Suicidal War.2

小説投稿投稿掲示板より。


1     [id : bUU.rGM.] [2016-05-08(日) 14:17:44] 削除依頼

10年ほど前に現れ、人々を脅かしてきた怪物、"ファイント"――
そして同時期頃に対抗馬かのように現れ始めた能力者。
それを総括し、防衛軍として強化していく組織、
「クリーガー」に今年より入隊したソラ=シリカン。

彼の能力は、この世界ではとても異質で異端とされるものだった――
その能力を強奪すべくファイント陣営が総力をあげ、
クリーガーに攻撃を嗾け始める――。

118   [id : E5rFg.n1] [2016-09-17(土) 17:48:20] 削除依頼


時刻はいくらか戻る。
まだ日は沈み切っていない時間。
超規模なファイント側からの襲撃の後、
破壊されまくった街がそこには広がっていて、
場所によっては全くもって足の踏み場という物がなかった。
一般市民はそれようの避難場所にいたから
殆ど犠牲はなかったもののしかしこれでは
侵略の大小に限らずどうしようもない状態だった。

その外からクリーガーへと帰還を急ぐ4人ほどの集団があった。
それは通信反応を失ったネク=ラカージオンを探しにいっていた
ホリヴ、パラジス、セミッド、タチーナの四人。

顔つきとても暗い。
理由は単純で、
ネク=ラカージオンの姿が全くもって見つからなかったというもの。
それだけで彼らの不安感だとか喪失感だとかと言った感情が
増幅させるにたるものとなっていて
最初こそ快活明朗で快刀乱麻すら思わせるタチーナ=シナットバルク
までもいまでは物静かになっていた。

「やっぱり……ネッくん……」
頭を垂れてしどしどと歩くホリヴにセミッドが声をかけた
「言いたくはないけど、死んだんだろうね。
ただまぁ、どうしてネッくんの姿がないのかはわからないけど」
「流石にこの規模とか対戦相手とか考えたら仕方ないだろ。
防衛任務なんだからストイックにならないと」
パラジスがセミッドに続く形で告げた。
とは言え言葉の表面上通りの感情と表情をしているかと言えば
決してそんなことはなくて、曇っている。

「パラジス冷たいよー」
力なくタチーナが呟く。
「まぁ、一応俺等の代で犠牲が無かったかってなったら、
そんなことはないからな。寧ろこの規模を考えたら微々なもんだ。
俺らが俯いてたってネクは見つからないだろ」
「…………そう……だけど……」
一番力が無かったのは、ホリヴだった。
当然と言えば当然で、
同室であるとか仲が良いからであるとかそういう事も理由だけれど
何よりも彼が助けられなかったという事。

彼は、彼だけは、個別にネクから言葉を告げられた。
それが救助要請とかではなかったけれど、
しかしホリヴはそこから躊躇う事もなく
ネクを助けようと準備をしていた。
だからこそ今の現実が心の奥に深く刺さっていた。

「俺が……俺が……間に合ってたら……」
そうつぶやくホリヴの背中はどんどんと小さくなっていく。

119   [id : E5rFg.n1] [2016-09-17(土) 17:49:07] 削除依頼


クリーガーの敷地内へと帰還してから
ホリヴは虚ろな足取りでネクがいない軍寮へと戻ってきた。
空白みたいな部屋だった。
空虚みたいな室内だった。
空想みたいな静寂だった。

詰まる所どこか空っぽだった。少なくとも彼はそう感じた。
そう感じて、鑑みていた。
「そうだ……チロにも……いっとこ……うん」
重い足取りのまま、ホリヴは隣の部屋へと歩いた。
歩数にしてドアからドアまで20歩といかぬ距離だったというのに
彼には100mくらいには感じられた。
もしくはもっとそれ以上に。

重いというよりは無意識のうちに
歩幅が小さくなっていたらしい。
とは言え今の彼にそんなこと気づく余裕なんてものはない。
寧ろその様な余裕があるのであれば顔つきからして
とっくに戻っている。

「ち……ろ……」

チロ=ループラット。
クリーガー軍寮の一つの副軍寮長。
少なくともネクがいるとすればその肩書は保持されている。
彼は病弱な人間だった。
その病弱という事もあってか特例的にチロは現在は
部屋を少しばかり縮小して且つそこを一人のみが
使用する拠点としている。
つまりは一人部屋である。

今回の戦線においてもまったくもって呼ばれることはなく
只管に小さな部屋の中で布団の中で過ごしていた。

起きながら。

120   [id : E5rFg.n1] [2016-09-17(土) 17:49:22] 削除依頼


現在においても彼は布団に包まったままで、
寝ぼけ眼交じりの意識でドアが開かれる音を聞いた。

「誰……?ネクか……?それとも、ホリヴ……?」
小さくかすれた様なホリヴの声音は彼の耳には
届いていなかったらしい。
聞き返された言葉こそ聞き取れたがしかしホリヴは
それに対する返事をしなかった。

「どう……しよう……」

「なんだ、ホリヴか……何さ、いったい……」
「ネッくんがっ……ネッくんが……ネッくんが……」
「どうしたんだよ。だからさ。何?お前の中の流行り病?」
飽き飽きといった顔つきでチロは答えた。
彼のもとにはまったくもって
ネク=ラカージオンに関する報告は伝わっていなかった。
もしくは本部側が伝えなかった。

「ネク……?アイツがどうしたんだよ……
確か、新兵のやつについていったんだっけ……?」
「そうだよ。ボイティルちゃんと一緒に行ったんだよ」
「何だ、嫉妬心なのか?ネクとボイティルさんがくっついたの?
でもネクの好きな人別n」
「……ちげぇっつーの」

チロの言葉を強制的に途切れさせた。

ホリヴの顔が目に見えて不機嫌になっていた。
先程の悲観めいた表情から変わってはいるがしかし
そこにある本来の姿が大きく変貌を遂げたというわけではなくて、
やはり混合してどこかしらに不安感が存在していた。

「じゃあ何だっていうの?」
「ネッくんが、多分……死んだ」
「は……?」

121   [id : G3.I6eK/] [2016-09-22(木) 14:43:48] 削除依頼


コンマ一秒と経たずチロは返答をして見せた。
そんな呆れた様な反応しか出来なかった。
そんな反応しか出来ない。

「……え?」
再びチロはゆっくりと疑問符を口にして尋ねる。
それに対してホリヴはもう一度言う。
「だから、ネッくんが死んだんだよ……今日」
「いや……いやいやいやっ……!?」

何度も何度も否定の言葉を連ねた。

「ネクがぁ……!!?
いや……うん、まぁネクは自力自体は弱いけどさ!
それにしたってでしょ!?
幾らなんでも一端のあのファイントくらいにやられるもんか……?」
「そんな……そんな生易しい物だったら……そんなんだったら
俺は怒ってるよ、何事か……って」
チロ=ループラットの眼前にいるホリヴの顔は神妙に見えた。
到底、チロには読み取れるものではなくて
唯一彼が伝播させたい事の代わりに疑義を抱かせた。

