色々の詞。 173コメント

1 かえで id:iR7sP45.

2015-06-21(日) 16:55:07 [削除依頼]


色々。其れは赤青黄、他も含めて数え切れない程に。
其の色々を混ぜ合わせるものは、数え切れない詞(ことば)。

この世界に広がってく色と詞は、私達の想像を超えてゆく。





何度も失敗してきた短編集です。
今度こそという気持ちで書いていくので宜しくお願い致します。
ジャンルは様々となっています。
 
  • 154 かえで id:a6T9Tvj.

    2016-06-03(金) 22:36:52 [削除依頼]


    前までは純粋な喜びとか、好きとか、きらきらだった筈なのに、いつから私の目は悪くなっていったんだろう。
    高校にあがると私の視力は落ちていた。いま思えば日に日に視界がとけていただなんて知らなかったことさえこわくなる。受験勉強をノートに食い入るように見ていたかららしい。ちなみに受験にはおちた。
    私は高校ではそこそこ良い成績になった。そりゃあ上を目指していたひとが下に足をつけたら誰より背がたかくみえる。だから私は軽くふわふわ浮いてるようなきもちになった。
    あたらしい、きらきら。

    「わあっ成海(なるみ)ちゃん、絵、じょうず」

    懐かしいことばに私はこころ躍らせた。
    そんなことばはいつぶりか、また、あたらしいきらきらが舞い込んできたようだった。彼女に私は笑顔をむけていた。
    ただ彼女はそれ以来私のところにはきてくれなくなった。
    ああ。やっぱり。
    こんなの、ただの口実にしていたんじゃないか。

    ずるいなあ、うまいなあ、ひどいなあ。


    「周りはみんなみんな私よりずっとじょうずに歩くんです。笑顔もことばも仕草も、ぜんぶ、詐欺師みたい。ピエロなんて優しいものじゃないのよ。私より成績が良い子もいたし私より絵がじょうずな子も、私より私よりって、ぜんぶ私が背がちいさくみえるの。おかしいなあ、なんで見上げてるのかなあ。私、さみしくなってるみたいなんです」

    私はいつから自分をころしてた?
    シーツにうずくまった私の細い背中を、大きな角ばった手がやさしく撫でて、私はまた自分をなぐさめた。


    /じ,さつしてたのいつだっけ
  • 155 かえで id:ovaJG5m0

    2016-06-04(土) 12:59:43 [削除依頼]


    「どうしてしんじゃったのかなぁ……」

    私のせい?
    そう呟いていた私の肩を優しく叩いた友達がやんわりと笑ってくれた。伏せた目がなんとなく垂れていた。

    「葉子(ようこ)のせいじゃないよ。木原(きはら)さんはすこし、自分を追い詰めてしまっただけだよ……だから、葉子のせいなんかじゃない」

    友達が優しくて私は俯いて、自分の甲をみつめたまま返事だけした。
    夏が近付いていた。風が強くて夏を近付けてくるこの頃に、彼女がしぬだなんておもってなかった。彼女は見た目に反して、よわかったのかな。だとしたら私はひどいことをしてしまった。
    罪悪感に背中がひやりとして縮こまると友達は何を思ってか、今度は肩を摩った。

    「葉子、大丈夫よ。葉子は優しかった、だって、木原さんに声をかけてあげてたじゃない。木原さん、きっと、嬉しかったとおもう」
    「……ちがうよ。私はね、あのこのたいせつなものを、利用していただけ……何となく、休み時間がさみしかったから、色をつけたかっただけ……その、たった十分に。変な期待をもたせたの、かなぁ……」

    友達はなにを言っているのかわからないようだった。
    私と、あの子だけがしっている、ことばだ。
    ああ、私の目から涙が落ちなくて辛かった。
    黒色のクラスメイトがぞろぞろ過ぎ去るのを私はぼんやりと眺めて「成海ちゃん」とつぶやいた。


    /じ.さつしてたのいつだっけ スピンオフ

    明日みんなから成海ちゃんはきえるから私は成海ちゃんの骨を溶かす海をつくりたい
  • 156 かえで id:BiYyvGQ1

    2016-06-05(日) 18:18:15 [削除依頼]


    「あーっあっついなーアイス食べたいなー」
    「うっざ、それ買ってこいってこと?」

    慧久(えく)が語尾にまたうっざ、と付け足した。
    慧久ぅ。お姉ちゃんその口の悪さはどうにかしないといけないと思うよぉ。そんな風に言ってやりたかったけど喧嘩になるから止めておく。やっぱり私、慧久よりちょっぴり大人しさだね、いや、当たり前か。
    すると慧久はカチカチと連打していたゲーム機から目をぱっと離した。
    おー、ゲームオーバーしたんだ。すぐわかる。

