一家は赤色を主流に名付けているのだろうか)

 赤広さんからは想像できない、和風の家である。各部屋の入口は襖(ふすま)、どの部屋も見る限りは、畳が敷かれている。曲がった先、ひとつの部屋が見えた。あれが紅、の部屋らしい。赤広さんは説明が上手く、大きなこの家の中で迷わず目的地へ辿り着く事が出来た。
襖の前まで行き、トントン、とノックする。

「……あの、紅さん、居ますか」
「ひぁっ、いっ、居ますっ……」
「…………え?」
                  、、
 驚き、外から一歩後ずさる。だって、あの赤広さんの妹だぞ。こんなに控えめで小さな声の筈、無いじゃないか。きっと、唯一部屋に入れるお手伝いさんか何かだろうと、勝手に推測してみる。
コホン、と咳払いをひとつ、今一度問うてみる。

「……えっと、紅さんは……」
「わっ、わたし……です……」
「……はい?」

 カタン、と微かに音がしたかと思うと、彼女のか細い声が少しだけ、近くに来た様に感じられた。

「わたし……が、紅、……です」

23 碧空.  [id : /VWt7Rj.] [2015-10-26(月) 17:16:05] 削除依頼

「…………あ、……」

 別人だと、この子を信じなかった事への後悔と恥ずかしさが、一気に押し寄せる。何を言ったら良いのか分からず、何も言えず黙っていると、先に口を開いたのは紅だった。

「……貴方は、誰、ですか? わたしの事を……わ、笑いに来た、の?」

 ーーー“笑いに来た”。

 何なのだろうかこの子は。本当に赤広さんの妹なのか? ちゃんと血は繋がっているのだろうか。何故こんなにもネガティブ思考に走るんだ。嗚呼、あまりじめじめしている雰囲気は好きではないのだがーーー。

24 碧空.  [id : 5GgeZMc0] [2015-10-28(水) 20:21:15] 削除依頼

「……僕はあかひ……君のお兄さんの友達で、妹が居るってんで……会いたいなと思って来たんだ」
「…………ひろお兄ちゃんの……お友達……?」

 彼女の声は小さく、襖に耳をくっ付ける。

 “ひろお兄ちゃん”なんて呼ばれているのか。赤広さん。それにしてもあの性格の人に“お兄ちゃん”だなんて、合わなさすぎて笑えてくる。場の雰囲気を変えようと、なるべく明るい口調で話し掛ける。まあ声色からして年は離れているだろうし、頼めば聞いてくれるだろう。

「そう。だから顔を見せてくれな……」
「やめてよっ…………!!」

 ドンッ、と大きく鈍い音が耳元で聴こえ、思わず耳を離す。一体どうしたんだ、心臓が飛び出るかと思った。
隅々まで掃除されているのが分かる廊下が、外から入ってくる光が反射して眩しい。次いで、啜り泣く様な声まで聴こえてきた。

「紅ちゃ……」
「わたしは絶対外になんて出ない。例えひろお兄ちゃんのお友達だって、絶対にこの姿は見せないんだからっ…………!!」

25 碧空.  [id : 5GgeZMc0] [2015-10-28(水) 20:31:14] 削除依頼

「……」

 ふぅ、と息を吐き、静かにゆっくり問い掛ける。

「どうしてそんなに人前に出るのを嫌がるのか……聞いても良い?」
「……みんな、が……」
「……ん?」

 少しの間を空けて、紅は話し始めた。話すと思い出してしまうだろうに。信用してくれたのかな、と思うと、何だか照れ臭い気持ちになった。

「……みんながわたしの方を見て笑うの……。なんにもしてないのに。なんにもしてないのにこそこそ話をされたり、苛められっ、たりっ……!!!」

 啜り泣く声はいつしか、れっきとした泣き声に変わった。余程辛かったのだろう。覚えが無いのに苛められるのは、苦しいと思う。そりゃあ外に出たくなくなるだろうな。
突如声がくぐもったのは、布団か何かに突っ伏したためだろう。

