蛇と少女と大罪と、14コメント

1 ゅゅ id:HpaZR6SP

2017-01-03(火) 22:14:44 [削除依頼]




1秒でも長く一緒にいたい



1秒でも長く共に生きたい





    ■  ■





願うことすら『罪』となるなら



どうして神様は



僕らを出逢わせたのですか?

 

 

.
  • 2 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-03(火) 23:38:11 [削除依頼]
    1.



    無駄に豪華な造りで且つだだっ広い書斎部屋。

    壁一面に敷き詰められているのは、世界各地から寄せ集められた価値のある洋書ばかり。

    机上には幾つにも積み上げられた書類の山。



    ここが、俺の普段の居場所である。



    こんな一室の為だけに、どれほどの費用がかけられているのかなんて俺は知らない。

    こんな一室の為だけに、どれほどの税金が使われているのかなんて俺には分からない。



    これが、俺の今現在の『立ち位置』なのだ。

    書き変えることの出来ない、俺の運命。



    「いつぞやの内戦から早九十日と少し……」



    溜まりに溜まった机上の書類の山に目を通して作業を進めている途中、

    前からそんな言葉が俺の耳に入ってきた。



    「そろそろ政府軍が動きを見せに来ても良さそうな頃合ですな、中佐」



    ソイツは俺の言葉を少しも待たずに「いかがなさいますか」と尋ねてくる。

    どうするもこうするも、俺のやることなんてたかが知れている。

    そんなの、今さら訊くまでもないだろうに。



    「報せを待つことしか俺には出来ない」



    ――それまではいい子でお留守番だろうな。



    そんな俺の言葉に目の前の男――ソロウは静かに口を閉じた。
  • 3 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 00:56:18 [削除依頼]


    部屋に沈黙が流れる。

    普段と同じ。代わり映えのない光景。

    今日もこうして1日を終えるのだと、脳裏のほんの片隅で考えていたその数分後の事だった。



    扉の方から二度のノック音が書斎に響き渡る。



    ソロウは俺と目を合わせてから頷くと扉にへと足を向けた。

    事前の連絡も無しに俺の書斎に出向く奴なんて、俺よりも上に立つ者しかいない。

    或いは、余程の緊急事態が起こった場合位だ。

    ソロウの階位は俺より下ではあるものの、

    俺の秘書の様な役割をしているからここにいる。



    ノックの様子から緊急事態でない事は一目瞭然。





    (……ということは前者か?)





    誰の訪れだと机の位置から扉に視線を集中させていると、

    ソロウが扉を開いたのと同時に俺の予測はまんまと的を外した。



    扉の向かい側にいたのは――つまり扉をノックをした人物は、

    前線部隊のただの上等兵だった。
  • 4 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 01:30:23 [削除依頼]


    面食らったのは俺だけではなく、ソロウも同じようだった。

    その証拠に



    「貴様、ただの上等兵如きが事前の連絡も寄越さず中佐の元へ訪れるとは何事だッ!!」



    ……と、今現在その上等兵に向けて声を荒らげているのだから。



    それもそのはず、ソロウも自分より幾分も階位の上の者を応接しなければならないと全身に緊張を張り巡らせていたのだろうから仕方もない。

    何より、俺より階位が下のソロウが俺より上の階位の奴を応接する場面なんて早々ないのだ。

    それこそ上層部の奴らがここへ訪れた時ぐらい。



    まあ、そういった場面こそ年に数回あるかないかの程度だったりする訳だが。



    ……が、しかし。

    上等兵の奴、完全にビビって震えてるじゃないか。

    このままでは埒(らち)が明かない。

    俺だって仕事中の部屋でこのまま怒鳴り散らされたら気が散る。



    「おいソロウ。扉を開けたまま怒鳴るな」

    どう考えても通行人にだって迷惑なはずだ。



    「っ、はっ! これは、失礼しました」

    俺の言葉にソロウは上等兵を廊下に追いやったまま扉を閉めようとする。



    いや、だからな?



