Sarg〜ザルク〜

小説投稿投稿掲示板より。


1    薩摩  [id : xcz3KaF1] [2016-08-10(水) 13:33:46] 削除依頼

 あの日の決断が本当に正しかったのか、正解なんてあったのかなんて僕には分からないし、知りたいとも思わない。
 ただ、今を生きれればそれで充分に幸せなのである。
 今日も僕は、己れの罪を背負って生きている。

43 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 17:06:53] 削除依頼

 無言で着いて歩く。
「凄い鳥居の数だな」
 階段に一定間隔に設置されている鳥居を見て、僕は呟いた。
「これ、千本鳥居とかと違って奉納されたわけじゃないんだよ。元々、別の目的で造られたんだ。まあ、この轟神社も元々は別の目的で建てられたというし、そもそも厳密に言えば『神社』とは言えないんだけどね」
 樂學さんが言うには、この神社には五三本の鳥居があり、階段の手前に一つ、そして一段目から数えて五段ごとに一つで階段に三〇本、階段を上りきったところに一本、裏の方に二〇本あるそうだ。奥に行くにつれ段々暗い赤へと変色していくその鳥居の、あと一本の所在は知らないが、元々は百一本あったとか、なかったとか。
「なんで五三とか百一とかって中途半端なんだよ」
「さあ? 流石の僕もそれは知らないけど、歴史好きの友達でもいたら聞いたらどうかな」
 振り返らず、しかし首を傾げ、樂學さんは言った。
 ……今ほぼ直角だったんだけど、首の骨どうなっているんだろう──ん? そういえば、人形と言っていなかったか?
「あ──あの」
「ん? どうしたなっつん」
「…………!」
 首!
 首が!
 妙に首を傾けたまま、樂學さんが振り向く。まるでシャフ度だ。本当に出来る人初めて見た……。
 内心ビビりつつ、僕は喋った。
「ら、ららくがくさんは、いったい、な、なんにゃんだ?」
 盛大に噛んだ。というか、舌が縺れた。
 やべぇ、超恥ずかしい。
「にゃんだと言うと?」
 にやになしながら、樂學さんが聞いてきた。
 首の角度はそのままである。
「……樂學さんは、何者なんだ?」
「ふむ。何者か……どちらかというと何“物”かな? だから、僕は樂學小鳥の〈人形〉シリーズ第零巻目で──」
「もっと分かりやすく頼むよ。樂學小鳥とか、〈人形〉シリーズとか、正直言って僕には分からないもんだからさ」
「つまり、樂學小鳥という人が造ったお人形様の一つ目ということだよ」
 物、だ。
 ようするに、『ツクモガミ』というやつか。
「……と、着いた」
 残り一段を上って、樂學さんはちゃんと振り向いた。
 あの首の角度がおかしい人間離れした振り向きかたではなく、体全体で振り向いた。
 いや。
 どちらかというと、道を開けた感じだ。
「火車様のおとぉ~り~」
「やめて」
 僕はそんなお偉いさんじゃない。
「連れてきてくれて有難う」
 ふと、声が聞こえ、樂學さんから視線をズラした。
「案内完了」
 そう言う樂學さんの向こう側、そして鳥居の向こう側に、此処らでは見掛けない女性が立っていた。
「初めまして。私は祝言瑠璃だよ」
「は、初めまして。火車奈都です」

44 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 17:07:33] 削除依頼

 反射的に挨拶をし返したところで、僕は女性を観察する。
 歳は、二十代くらいか?
 男性警察官が被っていそうな瑠璃色の帽子に、瑠璃色のトレンチコートを着て、瑠璃色のズボンを穿き、瑠璃色のブーツを履いた、見事に瑠璃色尽くしの女性は、長い茶髪を下の方で二つに分け、そして眼鏡を掛けていた。
 立ち方がかっこ良く、体にぴったりのサイズの服だからスタイルも姿勢も良いのが丸分かりである。
「ふふっ。そう固くならなくても良いんだよ、奈都くん」
 人の良さそうな笑顔で、祝言さんが言った。
「樂學さんから聞いているだろうけど、私はこの地域の歪みを直しに来たんだ」
「あ、ごめんね、るりるん。それ言うの忘れた。かかっ」
「こらっ! ちゃんと説明しなさいって言ったでしょう!? まったく……これだから樂學一派とは仕事したくないのよ」
「僕もアヤカシモノの端くれだから出来れば祝言家の人とは仕事したくないよ」
「……祝言家はもう廃れているのだから、警戒する必要も無いのよ?」
「確かに祝言家はもう敵じゃないけど──」
「あ──あの!」
 完璧に忘れられている感じだったため、僕は声を張り上げた。
 二人が反応し、僕の方を見て気まずそうな顔をする。
 ……忘れられていたんだな、僕。
「あの、祝言さん、僕を待っていたって聞いたんですけど」
「ああ! そうだったそうだった。私は君に会いに来たのよ、奈都くん」
 ごほん、と咳払いをし、僕から視線を逸らして樂學さんを睨み付ける祝言さん。
「私の家……祝言家というのは、元々そういった化物たちの専門家でね、といっても必ずしも退治をするわけじゃなくて、それらが起こす歪みを直すのが専門だったの」
「歪み──ですか」
 ということは、僕が住むこの町に化物関連の歪みがある、ということなのかな。
「何故、そんなことに?」
「原因は、君よ」
「……え? 僕?」
「厳密に言えば、違うのかしら。與儀囮が復活してしまったのが大きな要因だし、彼が一番場を乱しているけど、君、というより、君のご主人様の方も乱しているかな」
 僕のご主人様?
 ご主人様とは一体──嗚呼。
 彼女か。
「幣姫、ですか?」
「そう。彼女」
 夢ではなかったか。
 まあ、そうだろう。
 いくら非現実的とはいえ、夢というにはあまりにも難しかった。

45 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 17:08:07] 削除依頼

「與儀囮が復活してしまった以上、彼女の役目はほぼ終わっているようなものだもの。だから歪みの要因にもなってしまうのよ。何よりいけないのは、彼女が君を眷属にして世に舞い戻らせたことかな。やれやれ、不安定な存在を現世に置いておくのは危険だというのに」
「ちょ、ちょっと待ってください。それって、僕にもう一度死ねってことですか?」
「ん? ああごめん。誤解させちゃったみたいね。大丈夫、君は死なせないよ」
 何がどのように大丈夫なのか、僕にはさっぱり分からないが、祝言さんは僕を安心させるかの様に(実際そうなのだろう)微笑んだ。
「幾らバランスをとって元に戻すためといえど、君のような子供を犠牲にするのは精神的にキツいのよ。第一、君は悪くない。君を元に戻したところで、與儀囮は復活してしまったのだから何もおこらないしね」
「安心しろよ、なっつん」
 と、此処で、今の今まであまり話さなかった樂學さんが間に入ってきた。
「僕たちは何もお前さんを退治しに来たんじゃない。お前さんの手助けをしに来たんだ」
「僕の、手助け?」
 僕がやろうとしていることの?
 そんな僕を疑問を汲み取ったのか、祝言さんが再び口を開いた。
「與儀囮は、私たちにとって災害ね。利害の利もなく、害があるだけ。だから、君に協力しようと思ったの。勿論、君にそれ相応の覚悟があるならの話だけど」
「僕がやろうとしていること、ちゃんと知っているんですね?」
 そういえば、樂學さんが最初に言っていたな。
 ──與儀囮と一戦交えるんだろ?──
 ──神に逆らってただで済むと思うなよ──
 つまり、僕が意識を失っていた二週間で、そこまで調べがついているということなのだ。
 そう考えると中々恐ろしいな、専門家って。
 行動力というか、情報力の塊なんじゃないのか?
「二週間、君の元に與儀囮が現れなかったのは恐らく、幣姫の眷属としての力だと思うよ。推測だけど、自分が動けないから家の周りに無意識に結界でも張っていたんじゃないかしら」
「そう、ですか」
「だがよなっつん、それはつまり、目を覚ました今日からは、與儀囮は襲撃出来るってことだぜ」
 ────!
 盲点どころか、考えもしなかった。
 二週間も耐えたならもう襲われないんじゃないかとか、與儀囮だって諦めたとか、勝手にそう思っていた。
「と、いうことは」
 恐る恐る、僕は聞いた。
「今日、僕は與儀囮と戦わなければいけないと、そういうことですか?」

46 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 17:08:39] 削除依頼

 僕の問いに、二人は黙りこんで暫く考えているようだった。
「そうなるけど、だがよ、今回すぐに退治しろだの封印しろだの言われても無理じゃないかな。なあ、るりるん」
 確認するように樂學さんが祝言さんを見れば、同意を示すかのように頷いて見せた。それを確認し、樂學さんは続ける。
「だからなっつんには悪いけど、今回は様子見で頼むよ」
「様子見!?」
 僕はそんな器用なことが出来る人ではないのだが、というかそもそもこの場合の意味がよく分からないのだが、様子見というのは、戦力とかを知るということなのだろうか?
「様子見をして、その後二日ぐらいでも良いから、與儀囮が来れないようにしてくれれば良いよ。というか、二日は欲しい。でなければ、お前さんに合った刀は造れない」
「お? 珍しいね、樂學一派が目を掛けるなんて」
「與儀囮の存在は樂學人形一同にとっても脅威だからね、出来れば此処で叩いておきたいもんさ。とはいえ、るりるん。そういうことだから、僕は急いで刀を拵えに行くから、後は頼むことにする」
「まぁ、私もそれを期待していたから異論は無いわ」
 二人で勝手に進め、話が纏まったのか樂學さんはからころと音を響かせながら走り去った。
 どうやら急用らしい。
 刀を拵えるとかなんとか言っていたが、それが関係あるのだろうか。
 ダメだ。
 複雑すぎて頭が回らなくなってきた。
 どうやらその業界は僕には向いていないらしい。
「ま、そういうことだから」
「どういうことですか」
 鳥居をくぐり、祝言さんが僕の方へと近付いて来た。そして、一メートルくらい手前で止まる。
「要するに、君は與儀囮に二日は無茶出来ない手傷を負わせる必要があるといつことだよ」
「無理です! 僕は普通の人間なんですよ!?」
「いや、残酷なことを言うようだけど、今の君は不死身だし、人間じゃないよ」

