空の欠片。43コメント

1 碧空. id:Y4g0UnL/

2015-09-28(月) 00:02:51 [削除依頼]

  拾い集めたのは欠片。

 水色の中に白い何かがあったり、
 夕色の中に紅いのが浮いてたり。

 紺色の中に瞬くものがあったり、
 紫色の中に桃色が泳いでいたり。


  拾ったのは空の欠片。


    綺麗で大切な、空の欠片。
  • 24 碧空. id:5GgeZMc0

    2015-10-28(水) 20:21:15 [削除依頼]
    「……僕はあかひ……君のお兄さんの友達で、妹が居るってんで……会いたいなと思って来たんだ」
    「…………ひろお兄ちゃんの……お友達……?」

     彼女の声は小さく、襖に耳をくっ付ける。

     “ひろお兄ちゃん”なんて呼ばれているのか。赤広さん。それにしてもあの性格の人に“お兄ちゃん”だなんて、合わなさすぎて笑えてくる。場の雰囲気を変えようと、なるべく明るい口調で話し掛ける。まあ声色からして年は離れているだろうし、頼めば聞いてくれるだろう。

    「そう。だから顔を見せてくれな……」
    「やめてよっ…………!!」

     ドンッ、と大きく鈍い音が耳元で聴こえ、思わず耳を離す。一体どうしたんだ、心臓が飛び出るかと思った。
    隅々まで掃除されているのが分かる廊下が、外から入ってくる光が反射して眩しい。次いで、啜り泣く様な声まで聴こえてきた。

    「紅ちゃ……」
    「わたしは絶対外になんて出ない。例えひろお兄ちゃんのお友達だって、絶対にこの姿は見せないんだからっ…………!!」
  • 25 碧空. id:5GgeZMc0

    2015-10-28(水) 20:31:14 [削除依頼]
    「……」

     ふぅ、と息を吐き、静かにゆっくり問い掛ける。

    「どうしてそんなに人前に出るのを嫌がるのか……聞いても良い?」
    「……みんな、が……」
    「……ん?」

     少しの間を空けて、紅は話し始めた。話すと思い出してしまうだろうに。信用してくれたのかな、と思うと、何だか照れ臭い気持ちになった。

    「……みんながわたしの方を見て笑うの……。なんにもしてないのに。なんにもしてないのにこそこそ話をされたり、苛められっ、たりっ……!!!」

     啜り泣く声はいつしか、れっきとした泣き声に変わった。余程辛かったのだろう。覚えが無いのに苛められるのは、苦しいと思う。そりゃあ外に出たくなくなるだろうな。
    突如声がくぐもったのは、布団か何かに突っ伏したためだろう。
  • 26 碧空. id:5GgeZMc0

    2015-10-28(水) 20:43:57 [削除依頼]
    (……こりゃ、厄介だなあ……)

     思っていたよりも自分の意見を曲げない子だな。そんな所は意外と赤広さんにそっくりだな、と思った。
    いつの間にか入っていた肩の力を抜いていく。最初は乗り気では無かったこの頼み事。結構面白くなりそうだ、赤広さんには悪いが、暇潰しとして楽しませて貰おう。
    必ず部屋から出して見せようじゃないか。この、五日間の内に。

    「ーーーまた、来るよ」


    【Story 7*紅。】
  • 27 碧空. id:7WsNxmC0

    2015-10-29(木) 21:00:20 [削除依頼]

    *.

