或る夏の日。122コメント

1 碧空. id:dq3umJy1

2015-07-11(土) 18:31:45 [削除依頼]

  照り付ける太陽。
   風に、綺麗な花々が揺れ動く。


 そんな或る、夏の日。
  • 103 碧空. id:MskM3KW1

    2015-08-20(木) 23:16:31 [削除依頼]

    *.

    「ねえ、もうすぐテストだからさ、教えてよ。細(さざれ)さん」
    「何でわたしの知識をお前に分けなきゃないんだ。花厳(かざり)」

     毎日毎日、放課後は掃除をして帰るのがわたし、細 水月(さざれ みづき)の日課だった。
    しかしこの頃、この男ーーー花厳 時雨(かざり しぐれ)が来るせいで、予定が狂ってしまうことが多々ある。
    何とか無視して掃除しようと何度も試みたが、しつこく話し掛けてくるため気が散って、掃除しながら言葉を交わしている。

     本当は一人でこの教室に残りたいのだが。

    「ほら俺、頭悪いからさ。テストは毎回上位の細さんに教えてもらいたいのさ」
    「こわ……女子の順位把握してんのかよ。つーか早く部活行け。お前がいると汚(けが)れる」
    「細さんが教えてくれるって言ったら帰っても良いけど、俺」

     ーーーああ、本当に面倒くさい。

    持っていたほうきを思いっきり床に投げ付け、花厳を睨む。
    我慢しながら我慢しながら、頑張っていたけどもう限界だ。
    本当にイライラする。こういう性格の奴は特に大っ嫌いだ。

    「良いか花厳。よく聞け。わたしが嫌いな性格はーーー」

     指を三本立て、花厳の目前にびしりと見せ付ける。驚いたように一瞬体を反らせたがまた、すぐに元に戻った。

    「三番目、チャラチャラしてる男。二番目、猫を被ってるチャラ男。
     そして一番目……面倒くさい奴だ!」

     どれもこれも、全て花厳に当てはまるものばかり。こう言えば馬鹿な花厳でも、さすがに理解可能だろう。
    そして今後一切、わたしに近付くことをやめてほしい。
  • 104 碧空. id:P5tCdlD1

    2015-08-22(土) 21:23:10 [削除依頼]

     流れる空気。校庭にいる野球部の掛け声が、よく聞こえた。

     そろそろ、日が暮れてきた。本来ならばこの時間、すでに部活へ向かっている。
    どうして花厳に付き合って、部活時間を削らなければならなくなったのか。

    「……くっ、はははっ!!」

     静かな夕暮れの教室。そんな中でわたしの鼓膜を先に叩いたのは、花厳の笑い声だった。

    ーーー分からない。
     なぜこいつは今、笑っている?まさか、意味が理解できていないとでも言うのか。
    そこまでに花厳の頭は……と考え戸惑いながら、声を発する。

    「なんであんた、笑ってんの? 自分の事だって、もしや気付いてないの?」

     目尻に笑い涙をうっすらと浮かべた花厳がそれを拭い、いやいやと手を振った。
    ますます訳が分からない。わたしの言葉はちゃんと花厳に届いている。ならばなぜ、花厳は笑っている?

    「……良いね、細さん。ますます俺のものにしたくなったよ」
    「っはあぁっ!!?」

     教室に入ってきて、じりじりと少しずつ、わたしに近付いてくる。
    駄目だ、逆効果だった。さらに近付いてきてしまった。

     嫌な笑みを見せるこいつは、恐らくどこかおかしい。狂っている、とでも言おうか。

    「やっぱりそういう性格、良いよ。無駄に飾ろうとしない」
    「ふっ……ざけんなよ!? つーか早くどけ! 進めない!」

     くい、と顎を持ち上げられる。迷惑さと共に、“本当に顔だけは整っているな”と余計なことを考えていた。

    「ねえ、俺諦めないから。絶対」
    「迷惑だからやめろ! 本当!」

     幸も不幸も。
    どちらも偏って起こるわけではなかった日常。

    ーーーわたしに不幸を振り撒くのは、間違いなく花厳である。


    【Mini Story 12*小嵐。】
    ([>83-86]の続きです。)
  • 105 碧空. id:KrqEbUx/

    2015-08-24(月) 23:52:34 [削除依頼]

    *.