47 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:07:00] 削除依頼

 それは。
 それは確かに、残酷な言葉だった。
 しかし同時に真実でもあった。
 幣姫の眷属になった僕はもう、人間ではないのだった。
「…………」
「あっ……ごめん、奈都くん。心無いことを言ってしまったね」
「構いません、本当のことですから」
 衝撃を受けなかったわけではないが、くよくよしてはいられないだろう。
 本当のことなのだ。
 事実は事実として受け止めなければならない。
「強がらなくても良いんだよ、奈都くん。だけどまぁ、君が大丈夫だと言うなら気にしないでおくわ」
 いや、其処はちょっとぐらい気にして欲しいのだが。
「私が指導してあげるから、與儀囮に手傷を負わせましょう」
「……思ったんですけど、話し合いという手段はないのですか?」
「無いわ。彼は欲張りだし、自分がこうと言ったらこうだ! な人だもの」
 無いんだ……。
 どんだけ大人げない神様なんだよ、與儀囮様……。
「じゃ、じゃあ、何故、様子見なんてするんです? 回りくどいじゃないですか」
 此処での「じゃあ」というのは、別に「話し合いの通じない相手なのに」という意味合いで使ったのではなく、ただの繋ぐ言葉、つまり第二の質問のための前置きだったのだが、どうやら前者と解釈したらしく「様子見が別に意味ないってことじゃないわよ。幾ら話し合いが出来ないといってもね」と祝言さんは言った。
 なんか誤解されちゃったかな。
 まあいいや。
 誤解を解くのにも手間が掛かるものだし。
「ぶっちゃけ、不死身なんだよね、彼」
「…………え?」
 軽く爆弾発言だった。
 いや、相手が神様だっていう時点で既に心は決めていたが、それでも、死ににくいのではなく不死身だと聞いてしまうと勝ち目がない気しかしない。

48 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:07:45] 削除依頼

 それは。
 それは確かに、残酷な言葉だった。
 しかし同時に真実でもあった。
 幣姫の眷属になった僕はもう、人間ではないのだった。
「…………」
「あっ……ごめん、奈都くん。心無いことを言ってしまったね」
「構いません、本当のことですから」
 衝撃を受けなかったわけではないが、くよくよしてはいられないだろう。
 本当のことなのだ。
 事実は事実として受け止めなければならない。
「強がらなくても良いんだよ、奈都くん。だけどまぁ、君が大丈夫だと言うなら気にしないでおくわ」
 いや、其処はちょっとぐらい気にして欲しいのだが。
「私が指導してあげるから、與儀囮に手傷を負わせましょう」
「……思ったんですけど、話し合いという手段はないのですか?」
「無いわ。彼は欲張りだし、自分がこうと言ったらこうだ! な人だもの」
 無いんだ……。
 どんだけ大人げない神様なんだよ、與儀囮様……。
「じゃ、じゃあ、何故、様子見なんてするんです? 回りくどいじゃないですか」
 此処での「じゃあ」というのは、別に「話し合いの通じない相手なのに」という意味合いで使ったのではなく、ただの繋ぐ言葉、つまり第二の質問のための前置きだったのだが、どうやら前者と解釈したらしく「様子見が別に意味ないってことじゃないわよ。幾ら話し合いが出来ないといってもね」と祝言さんは言った。
 なんか誤解されちゃったかな。
 まあいいや。
 誤解を解くのにも手間が掛かるものだし。
「ぶっちゃけ、不死身なんだよね、彼」
「…………え?」
 軽く爆弾発言だった。
 いや、相手が神様だっていう時点で既に心は決めていたが、それでも、死ににくいのではなく不死身だと聞いてしまうと勝ち目がない気しかしない。

49 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:38:41] 削除依頼

やっちまった……
二回送信してしまった
48はミスです

50 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:39:40] 削除依頼

 ていうか、本当に勝ち目がないんじゃないか?
「しかし、與儀囮は死なないけど、回復が遅いという弱点がある。だけど厄介なことに、與儀囮は復活ごとに強くなっていく」
「ちょっ……それって」
「慌てないで。封印が解けたばかりの與儀囮は赤子のようなものよ──勿論、だからといって並大抵のアヤカシモノが倒せるわけじゃないわ。だけど、君なら、幣姫の眷属である君なら、二日くらいの重傷を負わせることは可能な筈」
 筈、ということは、憶測だろう。
「それなりの手順を踏まなければ、あの紛い物を神の座から墜とすことはできないわ。だから、取り敢えずぶちのめすだけで良いの」
「……今さらな話をしますが、此処、神域ですよね?」
「今此処は機能していないから心配しなくて良いわ。お社を吹き飛ばしても、神様からのお咎めは無しよ」
 やってみる? と祝言さん。
 いや、やってみる? じゃないから。大問題だから。罰当たりすぎて試してみる気もおこらないよ。
 そんなことを思ったが、此処はマイルドに、「いえ、遠慮しておきます」と答えておいた。
 気になりますなんて答えたら微笑みながら本殿をぶっ壊しそうだからこの人。
 怒らすと恐そうだ。
 ……やべぇ、ちょっと気になる。
「できる?」
「無理です」
 僕は即答した。
 だって、考えてもみろよ!
 幾ら幣姫の眷属だといったって、正直言って実感湧かないし、幣姫ってどれくらい強いのかも分からないし、そもそも幣姫はどんな存在なのかも分かっていない僕である。
 向いてる、向いていないどころじゃない。
 専門云々じゃない。
 これは、基礎から聞かなきゃダメである。

51 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:40:41] 削除依頼

 僕の返事を受けて、祝言さんは困ったように眉を下げる。
「無理なことはないよ。君ならきっと出来る」
「その根拠を教えて貰いたいものです」
「ん~、勘?」
「勘!?」
 勘だって!?
 いや、待てよ? 専門家のなんだから、化物を見る目はそれなりにある筈だ信じて良いのかな……自分で傷を広げておいてなんだが、化物って結構凹むな。
「まぁ……どうかな? いや、お願いするよ奈都くん。流石に人間である私には太刀打ち出来ないものなのよ」
「それは、呪いが怖いとかという理由ですか?」
「まさか。奈都くん、意外とひねくれているんだねぇ。私じゃ太刀打ち出来ないっていうのは単に、力の上下関係だよ。“人間”は“神様”には敵わないからね」
「…………」
 そういう祝言さんこそ、割りと意地悪な性格をしていると思う。
 無意識なのだろうか。
「ね? どうせ君は立ち向かうつもりだったんでしょ? それをお手伝いしてあげるってことだよ」
「出来る限りのことはしますけど、保証は出来ませんよ」
 仕方なくそう答えると、祝言さんは「有難う奈都くん。何か化物関連で困ったことがあったらいつでも言ってね、力になるから」と言い、僕の横を通り過ぎた。
「うまくいったら……明後日の夜、此方に来てね。次のミーティングをするから」
 そう言って、階段を下りていく祝言さんを見送り、僕は鳥居をくぐる。
「幣姫」
「何じゃ、気付いておったのか」
 賽銭箱の側面がぱかりと開き、幣姫が出てきた。
 ……流石にそんなところに入っているとは予想していなかった。
「んぅ~。やはり良いのう、外の空気は」
 窮屈だったのか、小さく伸びをする幣姫。
「…………」
「そんな顔をするでない、うぬの良い顔が台無しじゃよ」
 残念ながら、僕は格好いい顔ではない。
 面食いから一番に省かれるタイプである。
「まぁ、うぬが来た理由は概ね予想がついておる。確認をしたかったのじゃろう? この妾の眷属になったということをな」
「そうだ」
「元人間であるうぬには、化物呼ばわりされるのは少しキツいじゃろうな。じゃが、良いものじゃぞ、不死身の体というのは」
 幣姫には分からないだろう。
 少しどころじゃなく、想像以上に精神的に来るものだし、一周回って麻痺してきたぐらいだ。
 だが、此処でそんな議論をするつもりはない。
「僕は、與儀囮に勝てるかな?」
「勝てる。少なくとも、今夜来るであろう與儀囮には間違いなくな」
 自信満々に、幣姫は言った。
「自信を持て。大丈夫じゃようぬなら──む。そうじゃ、そろそろ名前を与えんといけぬな。いい加減うぬとだけ呼ぶのも呼びづらい」
 名前、というのは対して重要な気もしないし、第一僕には「火車奈都」という立派な名前があるのだが、まぁ名乗らなければ良いだけだしと考え、幣姫の好きにさせておく。
「大体のう、うぬ。人間の名を捨てる必要はないのじゃ。じゃが、名前とは大切なものじゃからの。縛られたり呪われたり憑かれたりするものじゃから、本名を教えてはいけない。妾はうぬに妖名をつけるが、名乗らなくても良い。大体の魑魅魍魎はうぬより弱いからの、じゃが、與儀囮には絶対に本名を名乗るなよ」
 考えているのか、僕に名前について話しているのか曖昧な感じだったが、ちゃんと考えていたらしくやがて、「よし、決まったぞ」と幣姫は可愛らしい笑顔で僕を見た。
「うぬの妖名はの──」

52 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 18:41:24] 削除依頼

04が終わったので少し人物紹介。
 
・樂學颯馬 らくがく/さつま
 樂學小鳥の〈人形〉シリーズ第零巻、通称〈案内憑喪人形〉。
 僕っ子。
・祝言瑠璃 ほぎごと/るり
 祝言家のはぐれもの。化物の専門家。
 駅長さんのような軍人のような格好をしたスタイルと姿勢の良いおねーさん。

 祝言さんは、るりるん様の名前をお借りして、創作しました。るりるん様、御協力有難う御座いました。

53 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 19:19:04] 削除依頼

05...
 深夜。
 僕は家の門の前に立っていた。
「……来たか」
 威圧感、と言えば良いのだろうか。
 具体的にどこから来るとか、どこに居るとかそういうのは全く分からないが、重くのし掛かるような感覚がある。
 平伏しそうだ。
 これが──神様の気配。
 家の門の前に陣取って出迎えている僕だが、與儀囮が裏から侵入してくるといったパターンを考慮していないわけではない。寧ろ、それは最初に考えた。
 しかしながら、神様というのはそこらへんの礼儀は弁えているというか、“招かれなければ”、もしくは“正面からしか”這入らないものだという。
 礼儀というより、堂々としているのだ。
 裏などから塀を越えるなりなんなりして侵入するといった、己の価値を下げるような行為は、ああいった高貴な存在はしないものである。
 それが與儀囮のような紛い物の神様なら尚更だ。
 紛い物だから──偽物だから、どこまでも本物であろうとする。
 偽物であることを悟られないために、より高貴な存在であるために、本物を模倣する。
 と、いうのが幣姫の見解だったため、こうして門の前で待ち伏せをしているのだが、やはりそれは正解だったようだ。
「ふ──ふははははははははは」
 高笑いをしながら、首の無い馬に乗った長髪の男性が、姿を現した。
「…………」
 首の無い馬自体は“今までに何度も見たことがあるので”何とも思わなかったが、僕は、“與儀囮がそれに乗って来たことに”違和感を覚えた。
 あれは、神様が乗る馬ではない。
 何か別な妖怪が乗る馬だ。
「我輩の通り路に見張りを立てるとは……笑わせる」
 見るからに美しい男性だった。漂う気品が、それとなく生まれの良さを感じさせる。
「お前が、與儀囮か」
「ふははは、そうだ。我輩が神の與儀囮だ。貴様のような下等生物が、簡単に口をきくことのできぬ存在だ」
 下等、生物か。
 與儀囮から見れば確かにそうなのだろう。
 しかしまぁ、神様を意識した物言いというか、振舞いが、如何にも如何物らしいといえる。