「全く……何がどうなったのかわからないんだけど……」
「えっと……えっと……」
ちぐはぐな記憶と纏まりのまま、途切れ途切れにでもどうにか伝えようと
少しずつ言葉を紡いでいった。
「向こうの世界の……俺等みたいな、奴がいて……えっと、
そのうちの一人に殺されて……えっと……」
「……すまん、分からん」
「だからえっと、ボイティルちゃんたちが埋まって
それ助けに行ってその間でえっとえっと……」
「ボイティルさんなら何か知ってるの……?」
その一言を言われてあっ、と思い出したようにホリヴが
チロ=ループラットの部屋の通信機器を取りに行った。

122   [id : G3.I6eK/] [2016-09-22(木) 14:44:11] 削除依頼


「セミッドさん、セミッドさん!!」
通信相手は言葉から判断するにというか言葉上で既に
セミッド=マルケイダという事が読み取れた。
チロも勿論ながらセミッド=マルケイダのことはよく知っている。
(この状況でも、セミッドさんを頼れるくらいには
流石に気が動転してないんだな……)

「来て!!チロのとこ!!!」
『良いけど、どうしたのさ?チロ君にも説明するのかい?
「そう!そう!」

何も言わなかったがしかし
セミッドは彼の口調と現在地とついぞさっきまでの様子とを
比べそしてすぐさま彼がしようとしていること、
彼がしてほしい事を察した。

『すぐ行くよ。確か1階だったよね?』
「うん……!」

123   [id : G3.I6eK/] [2016-09-22(木) 14:44:38] 削除依頼


数分としたころにセミッド=マルケイダが姿を現した。
現在この軍寮の統治者としては、ネク=ラカージオンがいないが故
そこら訪れる云々において特に何か手続きをする必要性は全くもってない。
というよりは出来ない、と形容すべきであるけれど。

「で、えーっと何処から説明するべきか……なぁ……」
「とりあえず、ネクが死んだという事は聞かされました。
だから、何で死んだのか、と言うのを」
「成程ね、まぁそこは僕は直接対峙した訳じゃないし
寧ろ後からやってきた側の人間だから
細部までは知らないけれど、それでも十分伝えることはできるよ」
「ありがとうございます……」
軽く頭を下げた。

そこからセミッドは室内を少し見渡すと、
近くにあった紙とペンを手にして三人で囲むめるように
置き、且つ座った。

「まず……はネッくんは今日ボイティルとかと一緒に
野外に出て行う新兵たちの討伐訓練に同行した。
多分話位は聞いているだろうけど、
ここ何日かはファイントの襲撃量が増えてるから
ネッくん何かにも声がかかったんだよ」

「でもアレ実際に危険になったら、
同行してる側の人たちが助けてくれるって物ですよね?
しかも新兵の隊長は少将以上だった筈ですし
たかだかファイント程度に負けるネクじゃ……」
「そう、まぁネッくんが弱いとかどうとかは別にしても
一年クリーガーとして任務にあたっていれば
ファイントぐらいどうってことはない。
特に人数がいるからね。
でもネッくんはそうはいかなくなった」
「?」

チロの頭にはハテナが浮かび上がっているようで、
いまいち理解しきれているという表情ではなかった。
当然それはセミッドも重々理解している。

「まず最初に、今回ばかりはおかしい事に、
敵の配置からまず違ってたんだよ」
そこでようやくセミッドはペンを構えて
サラサラと紙上に描いていく。

124   [id : G3.I6eK/] [2016-09-22(木) 14:44:55] 削除依頼


本部という文字を書いてそこを丸で囲んだ。
その横に方角を示す記号を描いた。
「この辺りは僕も記憶半分だし聞いた話だからアレなんだけど、
確かファイントを東西南北バラけて現れたんだよ」
そして紙上に新たに点を幾つも描き足して行って、
それがファイントであると示唆した。

ホリヴもその場にはいたがしかしずっと聞きに徹していて
特になにか言おうなどとは全くもって考えていなかった。

セミッドは説明をつづける。
「チロくんでも流石にわかるだろうけど、
この状況のままならネッくんが危機に瀕するとかそんなことはないよ」
「そうですね……幾つかに戦力分散させるだけで普通に対応出来ますよね」
「そう、その通りだよ。しかもこの隊の隊長はレヴァン=ロジリア少将。
流石に理解できてるはずだ」
じゃあ、何で。

そう言葉にしかけるチロよりも先にその解答をセミッドが提示した。
「そこに新しく、勢力が入ってきた」
「せい……りょく?」
かしげる小首の数は増える。

「新しいファイントですか?」
「それもあったらしい。人みたいな形をしたものとか、
よく見るミミズっぽいものの巨大版とか……。
けどそんなの雀の涙みたいなものなんだよ」
「いや……それ以上のものがあるんですか……?」
「兵士」

125   [id : c7Ib2Fq/] [2016-09-25(日) 10:18:55] 削除依頼


言われて数秒、チロは固まった。
意味を理解することが出来なかった。
しかし首はかしげず、ずいっと顔を寄せて、眉間にしわを寄せた。
「僕らが戦っているファイントって言うのはそもそも
あれ自体が生物をなしているわけじゃなくて、
それこそあの通信機とかと似た様なものなんだよ。
つまりある程度のプログラミングの上で動いているんだ」
「それは……ここでの授業で習いましたけど……」
「あれが、プログラムだとすれば、作り手がいるはずってことだよ」
「……!」
つまりは、ファイントを送り出す世界からの遠征兵だ。
セミッドはゆっくりと告げた。

「で……でも……だからってネッくんがピンポイントで死んだなんて……」
「まぁ、死は確定していないけどね。
追加のファイントの話をさっきさーっと流したでしょ?」
「はい……?」

先程の紙に再び色々と描き足していく。
「さっきのでっかいファイントが大量発生してしまった。
これは一大事だ、仕方がないからやむ終えず、
ある程度の戦力分散を認めるべきだ、ってなったらしい。
とは言えまぁ新兵全員が戦闘に慣れているわけではないから
殆どがここに帰還するってことになった。
で、ネッくんは帰る側、ボイティルが戦闘側」
(まぁ、ネクは戦闘に強いってもんじゃないし、普通か……)

「更に苦難は重なって、さっき言った兵士がボイティル達の元に
その兵士が攻めてきたんだよ」
線を紙上に幾つも引いていってその威力だとか脅威を指し示す。
「紆余曲折あってボイティル達は動けなくなった、
だからネッくんは助けに行ったんだよ」

「……?ボイティルさん達が動けなくなったって事は
その兵士ってどうなったんですか……?」
「そ、それが恐らくだけど、
ネッくんがいないってことに一枚かんでいるんだよ」
敢えてセミッドはあやふやに、曖昧めいたような表現を口にした。

126   [id : c7Ib2Fq/] [2016-09-25(日) 10:19:40] 削除依頼


彼自身の内ではネク=ラカージオンの死というのは
死体自体が存在しないという疑義以外を除いで
殆ど確定しているようなものだった。
というよりそれ以外の可能性が考え付かない。
通信機の反応からほぼほぼ言える事であるし
更にはタチーナ=シナットバルクのもの探しの能力すら使ったのだ。
これで更に新しい可能性だとか生存場所を考えることはできない。
そして無慈悲ながらネク=ラカージオンが誘拐されたとか
そんな場合は考慮していなかった。

