色々の詞。

SS投稿投稿掲示板より。


1    かえで  [id : iR7sP45.] [2015-06-21(日) 16:55:07] 削除依頼



色々。其れは赤青黄、他も含めて数え切れない程に。
其の色々を混ぜ合わせるものは、数え切れない詞(ことば)。

この世界に広がってく色と詞は、私達の想像を超えてゆく。





何度も失敗してきた短編集です。
今度こそという気持ちで書いていくので宜しくお願い致します。
ジャンルは様々となっています。
 

125 かえで  [id : nu3j5nI.] [2015-12-24(木) 14:40:36] 削除依頼



「二人共、メリークリスマス」
「青(あお)君の手作りお菓子!? やったあ、わかってるね」
「あっこの前聞いたけど琥珀(こはく)は青のお菓子が好きなんだっけ」
「そうなの! 碧(みどり)ちゃん騙されたと思って食べてみて。女子より多分、上手に出来てるから」
「なんか複雑だなあ……」


平和な教室内でのクリスマスイヴ、昼休み。
群青の不平等、より。

 

126 かえで  [id : IFUBjh6/] [2015-12-25(金) 16:18:05] 削除依頼



「私ね、あんたと一緒に居ると楽しいよ!」
「なに、急に」

ふっと笑みを浮かべた彼は余裕な顔をしてそう返してきた。
私は真剣だ。赤いタータンチェック柄のマフラーで口元を隠しながら強く強くまた言葉を溢してゆく。
どうしても今日だけは、とどけたいと思った。

「私ね、あんたが好き、なの」

世界がまっしろに溶けて私達を照らすひかりになる。
それが私にとってどれだけの緊張と震えを齎(もたら)すのかを彼は知らないのだから、可笑しいはなしだ。私ばっかり赤くなって、目の前で煌々と主張するクリスマスツリーすら視界に映らないでいる。
ああ恥ずかしい。はやくなんでもいいから言葉を言ってよ。

「……びっくりしたけど、嬉しい、よ。……うん。俺も、好き」

ああ今日を特別な日にできてよかった。
今日、一生懸命プランを立てて彼を誘った甲斐があった。報われた、なんて言葉じゃ足りないし、可笑しいかもしれない。けど私はすごく今、しあわせで充(み)たされてるよ。
ねえ、神様。彼のこころをどうか夜空に翳してください。そして私のこころも。

今日はなんてきれいなの。


「メリークリスマス」


 
/15回目のクリスマス

 

127 かえで  [id : oT8OySe.] [2015-12-26(土) 14:59:46] 削除依頼



彼女は男の名前すら知らないのに、男は彼女を愛し続けていた。
ふわふわの金髪に白い肌、ふんわりと頬に浮かぶピンク色にぱっちりと大きな青い瞳が、男を魅了させたのだ。男は一目惚れだった。
その優しい笑顔でさえ自分のものにしたくて男は彼女を家に置いた。彼女はいつだって優しい笑顔をしてくれるので、男のこころは自然と安らぎ、彼女が大切な存在になっていた。

「ああ、髪に埃(ほこり)がのっているよ。ふふ、可愛いね」

彼女は微笑む。
男はしあわせだったがふと思った。どうしてこんなにもぽっかりと穴が開いたような虚無に埋もれるのだろうと。
時々、感じては消していた空白のおもいが、突然になって溢れた。

彼女のワンピースの裾を掴んで、男は泣き崩れるように膝からがくりと落ちる。裾に皺(しわ)ができて深くなる。男は喉からついに言葉を漏らした。弱々しいと男は自分自身でさえ思った。
大好きな彼女の前で情けないと思うけれど、どうしても堪らなく否定してきたおもいが、伝えなきゃ、じゃないと俺の、心臓が張り裂けそうなんだ。ごめんよ、エリー。ごめん。


「なあ、泣いてよ、エリー」

彼女は微笑んでいる。それはきっと変わることのない笑顔だ。
大好きな笑顔なんだ。
その真っ直ぐな青い瞳から涙が零れてくれることを、男は待っていた。


 
/I miss you.

 あなたが恋しい

 

128 かえで  [id : oT8OySe.] [2015-12-26(土) 15:13:16] 削除依頼



くだらないような呟き。とばすことをおすすめ。
(やるの速過ぎるんじゃね←)
本当に自由なので気にするところもあると思いますが、これについてのコメントはしないで下さい;←


ちゃおを小学生のときに読んでて最近のニュースを観てたら「ちゃおで十四歳がデビューした」と聞いて度肝を抜かされてびっくり。
うおおまじかってなってちゃおのサイトに行ったら、じゃん。

ちゃお小学生・中学生まんがグランプリ
をやっていることに気付き「何この流れ。出したい」と思った←

オリジナルか……と思って悩んでこの短編の中から出すのもいいなあとか思ったり。
まだ夢を観てるだけなんで出さないかもですけどそんな思いを吐くのはこの場しかないと思って言いました(


呟きおしまい。

 

129 かえで  [id : oT8OySe.] [2015-12-26(土) 20:05:49] 削除依頼



「私、これ欲しいなあ」

グランプリ。金賞。つまり一番良かったひとに贈られる名誉。
それについてくる景品に私はこころを奪われて、漫画を描くことにした。漫画家用のペン等も要らなくていいということだし、銀賞とかでも図書券が貰える。チャンスなら掴んでおいて損はない。
私は描くことを決めた。前から小説を書くことは好きだったしその内容を応用してかいてみよう。

ああ、わくわくする。この感覚が薄れないうちに描きたい。
私は急いで紙をてきとうに引っ張り出して鉛筆を握り締める。まずは、何と言うんだっけ、ラフだけでも描いておこうかな。


 
/受験生のゆめうつつ

 >128 こんな気持ちです(;ω;
 「秋の始まりと」の応用で描いていこうと思ってます

 

130 かえで  [id : JJfsHhu/] [2015-12-27(日) 16:50:00] 削除依頼



苛々するんだよ、お前。
そんな声が耳鳴りみたいに右から響いたから私はそっちを向いた。
ああ隣クラスの委員長の女の子、そんな風に思ってたの。みつ編みがぴっちりと整ってて清楚な感じだと思ってたけど全然イメージ違うなあ。私に聴こえる程、強く思ってたんだ。

「ねえ好い加減にして。私は、貴女に正しくあってほしいの」
「正しさなんて不確かだよ。本当の正義とか判んないでしょ」

私がそう返すと、今度はこころと言葉がリンクしたからそのまま真っ直ぐに耳に仕舞い込んだ。
彼女のみつ編みが解けそうな程、彼女の視線は痛いものだった。眉間に寄せた皺(しわ)がすこしずつ歪んでいきそうで、私は瞬きを繰り返してしまう。

「何よ! じゃあ貴女みたいにスカートを短くして髪を明るくしている方が正しいと思うの!? どう考えたって私の方が正しいに決まってるじゃない、そんなことも判らないでっ――」

私はふ、と笑みを溢す。
彼女の皺が深くなったけれど彼女は直ぐに怒りを露わにしなかった。

「羨ましいの?」

私がそう問うと彼女の表情は爽やかに明るくなった。
それは笑っているのではなくて、何か憑かれたものが消えて、すっとしたような顔だった。なんでそんな顔をしているのか、理由は判っていた。
私がまた笑顔を浮かべてわざとらしく、明るいと言う髪を揺らしてみせた。髪は窓から吹く風に包まれて仰いだ。


「今度さ、また話さない」

私の言葉に彼女は眼鏡越しに瞳を瞬かせた。
私は彼女の返事を、静かに待っていた。


 
/あんど

 表裏一体、陰と陽、コインの裏表、似た者同士、

 

131 かえで  [id : WBwSU8f0] [2015-12-30(水) 15:19:47] 削除依頼



水族館が好きだった。
青い泡(あぶく)が浮いては消えて、また浮く様子が本当に間近で感じることができるから、好きだった。
でもその泡が現れるのは、魚たちが吐いたものじゃないと嫌だ。魚たちの呼吸を静かに眺めていたい。人工的に地面から湧いたりする酸素は嫌いなんだ。

「あ」

新しいところができてる。工事中だったんだっけ。
でも人混みで溢れたりはしていなくてすこし違和感を覚えたけど、新しいと言えど本当に隅のエリアだったし、近くには水族館の主役であるペンギンが居たから。それに今はまだ、青色が明るい午前中だ。
そっとエリアに入り込む。
全体がトンネルみたいに透明な硝子で覆われていて其処から映るのは一面の緑と青。そして浮かんでは消える泡がぽぽぽと溢れている。

ああ。
まるで宇宙にいるみたいに真空で。
まっさらなこころが叫んで、もう、泣きそうなほどに眩しい。

「きれい」

私だけが其処に立って、本当の青を見上げていたんだと思う。
微かに切れながら差し込むひかりが私と世界を包んで消えた。すると、くるりと回りながら間近にやってきたシロクマがこちらを向いた。真黒な瞳がわらっているみたい。
私もわらってみせた。


水族館を出ると、水族館の若いお姉さんが入口の看板を上げていた。
私はそれを横目でするりと抜ける。
今日も私は呼吸をして泡を吐こうとするのだ。


 
/ぶるーばぶる

お姉さんは私の背中に気付かないまま看板を下ろして、其処にやってきた家族を手招きながら「最初のお客さんですよ」なんて笑い声をひびかせていた。
(そういうことです)

 

132 かえで  [id : vkSywRa.] [2015-12-31(木) 19:29:17] 削除依頼



「いい。いちにのさんで、ふっ、だからね」
「うん。わかってるよ」

ひそひそと僕らの声だけがぽろぽろと紡がれていた。
時刻は既に明日を迎えるに二分前になる。
なのにカウントダウンで蝋燭(ろうそく)を消すことにわくわくしては僕に注意する彼女がとなりに居た。彼女の声色がぴかぴかとしていてその声で蝋燭が消えそうなのに、おもしろいなあ。

「いい。すこしでもずれたら駄目になっちゃうんだからね」
「駄目になるって何が?」
「それは私のお願い事が駄目に――」

と、言った彼女の顔が真赤になったので僕はふっと笑みを溢す。
彼女から湯気でも出そうだけど僕は何も言わないでおく。
よくわからないけど、そんな乙女ちっくなことをしようとしていたんだな。邪魔しちゃったみたいでごめんね。そうこころだけで呟くと、彼女は布団に顔を埋めた。ああ、もうすぐカウントダウンだよ。

