或る夏の日。

SS投稿投稿掲示板より。


1    碧空.  [id : dq3umJy1] [2015-07-11(土) 18:31:45] 削除依頼


  照り付ける太陽。
   風に、綺麗な花々が揺れ動く。


 そんな或る、夏の日。

74 碧空.  [id : dTxVMGd.] [2015-08-04(火) 23:50:19] 削除依頼

 指先を蝶に近付ける。

「……朱羽様は、蝶々がお嫌いですよね」
「……え?」

 ……なんて哀しそうな顔で、そんな質問をするのかしら。
どうして、私が蝶嫌いだと思うの。

 目線を落としたまま立羽は、私の方を向こうとしなかった。

「……別に嫌いじゃあないわ。ただ……」
「……“ただ”?」

 私の返答に食い付いた彼が顔をあげた。群青色の瞳に、私が映りこむ。
本当に綺麗な色だとつくづく思う。しかしこうして観ると、その色は哀しそうに透き通っていた。

「……ただ、行動がいまいち理解できないだけよ」

 ゆらゆらとその身を動かし、
するすると、私をもてあそぶ。

 予測の出来ない動きをし、目指す場所なんて見当もつかない。
綺麗に輝く羽は綺麗だし、嫌いだと思った事は無い。

(……そうか)

 立羽に似てるんだわ。
毎朝私を連れ出すけれど、行き先は毎日変わって。近くにいるけれど決して触れられない様な雰囲気を纏っている。

 立羽の瞳はまるで、……ミイロタテハの羽の色の様だわ。

75 碧空.  [id : T1PFSOW/] [2015-08-05(水) 14:52:24] 削除依頼

「……そうですか……」

 何を思ったか彼はふわりと優しく笑んで、私を置いて足を進めた。
あまりにも突然の事で反射的に、

「待って……!!」

 ……抱き付いてしまった。

「朱羽様……?」
「……え、あ、……」

 この執事よりも、今は私の行動の方が理解できない。

何故今、私は立羽に抱き付いているの?
執事といえど、相手は立派な男性だ。簡単にこんな事出来る相手ではない事は重々承知していた。
急いで手を離す。

 丸くささる立羽の視線を遮るように、手で彼の目を隠した。
こんな、……こんな顔、立羽に見られて堪るもんですか。

 頭上からくすりと静かな笑い声が聞こえた。一驚と怒気を帯びた目で立羽を睨み付ける。
笑うのは失礼だと思うのだが。

「……ちょっと。立羽?」
「……すみません。紅くなった朱羽様の顔が、あまりにも可愛らしかったので」
「なっ……!」

 私がこれから説教をしようというのに立羽はするりと再び、前へ足を進めた。
ひらりひらりと優雅に翔ぶ蝶を指に留め、私の方へと戻ってきた。

「……黒揚羽蝶(くろあげはちょう)、ね」
「はい。……知っておられますか、朱羽様」
「? 何を……?」

 聞き返すと同時に立羽は、黒揚羽蝶に息を吹き掛けた。
翔び立ったと思われた蝶はまた、立羽の指で気持ち良さそうに羽を休めている。

「……我々は皆、何処かで必ず、蝶と繋がっているのです」
「……蝶と、繋がっている?」
「花を美しいと思える。良い香りだと思える。それらは皆、蝶のお陰なのです」

 ……確かに。この花畑はとても美しく、良い香りを醸(かも)し出している。
沢山の種類の花が咲いているがその香りは混じり合う事は無く、しかし別々に香る事も無い。
各々(それぞれ)が各々を高め合い、一つの香りと化しているのだ。

「……そう言う貴方も、でしょう?」
「……ええ。勿論。貴女も、みんな」

 ひらりと身を交わし、掴めないような貴方だから。

「……これからも、ついてきてくださいますか? 朱羽様」
「……当たり前でしょう? あの世界にはもううんざりよ」

 お互い静かに笑い合って、手をとり踊った。

 いつもの世界にはうんざり。蝶の様な貴方が導く世界を、もっと、もっと観てみたい。


  蝶々の行く末は、……私の掌、ね。


【Mini Story 5*蝶々の行く末は、】

76 碧空.  [id : T1PFSOW/] [2015-08-05(水) 16:14:46] 削除依頼

【Mini Novel Introduce. 】*ミニストーリーの紹介です。

■[>70+71] コンビ喧嘩。 -Spinoff-
 今日もふたりは元気です。粂サイドが書いてみたかったのです。
このふたりは好きだから、多分また書くと思う。(笑)

 なんだかんだ、優しい粂くんなのでした。

CAST:粂(くめ) × 長谷部(はせべ)


■[>70-75] 蝶々の行く末は、
 ファンタジー要素の入ったお話を書きたくて。*
花粉やら何やらで花が嫌いな方もいるかと思いますが、花は良いものです。

 朱羽と立羽。二人の名前は、どちらも蝶の名からつけました。
蝶々って、ふらふら翔んでたまに危なっかしく感じませんか?
この間見た二匹の蝶は、空の高いところまで翔んでいき、……落ちました。←

CAST:朱羽(あげは) × 立羽(たては)

77 碧空.  [id : T1PFSOW/] [2015-08-05(水) 19:25:01] 削除依頼


*.

「小百合っ! 宿題教えてぇー!!」
「もう。またなの、向日葵?」

 てへへと舌を出して、可愛いげのある声でごめんねと、向日葵は言った。
同じ部屋で、勉強を教えあったり色々なアドバイスをし合ったり。

 これまでも仲が良かったし、これからもそうして、変わらず過ごしていくんだと思う。
私、藍澤 小百合(あいざわ こゆり)と、彼女、向日葵(ひまり)は一卵性の双子姉妹だ。

「ほーんと。小百合はあたしと違って頭良くて、いいなぁ」
「そんな事ないよ。向日葵にしかない良い所だって沢山あーるっ」

 コンコン、とシャーペンで向日葵のノートを叩く。
へらりと嬉しそうに顔をほころばせた彼女は可愛い。
さらさらした髪。去年は首よりも少し上だったのに今は、肩より僅かに下に伸びている。

 向日葵はいつもこうやって私に泣き付いてくるけれど、その気持ちが今年、痛い程に共感できる。
隣に積み重なったノートや教科書、参考書とかの束が目に入ると思わず気分が重たくなる。
 夏休みに入った中学三年生は、こんなにも忙しい。


  
「もーっ! 分かんないーい! きゅうけーい!」
「はいはい。休憩ね、きゅうけーい」

 テーブルに麦茶入りのコップを置く。一階から二階に来るまででもう汗だく。
冷たいそれを持った瞬間、手のひらの熱が奪われていく。

 カラン、と氷の溶け合う音が向日葵の明るい声と重なった。

「小百合はさー。あたしの良いとこ、って何だと思う?」

78 碧空.  [id : xRvJjLt/] [2015-08-06(木) 15:18:16] 削除依頼

「……え? どうしたの、急に」
「さっきさー、言ったじゃん。“向日葵にしかない良い所だって沢山ある”って」
「そうだけど……そんな気にする?」
「ん……気になったから聞いてみた」

 ……最近の向日葵は、少しおかしい。

 今までだって先程と同じような掛け合いは何度だってしてきた。
だけどこんな風に追求してきた事は、一度だって無かったのに。

「んっと。元気な所、人気者な所、運動が得意な所、友達が多い所……」
「……友達が多い?」

 他にも挙げたのに。どうして、そこだけ拾って聞き返すのだろう。
からからと手でコップを回し、麦茶をかき混ぜていく向日葵。特に反応を待っていないような素振りを見せているけど。

「うん……部活は違うけど、いつも思ってた。休み時間も周りには人が集まってるし」
「……部活、ね」

 向日葵は頬杖をつき外を眺めながら、息を吐くように呟いた。

「……話に入っていけないのに、友達って呼べるのかな」

79 碧空.  [id : S5Zrskq/] [2015-08-07(金) 20:22:25] 削除依頼

(あ……また。)