26 碧空.  [id : 5GgeZMc0] [2015-10-28(水) 20:43:57] 削除依頼

(……こりゃ、厄介だなあ……)

 思っていたよりも自分の意見を曲げない子だな。そんな所は意外と赤広さんにそっくりだな、と思った。
いつの間にか入っていた肩の力を抜いていく。最初は乗り気では無かったこの頼み事。結構面白くなりそうだ、赤広さんには悪いが、暇潰しとして楽しませて貰おう。
必ず部屋から出して見せようじゃないか。この、五日間の内に。

「ーーーまた、来るよ」


【Story 7*紅。】

27 碧空.  [id : 7WsNxmC0] [2015-10-29(木) 21:00:20] 削除依頼


*.

「……すみません、黄瀬(きせ)ですけど」

 玄関に向かって声を投げ掛ける。こんな時、呼び鈴があれば便利なのに。
今日が二日目。期限は残り三日。正直に言って、あの部屋から一歩でも出せる自信はあまり無いが。

「……すみませーん」

 返事が聞こえなかったため、もう一度繰り返す。途端どたばたという足音、そして今行きまーす、と言う声が耳に入ってきた。
がらら、と玄関の扉が開けられる。現れたのは肩程までの髪の毛を顔の横で束ねた、赤広さんよりも少し年上らしい女性。

「黄瀬君、いらっしゃーいっ」
「あ、こんにちは、深紅(みく)さん……」

 深紅さんと言って、赤広さんのお姉さん。たまにこの家へ訪ねて来た時、お世話になる。料理も運動も得意で、所謂(いわゆる)“美人”の類いに入るだろう。本人が仰るに「勉強はちょっと……」らしいが。

「今日も紅(べに)を宜しくね、……の前に」
「……前に?」

 深紅さんの言葉に疑問を懐(いだ)き首を傾げる。深紅さんは少々考えた素振りを見せた後、親指である部屋を差し「ちょっと話さない?」と笑ったのだった。

28 碧空.  [id : 6c7UtBl/] [2015-10-31(土) 23:01:47] 削除依頼


「……お待たせ、ぜひ飲んで」
「……ありがとうございます」

 出されたお茶を啜る。熱くて、「あち」と小さく呟いたら深紅さんに笑われた。それでね、と深紅さんが話し始めたので、湯飲みをコトリと置いた。

「ありがとね、毎日。赤広(あかひろ)の我が儘に付き合ってくれて」
「あー……」

 その話か。絶対に紅を外に出して欲しいとか言われるかと思った。

「……あの子と友達だと大変でしょー? 色々」
「まあー……でも楽しいですよ、一緒に居ると」

 赤広さんは楽しい。たまに気が強くて、命令してきたりもするけれど。色々な道や場所に詳しくて、赤広さんが連れていってくれる所は僕の知らない所だらけだ。
例えばプラネタリウムに連れてってやると言われ、森を突き抜け辿り着いたのはどこよりも綺麗に星空が見える空き地だった。昔は大きな屋敷があったらしいと教えてくれた。

 ありがと、と再び、深紅さんが小さく溢した。

29 碧空.  [id : IkaBK5t.] [2015-11-01(日) 19:35:53] 削除依頼


「ようかんとか食べられる? ババロアもあるよ」
「あ、どっちも大丈夫です……じゃ、ようかんを……」

 はーい、ちょっと待っててーと間延びした返事ののちに、トン、トンという規則正しいリズムで、音が聴こえてきた。ようかんを切り分けている音。
招かれる部屋は座敷の様な所で、出される飲み物はお茶。茶菓子はようかん。見える限りで和室が多く、家の見掛けも和風だ。本当に日本らしい家だな、ここは。よくこんな家で、赤広さんが育ったものだ。
深紅さんも赤広さんも紅も、全員性格が違ってまたも、血の繋がりを疑いたくなる。まあ人の家の事情に口を出す程の暇も、首を突っ込む程の興味も無いのだが。