    「閉めるならソイツを中に入れてから閉めろ」

    「……はっ? ちゅ、中佐。今、何と、」



    「ソイツを部屋の中に入れろと言ったんだ。用があったからわざわざここまで来たんだろう」



    話を聞こうじゃないか。
  • 5 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 02:20:21 [削除依頼]




    バツが悪そうな表情のまま、ソロウは俺の座っている横に立つ。

    そして俺の机越しの前には、顔全体に大量の冷や汗を流している上等兵の男が立っている。



    「――で、だ。俺も暇ではないんだ。こう見えて机仕事の最中でな」

    「は、はっ!! 突然の身の現し、誠に申し訳御座いません!!」

    「いやいい。それよりも、手短に頼もうか」



    男は再度「はっ!!」と声を張ると、恐る恐る口を開いて言葉を発する。





    「……あの、セルジオ大佐から、アーシュ中佐にと伝言を授かりまして」





    一瞬にして書斎部屋の空気の流れが変わった。



    隣ではソロウが驚きの余り声を漏らしたが、すぐさま口を堅く結ぶ。



    (……コイツを部屋の中に入れて正解だったな)



    危うくこの上等兵の男の首だけでなく、ソロウの首まで刎(は)ねられる所だった。





    「……大佐がお前直々に、か?」





    上等兵の男は俺の問いに情けない声で「はい」と答える。



    「そうか。ならまずは、伝言の内容を聞こうか」

    「はっ。『拾い物担当はアーシュだったか。責任持って世話をしろとアーシュに伝えろ』……と」

    「……拾い物? 何の事だ。話が全く見えない」
  • 6 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 12:56:59 [削除依頼]


    ここの所剣技の訓練や書類整理等の仕事続きで一秒たりとも余所見をした覚えはない。

    つまりそんな呑気に拾い物をしていられるほど俺は決して暇じゃないという事だ。

    ここ最近の記憶を辿る限り、やはり拾い物をした記憶など一欠片もない。



    何より引っかかるのが、“世話”の文字。



    ソロウに目配せをすると、彼も困惑した表情を顔に浮かべていた。



    「悪いが、その『拾い物』とやらの見当が全くつかない」



    俺が改めてそう言うと、上等兵の男は

    「そ、それに関しては自分の方から説明させて頂きます!!」

    と口走り慌てて背筋を伸ばして敬礼した。



    「そうしてくれると助かる。順を追って説明してくれるか」

    「はっ……!!」



    ――上等兵の話はこうだ。



    ほんの二時間ほど前の出来事だったらしい。

    ここ、『帝国軍』の敷地内に見掛けない顔の怪しい奴が入り込んでいたのを、この上等兵の男が見付けた事が始まりだった。

    ソイツは実に奇妙な恰好をしていたらしく、侵入者だと思い込んだ男は身柄を拘束。

    この事を上司に報告しようとしたら、たまたまそこを通ったのがセルジオだった、と。



    「拾い物……そういう事か。侵入者関連の権限を持つのは俺だからとかそういう?」

    「はい、その通りに御座います」



    だから大佐は『拾い物の世話』などと分かりにくい言い回しをした訳だ。





    「話の流れは大体分かった。その侵入者とやらは男だろ?」



    「……いえ。それが、――――」





    上等兵の男が言い放った言葉に俺は絶句した。



    その侵入者は、どうやら女らしかった。
  • 7 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 13:34:21 [削除依頼]
    2.



    冷たく薄暗い地下牢へと続く路。

    頼りとなる明かりは足元に等間隔に置かれたランタンと上等兵の男が手に持つ蝋燭のみ。

    静寂の蟠るそこには、三人分の不規則な足音だけがただただ響いた。



    「こちらです」



    進めていた足を止め、一つの牢屋の前で立ち止まった男はそう言うなり一歩下がった。

    上等兵が下がった分だけ俺は再び足を進めては牢屋の中を覗き込む。



    そこに居たのは、天井から吊るされた手枷により手首の自由を奪われ、

    頭から爪先まで生気を感じさせないほどダラリと項垂れた姿の一人の女が吊るされていた。



    白髪の髪の毛はボサボサでその毛先まで傷み、

    質素な麻のワンピースは所々破け至る所にシミが出来ている。

    身体中には生傷が絶えず、古い物から新しい物まで様々だ。



    吊らされている女の下のコンクリート床の上には、何滴もの血が垂れていて――





    ……血?