理由は端的に彼に、ネクにそこまでの価値というものは乏しいから。

つまるところやはりネク=ラカージオンは強者ではない。
それを理解したうえでセミッドは死を告げなかったし更に言えば
その生か死か、と言うのを少しでも
本人たちで受け止めさせようとしていた。

「概ねの敵の詳しい移動理由とかは省く……っていうか
こればっかりは僕もよく知らない。
まぁとにかく敵がこのあたり……えーっと確か
東側。そこからずーっと西方向に進んでって
ネッくんと鉢合わせしてるっぽいんだよね」
「え……その……ええと、敵?の兵士ってやつがですか」
「うん。それで、通信が途中で途絶えて、今って感じ」
「……」

とは言え流石にチロにも今までの話で充分に
幾度も死に関してはぐらかされたとはいえ
彼が、ネクが死んでいると理解していた。

その解釈は全くもって事実で間違ってはいない。
ただしその証拠だけが上がらないだけで。

127   [id : c7Ib2Fq/] [2016-09-25(日) 10:20:10] 削除依頼


「ただまぁ不思議なことにネッくんが死んだっていう
物的証拠っていうのかな、いわゆる死体遺体がまったくないんだよね。
あるのは彼がいないっていう事実のみで」
「……?」
「ネッくんが例えば消し飛んだとか
考えようによってはあるのかもしれないけれど、
その場合僕らが見てきたその
ネッくんがいなくなった現場が変だったんだよ」
「変?」

一拍置いた。
「――現場からネッくんが使ってたと思しき銃があった」
「? どこが変何ですか、それのどこが……」
「んーとね、簡単に言うと……」

分かりやすいようにと再び床上の紙上にペンを走らせる。
そこに書かれた文言は二つで、
"消し飛んだ"という五文字と"それ以外の死に方"
の二つ。

「まず消し飛んだとしよう。
例えばパラジスの力をもっと強くした感じとかイメージすればいいよ
その場合到底ネッくんの銃だけが残ってるっていうのは変でしょ。
消し飛ばしたとしたら、普通銃だって粉みたいになる。
剣は残ってなかったんだ」

「あぁ……なるほど……で、それ以外の方だと
ネクの姿が無いのがおかしい……と」
「そういう事。まぁその話したってネッくんが見つかるわきゃないし
可能性として誘拐されたって事が万一にあるかもしれない
他にもまぁ考えられるパターンは大量に存在してるんだよね」
「…………」

128   [id : ehg4xnP/] [2016-09-29(木) 19:14:35] 削除依頼


鉛みたいな空気だった。
そんな空気が沈殿していた。

129   [id : ehg4xnP/] [2016-09-29(木) 19:15:04] 削除依頼


訛りみたいな空気が到底似つかわしくない
その空間で依然として抜ける事のない訛りを悲しくも発揮し
リッグと話し続けるイブク=ニケルマーノ。

リッグの落ち込み様だとか失望だとかは凄まじいもので
とてもじゃないがイブクとは比べ物にならない。
別段イブクが薄情だとか負の感情に関して乏しいわけではない。
イブクにも十二分に備わっている。
現に彼が軍階級保持者のソディア=バージスナイトに
叱られたときには世界の終わりすら感じさせるほどに項垂れていた。
頭を垂れていた。

単にこれはリッグが落ち込みすぎているというものだ。
彼は、リッグは己の容貌だとかの所為もあって
人とかかわるスキルが乏しい。
それこそイブクと比べて雲泥の差だった。
だからこそ他人に依存する部分が大きかった。
いうなれば大きなパズルのピースが一つ欠けている状態だ。

「…………
レヴァンさんの……俺んとこの隊長さんの
言い方からして別にしんどる訳とちゃう……やろ……」
「……でも……な……」
「俺は、ソラが死んだとか信じーへん。
何もまだ分っとらんのに勝手に決めつけとったら
ソラが生きとったときに失礼やろ」

「俺は……そんな、イブクみてーに割り切れないんだよ……」
「あ?」
顔をずいっとイブクはリッグに近づけた。
鼻と鼻が目と鼻の先な状態だった。
「自分なァ……!!」
「な、なんだよ……」
「自分だけが悲しいとかおもっとんとちゃうぞ!!
てめぇ一人の問題とちゃうぞ!!!
ソラはリッグ一人のもんか!?ちゃうやろ!!!
アイツはアイツでしかあらへんやろ!!!
まぁリッグは俺のもんやけど」

怒号。
リッグからしてもとてもじゃないが
普段からお目にかかれるような声音でも声量でも無かった。
だからこそリッグはその珍しさがゆえに固まった。
言い返すこともなくフリーズして彼の言葉を聞くほかなかった。
イブクが最後に冗談めいたように混ぜ込んだ本心の言葉に
彼は実際に何も反応を見せない。

130   [id : hN/pUSW1] [2016-10-02(日) 11:40:30] 削除依頼


「兎に角なぁ!!
悲しいのは自分だけとちゃうし俺かて幾分と悲しいわ!!!
だからってしゃーないやん!!!!」
「…………だか……らって……」
途切れ途切れにちぐはぐに返答する。
「うるせぇ!襲ったろか!!!」
「ぎゃあああああっっっっっ!!!!」

イブクが有無も言わさずリッグを押し倒した。
リッグの頬が赤くなる。

「おまっ……待て!!待て!常々やばい奴と思ってたけど待て!!
早いとか遅いとかじゃなく違うからやめろっ!!!!」
それでもぎゅう、とイブクはリッグに抱き着いてくる。

「いい加減にしろッ!!!!!
弾き腕(リプリング)ッ!」
「っ!?」
バチンという音がしたかと思うと、イブクが空に舞っていた。
そしてそのままリッグがいた方とは真反対の壁まで飛ばされていた。
リッグの能力が発動されていたのだ。
ソラと共にして行ったテストにおいて見せた、
力を弾くというソレを。

「あっ……ごめ……いや……」
お前が襲ってくるから、
そんなことを言おうとした。
しかしリッグが言うよりも先にイブクが怒鳴りつけた。
「コレで気ぃ紛れたかッ!!!」
「へ……?」
大きい音を伴って壁に当たった腰を抑えながら
イブクは言葉をつづける。

「ジブンこれでもう泣いとらんな!!?
まだやったら更にイッたるし寧ろその方が有り難いんやけど!!
どないやのさ!!!」
「あ……」
べその後はある。
けれど涙はもう無かった。

枯れきったかのように気は少しだけかもしれないけれど
もしかしたら気のせいなのかもしれないけれど
とりあえず今は気は晴れた。気は変わった。
リッグは今そう思ってる。

131   [id : hEpJdq.0] [2016-10-04(火) 15:26:32] 削除依頼


そして更にイブクが最後に言った言葉の意味を理解した。

「てっめイブクなんて事言ってんだ!変態!!」
「よぉし、いつもの調子出てきたみたいやな!
今日は、コレで乗り切れるやろ!!」

びしぃっとリッグを指さして叫び終えると、
すっと立ち上がり、部屋の両脇にある扉のうち一つをガチャっと開けた。
そして「あ、こっちや」
とつぶやいたかと思うとそのまま入っていった。
その部屋は、リッグの自室だった。

