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小説投稿投稿掲示板より。


1    ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 14:08:04] 削除依頼

あけましておめでとうございます
『描く』がテーマの小説です
感想も待ってます

2 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 14:18:53] 削除依頼

森川沙綾。
そんな名前の私の夢は、漫画家である。

幼い頃から絵を描くのは好きだった。
少女漫画雑誌の顔を真似て白い紙にひたすらキャラを作っていた事もある。
小学校では机に落書きをして怒られた事は結構あり、授業中も先生の目を盗んで描きまくった。
中学校で選挙ポスターと環境ポスターが入選し、展覧会で飾られ全校の前で賞状を受け取った時はものすごく爽快だったのを覚えている。
高校では美術部…ではなく家でコミックを読み雑誌のマンガスクールを見たりしてた。
とっくに成人の私はまだ漫画を描いている。

3 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 14:32:56] 削除依頼

これまでとある雑誌に応募した事はあるが、初めから好評価を得られるわけでもなく見事最低ランク。
それでも諦めず原稿に向かうのには、目標があるからである。
ーこの世の漫画家たちだ。
色々な作品を見てきて思うけど、雑誌に載せられコミックになり、更にアニメ化、実写化、グッズ化、キャラソン…様々な物にキャラが変わってくのは本当に凄い。
特にアニメ化。自分のキャラに声と色と動きがつくなんて想像できない。妄想ばかりの私はバカだ。
正直言って絵がうまい。と自分でも思う。
けどそれだけだ。

4 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 20:37:52] 削除依頼

8月の晴れた日。 
私はマンションの自室でアイスを食べながら原稿に向かっていた。主人公の顔パーツを描いているけれど、バランスという問題が邪魔してきてイライラが増える。
「~~~~っ…うううう」
唸りながら何度も消していると、手に持っていたソフトクリームはツルリと滑り落ち、私の声も届かずセリフの上に落下した。
「ぎっぎゃああああ」
女じゃない絶叫をあげる。無残にもソフトクリームは溶け汁を広げ、持ちあげると主人公の吹き出し全体はまんべんなく汚れていた。
一気に力が抜けた。頭に浮かんでいたストーリーまで吹っ飛ぶ。好物であるはずのソフトクリームを初めて恨んだ。
キッチンに行きカップヌードルのお湯を沸かす。料理できないとか女として終わってる。
10分後、できたヌードルをすする。無音の部屋で味わう味噌味は辛い。
再びさっきの原稿を眺める。汚したのは私のせいだが何故かそんな気はしない。 
「はあ~~あ…」

5 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 21:06:09] 削除依頼

よく考えたら私に絵の才能とか皆無なのかもしれない。表情もポーズもセリフも…崩れる寸前のピラミッドのようだ。それに服のしわ、遠近、背景。本当にこれで人に読んでもらえるのか。今更現実に気づく。
プロへの道のりは遠すぎる。いや元々存在しなかったりして。
「あーーーんもうっっっ!!」
大声をあげ私はたち上がる。原稿を順番関係なく揃え持ち、私は外に出た。
外は暑かった。さすが8月。TVで熱中症のニュースを見るけど、私だってならないとは限らない程の日光
が降り注ぐ。
サンダルで向かった先は、地元で一番良い景色が見渡せるとある高台。爽やかな風も吹きピクニックには良いのに、地に草が生い繁っている為か人はあまり見ない。
いくつかの坂道を抜けて石の階段を登ったところにある高台は無人だった。こんなに良いところなのに、この近辺住民は知らないのか。ちなみに私が知ってるのは、この地に引っ越して来た際に父に連れられ、何度か来た事があるから。
設置された柵から体を伸ばすと、私の住んでる地域が一望できた。住宅に店に公園に車に。こんな賑やかな場所だったんだ、と改めて感じた。
しかしここに来た理由は景色じゃない。持ってきた原稿を1枚1枚確認する。