「……赤広はさぁ。本当に紅を可愛がっててねー」
「……え、」
「ある日突然紅が引きこもっちゃって、一番焦って心配してたのは赤広なの。……きっと一番悩んだのも」

 はい、とようかんが目の前に出されると同時に、下を向く。どう反応したら良いのか分からない。こんな事態に巻き込まれた事なんて今までに無かったから。

「あの子の部屋が夜遅くまで電気ついてたの見てた。あの子が頑張りすぎて、いつか壊れちゃうんじゃないかって心配しててね。だから……」

 理由も聞けずに姿を見れなくなった紅と、紅を助ける為に夜更かしし続ける赤広さん。その一番上に立つ者として、深紅さんはどんな気持ちだったのだろう。今目を僅かに潤ませている深紅さんを見て、昨日の自分の考えを酷く情けないなと感じた。

「黄瀬君が来てくれて、凄く安心したの」

 ふわ、と優しく笑った深紅さんが、とても大きな物を抱えている様な気がして。

30 秋夜 織、  [id : P5bg/Kx1] [2015-11-01(日) 20:59:53] 削除依頼


こんにちは。お久しぶりです。
色を名前にするって…私たちやっぱり気が合うんですかね←
私の「虹の降る海」でも使っちゃってますよ。笑笑
ついでにあなたの名前からも一文字頂きましたよ←

はい。やっぱり私は碧空.さんの作品大好きです。
これからも応援しまくりです。

私の、ところにもたまには遊びに来てね!(^ε^)-☆!!笑
(サクサク番外編も書いたよ←)
では失礼致しました!

31 碧空.  [id : BfkPDh70] [2015-11-01(日) 21:30:27] 削除依頼



 トントン、と紅の部屋の襖を叩く。「……黄瀬、さん……?」と語尾に疑問符を浮かべて問うてきた。

「僕だよ、紅ちゃん」
「……黄瀬さんだ……」

 ほ、と息を吐く音が耳に入った。どうやら赤広さんの友達、という事で信用されているらしい。信じてくれているのは嬉しいが、もし赤広さんの友達では無かったらどうだったのだろうと考えてしまう。

「ねぇ、今日は何かあった? ひろお兄ちゃんには会った?」
「特に何も……あ、来る途中に猫に会ったよ。白と薄茶が混じった様な毛色をしていた。少しだけ斑模様(ぶちもよう)でさ。赤広さんにはーーー」

 はた、と思い出す。そういえば今日、あの人に会っていない。依頼主自らこの時間を設定したのに、依頼主自らこの時間を守らないとは。昨日帰り際に「明日、待ってるな」とひきつった笑顔で言っていた人のやる事だろうか。

「猫かぁ……会いたいなぁ。……あ、そうだあのね、聞いて黄瀬さん」
「…………あ、うん。何か、あった?」
「……今日ね、換気しようと少しだけ窓を開けたら、さんの所に小鳥がとまってチチッて鳴いたの。あんまり可愛くて、スケッチしちゃった」

 見せれたら良いけど、という呟きが聞こえた気がした。だったら見せに来いよ、と小さく呟き返す。

32 碧空.  [id : X4Sv38E/] [2015-11-05(木) 20:52:45] 削除依頼

[>30・秋夜 織、様]
 わああぁああっ。お久しぶりですお久しぶりですっ!!
気が合いますね! 色って名前に困った時の助け船((
読んでます。「虹の降る海。」も「花のにおい。」も全部読んでるんです。(笑)
行きたいけど勇気が無かったの←

 わー! わー!
私も雪芽姉の作品も雪芽姉自体も大好きだよ!!((きゃー
サクサク番外編も実は読んだんだよ! 今から行くね!

 ……こんなテンション高い私ですが、これからも宜しくね。(笑)
たまには話そうね!