    「……ん。れーんっ」

     耳につけていたイヤホンを外し、声の聞こえた方を見る。

     俺の部屋の入口付近、ひょっこりと顔を覗かせる幼馴染みがいた。
    長い髪をサイドにまとめ、部屋で掛けているという黒渕の眼鏡をして。

    「美里(みさと)! どうした?」
    「練(れん)に会いたくなって!」

     こいつは俺がそんな一言で一喜一憂していることを知らない。いや、知られたらそれはそれで困ることになるのだが。
    まあ簡単に言えば、よくある話、俺はこいつが好きなのだ。感情を表に出しやすく、「怒ってる」だとか「喜んでる」だとか、本当に分かりやすい美里のことが。
    なに聴いてたの、と呟きながら彼女は、俺のベッドに腰掛ける。

     相変わらず無邪気な笑顔を浮かべている。だからこそ、心配になるのに。

    「ね、今聴いてたやつ、私も好きそう?」
    「……ロックだから、たぶん好きじゃなさそう」

     床に散らばった本やら雑誌やらを広い集め、無造作に本棚に戻す。
    別に美里の前で綺麗な部屋を見せたい訳ではないが、客としてあがってきたのだからマナー的にもそれが良いだろう。

    「片付けなくても良いのに。小学生の頃はもっと酷くて、もはや吹っ切れてたでしょ」
    「おあいにくさま、今の俺は客を大切に扱う、優しい優しい男子高校生なんでね」

     きゃははと笑い声をあげて、溜め息と同時にベッドへ体を沈ませる。
    部屋の天井を見詰める美里は、どこか寂しげな表情(かお)をしていた。

     ふと頭に、聞いてはいけない疑問が過(よぎ)る。
  • 106 碧空. id:OHiEzVs1

    2015-08-25(火) 21:55:21 [削除依頼]

    (……聞いても良いものか。いつも通りに聞けば……でも……)

     先程からずっと、美里の顔を見た時からずっと。考えている事がある。
    多分聞いてはいけない事。だけど幼馴染みという関係を利用して、いつもと同じように聞けば許されるのだろうか。
    さりげなく話題を変え、そしてからかうように聞いていけば。

     だって美里だって、本気では無かっただろう。
    その報告を聞いた時、「別に本気な訳じゃないけどね」とへらへら笑って俺に言ってきたのだから。
    今回の事だって、特に悲しんでいる様子は見られない。恐らくそんなにショックを受けていないのだろう。

     美里の顔に浮かぶ笑顔は強がりなどでは無く、もしかしたら興味がないだけかもしれない。

    「……練? 何かあったの?」
    「っ……や、何でもない。……あ、そういえばお前さーー」

     ベッドに腰掛けたまま、首を傾(かし)げる美里。今の流れだったら、きっと聞ける。いつも通りに。
    もやもやと喉に詰まっていた言葉を解放する。気付けば俺は、笑顔で美里に問い掛けていた。

    「そういえばお前さ、彼氏と別れたってーーー」

     差していた人差し指はしなるように下へ曲がった。体は硬直し、嫌な汗をかいていた。
    つぅ、と一筋。美里の頬に透明な線が引かれた。

     間もなくして、ぽろりと一粒、この部屋の床へ落ちた。

    「ーーえっ、みさっ……」
    「ーーー良いのっ……!!!」

     両腕全体で顔を隠すように、俺を拒むように、一歩後ずさった。その間にもぼろぼろぼろぼろ、止めどなく涙は落ちる。

    「……もうっ、終わったことだからっ……!!!」

    ーーー終わってない。

     こいつにとっては何も、終わってない。あふれでてる涙が語ってる。あのときは確かに、本気な訳じゃない、と言っていたのに。
    あれは嘘だったのか、はたまた、気が変わったのか。聞きたかった。一から全てを。聞いてしまいたかった。
    後悔と言う名の感情が頭の中で渦巻く。美里をこんな顔にさせるなら。美里を苦しませてしまうなら。聞かなければ、良かった。

