Sarg〜ザルク〜162コメント

1 薩摩 id:xcz3KaF1

2016-08-10(水) 13:33:46 [削除依頼]
 あの日の決断が本当に正しかったのか、正解なんてあったのかなんて僕には分からないし、知りたいとも思わない。
 ただ、今を生きれればそれで充分に幸せなのである。
 今日も僕は、己れの罪を背負って生きている。
  • 143 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:04:15 [削除依頼]
     ぐしゃり、と。
     幣姫は與儀囮を踏み潰した。
    「あ…………ぅ」
     ふいに、ふらりと幣姫がよろけた。
    「だ、大丈夫か?」
    「大丈夫じゃ。気にするでない」
     そう言う幣姫だったが、その顔は青ざめていて具合が悪そうだ。
     何故。さっきまでは元気そうだったのに。
    「あ」
     そうだ。
     先程の謎の術。
     あれを受ける前に、やけに馬鹿にしたかんじで與儀囮が何か言っていなかったっけ?
     ──幣姫
     ──それは貴様の存在力をも奪う技だろう
     …………っ!
    「幣姫っ! お前、まさか、死ぬんじゃないだろうな!?」
    「…………はっ。笑わせるな。妾に情でも移ったか?」
    「そんなこと言ってる場合かよ!?」
     思わず大声を出すが、幣姫は興味無さげな目を僕に向けた。
     深く聞くなということである。
    「幣姫」
    「死ぬも生きるも妾の勝手じゃ。生きたところで、あの神社を護るほどの力は残っておらんしな」
    「で──でも、幣姫、お前が死んだら、僕はどうなるんだ」
     そこで初めて、幣姫の表情に変化があった。
     これまでの無表情を引っ込め、困惑と不安と焦燥がないまぜになったような表情で、僕を見ている。
    「あ────ぁあ!」
    「馬鹿あ!!」
     幣姫が口を開いた瞬間、一人の少女が僕と幣姫の顔面を平手で叩き倒した。
     不意打ちに受け身も取れず、二人揃って地面に転がる。
    「ら…………樂學、さん…………」
    「何をやっとんじゃ馬鹿あ! おいしでっち! お前なら名殺しを使わずともノックアウト出来ただろ!? そこまで堕ちてない筈だろーが!! それが、なっつんを巻き込むようなことやんなよ! 何のために眷属にしたわけ!?」
    「樂學さん、幣姫を責めないでやってくれ」
    「なっつん、これはそんな簡単な問題じゃねーんだぜ」
    「そうよ。責めないとか責めるとか、そういう問題じゃないよ奈都くん」
     祝言さんが小走りで僕らに駆け寄って来た。
    「祝言さん」
    「本当、颯馬さんが対処していなかった今頃大変なことになっていたわよ? 流石、樂學小鳥の〈人形〉シリーズの筆頭ね」
    「どうする?」
    「此処は場が悪いから」
    「よし」
     樂學さんが一人でに頷いて、僕の後頭部を殴った。
    「ちょっ!! 颯馬さん!?」
     最後に見たのは、何やら慌てている祝言さんと、手刀で構えた樂學さんの姿だった。
  • 144 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:04:53 [削除依頼]
    ~幕間~
    最終章まであと二章!!
     
    最終章予想大会・樂學暦
     
    ──対與儀囮篇が終わったわけですが、どうやら問題発生のようですねぇ
    「にやにやすんなや深ちゃん」
    ──ふかちゃんと来ましたか。ふかちゃんと
    「深ちゃんは本当、性格悪いなや。あーんなにフラグ立てておいて、放置なのかなや? 読者の期待を裏切るのかなや?」
    ──暦ちゃんも大概意地悪ですよねえ
    「んまあ。色々言ったところで、題名の時点でオチのフラグは立っているわけだや」
    ──そうですねえ。ちゃんと意味を書くわけではありませんが、ちゃんと題名の意味は記そうかと思ってますよ?
    「優しい優しい吾がヒントを言っとくなや」
    ──え? は? ちょっとま
    「ドイツ語だや」
    ──言いやがった最悪だなんだこいつううう!
    「どちらかというと和風なのにドイツ語という矛盾だや」
    ──まあ、題名を外国語にした方が読む人も少ないだろうと思いましてね? スペルにしましたし
    「それは確かにあるなや。でも、そもそも深ちゃんの作品は面白くないからなや」
    ──では、最終章予想を
    「まあ、吾は出ないからちゃんとしたことは分からないんだけど、吾の希望としては天ちゃんの話もあるし神様になるエンドかなー、と思うなや」
    ──あー。それもまた一つの結末ですね