    「あーっ負けたーあーあー」
    「あっはっは! うるっさいよ慧久ぅ!」

    この暑いのに負けた衝動でコンクリートに手をつけた慧久を私が笑ってやった。慧久は予想通りにあっちいと叫んでから私を睨んで、またうっざとつぶやいた。
    口癖になってるのよくないなぁ。いつか外で漏れちゃう時がくるよ?
    それも言わないでおいた。
    すると慧久はまた俯いてゲーム機をみつめなおす。首に汗が垂れていて、おちて、コンクリートはさあっと汗をさらう。はやいなあ。
    もう夏なんだ。あついや。

    「ねー慧久。それ一万点以上とれなかったら私にアイス」
    「やだ。ぜってえ一万点もとれないからやだ」

    口は悪いくせに自分から負けを認めてることに躊躇いもないなんて。いや、かっこつけかな。
    どっちにしろ慧久はある意味ふしぎちゃんみたいだ。ふしぎちゃんというか、おかしい子みたいな、へんなかんじ。
    私はつづける。夏のせいで声は吐き出すように出ていった。

    「アイスー、おごってあげる」
    「は? それお前が損するじゃん。なに、罠とかだったら余計うっざい」

    お前が一万点いかないのはお前が弱いからだよ。
    だからお姉ちゃんが笑ってやってるんじゃん。笑わなかったら、ここ、すべるでしょ。かわいそうだから。

    「慧久ぅ。お姉ちゃんその口の悪さはどうにかしないといけないと思うよぉ」

    慧久は黙っていて、ただカチカチと聞こえた。遠くでサイレンが響いて夏の温度にゆれた。
    あれ、もしや私がすべったかな。
    するとしばらくして慧久が小さく、わかってるよ、と言っていた。
    私は満足だったので笑ってやる。

    「よしっじゃーアイス本当におごってあげるぅ! なにがいい?」

    ゲーム機から目をぱっと離した慧久をにやりとみる。
    やっぱり負けたみたいだ。
    慧久は空をしばらく見た後に歩き始めた。
    いいよ。コンビニに着くまで、優しいお姉ちゃんは、慧久のこと、まっててあげるからさ。


    /お姉ちゃんですから

    私には口が悪くてとてもわかりやすい弟がいる
  • 157 かえで id:BiYyvGQ1

    2016-06-05(日) 18:20:20 [削除依頼]


    訂正

    大人しさ ×
    大人 ○
  • 158 かえで id:QUhmGeP.

    2016-07-03(日) 13:49:26 [削除依頼]



    「世界がほろびまーす、どちゅーん、って隕石みたいなものが落ちてきたら、みんな関係なくなるよな」

    随分と大きな独り言を愚痴るなあと思うだけだった。
    夏に染められてゆく世界はすこしずつじわじわと一点から世界へ、暑さを増してゆく。温度を塗り替えてゆく。それを私はテレビ越しにみていた。
    すると私の反応の無さに墨田(すみだ)はこちらを向いた。
    ゲーム機はセーブして机に置いていた。随分とはやいな、セーブ。

    「なあ、どう思う?」
    「いや、……うん。まあ。そうかもね」

    かもねって。
    墨田はハッと鼻で小馬鹿にしたようにわらった。
    また、じわっと温度があがる。この季節に有りがちな、じめじめしたような暑さは嫌いだ。西瓜が食べたくなる。

    「そしたら俺が走れないことも馬鹿なこともぜーんぶ関係ねえじゃん!」

    どうせみんなしぬよ。
    それはまるで呪いのようで私はぞくりとした。クーラーつけようかと思ったのを、ふ、と止めた。
    墨田はまたゲーム機とにらめっこをするようにして机に突っ伏した。私は丸まった墨田のしなやかな背中をみる。じんわりと浮かぶ汗が背中にはりついていた。自分もかな、と背中を仰いだのは秘密だ。

    「そうだね」
    「だろ?」

    夏。私は墨田を見つめながら、まるで、夏の虫取りに出掛ける不思議な世界を眺めているような気分に陥っていた。
    明日はもっと暑くなればいいよ。なんてね。


    /夏と隕石のはなし
  • 159 かえで id:9kf0ZqL1

    2016-07-28(木) 08:14:50 [削除依頼]



    夜はどうしてこんなにも冷たくなるのだろう、夏を忘れてしまうのだろうか。ぜんぶぜんぶ、なくなりますようにと。
    白木(しらき)はグラスに注がれたサイダーをひとくち含んでは、サイダーをうっとりと眺めて、またひとくち口に含む。サイダーが白木の中に落ちてゆく。

    「カクテルみたいだ」
    「うん、そう、あまいの」

    まだ僕たちは十八だよ。
    お酒は勿論、カクテルなんて小洒落たものを口にする機会もなければゆるされたこともないこどもだった。夜の冷えた風に沿って白木をみると、白木のぺったりとした髪が揺らいでいた。前髪につ、つ、と水滴が吊るされて、僕は落ちろ、落ちろとおもった。
    落ちた。
    白木はまっさらなテーブルに落ちた水滴を拭わずにグラスをみていた。