    「……ごめんね、帰る。……じゃあ」

     目を腫らしたまま、美里は俺の部屋から出ていく。追いかけていく事も引き留める事も俺にはできなかった。
    美里のいない室内はやけに静かに感じる。
    たった数秒前までそこにいた彼女の声が、体温が、純粋な涙の筋さえもが、まだそこに残っている気がした。

     美里はもう来ない。そう言いきれる、不思議な自信があった。


    【Mini Story 13*失恋。】
  • 107 碧空. id:Fki1Euv1

    2015-08-27(木) 22:33:18 [削除依頼]
    【Mini Novel Introduce.】*ミニストーリーの紹介です。

    ■[>96-99] 好きだから。
     ……うん……。←
    このお話、私自身絵を描くのが好きなので、
    「……なんで好きなんだ……?」ってとこから広げていきました。
    書くの楽しかったけどすごいぐだぐだなった……。(・ω・`)

    CAST:茜(あかね) × ゆずゆ


    ■[>100] ありがとう。
     気付いたら100になってました。
    ありがとうございますーって気持ちを織り込み織り込み綴り綴り。

    キャスト……先輩 × 後輩?←
    特に名前は決めてません(笑)


    ■[>101+102] 恋。
     あの……本当ごめんなさい……。
    恋愛系無理でした……。

    CAST:夏々(なな) × 光流(ひかる)


    ■[>103+104] 小嵐。
     この二人好きだあー。
    やりとりが好きだあー。
    二人の名前好きだあー。←

    多分ちょくちょく、続きとか書くと思います……(笑)

    CAST:細 水月(さざれ みづき) × 花厳 時雨(かざり しぐれ)


    ■[>105+106] 失恋。
     「恋。」を書いたので、失恋も書こう!みたいな←
    美里の話も、のちのち書こうと思っています。

    CAST:練(れん) × 美里(みさと)


    【Correction.】*訂正です。

    ■[>100] ありがとう。

    × “ラムネ瓶の中のラムネのビー玉も”
    ○ “ラムネ瓶の中に入ってるビー玉も”

    ですね;
  • 108 碧空. id:Fki1Euv1

    2015-08-27(木) 23:48:03 [削除依頼]

    *.

     オレンジジュースを、夕暮れの空に溶かす真似をしてて。
    陽に透ける君の髪は、まるで日光の糸束の様に綺麗だった。
    そんな君に私が呟いたのは、つい昨日の出来事なんだよね。

    「……美味しい? それ」
    「? うん、そりゃあね」

     文化祭準備のごほうびに、先生がくれた缶のオレンジジュース。どうしても飲みたくなくて、友達の彼が飲む様子を観察していた。

    「……さっきから見てるけど、飲まないの? 友夏里(ゆかり)」
    「……あんまり飲みたくない。大星(たいせい)は好きなんだね」
    「普通に美味しくない? 果汁多目のオレンジジュース」
    「果汁多目って所からして、私はもう無理なのですよね」

     味が濃くて、飲むと喉とか舌とかがびりびりするような感じが嫌い。上手く表す事が、説明する事が出来ないのが本当にもどかしい。
    オレンジよりはリンゴ、リンゴよりは桃の方が、私としては好きなんだけど。
    先生がわざわざ買ってきてくれた中にオレンジ以外が無かったのは、失敗だったと思う。

    「……味濃いのが嫌なんだ?」
    「んー……多分、そんな感じ」

     それだけが原因じゃ、無いけどさ。嫌いな理由はもっと、別なところにある。
  • 109 碧空. id:lJRuzmG/

    2015-08-30(日) 20:16:21 [削除依頼]

    「……うっし、そろそろ帰るか」
    「うん……あ、」

     そうだと体を立たせた大星を引き留める。

    「大星。これ、あげる」
    「……は?」

     さっきから握りしめていた缶を大星の前に差し出す。
    要らないから、と一言加えて、自分も立った。

    「……ほんとに要らないのかよ」
    「私嫌いって言ったでしょー! ほら、帰ろ!」

     数歩進んで振り返って、大星を催促(さいそく)する。
    それなのに彼は先程の私のように、夕陽と缶を重ねていて。

    「何してるのたいせ……。……!?」

     大星はじっと缶を見詰めた後、いきなり開けて、飲み始めた。さっき飲んだばかりなのにと、驚く。
    いくらか飲んだのちに口を離し、私の方へ目線を向けた。

    「ほら。毒味! 俺が無事なんだからお前も無事だろ? 飲めよ!」

     ずいっ、と缶を返そうとする大星。

    「いや、嫌いっていってんじゃん! 要らないよ!」
    「普通に美味しいから! お前なんでそんな嫌うんだよ!」
    「っだってーーー……」
  • 110 碧空. id:VmF74pv0