    遂に物語もあと二章!!
    最後までお付き合いください。
  • 145 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:10:15 [削除依頼]
    14...
     目を開けると、ぐるぐると札のようなもので巻かれた幣姫が視界に入った。
    「お。気付いたか」
     樂學さんが僕の顔を覗きこむ。
    「あれは…………?」
    「しでっちとなっつんには悪いけど、少しの間だけ体の時間を止めさせて貰っているぜ」
     ふと見れば、どうやら僕も同じ状態らしかった。腕にぐるぐると巻かれていた。何故か左目にも巻かれているらしく、左目は何も見えない状態だ。
    「此処は?」
    「轟神社の本殿の中じゃろう?」
    「正解だよ~」
     樂學さんがにやにやと笑いながら言った。
    「なあ、名殺しってなんなんだ?」
    「それは後で専門家へ聞け。妾には上手く説明出来ぬのじゃ。おい、人形。何故、此処に運んだのじゃ」
    「最初は対策を考えようと取り敢えず連れて来たんだけどさあ…………ぶっちゃけ、二人とも覚悟しておいた方がいいぜ」
     樂學さんが言った途端、バゴーンッと派手な音を立てて障子が吹っ飛んで来た。
     障子は僕のすぐ目の前を掠める。
    「う……ぅう…………」
     どうやら人が飛ばされて来たらしい。
     艶やかな黒髪をツインテールにした女性が呻いている。
    「るりるん。交渉は決裂かい?」
     そんな状況にも関わらず、樂學さんは冷静そのもので声を掛けた。
    「うーん。ダメだなあやっぱり。祝言家の血筋はどう頑張っても釘打家の者とは馴れ合えないようだわ」
    「はっ……なーにがどう頑張っても馴れ合えないだよ」
     女性がむくりと起き上がりながら悪態を吐いた。
     大分口が悪いようだ。
    「問答無用で人を放り投げておきながらよく言うな。瑠璃」
    「小槌さん。元は貴女が襲い掛かって来たんじゃないですか」
     なんと。
     祝言さんがこの女性を放り投げて来たのか。
     人は見掛けによらないものだ。
    「かーっ! 相変わらず良い体してんねぇ瑠璃! 態度も相まって、ムカつき度かけ二だ」
    「その若作りも結構アレですけどね」
     二人の会話から察するにどうやら祝言さんの方が年下の様だ。
     まあ、祝言さんの方が年下なら、同じ女性としては嫉妬でもするのだろう。
     何て言ったって、祝言さんはスタイルが良いし、背も高いようであるし、胸も大きい。
     対する女性は、若さを意識したらしいツインテール。肩を出した半袖のシャツはサーモンピンクで、白いホットパンツ、焦茶色のロングブーツ。背は低めだがセンスは良いように思えた。
  • 146 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:10:53 [削除依頼]
     と、此処で。
    「ん? これが化物共が言ってた子か?」
     女性が僕に気が付いた。
    「小槌さん、彼は」
    「あー、いや、別に退治しに来たわけじゃないから安心しろって瑠璃。これでもあたしは優しいからさ、事情を説明したうえで選択する権利も与えるよ」
     女性は僕と幣姫を交互に見て「ま、この状況じゃあ二つぐらいしかないけどね」と意地悪く笑う。
    「あたしは小槌。釘打小槌だ。あんたは、幣姫だろ? そっちのおにーさんは?」
    「…………火車、奈都です」
    「ふーん。随分と可愛い名前だねえ」
    「ぶっ飛ばすぞてめぇ」
    「おっと。案外口が悪いな」
     おっと。つい本音が出てしまった。
     それにしても、釘打。
     何処かで聞いたような…………。
     確か、暦さんを封印した人じゃなかったっけ?
     そういえば、暦さんは僕に忠告をしに来ていたんだったな。
     あー。じゃあ、あの忠告はあまり意味を成していない気がするなあ。
     対処法とかは教えて貰えなかったし。
    「僕に、何か用ですか」
     警戒心を露にして、僕は問うた。
    「なっつん」
    「奈都くん」
     二人が呼ぶのも気にもとめず、僕は釘打さんを見た。
    「…………こづこづ。正直言って僕は賛成出来ないよ。確かに安定するだろうけど、それはそれだ。この街にはこよよんも居るし、こよよんだけが不安ならしぐるるも配置してやっても良いんだぜ」
     釘打さんが口を開くのを見計らったかの様に、樂學さんが言った。
    「こづこづという渾名がめっちゃ嫌なんだけどまあ置いとくとしてさ。颯馬、これは」
    「颯馬様だ馬鹿」
    「……颯馬様、これは奈都が決めることなんだ」
    「ふざけんな。なっつんに選択肢なんて用意してないだろ。この似非民主主義者が」
     樂學さんは心底嫌そうな顔した。しかも小さく舌打ちもしやがった。
     どうやら、それほど釘打さんが苦手らしい。
    「あの、状況を説明して貰いたいのですが」
    「奈都くん」
    「…………祝言さん」
     名を呼ばれ、ふと祝言さん方を見れば、祝言さんが真っ直ぐ僕を見て言った。
    「君は、人間に戻りたいと思う?」
  • 147 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:11:26 [削除依頼]
    「…………………………」
     僕は黙ってしまった。
     何か言わなければと口を開くが、上手く答えきれないと思い口を閉じる。
     いや、本当は分かっているんだ。