 哀しそうな、辛そうな表情で。最近の向日葵はよく、そんな事を言う。
なにか、学校で友達とあったのだろうか。なんで、私に相談してくれないの。

 彼女の、どこか遠くを見詰めたような瞳を見るのが何となく苦しくて、思わず目線を落とした。
それとほぼ同時に彼女は、ぱっと元の表情に戻り言った。
変わらない笑顔で。

「……って、友達が言っててさあー! あたし、なんて返したら良いか……」
「…………向日葵」

  私が名を呼ぶと、向日葵の顔が一気に強張った。構わず続ける。

「……なにか、あった?」

 暫くの沈黙が流れる。少し口調がきつくなったかな、とは思ったけれど、向日葵のためならと心を鬼にして。
重苦しい沈黙に最初に声を響き渡らせたのは、……向日葵だった。

「なにもないってー! 友達の話だ、って言ったでしょ?」
「……でもひまっ……!!」
「何も無いってばっ……!!」

 今までに聞いたことの無い、荒らげられた向日葵の声を初めて聞いた。
びくりと肩を震わせると、下の階から母の声が小さく届いた。“どうしたの?”と。

「……なんでもないよー!」

 私と向日葵は声を揃えて返答する。そしてすぐ同時に俯き、立っていた。

「……私、下で勉強するね。テーブル使っていいよ!」
「……っ!」

 勉強道具をおもむろに持ち、背を向け部屋を出る。
振り向く瞬間向日葵の何か言いたげな顔が見えたが、話し合う勇気が出てこなかった。

80 碧空.  [id : n74eQkC1] [2015-08-08(土) 16:30:10] 削除依頼

「……朝」

 結局、昨日はあれから、向日葵と話していない。母には心配されたが、上手く誤魔化した。
むくりと体を起こすと、玄関の方から行ってきまーす、という向日葵の声が耳に入ってきた。
いつもは一緒に登校していたのに。やっぱり昨日のは夢じゃなかったんだ。喧嘩だったんだ。

「……喧嘩、って」

 こんなに辛いんだ。こんなに苦しいんだ。今まで隣にいた人が居なくなるのは。
幼い頃から意見が食い違うことは多々あったが、その時はその日の内に解決してた。
今までのは喧嘩じゃなかったんだと、こんな形で気づくことになろうとは。

「……おはよ、って、言えなかった……」

 朝が重い。初めてだ。こんなこと無かったのに。

ふと、窓の外に目をやる。分厚く灰色い雲が覆い被さっていて、その青さを覗けない。


 庭に咲いたひまわりが、重たそうにその頭(こうべ)を垂れていた。

81 碧空.  [id : n74eQkC1] [2015-08-08(土) 20:17:55] 削除依頼

 一人の朝御飯。一人の通学路。
いつもなら隣にいる向日葵がいない。それだけで、こんなにも静かだなんて。

(……なんで、話してくれないの……)

 新しい友達ができただとか、良い事があっただとか。隠し事は極力しないようにしてきた。
お互いがお互いを信頼し合って、だからこそ何でも話せてるんだと思ってた。

 しかし現にこういった事が起きているわけで、その思いはもしかしたら一方的なものだったのかもしれない。
何にせよ、向日葵に何かあったのは確かだ。双子なんだから、話してほしいのに。


「小百合ちゃん、おはよ。どうしたの? 暗い顔して……」
「……あ、おはよう。んー、ちょっと疲れが溜まってて……」

 友達はそっか、無理しないでねと優しい声を掛けてくれる。
ありがとう、と返し、教室を出た。

(友達……)

 “話に入っていけないのに、友達って呼べるのかな”
あの向日葵の言葉が、胸に引っ掛かっている。時々、そんな事を言うようになった理由。

 知りたくて、向日葵のクラスを覗いてみた。

(向日葵、はー……いる)

 私が見たのは、向日葵の笑顔。友達二人と、楽しそうに話していた。
思わず安堵の溜め息を溢す。

(……?)

 友達二人が、楽しそうに喋っている。その中時折、向日葵は苦しげな笑顔をちらつかせた。

何かあると察した私はドア付近の席の子に頼み、向日葵を呼んでもらった。
廊下へ出てきた向日葵はぴたりと、体の動きを止めて。

「……向日葵、今、良い?」

82 碧空.  [id : n74eQkC1] [2015-08-08(土) 23:09:21] 削除依頼



「……ねえ向日葵、お願い。正直に話して?」

 人通りの少ない中庭。いつも一緒にお弁当を食べるこの場所に、私は向日葵を連れてきた。
私がそう言うと、彼女は下を向いた。あの、苦しげな笑顔で。

「な、なにもないって……」
「嘘。解るんだよ、無理してるの。何年一緒だと思ってんの?」
「……かれこれ17年……」
「正解。……私にも、言えないこと?」

 弱々しくう、と呟いた後、やっぱ小百合には敵わないねと笑い、話し始めた。

「……小百合。あたしねーーー。」

 俯いて話す向日葵の背は丸く、前注意した猫背がまた出てきてるな、と思った。
向日葵は猫背が、私は猫舌が。それぞれ猫要素を取り入れたからだで、全く何なんだと。

「あの二人……みーとさっちゃん、って呼んでるんだけど、あたし。二人の会話に入っていけなくて」
「……どういうこと?」
「……二人は中学から仲が良くて、あたしはその輪に今年から入って。
 みーが中学生の頃の話を持ち出すと、さっちゃんがそれにのったり。
 あと、二人は漫画とかアニメとかに詳しいけど、あたし全然分からなくて。
 それらの話を出されるとおいてけぼりで、あたし……」
「向日葵……」

 立ち上がり、向日葵の手を握る。

「ありがとう、話してくれて」
「……小百合……」

 ぼろり、と向日葵の目から大粒の涙が零れ落ちる。突然の事に驚きながら、ハンカチを彼女に渡した。
ありがと、と向日葵は涙を拭いた後、私を一目見て抱き付いてきた。

「ひまっ……」
「小百合、ありがとう。あたし気付いた」

 歯を見せて笑う。何に気付いたのか、聞かなくても伝わった。

 沢山いる友達より、たった一人、話を親身に聞いてくれる人がいたらそれで良い。

「ひーまーりー。ひまわりは、常に太陽を見てるんだよ」
「え?」
「向日葵も、前向きに頑張らないと。話にはいれるように」

 ふふと笑うと、向日葵もえへへと笑って。


「……結局、どうして教えてくれなかったの?」
「……小百合に心配掛けたくなかったからさぁ」
「……それは嬉しいけど、何のために私たちは双子に生まれたのよ」
「……すみませんでしたあー」

 その日は何となく、ひまわりが綺麗に見える気がした。
それに何となく、雲も晴れてきた気がする。


 きっと私たちはこれからも、こうやって固い絆を造ってく。


【Mini Story 6*華姉妹。】

83 碧空.  [id : RKsGfPC0] [2015-08-09(日) 20:20:22] 削除依頼


*.

 “生きていれば、幸せは必ずやってくる。絶対、つかめる。”

そんな事言う人もたまにいるけど、実際思ってる人はほんの一握り、いや、針の先で突くほどしかいないかもしれない。

「あっ、細(さざれ)さーん!」

 放課後は、教室掃除当番の人たちが掃き残した埃とかを捨てて、机も揃えて、綺麗にして帰る。
そうすれば、この1組のみんなは次の日、清々しい気持ちで勉学に励めると思うから。

これがわたし、1組の細 水月(さざれ みづき)の日課だった。

 基本、みんな待ちわびていたかのような速さで部活へ向かうので、誰かに呼ばれるといったことは初めてに近かった。

「……ん? なんだ? どうした」
「6組の花厳(かざり)くんが呼んでた。教室に来て、だって」
「……“花厳”……?」

 耳がぴくりと動く。
6組。花厳。……ああ、寒気がする。

「……あー、悪いけど、帰ってたって言ってくれない?」
「……いや、ごめんね細さん……」
「へ……」

 訳がわからず聞き返したその瞬間。
わたしの名を呼んだその彼女の後ろから、ある一人の男が見えた。

「帰るとは言わせない! 何で呼び出しを断るのか、俺には理解不能だなぁ!!」
「う、わあぁぁめんどくせぇ! お前ほんと花厳! 昨日からなんなんだよ!?」

 6組、花厳 時雨(かざり しぐれ)。

わたしはこいつに、……絶賛つきまとわれ中である。

84 碧空.  [id : RKsGfPC0] [2015-08-09(日) 21:24:39] 削除依頼



 事の発端は昨日の放課後である。
いつもの様に誰もいない教室の掃除をしようと考えていたところ、
先程と同じように「6組の人が体育館裏に来てって」と言われた。

 花厳といえば、いつも女子に騒がれている奴、のイメージが強かった。
クラスでも何人か、花厳の虜(とりこ)になった女子はいたし。

 そんな花厳が何の用なのだと、びくびくしながら体育館裏へと向かった。

『……あ、細さん。来てくれてありがとう』
『はぁ……いや、来いって言われたら来るでしょう』

 花厳の評判は聞いていた。

 “格好良くて、運動できて、たまの甘えが擽(くすぐ)るよねー!”
と、クラスの女子が騒いでいるのが耳に入ってて。

 ただ、同時に先生や一部の女子からは、悪い評判だって聞こえてきた。

 “勉強を真面目にしない、ピアスも開けている、不良の生徒だ。”
なんて、見た目の事まで。


 この日、初めて間近で花厳を見たが、確かにピアス穴が開いていた。
それに加えて、こいつの髪の毛はほんのり青色がかっている。本当に薄くだから、先生達も気付かないのだろう。