    2015-09-11(金) 00:22:15 [削除依頼]
     二人の間を、生ぬるい風が吹き抜けた。
    言ってしまったら楽だろうか。同時に認める事にも繋がってしまうけれど。
    沈黙に耐える事が出来なくなった私は、ぽつりと言葉を溢(こぼ)す。

    「っ……大星に、似てる、から……」
    「…………はあぁ?」

     気の抜けたように語尾をのばして言ってくる大星。だって、と言葉を紡いでいく。

    「だってーーー大星みたいに、明るいから! 明るいのってあんまり好きじゃないの!」
    「は!? 意味分かんねえよお前! じゃあ俺とも今まで、嫌々一緒に居たっつーのか!?」

     大星のその言葉にぴたりと動きを止める。明るいのが嫌い、大星は明るい、イコール大星が嫌い、に繋がるのだろうか。
    別に大星の事を嫌いだと思った事は無い。だからと言って、特別な感情を懐くなんてそれこそ有り得ない話だけれど。

    「嫌いじゃないよ」
    「……意味分かんね」
    「大星の事は嫌いじゃない。むしろ好きだよ」
    「っ、はああぁ!!?」
    「だって面白いし、一緒に居て楽しい。大星の明るさとオレンジジュースの明るさは、根本的に違うような気がしてきたぞ」

     陽に照らされて紅くなった大星の顔が目に映る。溜め息を漏らしたように見えたのは気のせいだろうか。

    「……帰るか。これは俺が飲みます」
    「うん。そうしていただけますかね」

     オレンジジュースを、夕暮れの空に溶かす真似をしてて。
    何だか歩くのが速い君に追い付けなかったのは、昨日の事。
    じりじりと私達の背を焦がし、赤く明るく見下ろすの太陽。

     こんな私が恋を知るのは、きっとまだまだ先の事ーーー。


    【Mini Story 14*天然と不意打ちと、橙色。】
  • 111 碧空. id:IlNtyY./

    2015-09-11(金) 14:59:13 [削除依頼]

    ご愛読ありがとうございました
  • 112 碧空. id:kfgjZhB/

    2015-09-11(金) 19:09:26 [削除依頼]

    *.

     からの透明瓶を通して、空を見ていた。昔からこうするのが好きで。
    どんな空模様でも、瓶の中に閉じ込めているように、自分だけのものにしているように思えて。
    もう、癖になっていた。

    「……またやってんの、スイ」
    「……あ、ミソラ。おはよう」

     友達のミソラは毎日、こうして遊びに来る。嬉しいから良いんだけれど。
    わたしの癖を呆れたように見ながらも共感してくれるミソラが、本当に大切だと思ってる。

    「本当に好きだねえ、それ」
    「だって綺麗じゃない。心が洗われる気がするもの」
    「綺麗だけど……飽きない?」
    「まさか」

     ふーん、と言いながらわたしから瓶を取る。そして、空を見詰めた。
    今日の空は美しい。雲が無くて、青色が濃い。夜空はきっと、青藍色になるはず。
    星もくっきり見えるだろう。

    「……でもさあ」
  • 113 碧空. id:A6DwRr9/

    2015-09-12(土) 17:41:22 [削除依頼]
    「ん?」
    「もしも空が無くなったら……スイ、どうするの?」
    「……空が、無くなる?」

     嗚呼、そうか。また、何かの本に影響されたんだろう。ミソラはそういうのが多いから。
    それにしても空が無くなるなんて、おかしな事を言うものだ。現実離れしすぎている。
    ファンタジー系の話なのか。

    「ある日突然、がらがらと音を立てて崩れてくるの。空が。地面には空の欠片がぼとぼと落ちててさ」
    「まっ、待ってミソラ。それ、なんていう本?」
    「……本じゃ、無いよ」

     瓶越しに空を見詰めて。その体勢のままミソラは、ワントーン低い声で告げる。
    片目を瞑(つぶ)って瓶を逆さにしたり横にしたり少し傾けたりしながら、続けた。

    「今よりもうちょっと先の未来、空は本当に崩れ去る。
     人々は人工の空を眺め、人工の雨を恨み、人工の雪で遊ぶ。そんな未来がやってくる」
    「……じゃっ、じゃあ誰から聞いた話? 長(おさ)様から?」
    「……違うよ。これはあたしが、……あたしが直接観た光景」
    「へ……?」

     崩れ去る? 空が? どうして? 何の為(ため)に?