     此処は────即答しなければらならない場面なのだ。
     それは、僕でも分かっているんだ。
     でも。
     だけど。
     僕は、人間に戻りたいのか?
    「ほらね。すぐ答えられない」
    「ち、違いますよ。人間に戻りたいのかと言われたって、いまいちピンと来ないというか…………不死身なだけで僕は普通の人間と変わらないですし」
     違う。
     そうじゃない。
    「不死身ってことは、死ねないんだよ、奈都くん」
    「分かりますよそれぐらい」
    「じゃあ何を分からないふりしているのかしら? 君が、身近な人の死を全て見なければならないこと?」
    「…………」
    「ほら、驚かない。分かってたってことよね。でも、普通、それでそのままでも良いなんて思わないよね」
     そう、なのかな。
    「まあ、遠回しに言うのは苦手だから言うけど、このままだ君たち二人は確実に消えてしまうわ」
    「え、そうなの?」
     意外にも。
     反応したのは、釘打さんだった。
    「分かってたんだ、奈都くん。なのに落ち着いていたわけね。何も分からない脇役に徹していたわけね」
     冷めた目をして、祝言さんが僕に言った。
     僕は沈黙する。
     黙秘権を、行使する。
    「ところで、何か聞きたいことは? 一応、流石の君でも分からないところはあるんじゃない?」
    「…………………………」
     流石のって、僕は何も分からないし、何も知らないようなやつなんだが。
    「なっつん、今は質疑の時間だぜ」
    「………………名殺しって、結局なんなんですか?」
     樂學さんに促され、僕は渋々口を開いた。
    「名殺しというのはね、相手の名前の効果を消す禁忌の術なのよ。名前はちゃんと存在しているけど、ただそこにあるだけ、何の効果ももたらさない、という術。神様で例えれば、名殺しをされた神様にはその名前での威厳はなくなってしまう、ということよ」
     流石専門家と言うべきか、なんとなくだが理解することが出来た。
     僕なりに理解してみれば、名前を実際に消すのではなく、名前を使えなくするだけのようだ。
  • 148 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 19:18:10 [削除依頼]
     しかし。
     そのような大きな術だからこそ、多大な力を必要とし、存在力が奪われるという。
    「つまり、幣姫は消えてしまうってことですか?」
    「君もよ、奈都くん」
    「…………え?」
    「君は一回死.んでいるんだから、そんな君を生かしている彼女が消えれば、あなたは消えてしまうわ」
    「そんなことはどーでもいーんだよ、瑠璃。珍しいじゃないか。歪み直しを専門とするあんたがこんかヤマを逃そうとするなんてさあ」
    「私も予想外だったんですよ」
     二人で話を進め、釘打さんが僕を値踏みするような目で見た。
    「別に、與儀囮みたいな神様、あたしはどーでもいーんだけどね。幣姫様まで消えちまうのはどーでもよくないんだよな」
    「かと言って、彼女にこの土地を治める力は無いですよ」
    「なあ、こづこづ、るりるん。なっつんだけ救う方法もねえの?」
     ん?
     僕だけ救う?
    「奈都。正直に言わせて貰うとだな、あたしはこの土地に神様を一柱立てたい。二人には、その神を召喚するための、材料──もとい、生け贄となってほしい。それか、消えるかだ」
    「あと一週間ぐらい待てば、君は生きれる」
     選んで、と祝言さんが言った。
     中々無茶な要求である。
    「幣姫、どう思う?」
    「…………このまま消えても、妾は構わないのじゃが、問題はうぬがどうしたいかじゃ。うぬは家族の元へ戻りたいのじゃろう? 選択はうぬに任せるよ」
    「家族の元へ…………」
     本当のところは、どうなんだろう。
    「おい、どうしたよなっつん?」
    「あの、神様を一柱立てなかったら、どうなるんですか?」
    「然るべき対処を出来る人間が来ると思うけどな、敢えて言うなら神様が居ない土地は滅ぶよ」
     神様が居ない土地は滅ぶ。
     それは、僕が生きる道を選んだとしても同じことなのではないだろうか。
     なら。
    「じゃあ、良いです。“僕を使って”神様を召喚してください」
    「奈都くん!?」
    「なっつん!?」
    「え!?」
     僕の発言に、その場にいた女性陣が目を見開き驚いた。
     その中の誰よりも驚いていたのは、判断を僕に任せると言った幣姫だった。
    「戯け!!」
     幣姫が僕を拳で殴った。
    「ってぇ。なんだよ幣姫。僕に任せるって言ってたじゃないか」
    「言ったが! …………じゃが、まさか、そんな。うぬは、そんな結末望んでおらんかったじゃろうが」
    「結末なんてねえよ、物語じゃないんだから────それに」
     僕は目を伏せ、続けた。
    「もう、良いんだ」
  • 149 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-09(木) 20:39:37 [削除依頼]
    本作品をお読みになろうとしている皆様へ
     大変読みづらい状態でこんな駄文を投稿してしまっていることを、反省し、お詫び申し上げます。
     本作品をお読みになられる際にはお手数ですが、一度、本作のスレッドを開いてお読み頂ければさいわいです。
     それと>>26にて募集しましたキャラクターの件はしめきらせて貰いました。
     それでは、引き続き本編をお楽しみください。