    「……すみません、黄瀬(きせ)ですけど」

     玄関に向かって声を投げ掛ける。こんな時、呼び鈴があれば便利なのに。
    今日が二日目。期限は残り三日。正直に言って、あの部屋から一歩でも出せる自信はあまり無いが。

    「……すみませーん」

     返事が聞こえなかったため、もう一度繰り返す。途端どたばたという足音、そして今行きまーす、と言う声が耳に入ってきた。
    がらら、と玄関の扉が開けられる。現れたのは肩程までの髪の毛を顔の横で束ねた、赤広さんよりも少し年上らしい女性。

    「黄瀬君、いらっしゃーいっ」
    「あ、こんにちは、深紅(みく)さん……」

     深紅さんと言って、赤広さんのお姉さん。たまにこの家へ訪ねて来た時、お世話になる。料理も運動も得意で、所謂(いわゆる)“美人”の類いに入るだろう。本人が仰るに「勉強はちょっと……」らしいが。

    「今日も紅(べに)を宜しくね、……の前に」
    「……前に?」

     深紅さんの言葉に疑問を懐(いだ)き首を傾げる。深紅さんは少々考えた素振りを見せた後、親指である部屋を差し「ちょっと話さない?」と笑ったのだった。
  • 28 碧空. id:6c7UtBl/

    2015-10-31(土) 23:01:47 [削除依頼]

    「……お待たせ、ぜひ飲んで」
    「……ありがとうございます」

     出されたお茶を啜る。熱くて、「あち」と小さく呟いたら深紅さんに笑われた。それでね、と深紅さんが話し始めたので、湯飲みをコトリと置いた。

    「ありがとね、毎日。赤広(あかひろ)の我が儘に付き合ってくれて」
    「あー……」

     その話か。絶対に紅を外に出して欲しいとか言われるかと思った。

    「……あの子と友達だと大変でしょー? 色々」
    「まあー……でも楽しいですよ、一緒に居ると」

     赤広さんは楽しい。たまに気が強くて、命令してきたりもするけれど。色々な道や場所に詳しくて、赤広さんが連れていってくれる所は僕の知らない所だらけだ。
    例えばプラネタリウムに連れてってやると言われ、森を突き抜け辿り着いたのはどこよりも綺麗に星空が見える空き地だった。昔は大きな屋敷があったらしいと教えてくれた。

     ありがと、と再び、深紅さんが小さく溢した。
  • 29 碧空. id:IkaBK5t.

    2015-11-01(日) 19:35:53 [削除依頼]

    「ようかんとか食べられる? ババロアもあるよ」
    「あ、どっちも大丈夫です……じゃ、ようかんを……」

     はーい、ちょっと待っててーと間延びした返事ののちに、トン、トンという規則正しいリズムで、音が聴こえてきた。ようかんを切り分けている音。
    招かれる部屋は座敷の様な所で、出される飲み物はお茶。茶菓子はようかん。見える限りで和室が多く、家の見掛けも和風だ。本当に日本らしい家だな、ここは。よくこんな家で、赤広さんが育ったものだ。
    深紅さんも赤広さんも紅も、全員性格が違ってまたも、血の繋がりを疑いたくなる。まあ人の家の事情に口を出す程の暇も、首を突っ込む程の興味も無いのだが。

    「……赤広はさぁ。本当に紅を可愛がっててねー」
    「……え、」
    「ある日突然紅が引きこもっちゃって、一番焦って心配してたのは赤広なの。……きっと一番悩んだのも」

     はい、とようかんが目の前に出されると同時に、下を向く。どう反応したら良いのか分からない。こんな事態に巻き込まれた事なんて今までに無かったから。

    「あの子の部屋が夜遅くまで電気ついてたの見てた。あの子が頑張りすぎて、いつか壊れちゃうんじゃないかって心配しててね。だから……」

     理由も聞けずに姿を見れなくなった紅と、紅を助ける為に夜更かしし続ける赤広さん。その一番上に立つ者として、深紅さんはどんな気持ちだったのだろう。今目を僅かに潤ませている深紅さんを見て、昨日の自分の考えを酷く情けないなと感じた。

    「黄瀬君が来てくれて、凄く安心したの」

     ふわ、と優しく笑った深紅さんが、とても大きな物を抱えている様な気がして。
  • 30 秋夜 織、 id:P5bg/Kx1

    2015-11-01(日) 20:59:53 [削除依頼]