     頭の中に浮かぶのは、疑問符ばかり。これは未来の話。しかしそれを直接観た、と話しているミソラ。
    一体どういう事なのか。本当に解らなくなってきた。
  • 114 碧空. id:2TUemB8.

    2015-09-13(日) 23:21:28 [削除依頼]

    「……ね、スイ」
    「……な、に?」

     瓶から目を離し、わたしを強く見詰めてくる。話してくれるのかと期待し、わたしも見詰め返した。
    鳥が小さく、チチッと鳴いている。風が吹いて、さわさわと草葉の擦れ合う音が心地良い。

    「……あたしがもし、“未来を知る者”って言ったら……スイはどうする?」

     ざわざわと、草葉の擦れ合う音が騒がしく感じる。
    友達でいるよ、って言いたかった。だけど喉に、つっかえて発する事ができなかった。

    「……未来を知る、者……?」

     ざわざわと、心臓の音がとてもうるさく感じてしまう。
    未来を知る者。その意味がよく理解できないわたしと、「ごめんね」という小さい言葉を残して、ミソラはわたしの家から出ていった。

    ーーー嗚呼、今日も空は綺麗だな。わたしの心境なんて関係無しに。


    【Mini Story 15*空の硝子。硝子の欠片。】
  • 115 碧空. id:uYb/TiK.

    2015-09-14(月) 22:39:55 [削除依頼]

    *.

    「……紅(べに)、ですか」
    「ああ。紅、だ。俺の妹のな」

     友達の赤広(あかひろ)が、僕にこうして頼み事をしてくるというのは珍しい事だった。
    わざわざ家まで押し掛けてまで頼みたい事とは何なのだろうと、驚いて身構えていたのは数分前の出来事。
    そう。この珍事(ちんじ)の発端は、ほんの数分前なんだ。


    『……どうしたの、赤広さん。妹を外に出したいなんて』
    『お願いだ。妹は自分の見て呉れ(みてくれ)を気にしてか、部屋から一歩も出てこねぇ。このままじゃあいつ、おかしくなっちまうよ』

     相当思い詰めていたのだろう。
    僕の両肩をがしり、と掴む力は強く、僅かに震えていたような気がした。

    『なぁ、お願いだ。頼むよ黄瀬(きせ)。どんな手を使っても良い。だからーーー』


     “5日間の内に妹を、外に出してやってくれないか”ーーー
  • 116 碧空. id:4yoIU9j.

    2015-09-17(木) 22:12:21 [削除依頼]
    (紅。赤広……この一家は赤を主流に名付けているのだろうか)

     和風の家である。各部屋の入り口は襖(ふすま)。どの部屋も見る限りでは畳が敷かれている。
    説明された通りのーーー紅、の部屋の襖をトントンとノックする。

    「……あの、紅さん……居ますか」
    「……ひぁっ、い、居ますっ……」
    「……えっ!?」

     驚き、一歩飛び退く。
         、、
     だって、あの赤広さんの妹だぞ。こんなに控え目で小さな声の筈、無いじゃないか。
    きっと、唯一部屋に入れるお手伝いさんか何かじゃないだろうかと、勝手に推測してみる。

     コホン、と咳払いをひとつ、今一度問うてみる。

    「……えっと、紅さんは……」
    「わっ、わたし……です……」
    「……はい?」

     カタ、と微(かす)かに音がしたと思うと、彼女のか細い声は少しだけ、近くに来たように感じられた。

    「わたし……が、紅、……です」
  • 117 碧空. id:4yoIU9j.