     ………………楽しめないよね。
  • 150 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:46:11 [削除依頼]
    >>148の続きです

    「………………何が」
    「あんな家に、帰れるわけが、ないだろうが…………!」
     肉体的にも、精神的にも、もう、限界だった。
     いや、限界なんてとっくに超えていたけれど、それでも僕があの家に住み続けたのは、理由を作ったのは────彼が居たからだ。
     結局は、その彼にトドメをさされたわけだが。
     彼。
     火車成実、である。
    「最初はさあ、なんにも知らないで無邪気なアイツに思うところがなかったわけじゃないんだけど、でもやっぱり、護りたいと思えたんだよ」
     成実は関係がないから暴力をふるわれることはないと知っていたが、無邪気に甘えてくるアイツを置いて家を出る気にはなれなかったのだ。
     それこそ、僕の甘さである。
    「知られたくなかったのになあ………………!」
     一番知られたくなかった人に知られた。
     それだけで、すがりついていた僕を離すには充分すぎる。
    「奈都くん、それは」
    「もう、良いんです。お願いします、釘打さん」
     何か言いたげな祝言さんの言葉を遮り僕は釘打さんに頭を下げた。
    「ちょ! ちょ! ちょ! 待って! あんた大丈夫!?」
    「僕のことなんてそれこそどーでもいーじゃないですか。お願いします」
    「あ、の、さあ!」
    「小槌さん。奈都くんはこうなると止められないんです」
     諦めたように祝言さんが言った。
     そのあとも釘打さんと僕の応酬は続き、ついに釘打さんは折れてくれた。
    「…………たく。どうなっても知らねえからな!」
     謎の紙で円を作りながら、釘打さんは大声を上げた。
    「じゃあ、そこに二人入って」
    「はい」
     僕は踏み出した。
    「なっつん」
    「……なんだよ」
    「短い間だったけど、楽しかったよ」
    「奈都くん、両親には上手く説明しておくから」
     祝言さんがやってくれるなら、まあ安心だ。
    「んじゃあ、始めるぜ」
     僕たちが円に入ったのを確認して、長い釘を持った釘打さんが何やら呪文めいたものを唱え始めた。
    「おい、本当に良いのか」
    「これで良いんだよ、幣姫。次は幸せになれるかなあ…………」
    「うぬがそれで良いのならもう何も言うまい。じゃが、安心せよ。“向こう”で妾がうぬを幸せにしてやる」
     奈都、と幣姫が初めて僕の名前を呼んだ。
    「それじゃあ、二人とも。さようなら」
     声が聞こえ、大量の釘が雨の様に降り僕らの体を貫く。
     痛みは感じないが、だんだんと意識が薄れていった。
     そして。
     意識を失う前に、僕はふと思い出した。
     