    こんにちは。お久しぶりです。
    色を名前にするって…私たちやっぱり気が合うんですかね←
    私の「虹の降る海」でも使っちゃってますよ。笑笑
    ついでにあなたの名前からも一文字頂きましたよ←

    はい。やっぱり私は碧空.さんの作品大好きです。
    これからも応援しまくりです。

    私の、ところにもたまには遊びに来てね!(^ε^)-☆!!笑
    (サクサク番外編も書いたよ←)
    では失礼致しました!
  • 31 碧空. id:BfkPDh70

    2015-11-01(日) 21:30:27 [削除依頼]


     トントン、と紅の部屋の襖を叩く。「……黄瀬、さん……?」と語尾に疑問符を浮かべて問うてきた。

    「僕だよ、紅ちゃん」
    「……黄瀬さんだ……」

     ほ、と息を吐く音が耳に入った。どうやら赤広さんの友達、という事で信用されているらしい。信じてくれているのは嬉しいが、もし赤広さんの友達では無かったらどうだったのだろうと考えてしまう。

    「ねぇ、今日は何かあった? ひろお兄ちゃんには会った?」
    「特に何も……あ、来る途中に猫に会ったよ。白と薄茶が混じった様な毛色をしていた。少しだけ斑模様(ぶちもよう)でさ。赤広さんにはーーー」

     はた、と思い出す。そういえば今日、あの人に会っていない。依頼主自らこの時間を設定したのに、依頼主自らこの時間を守らないとは。昨日帰り際に「明日、待ってるな」とひきつった笑顔で言っていた人のやる事だろうか。

    「猫かぁ……会いたいなぁ。……あ、そうだあのね、聞いて黄瀬さん」
    「…………あ、うん。何か、あった?」
    「……今日ね、換気しようと少しだけ窓を開けたら、さんの所に小鳥がとまってチチッて鳴いたの。あんまり可愛くて、スケッチしちゃった」

     見せれたら良いけど、という呟きが聞こえた気がした。だったら見せに来いよ、と小さく呟き返す。
  • 32 碧空. id:X4Sv38E/

    2015-11-05(木) 20:52:45 [削除依頼]
    [>30・秋夜 織、様]
     わああぁああっ。お久しぶりですお久しぶりですっ!!
    気が合いますね! 色って名前に困った時の助け船((
    読んでます。「虹の降る海。」も「花のにおい。」も全部読んでるんです。(笑)
    行きたいけど勇気が無かったの←

     わー! わー!
    私も雪芽姉の作品も雪芽姉自体も大好きだよ!!((きゃー
    サクサク番外編も実は読んだんだよ! 今から行くね!

     ……こんなテンション高い私ですが、これからも宜しくね。(笑)
    たまには話そうね!
  • 33 碧空. id:X4Sv38E/

    2015-11-05(木) 21:49:23 [削除依頼]

    「……ね、黄瀬さん。わたし、絵を描くの、好き。下描きが上手く描けると嬉しいし、それが黒く縁取られていくのも楽しい。綺麗に綺麗に、色付いていくのも好き。……黄瀬さんに、見せたい」
    「…………だったら、」

     そこまで言いかけて口をつぐむ。言ってはいけない事だ。先程呟いた言葉は聞こえてないだろうから、まだ大丈夫だ。
    でも。ここではっきりと言ってしまったら、もっと心を閉ざしてしまうかもしれない。何か理由があって姿を現さない人に向かって「来なよ」なんて言葉、掛けてはいけない。

    「……僕も、見たい、けど」
    「……本当に? 黄瀬さん」

     紅が描いた絵も見たい。だけど今一番見たいと思うのは、紅のその姿だった。

     ……待てよ。
    急かす様にしたら逆効果だ。だけどそれは本人の性格にもよるかもしれない。一応作戦として、言葉を掛けてみるのもありだろうか。掛ける言葉に全てを賭ける……なんだか良い。