「さん、にい」

僕がそう言うと彼女はがばっと起き上がって慌てて声を交わらせた。
布団の風で蝋燭の火がゆらりと動く。


「いち」
ふっ、
「これからもいっしょに居れますように」

声が交わる。蝋燭の火が消える。
薄らと浮かぶオレンジの明りに照らされた僕らは笑い合った。しあわせだ。
今日のはじまり、日は昇ってゆくだろう。僕らは今日を共に過ごすのだ。それはきっと明日もしあわせで。


 
/カウントダウン

この日はいつも蝋燭を眺めてカウントダウンをひとりでします(家族は寝てる;ω;)

 

133 かえで  [id : Syo0Vbi1] [2016-01-06(水) 15:18:13] 削除依頼



ちんちろりんとないているように思えたのは、昨日が初めてだ。
告白するのに雨だなんて相応しくないのかもしれない。傘越しで隠れた彼女の目元が、今もわらっているといいな。そう思っていつもみたいにいつもみたいに過ごしたら、僕は雨に包まれながら言葉を言った。
張り裂けそうな程にくるしくなる。このくるしみは恋故の痛みなのか、判らなくなる。

彼女の口元が、ふ、とわらったから僕は胸が軽くなった。
そして彼女は言葉をこぼした。


「……雨音が、響いて、いますね」
「え?」

自分自身で間抜けな声が出たと思った。
すると彼女の頬からつ、と涙が垂れたことに遅く気付いてどくりと、痛みが伝った。彼女の声色が震えていたことが鋭く突き刺さるように感じてくる。
雨音が響いていますねと言われた所為か雨音に耳を傾ける角度が大きくなっていた。雨音は響いている。その雨音が、ちんちろりんと響いたことはきっと初めてだ。

口元がわらっていて涙が垂れている。それが僕には、悲しみの方でしか捉えられなかったのは馬鹿だからなのか、判らない。
彼女は「ごめんね」と言って背中を向けて駆け出してしまった。

「あ…………」

引き止められなかった。
僕は彼女の背中と揺らぐ赤い傘をぼんやりと眺めて雨に包まれていた。理由も何も訊くことができなかった。それからメールも電話もできなかった。それは僕ができなかっただけのことだ。弱い。

かなしい。とてもかなしいと思った。
僕はもういつか前に彼女に勧められた本を図書館で読んでいる。


 
/雨音

 

134 かえで  [id : Syo0Vbi1] [2016-01-06(水) 15:42:47] 削除依頼



** 作品紹介、


>120:友達、時々チョコレート
ありませんかねこんなこと(笑。ちょっと親切にみせかけて悪戯に似た悪意を入り混ぜて渡す……そんなことをチョコレート色に想像しまして書きました。久美が私みたいなもので書いてました。


>120:シガーキスよりあまい
ラブラブだけどちょっとまだ慣れてないようなカップルとかって大好きです。手を繋ぐことや間接キスに躊躇ったりする……にやけちゃいます(笑。シガーキスは煙草と煙草を重ねるキスのことを言います。色々と間違ってたらすみません(;


>120:15回目のクリスマス
私もこの、2015年は無事15回目のクリスマスを迎えました。家族からプレゼントを貰ってはしゃいでばかりでした。やっぱりクリスマスの雰囲気はわくわくして大好きです。この作品は本当に雑で消したい位ですが(;


>120:I miss you.
あなたが恋しいという意味の題名。しかし使い方は複雑なのでお気を付け下さい(^^; この作品に出てくるエリーは人形です。名前はしゅぴんと思いついただけです。人形に恋した男ですが、決して危ない意図は無いです(;


>120:あんど
名前の出ていない「私」と言う子はひとのこころが読めたりします。超能力とは違う、ふわっとしたものですが。私は彼女が好きですが彼女は私が好きではない、というより嫉妬してますね。二人には友達と呼べるひとがいません。


>120:ぶるーばぶる
青い泡という意味です。平仮名なのは泡の雰囲気を表す為だったり。題名後に書かれている「そういうことです」というのは物語での「私」の正体を言っている、つもりです(^^;


>120:カウントダウン
いつも蝋燭を眺めてカウントダウンをひとりでするのは寂しいです。蝋燭は友達がくれたおしゃれなものでお気に入りです。紅白もガキ使も大好きなのでしあわせでした* 二人は年上の男子と年下の女子です。


>120:雨音
弱いから何かがちぎれたとき、たのしげにきこえてしまう誤魔化しのようなものが「ちんちろりん」です。すこし不気味、恐怖な感じを残しつつ楽しげな音にしました。「雨音が響いていますね」という言葉には月が綺麗ですねのように意味が隠れています。宜しければ探してみてはいかがでしょうか(・ω・´

 

135 かえで  [id : LoahpLM1] [2016-01-09(土) 15:13:14] 削除依頼



「きれいだね」
「うん」

美雨(みう)はメリーゴーランドを真っ直ぐにしてそう言う。
ムウはただ答えた。本当にきれいだと思ったのだから嘘ではない。けれどさみしいと感じたのは、隣に美雨が居たから。
美雨はこれから、この約束を終えたらしんでしまう。美雨。どうかしなないで。僕はきっと君が大切になっているから。
その言葉を出せないまま、美雨とムウはみつめているだけだった。真夜中にくるくるしゃらしゃらと廻るメリーゴーランドはきれいだ。きれいすぎるから、美雨の瞳にもひかりが差し込んでくる。わらってほしいとムウは思っていた。
それがしあわせのかたまりであるように。

「ムウ。私がしんだらムウは私をたべてくれるんだよね」
「……むりだよ。しんじゃったら夢も消えちゃうから」
「そっか。ごめんね、ムウ」

あやまらないで。

「美雨。代わりにおねがいがあるんだ」
「もうやめてよ。私、しんじゃうの」
「生きてほしい」

メリーゴーランドがまわる。
美雨にひかりが降り注いで、こころだけがまだ沈んでいるなんて残酷なはなしだね。ねえ美雨。

「ムウ。お腹が空いたんだね」

美雨はわらった。
ムウは何も言わないまま、しゃらしゃらとまわるメリーゴーランドを瞳に焼き付けた。


 
/ユメクイとメリーゴーランドと

 >89

 

136 かえで  [id : kT8sEnY.] [2016-01-11(月) 14:42:22] 削除依頼



「ねえ。あんた今日いつまで居れんの」

声が落ちる。届いているか判らないのに、何となく繰り返して言うことはしなかった。
私は情けないと思うし馬鹿だと思うし申し訳無くてごめんって思うのにそれを声に出すことは、今はできなかった。すぐにすればよかったのに泣いてばかりで自分の苦しみだけでいっぱいだったから、隣に居てくれている彼女に謝ることもお礼を言うこともできない。
ごめんねありがとう。泣き止んでから言おう。

思えば私は空回りが多かった。
テストの回答を一個ずつずらさなければ。待ち合わせ時間を早くしていれば。事前に連絡しておけば。告白なんてしないでまだ友達でいれば。好きになるのがはやすぎなければ。

「後悔なんてしたくないのに」

私がそう言うと彼女は静かに「うん」と答えた。
それだけの、小さな肯定だけが私の味方だった。
もう夜が沈みすぎてる。お母さんが心配性だから彼女は心配してるけど私は今は、彼女といっしょにここで泣いていたい。ぐちぐち言いたい。お母さん、私はまだ生きてるから平気って後で言おう。
後で。後で。


「タイムマシーンがほしい」

私はきっともう泣きたくないんだ。
泣きすぎた。強くなりすぎた。
彼女は私の言葉にからんとコップを鳴らして返事をしてくれた。


 
/涙の数だけ強くなれるなら、

 

137 かえで  [id : QFdtc0b/] [2016-01-16(土) 14:24:53] 削除依頼



午後六時過ぎの寒い日だった。夕方なのにオレンジ色なんてやさしい色はひとかけらも無くて、目の前に広がる青色は深過ぎて、何色なのか、わからなくなる。
暗い色だ。暗くて寒い色。
空と海が隙間なくとなりあって平行線に並んでいる様子を私達はみていた。

「今日って何度だろうね。すごい寒いや」
「わかんない。マイナスはいってないと思うけど」

マイナスまでいく場所じゃない。
でも私にとってはこの寒さがマイナスに思えるのは弱いのかな。私のとなりに居る君は、マイナスに思えていないのが不思議でとても明るいよ。

「すごい青色。ねえ、多分めっちゃ冷たいよね」
「青? ……青より濃いと思うけど、私」

ああ私と君の視界はもう全部ちがうのかもしれない。
でも私はいやじゃないんだ。
私は冷たいと思うけど君はどう思って海をみてるのかな。あたたかいだなんてことは言わないだろうけど、きっと私とちがうことを言うんだろうね。それがとても明るくて素敵だって思うのも、私だけかな。

「何色にみえる?」

私は訊いた。君は白色を吐きながら薄く答えてくれた。


「ネイビーブルー」

ああやっぱり。
私は君の思う色がたゆたう海の冷たさを、確かめたくなった。君ととなりで海に手をつけて同じ冷たさになりたいよ。
もうすこしで七時に変わる。帰るのかな。私はまだ居たいな。
私達が今日変わらないことはきっと、家に帰ったら冷たいと思う水で手を洗うことだけかな。
そんな風に思っているのもきっと私だけで君は知らないことだ。


 
/ネイビーブルーに落ちて

 タイトルは、◎星屑の砂時計?よりお借りしました

 

138 かえで  [id : dlD31/50] [2016-01-17(日) 13:55:16] 削除依頼



「あ、月だ」

ぽろりと落ちた言葉が足元に落ちて消えた。
私の部屋と繋がっているベランダは冷え込んでいた。冬の五時は、紫色がじわりじわりと空の隙間を埋めてゆく程に暗くなっている。
冬の夜は長いけど、まだ紫色だって明るいのに月がくっきりと輪郭を描いているのには驚いた。

思わず取り込んだタオルを肩にかけてしまう。
真上に瞬く月はこちらを覗いてふんわりとわらっているようだ。


「薄月、って言うやつかな。これ」

ぽつりとまた呟くと月の眩しさが一層に濃くなったようで目を細めた。
階段を上がる足音がきこえて私はベランダから出た。タオルを肩から下ろして腕に抱えて、上ってきた弟を正面から向かう。
姉ちゃん。おれ腹へったよ。ご飯まだなの。
私はあの月のように優しくなりたい。なれるのかな。なれているかな。
私は弟に返事を返さずに階段を下りてゆく。広がるオレンジ色のひかりは人工的だけど確かな温もりで私達を包んではなさなかった。