『……あの、何の用ですか。さっさと教室戻りたいんですけど』

 早く戻って、掃除をして、早く帰りたい。
なかなか話を切り出さない花厳にだんだんと苛立ちを覚え、少し強めに問うた。

85 碧空.  [id : .2UDwtL0] [2015-08-10(月) 14:08:41] 削除依頼

『あっ、えぇっと……その……』
『? 早く』
『……俺と付き合いませんか!!?』
『……はぁ?』

 もちろん告白などされたこともない。当然恥ずかしかったし、照れくさかった。

『え、と……何でわたしなんですか? 他に可愛い子沢山いるし……』
『いや……だってそいつらは皆、好かれようと飾ってるし……。
 俺にとっては飾らない素のままの細さんが良いんですよね。
 それに細さん、反応からして好きな子もいないし、告られた事もないでしょ。
 俺と付き合って注目されたら、それはそれで良いと思うけどね』
『なっ……!!』

 突然の告白によって忘れかけていた苛立ちが、再び沸いてきた。
にこにこと笑みを浮かべながら返事を待つ花厳に一発、…………ビンタを食らわした。

『え……細さん!? 何で今俺叩かれたん!!?』
『こんっの猫かぶり野郎! そんな事考えながら女子の相手してたのか!?』

 捨て台詞を残し走り出す。

『細さーん! 俺、諦めないからー!』

 なんて花厳の叫び声は、背中で受け流した。

86 碧空.  [id : .2UDwtL0] [2015-08-10(月) 15:02:52] 削除依頼



 そんなこんなで、今日一日、休み時間の度にわたしの所へ来る。
いい加減にやめてほしい、もう顔もみたくないのに。

「ほんとまじでやめろ! わたしに近付くな!」
「なになに、照れ隠し? 可愛いねぇ細さんは」

 じりじりと迫ってくる花厳。

「良いか花厳。女子がみんなお前の事好きになるとか思ってるなら間違いだかんな!」
「いーやー? 俺絶対落とせる自信あるもん、細さんのこと」
「っ……!」

 好きか嫌いか。
花厳のことについてどっちだと問われれば、嫌いだと即答できる。
だって花厳は、本気でわたしを好きなわけないんだから。

 幸と不幸。
どちらも偏って起こる訳じゃなかった日常を変えたのは、間違いなく花厳である。

「ぜっったい好きになんない! 断言する!」
「絶対好きにさせるから、覚悟しといてね?」


【Mini Story 7*小嵐。】

87 碧空.  [id : .2UDwtL0] [2015-08-10(月) 16:10:31] 削除依頼


*.

「うあーっ……! 頭キンキンするー!!」
「俺にもちょうだいよ、かき氷ぃー……」

 しゃくしゃくと音をたて、レモンのかき氷を食べるあたしの目の前。
先程からかき氷をねだりながら保体の勉強をする、幼馴染みの千輪(せんり)。

「……じゃあその問題、解き終わったらつくってあげる」
「……分かんないから花榁(かむろ)ちゃん、教えてよ……」
「それが人にものを頼む態度かな? んん?」
「かっ、花榁ちゃんには言われたくないよ!!?」

 保体教科が苦手な千輪は、夏休み明けの実力テストの勉強をしにうちに来ている。
男のはずの千輪が苦手とは。
あたしは千輪に問題集を作れるほど得意なのに、人間とは不思議な生き物だ。

 いつも思う事がある。
あたしは幼馴染みの彼の事を名前で呼ぶが、千輪はあたしの事を名字で呼ぶ。
呼び方など人それぞれだろうが、何だか千輪を従えているようで嫌なのだ。

「……ねー、千輪ー」
「んー? なにー?」
「千輪はさー、……何であたしの事、名字で呼ぶの?」
「……は?」

 多分、千輪は答えの間違いを指摘されるとでも思っていたのだろう。
目も口も開き、塞がらないといった様子でこちらを見詰めてきた。

「あたしには花榁 八重(かむろ やえ)という立派な名前があるというのに、どうして千輪は名字で呼ぶの?」
「……んー、じゃあ逆に聞くけど、花榁ちゃんはどうして俺を名前で呼ぶの?」

88 碧空.  [id : .2UDwtL0] [2015-08-10(月) 16:37:02] 削除依頼

「……え、」
「……花榁ちゃんはさ、俺のフルネーム、言える?」
「いっ……える、よ! 当たり前でしょ? 幼馴染みなんだから……!!」
「じゃあ、呼んでみてよ。フルネーム」

 これほどまでに千輪を怖いと思った事は初めてだ。
彼の顔に浮かんだ笑顔はいつものではなく、どこか影があった。

 ぐぐ、と喉に何かが詰まった感じがあたしを襲う。
知らない訳じゃない。むしろ知っていすぎるくらいに覚えている。だって幼馴染みだから。
早く、言え。言わないと、勘違いされる。

ーーーー青蜂(あおばち)、千輪だ、ってーー。

「……ね? 言えないでしょう?」
「……わっ、分かんない訳じゃないからねっ! だってーー……」
「“幼馴染みだから”?」

 あたしの言葉を遮り言う千輪は、再び問題集に目線を移す。
あたしは訳の分からぬまま、何か言わなければと口を開ける。

「なんっ……」
「花榁ちゃん。“幼馴染みだから”は、理由にはならないよ」

 かりかりとシャーペンを滑らせながら、またもあたしの言葉に被せて言う。

ーー“幼馴染みだから”は、理由にはならないーーー。


 幼馴染みだから、仲が良い。
 幼馴染みだから、何でも知ってる。
 幼馴染みだから、言い合える。
 幼馴染みだから、……一緒にいるのが当たり前。

薄々、気付いてはいた。だけどその度にその考えを振り払い、考えないようにしていた。
認めてしまったら、もういつも通りにはいられない。もう、話せない。
結局は自分勝手でわがままで、自分のせいで自分を苦しめていた。


 気付いては、いけないのにーーー。

89 碧空.  [id : 9WMbX8p0] [2015-08-11(火) 17:25:46] 削除依頼



 “何か、言わないと。名前、呼ばないと。”
そう考えている間も進んでいく時と、流れていく空気。
青蜂、千輪。青蜂、千輪。頭の中で、千輪の名前がぐるぐる回っている。
声に出そうとすると喉につっかえ、どきどきと動悸がする。

「ーーーっ……」

 やっとの思いで、声を振り絞り、出そうとした…………その時。

ドンッ……と大きな太鼓を思いっきり叩いたような音が、鼓膜に響いてきた。
驚き、窓の外を見る。千輪も視線を持ち上げ、外に移した。

「はな、び……?」
「……ああ、そういえば今日、花火大会だったっけ」

 ドン、ドンと続けて綺麗な華が、夜の空に咲き誇る。その様子を見た千輪が、口を開いて呟いた。

「……紺色の空を彩るように咲き誇るこの一瞬一瞬のために、地道な努力が隠れてるんだね」

ーーーああ、確かにそうだな。

 珍しく深みのある事を言った千輪の顔をちらりと盗み見ると、花火の色に照らされて。
思わず見惚れてしまった。

 突然、こちらを向いた千輪と目が合う。

「……花榁ちゃん。俺ら、幼馴染みっていう関係に甘えすぎてたのかもね」

 なぜだか、その先に紡がれる言葉は容易に想像できた。目を瞑り、身を縮ませる。

「花榁ちゃん。

 ーーーー……少し、距離おこうか」


【Mini Story 8*花火と落つる。】

90 匿名  [id : mdm5NgZ1] [2015-08-11(火) 20:03:34] 削除依頼

おつる?
切ないおはなしですね・・・

91 碧空.  [id : 9WMbX8p0] [2015-08-11(火) 23:14:43] 削除依頼

[>90・匿名様]
 はい、“落つる”です。
花火って日本の風流だと思ってるので、その感じを出したくて。
ほら、よく古文とかで使われてる気がしません?(←アバウト

 切ないお話を書きたくて、頑張りました。(笑)
なので嬉しいです。ありがとうございます。*
読んでくださり、ありがとうございますっ!

92 杠葉  [id : 1zybL5d0] [2015-08-11(火) 23:35:20] 削除依頼

全部漸く読み終えた!笑。
小嵐が個人的に一番好きかな(*´ω`*)
やり取りが可愛いらしいし読んでいて楽しかった!
細さんと花厳くんの続編があればいいなあって個人的に((
あと、名前もお気に入りです((
というかどれも名前が綺麗だよね、感心します笑。
それと描写がすごく好きかな、尊敬します!
これからも楽しみにしています、頑張ってね!