6 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-01(日) 21:29:22] 削除依頼

これからこの場所からばら撒いて忘れる。こんな汚い漫画、捨ててしまえば良い。
いきなり風が吹き、私のセミロングヘアとTシャツの裾がなびく。丁度いい。
柵に足をかけて、原稿を持った手を伸ばした。
その時だった。

 「早まるな!!!」

背後から男の声がした。
更に何か落ちる音がして、振り替える間もなく私の体はグイっと後ろへ引き寄せられた。
「キャアッ」
悲鳴をあげ尻餅をついてしまった。
「痛っ…あ、原稿!!」
すぐに男の手から逃れ、私は手から離してしまった原稿を探す。
「もしかしてこれですか」
男の方を見ると、その手に1枚、アイスで汚れたヤツが入っている。
「いやああーー見ないでーーッ!!」
一瞬で原稿を奪いとる。他の原稿は私と男の周りに散らばっていた。それを男は草をはらい丁寧にまとめ渡してくれた。
「どうもありがとう…」
頭をあげると、男と目が合った。
黒縁眼鏡をかけた端正な顔。高い身長にすらりとした体。Yシャツとズボンに身を包んでいる。20代後半くらいか。

7 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-02(月) 13:32:58] 削除依頼

いや、それよりも若い…?
「ところであなた」
「え?」
男は急に真剣な顔つきに変わった。
「こんな高いところから身を乗り出して…飛び降りですか?駄目です、まだ若いのに」
「違うけど…知る必要はないわ」
「はあ」
漫画をばら撒きに来たとか正直言えない。黙って去ろうとすると、何かにつまづき転びそうになった。
「?何これ」
「あ、すみません。それ僕のです」
私が柵に登ってたのを見て思わず落としたのだろう。紺のバッグにスケッチブック。バッグからは絵の具、筆、平たいパレットがはみ出している。
「絵の具?画家でもやってるの?」
「ええ…まあまだ見習いですが」
男はそう言いバッグを拾う。背中にはもう1つ、黒のリュックを背負っている。
「ちょっと見せて」私はスケッチブックを奪った。
「あ」
「……」
真っ白い紙に描かれた空と山。鉛筆と絵の具だけだが濃淡のついたカラー。繊細なタッチ。まるで本物がそこに広がっているようだ。
「何これ…キレイ…すご」

8 ジープ  [id : 03FZ6ehv] [2017-01-02(月) 14:09:50] 削除依頼

「そんな事ありません。まだまだです」
「そんな事ないって言ってる人程、大体うまいって自分でも思ってるわ」
「いえ本当にまだまたです」
「私も漫画描いてるけど、背景はこんなうまくできないわ。平面にしか見えない」
「そうなんですか」
男は座り、地面に絵の具やパレットを並べる。もう一度ばら撒くのも嫌で、今度こそ去ろうとした。
「あ、待って下さい」
「何よ?」
男は私に手を差し伸べた。
「あなたの漫画も見せてくれますか」
「え、無理よそんな」
捨てようとは思ってたけど、そう言えばさっき男に汚した原稿を見られていたのだった。
「さっきチラッと見ましたが…何か一部セリフが見えない状態でしたね」
「そうだけど…関係ないわよ私の問題だし」
「あなたは漫画家を目指しているんですか」
男はスケッチブックをめくりながら言った。
漫画家… 確かに私はそれを目指して来た。自分の作品を沢山の人に読んでもらうのが夢で。
でも男の風景画を見た瞬間ーー
やはり私は劣ってるのを感じた。
「そうよ」
男は私に背中を向けたまま言った。
「何かすみません。素人の意見なんかどうでもいいですよね」
「は?何言ってんのよ!その絵見た100人中100人がきっとうまいって言うわよ!本当に自分を素人と思ってるの?」
つい強く怒ってしまうところは自分でも嫌いだ。
「思ってます」
「えっ」
「それは本当です。ほら、芸人に永野っているでしょう。あのネタに出てくるピカソとラッセンの方が1億倍、いやそれ以上凄いです。なんたって世界的な画家ですし。いや僕なんかと比べない方が良いですね」
「はあ。そうなの」
「僕に才能はないです。こんな絵、紙と鉛筆さえあれば子供でも簡単に描けます」
男の言ったことは私と一緒だった。私の漫画もまるで落書きレベル。