 
/Cry for the moon
 無いものねだり
 月が欲しいと泣くこども

 

139 かえで  [id : dlD31/50] [2016-01-17(日) 16:54:47] 削除依頼



>138 追記、

 Cry for the moon
直訳では「月が欲しいと泣くこども」と読みます。
作品に沿え「無いものねだり」と二つの意味で捉えて下されば嬉しいです(^^*)

 

140 かえで  [id : JEtXaLb1] [2016-01-20(水) 16:53:42] 削除依頼



風邪が増えた。風は靡いて、ウイルスは踊る。
白々がぞろぞろと列をつくったりばらばら移動する様を眺めて、この中にクチサケオンナってやつが居ても気付かないなあなんて呑気に考えていた。

「マスクしねえの。おまえ」
「しないよ? 風邪ひいてないし喉も痛くないし」

クラスの男子に訊かれてそう返したら、いつか風邪なるぞー、と笑われて私は何も言わなかった。
ああこう思うと、ぱっと見ただけでは誰か誰かなんてきっとわからない。
あのこはだれで、私の友達はだれだろう。

風邪が増えた。風は靡いて、ウイルスは踊る。
私の体内で侵食してゆくウイルスが居たならばそいつらはきっと親友になるのだろう。
そんな呑気なことを考えたらチャイムが鳴って白々としたぞろぞろした奴等は席について白が並んで、私だけが生きていた。


 
/マスク

 ふかい意味があるやらないやら気侭に書いてました、;

 

141 かえで  [id : xJFGyL4.] [2016-01-31(日) 13:47:07] 削除依頼



「綺麗な服だね。そのネックレスも、綺麗だね」
「ありがとう」

そんな言葉を何度も何度も受ける度に、何となく免疫がついてきて慣れのようなものを感じてきた。
そんな言葉はやさしさに包まれていて、奥に秘められた本当の心理を掴めない。

「わあ……そのペンケース可愛いね!」
「ありがとう」

やさしいね。やさしいね。うれしいよ。
私の笑顔は本物だったし、そんな言葉をかけてくれる子達の笑顔も言葉も本物なんだろう。それなのに掴めないところを想像すると、一気に熱が冷めて冷えていくから、こわい。
私はその子達にそんな言葉をかけ返してみる。

「でも、そのキーホルダーもすごい可愛いね」
「えっ、あ、ありがとう!」

その子達もすこし驚いて本物の笑顔を染める。
やさしいね。やさしいね。うれしいね。

ひっそりと秘めた言葉。きっと誰も気付かないで悲しみも喜びもわからないですぐにわらってしまうのね。
綺麗で可愛いのは君じゃなくて私達の糸を紡いでいる言葉だよ。


 
/ピンク色とフリルに彩られて

 

142 かえで  [id : xJFGyL4.] [2016-01-31(日) 15:46:42] 削除依頼



** 作品紹介、


>135:ユメクイとメリーゴーランドと
二人の世界はやわらかくてやさしくて脆くしています。きれいにするようにこころがけてます。そんな世界に生きる、まだ幼い小学生だからこそ、ひらがなを多くしてふんわりと仕上げています。この作品は絶対につづきを書こうと決めていたので書けて嬉しいです。本編では全然ちがいますが、ムウの美雨への思いは恋に似せて書いています。


>135:涙の数だけ強くなれるなら、
題名はこの作品の基盤、主人公のこころです。最初の言葉は「彼女」が言ってます。主人公の友人です。友人のこころの中は、かわいそうだし隣に居てあげて支えてあげたいと思ってはいるのにもう泣かないでほしいしふっきれてほしいしもう家に帰りたいような気持ちなんです、本当は。彼女はやさしいです。タイムマシーンがほしいと言わせたかった。


>135:ネイビーブルーに落ちて
素敵な題名は◎星屑の砂時計?よりお借りしました。ネイビーブルーって大好きです。そんな色の服やペンやらを沢山持ってしまいます。ちょっと百合っぽくしました。苦手要素だった方には申し訳無いです(^^;


>135-139:Cry for the moon
追記の通りですが、直訳では「月が欲しいと泣くこども」ですが「無いものねだり」とも読めるので二つの意味で捉えて下さると嬉しいです。ベランダの様子や月の雰囲気は、私が最近に感じたことそのままです。なので風景もそのまま、自宅のベランダにしました。


>135:マスク
思ったことをそのままざっと書いてしまった記憶があります。本当に最近は受験生ということもあって、マスクが増えました。白が並びます。私もその中のひとりです。ウイルスは踊るという言葉を書きたかった。


>135:ピンク色とフリルに彩られて
題名は雰囲気に合わせて「綺麗」で「可愛く」しようと思っていました。お気に入りです。やっぱり可愛いものって好きです。最後の文が上手く書けなくて、もうすこし考えて捻って書けばよかったなあと今更に後悔しています。書き直したい……(;

 

143 かえで  [id : xJFGyL4.] [2016-01-31(日) 20:03:47] 削除依頼



――私は貴方のことを独り占めしたくて、貴方をころすの。そうしたら貴方は永久に私のとなりで居てくれるのね。なんてしあわせ。
終わりを迎えた物語の幕を閉めると、劇場の端からぱたぱたと響いてきたから振り返った。ああ彼女か。

「手伝います、先輩」
「ありがとう」

僕の後輩である彼女はそう言って幕を一緒に閉じてくれた。どうも幕を閉じることは辛く、助けられたなと感じた。
深紅に染められた世界は薄く灰色がかかってひかりが差し込むことはない。もう夜になり、客も帰ってしまった舞台は静か過ぎて、まるで深海のような可笑しな気分になる。
それこそ舞台に酔ってしまったのだろうか。世界が紅いのに深海のように息がしにくくて、そんなワインのボトルにたゆたうひとりに、なる。

「あの、この物語の主人公ってヤンデレなんですよね?」
「ん? まあ……そういうことに、なるな」

世界観に似合わぬ言葉をひゅるりと遣う彼女をすごいと思った。
彼女の内側に秘められた世界はどれほど身軽で不思議なものなのだろう。僕の内側はすっかり舞台に固められている。それはこの仕事をしている年月の差なのだろうか。歳はそれほど違わないのにこんなにも違う世界がとなりに居るなんて、それこそ舞台にのこった二人芝居に溺れるワインじゃないか。ああ僕は作家になりたいのだろうか。
瞼をそっと閉じて、また開いた。

「なんか変ですよねえ。主人公が彼を好きになって独り占めしたかったのなら、どうして殺すだなんてことを選んだんでしょうね。好きな相手だったのなら、一緒にお喋りをしたり映画を観たりしたかった筈なのに、そんなのって、すごい寂しいことじゃないですか」
「そうだな……」

小さく肯定をしてみる。
舞台に置かれた存在の思うことに何か言うことは舞台を壊すことじゃないのか。そんなことは言えないけど、それをやってみせた彼女はまた末恐ろしく感じる僕はやはり作家になりたいのかもしれない。
自分の世界を固めてそれを正しく舞台という世界につくってかたちにしてほしいのかもしれない。ならば彼女の世界というものは、どんなに軽くて柔くて、どんなにつくりかえられていくことだろう。僕の世界は全くと言っていいほどに変わらないで進んでいるというのに。

「もし私が主人公だったら、彼を殺したりはしませんよ」
「じゃあどうするんだ? 相手を想ったまま生きるのか?」

そんなの辛過ぎるんじゃないか。
僕はそう言っていた。彼女の答えが訊いてみたくてならなかったのだ。彼女のいまの世界に触れたい自分が居たのだろう。
彼女はにっこりと微笑んでいる。

「そうですね。私なら……彼を殺さない程度に傍に置きます」

思わず唾を呑んだ。
息さえも動かないような、そんな空気が張り詰めて僕らを離さないでいると、そう感じて目線が動かなかった。彼女の笑顔は確かなやさしさだった。

「たとえば、大怪我だけでもさせておきますかね」

ああ。彼女は作家になりたいのかもしれない。
いや。そうじゃない。彼女はもしかしたら役者になりたかったんじゃないか。舞台で踊り、淡い言葉を溢し、演じながら幕に自ら消えてゆく演者に、彼女はなりたかったのかもしれない。

彼女の笑顔がくるりと消えて、僕はまた幕をきつく縛り直した。そして今宵の舞台をようやく、二人で静かにしめたのだった。


/舞台

 

144 かえで  [id : t/AjleE1] [2016-02-04(木) 19:35:12] 削除依頼



「絵を描きたいなあって思うんだ」

彼女はほんのりと優しい笑顔をしていたと思う。
その優しさと、笑顔は、彼女のさらさらの後ろ髪を観ただけでは到底わかるものじゃなかったから、僕はただパイプ椅子に折り曲げた膝に拳を乗せていた。
じゃあいますぐにその転がっている鉛筆に手を掛けて、そこにある紙になんでも物を描けばいいんじゃないか、なんて、言えるわけもない。そうさせた事実も絵を描く当たり前のしあわせも奪ったのは僕自身だ。それなのにこうやって彼女に顔を合わせに来るのは罪滅ぼしでもなんでもないのに、来なければ来ないで、きっと彼女じゃない誰かに僕は杭を打たれていた。その杭はきっと僕を貫いてすぐに消えるものだけど、僕はその瞬間にしんでしまうし、彼女はこの笑顔を、するんだろうと思ったら顔を合わせに来るしか他なかったのだ。

彼女のことが、嫌いなのかもしれない。
こんなことを、誰に言ったら僕はしぬ。

「ごめんね」

ぽつりと落とした声色は思った以上にちいさくて苦しくなった。
自分は彼女よりも声が低くてこわくなったし、彼女が僕の薄っぺらい謝罪をどう受け止めるのかさえ、考えるだけで嗚咽が漏れそうになる。こわくてこわくて仕方無いのに彼女は優しいのだ。それが嫌なのだ。もうならば、彼女は僕のことを思い切り殴り蹴飛ばしてなにからなにまで奪い戻そうとする勢いで、僕に物を投げてくれたなら、僕はすこしでもこころを軽くできたのかもしれない。それはきっと、相手も同じように傷付けることで、イコールにしてほしい僕がいるからなんだろう。たとえその重さが違えども、感情のなかにあるイコールが欲しい。