93 碧空.  [id : neP2GFh1] [2015-08-12(水) 20:45:21] 削除依頼

[>92・杠葉様]
 ちゃ、ちゃんと眼鏡してた……!?←

 ほんとー?ゆりはさん、ああいうの好きなのね(笑)
みーとぅー←

 書くつもりだったさ!書きたいさ!
 名前にはね、力入れてるの。
ほあぁぁ……ありがとう!憧れのゆりはさんに言われると嬉しいね*

 ありがとうございます!お互い頑張ろうね。*

94 碧空.  [id : neP2GFh1] [2015-08-12(水) 22:17:30] 削除依頼

【Mini Novel Introduce.】*ミニストーリーの紹介です。

■[>77-82] 華姉妹。
 姉妹って良いね。双子って良いね。←
三人って、面倒くさいですよね。今している経験を文字にして綴りました。
いつか、今の気持ちを笑って話せる日が来ますかね。
……来るといいですね。
最終的に、向日葵は小百合に相談しましたが。

 二人の名前は、夏の花からとりました。

CAST:藍澤 小百合(あいざわ こゆり) × 向日葵(ひまり)


■[>77-86] 小嵐。
 こんな二人って良いですよね(笑)
会話を書くのが楽しかったです。
この二人のやり取りも好きなので、絶対続き書きます。←

CAST:細 水月(さざれ みづき) × 花厳 時雨(かざり しぐれ)


■[>77-89] 花火と落つる。
 夏ですねー。青春ですねー。
題名を「落つる」にしたのはわざとです。打ち間違いじゃないよ!←

 二人のフルネームは、花火から借りました。

花榁……錦冠(にしきかむろ)
八重……八重芯(やえしん)
青蜂……青蜂(あおばち)
千輪……千輪(せんりん)

CAST:花榁 八重(かむろ やえ) × 青蜂 千輪(あおばち せんり)

95 碧空.  [id : oaTKekN/] [2015-08-13(木) 20:47:24] 削除依頼

【Introduce Summery.】*作品紹介まとめです。

■[>33] Story 1 & Story 2
■[>33] Story 3
■[>33] ミニストーリー3本。
■[>33] ミニストーリー2本。
■[>33] ミニストーリー3本。

*

 最近はミニストーリーばっかり書いてますね;
まとめとかすると本当分かる……。
でも近々、「Story 4」も書くつもりです、実は。←

 今後とも、「或る夏の日。」を作者共々、よろしくお願いします。*

96 碧空.  [id : oaTKekN/] [2015-08-13(木) 23:21:15] 削除依頼


*.

「なに? またなんか描いてんの、茜(あかね)?」

 ひたすら、ひたすら。ただひたすら、完成させる事だけを目標に。
今日も、キャンバスを彩っていく。

 誰か来たのも分からない程、絵にのめり込んでいるんだ。

「……ちょっと! 聞いてんの!?」
「うわっ……!!? ゆ、ゆ、ゆず!?」

 こうして、たまに同じクラスのゆずーーゆずゆは、僕のところへ寄っていく。
部活無所属だから、すぐに帰っても良いのに。

 そして集中に集中してる僕は毎回気付かず、ゆずにこうして怒られて初めて、気付くことになる。
それが毎回の流れ。お決まりだ。

「今日はなんの絵? この前下描きしてたやつ?」
「そうだけど……ゆず、もしかしてまた喧嘩したの?」
「ぐっ……」

 やっぱりか。

 ゆずの家は父子家庭で、勉強面でよく父親とぶつかるらしい。
昨日喧嘩したり、ちょっと言いにくい事が出来たりして帰りづらい時に僕のところに寄るんだとか。

 後ろの美術室ではみんなが、わいわい紙面に絵を描いていて、楽しそうな声が聞こえる。
だけど僕はその輪に入らず、一人で集中して描きたいんだ。

「んんー……やっぱさ、うちの父親頭固すぎ」
「はいはい。ゆずに立派に育ってほしいんだよ、きっと」

97 碧空.  [id : UMc7B9a.] [2015-08-14(金) 00:19:53] 削除依頼

 うぐぐ、としばらく唸り声をあげていたがやがて、近くの椅子に腰掛けて問うてきた。

「……茜はさぁ、嫌な事があったらやっぱり、絵に逃げ込むの?」
「えっ……うーん、まあ大体がそうかな。無心になれるね、絵は」

 ふーん、と彼女の納得のいかぬような意味の分からぬというような声が聞こえた。
ゆずは語尾に疑問符をつけ、再び言葉を紡ぐ。

「絵、ってさ。無心で上手く描けるものなの? それで良いの?」
「……僕の場合“無心で描く”より“描くと無心”になる方だからなあ」

 人それぞれじゃない?とゆずへ伝え、筆を持ち直す。
あ、と彼女が声をあげたと同時に、筆先から黄緑が僕の靴……のすぐ脇の床へ垂れた。

「あっちゃー……ま、いっか」
「……茜は、さぁ」

 黄緑を見て溜め息混じりに呟いた僕の耳に、またもやゆずの声が響いた。
その声は今までよりも弱々しく、だけど強く問い詰めてくるようだった。

「……茜は、……なんで、絵を描くの……?」

98 碧空.  [id : UMc7B9a.] [2015-08-14(金) 23:34:12] 削除依頼

「え……」

 なんで……“なんで”?
なんで、絵を描くか……?

「そりゃあ、好きだから、……じゃん?」
「それだけじゃない様に見えるよ、私は」

 瞬間、背中にぞくりとしたなにかが走った。ゆずの強い瞳の中の僕は、筆を持っていて。
それだけじゃない……。他に何がある?

 小さい頃から、「好きだから」描いてきた。
上達していく自分を感じるのが嬉しくて、楽しくて。描いていると何もかもを忘れられて。
上手いね、と褒められる事も、賞をもらう事も、嬉しくて、誇らしさすら感じていた。

「……ゆず、なにいって……」
「茜は、描いてんの楽しい? 楽しくて描いてる? 何のために描いてる?」
「なっ、んっ……の、って……!!!」

 嫌な事から逃げるため。

そんな言葉が脳裏を過る。

99 碧空.  [id : 9U5Ik6o.] [2015-08-15(土) 23:04:40] 削除依頼

「……描くのに、好き以外の理由なんか……っ!!」
「……違うの。私の話、聞いてよ、茜」

 カタン、と椅子から立ち上がり、窓の方へ歩いていく。
いつの間にかのぼった夕陽が、ゆずの顔を赤く明るく照らす。
眩しそうに目を細め、くるりと振り返り僕の顔を見詰めた。

「褒められるためでも、上達するためでも、……嫌な事から逃げるためでも。
 きっと、結局理由なんてどうでも良いんだよ」

 一度だけ、目線を落として。背中が橙色に染まって、顔は陰る。

「ね、どんな理由だって、それは全て……“描いていたい”に繋がるもん」

 へへ、と軽快な笑い声をあげるゆずは、先程まで身に纏(まと)っていた雰囲気はもうどこかにやっていた。

ーーー私には、何もないから。

 寂しげに呟いた彼女の声を僕は容易に拾い上げることができて。どうしたら良いのか、迷いに迷って気付かないふりをした。
聞かれない方が、ゆずとも今後、関わりやすいかなと思って。

「……ゆず。僕、好きだよ。描くの」

 キャンバスに筆を走らせ、共に言葉を発した。

「嫌な事から逃げるためかもしれないし、褒められるためかもしれない。
 何にせよ、僕が描くのは“描きたい”と思ったから」

ーーーそれだけだよ、本当に。

 バケツに筆を入れる。透明な水に、もやもやと黄緑が広がっていく。

「……できた」
「……これ、」
「……題名。『風と走る』、かな」

 黄緑色の草原を、青い空の下走っていく、白い馬。
金色のたてがみが水色の風になびき、光る。

「……綺麗だと思う。凄く。……うまくは表せないけど」
「それでも良いよ。自分以外の人が綺麗だ、って言ってくれたから」


 好きな事をする“意味”ってなんだろう。
色々な事の理由を探し、色々な事の理由を見付けながら、きっと生きてく。

 夕陽に染まる美術準備室。
これからも、ゆずとここで色々な経験をしていくんだろう。


【Mini Story 9*好きだから。】

100 碧空.  [id : EjarP7e1] [2015-08-17(月) 00:25:35] 削除依頼


*.