    「うん。見たい。……だから、見せてくれない、かな。その小鳥を描いた、紅ちゃんの絵」
  • 34 碧空. id:bIazNSo0

    2015-11-08(日) 20:31:41 [削除依頼]
    「……え、」

     やっぱり困惑するよな。だけど頑なに部屋から出ようとしないこの子を、あと三日で出せる自信が無くなりつつあるのだから仕方がない。相手も見せたいと言っていたし、僕だって見てみたい。見せてくれないかと頼めば、出てきてくれるのではないかと思った。
    心拍数があがっていく。ーーー途端、どたばたと足音が聞こえてきた。

    「黄瀬君っ……!!」
    「深紅さん?」
    「お願いっ……!!」

     はぁはぁと息をきらしながらしきりに、「お願いだ」と繰り返す深紅さん。しかし肝心なその内容は一向に話されず、「何がですか?」と僕は聞いた。「……何のお願い、ですか?」

    「お願いだからやめてっ……」
    「……だから何の事ですかっ」
    「無理矢理出そうとするのはやめてってば……!!」
    「……無理矢理、ですか」

     “見せたい”と言っている相手に対し、“見たい”と言っている僕が“見せてくれ”と頼むのが、“無理矢理だ”と言うのだろうか。そもそも深紅さんも出してほしいと思っている筈なのに、その本人が声を荒らげてまでやめてくれと頼むのはおかしいと思うのだが。
    「無理矢理ではないと思います、これ」と主張する。深紅さんは「あたしが望むのはね、」と弱々しい声で深紅さんは言う。


    「あたしが望むのは紅が、自分から“出たい”って言ってくれる事なのっ……!!」
  • 35 碧空. id:bIazNSo0

    2015-11-08(日) 20:56:37 [削除依頼]
    「おね、ちゃん……」
    「赤広は出したいんでしょ、紅を。どんな手を使ってでも。でもあたしは違う。紅が望まなきゃ、外に出たって苦しいだけだと思うの。だから自ら、望んで外に出てほしいのっ……」

     ーーー噛み、合わないんだ。赤広さんと深紅さんは。
    「どんな手を使ってでも外に出してやりたい」赤広さんと、「紅が自ら外に出たいと思ってくれるまで待つ」深紅さんは。

     目の前で涙を流す深紅さんを、僕はどうする事も出来ずただただ見詰めていた。


    【Story 8*深紅。】
  • 36 碧空. id:EDqcoyq.

    2015-11-09(月) 21:22:44 [削除依頼]
    【Novel Introduce.】*作品紹介です。

    ■[>21-26] 紅。
     「或る夏の日。」の方で書かせていただいた物のリメイクです。……リメイクって言える程変えてないんですが。(笑)
    一応私は、今よりもちょびっと昔の時代として扱っていますが、歴史に詳しくないので「和風の家」って設定にしてます。裏話。(笑)
    個人的に紅が凄く好きです。作者ですが。←
    あと黄瀬君。一人称をたまに間違えてしまうのをどうにかしたい。

    CAST:黄瀬(きせ) × 紅(べに) × 赤広(あかひろ)


    ■[>27-29、>31>33-35] 深紅。
     「紅。」の続きです。この、深紅と書いてみくと読む名前は結構お気に入りだったりします。家族思いなのです。
    赤広とも紅とも仲良くしてたいんです。

     [>34]訂正なんですが、“深紅さんは「あたしが望むのはね、」と弱々しい声で深紅さんは言う。”とありますが、後の方の深紅さんは、を消して読んでください。すみません;

    CAST:黄瀬(きせ) × 紅(べに) × 深紅(みく)
  • 37 碧空. id:GCWnGpe.

    2015-11-11(水) 21:06:53 [削除依頼]

    *.