    「カクテルらしく、サクランボ入れよう?」
    「いいね」

    月が薄っすらと出ていた。
    なんでサクランボがあるのとかカクテルじゃないくせにとか、そういうことを僕は言える大人じゃなかった。
    白木はサクランボをひとつ摘んで、くるくるからからとサイダーをまわす。
    透明に、白に溶かされていくように入ったそれは、なんだか艶めいていてどうにもどきどきした。白木をみると目が合う。わらっていた。わらっていた。
    熱い芯を纏う夜風が、僕たちを隠していた。

    「たべて」

    白木が摘んでそれを口元に押し付けてきた。
    あかい、あかい、魅惑のかおりがしてくらくらして、ああ、僕たちは溺れている。

    「酔ってるの?」
    「うん、すこし」
    「そう」

    月が薄っすらと出ていた。
    僕はわらった。わらった。白木はほんのりとまだ浮かぶ湯気に揺蕩うようにして、僕の前に座っている。
    ああ、これは、なかなか、

    がり

    「あまいよ」


    熟している、とかんじた。
    もう夜の冷たさとこどもたちは、そこには居なかったのだと、僕はおもった。


    /チェリー

    どストレートですこし嫌な気もしますがいつかリメイクしたい
  • 160 かえで id:R2UvIT21

    2016-08-18(木) 20:36:12 [削除依頼]



    線をかいた、円をかいた、誰かさんの声がして私は絵本コーナーの外れに向かった。
    みつけた。あの子だ。かわいい子だ。
    髪がぴらぴらとなびいていて、小さくふたつにリボンで結われている。スカートを平らにして丸い椅子に座って鼻歌を歌っていた。高い、高い、でも、すきだ。

    「お姉さん」

    ばちんと目が合った。
    不思議そうにゆっくりと瞳をおおきくしてゆくその子は、クレヨンを止めた。滑って、円から外れた赤色はざわざわと波打っていた。
    しまったと思いながら持っていた本を両手に持ち替えて、やんわりとわらう。

    「こーんにーちは」
    「こーんにーちは」

    偽物の星がぱちぱちとひかっていた。
    その子のまるい頬に触れたひかりはゆるりとまわりながら滑らかにとけてゆく。
    わたしは隣にしゃがみ込んだ。わたしのスカートは折れて床にすこしだけ触れてしまう、だからわたしはスカートを奥にしまいこむ。

    「なに描いてるの」
    「お月さまだよ。まるいの」

    月が、あかくて、わたしはへえとしか言えなかった。
    あか、あか、あかいろ。
    まるで彼女とわたしは違う世界の人間みたいだ。こんなに近くにいるのに、おかしなおはなしだけど、偽物の星は確かにそこにいて、ああ図書館だなあと思わされる。

    「お姉さんはお姉さんなのに絵本よむの?」
    「うん。お姉さん、絵本がすきなんだ。きみもでしょ?」
    「うん! すき!」

    そう。じゃあこれをきみにあげるね。
    わたしのいちばんすきな絵本なんだ。よんでごらん。
    水彩で縁取られた鮮やかな背表紙をなぞると、すすすっと絵本は抜けた。彼女は絵本を抱きしめる。お腹をぜんぶ水彩が埋めた。

    「ありがとう!」
    「うん」

    あかいつき。偽物のほし。えほん。わたしときみ。ゆめ。
    きっともう、きみにあうことはないのだろうなとわたしは思わされていた。




    よくわからない
  • 161 かえで id:R2UvIT21

    2016-08-18(木) 22:30:05 [削除依頼]



    「明日頑張ろうを三十回くらい言ったら、夏休み終わっちゃうんだよね」
    「なあに、そのおもしろいめいげんは」

    それに正確には四十五回ね、夏休みの少なさを惜しんでいるのに数えてないのね。
    彼女はくふふとわらってシャープペンシルをまわした。
    透明感のある爽やかな水色のストライプが、くるくると円を描いて彼女の細いゆびで踊っていた。
    ほそ、それにしろ。

    「宿題が一瞬で終われば楽なんだけどなぁって」
    「じゃあ答えみる?」

    彼女は自分のワークブックを差し出した。
    名前が細い女文字ですらりと並んでいて、自分のものではない物を触る、すこしの違和感をゆびさきから感じていく。つめたい。いつ終わらせたのだろう。

    「文字きっれい」
    「習字、習ってたからね」
    「ふうん」

    それだけじゃないと思うけど納得した。
    するとサイダーの氷がからんと鳴って時間が動き出す。薄くなる前にサイダーを飲み干して、俺は彼女のワークブックを返した。彼女は目を丸くしたけどすぐにやにやした。
    うるさいな。

    「ズルはしたくないんだよ。叱られるって考えを頭に入れて無理矢理でもやってみるわ」
    「えっら」

    お前の方が偉いだろ、なに言ってんだよ。
    そう返すと彼女はまた、くふふとわらって彼女もサイダーを飲み干した。サイダーのびんに僅かにのこった彼女の熱が、唇が、あつくてどきどきした。
    すぐにワークブックに目をうつしてゆびをうごかす。ゲームばっかりやっていたはずのゆびがつりそうだった。