「……はい、ラムネ。こぼすなよー」
「……分かってる。子供じゃないし」

 ああ、いつもいつも可愛くない。お礼のひとつくらい、簡単に言えるでしょうが。
可愛くねー、と先輩は笑う。先輩にため口なんて、学校じゃあ怒られるだろうな。

 でも今、この時間は、この時間だけは、先輩後輩の関係から外されるから。

「うひーっ。ベッタベタや」
「……そりゃ、ラムネだしね」

 プシュリ、と音をたてて、泡と共に弾け出る砂糖の甘い香り。それをぐびりと飲み、顔をしかめる。

「……何かこのラムネ、炭酸強くない?」
「そうか? 別に変わんないと思うけど」
「どこで買った?」
「そこの駄菓子屋」

 げげ、と眉根を寄せる。

ひとつ年上の幼馴染みの彼は、忙しいのか昔のことを忘れがちだ。
中学三年生で生徒会長の地位にいるからって、生徒を一番に考えながら受験勉強なんて大変すぎる。
私なんて想像するだけでいっぱいいっぱいなのに。

「……私、あそこの駄菓子屋嫌いなんだよね」
「そうなん? ……あ、前言ってた気ぃする」

 彼だって疲れてるんだろう。それなのに毎日私と帰って、よく色々と奢ってくれる。
だから「いつもありがとう」って。言いたいのに、言えない。

「……じゃ、俺飲んでやるよ」
「……それはさすがに悪い……」

 ああでも、気遣ってくれるんだ。優しくて気遣い屋で、昔から変わってない。
ねえ。なんで、言えないのかな。

「……でも、あ、あり、……」
「んー?」
「……あ、りが、とう……」

 顔から火が出ているように、火照る。紅くなっているのは自分自身がよく分かっていた。
それでも言いたかったことを、喉に詰まっていた言葉を、届けることが出来ているのかな。
恐る恐る、彼の方を見てみる。

 目を皿のようにした彼が、私に抱き付いてきた。

「なっ、なななっ……!!」
「お前がお礼を言うなんてっ……! 成長したなぁっ!」

 力の強い彼の腕の中でもがきながら、さらにさらに顔が熱くなるのを感じていた。
彼も私もラムネ瓶は持ったままで、盛大に傾いていたがこぼれることは無く。

 パッと私を離した彼が数歩進み、振り返って笑顔で言った。

「どういたしましてっ」

 真夏の日差しに照らされ、彼の茶髪はより一層輝き。
ラムネ瓶の中のラムネのビー玉も、反射して白く光る。
眩しくて、でも嬉しくて、目を細めて笑った。

ねえ私、これからも言えるように、頑張るからね。


【Mini Story 10*ありがとう。】


■100記念です。いつもいつも、ありがとうございます。
 これからも夏のお話を綴っていこうと思いますので、
 通りすがりに、休憩がてらにでも、読んでやってください。*

101 碧空.  [id : vk0Qks4/] [2015-08-18(火) 18:04:29] 削除依頼


*.

「あ……」

 走っているあなたを、笑っているあなたを、ずっと見ていたかった。

「どうした? 夏々(なな)」
「なっ、なんでもないっ! 行こうっ」

 話すきっかけなんていらない。姿を見られれば、それで充分だった。

「……もしかして、まーた先輩見てた?」
「ちがっ……く、ない……かもしれない」
「どっちなのよ。やっぱ好きなんじゃないの? 光流(ひかる)先輩の事」
「……違うもん……」

 好きじゃない。……と言える自信なんて、本当は全く無い。
“好き”と“好きじゃない”の狭間でずっと、はっきりしなくて。もやもやした気持ちを懐いたまま、毎日を過ごしている。

 光流先輩は、ひとつ年上の中学三年生。足が速くて、運動会でも毎年一位をとっていた。
部活も楽しそうに参加していて、昇降口前の教室で活動しているパッチワーク部員の私は、よくその姿を眺めている。

 違ってないでしょーと笑いながら歩いていく友達は、私が光流先輩が好きだ、とすっかり思い込んでいて。

102 碧空.  [id : 6Mags/T.] [2015-08-19(水) 20:18:18] 削除依頼



(……早く先生、会議終わらせてよ……)

 何のために、保健室の留守当番しないといけないんだろうか。
放課後。たまたまそこにいた保健委員の私の横を、たまたま先生が通りかかったってだけで。

「……部活、行きたいなぁ……」

 溜め息と共に吐き出した言葉は、私以外誰一人としていないこの空間に響き、溶けていくようだった。
保健室からじゃあ先輩も見えないし、待ってる時間は暇だし部活遅れるし、良いところなんてひとつもない。
大体具合が悪かったり怪我をしたりする人なんてそうそういないんだから、留守番をつける必要はないと思うんだけど。

 心の中で先生に対しての文句をぐちぐち言っていると、突然ガラリと扉が開いた。

「……っ」
「……あれ、先生は?」

 入ってきた彼ーーー光流先輩はぐるりと保健室を見回してから、私に聞いた。
あまりに急なことで、少し声が小さくなってしまう。

「……せ、先生は今、会議中で……」
「あー、そうなの? じゃ、絆創膏ってどこにあるか分かる?」
「そ、そこの戸棚の中に……あ、私出しますね」
「お、ありがとう」

 走っている先輩を、笑っている先輩を、ずっと見ているだけで良かった。
話すきっかけなんていらない。姿を見られれば、それだけで充分だったのに。

 まさか先輩から話しかけてくれる日がくるなんて、夢にも見ていなかったこと。
知り合いでもない。こちらが一方的に気になってるだけ。
……保健室の留守当番、少し好きになったかもしれない。

「どうぞ……あ、箱は部活終わりにでも、返しに来てください」
「うん、ありがとう。じゃあ部活終わり、返しに来る。先生に言っといて!」

 とたとたと足音をたてて走り去って行く先輩の後ろ姿を、ずっと眺めていた。

 私はきっと、忘れない。今の気持ちも、先輩のことも。後ろ姿も、全部。
だけど先輩は、忘れてしまうんだろう。今日の出来事は、いつの日か全部。

 心音がうるさい。手も、少し震えてる。顔が熱い。
きっと言えずに、ずっと胸に閉まっておくんだろうな。今の気持ちは。


 またいつか、話せたら良いと思う。またいつか、近くであの声を聞きたいと思う。
まだ、卒業してほしくないと思う。まだ、行かないでほしいと思う。

 自分にも解らない。でも恐らく、私は先輩の事が好きなのだろう。

 またいつか、話したいと思ってる。またいつか、近くであの声を聞きたいと思う。
まだ、遠くへ行かないでほしいと思う。まだ、近くにいてほしいと思う。

 私達はこのもどかしい気持ちに、「恋」と名前をつけるんだろう。
矛盾ばかりでとてもわがままな、この気持ちに。


【Mini Story 11*恋。】

103 碧空.  [id : MskM3KW1] [2015-08-20(木) 23:16:31] 削除依頼


*.

「ねえ、もうすぐテストだからさ、教えてよ。細(さざれ)さん」
「何でわたしの知識をお前に分けなきゃないんだ。花厳(かざり)」

 毎日毎日、放課後は掃除をして帰るのがわたし、細 水月(さざれ みづき)の日課だった。
しかしこの頃、この男ーーー花厳 時雨(かざり しぐれ)が来るせいで、予定が狂ってしまうことが多々ある。
何とか無視して掃除しようと何度も試みたが、しつこく話し掛けてくるため気が散って、掃除しながら言葉を交わしている。

 本当は一人でこの教室に残りたいのだが。

「ほら俺、頭悪いからさ。テストは毎回上位の細さんに教えてもらいたいのさ」
「こわ……女子の順位把握してんのかよ。つーか早く部活行け。お前がいると汚(けが)れる」
「細さんが教えてくれるって言ったら帰っても良いけど、俺」

 ーーーああ、本当に面倒くさい。

持っていたほうきを思いっきり床に投げ付け、花厳を睨む。
我慢しながら我慢しながら、頑張っていたけどもう限界だ。
本当にイライラする。こういう性格の奴は特に大っ嫌いだ。

「良いか花厳。よく聞け。わたしが嫌いな性格はーーー」

 指を三本立て、花厳の目前にびしりと見せ付ける。驚いたように一瞬体を反らせたがまた、すぐに元に戻った。

「三番目、チャラチャラしてる男。二番目、猫を被ってるチャラ男。
 そして一番目……面倒くさい奴だ!」

 どれもこれも、全て花厳に当てはまるものばかり。こう言えば馬鹿な花厳でも、さすがに理解可能だろう。
そして今後一切、わたしに近付くことをやめてほしい。

104 碧空.  [id : P5tCdlD1] [2015-08-22(土) 21:23:10] 削除依頼


 流れる空気。校庭にいる野球部の掛け声が、よく聞こえた。

 そろそろ、日が暮れてきた。本来ならばこの時間、すでに部活へ向かっている。
どうして花厳に付き合って、部活時間を削らなければならなくなったのか。

「……くっ、はははっ!!」

 静かな夕暮れの教室。そんな中でわたしの鼓膜を先に叩いたのは、花厳の笑い声だった。

ーーー分からない。
 なぜこいつは今、笑っている?まさか、意味が理解できていないとでも言うのか。
そこまでに花厳の頭は……と考え戸惑いながら、声を発する。

「なんであんた、笑ってんの? 自分の事だって、もしや気付いてないの?」

 目尻に笑い涙をうっすらと浮かべた花厳がそれを拭い、いやいやと手を振った。
ますます訳が分からない。わたしの言葉はちゃんと花厳に届いている。ならばなぜ、花厳は笑っている?