54 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-16(月) 19:47:41] 削除依頼

~幕間~
文章らしい文章が書けないことに嫌気がさします。
誤字脱字は気にせずにお進みください。
あと、小説に出たいお方がいらっしゃいましたら声を掛けてくださいね

55 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:49:34] 削除依頼

 與儀囮は馬から下りず、まるで値踏みするような目で僕を見た。
「ふん。所詮はただの餓鬼か。こんなのを代わりにするとは、堕ちたものだな、火車家も。だが、悪くはない」
 ……え?
 何で、知っている?
 一々表札を見るタイプには見えないのだが。
「……用件を聞こうか」
 僕は動揺を隠して言った。
 與儀囮を睨み付け、警戒心を丸出しにして、言った。
「用件? 引き取りに来たに決まっているだろう」
「何を」
「魂をだ。我輩の石を抜いた者のな」
 與儀囮の石というのは元々、與儀囮を封印するために作られたものだと先程幣姫が教えてくれた。
 だが、少し待ってくれ。
 そしたら、色々矛盾がないか?
 あの白い生物は與儀囮の手下ではないのか?
 じゃないのなら、どうして奴らは與儀囮を敬称で呼んでいた?
 何故、封印を解かれた與儀囮が成実を襲いにくる?
 “どうして僕は”與儀囮に捧げられた?
「……もう一つ聞かせてくれ」
「許可する」
「お前が宅回りをするのは、“此処で何軒目だ”?」
「はて、何のことだか。幣姫の白神子共から聞いておるぞ? 『石を抜いた美しき火車の猫を捧げるから、人間に害を与えるな』とな」
 ──それ、僕のことじゃん!!
 いや、僕は美しくもなんともないしそもそも猫ではないのだが(人間です)、身代わりとしてどころか、御機嫌取りとして捧げられたようなものである。
 でもまあ、それなら僕だけで済む話なのかな?
「だが、待てども待てども一向に来ないのでな。その周りの者も含め、引き取りに来た次第だ」
 甘かった。
 確かに、あの日から二週間も経った現在。今更與儀囮の物になるにしても遅すぎるか。
「……僕だけで勘弁してくれと言ったら?」
「それは冗談か? 長い間待たせておいて今更一人だけとは、おかしくないか?」
 ダメ元だったが、やはり駄目らしい。
 ダメ元だったから、誠意がこもっていなかったのかもしれない。
 聞いた話だと、話し合いが出来る相手ではないらしいし、強制的にお帰り頂くしかないのか。
「與儀囮、場所を変えないか?」
「何故場所を変えなければならない? 我輩は此処を通りたい、貴様は此処を護りたいのだろう? ならばわざわざ移動する必要もあるまい」

56 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:51:04] 削除依頼

 ……確かにそうだが。
 僕は自宅の損傷の心配をしたのであり、単なる場所変えではないのだが、與儀囮にその概念はないらしい。
 なんだろう。
 障害物があったら踏み潰して進むタイプな気がする。まるで歩く災害だ。
 というか、僕が此処を護るために立っているの知っているのか。
 いや、無意識結界説が正しいのだとすれば、結界が消えた場所で人が待ち伏せしていたら察するものか。
「最後のチャンスだ、與儀囮」
「ん?」
「諦めてくれないか?」
「無理な話だ。折角すぐ其処まで来ているというのに、逃す奴が何処にいる? 貴様こそ、踏み潰されたいのか? 踏み潰されたくなければ、其処を退け」
「断る」
 ゴングは鳴らなかったが、試合は始まった。
 何故そんなことが言えるのかといえば、僕が断った直後、右腕が右肩から吹き飛んだからである。
「ぎっ!?」
 血が噴き出す。
 僕は呻くものの、反射的に堪える。
 そう、“反射的”に。
 “泣いたら殺される”、“喚いたら殺される”、“声を出したら殺される”、“こんなときは”、“黙っていれば治まるんだから”。
 “それに”、“今までに比べて“、”まだマシな方なんだから”。
 “四肢を切り取られる以上の痛みを”──“僕は知っている”。
「ふははははははは。たかが人間が我輩に勝てるわけなかろうが」
 いや、吹き飛んだというのは語弊があった。正しくは“切り取られた”のだ。
 刀を構えた與儀囮が、高笑いをする。
 今の太刀筋、見えなかったんだが。
 どう攻略しよう。
「ふむ。何故声を上げない?」
「ぐっ……うぅ!」
 次は足だった。
 膝から下、またしても一瞬のことだった。
 一瞬の方が助かる。
 もぎ取るなんて方法だったり、そもそも時間のかかる方法を使われたら、取れるまでの痛みで失神しかねない。
 “だから”、“これでいい”。
 “こっちの方が良いんだ”。 與儀囮は馬から下りず、まるで値踏みするような目で僕を見た。
「ふん。所詮はただの餓鬼か。こんなのを代わりにするとは、堕ちたものだな、火車家も。だが、悪くはない」
 ……え?
 何で、知っている?
 一々表札を見るタイプには見えないのだが。
「……用件を聞こうか」
 僕は動揺を隠して言った。
 與儀囮を睨み付け、警戒心を丸出しにして、言った。
「用件? 引き取りに来たに決まっているだろう」
「何を」
「魂をだ。我輩の石を抜いた者のな」
 與儀囮の石というのは元々、與儀囮を封印するために作られたものだと先程幣姫が教えてくれた。
 だが、少し待ってくれ。
 そしたら、色々矛盾がないか?
 あの白い生物は與儀囮の手下ではないのか?
 じゃないのなら、どうして奴らは與儀囮を敬称で呼んでいた?
 何故、封印を解かれた與儀囮が成実を襲いにくる?
 “どうして僕は”與儀囮に捧げられた?
「……もう一つ聞かせてくれ」
「許可する」
「お前が宅回りをするのは、“此処で何軒目だ”?」
「はて、何のことだか。幣姫の白神子共から聞いておるぞ? 『石を抜いた美しき火車の猫を捧げるから、人間に害を与えるな』とな」
 ──それ、僕のことじゃん!!
 いや、僕は美しくもなんともないしそもそも猫ではないのだが(人間です)、身代わりとしてどころか、御機嫌取りとして捧げられたようなものである。
 でもまあ、それなら僕だけで済む話なのかな?
「だが、待てども待てども一向に来ないのでな。その周りの者も含め、引き取りに来た次第だ」
 甘かった。
 確かに、あの日から二週間も経った現在。今更與儀囮の物になるにしても遅すぎるか。
「……僕だけで勘弁してくれと言ったら?」
「それは冗談か? 長い間待たせておいて今更一人だけとは、おかしくないか?」
 ダメ元だったが、やはり駄目らしい。
 ダメ元だったから、誠意がこもっていなかったのかもしれない。
 聞いた話だと、話し合いが出来る相手ではないらしいし、強制的にお帰り頂くしかないのか。
「與儀囮、場所を変えないか?」
「何故場所を変えなければならない? 我輩は此処を通りたい、貴様は此処を護りたいのだろう? ならばわざわざ移動する必要もあるまい」

57 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:51:37] 削除依頼

 ……確かにそうだが。
 僕は自宅の損傷の心配をしたのであり、単なる場所変えではないのだが、與儀囮にその概念はないらしい。
 なんだろう。
 障害物があったら踏み潰して進むタイプな気がする。まるで歩く災害だ。
 というか、僕が此処を護るために立っているの知っているのか。
 いや、無意識結界説が正しいのだとすれば、結界が消えた場所で人が待ち伏せしていたら察するものか。
「最後のチャンスだ、與儀囮」
「ん?」
「諦めてくれないか?」
「無理な話だ。折角すぐ其処まで来ているというのに、逃す奴が何処にいる? 貴様こそ、踏み潰されたいのか? 踏み潰されたくなければ、其処を退け」
「断る」
 ゴングは鳴らなかったが、試合は始まった。
 何故そんなことが言えるのかといえば、僕が断った直後、右腕が右肩から吹き飛んだからである。
「ぎっ!?」
 血が噴き出す。
 僕は呻くものの、反射的に堪える。
 そう、“反射的”に。
 “泣いたら殺される”、“喚いたら殺される”、“声を出したら殺される”、“こんなときは”、“黙っていれば治まるんだから”。
 “それに”、“今までに比べて“、”まだマシな方なんだから”。
 “四肢を切り取られる以上の痛みを”──“僕は知っている”。
「ふははははははは。たかが人間が我輩に勝てるわけなかろうが」
 いや、吹き飛んだというのは語弊があった。正しくは“切り取られた”のだ。
 刀を構えた與儀囮が、高笑いをする。
 今の太刀筋、見えなかったんだが。
 どう攻略しよう。
「ふむ。何故声を上げない?」
「ぐっ……うぅ!」
 次は足だった。
 膝から下、またしても一瞬のことだった。
 一瞬の方が助かる。
 もぎ取るなんて方法だったり、そもそも時間のかかる方法を使われたら、取れるまでの痛みで失神しかねない。
 “だから”、“これでいい”。
 “こっちの方が良いんだ”。 與儀囮は馬から下りず、まるで値踏みするような目で僕を見た。
「ふん。所詮はただの餓鬼か。こんなのを代わりにするとは、堕ちたものだな、火車家も。だが、悪くはない」
 ……え?
 何で、知っている?
 一々表札を見るタイプには見えないのだが。
「……用件を聞こうか」
 僕は動揺を隠して言った。
 與儀囮を睨み付け、警戒心を丸出しにして、言った。
「用件? 引き取りに来たに決まっているだろう」
「何を」
「魂をだ。我輩の石を抜いた者のな」
 與儀囮の石というのは元々、與儀囮を封印するために作られたものだと先程幣姫が教えてくれた。
 だが、少し待ってくれ。
 そしたら、色々矛盾がないか?
 あの白い生物は與儀囮の手下ではないのか?
 じゃないのなら、どうして奴らは與儀囮を敬称で呼んでいた?
 何故、封印を解かれた與儀囮が成実を襲いにくる?
 “どうして僕は”與儀囮に捧げられた?
「……もう一つ聞かせてくれ」
「許可する」
「お前が宅回りをするのは、“此処で何軒目だ”?」
「はて、何のことだか。幣姫の白神子共から聞いておるぞ? 『石を抜いた美しき火車の猫を捧げるから、人間に害を与えるな』とな」
 ──それ、僕のことじゃん!!
 いや、僕は美しくもなんともないしそもそも猫ではないのだが(人間です)、身代わりとしてどころか、御機嫌取りとして捧げられたようなものである。
 でもまあ、それなら僕だけで済む話なのかな?
「だが、待てども待てども一向に来ないのでな。その周りの者も含め、引き取りに来た次第だ」
 甘かった。
 確かに、あの日から二週間も経った現在。今更與儀囮の物になるにしても遅すぎるか。
「……僕だけで勘弁してくれと言ったら?」
「それは冗談か? 長い間待たせておいて今更一人だけとは、おかしくないか?」
 ダメ元だったが、やはり駄目らしい。
 ダメ元だったから、誠意がこもっていなかったのかもしれない。
 聞いた話だと、話し合いが出来る相手ではないらしいし、強制的にお帰り頂くしかないのか。
「與儀囮、場所を変えないか?」
「何故場所を変えなければならない? 我輩は此処を通りたい、貴様は此処を護りたいのだろう? ならばわざわざ移動する必要もあるまい」