「もう全然気にしてないから。私がふざけてたのが悪いんだし、全然、スイ君の所為じゃないからね」

嘘だ。
優しい嘘だなんて綺麗な言葉で流せるものじゃないと思った。彼女の言葉は優しくなんてない。彼女の言葉はいつだって僕に杭を刺す穴をつくる。
ずるいよ。彼女はずるい。
こわくて憎くなるのにどうしようもなく僕が弱くて拳が小刻みにふるえた。

「……ご、めん」
「そんな謝らないで、ね、私は大丈夫だから」

そう言って彼女はやっと此方を向いた。
やっぱり、僕の想像していた通りの笑顔だった。
やっぱり。やっぱり。ちょっとでも涙なんてものを流してくれたなら僕のこころはまっさらだったのかもしれない。僕も涙を流して精一杯に謝って土下座くらいしたのだろう。手紙を書き、毎日だって彼女の許に行き、何度も何度も謝っただろう。なのにどうして彼女はそれを許してはくれないのだろうか。当然だ。だって僕は彼女の逆鱗というものに触れること以上のことをしてしまったのだろうから。

彼女は僕をころすのだ。ころしたくて仕方ないのだ。


「……ホシナが描く絵が好きだったから…………ごめん」
「ありがとう。私もスイ君が描いた絵、好きだよ」


 
/甘

 

145 かえで  [id : 3fCtLMK.] [2016-02-07(日) 14:50:38] 削除依頼



「クロぉ。僕ね、この陽炎街が好きだよ」
「こんな廃車で過ごしてるのに満足してんの?」

しかも毎日は犯罪に似たことでまわってるって言うのに、とクロは返した。僕はそれでもクロと隣に居て、じっちゃんと仲良く話せていければ、それだけで満足だったから。
でもやっぱり、調子づいてるって言う、クロの嫌いなひとから時計やぴかぴかしたものは欲しいし、金貨を盗ってチーズをのっけたバケットも食べたいと思う。やっぱりそれって、こんな街では我が儘すぎるのかな。そうだよね。でも、僕らは大人になりたくない。あんなぎらぎらしてあそびばっかりして金貨をばら撒くような、そんなひとに。

「うん。僕は、クロが居るからね」
「そう。俺は、シロが居るからなんとかやってけるよ」

ああなんて嬉しいお言葉だろう!
そう茶化すとクロはそっぽを向いてしまった。クロの青に縁取られたピアスがひかる。ああ、大好きなぴかぴかだ。きれいであかるい。
がたがた揺れる廃車から足を投げ出して空と、この街を見下ろす。

とぼうかな。とびたいな。


「ねえクロ。一緒にとぼう」
「今? ……どうしてさ」
「んんー意味はないよ。なんか、大人の上をとびこえたいなって思って」

猫らしいでしょ、と言うとクロは小さくわらった。
僕らは廃車からとんだ。そして屋根にひゅるりと着地してまたとんだ。屋根はやっぱりぼろっと壊れてしまったと思う。そりゃあ、僕らみたいな子供でも、あんな風に乗ったら壊れるよね。

でもそんなことどうでもいいんだ。
僕らはとべる。それだけで何だか特別な気分になれるし、今日も誰かにカツアゲとスリをクロがやって、僕らはおいしいものを食べて、灰色の空気を呑む。


 
/猫背に夜空、

 この世界がどんなに灰色でも僕らは猫の如くにとびまわる

 

146 かえで  [id : 3fCtLMK.] [2016-02-07(日) 17:03:33] 削除依頼



少しくせのある黒髪をひとつに束ねて、揺らしてわらう。声はやっぱり女のものなのに、どうしてか、いつも豪快にわははっとわらうんだ。運動部で転ぶことが多くてやたら膝に痕がのこる。それが君だった。
俺は君のこと、多分、好きだったんだろうな。
いつのまにか目で追っていたんだと思う。だからこんなにも君の声も、姿も、笑顔も思い出せるんだ。

秋が好きな君。乙女座の君。好きだよ。


「そんなに泣かないで。明日になったら新しい私に会えるって!」

生まれ変わりを信じてた君。好きだよ。

「……うん」

明日、俺はすぐしぬかもしれないね。


 
/揺れた

 

147 かえで  [id : h/.i0Gp/] [2016-02-16(火) 19:54:57] 削除依頼



「私、辛いんだよ。結構」

神様は不公平だね。いつ神様がみんなに平等だって言うやさしいことばをかけてくれたんだろう。いつ、神様が私達を天秤にのせないと約束してくれたんだろう。
ひかりが眩しいのは私の為じゃないんだ。
折れた紙は受け取らないでうしろにまわす世界だ。ひどくてかなしいはなし。

「じゃあなんで何にも言わないの」
「もっと辛くなると思ったから、それは嫌だから」

ね、と彼女はわらった。
馬鹿みたいな笑顔だ。その笑顔が青春とよべるに相応しいのか、私にはわからない。彼女はどうなんだろう。

「いいの、話せてすっきりした。かえろ」

彼女の背中はのびている。
ああ馬鹿みたいに青い空は彼女の為じゃないのに、こんなにも泣けてくるんだね。ねえ。

「今日の給食、オムレツだって」

馬鹿みたいだ。馬鹿みたいにわらう彼女と馬鹿みたいに青い空が私には理解できなくて、理解したくなる。
あんたみたいなやつ、私、好きかもしれない。
私はわらってそれを返した。彼女はなにも言わなかった。それを望んでいたからゆるやかに足が進んだ。

ああ、そうか。
彼女はきっと、自分から折れた紙を受け取って、オムレツをのどに通して生きていくのか。

馬鹿みたいだね。
声にでていた。


/ばか

148 かえで  [id : VZmIL4g.] [2016-03-06(日) 13:07:19] 削除依頼



「君、変わったよね」

その言葉が私というものに対しての否定なのか哀れみなのか判らないけれど、冷たいことだけ感じ取れたから、すこしいらついた。
私は笑顔をつくる。口元が引きつったようなひどい笑顔だ。

「なに。どこが?」

言葉はもっとひどいもので、こんなに弱い言葉なんかじゃ彼に敵わないことをあとで察した。
それでも私は笑みを緩めなかったし彼を睨んだままだ。
それだけが私のせめてもの強さだとしんじた。雪はいついなくなってた? 知らないよ。ねえ知らないよ。ね?

「スマホ買ってから何か会うこと減ったじゃん」

冷たくなったし、と彼は付け足した。
私はぴくんと鼻を鳴らす。

「さみしい、って言いなよ」
「さみしいよ」

するりとこぼれた彼の言葉は何より強くて驚いた。
ああ。
こんなにもはっきりとして真っ直ぐな、正直なものってこんなにも強くてもろくて、かなしいの。


「そう。でも私、カレシできたしスマホ離れられないな」


私はごめんと言うこともせずに背中をむけた。
雪でも降れば、こんな背中に伝う冷たさなんて誤魔化せたのだろうにな。
かなしいかなしい彼は弱くなっていた。


/いぞんしょう

最近ほんと来れてませんが生きてます

149 かえで  [id : e.H/G5X/] [2016-03-27(日) 00:53:09] 削除依頼



私はあなたにしんでほしくなかった。
そう言えば嘘になるわ。私はあなたがどうなろうがどうだってよかったんだもの。だって私とあなたは二年間だけ同じになったクラスメイトってだけじゃない。話も席が近くなったときくらいしかしなかったものね。あと、ああ憶えてるかな、私が廊下で転んだとき。私に向かって大丈夫かよ、って言ったよね。
お陰でひそひそ指さされずに笑いがふわっと起きてくれた。
世界のはみだしものにしないでくれたあなた。ときめいた。
それは、ああ救われたなあっていう、すこしの神様にみえたからかな。そんなときめき。
それくらいで、そのあとは全然普通に、まあ、話さない距離感に戻った。当たり前のグループに互いにいて話して終わる日々。糸はすぐに離れてしまうの、ひどくさみしい気がするよ。


「今更になってね」

私は白をゆっくりとめくる。
新しい生まれたての春が私達の髪を撫でた。やさしい。ひどくやさしくて泣きそうになる。
背中があたたまって、何故かぞくりとした。

「さよなら」

私は彼の掌や髪に触れることもできずに、ただぽつりと呟いていた。


/遠くに覗く関係をいま紡ぐ

Twitterおもしろい

150 かえで  [id : YQB2cRm0] [2016-04-24(日) 19:18:04] 削除依頼



「ねえ、ライン交換しよー」

そんな声が後ろからきこえた。きこえただけだ。
もうその声主は私の後ろで彼女たちの世界をつくってしまったのだ、その一瞬で。そしたら私がふりむくことは許されない、暗黙の、ひっそりとした呪われた壁だ。
結ばれた糸を交換した彼女たちは、もう仲間だった。

私は後ろにつくられた世界からすこし離れて、スマホの画面をタップした。スマホは普段は電源を切る校則だが、守るひとはたぶんいない。そしてたぶん、それを教師もしってる。何故なら彼らも同じことをして大人になったからだ。
じゃあ、私たちはそれをみて大人になるんだ。
私はそんなことをツイッターにツイートした後に、あるひとにことばを投げた。
慣れた手つきで素早く挨拶をつくる。

「初めまして、フォローさせていただきました! よろしければタメでもいいでしょうか?」

こんなにも簡単な世界だったらどれだけよかっただろう。
私、ギガバイトとやらに生まれ変わりたいよ。

返事がすぐにきて私はそれを眺めた。

「もちろん! よろしくね!」

私はそのことばをしばらく眺めたあと、静かにいいねボタンだけを押して電源を切った。


/私のリアルの友達

151 かえで  [id : 7y4p9DQ/] [2016-05-01(日) 08:55:32] 削除依頼



「君が流れ星なら、僕は人間だろうね」

ぼんやりと霧がかかったような空に僕たちだけがいた。
彼女は、はあ? と言わんばかりの顔を顰めてぢゅうと飲んでいたストローから唇を離す。せつないキスみたいだ、なんて、絶対口には出さないけど。
向き合っていた彼女は長机に置いていた足を下ろして、ようやく正しく椅子に座った。僕はまたページをめくる。