「……良いね、細さん。ますます俺のものにしたくなったよ」
「っはあぁっ!!?」

 教室に入ってきて、じりじりと少しずつ、わたしに近付いてくる。
駄目だ、逆効果だった。さらに近付いてきてしまった。

 嫌な笑みを見せるこいつは、恐らくどこかおかしい。狂っている、とでも言おうか。

「やっぱりそういう性格、良いよ。無駄に飾ろうとしない」
「ふっ……ざけんなよ!? つーか早くどけ! 進めない!」

 くい、と顎を持ち上げられる。迷惑さと共に、“本当に顔だけは整っているな”と余計なことを考えていた。

「ねえ、俺諦めないから。絶対」
「迷惑だからやめろ! 本当!」

 幸も不幸も。
どちらも偏って起こるわけではなかった日常。

ーーーわたしに不幸を振り撒くのは、間違いなく花厳である。


【Mini Story 12*小嵐。】
([>83-86]の続きです。)

105 碧空.  [id : KrqEbUx/] [2015-08-24(月) 23:52:34] 削除依頼


*.

「……ん。れーんっ」

 耳につけていたイヤホンを外し、声の聞こえた方を見る。

 俺の部屋の入口付近、ひょっこりと顔を覗かせる幼馴染みがいた。
長い髪をサイドにまとめ、部屋で掛けているという黒渕の眼鏡をして。

「美里(みさと)! どうした?」
「練(れん)に会いたくなって!」

 こいつは俺がそんな一言で一喜一憂していることを知らない。いや、知られたらそれはそれで困ることになるのだが。
まあ簡単に言えば、よくある話、俺はこいつが好きなのだ。感情を表に出しやすく、「怒ってる」だとか「喜んでる」だとか、本当に分かりやすい美里のことが。
なに聴いてたの、と呟きながら彼女は、俺のベッドに腰掛ける。

 相変わらず無邪気な笑顔を浮かべている。だからこそ、心配になるのに。

「ね、今聴いてたやつ、私も好きそう?」
「……ロックだから、たぶん好きじゃなさそう」

 床に散らばった本やら雑誌やらを広い集め、無造作に本棚に戻す。
別に美里の前で綺麗な部屋を見せたい訳ではないが、客としてあがってきたのだからマナー的にもそれが良いだろう。

「片付けなくても良いのに。小学生の頃はもっと酷くて、もはや吹っ切れてたでしょ」
「おあいにくさま、今の俺は客を大切に扱う、優しい優しい男子高校生なんでね」

 きゃははと笑い声をあげて、溜め息と同時にベッドへ体を沈ませる。
部屋の天井を見詰める美里は、どこか寂しげな表情(かお)をしていた。

 ふと頭に、聞いてはいけない疑問が過(よぎ)る。

106 碧空.  [id : OHiEzVs1] [2015-08-25(火) 21:55:21] 削除依頼


(……聞いても良いものか。いつも通りに聞けば……でも……)

 先程からずっと、美里の顔を見た時からずっと。考えている事がある。
多分聞いてはいけない事。だけど幼馴染みという関係を利用して、いつもと同じように聞けば許されるのだろうか。
さりげなく話題を変え、そしてからかうように聞いていけば。

 だって美里だって、本気では無かっただろう。
その報告を聞いた時、「別に本気な訳じゃないけどね」とへらへら笑って俺に言ってきたのだから。
今回の事だって、特に悲しんでいる様子は見られない。恐らくそんなにショックを受けていないのだろう。

 美里の顔に浮かぶ笑顔は強がりなどでは無く、もしかしたら興味がないだけかもしれない。

「……練? 何かあったの?」
「っ……や、何でもない。……あ、そういえばお前さーー」

 ベッドに腰掛けたまま、首を傾(かし)げる美里。今の流れだったら、きっと聞ける。いつも通りに。
もやもやと喉に詰まっていた言葉を解放する。気付けば俺は、笑顔で美里に問い掛けていた。

「そういえばお前さ、彼氏と別れたってーーー」

 差していた人差し指はしなるように下へ曲がった。体は硬直し、嫌な汗をかいていた。
つぅ、と一筋。美里の頬に透明な線が引かれた。

 間もなくして、ぽろりと一粒、この部屋の床へ落ちた。

「ーーえっ、みさっ……」
「ーーー良いのっ……!!!」

 両腕全体で顔を隠すように、俺を拒むように、一歩後ずさった。その間にもぼろぼろぼろぼろ、止めどなく涙は落ちる。

「……もうっ、終わったことだからっ……!!!」

ーーー終わってない。

 こいつにとっては何も、終わってない。あふれでてる涙が語ってる。あのときは確かに、本気な訳じゃない、と言っていたのに。
あれは嘘だったのか、はたまた、気が変わったのか。聞きたかった。一から全てを。聞いてしまいたかった。
後悔と言う名の感情が頭の中で渦巻く。美里をこんな顔にさせるなら。美里を苦しませてしまうなら。聞かなければ、良かった。

「……ごめんね、帰る。……じゃあ」

 目を腫らしたまま、美里は俺の部屋から出ていく。追いかけていく事も引き留める事も俺にはできなかった。
美里のいない室内はやけに静かに感じる。
たった数秒前までそこにいた彼女の声が、体温が、純粋な涙の筋さえもが、まだそこに残っている気がした。

 美里はもう来ない。そう言いきれる、不思議な自信があった。


【Mini Story 13*失恋。】

107 碧空.  [id : Fki1Euv1] [2015-08-27(木) 22:33:18] 削除依頼

【Mini Novel Introduce.】*ミニストーリーの紹介です。

■[>96-99] 好きだから。
 ……うん……。←
このお話、私自身絵を描くのが好きなので、
「……なんで好きなんだ……?」ってとこから広げていきました。
書くの楽しかったけどすごいぐだぐだなった……。(・ω・`)

CAST:茜(あかね) × ゆずゆ


■[>96] ありがとう。
 気付いたら100になってました。
ありがとうございますーって気持ちを織り込み織り込み綴り綴り。

キャスト……先輩 × 後輩?←
特に名前は決めてません(笑)


■[>96+102] 恋。
 あの……本当ごめんなさい……。
恋愛系無理でした……。

CAST:夏々(なな) × 光流(ひかる)


■[>96+104] 小嵐。
 この二人好きだあー。
やりとりが好きだあー。
二人の名前好きだあー。←

多分ちょくちょく、続きとか書くと思います……(笑)

CAST:細 水月(さざれ みづき) × 花厳 時雨(かざり しぐれ)


■[>96+106] 失恋。
 「恋。」を書いたので、失恋も書こう!みたいな←
美里の話も、のちのち書こうと思っています。

CAST:練(れん) × 美里(みさと)


【Correction.】*訂正です。

■[>96] ありがとう。

× “ラムネ瓶の中のラムネのビー玉も”
○ “ラムネ瓶の中に入ってるビー玉も”

ですね;

108 碧空.  [id : Fki1Euv1] [2015-08-27(木) 23:48:03] 削除依頼


*.