58 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:57:02] 削除依頼

~幕間~
ぎゃあああ!ミスしたあああ!
ということで、56と57はミスです。うわぁめっちゃ恥ずかしい

59 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:58:00] 削除依頼

というわけで再度投稿しなおします

60 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:58:28] 削除依頼

 ……確かにそうだが。
 僕は自宅の損傷の心配をしたのであり、単なる場所変えではないのだが、與儀囮にその概念はないらしい。
 なんだろう。
 障害物があったら踏み潰して進むタイプな気がする。まるで歩く災害だ。
 というか、僕が此処を護るために立っているの知っているのか。
 いや、無意識結界説が正しいのだとすれば、結界が消えた場所で人が待ち伏せしていたら察するものか。
「最後のチャンスだ、與儀囮」
「ん?」
「諦めてくれないか?」
「無理な話だ。折角すぐ其処まで来ているというのに、逃す奴が何処にいる? 貴様こそ、踏み潰されたいのか? 踏み潰されたくなければ、其処を退け」
「断る」
 ゴングは鳴らなかったが、試合は始まった。
 何故そんなことが言えるのかといえば、僕が断った直後、右腕が右肩から吹き飛んだからである。
「ぎっ!?」
 血が噴き出す。
 僕は呻くものの、反射的に堪える。
 そう、“反射的”に。
 “泣いたら殺される”、“喚いたら殺される”、“声を出したら殺される”、“こんなときは”、“黙っていれば治まるんだから”。
 “それに”、“今までに比べて“、”まだマシな方なんだから”。
 “四肢を切り取られる以上の痛みを”──“僕は知っている”。
「ふははははははは。たかが人間が我輩に勝てるわけなかろうが」
 いや、吹き飛んだというのは語弊があった。正しくは“切り取られた”のだ。
 刀を構えた與儀囮が、高笑いをする。
 今の太刀筋、見えなかったんだが。
 どう攻略しよう。
「ふむ。何故声を上げない?」
「ぐっ……うぅ!」
 次は足だった。
 膝から下、またしても一瞬のことだった。
 一瞬の方が助かる。
 もぎ取るなんて方法だったり、そもそも時間のかかる方法を使われたら、取れるまでの痛みで失神しかねない。
 “だから”、“これでいい”。
 “こっちの方が良いんだ”。

61 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 10:59:04] 削除依頼

 強がりでもなんでもなく。
 失血死寸前まで切り付けられたことも、首や背、頭蓋以外の骨という骨を折られたことも、顔以外を変色するまで殴られたことも、家の二階から投げ落とされたこともある僕だからこそ、この痛みでも堪えられると言っていい。
 その免疫が無ければ絶叫して地面をゴロゴロと転がっているところだ。
 いや、そもそも足を切り取られた時点でべちゃりと地面に伏してしまうものなのだけれど。
「う──うぅ」
 詳しい描写は避けるが、地面に伏す頃には僕の腕は再生していた。
 生えたのとは少し違うが。
 ちなみに、切り取られた方の腕は炎に包まれドロドロになって消えていった。
「……貴様、もしや、不死身か何かか?」
 流石というべきだろうか。
 紛い物とはいえ神様であり、それなりに長く生きていて、自らも不死身である與儀囮は、これだけでつい最近追加された僕の特性を見破った。
「参ったな……」
 與儀囮が呟く。流石の彼でも不死身の存在には手を焼くのか、と考えたのだが。
「相手が不死身となると……うむ。殺り過ぎないよう気を付けなければ」
「…………ッ!!」
 寒気がした。
 殺り過ぎないように、だって?
 それって、僕を殺すことを前提としていないか?
 まぁ、それも無理のない話なのか。
 何せ僕は彼の前に立ちはだかった障害物なのだ。先刻、彼を障害物があったら踏み潰して進むタイプだろうと評したものだが、それも強ち外れていないのかもしれない。
「…………っと」
 足も元に戻った。
 痛みも引いた。
 あとは、どうやって與儀囮をぶちのめすかだ。
 見たところ、馬上と地上だし、あの刀の軌道が読めない以上どうにもならないといってしまえばそれまでだが、此処は何度殺されようと通すわけにはいかない。
 僕の大切な家族には、手を出させるわけにはいかないんだ。
「削り殺しにしてやろう。なあに、我輩に道を譲れば見逃してやる」
 案が決まったのか、其処からは中々地獄だった。
 僕はあまり喧嘩をしたことがないし、相手は刃物を持っているのだ。拳と刃物じゃ話にならない。拳が刃物に勝てるのはジャンケンぐらいである。

62 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:01:53] 削除依頼

 飛び掛かり、斬られ、千切られ、再生し、の繰り返し。
 勿論、考えなしに飛び掛かっているわけでもなく、授業でやった程度の武道を片っ端から試している状態なのだが、刃物、もとい日本刀なんて立派な代物に勝てる筈もなく。
「そこまでして、この家の者を護りたいのか?」
 心底不思議そうな顔をして、與儀囮が僕に問うた。
「当たり前だ! 彼らは僕の大切な人なんだ!」
「人間に混じった化物の癖に、か?」
「────ッ!!」
 化物、とは僕のことだろう。
 不死身の存在を生物と言ってもいいのか微妙だし、そもそも僕自身が生物とは認めていないが、だが、與儀囮はそれを指して化物と呼んでいるわけではなさそうだった。
 與儀囮が指しているのは恐らくもっと深い問題だ。
「さぞ迫害されただろうなあ? まさか自身から産まれた我が子が化物だとは、思いたくないもんだしなあ? なあ、貴様よ」
 嘲るような笑みを浮かべ、與儀囮は言う。
 ……何だ、コイツ。
 僕の何かを知っている?
 僕でも知らない僕のことを、與儀囮は、知っている?
「なあ、貴様。貴様は、忌み嫌われているのだろう? あろうことか、母にな。何度か殺され掛けただろう?」
「な──何で、僕の家庭事情を……?」
「封印されていたとはいえ、神様だからな。それに、どういうわけか、この地方の地主たる火車家のことは良く分かってしまう──まあ、流石に名前とかは分かることは出来ないがな。残念だ」
 ──名前とは大切なものじゃからの ──
 ──縛られたり呪われたり憑かれたりするものじゃ から、本名を教えてはいけない──
 幣姫の言葉だが、それはつまり。
 本名を握られることによって、言いなりになる、ということか?
 姓名併せて本名とするのなら、弾みで名乗っていなくて正解だった。
「そうだな……なあ、貴様。我輩にこの家の者をどうにかして欲しいとは願わないか? あまりにも貴様が憐れなんでな、貴様が望むなら消し去ってやっても構わないが」
 與儀囮の言葉は。
 魅力的でもなんでもなく、強いて言えば僕の地雷だった。
 だから僕は覚悟を決め、予め用意していた小刀で自らの心臓を貫いた。
「…………かはっ」
 その場に倒れる。
 ドクン、ドクンと脈打つ体。
「ふははははははははははははっ! 我輩には勝てぬと悟ったか? それとも、奴らに同情か? 愚かな奴め!」
 與儀囮が高笑いをしているのが分かる。
 体が縮むのが分かる。
 ふと、自分の髪が伸びていくのが視界に入る。先に行くにつれ橙や白へと変わり、まるで炎のようだ。
 ああ、炎といえば。
 炎を纏っているのに、不思議と熱くない。
 そして。
「ぅぅぅぅううにゃあああああああああああああっ!」
 そして、〈俺〉は『にゃ』いた。

63 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:02:32] 削除依頼

05が終わったので少し人物紹介

與儀囮 よぎか
・自称、神様。
・他称、紛い物。
・黒髪長髪の美男。袴姿で首の無い馬に乗っている。
 
如何物とは、偽物のことである。

64 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:04:06] 削除依頼

06...
「!?」
 與儀囮が目を見開く。その目の前で、俺は器用に宙返りをして塀に飛び乗り体勢を整えた。
「何だ、貴様……」
「幣姫の眷属、火車灯継だにゃあ」
 火車の灯継──火車の棺。
 言葉遊びにも程があるが、折角幣姫の考えてくれた『にゃ』まえだ。
 ……たくもう。
「本当は出てくるつもりにゃんて『にゃ』かったんだけどにゃあ? この姿を晒すのはあまりにも可哀想だからにゃあ」
 この姿。
 すぐそこに設置されているカーブミラーを見れば、それには俺が言うところの『この姿』で俺が映っているわけだが、やはりこの姿を晒すのはあまりにも可哀想だにゃ。
 先に行くにつれ、橙ににゃり白ににゃる、炎のように揺らめく『にゃ』がい黒髪は属に言うポニーテールで、車輪を象った髪留めが印象的だ。また、その頭からは黒い猫耳と、額からは角が生えており、露出度の高い和装から覗く白い肌や手足に、黒くて『にゃ』がい尻尾。両肘にも車輪を象った飾りが付いているが、これは武器か『にゃ』にかだろうか。
 これだけでは、可哀想だとは思わにゃいが、この姿の最大にして最悪の特徴は、小さなおん『にゃ』の子ににゃることだった。
 身長110センチぐらいのよーじょ。
 見れば見る程可哀想だにゃ……。
 そもそも、火車のにゃりたちがよくにゃい。
 火車──カシャ、と読むソイツは葬式の時や墓場から、生前に悪いことをした人間の死体を奪う、かっ拐う妖怪にゃのだが、その姿は鬼だと言われたり、おん『にゃ』だと言われたり、正体は猫だと言われたりしている。まあ、いずれにせよ火を纏った車にゃり炎を纏うにゃりと其処は共通しているわけだが、つまり、男の姿の入る余地が『にゃ』いのだ。
 かといって、俺が純粋にゃ火車にゃのかと言うと決してそんにゃことはにゃく、『にゃ』まえというか、名字に引っ張られただけだし、もう代が続くことによって色々混ざった所謂ハイブリット妖怪にゃのだ。
 凄いだろう、えっへん。