「なんであたしだけが星なんだ」

ああ、てっきり彼女なら世界から否定すると思ったのに意外だ。
おもしろかった。

「簡単だよ。君はみんなから望まれる」
「へえ、喧嘩でもうってんの」

僕はまたページをゆるりとめくりながら、冗談と言ってもころされそうだ、と呟いた。
彼女はまた顰めた顔をしてストローを咥えた、が、もう中身がなくなっていたようで彼女はまたキスをやめた。
やっぱりちょっとだけ、きれいだ。


「僕が望んでるんだ」

これも、口に出さないでおいた。
代わりに僕は小さな笑みを溢してから本を閉じた。彼女と目が合う。


「そもそも流れ星は星じゃないしね」
「いい度胸してるね。そういうとこ、ひどくて、すきだよ」


/流れ星

152 かえで  [id : MMSvZGd.] [2016-05-08(日) 22:04:25] 削除依頼



「きらい。君がきらいでずっとすきよ」
「愛の告白どうもありがとう」

ちょっと。ねえ。私は本気なのよ。
彼女はそう言って不機嫌な顔をしたから俺はわざとらしく息を濁してみせる。彼女はあおられた。

「わかってないのね。それならいいわ。私だって貴方のことがきらいだもの。人の物はすぐに盗むし騙すし、ずるいことだけなら知恵は一品物ね。そんな貴方がきらいで、すきよ」
「それ俺は悪役ってわけ?」
「違うわ」

あおられる、俺がいた。

「貴方が私にキスするとき、いつも私から仕向けるように知恵を働かすでしょう。ずるいわ、きらいよ。でも、すき」

嫌じゃないの。変ね。
そう言った彼女はいつもより背中を丸めていたし、手はおろおろしていたし、目線もあちらこちらにふわりふわりと浮かんでは落ちて、そして、あつかった。
ああ俺も君のそういうところがずっときらいで好きだよ。

「エムかな」
「さあね。でもきらいじゃないな」
「あら悪趣味なひと」

二人の笑い声が持っていたフラペチーノに溶けて、俺たちは二人でひとつのストローを順番に啜った。


/夏の側で口ばかり

ズートピアがだいすきでドキドキでしにそうです

153 かえで  [id : xmhVN3P/] [2016-05-24(火) 18:00:36] 削除依頼



「僕がしんだら、きみは僕を追うかい」

体育祭が終わって期末テストがこわくなる時間がやってくる。
妙なことを言うものだなあと思ったけれどおもしろいと思った。だから私はわざと箒から目を逸らさずに髪を耳にかけて足をゆるりと動かした。ぜんぶぜんぶ、わざとだ。

「さあ」

どうだろうね。
わざとな返事。我ながらひどく悲しい答えと思う。クラスメイトが空にとんでも私は助けもせずに、ああ、と言うだけと言っているようなもの。それはメールで別れを告げるより悲しかった。
私は窓から吹くちいさな風を肌に染み込ませる。背中がひやりとした。

「そう」
「えっ、驚かないの」
「どうして」
「ひどいやつだなあとか、最低だとか」

道徳の授業は高校生になって当たり前のように消えていた。それを誰も口に出さない、まるで呪いのようにそれは洗脳のようにそれは。
私は返事を待った。
彼は私と違って箒から視線を外した。私にあつい視線がおくられる。あついと感じたのはきっと私がよわいからだ。

「きみなら、追わないと言うと思っていたからちょっとびっくりはしたよ」

ああ。ああそうか。
私は何も言わなかった。ただすこしだけ悲しい気がした。
あつい視線はまた逸らされて箒に向けられて私は黙っている。窓から風はなかなか吹かなくなっていた。背中がじわりと、熱を帯びた。
クーラーの許可がまだおりない世界に、自,殺の色はみえないままだ。


/夏追い

154 かえで  [id : a6T9Tvj.] [2016-06-03(金) 22:36:52] 削除依頼



前までは純粋な喜びとか、好きとか、きらきらだった筈なのに、いつから私の目は悪くなっていったんだろう。
高校にあがると私の視力は落ちていた。いま思えば日に日に視界がとけていただなんて知らなかったことさえこわくなる。受験勉強をノートに食い入るように見ていたかららしい。ちなみに受験にはおちた。
私は高校ではそこそこ良い成績になった。そりゃあ上を目指していたひとが下に足をつけたら誰より背がたかくみえる。だから私は軽くふわふわ浮いてるようなきもちになった。
あたらしい、きらきら。

「わあっ成海(なるみ)ちゃん、絵、じょうず」

懐かしいことばに私はこころ躍らせた。
そんなことばはいつぶりか、また、あたらしいきらきらが舞い込んできたようだった。彼女に私は笑顔をむけていた。
ただ彼女はそれ以来私のところにはきてくれなくなった。
ああ。やっぱり。
こんなの、ただの口実にしていたんじゃないか。

ずるいなあ、うまいなあ、ひどいなあ。


「周りはみんなみんな私よりずっとじょうずに歩くんです。笑顔もことばも仕草も、ぜんぶ、詐欺師みたい。ピエロなんて優しいものじゃないのよ。私より成績が良い子もいたし私より絵がじょうずな子も、私より私よりって、ぜんぶ私が背がちいさくみえるの。おかしいなあ、なんで見上げてるのかなあ。私、さみしくなってるみたいなんです」

私はいつから自分をころしてた?
シーツにうずくまった私の細い背中を、大きな角ばった手がやさしく撫でて、私はまた自分をなぐさめた。


/じ,さつしてたのいつだっけ

155 かえで  [id : ovaJG5m0] [2016-06-04(土) 12:59:43] 削除依頼



「どうしてしんじゃったのかなぁ……」

私のせい?
そう呟いていた私の肩を優しく叩いた友達がやんわりと笑ってくれた。伏せた目がなんとなく垂れていた。

「葉子(ようこ)のせいじゃないよ。木原(きはら)さんはすこし、自分を追い詰めてしまっただけだよ……だから、葉子のせいなんかじゃない」

友達が優しくて私は俯いて、自分の甲をみつめたまま返事だけした。
夏が近付いていた。風が強くて夏を近付けてくるこの頃に、彼女がしぬだなんておもってなかった。彼女は見た目に反して、よわかったのかな。だとしたら私はひどいことをしてしまった。
罪悪感に背中がひやりとして縮こまると友達は何を思ってか、今度は肩を摩った。

「葉子、大丈夫よ。葉子は優しかった、だって、木原さんに声をかけてあげてたじゃない。木原さん、きっと、嬉しかったとおもう」
「……ちがうよ。私はね、あのこのたいせつなものを、利用していただけ……何となく、休み時間がさみしかったから、色をつけたかっただけ……その、たった十分に。変な期待をもたせたの、かなぁ……」

友達はなにを言っているのかわからないようだった。
私と、あの子だけがしっている、ことばだ。
ああ、私の目から涙が落ちなくて辛かった。
黒色のクラスメイトがぞろぞろ過ぎ去るのを私はぼんやりと眺めて「成海ちゃん」とつぶやいた。


/じ.さつしてたのいつだっけ スピンオフ

明日みんなから成海ちゃんはきえるから私は成海ちゃんの骨を溶かす海をつくりたい

156 かえで  [id : BiYyvGQ1] [2016-06-05(日) 18:18:15] 削除依頼



「あーっあっついなーアイス食べたいなー」
「うっざ、それ買ってこいってこと?」

慧久(えく)が語尾にまたうっざ、と付け足した。
慧久ぅ。お姉ちゃんその口の悪さはどうにかしないといけないと思うよぉ。そんな風に言ってやりたかったけど喧嘩になるから止めておく。やっぱり私、慧久よりちょっぴり大人しさだね、いや、当たり前か。
すると慧久はカチカチと連打していたゲーム機から目をぱっと離した。
おー、ゲームオーバーしたんだ。すぐわかる。

「あーっ負けたーあーあー」
「あっはっは! うるっさいよ慧久ぅ!」

この暑いのに負けた衝動でコンクリートに手をつけた慧久を私が笑ってやった。慧久は予想通りにあっちいと叫んでから私を睨んで、またうっざとつぶやいた。
口癖になってるのよくないなぁ。いつか外で漏れちゃう時がくるよ?
それも言わないでおいた。
すると慧久はまた俯いてゲーム機をみつめなおす。首に汗が垂れていて、おちて、コンクリートはさあっと汗をさらう。はやいなあ。
もう夏なんだ。あついや。

「ねー慧久。それ一万点以上とれなかったら私にアイス」
「やだ。ぜってえ一万点もとれないからやだ」

口は悪いくせに自分から負けを認めてることに躊躇いもないなんて。いや、かっこつけかな。
どっちにしろ慧久はある意味ふしぎちゃんみたいだ。ふしぎちゃんというか、おかしい子みたいな、へんなかんじ。
私はつづける。夏のせいで声は吐き出すように出ていった。

「アイスー、おごってあげる」
「は? それお前が損するじゃん。なに、罠とかだったら余計うっざい」

お前が一万点いかないのはお前が弱いからだよ。
だからお姉ちゃんが笑ってやってるんじゃん。笑わなかったら、ここ、すべるでしょ。かわいそうだから。

「慧久ぅ。お姉ちゃんその口の悪さはどうにかしないといけないと思うよぉ」

慧久は黙っていて、ただカチカチと聞こえた。遠くでサイレンが響いて夏の温度にゆれた。
あれ、もしや私がすべったかな。
するとしばらくして慧久が小さく、わかってるよ、と言っていた。
私は満足だったので笑ってやる。

「よしっじゃーアイス本当におごってあげるぅ! なにがいい?」

ゲーム機から目をぱっと離した慧久をにやりとみる。
やっぱり負けたみたいだ。
慧久は空をしばらく見た後に歩き始めた。
いいよ。コンビニに着くまで、優しいお姉ちゃんは、慧久のこと、まっててあげるからさ。


/お姉ちゃんですから

私には口が悪くてとてもわかりやすい弟がいる

157 かえで  [id : BiYyvGQ1] [2016-06-05(日) 18:20:20] 削除依頼



訂正

大人しさ ×
大人 ○

158 かえで  [id : QUhmGeP.] [2016-07-03(日) 13:49:26] 削除依頼




「世界がほろびまーす、どちゅーん、って隕石みたいなものが落ちてきたら、みんな関係なくなるよな」

随分と大きな独り言を愚痴るなあと思うだけだった。
夏に染められてゆく世界はすこしずつじわじわと一点から世界へ、暑さを増してゆく。温度を塗り替えてゆく。それを私はテレビ越しにみていた。
すると私の反応の無さに墨田(すみだ)はこちらを向いた。
ゲーム機はセーブして机に置いていた。随分とはやいな、セーブ。