33 碧空.  [id : X4Sv38E/] [2015-11-05(木) 21:49:23] 削除依頼


「……ね、黄瀬さん。わたし、絵を描くの、好き。下描きが上手く描けると嬉しいし、それが黒く縁取られていくのも楽しい。綺麗に綺麗に、色付いていくのも好き。……黄瀬さんに、見せたい」
「…………だったら、」

 そこまで言いかけて口をつぐむ。言ってはいけない事だ。先程呟いた言葉は聞こえてないだろうから、まだ大丈夫だ。
でも。ここではっきりと言ってしまったら、もっと心を閉ざしてしまうかもしれない。何か理由があって姿を現さない人に向かって「来なよ」なんて言葉、掛けてはいけない。

「……僕も、見たい、けど」
「……本当に? 黄瀬さん」

 紅が描いた絵も見たい。だけど今一番見たいと思うのは、紅のその姿だった。

 ……待てよ。
急かす様にしたら逆効果だ。だけどそれは本人の性格にもよるかもしれない。一応作戦として、言葉を掛けてみるのもありだろうか。掛ける言葉に全てを賭ける……なんだか良い。

「うん。見たい。……だから、見せてくれない、かな。その小鳥を描いた、紅ちゃんの絵」

34 碧空.  [id : bIazNSo0] [2015-11-08(日) 20:31:41] 削除依頼

「……え、」

 やっぱり困惑するよな。だけど頑なに部屋から出ようとしないこの子を、あと三日で出せる自信が無くなりつつあるのだから仕方がない。相手も見せたいと言っていたし、僕だって見てみたい。見せてくれないかと頼めば、出てきてくれるのではないかと思った。
心拍数があがっていく。ーーー途端、どたばたと足音が聞こえてきた。

「黄瀬君っ……!!」
「深紅さん?」
「お願いっ……!!」

 はぁはぁと息をきらしながらしきりに、「お願いだ」と繰り返す深紅さん。しかし肝心なその内容は一向に話されず、「何がですか?」と僕は聞いた。「……何のお願い、ですか?」

「お願いだからやめてっ……」
「……だから何の事ですかっ」
「無理矢理出そうとするのはやめてってば……!!」
「……無理矢理、ですか」

 “見せたい”と言っている相手に対し、“見たい”と言っている僕が“見せてくれ”と頼むのが、“無理矢理だ”と言うのだろうか。そもそも深紅さんも出してほしいと思っている筈なのに、その本人が声を荒らげてまでやめてくれと頼むのはおかしいと思うのだが。
「無理矢理ではないと思います、これ」と主張する。深紅さんは「あたしが望むのはね、」と弱々しい声で深紅さんは言う。


「あたしが望むのは紅が、自分から“出たい”って言ってくれる事なのっ……!!」

35 碧空.  [id : bIazNSo0] [2015-11-08(日) 20:56:37] 削除依頼

「おね、ちゃん……」
「赤広は出したいんでしょ、紅を。どんな手を使ってでも。でもあたしは違う。紅が望まなきゃ、外に出たって苦しいだけだと思うの。だから自ら、望んで外に出てほしいのっ……」

 ーーー噛み、合わないんだ。赤広さんと深紅さんは。
「どんな手を使ってでも外に出してやりたい」赤広さんと、「紅が自ら外に出たいと思ってくれるまで待つ」深紅さんは。

 目の前で涙を流す深紅さんを、僕はどうする事も出来ずただただ見詰めていた。


【Story 8*深紅。】

36 碧空.  [id : EDqcoyq.] [2015-11-09(月) 21:22:44] 削除依頼

【Novel Introduce.】*作品紹介です。

■[>21-26] 紅。
 「或る夏の日。」の方で書かせていただいた物のリメイクです。……リメイクって言える程変えてないんですが。(笑)
一応私は、今よりもちょびっと昔の時代として扱っていますが、歴史に詳しくないので「和風の家」って設定にしてます。裏話。(笑)
個人的に紅が凄く好きです。作者ですが。←
あと黄瀬君。一人称をたまに間違えてしまうのをどうにかしたい。

CAST:黄瀬(きせ) × 紅(べに) × 赤広(あかひろ)


■[>21-29、>21>21-35] 深紅。
 「紅。」の続きです。この、深紅と書いてみくと読む名前は結構お気に入りだったりします。家族思いなのです。
赤広とも紅とも仲良くしてたいんです。

 [>21]訂正なんですが、“深紅さんは「あたしが望むのはね、」と弱々しい声で深紅さんは言う。”とありますが、後の方の深紅さんは、を消して読んでください。すみません;

CAST:黄瀬(きせ) × 紅(べに) × 深紅(みく)

37 碧空.  [id : GCWnGpe.] [2015-11-11(水) 21:06:53] 削除依頼


*.