65 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:06:03] 削除依頼

 あと一つ言ってしまうと、俺が『火車奈都』(おおっ! 言えたにゃ!)とは別人の別物にゃのかと言えばそういうことでもにゃく、時代というか精神年齢にゃるものが違うが彼の一部にゃのである。
 言うにゃれば、一三年前の彼だにゃ。
 一三年前の、まだ幸せだった頃の彼だにゃ。
 今の、ちょっと頭がオカしい幸せの彼ではにゃく、その彼にパージされた“本当に”幸せだった頃の、彼だにゃ。
 え? 彼は一三年前のは『にゃ』しをしていにゃいのか? じゃあ俺も黙るべきだにゃ。
 忘れられちゃったのはか『にゃ』しいけれど、俺が消えるわけじゃにゃいからにゃ。
 とはいえ。
 閑話休題。だにゃ。
「おとにゃしく帰るんだにゃ」
「……何だ、火車か」
「ベースはにゃ」
 色々混ざっていることは教えてやらにゃい。
 教えたって現状は変わらにゃいし、教えることで不利ににゃるかもしれにゃいからにゃ。
「ふははははははっ! たかが猫が! 我輩に勝てると思っているのか!? 馬鹿にするな!」
 笑いにゃがら怒って来た。器用にゃやつだにゃ……呆れるぜ。
 さっさとやっちまおう。
「…………ぐにゃあ!?」
 斬られはしにゃかったが、俺は地面に叩き付けられた。
 うむ、ちょっとにゃめていた様だ。
 だけど、今のでちゃんと日本刀は見えた。目で追えにゃいスピードではにゃい。
 そして恐らく、與儀囮が視認できるスピードは、自らが日本刀を振れる速さまでだにゃ。
「うにゃっ」
 俺は、與儀囮から左腕の肘から先を奪った。
「ぐっ…………!」
 與儀囮が呻く。
「そういや、回復遅いんだっけ」
 祝言さんがそう言っていた。
 どうりで。迸る血がおさまる気配がにゃい。
 その血も飾りの一種で、失血死という概念はにゃいのだろうが、それでも動脈を中心に噛みきってしまった方が良いだろうか?
 それとも、地獄の炎で焼くべきか?

66 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:07:39] 削除依頼

「おのれぇ……!」
 と。
 地を這うようにゃその声に、俺は反射的にその場から飛び退いた。
 それはどうやら正解だったようで、日本刀が目の前のアスファルトに突き刺さる。
「名刀、水断…………!」
 危にゃい危にゃい、深手を追うところだったにゃ。
 ミズタチは、水“が”断てるという意味ではにゃく水“で”断つということにゃので火を纏う俺らにとってはにゃかにゃか厄介にゃ業物だ。
「おのれぇ! たかが猫がぁ! この我輩に! 何をしたぁ!?」
「あーあ。憐れだにゃあ」
 こんにゃ我儘にゃ奴を相手しにゃいといけにゃいと思うと、本当に嫌気が差す。
「そんにゃ性格だから猫に足元掬われるんだにゃ」
 本当は此処で仕留めたいところだが、神様を仕留めるのにもそれにゃりの手順を踏む必要があるし、約束もしてしまったので痛め付ける程度で済ませにゃければにゃらにゃい。
 憂鬱だにゃあ。
 それに。
 幾ら紛い物だといえど、神様を殺すのは大罪にゃのだ。
「ふっ…………」
 振り降ろされた刃を横に転がって回避する。
「とはいえ、さっきはやられっぱにゃしだったからにゃあ」
 反撃開始、だにゃん。
「ぐああああああああああああっ」
 元々、Sっ気はある方ではにゃいのだが。
 千切らず、噛みきらず、絶妙な力加減で、與儀囮の右腕を関節で捻る。
 右脚も捻る。
 ついでに左脚も捻る。
「あっ……ああっ」
 叫ぶのに疲れたのか、與儀囮は四肢を痙攣させにゃがら呻く。
 これぞ──削り殺し。
「ぷっちん」
 軽快にそう言って、俺は捻れた脚を捻り切った。

67 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:09:01] 削除依頼

 絶叫。
 元々千切れる限界まで捻っていたものだから、いとも容易く千切れる。
 至近距離で與儀囮の鮮血を浴びにゃがら、俺は與儀囮に言った。
「俺の痛みは、こんにゃものじゃにゃかったにゃ」
「ぐうぅ……う…………」
「自分で戦うつもりだったのに、痛いところ突かれて、追い詰められて、俺にこの場を任せた〈僕〉の痛みにゃんて──傷みにゃんて、それを気にしにゃくにゃってしまう程にゃ」
 だからと言って、俺に任せるのは間違っているけど。
 だけど。
 そろそろ彼も、常識を知り、現実と向き合わにゃきゃにゃらにゃい。
 これが、火車家の普通だと言い訳して逃げて来た現実にちゃんと目を向けて、受け止めにゃきゃにゃらにゃい。
 見るからに與儀囮は瀕死だが、万一という時もあるし取り敢えず四肢は奪っておくかにゃ。
「さて次はどこの部位を」
「火車くん」
 声が聞こえ、俺はそこを見た。
 瑠璃色一色の格好。
 『にゃ』がい茶髪を下の方で二つ結び。
 眼鏡を掛け、俺に厳しい視線を送って来ている。
「止めなさい」
「ほ──祝言、さん」
 祝言瑠璃。
 歪み『にゃ』おしの専門家。
 妖怪退治の専門家。
「止めてあげなさい」
 俺は、與儀囮の右腕に伸ばしていた手を引っ込めた。
「お……おのれ、覚えておれ」
 息も絶え絶えに與儀囮がそう言って、首のにゃい馬が主を乗せて走り去る。
「にゃんで、止めた?」
「あのままだったら不完全なままに殺してしまっていたから」
「俺はちゃんと計算してやってたにゃ」
「確かにそうかもしれないわね。でも、彼は死んだ時の相手の強さを踏まえて強くなって復活するの。だからこのままだったら、次は倒せなくなるところだった」
 それは、知らにゃかった。
「……迷惑掛けたにゃ」
「いえいえ。ちゃんと説明しなかったのが悪いのよ。とはいえ、私としても奈都くんがこんな可愛らしい正体を隠しているなんて知らなかったもの」
「……正体、じゃにゃいにゃ」
 正体じゃにゃい。
 俺は本性でも正体でもにゃく、過去だにゃ。
 俺が否定したのを見て不思議そうにゃ顔をしにゃがらも聞いてこにゃかったところをみると、祝言さんは結構優しい性格のようだにゃ。
 こんにゃ時は、変に突っ込まずにそっとしてくれていた方が嬉しいからにゃ。
「ふぅ…………そろそろ戻るにゃ」
「え? ちゃんと戻れるの?」
「朝までには元に戻れるにゃ。俺は布団に入って来る」
「あら、そう。じゃあ、明後日の夜はミーティングだからね」
「ラジャー」
 おやすみ、と言ってくれた祝言さんにおやすみと返し、俺は自宅の自室に戻った。
 明日、幣姫に会いに行こうとぼんやり思いにゃがら、俺は眠りに付いたのだった。
 そうだ。
 一つ付け加えておく。
 時代がどうの精神年齢がどうの言ったところで、俺らはお『にゃ』じ一人の人間にゃのだから、記憶もちゃんと、共有していたりするのだった。
 ぐう。

68 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:09:36] 削除依頼

06が終わったので少し人物紹介

火車灯継 かぐるま/ひつぎ
・自称、火車をベースとした妖怪ハイブリット。
・奈都が自分で自分の心臓を刺すなり潰すなりすると現れ、日中なら日が沈む頃、夜中なら日が昇る頃に元に戻る。
・『な』が『にゃ』になり、一人称が俺になる。

 05と06は元々一つの章だったので、少し短くなりました。
 あと、バトルシーンで、作者未熟さを全面に出している以前に、あんなことをしてすみませんでした。ちょっと楽しくなって調子乗りました。ごめんなさい。

69 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-17(火) 11:44:10] 削除依頼


今さらながら、僕は「“”」を傍点の代わりに使用しております。混乱された方がいましたら申し訳ありません。

70 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-18(水) 19:09:12] 削除依頼

07...
 翌日のことだ。
 すっかり体調も良くなった僕は、ちゃんと登校して授業を受けた。
 教師陣には「お! ちゃんと直して来たんだな火車!」と言われ、須賀原からは「お前が居ないと俺数学の授業ついて行けないんだよぉぉぉ!」と泣き付かれた。
 僕は数国以外、須賀原は科学と英語以外の科目が苦手のため、社会以外の科目はお互い教えあっていて、ずっとこの方法を採用してきたため片方が休むとどうしても分からなくなってしまうので、そこは本当に申し訳ないと思っているが、今日ばかりは授業の内容はあまり頭に入らなかった。
 僕の頭を支配していたもの。
 昨夜のこと、である。
 火車灯継。
 記憶違いなどおこす筈もないが、あれは本当に僕だったのだろうか?
 便宜上彼女と呼びざるをえないが、彼女は、僕に憑依した何かというわけでもなく、僕の妄想の存在、だなんてことはないだろうか。
 ダメだ、記憶が混乱している。
「火車くん、昨日轟神社のこと聞いて来てたよね?」
 僕が思考を切り替えるのを見計らったかのように、壱野路から声を掛けられた。
 ちなみに、今は放課後である。
「……まあ、聞いたけど」
「私に何か出来ることはないかなー、と思って、探しだしました」
 はにかむような笑みを浮かべ、壱野路が言う。
「何を?」
「素晴らしい人材でーす!」
 壱野路は、一人の少女を前に出させた。
「歴史博士の言伝懍音さんだよー」
 恥ずかしそうに此方を見ている、クラスメートの姿が其処にはあった。
「言伝…………?」

71 文神  [id : 849mOqFt] [2017-01-18(水) 22:04:58] 削除依頼

くだらねぇ

72 白髪猫。  [id : hCfJgV1w] [2017-01-19(木) 02:22:21] 削除依頼

それなら読まかったらいいのではないでしょうか?
目に余る程酷い小説ならまだしも、これだけ素晴らしい(僕はそう思っています)作品は批判を書く必要がないと思います。

もし「くだらねぇ」小説だとしてもどこが「くだらねぇ」のか言われないと分かりません。

批判をするなら、どこがいけないのかはせめて言ってくれないと意味がありませんよ?