 オレンジジュースを、夕暮れの空に溶かす真似をしてて。
陽に透ける君の髪は、まるで日光の糸束の様に綺麗だった。
そんな君に私が呟いたのは、つい昨日の出来事なんだよね。

「……美味しい? それ」
「? うん、そりゃあね」

 文化祭準備のごほうびに、先生がくれた缶のオレンジジュース。どうしても飲みたくなくて、友達の彼が飲む様子を観察していた。

「……さっきから見てるけど、飲まないの? 友夏里(ゆかり)」
「……あんまり飲みたくない。大星(たいせい)は好きなんだね」
「普通に美味しくない? 果汁多目のオレンジジュース」
「果汁多目って所からして、私はもう無理なのですよね」

 味が濃くて、飲むと喉とか舌とかがびりびりするような感じが嫌い。上手く表す事が、説明する事が出来ないのが本当にもどかしい。
オレンジよりはリンゴ、リンゴよりは桃の方が、私としては好きなんだけど。
先生がわざわざ買ってきてくれた中にオレンジ以外が無かったのは、失敗だったと思う。

「……味濃いのが嫌なんだ?」
「んー……多分、そんな感じ」

 それだけが原因じゃ、無いけどさ。嫌いな理由はもっと、別なところにある。

109 碧空.  [id : lJRuzmG/] [2015-08-30(日) 20:16:21] 削除依頼


「……うっし、そろそろ帰るか」
「うん……あ、」

 そうだと体を立たせた大星を引き留める。

「大星。これ、あげる」
「……は?」

 さっきから握りしめていた缶を大星の前に差し出す。
要らないから、と一言加えて、自分も立った。

「……ほんとに要らないのかよ」
「私嫌いって言ったでしょー! ほら、帰ろ!」

 数歩進んで振り返って、大星を催促(さいそく)する。
それなのに彼は先程の私のように、夕陽と缶を重ねていて。

「何してるのたいせ……。……!?」

 大星はじっと缶を見詰めた後、いきなり開けて、飲み始めた。さっき飲んだばかりなのにと、驚く。
いくらか飲んだのちに口を離し、私の方へ目線を向けた。

「ほら。毒味! 俺が無事なんだからお前も無事だろ? 飲めよ!」

 ずいっ、と缶を返そうとする大星。

「いや、嫌いっていってんじゃん! 要らないよ!」
「普通に美味しいから! お前なんでそんな嫌うんだよ!」
「っだってーーー……」

110 碧空.  [id : VmF74pv0] [2015-09-11(金) 00:22:15] 削除依頼

 二人の間を、生ぬるい風が吹き抜けた。
言ってしまったら楽だろうか。同時に認める事にも繋がってしまうけれど。
沈黙に耐える事が出来なくなった私は、ぽつりと言葉を溢(こぼ)す。

「っ……大星に、似てる、から……」
「…………はあぁ?」

 気の抜けたように語尾をのばして言ってくる大星。だって、と言葉を紡いでいく。

「だってーーー大星みたいに、明るいから! 明るいのってあんまり好きじゃないの!」
「は!? 意味分かんねえよお前! じゃあ俺とも今まで、嫌々一緒に居たっつーのか!?」

 大星のその言葉にぴたりと動きを止める。明るいのが嫌い、大星は明るい、イコール大星が嫌い、に繋がるのだろうか。
別に大星の事を嫌いだと思った事は無い。だからと言って、特別な感情を懐くなんてそれこそ有り得ない話だけれど。

「嫌いじゃないよ」
「……意味分かんね」
「大星の事は嫌いじゃない。むしろ好きだよ」
「っ、はああぁ!!?」
「だって面白いし、一緒に居て楽しい。大星の明るさとオレンジジュースの明るさは、根本的に違うような気がしてきたぞ」

 陽に照らされて紅くなった大星の顔が目に映る。溜め息を漏らしたように見えたのは気のせいだろうか。

「……帰るか。これは俺が飲みます」
「うん。そうしていただけますかね」

 オレンジジュースを、夕暮れの空に溶かす真似をしてて。
何だか歩くのが速い君に追い付けなかったのは、昨日の事。
じりじりと私達の背を焦がし、赤く明るく見下ろすの太陽。

 こんな私が恋を知るのは、きっとまだまだ先の事ーーー。


【Mini Story 14*天然と不意打ちと、橙色。】

111 碧空.  [id : IlNtyY./] [2015-09-11(金) 14:59:13] 削除依頼


ご愛読ありがとうございました

112 碧空.  [id : kfgjZhB/] [2015-09-11(金) 19:09:26] 削除依頼


*.

 からの透明瓶を通して、空を見ていた。昔からこうするのが好きで。
どんな空模様でも、瓶の中に閉じ込めているように、自分だけのものにしているように思えて。
もう、癖になっていた。

「……またやってんの、スイ」
「……あ、ミソラ。おはよう」

 友達のミソラは毎日、こうして遊びに来る。嬉しいから良いんだけれど。
わたしの癖を呆れたように見ながらも共感してくれるミソラが、本当に大切だと思ってる。

「本当に好きだねえ、それ」
「だって綺麗じゃない。心が洗われる気がするもの」
「綺麗だけど……飽きない?」
「まさか」

 ふーん、と言いながらわたしから瓶を取る。そして、空を見詰めた。
今日の空は美しい。雲が無くて、青色が濃い。夜空はきっと、青藍色になるはず。
星もくっきり見えるだろう。

「……でもさあ」

113 碧空.  [id : A6DwRr9/] [2015-09-12(土) 17:41:22] 削除依頼

「ん?」
「もしも空が無くなったら……スイ、どうするの?」
「……空が、無くなる?」

 嗚呼、そうか。また、何かの本に影響されたんだろう。ミソラはそういうのが多いから。
それにしても空が無くなるなんて、おかしな事を言うものだ。現実離れしすぎている。
ファンタジー系の話なのか。

「ある日突然、がらがらと音を立てて崩れてくるの。空が。地面には空の欠片がぼとぼと落ちててさ」
「まっ、待ってミソラ。それ、なんていう本?」
「……本じゃ、無いよ」

 瓶越しに空を見詰めて。その体勢のままミソラは、ワントーン低い声で告げる。
片目を瞑(つぶ)って瓶を逆さにしたり横にしたり少し傾けたりしながら、続けた。

「今よりもうちょっと先の未来、空は本当に崩れ去る。
 人々は人工の空を眺め、人工の雨を恨み、人工の雪で遊ぶ。そんな未来がやってくる」
「……じゃっ、じゃあ誰から聞いた話? 長(おさ)様から?」
「……違うよ。これはあたしが、……あたしが直接観た光景」
「へ……?」

 崩れ去る? 空が? どうして? 何の為(ため)に?

 頭の中に浮かぶのは、疑問符ばかり。これは未来の話。しかしそれを直接観た、と話しているミソラ。
一体どういう事なのか。本当に解らなくなってきた。

114 碧空.  [id : 2TUemB8.] [2015-09-13(日) 23:21:28] 削除依頼


「……ね、スイ」
「……な、に?」

 瓶から目を離し、わたしを強く見詰めてくる。話してくれるのかと期待し、わたしも見詰め返した。
鳥が小さく、チチッと鳴いている。風が吹いて、さわさわと草葉の擦れ合う音が心地良い。

「……あたしがもし、“未来を知る者”って言ったら……スイはどうする?」

 ざわざわと、草葉の擦れ合う音が騒がしく感じる。
友達でいるよ、って言いたかった。だけど喉に、つっかえて発する事ができなかった。

「……未来を知る、者……?」

 ざわざわと、心臓の音がとてもうるさく感じてしまう。
未来を知る者。その意味がよく理解できないわたしと、「ごめんね」という小さい言葉を残して、ミソラはわたしの家から出ていった。

ーーー嗚呼、今日も空は綺麗だな。わたしの心境なんて関係無しに。


【Mini Story 15*空の硝子。硝子の欠片。】

115 碧空.  [id : uYb/TiK.] [2015-09-14(月) 22:39:55] 削除依頼


*.

「……紅(べに)、ですか」
「ああ。紅、だ。俺の妹のな」

 友達の赤広(あかひろ)が、僕にこうして頼み事をしてくるというのは珍しい事だった。
わざわざ家まで押し掛けてまで頼みたい事とは何なのだろうと、驚いて身構えていたのは数分前の出来事。
そう。この珍事(ちんじ)の発端は、ほんの数分前なんだ。


『……どうしたの、赤広さん。妹を外に出したいなんて』
『お願いだ。妹は自分の見て呉れ(みてくれ)を気にしてか、部屋から一歩も出てこねぇ。このままじゃあいつ、おかしくなっちまうよ』

 相当思い詰めていたのだろう。
僕の両肩をがしり、と掴む力は強く、僅かに震えていたような気がした。

『なぁ、お願いだ。頼むよ黄瀬(きせ)。どんな手を使っても良い。だからーーー』


 “5日間の内に妹を、外に出してやってくれないか”ーーー

116 碧空.  [id : 4yoIU9j.] [2015-09-17(木) 22:12:21] 削除依頼

(紅。赤広……この一家は赤を主流に名付けているのだろうか)

 和風の家である。各部屋の入り口は襖(ふすま)。どの部屋も見る限りでは畳が敷かれている。
説明された通りのーーー紅、の部屋の襖をトントンとノックする。

「……あの、紅さん……居ますか」
「……ひぁっ、い、居ますっ……」
「……えっ!?」

 驚き、一歩飛び退く。
     、、
 だって、あの赤広さんの妹だぞ。こんなに控え目で小さな声の筈、無いじゃないか。
きっと、唯一部屋に入れるお手伝いさんか何かじゃないだろうかと、勝手に推測してみる。