    今日は蝉がおとなしい。
    すこししたら、雨が、こっちにも降るのかもしれない。


    /answer

  • 162 かえで id:8WAe6I40

    2016-08-24(水) 03:06:35 [削除依頼]


    「今日も、終わりを見届けるんですか」

    彼女の凜とした瞳がずっと好きだった。揺らがない、綺麗な色が浮かぶそれは、いつも僕に対しても強く刺してくる。
    彼女はスカートを握りしめるようにしていた。いやなのかな。
    今宵も月は薄っすらと雲がかっていた。ぼんやりと輪郭を星と混ぜてゆく月は、とてもはっきりとはしていなくて、綺麗とは言い難かった。けれど毎日みていると不思議とかたちだけはわかるものだなあと、かんじた。

    「うん」
    「身体にわるいですよ、さすがに」
    「でもきみも一緒にいてくれてる」

    ごめんね、利用しているんだ。わかっている、わかっている、わかっているんだよ。
    きみもね。
    彼女のスカートが風に揺れた。夏の夜風はひんやりと、柔らかく冷たい。
    空気が、酸素が、いつもよりきれいなんじゃないかとおもわされて、好きだ。それだけが妙に安心できた。

    「誰も知らないんだろう、僕達が、いま、生きてるなんて」
    「みんなは眠っているだけなんです」
    「じゃあナイフでも突き立ててこようか」

    ぎょっとした彼女の目がまるく、まるく浮き出た。
    こわいなあ

    「冗談」
    「やめてください、……もう、明日になりますから」

    ああ、そうだっけ
    今日も見届けてしまうなあ、今日がしんでしまうなあ、いやだなあ
    今日がしぬたび、僕もちいさくすこしずつしんでゆくのだ、ひっそり、ゆっくり、とろけるように、侵食して、蝕んで、消えるように

    「月が綺麗ですね」

    ああ、ねえ、
    どうかその瞳を逸らさないでくれよ、こんなときに。ばかみたいだ、自分が、どうしようもなく。
    月なんか、いつもに比べたら綺麗じゃないよ。
    こんなちいさな嘘と本音を混ぜこねて、全然、きれいなんかじゃないだろ?

    「おはようございます、先生」

    零時の鐘、きみ、時計、スカート、月、ゆびさき。
    ずっと僕は、僕自身をしずかにころしてゆきながら、今日も、明日を待っている。彼女をほんのすこしだけ、道連れにしながら。


  • 163 かえで id:8WAe6I40

    2016-08-24(水) 20:04:00 [削除依頼]



    「あんたって、怒りっぽい、よね」

    幼馴染が嫌いだった。
    いままでずっと僕のことをすこしずつ貶しているような態度が、ずっと気に食わなかった。僕にだってきみと同じくらいのプライドはあるのに、きみは自分が叫ぶことばをぜんぶぜんぶ、無理矢理に僕に押し込めたら満足する。その繰り返しでいきている。
    ただ僕の方がきみよりも一歩だけ、冷静な判断ができるというだけで。
    だからきみの発言に僕は心底びっくりさせられた。

    「そうかな」
    「あんたってさ、わたしのこと好きじゃないじゃん? だからかな、……言葉遣いをさ、もうすこし優しくできないものかなあ」

    いらいらするなよ。
    夏の終わりに近付いて、いつから蝉がうるさいなあと思わなくなっただろう。蝉は、みんな、しんだのか?
    夏の蒸した教室にはもうなにもひびかない。僕のページをめくる乾いた音と、きみのはしらせるシャープペンシルが、ずっとそこにいた。きみから話しかけてくるなんて、暇つぶしのつもりだったのだろうけど、僕は正直いやで仕方がないからさ。

    「逆に、きみはできないのかな」
    「は? なにがよ」
    「言葉遣い。もうすこし優しく」

    ぼきっ
    きみのシャープペンシルの芯が折れた。瞳がぎらぎらとこちらを真っ直ぐに向けていて、ああ、ああ、とすこしだけ舌にのこるようなあつさを感じた。こわいな。
    きみは僕のことばがぜんぶ嫌いなんだろう。わかっている、わかっている、わかっているから。
    だって僕だって同じなんだ。

    「あんたがむかつかせてくるのが悪いんでしょ」

    ハッと嘲笑うきみが、挑発が下手なんだと知った。
    いまにも日誌がとびそうだ。
    だれもいない教室で本当によかった。誰かがいたら、きみもこんなに怒ることはなかったのだろうけど

    「吐き出さないと、吐き出さないと、いつかあんたをころしてしまいそうなの」
    「それが怒りだよ。七つの大罪って知ってる?」

    青さがずっと僕らをおいつめていた。
    張り詰めて、痺れるように、とかして骨にするような、そんな酷さを脆くかんじていて、確かにきみは僕をずっと見ていた。

    「知るわけないでしょ」

    立ち上がったきみが日誌をかかえてはしってゆく。
    長く、ぶわりとなびいた髪が余韻をのこしながら、ゆっくりと夏の蒸した静けさを戻していった。此処には、もうこえはきこえない。
    教室には、彼女の纏っていた、やたらに甘いにおいが、僅かにのこっていた。