9 ジープ  [id : M0T2zsp4] [2017-01-02(月) 22:25:39] 削除依頼

「あなたはここの絵を描きに来たの?」
「はい。家から昼食も持参して来ましたし」
男はそう言うと、立ったまま景色を描き始めた。
「今日は遠くの山をやる事にしてたんです。毎回来るごとに見えづらい時があって、今回から晴れた日にします」
鉛筆を走らせる音がする。つまりここに何度か描きに来たのだろう。
「名前、高松幸一って言うの?」
「え、どうして」
「絵の具に書いてある」
Takamatsu kouichiと、全部アルファベットで記名してある。少しガタガタしてるけれど。
「荷物でも紛失したら困りますし」
高松君は後ろに下がり山を観察する。
「ところであなたの名前は?あ、ペンネームじゃない方で」
「え…何で?」
「だって僕の名前知られたし」
それでは言わないわけにいかない。素直に答えた。
「…森川沙綾。本名じゃないわ」
「ほう。いい名前ですね。あと発音も」
私はしばらく高松君の背中を見ていた。彼も私と同じく努力している…画家という夢に向かい。
「頑張ってね」
「帰るんですか」高松君は振り返って言った。
「だって初対面のあなたと話す事は…」
「またどこかで会いたいですね。同じ『描く』者同士。話したいです」
「そうね。どこに住んでるの?」
「ミチタニクリーニングの近くです」
「じゃあ会えるかもしれないわね」
彼は微笑を浮かべた。

10 ジープ  [id : M0T2zsp4] [2017-01-03(火) 20:59:48] 削除依頼

マンションに戻った私は、結局持ちかえって来た原稿8枚を机に並べる。そしてアイスでよごれた1枚に修正液を付けた。
「そうよ…修正すれば良かったんじゃない…何やってんのよ私…」
私はまたその部分を描き始めた。修正液で紙の色とは少し違ってるが、何とかさっきまでの絵柄を取り戻す。
高松君の風景画が突然頭に浮かぶ。彼は何度も自分の画力を否定していたけど、私の目からは確かに才能の詰まった一作のように見えた。
「よし、描くわ!!」
久々にやる気が出た。その日はほとんどのページをやり終えてしまった。

ーー土曜日。
私は近くのレストランで、友人2人と食事に来ていた。

11 ジープ  [id : qB3lE8d9] [2017-01-05(木) 19:54:56] 削除依頼

大学に通う真莉と、彼氏のいる成績優秀の映子。2人とは中学の同級生で、今でも時々会っている。メールのやり取りもするぐらいだ。
2人がそれぞれの家庭や仕事や恋愛について話し、次は私の番になった。
「沙綾は相変わらず漫画一筋?」
映子がコーヒーをすすり聞く。
「まぁね。一人暮らしになってからずっと…丁度今描いてる途中で。」
「へー、これから雑誌に連載始める日が来るのかなぁ。見たいねぇ」
確かに完璧に漫画家としてデビューして本屋に並べられ…そんな事にいつかなってみたい。
「そう言えば私、さっちゃんに買って来たものがあるの」
真莉が紙袋から一冊の本を取り出した。
表紙には【キャラクターの描きかた】と赤い字で書いてある。パラパラ読むと、オールカラーで見本のイラストや著者の一口メモが載っている。
「へぇ、ありがとう。さすがプロね、この絵」
「私もさっちゃんみたいにうまい絵描けたらな」
真莉は中学の頃、文化祭で学級展示の看板を一緒に作った事がある。その時も上手上手と褒めまくってくれた。

12 ジープ  [id : qB3lE8d9] [2017-01-05(木) 20:16:14] 削除依頼

「あ!うまいって言えば昨日、すごい綺麗な絵描く男の人と会ったのよ」
「男?」
「そう。眼鏡かけて、爽やかな青年って感じの…どうやら風景画を描いてる人みたいなのよ。鉛筆で下書きして、色も塗ってるそうよ」
「一目惚れでもしたの?」映子がからかう。
「ち、違うわよ!彼女いなさそうだったけど」
「女の青春ねー」「青春だねぇ」
「何考えてるのよっ」
 