    2015-09-17(木) 22:41:42 [削除依頼]
    「……あ、」
    「……貴方は……誰、ですか……? わたしの事を笑いに来たの?」
    「え、いや……」

     ーーー“笑いに来た”。
    何なんだろう、この紅という少女は。本当に赤広さんの妹なのか? ちゃんと血は繋がっているのだろうか。なぜこんなにもネガティブ思考なのだろう。
    嗚呼、あまりじめじめしている雰囲気は好きではないのだが。

    「……僕はあかひ……君のお兄さんの友達で、妹が居るってんで……会いたいなと思って来たんだ」
    「……ひろお兄ちゃんの……お友だち……?」

     ひろお兄ちゃん、とは。赤広さんの事をこう呼んでいるのか。それにしてもあの性格の人に“お兄ちゃん”、だなんて。合わなすぎて笑えてくる。

    「そう。だから顔を見せてくれな……」
    「やめてよっ!!!」

     パシンッ……。
    何かを地面に叩きつけたような効果音が、この廊下に小さく響き渡った。思わず、目を丸くする。

    「紅ちゃ……」
    「わたしは絶対外になんて出ない。例えひろお兄ちゃんのお友だちにだって、絶対に姿は見せないんだから……!!」

     鼻をすするような音まで、鼓膜を揺らしてくる。ふぅ、と溜め息を吐(つ)き、この少女にゆっくり、聞いてみる。

    「……何でそんなに、人前に出るのを嫌がるんだい?」
    「………………みんな、が、」
    「うん?」

     少しの間を空けて、それでもこの少女は話してくれようとした。恐らく言うか言うまいか、悩んでいたのだろうと僕は思う。


    「…………みんなが、わたしの事を見て、わらっ、……うの……。
     わたしは何もしていないのにこそこそ話をされたり、苛められっ、たりっ……!!」

     所々途切れている事や、時折ヒックという声が聞こえる事から、紅は泣いているのだろう。余程辛かったのだろうと考える。
    可愛らしく寂しそうな話し声はいつしか、れっきとした泣き声に変わった。声が突如くぐもったのは、きっと布団か何かに突っ伏したんだろう。
  • 118 碧空. id:2VjV8ry0

    2015-09-19(土) 13:52:29 [削除依頼]
    (……こりゃ、厄介だなぁ……)

     いつの間にか入っていた、肩の力を抜いていく。

     思っていたよりも、自身の意見を曲げない。そんな面は意外と、赤広さんにそっくりだな、と思った。
    最初は乗り気では無かった頼み事だけど、結構面白くなってきそうだ。赤広さんには悪いけど、暇潰しとして楽しませてもらおう。

     必ず、部屋から出して見せようじゃないか。


    「ーーーまた、来るよ」


    【Mini Story 16*紅。】
  • 119 碧空. id:2VjV8ry0

    2015-09-19(土) 16:16:58 [削除依頼]

    *.

     ーーー嗚呼、どうしようもなく。

     幾(いく)ら望もうとも、涙は留処(とめど)なく溢れ出てくる。
    嫌だ、嫌だと思っても地面にぽつぽつと染みをつくり、嗚咽(おえつ)を漏らしながら立つ僕はひたすらに袖口を濡らしていた。

     どうしてこんな事が起こってしまったのか。
    それは恐らく、突然に振りだした大雨の所為(せい)だろう。

     昨夜も今朝も、天気予報では「一日中晴れ」と言われていた今日の天気。
    予報がはずれるのは稀(まれ)にある事だが、放課後目の前にカーテンの様な雨が降れば、焦り迎えを呼ぶだろう。


     そのお陰で、校門前は本当に混雑していた。
  • 120 碧空. id:kxNsvIi0

    2015-09-22(火) 21:12:18 [削除依頼]


    『……はずれる、の域を超えてるでしょう、これ』

     持っていた傘を持ち上げ、空を見る彼女は呆れたように言った。そんな君から目線をずらし、今度はグラウンドや校門の方に目をやる。
    傘を持たず、鞄で防ぎながら走って帰る者。颯爽と車へ乗り込む者。
    校内には、電話をかけている者。友達と「やばいよー、これー」と言い合っている者。
    横には、困惑したような目をして雨を見詰める者。成す術(なすすべ)無く呆然と立ち尽くす者。