    「……おい。この女、侵入時からこんなに傷だらけだったのか?」



    俺の問いに上等兵の男は「い、いえ」と答えた。



    「何だと? 俺の許可なく勝手に痛め付けていたのか?」



    俺の殺気を感じ取ったのか、男は「ヒッ」と小さく声を上げた。





    「ち、違いますっ! じ、自分ではなく、セルジオ大佐が……ッ!!」

     

     
  • 8 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 20:56:41 [削除依頼]


    上等兵の男は必至に首を横に振る。

    そして男の口から出てきた“セルジオ”の名に俺は表情を歪めた。

    男はそんな俺をよそに尚も言葉を紡ぐ。



    「大佐の尋問に、女は何一つ口を割らず……。その結果がコレです」



    身体中傷だらけの女に上等兵は目を向ける。

    俺もつられるようにその女にへと視線を向けた。





    「……やられた」





    予測をしていなかった訳ではなかった。

    セルジオのことだ。身内にさえ手加減という言葉を知らないアイツが、帝国軍でもない敵か味方かも分からない様な奴に気にかけないはずがないと。



    ただ、奴が珍しく伝言にまでして俺に押し付けてきたぐらいだから、もしかしたらまだ手を出していない確率の方が高いと考えていたのもまた事実。



    ――完全に、俺の読みが甘かった。



    一応、侵入者への責任や処罰の権限を持っているのは帝国軍の中では俺だけのはずだ。

    手を出すには俺からの許可が必要になる。

    ただ、それを俺がセルジオに言った所できっとどうにもならないだろう。



    何しろ、俺とセルジオの間にはハッキリと線引きされたように

    立ちはだかる『階位』の壁が存在するのだ。

    中佐と大佐という、壊すことの出来ない壁が。



    俺より優位に立つセルジオは、いつだって俺に構わず好き勝手暴れることが出来る。

    それこそ俺以上に、いつ、例えどんな時でも。
  • 9 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-04(水) 21:25:15 [削除依頼]


    尋問?

    そんなのはただの建前だ。

    女の身体中の生傷を見れば嫌でも分かる。



    アイツはただ、日頃のストレスをこの女を使って晴らしただけだ。

    そういう奴なのだ、セルジオ=フェルド=バートンとかいう男は。





    (……というか、そもそもこんな争いだけの場所に善人なんている訳がない)





    時折考える。



    どうして俺は今、こんな場所にいるのかと。





    「――――、―――、――中佐!」





    ソロウの俺を呼ぶ声に、どこかへ飛んでいた意識がふと自分の中に戻る。



    「大丈夫ですか。もしや具合が……」

    「いや、悪い。何もない。……お前達は先に戻ってくれ。俺は少しばかりここに残る」



    この女に訊きたい事があるんだ。



    そう言えば、ソロウも上等兵の男も何も言わずにその場を後にした。

    静かなこの空間の中に存在するのは、俺と、身柄を拘束された女の二人だけだった。
  • 10 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-05(木) 22:53:41 [削除依頼]


    上等兵から手渡された牢屋の鍵を鍵穴に差し込んで扉を開ける。

    牢の中に足を踏み入れると、濃い鉄の匂いと埃っぽい匂いが混じり合った何とも言い難い陰湿な空気が辺り一面に充満していた。



    女は今も尚、牢の中央で吊るされている。



    「おい」



    俺の呼び掛けに女は身動き一つしない。



    「聞こえてるんだろ」



    項垂れた白銀の頭。

    生きているのかさえ疑わしくなった。



    いつまで経っても返答どころか動きを見せない女に俺はついに痺れを切らし、女の元へ近付く。



    「死んでないなら返事ぐらいしろ」



    一方的にそう言うなり、俺は半ば強引に女の顎を上へと持ち上げた。

    その反動で天井から吊るされた手枷の鎖がジャラリと嫌な音を立てる。





    瞬間、絡まり合う互いの視線。



    俺の姿を捉えた二つの瞳。





    碧と翠の虹彩異色。





    「オッド、アイ」





    ――口にした途端、ふと俺の脳裏をいつかの黒い記憶がフラッシュバックした。





    覚えている。



    今でも鮮明に。





    「……その色、お前、まさか、」





    この色を。



    あの瞳を。





    「混血(こんけつ)か……?」





    ――忘れ難い、『あの日』の記憶と共に。
  • 11 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-06(金) 00:25:49 [削除依頼]


    俺の言葉に目の前の二つの対の瞳が一瞬だけ揺れた様な気がした。

    再び鎖の金属音がジャラリと牢の中に響き渡る。

    その音に俺はハッと我に返った。



    そして躊躇なく鞘から剣を抜き取ると、俺は女の首に刃を充てる。



    「何故ここにいる。どこから来た。名前は。答えなければ殺す!!」



    剣を持つ手に無意識の内に力が入る。

    それにより女の首には更に刃が食い込み、そこの部分からは血が細く流れ出た。



    「……わか、りません。なにも、かも。……わからないのです」



    初めて聞くその声は、この世の物ではないように感じられた。





    「……殺してください」





    紡がれた儚い言葉。

    けれど、向けられた碧と翠の二つの瞳の中に虚偽は映し出されていなくて、

    この女の放った言葉がただただありのままを伝えた事だけは分かった。



    ようやく理解した。

    ここまで苦痛を与えても尚、セルジオがこの女を殺さなかった理由。

    殺せなかった訳じゃない。ましてや物として扱いストレスを晴らした訳でもない。



    “敢えて”殺さなかったのだ。
  • 12 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-07(土) 17:40:28 [削除依頼]