ある日も私は、朝から机で原稿を進めていた。
これは人生で2度目の投稿作品である。半分以上インクを塗り終わり、良い方向へ向かっている。
「ん~~~っ!」
体を伸ばす。少し腕が疲れて来た。
漫画を描くには体力が大事だ。実際の作家は締切迫る中の環境で描くのだから。
私は宅配で注文したピザを片手に部屋を歩き回る。
思えばこのマンションに来てから雑誌やコミック、ポーズカタログや背景カタログが棚を埋めている。

13 ジープ  [id : MRHx5PN3] [2017-01-08(日) 13:47:13] 削除依頼

とりあえず真莉からもらった【キャラクターの描き方】を用意し、原稿を1枚1枚確認する。
「どこが違うのかもわからない…」
1人ごとを呟いた時、目の前のスクリーントーンが残り少ない事に気付いた。
スクリーントーンは大体漫画の全ページに使う。背景、キャラの顔、影、服…トーンがないとなり立たないのである。
そう言えば近くの黒井通りに、『御原文具』という
文具店があるのだった。向かいにカラオケボックスがあるから見つけ安い。
決めたなら決めた日に行くしかない。
私は上着を着て、早速買いにマンションを出た。

14 ジープ  [id : MRHx5PN3] [2017-01-08(日) 14:16:43] 削除依頼

黒井通りは数々の店が並ぶ商店街である。洋服店、古本屋、ケーキ屋、玩具店、喫茶店…この場は人で賑わう。時折開くイベントで通路は車は入れない時もある。
その端っこにある御原文具は、一見古そうな外見の文具店である。小さく静かで人が来る事もあまりなさそうだけど、長く続いてるようで良いところだ。
到着した私は中に入った。
「いらっしゃいませー」
中に入ると、50代ぐらいの男性店員がカウンターに立っていた。
大きな模造紙は筒状の箱に入っており、絵の具も色鉛筆も、一色一色ケースに収め売ってある。こうしたところがありがたい。
私はスクリーントーンを探した。ちなみに柄の入ったトーンは私のお気に入りである。キャラの服や小物に使う。
入口から2つ向こうのショーケースに回る。ここには画用紙やコピー用紙が並ぶ。
「へぇ、色々あるのね」
奥に進む。

15 ジープ  [id : rm2xFwjo] [2017-01-09(月) 11:02:24] 削除依頼

「あ、あったわ」
望み通りのトーンが重ねてケースに入っていて、それを手に取る。
「よし、この4枚ね」
初めて見たハート柄もついでに持ち、レジに向かおうとした時、見覚えのある背中で私は立ち止まる。
Yシャツにズボン、どうやら24色色鉛筆を眺めているようだ。
もしかして…
「高松君…よね?」

私は思わず話しかけていた。青年は私の声に振り向く。やはり後ろ姿は高松君だった。
「あれ…また会いましたね、森川さん」
「ええ、偶然ね。そ、その格好じゃなかったら分からなかったわ」
私も高松君も言葉が見つからない。

16 ジープ  [id : FRQhTydL] [2017-01-14(土) 11:35:04] 削除依頼

「高松君はその鉛筆…またあの風景画?」
「まあちょっとした理由が…僕はたまたまここに来てて。あなたは?」
「スクリーントーンが足りないの。だから」
「大変ですね」
高松君はかすかに笑った。彼も私みたいに見習いとして色々苦労してるのだろうか。
「ちょっとした理由って…何?」
「はい?」高松君は店内を回り始めた。
「今言ったじゃないの。」
「ああ」少し考え、高松君が言った。
「僕、実は師匠の下で絵を描いていて」
シショー?何らかの得意分野で自分よりすごい先生…みたいなものだったはず。彼にとっては絵の先生って意味か。

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