クリーガー軍寮の部屋、そしてその中の自室に。

「…………」

数秒間が経った。
リッグの思考回路が正常に戻るまでの時間だ。
「待て!!!?」
途端にイブクが消えていった方向に、
即ち自分のみの自室の方に駆け込んでいった。

「おいコラァッ!!!」
「なんやのジブン。落ち込んだり怒号上げたり忙しいそうやん」
「片方はお前のせいだぁぁぁっ!!!」

そしてそのリッグの自室でくつろぎ始めようとしているイブクに向かって
体当たりを繰り出した。
さも当然のようによけられた。

と言うよりは単純にイブクからしてみれば手慣れたものであって
リッグのそんな反発は日常茶飯事で
特に今回のものはよけてくださいと言わんばかりのものに見えていた。
そもそもぶつかったところでイブクには何もダメージとかはない。
「う……嘘だ……避けた……!?」
「いやいや、避けろいうとるような体当たりやったし……」
「だって何時も喜んで受け止めてる気がしたから……」
「あ」

若干の後悔。
それから今度はイブクの方からリッグに体当たりしていこうとする。
だがその寸前で踏みとどまった。踏みとどまれた。
彼のエレメンターの能力、弾き腕(リプリング)がちらついたのだ。
下らない頭脳戦、探り合いの戦いが静かに且つ小さく幕を開けた。

兎にも角にも少しばかり、イブクが見る限りでは
リッグは平常心を取り戻している。安堵らしきものを取り戻している。
イブクも安堵した。

132   [id : hEpJdq.0] [2016-10-04(火) 15:26:45] 削除依頼

   ■   ■

133   [id : VBMnNAl1] [2016-10-07(金) 17:17:26] 削除依頼


翌日は大混乱を極めた。
まず手始めにそもそもの原因となる超規模の侵略戦争について
世間から糾弾された。
今までこの国の、この地の国防として遠くからも
幾らかの強制力を伴って適合する存在を兵としていた。
そんな事情もあってか今のこの状況やら
クリーガーの在り方を強く批判された。

新聞からテレビからラジオから雑誌から、
パブリックなものに、一般に伝わる媒体に
クリーガーの批判は強く載った。
そしてそれは当然基本的にクリーガーの敷地内の寮に住んでいる
者たちにもその一連の批判やら意見やらは伝わっていた。


「おい、これ見てみろよ!」

「クリーガーの国防としての存在は今のままで正しいかだぁ!?」

「何だよコレ、昨日の侵攻だろ!?何がどうなってんだよ」

「何人かクリーガーからいなくなったらしいぜ……」

「何コレ……昨日こんなに酷かったのか……?」

「えええ……何コレ……俺等こんなんを敵にしてたのか……」

「クリーガーって本当に強いのか?」

134   [id : VBMnNAl1] [2016-10-07(金) 17:17:40] 削除依頼


数多の声が数多の場所で飛び交う。
それは独り言であるし、友人との会話であるし、先達に向けられた
沢山の質問であるし、全てが己の所属への事である。
且つ批判であって、驚嘆であって、疑問であって、
不安であって、期待であった。

しかしながらクリーガーのに関する内部事情は敷地内で
殆どが留まっているが故に
ムーリベ=トレイヤルの裏切りであるとか
ネク=ラカージオンの死亡であるとか
そして異端者ソラ=シリカンの誘拐であるとかは
公にならなかったしさらに言えば噂が少し出回る程度で
詳しい事を知るのは一握りだった。

――とは言え、
軍階級保持者が消えたこと、
軍寮長が消えたこと、
そして新兵第四隊から一人の兵士が消えたこと。
この事実ばかりは消えようが無い。
みれば皆わかるし、不審に思うというものだ。

第四隊におけるソラ=シリカンの消失は
レヴァンとリヒストによって早急に伝えられたし
軍寮もネクが消えた今
もともと副寮長だったチロ=ループラットが一つ位をあげて
更にその下にいたホリヴが副寮長になった。
但しあまりにも唐突ということもあり
その下……つまりはホリヴが務めていた軍寮専務の部分は
空席と化している、

しかしながらムーリベ=トレイヤルの分はどうしようもなかった。
彼の戦力を代理的に埋めるわけにはいかない。
軍階級は基本的に職務も存在するが
それ以上に階級は戦力を表す。
つまり代理的にいれただけでは何も意味をなさない。
幸か不幸かムーリベはレヴァンのように新兵の隊長を務めている
といったことはなくそのあたりの打撃はある程度少なかった。

135   [id : 9xx9VNE/] [2016-10-09(日) 15:48:29] 削除依頼


――クリーガー施設内の会議室。
時刻は夕方と言う頃で一般兵たちは既に軍寮に帰るなり、
自宅に帰るなり、戦闘訓練を自主的に行うなり、と
自由時間になっている。

軍階級保持者が全員集められた。
レヴァン=ロジリアもリヒスト=ニッグルバーもそこには当然いた。
他にもネクの先輩にあたるセミッドやパラジス、タチーナも。
軍階級は総大将にしてクリーガートップであるのベル=ジンクルス。
彼が重々しい口調で言葉をその場にいる全員に伝えた。

「我々は、貧窮している」
そのまま続けた。

「今回の超規模な侵略戦争において辛勝を収めた。
いや、本来であれば……規模を鑑みれば
受けた被害というのは十分大したものだと思う。
しかし確認がとれた段階ですでに3名が
クリーガーから消えてしまった」

緊張の面持ちで皆がその発言を聞いていた。

136   [id : 9xx9VNE/] [2016-10-09(日) 15:49:14] 削除依頼


「戦力の強化も当然必要だ。つまりそれに伴って
教育を、教鞭をとる者たちを増やす必要がある――と
私は考えている。皆の意見を聞かせてくれ……」

重い沈黙。
状況と人と。
数多の要素があってか最初に口を開こうと試みる人間は
一命を除いてはいなかった。
この場において、司会を務めているビスマ=イクスバートも
何処か緊張的なものを感じ取っている。

「あの、いいですか」
「あ……えっと少尉の……セミッド=マルケイダ……」
「はい。結論から言うと……
別に教鞭とる立場を無理に増やさなくてもいいんじゃないですかね」

「……何故そう思う?」
「そもそもの話、今のままでもあからさまに
不足しているとは感じませんし、
増やしたところで戦力増強に繋がるとは限らないかと。
せめて増やすならチーム結成の権限とかの方がいいんじゃないですかね」

「俺もそっちの方が正しいと思いますね」
レヴァンが不慣れな敬語を交えながらセミッドの意見に賛成した。
「去年に比べたら随分早いけど、事態が事態だ。
統率力ありそうな新兵だって幾つかいますよ」

「そーそー、そーですよ。レヴァン少将の言う通りですよ。
正直隊毎の訓練とか、軍寮長経験して少尉になるとか、
そんな規則&規則みたいなのもこの際撤廃しましょうよ。
最低限の戦闘教育だけして実力重視とか……」
セミッドの口が過熱する。
そして根底も根底なところまで口にしそうになったその寸前のところで
隣にいたパラジスが止めに入った。
「セミッド、流石に言い過ぎだ」
「……はぁーい」