    ――要するに、俺は今試されてると言っても過言ではない。



    (厄介なものを拾って来たと思った矢先に、厄介なものに目をつけられたって訳か)



    我ながら昔から悪運だけは強い方だと思う。

    役にも立たない自分の悪運にほとほと呆れて思わずため息を一つ吐いた。

    それから吊るされている女の両手首を支配する手枷を素早く外す。



    女はその場にぺたりと座り込むと、俺の行動に目を見開き呆然とした。



    「俺は答えなければ殺すと言ったんだ。お前に指図される筋合いはない」

    「――で、でも……っ」

    「うるさい、黙れ」



    今も女の首から流れ出る濃い赤色を見て、

    俺は羽織っていた自分のマントの端を口で引きちぎるとそれを彼女の首に当てる。



    「押さえてろ」

    「えっ……」

    「これ以上汚されると俺が迷惑なんだよ!」



    有無を言わさず無理やり押し付け、俺は彼女の右手首を乱暴に取ると牢から出た。

    これからどうするか。遅かれ早かれセルジオには見つかるはずだ。





    (アイツの思惑にまんまとハマって堪るか)





    策を練らなければならない。



    セルジオと相対した時の、その対処を。
  • 13 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-07(土) 19:44:39 [削除依頼]
    ≪用語解説≫





    1,帝国軍…帝国アスタルテを率いる、アスタルテの枢軸とも言える大規模な国家組織。帝国軍が滅亡する時がアスタルテの消える時だと言われている。



    2,政府軍…別名「反帝国軍」。その名の通り長きに渡り帝国軍と対峙してきた独立組織。祖国はアスタルテであるが帝国軍に不満を持った者が集まり、今や一つの反国家組織として力を付けた。



    3,前線部隊…政府軍との内戦の際、主に攻撃側としてまわる帝国軍の衛兵部隊。普段は侵入者の見回りや帝国軍基地の保守てしても活躍している。



    4,混血…「化け物」の血を引く人間のこと。その種類は様々だが、オッドアイの色の組み合わせで親元の化け物を特定することが出来る。昔から混血は人々に恐れられる存在で、帝国軍や政府軍関係なく排除の対象となることが多い。その詳細は不明。
  • 14 ゅゅ id:HpaZR6SP

    2017-01-08(日) 01:28:15 [削除依頼]
    3.



    「中佐!? な、何故その者が一緒にっ……!!」



    周りの目を盗み何とか書斎に戻ると、

    一足先に部屋に戻っていたソロウが俺を見るなり顔を青くした。正確には俺ともう一人を、だが。



    「詳しい話は後だ。ソロウ、一刻も早く召使い共に体を拭く物の準備をする様に言いつけろ。ついでにコイツ用の替えの服もだ」



    そう言って顎で示せば、ソロウは俺の一歩後ろにいる女に目配せする。



    「早くしろ」

    「え、はっ……ぎょ、御意!」



    突然の俺の言いつけにソロウは慌てて書斎部屋から出て行く。

    俺はその背中姿を見送ると、机上にあるアンティーク調のダイヤル式電話を手に取った。

    ダイヤルを回してしばらく耳に当てていると、ようやく向こう側からの返答が耳に入る。



    『……はいはーい?』

    「遅いッ!!」



    今の俺の心境とは正反対の、何とも気の抜けた気怠そうな声。



    『わっ、なんだよもー。突然大声出すなよな、お前の声頭に響くんだからさぁ』

    「やかましい! 急ぎだ、今から救急箱を持って俺の書斎へ来い。移動中くれぐれも他の奴には会わない様にしてくれ。特にセルジオ」

    『は? なに、すっ転んでケガでもしたの? えーっ何それ間近で見たかった!!』

    「っだー! うるさい! 俺じゃない!! そもそも転んでもいない!! いいから早く来いッ!!」



    半ば乱暴に受話器を置く。

    そんな俺の姿に、部屋の隅に縮こまりながら立っていた女が体を震わせたのが視界に入った。
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