    /ラース
  • 164 かえで id:IzaoKHq/

    2016-08-26(金) 12:48:22 [削除依頼]



    「今日がいちばん、世界でいちばん特別な日になるの」

    八月の終わり、わたしの誕生日、深々と月が沈みゆく、またたいて消えるような、そんな海の線をずっとずっと眺めていた。
    すこしだけひやりとした風が短い黒髪を揺らして離さなかった。
    わたしは嬉しいのだ。今日がこんなにも特別に輝いてみえるだなんて、きっとこれから一度もないのだろう。
    最初で最後の、ひとつだけのひとかけらだけの、わたしのこころがはしゃいでいる。
    ゆめじゃありませんように! と。

    「鯨が骨になるんだろう。空を、……ほら、きたよ」
    「あっ、ほんとだ」

    ゆらり、ゆら、り。
    靡く度に海も空も世界でさえ息を呑んでいるようだった。青く、ただ青くそこにある彼は、まるで微笑むように優雅に泳いでいた。
    息をしている。息をしている。
    きれいだなぁと感じると彼はまたゆらりとこちらを向いているように思えた。瞳がどこにあるか遠くてわからないのに、何故だろう。夜と彼が溶けこんで、月明かりが薄っすらと包んで、あそこだけがまるで絵本みたいだ。
    あそこに、いけたら、なんて。


    「骨に、変わるね」
    「ううん、違うよ。骨になるんじゃないの。彼は……」

    次の瞬間、僅かなひと瞬きをしたときだった。
    鯨がゆらりゆらりと靡きながら、静かに青さがひかってゆく。青いのに、きいろい。
    此処から観ているとまるでちいさな太陽みたいで私たちは目を細めていた。

    「あ」


    星に、なる。
    金平糖のように、しゃらしゃらと、舞い上がってゆくそれは確かに星だった。
    鮮やかな、水彩がはじけるような。

    その夜、私たちは鯨の星骨化をみた。
    優しい夜だった。
    わたしはずっと泣いていたとおもう。隣にいたきみはわたしをみて涙を拭ってくれたから、余計に背中があたたかくなって泣いた。
    誕生日おめでとう。そう言われた気がした。


    /鯨と星

    解釈もひとそれぞれ。
    詩みたいになってしまいました。


  • 165 かえで id:YGeoCLg/

    2016-08-28(日) 00:58:35 [削除依頼]



    「ねえみんな、宿題全然おわらないの、やばいぃ」

    泣きマークが幾つも並ぶそのことばを見たとき、わたしの指はもう動いていた。まるで最初からわかっていた回答のように、無心でスマホをタップしながらことばを並べた。
    ああ、すごい簡単なせかいだなあ、と思うのだ。
    皆の方が返事が速くて速くて、次々と同じようなことばが送られてくる。
    わかる。それな。やばいよね。ほんとやばい。まじで意味わかんない。宿題きらい。だれかかわりにやって。いや無理でしょ。あははうける。なにいってんの、もお。


    「かっこ、わらい。だぶりゅーだぶりゅー」

    こんな会話ばかりをするグループに何故入ってしまったのだろう。ばかなわたし。
    でも嫌いじゃないんだよ、このひとたちが。でも最近はひとりでいる時間が多い夏休みだからと、はしゃぐことがすきな彼女たちは良くグループに顔を出す。そこにソファがあるような。

    「わたしも全然おわってないよ、やばいよ」

    そう返してグループをとじた。次にスマホを開けたら件数はいくつになるのだろう。
    たくさんの、空虚なことばがふわふわ浮かびながら、わたしたちはいきている。呼吸をしている。眠るようにわらっている。足を、手を、皆で引っ張り合いながらそこにいる。
    離してくれない。離したくない。離したくない。


    「こわれたくないの。夏休みが明けたら、また綱渡りするんだよ、みんな」

    夏休みがおわるな、おわるな、きえるな、きえるな。
    わたしのせかいが、もうすぐ遠くなろうとしている事実にわたしは今日もぐっと瞼を閉じて、グループからひとり抜けて、さきに眠りについた。




  • 166 叶奏 id:jzre1OF0

    2016-08-28(日) 18:42:31 [削除依頼]



    わあもう本当にすきだなあと思いながら何回も読みました。
    >164は短いのに映画をみてる感覚になったし、詩に似てるけどでもやっぱりちゃんと軸がある文章で、すっごい好き。
    >165でちょっとだけ泣きました。共感しすぎて苦しくなったり、したり。
    かえでちゃんのss大好きです。これからもずっと読んでます、素敵な文章をいつもありがとう!
  • 167 かえで id:YGeoCLg/

    2016-08-28(日) 23:43:29 [削除依頼]


    >166
    かなちゃんありがとう……!
    すきだなあということばだけで胸いっぱいなのに、こんな丁寧に気持ちを綴ってくれてほんとに嬉しい。ありがとう!
    わたしもかなちゃんのss大好きです。いつもかなちゃんのおはなしをみているとどきどきする。どきどきして、ああすきだなあとおもっているんだよ *´ω`*)
    うまくいえないけど、大好きだ! って気持ちがいっぱいあるよ。
    だからこれからもずっと読んでるね。こちらこそ、いつもありがとう!
  • 168 かえで id:W61XTmV.