少しばかり不服そうな表情でセミッドは意見を一度止めた。

137   [id : Z/KScBq1] [2016-10-12(水) 17:52:56] 削除依頼


「まぁ、兎にも角にも教育者にまでしなくてもいいじゃないんですか。
戦力枯渇は実際してるとは思いますけどね」
「有難う、一つの意見として留めておこう」

張りつめていた空気は依然として重いまま、
空気の抗生物質が鉛にでも変化したのかと言うほどだった。
「……他に……意見があります方がいらっしゃいましたら……」
とは言えこの状況で言葉を口にしようとする人間は
やはり現れなかった。
一番意見を言える……と言うより軍階級を
上限関係ではなくただの肩書であって一つのプログラムだとかの
構成物質で、たった一人を特定するためのうちの要素だとしか思わない
少尉であるセミッドは現在口を噤んでいる。
第一何か言おうとしたところでパラジスに止められると
彼は理解している。した。

噤んでいるがしかし言いたげな雰囲気もあった。
「セミッド……弁えたうえでなら言え」
「よっしゃ……えっとコレ、そもそもの疑問なんですけど、
なんでクリーガーって士官の中で、
尉官と将官はあるのにそれ以外……だからそれこそ
間にある佐官だとか准士官とかは存在しないんですか」

「…………」
「……」
誰もが唖然とした。
普通すぎて、当り前になりすぎて、それがさも当然すぎて、
日常になりすぎて気づいていなかった。
それはまぁセミッド自体もとりたてて
前から気づいていたわけではないし寧ろそれこそ
気づいてからまだ数日程度しか経っていない。

「たし……かに……」
リヒストが呟いた。しかしながら
その声は小さすぎて誰にも届いていなかったけれど。

「……そういえば自分も聞いた事無かったですね……
ていうかいままで気づいていませんでしたけど……」
「まぁ、この国……と言うか自分たちには本来であれば
そういう軍隊とかには無縁でしたから仕方ないと言えなくもない……
ですけれど」
フォローを含めた。

138   [id : IEnbkwD/] [2016-10-14(金) 22:12:18] 削除依頼


「それについては……」
ベル=ジンクルスが口を開いた。
「当時の時点での兵士数が圧倒的に無かったが故、だ。
そもそもの発足の時点でボロとでもいうべき点が幾つも存在していた……。
当然ながら後々に不都合が生じる部分は改善したが、
今回のような士官の位の件については
特に目立った不都合はないという判断によるものだ」

「成程……。じゃあこの機に発足させればいいじゃないですか。
今回の侵略戦争の戦歴の繁栄を加味するのを兼ねて……」
「だからセミッド……下手に改定めいた発言をするなと……」
「いや、いい……確かに、
今回を期に少しばかり手を加える必要があるかもしれないな」

セミッドが行った発言、そしてそれが肥大化した発言は
次第に階級保持者全土にいきわたり、そしてその発言における
新たな階級の投入とそれに因んで階級保持者の参入と改定の
決議が行われる運びとなった。

「まずは……軍階級の中に新しく佐官を入れる事について……
反対か、賛成か。端から一人ずつお願いします……
まずはセミッドから……」
「僕はまぁ決議の発端なので賛成派で……」

そうして端から順に行われていく。

最終的な決定は、半数以上……さらには8割の支持により
佐官が新しく追加されることになった。
次に今回の超規模な侵略戦争において
明確な結果を残した者の昇格か否かということ、
そして今まで尉官だった人間たちの対応である。

ベルが真っ先にそれに関しては意見を述べた。
「尉官は基本的にそのまま佐官のままとする……
但しリヒスト=ニッグルバー等々の一部の戦士等に関しては、
昇格を考えるものとする」
「この発議に異論がある方は……?」

ビスマがそう言う。
当然ながらと言うべきか一人として異論を放とうとする人間はいなかった。

139   [id : d./PlbA0] [2016-10-16(日) 08:02:23] 削除依頼


そして時間は刻々と過ぎていった。
侃々諤々であったかどうかは別として、
一通り話は進み昼頃に始まったその会議は
夕刻には終わりを迎える事となった。

中身自体は今回の超規模侵略に対する兵士らの
戦功に関する事と被害者……つまりは
3名の兵士とこの戦争において甚大な壊滅となった場所に関する事のみ
とは言え量だったからこそ本来であればもっと時間がかかることであったが
しかしこうして無事に終えた。

「では、これで会議を終わります。
新兵隊長……とくにレヴァン少将は特に多いのでよろしくお願いします」
ビスマのその言葉で皆、席を立った。

パラジスとセミッド、そしてタチーナの三人も席を立ってともに帰った。
「パラジス、タチーナさん、行きましょうか」
「おうよ!」
「ああ……」
二人の返事は何処かしら反する部分があった。
とは言え馬が合わない訳ではない。

「……ネッくんの事に関して、すぐ終わりましたね」
「仕方ないだろうな……アイツは言ってしまえば、
ただの一般兵より少し偉いだけだし」
「死んじゃう人だって少ないわけじゃないけど、
ゼロってことでもないしね。
そのうちの一人って扱いにしかならないんでしょ」

誰彼も、ネク=ラカージオンを知る者からしてみれば、
彼と言う人間はやはり弱いという評価であるし、
それ故に印象としては不十分なまでについてなくて
所謂取るに足らない存在と全体として思われていた。

だからこそ彼の死はただの死の扱いである。
強いて言えばファイント陣営の兵士と一対一で戦ったという特異点だけは
ピックアップされたのだけれど。
しかし結果としては負けとなっているわけであるし
そのネクが対峙した兵士……古老であるフェルゼンはネクを倒してから
ソラ=シリカンを攫っていった人間として直接的に関わっているから
その特異点も悪手みたいな扱いをしようとする人間が
少々であるがいた。

つまりは、ネクがもっと手練れであれば結果が、
全体的なソラであるとかの問題も解決できたというものだ。
しかし当然そんな発言は即刻、ベル=ジンクルスとセミッド等によって
潰えてしまったのだが。

140   [id : sW9mVJT0] [2016-10-22(土) 13:18:23] 削除依頼


「そういえば、ネッくんの部屋ってどうなるんですかね。
彼確か実費で色々あそこに買っては置いてましたよね……」
「捨てる……とかになるんだろうよ」
「何だか勿体ないのもそうですけど無慈悲ですよねぇ……」
遠くをみながらセミッドが呟いた。

「兵士とはそういうもの……という事だろ」
「そーそー。死ぬ覚悟がどうとか、授業でやったでしょ」
「まぁ……やりましたし
タチーナさんよりよく覚えている自信ありますけど……」
「おおっ!嫌味をいうねぇッ!」

タチーナが前をいくセミッドの後頭部から頭頂部にかけてを
右手でつかんだかと思うと笑顔を見せた。
裏のある笑顔を。

「あっっっれえ……さっきまでしんみりしてましたよね?
急に嫌悪感が露わになられているのですけど、タチーナさん
いったいどうなされたんですかねぇ……」
「セミッドわざとだろソレ」
「ソンナコトナイッス」
「お前こそ不謹慎な野郎だな」
「いやぁ……少しでも和めば……と」
「最初に言ったの嫌味だったじゃんか」
「そうですね、後付けという事になります」
「私の方がやっぱ正しいじゃないか!!」
「はいはーい」