「なあ、どう思う?」
「いや、……うん。まあ。そうかもね」

かもねって。
墨田はハッと鼻で小馬鹿にしたようにわらった。
また、じわっと温度があがる。この季節に有りがちな、じめじめしたような暑さは嫌いだ。西瓜が食べたくなる。

「そしたら俺が走れないことも馬鹿なこともぜーんぶ関係ねえじゃん!」

どうせみんなしぬよ。
それはまるで呪いのようで私はぞくりとした。クーラーつけようかと思ったのを、ふ、と止めた。
墨田はまたゲーム機とにらめっこをするようにして机に突っ伏した。私は丸まった墨田のしなやかな背中をみる。じんわりと浮かぶ汗が背中にはりついていた。自分もかな、と背中を仰いだのは秘密だ。

「そうだね」
「だろ?」

夏。私は墨田を見つめながら、まるで、夏の虫取りに出掛ける不思議な世界を眺めているような気分に陥っていた。
明日はもっと暑くなればいいよ。なんてね。


/夏と隕石のはなし

159 かえで  [id : 9kf0ZqL1] [2016-07-28(木) 08:14:50] 削除依頼




夜はどうしてこんなにも冷たくなるのだろう、夏を忘れてしまうのだろうか。ぜんぶぜんぶ、なくなりますようにと。
白木(しらき)はグラスに注がれたサイダーをひとくち含んでは、サイダーをうっとりと眺めて、またひとくち口に含む。サイダーが白木の中に落ちてゆく。

「カクテルみたいだ」
「うん、そう、あまいの」

まだ僕たちは十八だよ。
お酒は勿論、カクテルなんて小洒落たものを口にする機会もなければゆるされたこともないこどもだった。夜の冷えた風に沿って白木をみると、白木のぺったりとした髪が揺らいでいた。前髪につ、つ、と水滴が吊るされて、僕は落ちろ、落ちろとおもった。
落ちた。
白木はまっさらなテーブルに落ちた水滴を拭わずにグラスをみていた。

「カクテルらしく、サクランボ入れよう?」
「いいね」

月が薄っすらと出ていた。
なんでサクランボがあるのとかカクテルじゃないくせにとか、そういうことを僕は言える大人じゃなかった。
白木はサクランボをひとつ摘んで、くるくるからからとサイダーをまわす。
透明に、白に溶かされていくように入ったそれは、なんだか艶めいていてどうにもどきどきした。白木をみると目が合う。わらっていた。わらっていた。
熱い芯を纏う夜風が、僕たちを隠していた。

「たべて」

白木が摘んでそれを口元に押し付けてきた。
あかい、あかい、魅惑のかおりがしてくらくらして、ああ、僕たちは溺れている。

「酔ってるの?」
「うん、すこし」
「そう」

月が薄っすらと出ていた。
僕はわらった。わらった。白木はほんのりとまだ浮かぶ湯気に揺蕩うようにして、僕の前に座っている。
ああ、これは、なかなか、

がり

「あまいよ」


熟している、とかんじた。
もう夜の冷たさとこどもたちは、そこには居なかったのだと、僕はおもった。


/チェリー

どストレートですこし嫌な気もしますがいつかリメイクしたい

160 かえで  [id : R2UvIT21] [2016-08-18(木) 20:36:12] 削除依頼




線をかいた、円をかいた、誰かさんの声がして私は絵本コーナーの外れに向かった。
みつけた。あの子だ。かわいい子だ。
髪がぴらぴらとなびいていて、小さくふたつにリボンで結われている。スカートを平らにして丸い椅子に座って鼻歌を歌っていた。高い、高い、でも、すきだ。

「お姉さん」

ばちんと目が合った。
不思議そうにゆっくりと瞳をおおきくしてゆくその子は、クレヨンを止めた。滑って、円から外れた赤色はざわざわと波打っていた。
しまったと思いながら持っていた本を両手に持ち替えて、やんわりとわらう。

「こーんにーちは」
「こーんにーちは」

偽物の星がぱちぱちとひかっていた。
その子のまるい頬に触れたひかりはゆるりとまわりながら滑らかにとけてゆく。
わたしは隣にしゃがみ込んだ。わたしのスカートは折れて床にすこしだけ触れてしまう、だからわたしはスカートを奥にしまいこむ。

「なに描いてるの」
「お月さまだよ。まるいの」

月が、あかくて、わたしはへえとしか言えなかった。
あか、あか、あかいろ。
まるで彼女とわたしは違う世界の人間みたいだ。こんなに近くにいるのに、おかしなおはなしだけど、偽物の星は確かにそこにいて、ああ図書館だなあと思わされる。

「お姉さんはお姉さんなのに絵本よむの?」
「うん。お姉さん、絵本がすきなんだ。きみもでしょ?」
「うん! すき!」

そう。じゃあこれをきみにあげるね。
わたしのいちばんすきな絵本なんだ。よんでごらん。
水彩で縁取られた鮮やかな背表紙をなぞると、すすすっと絵本は抜けた。彼女は絵本を抱きしめる。お腹をぜんぶ水彩が埋めた。

「ありがとう!」
「うん」

あかいつき。偽物のほし。えほん。わたしときみ。ゆめ。
きっともう、きみにあうことはないのだろうなとわたしは思わされていた。




よくわからない

161 かえで  [id : R2UvIT21] [2016-08-18(木) 22:30:05] 削除依頼




「明日頑張ろうを三十回くらい言ったら、夏休み終わっちゃうんだよね」
「なあに、そのおもしろいめいげんは」

それに正確には四十五回ね、夏休みの少なさを惜しんでいるのに数えてないのね。
彼女はくふふとわらってシャープペンシルをまわした。
透明感のある爽やかな水色のストライプが、くるくると円を描いて彼女の細いゆびで踊っていた。
ほそ、それにしろ。

「宿題が一瞬で終われば楽なんだけどなぁって」
「じゃあ答えみる?」

彼女は自分のワークブックを差し出した。
名前が細い女文字ですらりと並んでいて、自分のものではない物を触る、すこしの違和感をゆびさきから感じていく。つめたい。いつ終わらせたのだろう。

「文字きっれい」
「習字、習ってたからね」
「ふうん」

それだけじゃないと思うけど納得した。
するとサイダーの氷がからんと鳴って時間が動き出す。薄くなる前にサイダーを飲み干して、俺は彼女のワークブックを返した。彼女は目を丸くしたけどすぐにやにやした。
うるさいな。

「ズルはしたくないんだよ。叱られるって考えを頭に入れて無理矢理でもやってみるわ」
「えっら」

お前の方が偉いだろ、なに言ってんだよ。
そう返すと彼女はまた、くふふとわらって彼女もサイダーを飲み干した。サイダーのびんに僅かにのこった彼女の熱が、唇が、あつくてどきどきした。
すぐにワークブックに目をうつしてゆびをうごかす。ゲームばっかりやっていたはずのゆびがつりそうだった。

今日は蝉がおとなしい。
すこししたら、雨が、こっちにも降るのかもしれない。


/answer

162 かえで  [id : 8WAe6I40] [2016-08-24(水) 03:06:35] 削除依頼



「今日も、終わりを見届けるんですか」

彼女の凜とした瞳がずっと好きだった。揺らがない、綺麗な色が浮かぶそれは、いつも僕に対しても強く刺してくる。
彼女はスカートを握りしめるようにしていた。いやなのかな。
今宵も月は薄っすらと雲がかっていた。ぼんやりと輪郭を星と混ぜてゆく月は、とてもはっきりとはしていなくて、綺麗とは言い難かった。けれど毎日みていると不思議とかたちだけはわかるものだなあと、かんじた。

「うん」
「身体にわるいですよ、さすがに」
「でもきみも一緒にいてくれてる」

ごめんね、利用しているんだ。わかっている、わかっている、わかっているんだよ。
きみもね。
彼女のスカートが風に揺れた。夏の夜風はひんやりと、柔らかく冷たい。
空気が、酸素が、いつもよりきれいなんじゃないかとおもわされて、好きだ。それだけが妙に安心できた。

「誰も知らないんだろう、僕達が、いま、生きてるなんて」
「みんなは眠っているだけなんです」
「じゃあナイフでも突き立ててこようか」

ぎょっとした彼女の目がまるく、まるく浮き出た。
こわいなあ

「冗談」
「やめてください、……もう、明日になりますから」

ああ、そうだっけ
今日も見届けてしまうなあ、今日がしんでしまうなあ、いやだなあ
今日がしぬたび、僕もちいさくすこしずつしんでゆくのだ、ひっそり、ゆっくり、とろけるように、侵食して、蝕んで、消えるように

「月が綺麗ですね」

ああ、ねえ、
どうかその瞳を逸らさないでくれよ、こんなときに。ばかみたいだ、自分が、どうしようもなく。
月なんか、いつもに比べたら綺麗じゃないよ。
こんなちいさな嘘と本音を混ぜこねて、全然、きれいなんかじゃないだろ?