    2016-08-30(火) 01:54:36 [削除依頼]


    今日で付き合って一年になるね。ありがとう。ずっと好きだよ、きみのこと。
    高いソプラノみたいな声がリズムを刻むように流れ込んできた。彼女からラインを通じて送られたうただった。恋のうたを歌うことで有名な歌手だっただろうか、と考えたら当たりだった。
    歌詞の意味をことばにして伝えるなんて。
    おしゃれだけど本当の気持ちに触れられなくて、なんというか、虚しさが籠める。

    「きいたよ」

    そう返すとすぐに既読がついたから目を丸くしてしまう。
    ちょっとだけこわい。ずっと監視しているようで、この二人だけの画面はまるでちいさな檻みたいだ。
    そう感じるのは自分が男だからかもしれない。
    ふうじこめた。

    「それがわたしの気持ち! いつもありがとう、優しいまぁくんが好きだよ!」

    はーと、はーと。
    複雑な気持ちになって、椅子から立ち上がり、ベッドに寝転がった。ぼふりとした柔さが身体をつつむ。やさしい、これがやさしさだよ。
    殴っても涙を拭っても、どんなときに転がっても受け入れてくれる。これがやさしさだ。
    やっぱり薄々感じてはいたけれど、もうきらいだったんだ。
    ううんきらいじゃない。でも、好きでもない。ふつうになってしまった、ただのクラスメイト。そんな彼女とだらだらと一年をなにかで繋いでいたのはつらかった。じわじわと、地味にくるしかった。

    「こいびとだっていえないよな」

    カチカチと欄に書き込んで、眺めた。
    送るつもりなんてさらさらないけど、面倒だしこわいし。だらりと消去ボタンをタップすると誤ってゆびがぼちっと送信を押した。
    あっ、ばか! 最悪だ!
    叫んでいる。叫んでいる。あ、ああ。やってしまった。こいびとだっていえない、まで送信されてしまった。ばかな自分! ばかな自分!
    すぐに既読がついた。きらいだ。

    彼女はいつも、返信も速かった。

    「それって東野キナの歌だよね? まぁくんも知ってたんだ!」

    興味ないって言ってたのに聴いてくれたんだね。
    そんなことばに頭がぐらぐらした。あ、ああ、ああ、ああ、よかった。よかった。よかった。
    息を深く吐きながらそうだよとおくる。
    なに安心してんだ。意味がわからない。

    ベッドのやさしさに浸かっていると、今日の夕飯のにおいがつたってきた。
    あまい野菜のにおいだ。
    僕はラインを閉じて階段に向かった。
    あしたの彼女も、今日の宿題も、結局なにひとつと変えられなかった自分は、結局へいわでいたことに安心して、またベッドのやさしさに埋もれることとなったのだった。




    かのじょはきづいているのかな?

  • 169 かえで id:xUzsI9f.

    2016-08-31(水) 02:26:57 [削除依頼]


    アラームを止めると急に世界がまっさらになったような気がした。朝の、ふわふわとした真新しい雰囲気のせいだろうか。静かな空間がどうにもすこし冷たく感じて、ベッドからおりた。
    フローリングがひやりとした。夏、なんだよね。
    今日は夏休みの最終日だった。平日ということで親もいない午前十時は、とにかくまっさらとしていた。

    「おわるのかあ……」

    いやだなあ、いやだなあとみんなが呟いているのを見て、同じ気持ちなんだなあと僅かに緩む。
    それでも確かに学校にきて、わらって、久しぶりって言って、大した興味もないはなしをして、すこしずつゆるゆると埋まる。元の生活になる。
    考えるとぞくりとする。苦手な体育に、秋は球技大会もあって、ああいやだなあという未来だけがみえてこわい。
    きらいなことがぜんぶなくなればいいのに!

    ため息まじりに浮かんだことばが開いた唇からあふれる。
    ぽつぽつ、ぽつぽつ、あふれて、浮かぶ。

    「宿題ほんとにぜんぶおわったのかな。確かめなきゃ」

    わたしは朝と昼が重なったごはんをつくるために、フライパンと卵を出したところでそれをつぶやいた。
    確かめなきゃ、確かめなきゃ。
    じゃいとこわいもの。ほんとうなのかどうか。ぜんぶ、ぜんぶ、おわってしまうのか。わからないから、こわいのだ。朝の、虚無に似た空間がどうにも胸を駆り立ててぞわぞわした。
    ああ、考えたくもない、明日の終わりだなんて!