突如として巻き起こった雲をつかむかのような、
言ってしまえば無意味すぎる会話であり
それを聞かされるだけのパラジスが呆れてため息をついた。

(相変わらずだな……。
上手い事自分から口にした悲観とかの話を変えたな……)

141   [id : 4o5JR1p1] [2016-10-25(火) 16:54:15] 削除依頼

   ■   ■

142   [id : 4o5JR1p1] [2016-10-25(火) 16:54:51] 削除依頼


「よっ、レント!」
新兵第四隊用の教室。
そこの扉を開けたイブクは一番最初にレント=ラドリアに向かって
声を張って挨拶をした。
しかしレントの反応はというと
「……イブクか……」
暗かった。

「なんやの、一段と元気ないやんか」
「別に……まぁ……疲れたってところだよ……」

もともと明るい人間ではなかったし
人様に興味を……
大した興味を持とうとはしない性格ではあったが故というべきか、
まぁつまりはそこまで活気だとか活発だとかとは違い、
どちらかと言えば遠くから眺めるような人間だった。

しかしそれにしても、暗かった。
いつも以上に……というかいつもとは違った方向で暗かった。
無口と言うか先程レント自信が言ったように、
疲れていて、無気力に見えた。

「……何かあったんか?」
多分、あの侵略戦争か。
イブクが予想していた通りでレントは小さくうなずいた。
だとしたら、
「ソラ――か」
「お前、目敏いな……。そんな奴だったか?」
「はっはっは。せやろ、色々あったっちゅーこっちゃ」
主に隣にして戦ったイオ=ソイラルのお陰というか
彼女のせいというか、のものである。

「まーソラ関連や言うんなら、
そこまで気負いせんでええと思うんやけど」
「俺はお前くらい楽観的じゃないんだよ。
お前位バカになれたら楽だけどよ」
「……けっこーレントも口悪いな……」
「も……?」
「ん」
ふっと指をさした。

今現在猫をかぶった状態で同じ隊の人間との交流をしている、
イオ=ソイラルの方向を。

143   [id : rmsynhx0] [2016-10-28(金) 18:01:25] 削除依頼


「えっと……誰だっけ。なんか男子がしょっちゅう話してた気がする」
「流石やな、レントらしいわ」
人に興味がないという真骨頂。
無興味の成れの果て。
本来であればアスタとかの特殊すぎるタイプを除いた男子であれば
知っているのが普通だった。
まぁ特殊と称されたアスタ=ユークリッドであるが
その知性、知力をもってしてイオの名前どころか
この新兵弾四隊の人間であれば全員の名と大体の能力を知っている。
らしい。

本人がそう主だって口にすることはなかったが故だが
そう噂をされていた。
流石のレントでもアスタは知っていた。
ただしイオは知らない。

「イオ=ソイラル。外見取りつくろーとるやつや」
「ああ……そういえばそんな名前だった気がする。
美人だ何だってみんな言ってるし」
「中身はぶっちゃけしょーもないやつやで。
神さんが外見良くし過ぎたからバランスとるために
性格わるーしたんとちゃうの」
「そうなのか?皆イオのこと好きそうだけど」
「だからとりつくろーとる言うたやろ。
一緒に戦ったらホントボロ剥がれまくりやったで」
「まぁ興味ないからいい」
「レントらしい」

再び笑った。
そのあたりでレヴァン=ロジリアが入ってきた。
顔つきがとても重苦しかった。
「っ……っと……」
さらには慌てているようだ。

「一昨日は、すまなかった。
お前らを危険な目にあわせてしまった、と反省はしているつもりだ」
机の前でレヴァンが頭を下げた。

「とは言え結果としては本来だったら勝ちといってもいいもの。
だが新兵第四隊としては負けだ。
戦力を一つ失ってしまったから……な」
見たことが無い。
ここまで項垂れているレヴァン=ロジリアという隊長は。
それが第四隊の殆どの兵士が思った事で、
例外と言うのはアスタだとかの特殊人種や、
レントみたいな無興味の真骨頂を人にした輩である。

「お前らはよくやってくれたよ」

静まり返ったままの空間。

144   [id : .tsVQJD.] [2016-11-04(金) 20:53:36] 削除依頼

※テスト

145   [id : .tsVQJD.] [2016-11-04(金) 20:54:04] 削除依頼


「それで……今回の新兵討伐戦として……
ではなくなってしまったが、戦功をやるつーことになった
該当者は、戦線に残った人間全員。功績はCランク。
そして3名だけ、功績はBランクだ」

隊内がざわついた。

「一旦静かにしろ……。
っと、アスタ=ユークリッド、イオ=ソイラル、
イブク=ニケルマーノの三名だ」

再びざわついた。

「またか……」「流石つーことか……」「イオ……イオさんがっ……」
「すげーな、ウチの隊」「アイツら何してたんだよ」「ええ……」

「だから黙れ。それに伴って、だ。
アスタ、この後俺と一緒に来い。会議室だ。
この後の訓練のことはもうすでに話を通してあるから気にするな」
「え……あ……はい……」

アスタにしては珍しく、少しばかり間の抜けた返事をした。
彼であっても予期していなかったらしい事柄だった。
「それじゃあな、最初の訓練に備えてろ、以上。
アスタ、行くぞ」
「はい」

146   [id : .tsVQJD.] [2016-11-04(金) 20:54:31] 削除依頼


そうして二人が部屋を出て行った。
二人が消えた後の新兵第四隊は騒音を極めた。
イブクはつけ上がっているし、イオは周りの人間……主に
男子兵がざわざわと声を上げ始めた。

「どやさ!俺B級やぞ!!」
「B級のランクがよくわからん」
「俺とアスタとそこの猫かぶりが唯一もらったもんちゅーこっちゃ」
「イオさんが猫かぶりって何言ってんだよ、お前」
イブクの言葉に周りにいた人間が笑いごとを挙げた。

「お前らこそ下手に褒めるとコイツ阿保ちゃうかってくらい
つけあがんで。おっ.ぱいだけにつられたらあきまへんよ」
そういいながらちらりとイブクはイオの方を見た。
平静を装っている。
そう、装っている。イブクにとってはそう見える。
周りの人間が彼女は何も気にしていない、と評そうとも。
ていうかそうだから、と信じ切っていた。

「イブクくんにはそう見えてるのね」
「見たからな」
「別に気にするつもりはないけれど、誤解されるのは嫌だわ」
「……まぁええわ」
煽っても人目があると意味がないらしいと判断してすぐに引っ込んだ。

それからイオから離れて訓練に備えた。

147   [id : .tsVQJD.] [2016-11-04(金) 20:55:14] 削除依頼


最初の訓練は、カリュー=ムーラントによる戦術訓練だった。
「第四隊は特に戦線で疲れてるだろうが、
それでも訓練は真面目にやってもらうからな。
あと、上との会議の結果として
全体的に戦闘訓練関係はレベルアップするぞ」

数多の「えー」という不平不満の声。
その声に対してカリューは言葉を変える。
「現状を考えたら戦力の向上と言うのは避けられないんだ。
君たちへの負担を極力減らした上で行える等に
我々教育側、先達側としても尽力してる。
それと共にコレはある種で高評価であるとも言えるもんだぞ」