    「また、火車くんとお話したいな。そうだ! 今度、一緒にお茶しようよ!」
      
     先日、別れる前にそう言ってくれた、彼女のことを。
     悪いな、言伝。
     どうやら、約束は守れないようだ。
  • 151 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:52:33 [削除依頼]
    >>145から

    14が終わったので、人物紹介です。
     
    釘打小槌 くぎうち/こづち
    ・釘打家長女
    ・割りと童顔で体格も少し子供っぽいため、高校生といってもまあ通じる
     
    ついに14が終わりました。あと一つ、お話は残っておりますが、別にここで終いにしても構いません。
  • 152 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:53:08 [削除依頼]
    次回、ついに最終章!
  • 153 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:55:41 [削除依頼]
    >>145を先にお読みください。

    15...
    「……そして、二人は幸せになったのでした。めでたし、めでたし」
     全てを語り終えた僕は、一人で小さく拍手をした。
     観客は三人。
     彼らは拍手をしていない。
    「物語はおしまいだよ? 僕は約束通り全て語り終えたわけなんだけど、感想はないかい?」
     微動だにせず、無表情で無口な女性と、両の目から涙を溢し続ける女子高生、そして、俯いて震えている少年。
     僕、焔姫はこの三人にお話をしていたのだ。
     愚かな猫と、愚かな姫のお話を、ありのままの脚色無しで。
     愚かな猫と姫──火車奈都と幣姫が消えてからポッカリ空いた孔を埋めるために神様へと成り上がった僕だが、神様として納まるには不安定で強い力だったらしく、釘打の封印をこの身に受けているため、この神社を一瞬にして再建できるような力はない。だから、こうして祝言さんの力を借り、僕の存在を知って貰おうとしたのだが、失敗だったのだろうか。
     でも、聞きたいと言ったのは彼なんだけどなあ。
    「まったく、どうしたんだよ、人間たち。君らの好きなハッピーエンドのお話じゃないか」
     呆れた風を装って僕は言う。
     場を繋ぐための一言だった。
    「こんなのが…………!」
     少年が呟いた。
    「え?」
    「こんなのが! こんな結末が! ハッピーエンドでたまるか! 兄ちゃんを返せよ!」
     泣きそうになりながら、彼──火車成実は叫んだ。
     うーん。
     猫が否定したように、受け入れがたいものなんだろうか。
     いや、そういう僕だってあまり納得していないのだけれど。
     しかし。
    「まぁ、神様の力を使えば火車奈都を還すことが出来ないわけでもないけど」
    「だったら!」
    「お前は家庭の事情を知っておきながら、火車奈都を還せと言うわけだろ?」
    「………………!」
     成実が息を飲んだのが分かった。僕は少しだけ首を傾げ、更に言葉を連ねる。
    「違う? 僕、何か間違ったこと言った? 言ってないよね? 何? 何で知っているって? そりゃあ僕は神様だからね。それに僕は「焔姫ちゃん」
     言葉が、遮られた。
    「……祝言さん」
    「成実くんを虐めるのは止めてあげなさい。幾ら君が日頃の鬱憤が溜まっていたとしてもね。君はもう君なんだから」
  • 154 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:56:47 [削除依頼]
    >>153からの続き