「……で、俺にどうしろと?」
「いや、赤広(あかひろ)さんには言っといた方が良いと思っただけ」

 友人の黄瀬(きせ)が言うに、俺と姉、深紅(みく)の意見が交差しているらしい。

 妹の紅(べに)が、もうずっと、自室から出てこない。このままではおかしくなってしまうと心配し、俺は黄瀬に「五日間の内に紅を外に出してやってくれ」と頼んだ。そして今日は三日目。期限は残り二日。黄瀬は特に焦る様子も見せず、冷静に今の状況を報告してくれた。
「どんな手を使ってでも良い」と俺は頼んだが、姉は「自ら望んで外に出てほしい」と言い張っているそうだ。

「……姉さんは頑固だからな……」
「……良いじゃない。家族思いで優しい人だと思うけどね。今回の件だって、紅ちゃんの事は勿論、赤広さんの事もちゃんと考えてたよ?」
「……なんだお前、惚れたか」
「なんでそうなるかな」

 気が強い、とよく言われる。その所為(せい)で、友人と呼べる様な人はあまり居なかった。そう考えると黄瀬は、良い奴なのかなとも思えてくる。
ガタ、とふいに黄瀬が椅子を引いた。

「……じゃ、今日も行ってくる」
「……おう、宜しくな。頑張れ」

 ふっ、と口元を緩ませながら、黄瀬は手を振り出ていった。

38 碧空.  [id : 2Gpecl.0] [2015-12-06(日) 18:55:01] 削除依頼


(……赤広さんは、深紅さんが嫌いなのだろうか)

 冷たい廊下を進みながらそんな事を考える。そもそも、深紅さんが頑固なら弟の赤広さんも、頑固だと思う。頑なに部屋から出てこない紅も、頑固だ。他人の僕から言わせれば、この兄弟姉妹は仲良くみんな頑固である。

 どうしたって、紅の意見も赤広さんの意見も深紅さんの意見も取り入れながらこの件を解決させるなんて、無理な話に思う。だったら内事情を知らない僕になんて頼まず、家族間の問題は家族間で解決してくれれば良いのに。

(……いや、違うか)

 赤広さんも深紅さんも、分かっているのかもしれない。ただ、不安なんだ。噛み合わないまま紅を振り回すような事をして、更に、なんて事を考えれば。

 目の前に姿を現した紅の部屋の襖を、トントンと叩く。「紅ちゃん、居る?」

「黄瀬、さん」

39 碧空.  [id : xp4NUYg.] [2015-12-31(木) 00:44:53] 削除依頼

 いつものように、僕の名を呼ぶ紅の声が少し、元気を失っている気がした。

「……何か、あった?」

 気になって問うてみるも、答えらしき返事は無い。彼女はどんな表情をしてるのか、どこを見ているのか、今本当にそこに居るのか、途端不安になった。長い廊下のあの角から誰かがこちらを覗いている様な、恐ろしさ。冷たい空気の重さが、ひしひしと伝わる様な沈黙。暫くして、襖に吸い込まれるかのように聞こえてきた声は、わずかながら震えていた。

「……わたし、のせいで、ひろお兄ちゃんとお姉ちゃん、喧嘩してるんでしょ……」

 一瞬、一瞬ぎくりとした。ああ、僕と紅の間に、襖があって良かった。今の僕はとても、情けない顔をしているだろうから。昨日の深紅さんの言葉だろう。喧嘩とまではいかないが、紅が原因でふたりの意見が分かれているのは確かだ。でもそうだろうな。紅の部屋の真ん前で叫んだ深紅さんの言葉は、もちろん襖をとおって部屋主の耳へ届くだろう。