    「……で、俺にどうしろと?」
    「いや、赤広(あかひろ)さんには言っといた方が良いと思っただけ」

     友人の黄瀬(きせ)が言うに、俺と姉、深紅(みく)の意見が交差しているらしい。

     妹の紅(べに)が、もうずっと、自室から出てこない。このままではおかしくなってしまうと心配し、俺は黄瀬に「五日間の内に紅を外に出してやってくれ」と頼んだ。そして今日は三日目。期限は残り二日。黄瀬は特に焦る様子も見せず、冷静に今の状況を報告してくれた。
    「どんな手を使ってでも良い」と俺は頼んだが、姉は「自ら望んで外に出てほしい」と言い張っているそうだ。

    「……姉さんは頑固だからな……」
    「……良いじゃない。家族思いで優しい人だと思うけどね。今回の件だって、紅ちゃんの事は勿論、赤広さんの事もちゃんと考えてたよ?」
    「……なんだお前、惚れたか」
    「なんでそうなるかな」

     気が強い、とよく言われる。その所為(せい)で、友人と呼べる様な人はあまり居なかった。そう考えると黄瀬は、良い奴なのかなとも思えてくる。
    ガタ、とふいに黄瀬が椅子を引いた。

    「……じゃ、今日も行ってくる」
    「……おう、宜しくな。頑張れ」

     ふっ、と口元を緩ませながら、黄瀬は手を振り出ていった。
  • 38 碧空. id:2Gpecl.0

    2015-12-06(日) 18:55:01 [削除依頼]

    (……赤広さんは、深紅さんが嫌いなのだろうか)

     冷たい廊下を進みながらそんな事を考える。そもそも、深紅さんが頑固なら弟の赤広さんも、頑固だと思う。頑なに部屋から出てこない紅も、頑固だ。他人の僕から言わせれば、この兄弟姉妹は仲良くみんな頑固である。

     どうしたって、紅の意見も赤広さんの意見も深紅さんの意見も取り入れながらこの件を解決させるなんて、無理な話に思う。だったら内事情を知らない僕になんて頼まず、家族間の問題は家族間で解決してくれれば良いのに。

    (……いや、違うか)

     赤広さんも深紅さんも、分かっているのかもしれない。ただ、不安なんだ。噛み合わないまま紅を振り回すような事をして、更に、なんて事を考えれば。

     目の前に姿を現した紅の部屋の襖を、トントンと叩く。「紅ちゃん、居る?」

    「黄瀬、さん」
  • 39 碧空. id:xp4NUYg.

    2015-12-31(木) 00:44:53 [削除依頼]
     いつものように、僕の名を呼ぶ紅の声が少し、元気を失っている気がした。

    「……何か、あった?」

     気になって問うてみるも、答えらしき返事は無い。彼女はどんな表情をしてるのか、どこを見ているのか、今本当にそこに居るのか、途端不安になった。長い廊下のあの角から誰かがこちらを覗いている様な、恐ろしさ。冷たい空気の重さが、ひしひしと伝わる様な沈黙。暫くして、襖に吸い込まれるかのように聞こえてきた声は、わずかながら震えていた。

    「……わたし、のせいで、ひろお兄ちゃんとお姉ちゃん、喧嘩してるんでしょ……」

     一瞬、一瞬ぎくりとした。ああ、僕と紅の間に、襖があって良かった。今の僕はとても、情けない顔をしているだろうから。昨日の深紅さんの言葉だろう。喧嘩とまではいかないが、紅が原因でふたりの意見が分かれているのは確かだ。でもそうだろうな。紅の部屋の真ん前で叫んだ深紅さんの言葉は、もちろん襖をとおって部屋主の耳へ届くだろう。

    「でもわたし、どうすれば良いのかわからないの。きっとどうにかするべきなんだろうけど……っ」
  • 40 碧空. id:PXLJNAD.