 コホン、と咳払いをひとつ、今一度問うてみる。

「……えっと、紅さんは……」
「わっ、わたし……です……」
「……はい?」

 カタ、と微(かす)かに音がしたと思うと、彼女のか細い声は少しだけ、近くに来たように感じられた。

「わたし……が、紅、……です」

117 碧空.  [id : 4yoIU9j.] [2015-09-17(木) 22:41:42] 削除依頼

「……あ、」
「……貴方は……誰、ですか……? わたしの事を笑いに来たの?」
「え、いや……」

 ーーー“笑いに来た”。
何なんだろう、この紅という少女は。本当に赤広さんの妹なのか? ちゃんと血は繋がっているのだろうか。なぜこんなにもネガティブ思考なのだろう。
嗚呼、あまりじめじめしている雰囲気は好きではないのだが。

「……僕はあかひ……君のお兄さんの友達で、妹が居るってんで……会いたいなと思って来たんだ」
「……ひろお兄ちゃんの……お友だち……?」

 ひろお兄ちゃん、とは。赤広さんの事をこう呼んでいるのか。それにしてもあの性格の人に“お兄ちゃん”、だなんて。合わなすぎて笑えてくる。

「そう。だから顔を見せてくれな……」
「やめてよっ!!!」

 パシンッ……。
何かを地面に叩きつけたような効果音が、この廊下に小さく響き渡った。思わず、目を丸くする。

「紅ちゃ……」
「わたしは絶対外になんて出ない。例えひろお兄ちゃんのお友だちにだって、絶対に姿は見せないんだから……!!」

 鼻をすするような音まで、鼓膜を揺らしてくる。ふぅ、と溜め息を吐(つ)き、この少女にゆっくり、聞いてみる。

「……何でそんなに、人前に出るのを嫌がるんだい?」
「………………みんな、が、」
「うん?」

 少しの間を空けて、それでもこの少女は話してくれようとした。恐らく言うか言うまいか、悩んでいたのだろうと僕は思う。


「…………みんなが、わたしの事を見て、わらっ、……うの……。
 わたしは何もしていないのにこそこそ話をされたり、苛められっ、たりっ……!!」

 所々途切れている事や、時折ヒックという声が聞こえる事から、紅は泣いているのだろう。余程辛かったのだろうと考える。
可愛らしく寂しそうな話し声はいつしか、れっきとした泣き声に変わった。声が突如くぐもったのは、きっと布団か何かに突っ伏したんだろう。

118 碧空.  [id : 2VjV8ry0] [2015-09-19(土) 13:52:29] 削除依頼

(……こりゃ、厄介だなぁ……)

 いつの間にか入っていた、肩の力を抜いていく。

 思っていたよりも、自身の意見を曲げない。そんな面は意外と、赤広さんにそっくりだな、と思った。
最初は乗り気では無かった頼み事だけど、結構面白くなってきそうだ。赤広さんには悪いけど、暇潰しとして楽しませてもらおう。

 必ず、部屋から出して見せようじゃないか。


「ーーーまた、来るよ」


【Mini Story 16*紅。】

119 碧空.  [id : 2VjV8ry0] [2015-09-19(土) 16:16:58] 削除依頼


*.

 ーーー嗚呼、どうしようもなく。

 幾(いく)ら望もうとも、涙は留処(とめど)なく溢れ出てくる。
嫌だ、嫌だと思っても地面にぽつぽつと染みをつくり、嗚咽(おえつ)を漏らしながら立つ僕はひたすらに袖口を濡らしていた。

 どうしてこんな事が起こってしまったのか。
それは恐らく、突然に振りだした大雨の所為(せい)だろう。

 昨夜も今朝も、天気予報では「一日中晴れ」と言われていた今日の天気。
予報がはずれるのは稀(まれ)にある事だが、放課後目の前にカーテンの様な雨が降れば、焦り迎えを呼ぶだろう。


 そのお陰で、校門前は本当に混雑していた。

120 碧空.  [id : kxNsvIi0] [2015-09-22(火) 21:12:18] 削除依頼



『……はずれる、の域を超えてるでしょう、これ』

 持っていた傘を持ち上げ、空を見る彼女は呆れたように言った。そんな君から目線をずらし、今度はグラウンドや校門の方に目をやる。
傘を持たず、鞄で防ぎながら走って帰る者。颯爽と車へ乗り込む者。
校内には、電話をかけている者。友達と「やばいよー、これー」と言い合っている者。
横には、困惑したような目をして雨を見詰める者。成す術(なすすべ)無く呆然と立ち尽くす者。

 色々な者が居たが、その中で傘をさしていたのはーーー君だけだった。
いつもは真面目そうに見える奴も、今日ばかりは天気予報を信じ持ってこなかったのだろう。
折り畳み傘は邪魔になるからと、入れてこなかったのだろうか。どんまい、と言うしかない。

 “用意周到だね。”
僕が苦笑しながらそう呟くと、君は誇らしげに笑った。

『入りな。濡れちゃうよ』
『え、良いの? ありがと』

 幼馴染みだった。別にそれ以上でもそれ以下でもなかった。お互いがお互いに抱いていた感情は勿論“家族”とかだっただろう。
付き合ってないの、と周りから聞かれる事も少なくなかったが、恋愛対象として見た事もない。否定していた。
だから躊躇いも恥じらいも無く同じ傘に入る事が出来るし、帰りを共にする事も出来た。

『光哉(こうや)、そっち濡れてない?』
『大丈夫。奏(かなで)の方は大丈夫?』


 この時。
この時僕が“少し濡れるー”とでも言っていたら。
彼女の名前を呼んで、確認なんてしなければ。
そもそも同じ傘に入ろうとなんてしなければ。

天気予報が、こんなに大幅にはずれなければ。


 あんな出来事は、起こらなかったかもしれないーーー。

121 碧空.  [id : 1dXj40R1] [2015-10-11(日) 20:09:37] 削除依頼

 僕のせいで。僕のせいで。僕のせいで。
奏は僕のせいでーーー。


 大きなクラクションが今も、耳に響いている。先程まであんなに居た野次馬達はもう、みんな散り散りに歩き出していた。皮肉なものだ。奏と深く繋がる僕の心情なんて考えてもいないだろう。
せめてこうなるのが、僕なら良かった。奏ではなく、僕ならば。今更後悔しても、今更自分を責めても起きてしまった事が変わらないのは充分承知である。それでも尚、僕は泣き、悔やんでいる。

「……なで……」

 スリップした車が憎い。しかしそれを避(よ)けようと思った奏は偉いと思う。けれども避けたって、結局のところ結果は変わらないじゃあないか。
本当に馬鹿な人だ。車を避けて転んで、別の車に轢かれるなんて。そうした奏は運ばれ、未だ意識は戻らないと言う。

 みんなみんな、消えてしまえば良いのに。僕と奏以外、みんな。
見るだけ見て帰った奴等も、笑いながら歩いている奴等も、嘲笑った奴等もみんな。

 奏がし.んでしまったら。奏がこの世から消えたら僕はどうすれば良い。
あれだけ降っていた雨は止んだ。しかし僕の心は、依然として土砂降りだった。転がった奏の傘を拾い上げる。

 ここでいつまでも留(とど)まっているのは邪魔だろう。僕だったらきっと舌打ちする。
しかし足が重い。動かない。濡らした袖口を更に濡らしながら、僕はそこに立っていた。

……嗚呼、
ーーー奏が居なくなったら、僕が生きる意味は何処へ。


【Mini Story 17*雨降り。】

122 碧空.  [id : XpFJoPz/] [2016-06-04(土) 23:24:29] 削除依頼


*.

「風緑(かざみどり)! 白の看板絵の具、ある? 」

 筆を左手、容器を右手に。
いままで塗っていた看板から目を離し、一息ついたあたしに水青(すいせい)は言った。

「棚にあるから取って使ってー。あ、水はほんのほんの少しね!」
「へーへー。入れる量は俺の目で覚えたっつーの!」
「さーっすが美・芸術部副部長、便りになるーう!」

 この水瀬(みなせ)高校は運動部に力が入っていて、文化部は影が薄い。そのひとつに、「美・芸術部」がある。

部長があたし、副部長が水青で動いている美・芸術部は、それでも人数はそこそこ多く、楽しく活動していた。
今は二ヶ月後、校内で行われる「校内文化展覧会」に向けて、大きな作品づくりを進めていた。

「しっかし暑い、あたし限界なんで飲み物買ってくるけど、要る人いる?」

 じわじわじわじわ、夏が近づく。最近、夜は夏の匂いがして。蛙はうるさいし、ああ、夏なんだなあ、って少しだけ心が躍る。

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