    「みんな嫌いじゃないんだけど、なにがいやなんだろう」

    らくしたいのかな。
    卵を割ってフライパンに乗せると、黄身がふたごだったのにすこし調子付きながら、それを勢いよくかき混ぜた。




    日記みたいなものです、
  • 170 かえで id:D4rDivJ1

    2016-09-01(木) 17:56:34 [削除依頼]


    「さぼってゲーセン行かない?」
    「はあ? 無理」

    放課後の空をじわじわと夕日が焼いていた。
    だよね。彼女はにかっとした変わらない明るさでそう言った。彼女はゲームセンターが好きだし、得意だし、何ならおあそびごとなら何でも好きだ。
    だからだろうか、こんなにふわふわした頭になったのは。
    いつもお気楽主義で楽しむが勝ちの性格の彼女と、わたしはいちばんの親友だ。彼女とわたしは全然ちがう。

    彼女みたいに明るくなりたい。にこにこしていたい。誰とでも喋れるようになりたい。運動が得意になりたい。好き嫌いがひとつもなくなりたい。わんこを好きになりたい。
    きっと彼女のことをいちばん知っている。でも、いちばん羨ましいとおもう。
    こんなに違うなんて、と悲劇ぶってみるけれど彼女の笑顔は変わらないしわたしも彼女がすきだから憎もうとは思わないんだけれど。
    彼女はわたしと向かい合って、座ってるわたしの肩を叩いた。

    「涼子(りょうこ)ならそう言ってくれると思ってたの」
    「なに。わかってて訊いたの? 全く……」

    息を深く吐いて頭をうなだれる。すると後頭部を指でつつかれて顔を上げた。
    いつものにかっとした笑顔の彼女がいた。
    う、あ。ちか。

    「いたい」
    「ごめん」

    彼女はえへへとわらってから後ろを向いた。
    くるりと髪が回って、彼女の後頭部が映る。
    涼子ぉ、ぶすっとやっていいよ、だから怒んないでね。テスト直し手伝ってね。あたしばかだから。だからね、涼子にばっか頼っちゃってごめんね。わたし。わたし。

    「朱美(あけみ)?」

    なに言ってるの。当たり前でしょ。
    そう言いかけたら、朱美はふるえていた。わかる、わかる、わかるよ。でもその先がわからなくて困惑するの。ねえ、どうしたの、どこかいたいの。ねえ、朱美。朱美。


    「わたし来週引っ越すの」

    ほろりと、なにかが離れた気がした。
    空はあまりにも明るくて赤くて、すべてをころそうとしていた。こわい。ふるえる。きえないで、よわくならないで、そのままでいて。おねがい。

    「逃げたいね、どこかに行きたいね」


    告白に似た彼女のことばは、わたしの胸をころそうとしていた。




  • 171 かえで id:2zqtCKp1

    2016-09-18(日) 11:27:44 [削除依頼]


    なに言ってんだ、みんなみんな違う声を出してんのに、なんでみんな同じだとか言ってんだ。
    体育祭で泣いてるクラスメイトを冷めた目で見てやったのは、今日でいちばんの思い出になったのかもしれない。ほんとつくづく自分の性格には冷めきっていて熱帯魚ばかり好きで体育祭がしぬほどきらいなやつだった。そして何よりも自分に自信が持てないばかりに、ちらちらといらつく他人を否定をすることで自分をちょっとだけ正しい風に仕上げている。

    「ねえ、保健室いかないの?」
    「ほっとけないよ痛そう」

    泣いてるかわいいクラスメイトの周りにわらわらと集まる男女は、餌を貪るコバエのそれとおなじだった。
    あまいことばを綴るくせにかわいい彼女のことを餌にしている。みんな、みんな体育祭の片付けをさぼりたいだけなんだ。彼女に優しく付き添うふりなんてして自分の足を休ませたいだけのそれだ。
    わたし一緒に行くよ。
    彼女の友達がそう言ったら周りがすこし落ち着いた。あーあ、っていう僅かな諦めとどうでもよかったような返事が木霊してひびく。
    わかってる。わかってる。彼女がいちばん可愛くて彼女がいちばん平和にいきている。

    そしてわたしはよわいプライドを持っているばかりにその輪に混れない、いつか餓死するやつだった。
  • 172 かえで id:lIhLfwS/

    2016-11-06(日) 14:45:39 [削除依頼]


    もうすぐ冬が来るんだって。
    傍にポッキーの箱を携えた君がそう言いながらがさがさと、二袋目に手を掛けた。ストロベリーの赤がぷつぷつと彩られたピンクのそれは、ひとつ、ひとつと君の唇にとけてゆく。
    細く華奢な君、すこしくらい太ればいいさ、と冗談まじりにこころでつぶやいてクスリとわらった。
    教室のカーテンが揺れて夕焼けの赤がぼんやりと教室を照らしていた。
    そんなはなしをしているとまるでここだけがまだ、秋のままでいるみたいじゃないか。あたたかな秋色をしていて、そのままに。

    十月が終わり十一月に季節は奪われた。
    確かに気温も、まるでカレンダーをめくったときから、ずっと寒くなっていた。
    寒がりな女の子たちは、もう可愛いマフラーをつけていたような気がして、そうかと思った。