    2016-01-11(月) 19:15:47 [削除依頼]
    「……わたしが外に出たら、ぜんぶ解決するのかな。わたしが外に出ないから、みんながいらいらしちゃうのかな……」

     小さな小さなその声は、苦しみを懐(いだ)いて廊下へ渡ってきた。空気に溶け込んで、冷えて廊下を滑っていく。紅はどうして、外に出たくないんだっけ。
    笑われたり、こそこそ話をされたり、苛められたり、それだけが理由なのか、それが本当の理由なのか、疑うべきでは無いような理由を、疑っている自分が居る。

    「……紅ちゃん。何で外に出たくないのかもう一度、聞いても良いかな」
    「……へ、」

     少しの間を置いて、紅は躊躇いがちに話し始めた。聞いて良い事だったのかは、わからない。

    「……みんなが笑うから。苛めるから。こそこそ、話をする、から……」

     そこで、気付いた事がある。
    もしかして。もしかしたら紅はーーー。

    「ありがとう。……ごめん、また明日っ」

     そのまま小走りに外へ出る。玄関で深紅さんにどうしたのと聞かれたが、お邪魔しましたとだけ返事をした。出てくれるだろうか、この、方法で。


    【Story 9*黄瀬。】
  • 41 碧空. id:GsX5os6/

    2016-01-20(水) 22:33:05 [削除依頼]

    *.

    「……ああ、分かった。……把握してるとは思うが、期限はーーー」

     玄関の方で、弟ーーー赤広(あかひろ)が話している声が聞こえる。電話してるんだろうな。声が途切れ、ガチャと音がしたのを聞いて、柱から頭だけ出して問う。

    「今日、来ないんだ。黄瀬(きせ)君」
    「らしい。準備したいそうだ。紅(べに)のために」

     深紅(みく)さんにもよろしく、と言っていたよ。
    弟はそう言い残して、二階へあがっていった。よろしくなんて、寧ろこっちが言う方なんだよなあ。笑みを溢しながら、ボウルやら泡立て器やらを棚から出す。赤広に、お菓子つくってもっていこう。……紅の分も。

     二階から、バサバサと激しい音が聞こえた。
  • 42 碧空. id:D9K8z.L0

    2016-08-27(土) 22:21:15 [削除依頼]

    *.

     チクタクと、時が刻まれる音が小さく響く。現在時刻、深夜二時。彼女はちらりと時計を見、それでも手を止めることは無かった。
    目の前には大きな画用紙、左手にはパレット、右手に持っている筆を水の中に入れて、その手で絵の具入れをあさり始めた。
    彼女の絵の具を探す手の、群青や桜に染まっていたのを、じっと眺めていた。

    「……紫、の、絵の具……あれー、無い……」

     さっき使って、戻したはず……あれ、戻した……? 戻したっけ……?
    なんて呟きながら。何時間も進めていた手をやっと止めて、今度は絵の具探しのためにからだと口を動かし始めた彼女。寝不足のせいか追い詰められてるせいか、最近物忘れが激しい。

     この声に、気付くことなんて無いことくらい、知っているのに。
    この声が、彼女に届くことが無いことに、何度もなみだしたのに。
    また、懲りずに役に立ちたいなんて思ってる。

    「……紫……うーん……あ、まずはココアをおかわりしようかな……落ち着こうかな……」

     うん、そうしよう……。
    声をこぼし、カップ片手に、彼女は席を立った。
  • 43 碧空. id:ijjy99k.

    2016-08-29(月) 22:27:53 [削除依頼]
     彼女の手は、すごく綺麗だった。
    様々な色に彩られた、彼女の絵よりもきれいな彼女の手の熱を感じることが、何よりも存在意義だった。使われている感覚。ああ、必要とされている。

     彼女は忘れてしまったのだろうか。水彩を始めた頃から、ずっと一緒に居たのに。もう、埃を被ってしまったよ。もう、本に埋もれてしまったよ。もう、もう、もう。

    「さあ……続けるかな……」

     扉が開いた。彼女の右手のカップからは、白い湯気が出ていて。
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