「おはようございます、先生」

零時の鐘、きみ、時計、スカート、月、ゆびさき。
ずっと僕は、僕自身をしずかにころしてゆきながら、今日も、明日を待っている。彼女をほんのすこしだけ、道連れにしながら。


163 かえで  [id : 8WAe6I40] [2016-08-24(水) 20:04:00] 削除依頼




「あんたって、怒りっぽい、よね」

幼馴染が嫌いだった。
いままでずっと僕のことをすこしずつ貶しているような態度が、ずっと気に食わなかった。僕にだってきみと同じくらいのプライドはあるのに、きみは自分が叫ぶことばをぜんぶぜんぶ、無理矢理に僕に押し込めたら満足する。その繰り返しでいきている。
ただ僕の方がきみよりも一歩だけ、冷静な判断ができるというだけで。
だからきみの発言に僕は心底びっくりさせられた。

「そうかな」
「あんたってさ、わたしのこと好きじゃないじゃん? だからかな、……言葉遣いをさ、もうすこし優しくできないものかなあ」

いらいらするなよ。
夏の終わりに近付いて、いつから蝉がうるさいなあと思わなくなっただろう。蝉は、みんな、しんだのか?
夏の蒸した教室にはもうなにもひびかない。僕のページをめくる乾いた音と、きみのはしらせるシャープペンシルが、ずっとそこにいた。きみから話しかけてくるなんて、暇つぶしのつもりだったのだろうけど、僕は正直いやで仕方がないからさ。

「逆に、きみはできないのかな」
「は? なにがよ」
「言葉遣い。もうすこし優しく」

ぼきっ
きみのシャープペンシルの芯が折れた。瞳がぎらぎらとこちらを真っ直ぐに向けていて、ああ、ああ、とすこしだけ舌にのこるようなあつさを感じた。こわいな。
きみは僕のことばがぜんぶ嫌いなんだろう。わかっている、わかっている、わかっているから。
だって僕だって同じなんだ。

「あんたがむかつかせてくるのが悪いんでしょ」

ハッと嘲笑うきみが、挑発が下手なんだと知った。
いまにも日誌がとびそうだ。
だれもいない教室で本当によかった。誰かがいたら、きみもこんなに怒ることはなかったのだろうけど

「吐き出さないと、吐き出さないと、いつかあんたをころしてしまいそうなの」
「それが怒りだよ。七つの大罪って知ってる?」

青さがずっと僕らをおいつめていた。
張り詰めて、痺れるように、とかして骨にするような、そんな酷さを脆くかんじていて、確かにきみは僕をずっと見ていた。

「知るわけないでしょ」

立ち上がったきみが日誌をかかえてはしってゆく。
長く、ぶわりとなびいた髪が余韻をのこしながら、ゆっくりと夏の蒸した静けさを戻していった。此処には、もうこえはきこえない。
教室には、彼女の纏っていた、やたらに甘いにおいが、僅かにのこっていた。


/ラース

164 かえで  [id : IzaoKHq/] [2016-08-26(金) 12:48:22] 削除依頼




「今日がいちばん、世界でいちばん特別な日になるの」

八月の終わり、わたしの誕生日、深々と月が沈みゆく、またたいて消えるような、そんな海の線をずっとずっと眺めていた。
すこしだけひやりとした風が短い黒髪を揺らして離さなかった。
わたしは嬉しいのだ。今日がこんなにも特別に輝いてみえるだなんて、きっとこれから一度もないのだろう。
最初で最後の、ひとつだけのひとかけらだけの、わたしのこころがはしゃいでいる。
ゆめじゃありませんように! と。

「鯨が骨になるんだろう。空を、……ほら、きたよ」
「あっ、ほんとだ」

ゆらり、ゆら、り。
靡く度に海も空も世界でさえ息を呑んでいるようだった。青く、ただ青くそこにある彼は、まるで微笑むように優雅に泳いでいた。
息をしている。息をしている。
きれいだなぁと感じると彼はまたゆらりとこちらを向いているように思えた。瞳がどこにあるか遠くてわからないのに、何故だろう。夜と彼が溶けこんで、月明かりが薄っすらと包んで、あそこだけがまるで絵本みたいだ。
あそこに、いけたら、なんて。


「骨に、変わるね」
「ううん、違うよ。骨になるんじゃないの。彼は……」

次の瞬間、僅かなひと瞬きをしたときだった。
鯨がゆらりゆらりと靡きながら、静かに青さがひかってゆく。青いのに、きいろい。
此処から観ているとまるでちいさな太陽みたいで私たちは目を細めていた。

「あ」


星に、なる。
金平糖のように、しゃらしゃらと、舞い上がってゆくそれは確かに星だった。
鮮やかな、水彩がはじけるような。

その夜、私たちは鯨の星骨化をみた。
優しい夜だった。
わたしはずっと泣いていたとおもう。隣にいたきみはわたしをみて涙を拭ってくれたから、余計に背中があたたかくなって泣いた。
誕生日おめでとう。そう言われた気がした。


/鯨と星

解釈もひとそれぞれ。
詩みたいになってしまいました。


165 かえで  [id : YGeoCLg/] [2016-08-28(日) 00:58:35] 削除依頼




「ねえみんな、宿題全然おわらないの、やばいぃ」

泣きマークが幾つも並ぶそのことばを見たとき、わたしの指はもう動いていた。まるで最初からわかっていた回答のように、無心でスマホをタップしながらことばを並べた。
ああ、すごい簡単なせかいだなあ、と思うのだ。
皆の方が返事が速くて速くて、次々と同じようなことばが送られてくる。
わかる。それな。やばいよね。ほんとやばい。まじで意味わかんない。宿題きらい。だれかかわりにやって。いや無理でしょ。あははうける。なにいってんの、もお。


「かっこ、わらい。だぶりゅーだぶりゅー」

こんな会話ばかりをするグループに何故入ってしまったのだろう。ばかなわたし。
でも嫌いじゃないんだよ、このひとたちが。でも最近はひとりでいる時間が多い夏休みだからと、はしゃぐことがすきな彼女たちは良くグループに顔を出す。そこにソファがあるような。

「わたしも全然おわってないよ、やばいよ」

そう返してグループをとじた。次にスマホを開けたら件数はいくつになるのだろう。
たくさんの、空虚なことばがふわふわ浮かびながら、わたしたちはいきている。呼吸をしている。眠るようにわらっている。足を、手を、皆で引っ張り合いながらそこにいる。
離してくれない。離したくない。離したくない。


「こわれたくないの。夏休みが明けたら、また綱渡りするんだよ、みんな」

夏休みがおわるな、おわるな、きえるな、きえるな。
わたしのせかいが、もうすぐ遠くなろうとしている事実にわたしは今日もぐっと瞼を閉じて、グループからひとり抜けて、さきに眠りについた。




166 叶奏  [id : jzre1OF0] [2016-08-28(日) 18:42:31] 削除依頼




わあもう本当にすきだなあと思いながら何回も読みました。
>164は短いのに映画をみてる感覚になったし、詩に似てるけどでもやっぱりちゃんと軸がある文章で、すっごい好き。
>164でちょっとだけ泣きました。共感しすぎて苦しくなったり、したり。
かえでちゃんのss大好きです。これからもずっと読んでます、素敵な文章をいつもありがとう!

167 かえで  [id : YGeoCLg/] [2016-08-28(日) 23:43:29] 削除依頼



>166
かなちゃんありがとう……!
すきだなあということばだけで胸いっぱいなのに、こんな丁寧に気持ちを綴ってくれてほんとに嬉しい。ありがとう!
わたしもかなちゃんのss大好きです。いつもかなちゃんのおはなしをみているとどきどきする。どきどきして、ああすきだなあとおもっているんだよ *´ω`*)
うまくいえないけど、大好きだ! って気持ちがいっぱいあるよ。
だからこれからもずっと読んでるね。こちらこそ、いつもありがとう!

168 かえで  [id : W61XTmV.] [2016-08-30(火) 01:54:36] 削除依頼



今日で付き合って一年になるね。ありがとう。ずっと好きだよ、きみのこと。
高いソプラノみたいな声がリズムを刻むように流れ込んできた。彼女からラインを通じて送られたうただった。恋のうたを歌うことで有名な歌手だっただろうか、と考えたら当たりだった。
歌詞の意味をことばにして伝えるなんて。
おしゃれだけど本当の気持ちに触れられなくて、なんというか、虚しさが籠める。

「きいたよ」

そう返すとすぐに既読がついたから目を丸くしてしまう。
ちょっとだけこわい。ずっと監視しているようで、この二人だけの画面はまるでちいさな檻みたいだ。
そう感じるのは自分が男だからかもしれない。
ふうじこめた。

「それがわたしの気持ち! いつもありがとう、優しいまぁくんが好きだよ!」

はーと、はーと。
複雑な気持ちになって、椅子から立ち上がり、ベッドに寝転がった。ぼふりとした柔さが身体をつつむ。やさしい、これがやさしさだよ。
殴っても涙を拭っても、どんなときに転がっても受け入れてくれる。これがやさしさだ。
やっぱり薄々感じてはいたけれど、もうきらいだったんだ。
ううんきらいじゃない。でも、好きでもない。ふつうになってしまった、ただのクラスメイト。そんな彼女とだらだらと一年をなにかで繋いでいたのはつらかった。じわじわと、地味にくるしかった。

「こいびとだっていえないよな」

カチカチと欄に書き込んで、眺めた。
送るつもりなんてさらさらないけど、面倒だしこわいし。だらりと消去ボタンをタップすると誤ってゆびがぼちっと送信を押した。
あっ、ばか! 最悪だ!
叫んでいる。叫んでいる。あ、ああ。やってしまった。こいびとだっていえない、まで送信されてしまった。ばかな自分! ばかな自分!
すぐに既読がついた。きらいだ。

彼女はいつも、返信も速かった。

「それって東野キナの歌だよね? まぁくんも知ってたんだ!」

興味ないって言ってたのに聴いてくれたんだね。
そんなことばに頭がぐらぐらした。あ、ああ、ああ、ああ、よかった。よかった。よかった。
息を深く吐きながらそうだよとおくる。
なに安心してんだ。意味がわからない。

ベッドのやさしさに浸かっていると、今日の夕飯のにおいがつたってきた。
あまい野菜のにおいだ。
僕はラインを閉じて階段に向かった。
あしたの彼女も、今日の宿題も、結局なにひとつと変えられなかった自分は、結局へいわでいたことに安心して、またベッドのやさしさに埋もれることとなったのだった。




かのじょはきづいているのかな?

169 かえで  [id : xUzsI9f.] [2016-08-31(水) 02:26:57] 削除依頼



アラームを止めると急に世界がまっさらになったような気がした。朝の、ふわふわとした真新しい雰囲気のせいだろうか。静かな空間がどうにもすこし冷たく感じて、ベッドからおりた。
フローリングがひやりとした。夏、なんだよね。
今日は夏休みの最終日だった。平日ということで親もいない午前十時は、とにかくまっさらとしていた。

「おわるのかあ……」

いやだなあ、いやだなあとみんなが呟いているのを見て、同じ気持ちなんだなあと僅かに緩む。
それでも確かに学校にきて、わらって、久しぶりって言って、大した興味もないはなしをして、すこしずつゆるゆると埋まる。元の生活になる。
考えるとぞくりとする。苦手な体育に、秋は球技大会もあって、ああいやだなあという未来だけがみえてこわい。
きらいなことがぜんぶなくなればいいのに!