     静かにそう言って、祝言さんは席を立った。
    「……帰るの?」
    「そうね。私は君とこの子たちを会わせればこの町での仕事は終わりだし、次の町へ行くことにするわ。ほら、貴方たち。彼女が新しい神様、焔姫よ」
    「あ、あの」
     涙を拭きながら、女子高校生──言伝懍音が口を開いた。僕は続けるように促す。
    「何で…………私を、呼んだの、ですか?」
    「なんでってそりゃあ、君が歴史好きってのもあるけどね? 単純に聞いて欲しかっただけだよ」
    「待って、ください……私が歴史好きって」
    「神様だからね」
     最後まで言わさずに、僕は言った。
     大抵のことであればそれで説明がつくし、中々便利な台詞である。
     納得が出来なさそうな事でも、無理矢理納得しようとしてくれる。
    「この町の平和が、彼一人で得られるなら安いもんだろう。なんなら、日本全体の平和と置き換えて考えても良いよ」
    「兄ちゃんが居なくなるぐらいだったら、日本なんかどうなっても良い」
    「おい成実、日本が無くなったら兄ちゃんも住めなくなるぞ? そこら辺、ちゃんと理解してるか?」
     成実の言葉についつっこみを入れつつも、僕は賽銭箱の上で座り直した。
     この賽銭箱、そういう設計ではないため至極当たり前のことだが、座り心地がとても悪いのである。
    「ま、そういうことだから…………って終わるわけじゃないよ。僕だってちゃんと考えてるんだから」
     釘打さんも樂學さんもこの町を出てしまったし、挨拶に行っても暦さんは会ってくれないし、祝言さんだってこの町を出るのだ。
     僕を知っているものが居なくなってしまうのは寂しい。
     ひとりぼっちはさみしい。
    「幸せになったのでした、と締めたけど、二人が本当に幸せになれたのかは分からないんだけどね」
    「ふ、ふざけんな! だから早く兄ちゃんを返せって言ってるだろ!?」
    「兄ちゃんの望みは、戻ることじゃないんだよ。彼が望んでいたものは、お前らの平穏だ」
     その思いを踏みにじるのか?
     今まで散々あんな目に会わして、それでも満足しないと?
     と、言えば、成実は目に涙を溜めたまま口をつぐんだ。
  • 155 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 18:57:39 [削除依頼]
    >>154の続き

    「…………今日のところは退きましょう、成実くん。今の貴方に、彼女に勝てる程の力は無いわ」
     僕らのようなモノの専門家なだけあって、こんなときの祝言さんはシビアである。
    「でも」
    「懍音ちゃんも。私はどっちの味方にもつかないけど、これからこの町も妖怪たちが騒がしくなる筈だから、少しだけ知識を与えてあげる。それをどう生かすかは貴方たちの勝手よ」
     大人に言われ、子供二人は渋々腰を上げた。
    「それじゃあ、さようなら、焔姫。きっともう会うことはないと思うけど、またね」
     祝言さんは一方的に話を切り上げ、子供二人を連れて階段を降りていく。
     僕が着いていって見送ると、ふと成実が振り向いた。
    「焔姫。俺は諦めないからな」
    「僕の大事な半身を再び地獄に落としたいというのなら、また来ると良いよ」
     正直に言えば、成実の大事な兄ちゃんである火車奈都とその主たる幣姫は、釘打さんの行った儀式によって僕を構成する闇の一つに組み込まれている。
     二人の居場所は、まあ、僕らが神世と呼んでいる場所なのだが。
     三人の姿が見えなくなったところで、僕は用意していた椅子を倉庫のような所へ仕舞い、賽銭箱の上に座った。
    「あーあ」
     これからどうしよう。
     人間たちの都合で神様に祀り上げられてしまっただけなので、どうしようもない。僕に神様になる資格は無いのに。
     僕はただ力があるだけの妖怪だ。
    「どうしようとか、そんなの、決まってるよな」
     轟神社は神社ではなく、悪いものらを封じる場所らしい。
     百笑町に歪みを生じさせないためにも、僕は結界を守らないといけないわけだ。
    「まあ、良いか」
     それで良いか。
     僕は本殿を見上げた。
     神社というよりも、ちょっとした屋敷っぽくなっている本殿。
     此処は、死体を拐う死者の神様である僕の砦であり、棺桶のようなものである。
     棺桶。
     柩。
     そういえば、幣姫が火車奈都につけた妖名は灯継だった。
     灯継────ひつぎ。
     中々嫌な連想ゲームだ。これじゃあまるで、妖名で彼が縛られたようなものではないか。
     しかしそれでも、おきてしまったことはしょうがないのだし、“これからは”前向きにのんびり自由に生きていくとしよう。
     ちょっとした紛い物の神様である僕に、「生きる」という単語が使えるのかといえば、それは大きな疑問ではあるが。
     まあ、棺桶だのなんだの言ったって、未来は明るいんだし。
    「さて、と!」
     僕は賽銭箱から降り、一つ伸びをした。
    「まずは地元の魑魅魍魎たちに挨拶回りでもしようかな」
     こうして僕の神様生活は始まったのだった。
  • 156 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 19:00:56 [削除依頼]
    >>153から