さてと、と一度間を置いてから左手に持った
バインダーの紙をチェックし話をつづける。

「レヴァン少将からはアスタ=ユークリッドとソラ=シリカンがいないのは
伝えられたが……それ以外に欠席者はいるか?
……っと、いないようだな。よし、始めようか」

そうして左後方に準備させておいたボードを持ってくる。
ペンを取り出してボード上に色々と書いていった。

「戦術訓練、その実践ってことで今回は自力を鍛えてもらう。
簡単に言うと知力をメインにして、
エレメンターの能力は常時発動者以外は使わないということだ」
更に今度は右後方に置いておいた箱から
刀を一つ取り出した。

「コイツは木刀だ。強く当たると痛いけど今回は大丈夫だろう。
えーっと……一番前の……っと君、名前は?」
「えっあ、ヴぁ……ヴァイキオ=ゲルマーです!」
「よしちょっとシミュレーションするから前にきてくれ」
立ち上がったヴァイキオにカリューは木刀を渡した。

「えーっとじゃあ、まず大体向かい合って
大体、つま先から木刀二本分くらい離れてくれ」
「はい」
「で、この状態で足は動かさずに打ち合う……つーもんだ。
実際の戦闘じゃ四の五の言ってられないが、
今回ばかりは急所と目を狙うのは禁止だからな。
……昔手押し相撲とかやった思うけど、考え方的にはアレだな……
っと、これで一応分かったか?」
それからカリューの指示で列を成してから開始されていった。

148   [id : LvIxN40/] [2016-11-06(日) 14:59:04] 削除依頼


「なあ、イブク」
「なに?」
ついになって打ち合う相手のリット=イェリスムはイブクに話しかけてきた。
「前言ってたイオ=ソイラルと一緒に戦ったってホントなの?」
「はぁ?またかいな。前言うたやろ」
「幾ら彼女持ちのお前とは言え、アイツに惹かれないのが不思議なんだよ」
前、とはあの超規模な侵略戦争に抗い、そして終わった後
遅れて帰ってきたイブクに尋ねた時の事だった。
あの時既にイブクはイオと戦ったと言っていたのだけれど、
しかしながらリットは信じ切っていなかった。
と言うか信じたら負けな気がしてた。

「アイツの本性見りゃげんなりするはずやけど」
「どんなんなの」
「えっと、女の子煽りまくったり俺を貶しまくったりされた」
「美人に貶されたんならよくない?
……つーかお前あの彼女にいつも暴言吐かれてない?」
「リッグは別なんよ!!!お前あんなイオなんかと
一緒にしたらあきまへんよ!」
イブクの口調が若干饒舌になる。
「リッグつーんだ、お前の彼女」
「せやで!」

そしてイブクはリッグ=フローリネという存在に対して
眼前の人間がしている勘違いを正そうとはしなかった。
全くもって。
理由はとても単純にその方が自分にとっては
有り難いし心地がいいものであるから。
(まぁ前に訂正した気ぃするんやけどな)

「ほいっ!一本!」
「っと……!」
組み合った刀をイブクが奥へと押し込んで
相手を後ろに下がらせて一勝して見せた。
「ほれほれ、取り換えさんくてええのかぁ〜?」
「当然ッ!」

立つ場所を戻して二回目を開始した。

149   [id : zAUwHMX0] [2016-11-08(火) 17:33:33] 削除依頼


カン、カンと木と木が打ち合われる音。
「ほっ!ほっ!」
片手で器用に、適度に前のめりになりながら
果敢に相手の刀を弾いていこうとするイブクと
それに対して両手持ちで守り寄りでイブクの動向を探るリット。

「守ってばっかでええとおもっとたらアカンよ!!」
イブクの振るスピードが増す。
更には右に左にとずらして相手が反応できないように
降り下ろしていって隙を作ろうとしていく。

「ちょ……!っと……!!」
「ほれ!どや!?」
「っ……と」

イブクの剣戟が終わらず反撃として付け入れる場が見えなかった。
(やっぱイブクとかは無駄に経験詰んでるからな……)
その剣戟を何とか頭上で凌ぐばかりでいっぱいいっぱいだった。

「今度はァ……!下ッ」
右上から打ち込まれた木刀の軌道はリットの木刀にあたると
すぐさまギュイ、と円を描いてリットの左ひじあたりを
的確に仕留めた。

「っ……!」
「リットは上に意識向きすぎ。
んな事しとったらそら狙われるわ」
「そっ……それは……お前が上からばっか振りまくるから……」
「振りまくられても多分一本とれると思うで」
「今みたいなのでも……か?」
「そやそや。試しにさっきの俺みたく打ってみてくれん?
俺も見つける」

「いや、イブクにやらせてたまるかよ……!」
「ええやん、行くで?」
「おうよ!」

150   [id : JRMd.XR0] [2016-11-12(土) 13:58:34] 削除依頼


リットはぐっ、と握る両手に力を入れる。
イブクの右側から振りかぶられる木刀を刀身で受け止めた。
(イブクは……さっきは……)
似た様な状況で先程は意識を上に集中させていた。
そこから上に向いている相手の意識の虚を突いて下へと一気にずらした。

「だったら……」

カン、カン、カン。

左斜め上からの木刀を受け止めた。
「今ッ!!!!!」
カン。

イブクは木刀を一度軽く後ろに戻した。
その瞬間に腕をどうにか持ちこたえさせて、
すぐにイブクの胸元に目掛けて振りかぶった。
(これならっ……!)

イブクが木刀を持つ手は右手。
そして振りかぶっていた方向は左斜め上。
それに対してリットは今木刀の先を左にずらして
振りかぶっている。

防ぐには相当に無理な腕の態勢になる。

「うおっ……!?」

途端にイブクは木刀を一度右手から放した。
そして下に落ちる前に、
木刀の本来であれば刃となる部分を左手で持った。
カンっ!

持ち手と切っ先がぶつかり合った。

「やばっ……」

イブクの足元が狂った。

「トドメッ!!!」
すぐさまリットは木刀を片手持ちに変更して
ぐらついた態勢のイブクの足元を叩いた。

そして彼の足は動いた。

「あー、くっそ……!」
「よーやく取返してやったぜ!!」
「トータルやとまだまだやろ!!」

151   [id : sRKEmUS.] [2016-11-15(火) 17:52:02] 削除依頼

 ■   ■

152   [id : sRKEmUS.] [2016-11-15(火) 17:52:22] 削除依頼


会議室前。
「レヴァン=ロジリアです。アスタ=ユークリッドを連れてきました」
その言葉と共に彼は扉を開けた。
二度ほど見た記憶のあるコの字に並んだ机と椅子の部屋。
前の、隊毎4人を選定していた討伐演習の時とは違い
やはり訓練時がゆえにそこにいる人の数は多くなかった。
それでもやはりというべきか、総大将である
ベル=ジンクルスの姿だけはしっかりとそこにあった。

「失礼します」
アスタがあいた扉のその会議室の前で真っ先に言った。

「ああ、取りあえず座ってくれよ」
「はい」
椅子をひいて、座った。

ちらりと誰にも気づかれない程度に
横に座るレヴァンをアスタは見た。
相変わらず体躯が凄まじく大きい。
隣という事もあってその圧迫感だとかの感覚が
一層彼には伝わっていた。
若しくはそんな感覚を覚えた。