    「北のひとはもうマフラーしてるんだと」
    「へえ。十一月って思い切り秋のイメージあるんだけどな」
    「わかる」

    でも冬らしいよ、と君が言った。
    またひとつ、ポッキーの袋がくしゃりと小さくなる。わたしも食べたいとは言えなかった。
    くれないかなあ。
    君はそのあとに、確か、たぶん、立冬というものがこれから来てそれが冬の始まりの挨拶らしいと言ったそうだ。よく覚えてないけど、りっとうという響きが綺麗で好きだなとおもった。
    そうしたらまだ金木犀は咲いているだろうか。大分が道になってしまったけど。

    「もうクリスマスのグッズばかりで、なんか、すごい速いよね」
    「うん」

    でもわたしは寒がりだから冬はちょっと嫌かな。
    うそをついてみると、君はヘラとわらいながらわたしもだよと返してくれた。うそだとすぐにわかったのは君だけがまだブレザーを着ていないからだった。

    「それに冬は恋人の季節だし」
    「わあ、嫌だねえ」

    ポッキーの箱はもう空っぽで、わたしは着ていたブレザーをそっと自然に脱いで、鞄にしまいこんだ。
    君も立ち上がってわたしの隣にきてくれる。

    あとから気づいたことだけど、きっとわたしのうそもばれているんだろうなとおもった。窓を開けたままだったんだと知った翌朝に先生に叱られた。夕暮れの風、もうきっと、つめたい。
    結局わたしの誕生日も十一月に奪われて、わたしはまだひとつも何もいただけないまま冬を迎えて忘れる。さみしいな。さみしいな。さみしいな。さみしいな。

    「……彼氏ほしいな」

    そうしたらこの空いた隣もきっと温もりであたたまるのだろうと、わたしは夢を馳せた。


    /立冬前

    その帰りに金木犀をみた。

  • 173 かえで id:Lt9ES/O1

    2016-11-10(木) 21:34:18 [削除依頼]


    冬が来た。
    辺りは黒や紺がぞろぞろとわらわらとしていて、太陽にきらきらと照らされた朝なんて、上から覗けば、まるで夏の働きアリのようだった。
    晴れていても寒さが身を押さえ込んでくる。室内の温かさで手がじわじわと血を巡らせてあつくなる。こいつと、血と、スカートとわたしが並んでいる。教室に私たちしかいないのは、みんなが鈍間だからなのだ。
    そんな、いたいような寒さに身を縮めながらわたしはこいつの横顔をみる。
    細い黒髪も、薄い唇も、すらり、と、かわいているこいつをみて声をかけたくなった。息はもう白かった。

    「あのさ、リップ、ぬりなよ」
    「えー。なんか男がリップとか変じゃない?」
    「じゃあどうするの。切れたらいたいでしょ」

    こいつは小さく、まあそうなんだけどと言ったあとにぐるりとこちらを向いた。
    視線、髪、唇、と、こちらをみてくる。
    冬の寒さがわたしのゆびを凍らせた。

    「なめる、とか」
    「……やめなよ」

    控えめに答えるとこいつはまた控えめになははとわらった。
    あー、ちょっとだけばからしいなとわたしが恥ずかしくなった。なんだか去年も同じことを言ったような気がして。すこしだけ。
    するとまたこいつは窓を向いて横顔になった。
    ああ。
    正面から真っ直ぐに話すのは苦手だ。しってるよ、そんなこと。わたしもそうだから。

    「あのさ」

    わたしが声を出していた。沈黙を作りたくはなかった。
    正面じゃなくても、さみしいことはきらいだ。話していたかった。誰もここにはいないのだから、すこしくらい、そんな雰囲気に身を委ねてもよいのだろうと思った瞬間からわたしは声を出していた。

    「わたしさ、雪が降ったら、好きな人に告白したいんだよね」

    ふるえてるのは寒いからだよと言い訳はしなかった。
    ばからしいとおもったからだ。こいつに対してはどうしてもわたしは大人らしくありたかったのだ、せめてこいつよりは。
    いたい。いたい。さむい。つめたい。ふるえて、ゆびさきがうごかない。

    「ゆき」
    「うん」
    「そっか、ゆき」
    「うん」
    「そっか……ゆき、ゆき」
    「うん」
    「はやく降ると、いいな」
    「うん」

    雪なんて去年は一度も降らなかったことを私たちは知っている。それなのに、何にもおもしろくしようとしないこいつに、わたしは更に自分自身をころしているような気分になって、また恥ずかしくなった。
    顔を伏せたかった。きえたくなる。さむさになくなればいい。いますぐ雪が降ればいい。そうしたらきっとわたしは今度こそこいつより大人になれるのだと、このときだけ思っていたから。

    ゆき、ゆき、ゆき。
    言葉を重ねるこいつの隣にはわたしがいる。
    誰もこなくていいよ。こなくていい。だからどうか、いますぐわたしのこのゆびを、どうかあたためてほしい。
    ねえ、ねえ、わたしさ、わたし……。


    「さむいね」
    「さむいね」
    「さむいね」


    /朝冬の
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