    Sarg ──ドイツ語で、棺を意味する。読み方はザルク。
     
    15が終わったので、少し人物紹介
     
    焔姫 ほむらひめ
    ・左だけ長い黒髪に、黒と金のオッドアイ
    ・柿色の着物を着た僕っ娘(?)である
     
    次回、エピローグです。
    まとまりのない、エピローグです。
  • 157 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 19:01:53 [削除依頼]
    >>153を先にお読みください

    Epilogue~Sarg nagel~
     俺は神社の階段を駆け上がった。
    「……来るとは思わなかった」
     賽銭箱の上に腰掛け、柿色の着物に身を包んだ左の髪が妙に長い女性が、静かにそう言う。
    「成実」
    「俺だって、待ってくれているとは思わなかったよ、焔姫」
    「そうだね。僕も待つつもりは無かったけど、お前は諦めが悪いから」
     知ったような口をきく──いや、知っているんだ、彼女は。俺のことを、まるで兄のように知っていて、弟のように見ているんだ。
    「……兄ちゃんを返してくれ」
    「諦めろ。彼は自分でこの道を選んだんだ。それとも、弟を名乗るお前は、僕の大事な半身を再び地獄に堕とせというのかい? このやり取り、三年前にもやらなかったっけ」
     三年。
     そうか。
     兄ちゃんが居なくなってから、もう三年も経っているのか。
     あの時の俺は無力で、ただ退くことしか出来なかったけど、何も、あのまま三年過ごしたわけじゃない。
    「兄ちゃんを苦しめるやつはもう居ないよ、焔姫。だから、兄ちゃんを返してくれよ。俺のたった一人の兄ちゃんなんだ──たった一人の、兄弟なんだ」
    「……そっか。逝去したんだ、美耶子さん」
     死出の姫と火車の猫を呑んだという少女はそう言った。目を細めて、しみじみとそう言った。
     俺は、その言葉に目を見開く。
    「何で、知って」
    「死者の神様だからね。でもまあ、そっか。殺されたんだ」
    「なんだよ。当然だと言いたいのか?」
     まあ、俺は母さんの葬式で泣かなかったけど。
     どちらかと言うと、ざまあみろ、なんて思ってしまったけど。
    「違うよ」
     しかし、焔姫はそうは思わなかったらしく、やんわりと否定した。てっきり母さんを恨んでいるものだと思えば違うらしく、俺は拍子抜けしてしまう。
    「あんな人でも、殺されて良い理由なんて無いよ成実。確かに人間は平等じゃないけど、殺されて良い人間なんて一人も居ないんだから」
    「…………凶悪犯とかもかよ?」
    「うん。どんな凶悪な犯罪者でも、彼らは裁かれるべきであって殺されるべきではない。というか、彼らが死んだってなんも変わらないんだから、様はただの憂さ晴らしだろ」
  • 158 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 19:02:37 [削除依頼]
    >>157の続き