     色々な者が居たが、その中で傘をさしていたのはーーー君だけだった。
    いつもは真面目そうに見える奴も、今日ばかりは天気予報を信じ持ってこなかったのだろう。
    折り畳み傘は邪魔になるからと、入れてこなかったのだろうか。どんまい、と言うしかない。

     “用意周到だね。”
    僕が苦笑しながらそう呟くと、君は誇らしげに笑った。

    『入りな。濡れちゃうよ』
    『え、良いの? ありがと』

     幼馴染みだった。別にそれ以上でもそれ以下でもなかった。お互いがお互いに抱いていた感情は勿論“家族”とかだっただろう。
    付き合ってないの、と周りから聞かれる事も少なくなかったが、恋愛対象として見た事もない。否定していた。
    だから躊躇いも恥じらいも無く同じ傘に入る事が出来るし、帰りを共にする事も出来た。

    『光哉(こうや)、そっち濡れてない?』
    『大丈夫。奏(かなで)の方は大丈夫?』


     この時。
    この時僕が“少し濡れるー”とでも言っていたら。
    彼女の名前を呼んで、確認なんてしなければ。
    そもそも同じ傘に入ろうとなんてしなければ。

    天気予報が、こんなに大幅にはずれなければ。


     あんな出来事は、起こらなかったかもしれないーーー。
  • 121 碧空. id:1dXj40R1

    2015-10-11(日) 20:09:37 [削除依頼]
     僕のせいで。僕のせいで。僕のせいで。
    奏は僕のせいでーーー。


     大きなクラクションが今も、耳に響いている。先程まであんなに居た野次馬達はもう、みんな散り散りに歩き出していた。皮肉なものだ。奏と深く繋がる僕の心情なんて考えてもいないだろう。
    せめてこうなるのが、僕なら良かった。奏ではなく、僕ならば。今更後悔しても、今更自分を責めても起きてしまった事が変わらないのは充分承知である。それでも尚、僕は泣き、悔やんでいる。

    「……なで……」

     スリップした車が憎い。しかしそれを避(よ)けようと思った奏は偉いと思う。けれども避けたって、結局のところ結果は変わらないじゃあないか。
    本当に馬鹿な人だ。車を避けて転んで、別の車に轢かれるなんて。そうした奏は運ばれ、未だ意識は戻らないと言う。

     みんなみんな、消えてしまえば良いのに。僕と奏以外、みんな。
    見るだけ見て帰った奴等も、笑いながら歩いている奴等も、嘲笑った奴等もみんな。

     奏がし.んでしまったら。奏がこの世から消えたら僕はどうすれば良い。
    あれだけ降っていた雨は止んだ。しかし僕の心は、依然として土砂降りだった。転がった奏の傘を拾い上げる。

     ここでいつまでも留(とど)まっているのは邪魔だろう。僕だったらきっと舌打ちする。
    しかし足が重い。動かない。濡らした袖口を更に濡らしながら、僕はそこに立っていた。

    ……嗚呼、
    ーーー奏が居なくなったら、僕が生きる意味は何処へ。


    【Mini Story 17*雨降り。】
  • 122 碧空. id:XpFJoPz/

    2016-06-04(土) 23:24:29 [削除依頼]

    *.

    「風緑(かざみどり)! 白の看板絵の具、ある? 」

     筆を左手、容器を右手に。
    いままで塗っていた看板から目を離し、一息ついたあたしに水青(すいせい)は言った。

    「棚にあるから取って使ってー。あ、水はほんのほんの少しね!」
    「へーへー。入れる量は俺の目で覚えたっつーの!」
    「さーっすが美・芸術部副部長、便りになるーう!」

     この水瀬(みなせ)高校は運動部に力が入っていて、文化部は影が薄い。そのひとつに、「美・芸術部」がある。

    部長があたし、副部長が水青で動いている美・芸術部は、それでも人数はそこそこ多く、楽しく活動していた。
    今は二ヶ月後、校内で行われる「校内文化展覧会」に向けて、大きな作品づくりを進めていた。

    「しっかし暑い、あたし限界なんで飲み物買ってくるけど、要る人いる?」

     じわじわじわじわ、夏が近づく。最近、夜は夏の匂いがして。蛙はうるさいし、ああ、夏なんだなあ、って少しだけ心が躍る。
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