73 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:56:01] 削除依頼

>文神 様
まぁ、くだらないのは本当のことですが……地味に傷付きますので。まぁ

>白髪猫。 様
そう熱く(?)ならずに、こういうのはスルーなさってください。みんな仲良くが大事です

74 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:56:31] 削除依頼

 言伝懍音。
 出席番号四番。
 博覧強記の少女。
 長い黒髪を後ろで一本の三つ編みにした女の子である。誰でも分け隔てなく接する彼女ではあるが、どういうわけかあまり僕とは話さない。どちらかといえば、避けられている。何も悪いことしてないのに……。
 因みに僕の出席番号は三番だ。
 彼女は歴史が好きで、地元の歴史から世界史まで、しかもマイナーなのからポピュラーなものまで何でも知っていると言っても過言ではないから、生徒たちからは歴史博士と呼ばれている。
 故事来歴と呼ばれる社会の小伝馬先生を除けば、歴史を語らして彼女に敵う相手はいない。
 少なくとも、この百笑高内では。
「邪魔しちゃ悪いから、じゃあ、また明日ね! あ! 火車くん、幾ら言伝さんが可愛いからといって、手を出しちゃダメだよー!」
 要らねぇこと言って帰りやがった!!
「え!? 壱野路さん帰っちゃうの!?」
 言伝が悲痛な声を上げたが、壱野路が戻ってくることはなかった。
「…………」
 観念したのか、言伝は僕の前の席に座る。
「初めまして、言伝懍音です」
「は、初めまして、火車奈都です」
 初めましても何も、今年同じクラスどころか三年間同じクラスなんだけどな。どれだけ影薄いんだろう、僕。
「な、何かご用でしょうか?」
 目も合わせてくれないぜ。いっそ清々しいな。
「……轟神社、について教えてくれないか?」
 そういうと、言伝の表情が幾らか和らいだ気がした。
「えっと、轟神社は今から1000年くらい前に建てられたの」
「へえ」
 あれ、思っていたより古い?
「でも、あの神社はお参りとかをする場所じゃなくて、何かを祀るためのでもなくて、元々は、良くないものを封じるというか、治めるために建てられたんだよ。んー、ちょっと違うかなあ、幣姫様を祀るために建てられた神社でもあるんだよなあ」
「…………」
 どうやら、あの神社にも色々あるらしい。
「此処にはもう一柱神様が居たと言われていて、昔……あ、火車くん、これも聞く?」
「頼む」
「昔々────」

75 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:57:09] 削除依頼

『昔々。
 鎌倉時代よりも前の話です。
 日ノ本のある辺境の村に、暴虐で我が儘な神様がおりました。
 その神様は、年に一度、正月に村娘十人を生け贄として捧げるように村人に命じておりました。
 ある日のこと。
 神様は、人間の娘に一目惚れしました。
 神様は拐おうと思いました。
 しかし拐おうにも、娘はあまりにも高貴な魂を持っており、暴虐の限りを尽くしていた神様には拐いようがありませんでした。
 ですからその日、神様は村人たちに、その翌年の生け贄を指定することにしました。
 もう暴虐をしないと、村人と約束して。
 ですから村人は喜びました。
 それもそのはずです。
 だって、その娘一人差し出せば、村人も、翌年生け贄になる予定だった十人の村娘も助かるのですから。
 しかし、村人たちも神様も、肝心なことを見逃していました。
 神様に惚れられたその娘は、その村の住人ではなく、隣村の住人だったのです。
 神様に虐げられていること以外は犯罪なんて無縁の村でしたが、村人は話し合って決心しました。
 村人は盗賊を雇って、その娘を拐わせることにしました。
 果たしてその試みは成功しました。
 隣村の人々は立ち向かいましたし、勿論その娘の家族も勇敢に立ち向かいましたが、みんなみんな、神様に殺されてしまいました。
 その娘は、その様子をただ見ていることしか出来ませんでした。
 ですが、その娘にとっての地獄は此処からでした。
 娘は、その村の祭壇の前で、拘束されました。
 儀式の始まりです。
 泣き叫ぶ娘から、生きたまま胸に穴を開けて、娘の綺麗な心臓を取りだして捧げると、神様は満足げにそれを大きな瓶へ入れました。
 すると。
 娘の胸の穴の疵がみるみる治っていきました。
 まるで神様の所業だと、村人は見ていました。
 実際、神様の所業だったのです。
 神様は、娘を人ではなく神様に近い不老不死の存在にして、愛でました。
 約束通り、暴虐はやらなくなりました。
 しかし、物語は此処では終わりません。
 ある日娘は、神様を封印しました。
 今まで神様に捧げられてきた村娘の魂を使って、神様を山の中に封印しました。
 村人は、本当に喜びました。
 ですから、娘を祀るために神社を建てようと思いました。
 それを知った娘は、村人にある指示を出しました。
 村人は喜んで従いました。
 そして一月後、娘、幣姫を祀るための、そして神様のような力の強い物も封印出来る神社は完成しました。
 そんな特殊な神社、轟神社は、今でも百笑町に存在します。』

76 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:57:44] 削除依頼

「これが、この町に伝わる幣姫伝説だよ」
「…………うっ」
 聞くんじゃなかった。
 だが、この話はどんな童話よりも人間らしい人間が描かれていた。
 自分が生け贄になるのは嫌だが、他人、しかも他村のとなれば仕方ないと思えてしまうのも人間である。
「因みに、神様ってのは?」
「元々、あと一つ神社があって、あと一柱神様がいたんだけど、戦争で無くなっちゃって、しかも今はどの資料にも残っていないんだよ」
 ごめんね、力になれなくて、と言う言伝だったが、僕にはなんとなく、その神様こそが與儀囮であろうことは予想出来ていた。
 如何にもやりそうなことだしな。イメージだが。
 ふと、樂學さんにも聞いた疑問が浮かぶ。
「なあ、何で轟神社の鳥居って中途半端な数なんだ? 五三とか百一とか、別に五五とか百とかでも良いんじゃねぇの?」
「ダメだよ、それじゃ。だって割り切れるもん」
「え?」
 意外にもというべきか、流石というべきか、言伝はその理由を知っているようだった。
「五三も百一も、素数なんだよ、火車くん」
 素数。
 確か、一とその数字以外に割れる数字が無い数字のことだったか。
 考えてみれば、確かに五三も百一も他に割れる数字がないな。
「え、でも、切れが良い数字じゃダメなのか? 素数にこだわる必要あんのか?」
「あるんだよ。だって、素数は“割り切れない”んだから。“割り切れる”ってつまり“割れる”ってことでしょ? 祀る為もあったけど、主に良くないものを封印──“閉じ込める”為に建てられた場所だから、結界が“割れて”しまったらダメなの」
 割れる、割ける──裂ける?
 結界が裂けるということは、つまり、壊れるということで、中の物が解き放たれるということか。
 ──轟神社は、良くないものを封じる場所──
 成る程、それは“割れて”はいけないな。
「百一に止めたのは、この土地が百笑で、百目鬼を連想するから。一本につき一つの目を封じて、一本で止めを差すという意味合いもあるけど、実は単に百じゃ割り切れるから一個足しただけっていうのが大きいらしいよ。九九も割れるしね」
「…………」
 ちゃんとした場所なのに、そんなんで良いのだろうか。

77 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:59:16] 削除依頼

 でも、そうか。
 幣姫も、色々あったんだな。1000年も前のことだし、当の本人も覚えていないかもしれないが。
「私が話せる知識はこれぐらいしかないんだけど、どうしたの、火車くん。いきなり、しかも今轟神社だなんて」
「いやぁ、大学受験のお参りしたいんだけどさ、ほら、この町ってあの神社しかないから、ちょっと気になっちゃって」
 これは嘘である。
 僕は大学受験なんてしないし、高校を卒業したらすぐに家を出るつもりでいるため、友人と大学の話なんてしない。
 僕のことを良く知る友人、須賀原瑳都にこの話をすると、彼はとても悲しそうな顔をしていたが、それは恐らく家を出るを町を出ると解釈しているからのように思う。
 そう考えると、バイト探さないといけないんだよなあ。このままだと一人暮らしの資金無いし。
 とはいえ、閑話休題。
 僕の吐いた知る人ぞ知る嘘にも気付かず、言伝は「そうなんだ、頑張ってね。天満宮なら隣町にあったよ」と目を逸らしながら言ってくれた。
「そういやさ、言伝」
「何?」
「言伝ってさ、僕のこと嫌い?」
「え!? ぇえ!? ま、まま待って火車くんどうしてそうなるの!??」
 初めて見る慌てように、逆に僕が驚いた。吃驚して目を逸らすと、言伝は「待って火車くん目を逸らさないで!」と喚く。君がいつもやっていることじゃないか、解せぬ。
「だって、僕と話すときなんか嫌そうっていうか話し辛そうっていうか……」
「違うの! 違うんだよ、火車くん! ああもう私の馬鹿!! 死んじゃいたい!!」
「だ、大丈夫か、言伝……」
 慌てているというより……焦っている?
 はて、どうしたもんだか。
 正直言って、女子の心情程分からないものはないのだ。僕にとっては、女子の心情を理解するよりも犬や猫の心情を理解する方がまだ容易い。それ程までに、女子の心情というものは複雑怪奇なのである。
「とにかく! 嫌じゃないの、どちらかと言わなくても大好き!」
「う、うん?」
「あああああ! 言っちゃった! ごめんね火車くん気にしないで!」
 今にもこの教室から脱兎の勢いで逃げ去りそうな言伝。
 勢いとは恐ろしいものだ。かの言伝さんに大好きとまで言わせてしまうとは。
 余談だが、言伝は結構人気者である。壱野路が男女関係なくなのに対し、言伝はどちらかというと男子に人気だ。だから、弾みとはいえそう言わせてしまったことを誰かに聞かれていたら後で僕がリンチに合わされるんだが……と思ったが、幸いにも他に人はいないようだ。
 二人だけ、である。