     冷たくそう言う焔姫は、どことなく兄に似ているところがある。
     例えば、その少しひねくれた喋りをするところとか。
     凶悪犯でも、殺されちゃいけないと言えるところとか。
     冷めきって狂気じみているところ、とか。
    「…………やっぱり、兄ちゃんはもう、帰ってこないんだな」
     三年前にはあまり分からなかったが、この三年で理解した。
     いや、漠然とした予想が、焔姫と会話したことで確信に変わった、という感じか。
    「そうだな。ちゃんと分かってくれたんだな、成実」
    「兄ちゃん。俺が分からない筈ないだろ」
    「…………どういうことかな? 僕は」
    「うん。お前は兄ちゃんじゃないけれど、でも、お前は“ハイブリット神様”だろうが」
     この三年。
     色々調べて分かったことがある。
    「あっはっは」
     焔姫は快活に笑った。
     昔兄が良く見せた表情で、笑った。
    「まあね。主人格は僕だけど、なあんだ、心配して損した」
     そう言って、焔姫は女性らしくおしとやかに賽銭箱の上に座り直した。
    「じゃあ、僕が言いたいことも分かるだろ、成実」
    「逆らいたいよ。本当は」
    「良かったんだよ、これで。たまに寂しくなることもあるけど、僕は幸せなんだから。それに僕はお前が僕の立場ても同じことをしたって思うし──いや、お前の方が上手く出来たはずだけどな。はは、そんな顔するなって」
    「だって…………」
    「それじゃあ、こうしようぜ。週一で良いから、僕に会いに来てくれよ。それだけで僕は満足だ」
     時間だぜ、と笑って、焔姫は本殿の中へと消えた。
     焔姫の正体さえ暴けば、素直に戻って来てくれるかな、なんて考えていたが、そう簡単にはいかなかったらしい。
     まあ、兄ちゃんは頑固だからな。俺だって諦めねえけど、見守るしかない。
     あの時。
     材料だと、兄ちゃんと幣姫は言われたらしいが、全くその通りだったのだ。
     兄ちゃんの火車性と幣姫の神様成分を使って、二人を融合させて、釘打小槌という人は神様を創った。
     そういうことだったのである。
    「俺は、諦めねえからな!」
     そう叫んで俺は階段を降りる。
     ちなみに。
     焔姫という存在を確実に存在させ、固定するための封印、つまり心臓に打たれた釘が抜かれ、再び幣姫が神様としてこの町を治めることになるのは、もう少し、具体的には数十年ほど、先の話である。
  • 159 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 19:03:47 [削除依頼]
    Sarg~ザルク~ 完
  • 160 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-10(金) 19:19:37 [削除依頼]
    以下あとがきの様なものですので、読む場合には>>1からの本編を、全てお読みになってから読んで頂ければ。


     改めまして、こんにちは。初めまして。斧嶼深苑と申します。
     今回は素人のただの駄作である「Sarg~ザルク~」をお読み頂きまして、まことにありがとうございました。
     いやあ、完結出来ましたね。吃驚です。本当。
     まあ、完結できた、とはいっても、最初思い描いていた結末とは程遠い結末だったんですけどね。もっと報われないお話になる予定でしたが、祝言さんと奈都が中々曲者でして。動かしやすいというより、勝手に方向を変えてしまうキャラだったので、軌道修正が大変でした。
     本編15章+プロローグ、エピローグの全17章。いかがでしたか?
     僕的には少し満足してしまっています。とはいえ、読者様にとってはあまり気持ちの良い終わり方ではなかったのでは、と思ってびくびくしております。
     それでも、最後まで読んでくださった皆様。
     コメントをくださった皆様。
     また、キャラ募集に応えてくださったるりるん様。
     本当に、ありがとうございました。
     それでは、今作品はこれにて終了です。
     どこかで見掛けたらお声を掛けてくださると嬉しいですが、とはいえ。
     枝葉末節な話、ですねこれは。
     ではでは。
     
       薩摩こと斧嶼深苑
  • 161 RIN id:5UwJ3Tzv

    2017-02-10(金) 21:23:32 [削除依頼]
    完結おめでとうございます。
    お疲れ様でした。
    ずっとファンとして読ませていただいておりました。
    大好きだった作品が無事完結を迎えたことは本当に嬉しいですが、同時に寂しさもあります。
    ああ、終わってしまったのですね……。
    意外な結末でしたが、個人的にはすごく好きです。
    ハッピーエンドとは言いきれないのかもしれませんが、重たすぎず読後感は気持ちのいいものでした。

    御作は一読者としても楽しませていただいておりましたが、書き手としても参考にさせてもらえることばかりでした。
    素敵な作品を本当にありがとうございます。
    次作品がもしありましたら、ファンとして楽しみにしております。

    長文乱文失礼いたしました。
    (>161)
  • 162 斧嶼深苑 id:ixgEnmM1

    2017-02-13(月) 18:07:23 [削除依頼]
    >>161
    RIN 様
     貴方様の様な素晴らしい作家さんに本作を好きと言って貰えて、光栄です!
     この作品は、いかにして最後で読者の予想を裏切るか、いかにしてシリアスの中に楽しめる要素を入れるか、というところに重きをおいて執筆していたので、楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
     最後までお付き合いくださって、本当にありがとうございました。
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