ため息まじりに浮かんだことばが開いた唇からあふれる。
ぽつぽつ、ぽつぽつ、あふれて、浮かぶ。

「宿題ほんとにぜんぶおわったのかな。確かめなきゃ」

わたしは朝と昼が重なったごはんをつくるために、フライパンと卵を出したところでそれをつぶやいた。
確かめなきゃ、確かめなきゃ。
じゃいとこわいもの。ほんとうなのかどうか。ぜんぶ、ぜんぶ、おわってしまうのか。わからないから、こわいのだ。朝の、虚無に似た空間がどうにも胸を駆り立ててぞわぞわした。
ああ、考えたくもない、明日の終わりだなんて!

「みんな嫌いじゃないんだけど、なにがいやなんだろう」

らくしたいのかな。
卵を割ってフライパンに乗せると、黄身がふたごだったのにすこし調子付きながら、それを勢いよくかき混ぜた。




日記みたいなものです、

170 かえで  [id : D4rDivJ1] [2016-09-01(木) 17:56:34] 削除依頼



「さぼってゲーセン行かない?」
「はあ? 無理」

放課後の空をじわじわと夕日が焼いていた。
だよね。彼女はにかっとした変わらない明るさでそう言った。彼女はゲームセンターが好きだし、得意だし、何ならおあそびごとなら何でも好きだ。
だからだろうか、こんなにふわふわした頭になったのは。
いつもお気楽主義で楽しむが勝ちの性格の彼女と、わたしはいちばんの親友だ。彼女とわたしは全然ちがう。

彼女みたいに明るくなりたい。にこにこしていたい。誰とでも喋れるようになりたい。運動が得意になりたい。好き嫌いがひとつもなくなりたい。わんこを好きになりたい。
きっと彼女のことをいちばん知っている。でも、いちばん羨ましいとおもう。
こんなに違うなんて、と悲劇ぶってみるけれど彼女の笑顔は変わらないしわたしも彼女がすきだから憎もうとは思わないんだけれど。
彼女はわたしと向かい合って、座ってるわたしの肩を叩いた。

「涼子(りょうこ)ならそう言ってくれると思ってたの」
「なに。わかってて訊いたの? 全く……」

息を深く吐いて頭をうなだれる。すると後頭部を指でつつかれて顔を上げた。
いつものにかっとした笑顔の彼女がいた。
う、あ。ちか。

「いたい」
「ごめん」

彼女はえへへとわらってから後ろを向いた。
くるりと髪が回って、彼女の後頭部が映る。
涼子ぉ、ぶすっとやっていいよ、だから怒んないでね。テスト直し手伝ってね。あたしばかだから。だからね、涼子にばっか頼っちゃってごめんね。わたし。わたし。

「朱美(あけみ)?」

なに言ってるの。当たり前でしょ。
そう言いかけたら、朱美はふるえていた。わかる、わかる、わかるよ。でもその先がわからなくて困惑するの。ねえ、どうしたの、どこかいたいの。ねえ、朱美。朱美。


「わたし来週引っ越すの」

ほろりと、なにかが離れた気がした。
空はあまりにも明るくて赤くて、すべてをころそうとしていた。こわい。ふるえる。きえないで、よわくならないで、そのままでいて。おねがい。

「逃げたいね、どこかに行きたいね」


告白に似た彼女のことばは、わたしの胸をころそうとしていた。




171 かえで  [id : 2zqtCKp1] [2016-09-18(日) 11:27:44] 削除依頼



なに言ってんだ、みんなみんな違う声を出してんのに、なんでみんな同じだとか言ってんだ。
体育祭で泣いてるクラスメイトを冷めた目で見てやったのは、今日でいちばんの思い出になったのかもしれない。ほんとつくづく自分の性格には冷めきっていて熱帯魚ばかり好きで体育祭がしぬほどきらいなやつだった。そして何よりも自分に自信が持てないばかりに、ちらちらといらつく他人を否定をすることで自分をちょっとだけ正しい風に仕上げている。

「ねえ、保健室いかないの?」
「ほっとけないよ痛そう」

泣いてるかわいいクラスメイトの周りにわらわらと集まる男女は、餌を貪るコバエのそれとおなじだった。
あまいことばを綴るくせにかわいい彼女のことを餌にしている。みんな、みんな体育祭の片付けをさぼりたいだけなんだ。彼女に優しく付き添うふりなんてして自分の足を休ませたいだけのそれだ。
わたし一緒に行くよ。
彼女の友達がそう言ったら周りがすこし落ち着いた。あーあ、っていう僅かな諦めとどうでもよかったような返事が木霊してひびく。
わかってる。わかってる。彼女がいちばん可愛くて彼女がいちばん平和にいきている。

そしてわたしはよわいプライドを持っているばかりにその輪に混れない、いつか餓死するやつだった。

172 かえで  [id : lIhLfwS/] [2016-11-06(日) 14:45:39] 削除依頼



もうすぐ冬が来るんだって。
傍にポッキーの箱を携えた君がそう言いながらがさがさと、二袋目に手を掛けた。ストロベリーの赤がぷつぷつと彩られたピンクのそれは、ひとつ、ひとつと君の唇にとけてゆく。
細く華奢な君、すこしくらい太ればいいさ、と冗談まじりにこころでつぶやいてクスリとわらった。
教室のカーテンが揺れて夕焼けの赤がぼんやりと教室を照らしていた。
そんなはなしをしているとまるでここだけがまだ、秋のままでいるみたいじゃないか。あたたかな秋色をしていて、そのままに。

十月が終わり十一月に季節は奪われた。
確かに気温も、まるでカレンダーをめくったときから、ずっと寒くなっていた。
寒がりな女の子たちは、もう可愛いマフラーをつけていたような気がして、そうかと思った。

「北のひとはもうマフラーしてるんだと」
「へえ。十一月って思い切り秋のイメージあるんだけどな」
「わかる」

でも冬らしいよ、と君が言った。
またひとつ、ポッキーの袋がくしゃりと小さくなる。わたしも食べたいとは言えなかった。
くれないかなあ。
君はそのあとに、確か、たぶん、立冬というものがこれから来てそれが冬の始まりの挨拶らしいと言ったそうだ。よく覚えてないけど、りっとうという響きが綺麗で好きだなとおもった。
そうしたらまだ金木犀は咲いているだろうか。大分が道になってしまったけど。

「もうクリスマスのグッズばかりで、なんか、すごい速いよね」
「うん」

でもわたしは寒がりだから冬はちょっと嫌かな。
うそをついてみると、君はヘラとわらいながらわたしもだよと返してくれた。うそだとすぐにわかったのは君だけがまだブレザーを着ていないからだった。

「それに冬は恋人の季節だし」
「わあ、嫌だねえ」

ポッキーの箱はもう空っぽで、わたしは着ていたブレザーをそっと自然に脱いで、鞄にしまいこんだ。
君も立ち上がってわたしの隣にきてくれる。

あとから気づいたことだけど、きっとわたしのうそもばれているんだろうなとおもった。窓を開けたままだったんだと知った翌朝に先生に叱られた。夕暮れの風、もうきっと、つめたい。
結局わたしの誕生日も十一月に奪われて、わたしはまだひとつも何もいただけないまま冬を迎えて忘れる。さみしいな。さみしいな。さみしいな。さみしいな。

「……彼氏ほしいな」

そうしたらこの空いた隣もきっと温もりであたたまるのだろうと、わたしは夢を馳せた。


/立冬前

その帰りに金木犀をみた。

173 かえで  [id : Lt9ES/O1] [2016-11-10(木) 21:34:18] 削除依頼



冬が来た。
辺りは黒や紺がぞろぞろとわらわらとしていて、太陽にきらきらと照らされた朝なんて、上から覗けば、まるで夏の働きアリのようだった。
晴れていても寒さが身を押さえ込んでくる。室内の温かさで手がじわじわと血を巡らせてあつくなる。こいつと、血と、スカートとわたしが並んでいる。教室に私たちしかいないのは、みんなが鈍間だからなのだ。
そんな、いたいような寒さに身を縮めながらわたしはこいつの横顔をみる。
細い黒髪も、薄い唇も、すらり、と、かわいているこいつをみて声をかけたくなった。息はもう白かった。

「あのさ、リップ、ぬりなよ」
「えー。なんか男がリップとか変じゃない?」
「じゃあどうするの。切れたらいたいでしょ」

こいつは小さく、まあそうなんだけどと言ったあとにぐるりとこちらを向いた。
視線、髪、唇、と、こちらをみてくる。
冬の寒さがわたしのゆびを凍らせた。

「なめる、とか」
「……やめなよ」

控えめに答えるとこいつはまた控えめになははとわらった。
あー、ちょっとだけばからしいなとわたしが恥ずかしくなった。なんだか去年も同じことを言ったような気がして。すこしだけ。
するとまたこいつは窓を向いて横顔になった。
ああ。
正面から真っ直ぐに話すのは苦手だ。しってるよ、そんなこと。わたしもそうだから。

「あのさ」

わたしが声を出していた。沈黙を作りたくはなかった。
正面じゃなくても、さみしいことはきらいだ。話していたかった。誰もここにはいないのだから、すこしくらい、そんな雰囲気に身を委ねてもよいのだろうと思った瞬間からわたしは声を出していた。

「わたしさ、雪が降ったら、好きな人に告白したいんだよね」

ふるえてるのは寒いからだよと言い訳はしなかった。
ばからしいとおもったからだ。こいつに対してはどうしてもわたしは大人らしくありたかったのだ、せめてこいつよりは。
いたい。いたい。さむい。つめたい。ふるえて、ゆびさきがうごかない。

「ゆき」
「うん」
「そっか、ゆき」
「うん」
「そっか……ゆき、ゆき」
「うん」
「はやく降ると、いいな」
「うん」

雪なんて去年は一度も降らなかったことを私たちは知っている。それなのに、何にもおもしろくしようとしないこいつに、わたしは更に自分自身をころしているような気分になって、また恥ずかしくなった。
顔を伏せたかった。きえたくなる。さむさになくなればいい。いますぐ雪が降ればいい。そうしたらきっとわたしは今度こそこいつより大人になれるのだと、このときだけ思っていたから。

ゆき、ゆき、ゆき。
言葉を重ねるこいつの隣にはわたしがいる。
誰もこなくていいよ。こなくていい。だからどうか、いますぐわたしのこのゆびを、どうかあたためてほしい。
ねえ、ねえ、わたしさ、わたし……。


「さむいね」
「さむいね」
「さむいね」


/朝冬の

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