78 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 18:59:51] 削除依頼

 二人きり。
 良い響きである。
 一人きりとか一人ぼっちとかだととても淋しい雰囲気なのに、二人だけとか二人きりというのはなんだかワクワクしそうだ。
 ワクワク。
 つくってわくわく。
 と、此方が馬鹿なことを考えている間に落ち着いたらしく、言伝は椅子に座り直した。
「けふん」
「落ち着いたか?」
「大分ね。見苦しいところを見せてしまったわ」
「…………いや」
 こんなとき、どう対応すれば良いのだろうか。
 マニュアルが欲しいものである。
「あ」
「何?」
「歴史関係ないんだけど、一つ質問良いかな?」
「良いよ」
「三組の古町をふったって聞いたんだけど、何で? あいつ性格も顔も頭も良いじゃん」
 空気を読まない男、火車奈都である。最後の質問はノリもあったがずっと気になっていたことを聞いてみた。
 古町令。
 僕の数少ない友人の一人で、三拍子揃っているという慣用句が似合う男である。
 何故僕が彼と仲が良いかと言えば、僕も不思議なのである。
「古町くんは確かに良い人だけど……でも、私には好きな人が居るんだもん」
 そういえば、須賀原も同じ理由で撃沈してたな。
 何故かその後二人で『太陽のKomachi Angel』を熱唱していたな。謎の選曲だったが激ウマだった。
「ふうん」
 誰? なんて聞く程僕も野暮ではないので、曖昧に相槌を打って立ち上がる。
「あれ、火車くん帰るの?」
「まあな。時間取らせて悪かった、でも助かったよ、ありがとう」
「い、良いの別に! 火車くんの為なら幾らでも時間を作るし、知識も提供するよ!」
「優しいんだな、言伝。じゃあまた何かあったらよろしくな」
「う、うん! じゃあ、また明日ね」
「あ、そう言えば、言伝って徒歩だよな?」
 そそくさと教室を出ようとした言伝を呼び止め、時計を見る。
 六時か。随分話してしまったな。
 しかし、夏も終わって日が沈むのも早くなっているからな。
「徒歩……だけど?」
 訝しげに、言伝が答える。確か、言伝の家はあの神社の近くだった筈だ。徒歩だと三〇分ぐらい掛かる。
「今からだったら大分暗くなるだろ。送っていくから一緒に帰ろうぜ」
 そう言うと、言伝の瞳が輝いたような気がした。
「で、でも、火車くん自転車通学だよね……?」
 ん? その目で言うことなのか? そのキラキラした目で?
「いや、別に僕だけ乗って楽しようとかは考えてないけど」
「二人乗り?」
 錯覚ではなく、目をキラキラさせて言伝が聞いてきた。
「いや、押そうかなと」
「ねぇ、二人乗り?」
「あの、校則違反になるけど……?」
「二人乗りですか!?」
「二人乗りです! 僕と二人乗りしてください!」
 折れた。
 折れました。
 二人乗り。

79 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 19:00:33] 削除依頼

 僕が使用しているのが二人乗り可能なタイプで良かった。
 しかし、二人乗りかぁ。やったことないぜ。
 弟とも二人乗りしたことないのに……。
 初二人乗りがクラスメートの女子って。
 しかも男子の人気者って。
 誰にも見られませんように、と願うしかないな。
「わーい! 火車くんと二人乗りだー!」
 どうやら言伝は二人乗りに憧れがあったようで、少しはしゃいでいた。
 彼女も初二人乗りなのだろうか。
 もしそうだったら僕みたいなのが相手ってなんか可哀想だな……。
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
 教室の戸締まりをし、鍵を返してから僕たちは駐輪場へ向かった。
 部活生が使用しているらしき自転車にまじって、僕のを発見。ママチャリである。
 言伝の鞄も受け取って二つ籠に放り込もうとしたとき、違和感があった。
 ママチャリの籠の中。
 身長20センチくらいの小さな少女、もとい小女が居た。三頭身である。樂學さんが着ていたのにも似た服を着た人形のような小女の、人形のような目と僕の目が合う。
「…………っ!?」
 にやり、とした笑みを浮かべ、小女は口から紙を出した。
 ずるずると、機械の如く。
『神社デ待ツ』
 僕が文字を確認したのを見て、そう書かれた紙を口に戻し、目にも留まらぬ早さで小女は逃げて行った。
「火車くん、どうしたの?」
「いや、何でもない……帰ろうか」
 初めての二人乗りは。
 本当に初めてなのかと思う程、スムーズに乗れた。
 寝ているうちに誰かと乗ったんじゃないかと疑ったくらいには。
 勿論、言伝には後ろの荷台に座って貰ったのだが、もしかすると彼女のバランスが良かったのかもしれない。
 それか密着するという乗車方法が効果あったか。
 こうして僕は言伝を無事に家に送り届けるという任務を終え、神社へと向かったのだった。

80 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 19:00:56] 削除依頼

07が終わったので少し人物紹介
 
言伝懍音 ことづて/りんね
・百笑高のアイドル的存在。
・通称、歴史博士。
古町令 こまち/れい
・火車、須賀原の友人。
・頭が良く性格も良く運動神経も良く顔も良い。
 
07は楽しんで書きましたね~。本編の幕間というか、あまり関係がある感じがしませんでしたが、一応、必要な間ということで。

81 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-19(木) 19:03:33] 削除依頼

~幕間~
最終章まで、あと七章?

奈都「マジで!? もうそんなに迫っているの!?」
──14で終わる予定なので
奈都「中途半端だな! ……そうかぁ。じゃあ僕もお払い箱ってことなのか」
──…………まあ、そうですね
奈都「え、何その間」
──ということで、皆様に最終回予想をしてもらおうかと
奈都「……ハッピーエンド希望だな」
──そこでずっと聞かれている幣姫様は如何です?
幣姫「詳しくは言わんが、元鞘というのもあるかもしれんがのー」
──そうですか。では、あと七章、頑張ってくださいね
 
最後までどうかお付き合いください!

82 ゆのか  [id : 4NhlKr8f] [2017-01-19(木) 19:51:37] 削除依頼

応援してます!頑張ってください!

83 オノシマミソノ  [id : gBs3CZG4] [2017-01-19(木) 20:43:28] 削除依頼

>ゆのか 様
応援してくださるのですか!?
わああ、ありがとうございます!
頑張りますので、最後までおつきあいください!

84 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-20(金) 15:56:18] 削除依頼

08...
 轟神社の階段を上り、開けところに、彼女たちはいた。
「ったく、こよよん! なんでお前さん此処に居るんだよ! 関係無いだろ! なっつんに迷惑掛けてんじゃないよ!」
 先刻の小女が、樂學さんに説教をくらっていた。
「煩いなや颯ちゃん。吾はちゃんと考えて吾なりに行動したなや」
「ふざけんな! これだからこよよんは! お、なっつん」
 僕を見るなり、樂學さんは小女を抱いて近付いて来た。
「お前さんに会いたいと言われたから案内人としては会わせざるをえなくなってしまったんだけど……彼女は〈最凶最厄人形〉樂學暦だ」
「吾は第九九巻、最終巻の最高傑作、〈最凶最厄人形〉樂學暦なや」
「僕は火車奈都だ」
 どうやら、彼女は樂學さんの仲間だったらしい。
「なぁ、樂學さん、〈人形〉シリーズって何体いるんだ?」
「零巻から九九巻までの百体だよん」
「多っ!!」
 百体!? 百体もこんなのがいるの!?
 凄いなあ樂學小鳥さん。
「でも、ちゃんと把握してるのか?」
「颯ちゃんは把握してるけど、他の人形は誰も把握出来てないなや」
 聞けば、全ての人形の現在位置、特性、名前、容姿、性格を把握しているらしい。追跡機能もあるとか。恐ろしい記憶力どころか、恐ろしい機能だった。
「じゃあ、確かに会わせたからね。僕はすさみんとざれざれの様子を見てこないといけないから帰るよ。こよよん、くれぐれも失礼のないように!」
 そう言って、樂學さんが階段を下りていく。
「樂學小鳥の〈人形〉シリーズの中で、一番知名度が高いのが颯ちゃんなんだや。あれと会えば、他の人形にも芋蔓式に会えるからなや」
 地面に放置された暦さんが言った。
 僕っ子といい吾っ子といい変な語尾といい、樂學人形は変わったものが多いらしい。
「あの、どうして僕に会いたいと?」
「冠城家の守り神をやっていたら、どうやら最近與儀囮が復活して、しかもそいつと一戦交えた奴がいるらしいと聞いて、気になったんだや」
 僕が初めて一戦交えたのは昨夜である。どうやら既に化物たちの噂になっているらしかった。
 迷惑な話だ。
「どうやら止めをささなかったらしいからなや。どういうつもりだや?」
「どういうつもりって……暦さんならどうしたんだよ?」
「倒したなや」
「マジで!?」
 罰当たりな人形も居たものだ。
「樂學人形一同にとっての神は作り主たる樂學小鳥だからな、與儀囮なんぞという紛い物には迷惑しているのだや」
 言いながら、暦さんは自らの胸部を晒して僕に見せた。
「え、ちょ、暦さん?」
 いや、小女だし縫いぐるみみたいだから肌ではなくてただの布なんだけどさ。
 でも画的にマズイよな……。
「本来心臓がある部分を見てみろ」
「?」
 あれ、何か刺さってる?
「釘打家、という少々厄介な家があってな、祝言家の分家なんだけどなや?」
 どうやら、その刺さっているものは釘らしい。
「全盛期の吾は、小女でもないしこんなに弱くもない。それがこんな有り様になったのは──この釘打家の釘のせいなや」
 全盛期の暦さん、というのが良く分からなかったし想像もつかなかったが、口振りから察するに、どうやらそれは一種の封印具のようなものらしかった。

85 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-20(金) 18:57:29] 削除依頼

 だが、僕は暦さんが何を言いたいのか分からなかった。彼女は何を伝えたいのだろう。
「吾は忠告をしに来たんだや」
 僕の考えを先読みしたかのように、暦さんが言った。
「なぜ、僕に忠告なんか……そもそも、どうして暦さんは封印されているんだ?」
「それが酷い話でさ、吾が地球を真っ二つに出来る力を持っているからーってだけでだや! 理不尽だや!」
「…………」
 地球を真っ二つに、だと?
 暦さんには悪いが、それは全然理不尽な理由じゃなかった。寧ろ納得のいく理由である。
「そもそも! その理由だと吾だけ封印されているのは納得いかないなや!」
「ちょっと待ってくれ、樂學人形には他にもそんなヤツが!??」
 それは聞き捨てならないぞ!?
「吾はあまり他の人形のことを知らないけど、子午線に沿って地球を二四等分に出来る〈最終兵器人形〉ってヤツと半日で地球上の生態系を全停止に追い込めるヤツがいるなや」
「誰だよその二体! 何故釘打家はそんな怖いヤツら放置してんだよ! てか後者無茶苦茶すぎねぇ!?」
 ゴキブリまで絶滅させているじゃないか、それ。
 下手に「人間を滅ぼせる」ってヤツより恐ろしい。会いたくないものだ。
「ちなみに後者は颯ちゃんだや」
「一番会いたくない特性のヤツが一番身近にいた!!」
 案内人って言ってたから案内しか出来ないと勝手に思っていたが……よくよく考えてみれば、一番の古株みたいだからな。第零巻。他の人形の暴走を止めるのも彼女の役目なのかもしれない。
 樂學颯馬。
 計り知れない人形だ…………。
「とはいえ、閑話休題だや」
 その四字熟語を会話に挟んでくるやつは初めてだ。
「奈ちゃん」
「奈ちゃん!? なっちゃんでもなーちゃんでもなく!?」
 なっつんの方がまだアリな渾名だった。よりによってその一文字とは、ネーミングセンスが疑われる渾名である。
「吾は忠告をしに来たんだや」
「あ、ああ、さっきそう言っていたな」
「貴殿、かしゃなんだろ?」
 もうつっこまないぞ。
 話が進まないからな。
 取り敢えず僕は頷いた。
「その姿を見てみたいものだが、火車でかしゃと言えど純粋ではない筈。名字につられていつの間にか迷い混んだだけの筈だや。混ざりに混ざってハイブリッドしてそうだや」
「ハイブリッドって……そんな車みたいな……」
「問題は其処だや」
 ぴしっ、と。
 小さな指を立て、僕を指差す暦さん。
「ハイブリッド。純粋ではない。つまり、“本来無害である筈の妖怪がどんな力を秘めているのか分からない”。」
 火車は悪人の死体を奪う妖怪だから、そんな害があるというわけでもないのか。
 純粋な火車は。
 同じ火の車でも、見ただけで殺されてしまう片輪車と違って。