「でもわたし、どうすれば良いのかわからないの。きっとどうにかするべきなんだろうけど……っ」

40 碧空.  [id : PXLJNAD.] [2016-01-11(月) 19:15:47] 削除依頼

「……わたしが外に出たら、ぜんぶ解決するのかな。わたしが外に出ないから、みんながいらいらしちゃうのかな……」

 小さな小さなその声は、苦しみを懐(いだ)いて廊下へ渡ってきた。空気に溶け込んで、冷えて廊下を滑っていく。紅はどうして、外に出たくないんだっけ。
笑われたり、こそこそ話をされたり、苛められたり、それだけが理由なのか、それが本当の理由なのか、疑うべきでは無いような理由を、疑っている自分が居る。

「……紅ちゃん。何で外に出たくないのかもう一度、聞いても良いかな」
「……へ、」

 少しの間を置いて、紅は躊躇いがちに話し始めた。聞いて良い事だったのかは、わからない。

「……みんなが笑うから。苛めるから。こそこそ、話をする、から……」

 そこで、気付いた事がある。
もしかして。もしかしたら紅はーーー。

「ありがとう。……ごめん、また明日っ」

 そのまま小走りに外へ出る。玄関で深紅さんにどうしたのと聞かれたが、お邪魔しましたとだけ返事をした。出てくれるだろうか、この、方法で。


【Story 9*黄瀬。】

41 碧空.  [id : GsX5os6/] [2016-01-20(水) 22:33:05] 削除依頼


*.

「……ああ、分かった。……把握してるとは思うが、期限はーーー」

 玄関の方で、弟ーーー赤広(あかひろ)が話している声が聞こえる。電話してるんだろうな。声が途切れ、ガチャと音がしたのを聞いて、柱から頭だけ出して問う。

「今日、来ないんだ。黄瀬(きせ)君」
「らしい。準備したいそうだ。紅(べに)のために」

 深紅(みく)さんにもよろしく、と言っていたよ。
弟はそう言い残して、二階へあがっていった。よろしくなんて、寧ろこっちが言う方なんだよなあ。笑みを溢しながら、ボウルやら泡立て器やらを棚から出す。赤広に、お菓子つくってもっていこう。……紅の分も。

 二階から、バサバサと激しい音が聞こえた。

42 碧空.  [id : D9K8z.L0] [2016-08-27(土) 22:21:15] 削除依頼


*.

 チクタクと、時が刻まれる音が小さく響く。現在時刻、深夜二時。彼女はちらりと時計を見、それでも手を止めることは無かった。
目の前には大きな画用紙、左手にはパレット、右手に持っている筆を水の中に入れて、その手で絵の具入れをあさり始めた。
彼女の絵の具を探す手の、群青や桜に染まっていたのを、じっと眺めていた。

「……紫、の、絵の具……あれー、無い……」

 さっき使って、戻したはず……あれ、戻した……? 戻したっけ……?
なんて呟きながら。何時間も進めていた手をやっと止めて、今度は絵の具探しのためにからだと口を動かし始めた彼女。寝不足のせいか追い詰められてるせいか、最近物忘れが激しい。

 この声に、気付くことなんて無いことくらい、知っているのに。
この声が、彼女に届くことが無いことに、何度もなみだしたのに。
また、懲りずに役に立ちたいなんて思ってる。

「……紫……うーん……あ、まずはココアをおかわりしようかな……落ち着こうかな……」

 うん、そうしよう……。
声をこぼし、カップ片手に、彼女は席を立った。

43 碧空.  [id : ijjy99k.] [2016-08-29(月) 22:27:53] 削除依頼

 彼女の手は、すごく綺麗だった。
様々な色に彩られた、彼女の絵よりもきれいな彼女の手の熱を感じることが、何よりも存在意義だった。使われている感覚。ああ、必要とされている。

 彼女は忘れてしまったのだろうか。水彩を始めた頃から、ずっと一緒に居たのに。もう、埃を被ってしまったよ。もう、本に埋もれてしまったよ。もう、もう、もう。

「さあ……続けるかな……」

 扉が開いた。彼女の右手のカップからは、白い湯気が出ていて。

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