86 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-20(金) 19:12:23] 削除依頼

「颯ちゃんから大雑把に話は聞いたが、貴殿が幣姫の眷属であるだけなら別に構わないだろうし、純粋な火車もそんな悪いことはしないなや」
 史実通りだから安心できると、暦さんは言った。
 一種の無害認定が貰えると。
「それが、貴殿はハイブリッドだから、この先どう転ぶか分からないなや」
 其処が問題だ、と暦さんは強調する。
「つまりな、奈ちゃん。もしかすると、祝言家が無害だと判定しても、場合によっては釘打家に退治されるかもしれないなや」
 此処でやっと、樂學暦が僕に会いに来た理由が分かった。
 封印された身として──釘打家のことを知る身として、僕の身を心配してくれているのだ。
 だから、忠告に来た。
「幾ら紛い物といえど、神様だからなや。神.殺.しは誰もやったことないようなタブ.ーだからなや。祝言家は與儀囮を『歪み』と認識したから倒したところで『歪み直し』だということには変わりないと解釈するだろうなや。しかし、釘打家はそんなところで折り合いが悪くて離脱した分家だや。だから、相手が紛い物といえど神殺.しと認識し、タブ.ーを犯.すやつは人間の敵として排除しにくるだろうなや。多分、土地神.殺.しの罪に問われるなや」
 裁判は無いけど、と暦さんが笑う。
 『歪み直し』が『土地神.殺.し』に。
 解釈の違いというのは本当に恐ろしいものだ。やっていることは同じなのに、立場や解釈の違いで全く別物になる。
 まあ、戦.争でも勝てば英雄負ければ罪.人だからな。
 それと似たようなものだろう。
 自分たちの土地を護るために必死になって声を上げ戦っている人々を、『テ.ロリスト』呼ばわりするようなものだ。
 僕は家族を護るために戦うが、神様から見ればただの反.逆行為にすぎないのだ。
 立場も違えば価値観も違うし、価値観が違えば勿論解釈も違う。
 間違っちゃいけないのは、目に見えるものが真実とは限らないことだ。
 表があれば裏があり、外があれば内があるように、真実も物事も見方によって姿を変える。
 真実は、一つじゃない。
 真実は、多面的だ。
 正義が多面的なのと同じように。
「釘打家は、正義なや。いや、己れが正義と信じて疑わない。絶対的な悪と正義が存在すると本気で思っている連中が多いなや。樂學小鳥のように化.物を作らないし、祝言家のように歪み直しを専門としない。釘打家は、元から存在するある程度純粋なモノしか認めない。つまり、貴殿のように超ハイブリッド妖怪は排.除の対象なんだや」
 人間に害を成すならもっての外なや、と笑う暦さんだったが、僕にはどうして笑えるのか理解出来なかった。
「ただ、それを教えたかっただけだや。神社で待つと言ったけど、貴殿、用事があるんじゃないのかなや?」
「あ」
「じゃあ、吾帰る。いやあ、居なくなってしまう前に話せて良かったなや~。與儀囮退治、頑張れよ」
「いや、僕が居なくなること前提なの!?」
「はっはっはっ」
 快活に笑いながら、暦さんは神社を後にした。

87 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-20(金) 19:13:17] 削除依頼

NG避け作業大変だった……
初めての経験だ……

88 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-20(金) 19:13:46] 削除依頼

 前回もだったが、何故僕はこの神社に来る度に邪魔されるのだろう。危うく本題を忘れるところだった。
 人形に呼ばれただけの男になるところだった。
「幣姫」
「おお! 来たか! あうっ!!」
 バッコーンと音をたて、賽銭箱の蓋を開け、幣姫が飛び出して来た。飛び出る際に賽銭箱の側面部に足を引っ掛けてしまい、転けた。
 なんだか微笑ましい光景である。
「い、痛い…………!」
「痛みはあるのか」
「た、戯け!! 痛みぐらいあるわ! 何も実体がないわけではないわ!!」
 幼い女の子に怒られた。
 怖いというより、可愛い。
 年の離れた妹が出来た気分だ。
「して、何用じゃ?」
 こてり、と首を傾げる幣姫。可愛いぜ畜生。
「いや、幣姫って昔は人間だったんだな、て思ってさ」
「む。そうだったかの?」
 どうやら覚えていないらしかった。
 まあ、あんな記憶は忘れた方が良いからな。
「うーん、今のは忘れてくれ。僕が聞きたいのは、僕についてだ」
「どういうことじゃ? うぬ、頭でも打ったのか? 記憶喪失になったか? 記憶喪失になって自分のことだけ忘れてしまったのか?」
「そんな部分的すぎる記憶喪失があるか!!」
 ……いや。あるかもしれない。
 何せ世界は広いのだから。
「そうじゃなくてさ、その、カシャの僕についてだよ。眷属のことぐらい分かるだろ?」
「まあ、最初からうぬの正体は見抜けたよ」
「そうなのか…………はぁ!? 何、僕って最初から化物だったわけ!?」
「じゃからうぬは迫害されておるのじゃろう。うぬは色々混ざっている存在じゃがな」
「それは……昔から、“僕が特定の人の寿命と罪状を分かってしまうのと”何か関係があるのか?」
「それは後で話す」
 そう言って幣姫は暫く黙りこんでしまった。
「神殺しは、大罪じゃ」
 唐突に、幣姫が言った。
「大罪中の大罪じゃ。それでも、うぬは家族を救うのか? あんな酷い家族なんぞ、見捨てればよかろうに。自分の子にあんなことをするのも罪じゃが、無知も罪じゃよ」
「……僕はどんな手段を使ってでも家族は守るよ。それに、こうなったのも全部、中途半端な僕のせいだ」
 彼らの身代わりに成りきれなかった僕のせいだ。
「のう、カシャの小僧。暴力も躾のうちだと、そんな扱いを受けるのも躾のうちだと、自分が悪いと、自分に非がある、原因がある、と思っておるのか?」
 幣姫が言っている言葉は、正直言って理解が出来なかった。
 善因善果、悪因悪果、因果応報。
 これらの言葉で語られているように、何事も原因は自分にあるように思える。
「僕以外の理由が浮かばない。勿論、僕は要らない存在だとか卑下している訳じゃないけど、やっぱり僕に非があることは事実だと思う」
 実際、壱野路や言伝と違って、僕にあるのは非のみだ。
 当たり前のことで今更言うことでもないのだが、容姿端麗ではないし、賢くも悟くもないし、利己的で、自分本位で、自己中心的。それが、僕、火車奈都である。
「ふむ──うぬが何を勘違いしておるのかは正直言って判別つかんが、うぬにとって“その事実”は不都合ではないのじゃろう。じゃが、うぬの両親にとっては紛れもなく不都合なお話じゃ。つまり、うぬに非はない。まぁ、両親にもないがの。原因も理由も何もかも、運命であり定めであり宿命であり──血筋じゃな」
 幣姫は儚げに笑った。

89 斧嶼深苑  [id : ixgEnmM1] [2017-01-21(土) 11:18:13] 削除依頼

 ここで一つ、僕について話そう。
 僕は火車奈都という何処にでもいる男子生徒である。
 度々言及したが、家族との確執。家族との仲違い。そんなもの、思春期の子供にはよくあることだろう。
 たまに家から閉め出しをされるのも。
 時々飯が与えられないのも。
 何がおきても心配されないのも。
 意味もなく殴られるのも、蹴られるのも、刺されるのも、切られるのも、落とされるのも。
 よくある話、である。
 この話をすると友人に物凄く心配され、疑問に思ったものの、これは僕にとって至極普通のことだし、今でも普通だと信じ込んでいる。
 それを容易く幣姫は切った。
 僕にとっての不都合は無いが、両親にとっては不都合であるかのような、証言だと。
 僕にも両親にも非はなく、血筋だと。
 そう言ってのけた。
「ち……血筋?」
「與儀囮の血を色濃く受け継いでおる。そうじゃのう、うぬが『奈都』なのも関係しておるのじゃろう──いや」
 幣姫は腕を組んだ。
「いや、逆じゃ。うぬが『奈都』じゃから與儀囮の跡を辿るようになってしまったのじゃ」
「待てよ、幣姫。與儀囮の血ってなんだよ? あいつはただの神様なんだろ? 僕になんの関係が……」
「火車夏之介」
 僕の言葉を遮るようにして、幣姫は言った。
「與儀囮の生前の名は、火車夏之介と言って──火車家の三代目当主じゃ。うぬのご先祖様じゃな」
 沈黙。
「は?」
 嘘だろ?
 あんなヤツが?
「尊敬出来ぬだろうが、一応あれでもうぬのご先祖様じゃ」
「ちょっと待ってくれ」
「待たぬ」
 そう言いながら、幣姫は賽銭箱を元に戻してその上に立った。すると視線は僕を見下ろす感じになる。
「丁度よい機会じゃ。話してしまおう。ところでうぬ、家に連絡はしたか?」
「ああ。遅くなると伝えてる」
 一応、連絡はした方が良いかと思い、家に電話すると、電話を取った美耶子さんは平淡な事務口調で了承したのであった。息子相手に事務口調で応対か、まぁ、彼女も段々優しくなってきているということか。昔は僕だと分かった途端「人違いです」ときられていたもんな。
「まぁ、あまり時間はとらせんがな。積もる話があるわけでもないし、さほど重要度が高いわけでもない」

90 モラトリア  [id : XvFuxl5s] [2017-01-21(土) 17:33:45] 削除依頼

言伝って火車が好きなの?

91 オノシマミソノ  [id : fyUJ4K0z] [2017-01-21(土) 18:26:33] 削除依頼

>モラトリア 様
さあ?どうなんでしょう?
あの子の心はよくわかりません。
まあ、嫌いではないと思いますよ。

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