「さて、まずはアスタ=ユークリッド、
此度の大規模な戦争においての功績と栄誉を讃えよう」
アスタから見て左側、
つまりはコの字の真ん中に位置するベル=ジンクルスが
開口一番にそう言ってきた。

それに対してアスタは言葉は発さずにお辞儀だけをした。
「先述したように、大規模であったあの戦況、
そして幾人の遠征兵の投入。
その中の一人を倒してくれたと聞いている」
「そうですか。しかし……敵の目的自体は果たされています。
それを阻止できなかったというのは
自分にとっては失念した部分です。
優先順位を見誤った……のかもしれません」

「悲観することはない。君がいなければ街の被害も、
被害者の数ももっと増えていただろう。
さて……そこで君に一つ、提案がある……
提案と言うよりは報告かもしれないが」
「……」

153   [id : sRKEmUS.] [2016-11-15(火) 17:52:42] 削除依頼


彼には、アスタには何となく察しがついていた。
新兵である自分がわざわざ訓練を休んでまで呼ばれたのだから。
「それは偏にアスタ=ユークリッド……
君に軍階級を与えるというものだ」
「なぜ、僕なんですか」
「先程述べただろう?遠征兵を一人倒したという事。
そだけでも充分過ぎる要素だと思うが?」
「それであれば第四隊の中でも僕以外にだっているでしょう?」
「ああ、そうだな。確かに他にも二名。
二人でで、あるがもう一人、遠征兵を倒した者たちがいる」
「その通りですね。彼らでは力不足と言うのでしょうか」

「確かに新兵がたった二人で向こうの世界の精鋭を倒したというのは
稀有な事ではある。力不足と言いたい訳ではない。
様子見……とでも言うべきかな。
君ならば恐らく既知であろうが、
本来であれば軍階級と言うのは幾度もの経験を積んだうえで
与えられる可能性を持つ」
「だからと言って例外は数多とあるでしょう?」

「その通り。だからと言って六月前のこの時期に、
新たに軍階級としての昇格を新兵に持ち掛ける
という事は今まで先例が無い。
それだけに今の時期に3人も昇格させる事に関してはリスクを
考えないわけにはいかないんだ」
「……成程……リスク……ですか」
「2か月という短い期間だけで軍階級を持つ、と言うのは
異例であるといったが当然それが行われるのであれば、
それだけの理由付けがいる」

「先程言っていた物では足りない……という事はないですよね?
でなければそもそもが持ち掛けるはずがないですし……」
「充分素質足り得るものだ。だがその実績を幾ら持っていたとしても、
幾らこちら側が認めた、という事を言ったとしても
不平不満は大小なりとも現れる。
……周りに合わせると言うのはここにおいては皮肉な物ではあるがな」
「そうであれば僕にしたって起こり得る……と」

「まぁ……そうなるかもしれない。
先に言っておくが、スケープゴートにしようとしているわけではなく、
戦力の増強を第一に考えている。
いうなれば折り合いをつけるという事だな。
1人目の軍階級保持者を成立させ、様子を見たうえで
可能であれば再検討する」
「なる……ほど……」
少し悩むしぐさをアスタはした。

154   [id : 2TDqWQb.] [2016-11-18(金) 18:20:59] 削除依頼



「軍階級を持つという事が、戦力増強に繋がる……。
それはつまり、どういう点なのですか」
「軍階級と言うのはそもそもとして、実力者……
若しくは戦歴として長い者達に与えられるもの。
軍階級を持てば、隊編成の権限を獲得できるのだ。
そして警報が発令されれば、隊長……つまりは
君で言うところのレヴァン=ロジリアによっての先導を必要とせず
自らの意志と決定のみでの行動も可能となる。
尤も、討伐するという事は大前提としてな」

「……行動範囲は兎も角として、その……隊編成の権限と言うのは
どこまで及ぶ物なのですか?
新兵である、だとかの決まりは?」
「新兵等は除いた編成された隊員は不可能だ。
但し、本人とそこの隊長が認めれば転属することは可能だがな。
しかし新兵であれば
ある程度のボーダーラインに満たしていなければならない」
「少なくとも……
言い方が幾らか悪いかもしれませんが、
僕の場合は隊員は殆どが、若しくはすべてが新兵からになるんでしょうね」

途端にベルの表情が変わった。
まっすぐ、と言ったような表情であったのが
疑義を抱くような表情に変わり、言葉を返した。

「何故だ……?」
「先程の周りに合わせる話ではないですけれど、
僕が軍階級を持つだけで不平を口にする人間が出ると言うのであれば、
隊員として駒となる、なんていうのはもっと嫌に思う人間が
出るのでは……と思いまして……それに
僕が知る新兵以外の隊員が多いわけではないですから……」

「成程、確かに在り得る事だな」
「所で……僕が軍階級を持った場合、
今の新兵第四隊に所属しているというのはどうなるのですか」
「それは君の判断に任せる。
過大評価かもしれないが、アスタ=ユークリッド。
君のその知力をもってすれば戦略であろうと
武具の扱いであろうと無駄に教えられなくても可能なのだろう?」
「……さぁ、どうなんでしょうね」
他人事みたいな口ぶりだった。

155   [id : LgF6X9h.] [2016-11-22(火) 18:04:29] 削除依頼


「さて、他に質問が無いのであれば答えを聞かせてほしいところだが……」
「……軍階級は……貰い受けます……が、一つ条件と言うか
その……相談と言うか」
アスタの答えに少しベルの目元が和らいだようだった。
この二人以外に何かを言おうとする者は一人もいない。

「言ってみろ」
「ソラ=シリカンに関して、彼を僕は取り戻しに行きたいのです」
ベルの顔が変わった。
いや、ベルだけではなく隣にいたレヴァンも同じように
驚嘆の表情に変わっていた。

「おまっ……アスタッ……!!」
「いや、構わん」
レヴァンがここで漸く口を開き、止めに入ろうとした。
が、それをベルが止めた。

「……友人として、か?」
「……僕だけ、ではないです。だとしても僕のせいではない、
という事はない」
「……それは、認めることは難しい。
勿論向こう側の世界に行ったことは幾度とある。
だがそこに新兵が伴っていたことはない」
「……でしょうね。リスクが大きすぎるから、ということでしょう。
そして、そこまですべきである新兵がいなかったから」

「そういう事になる。兎にも角にも、新兵にそこまでの無茶を
させる必要はないと判断しているから今までそうしてきたのだ」
「今は、その必要が無い……と?」
「さぁ……どうだろうか。おいおい会議を繰り返して、
どうするか、を決めていくのだから今の時点で断定できることはない」

「ソラ=シリカンの能力は既知の事であるとして言わせてもらいますが、
長く時間を空けすぎると此方が不利になる……かと」
「……彼の能力を研究され、量産される、と」
「そういう事です」

アスタはベルに、総大将の言葉に対して全くもって退こうとしなかった。
自分が責任のあるものとして加わっている筈だ、と信じていた。
つまりは原因の種のつもりでいた。
実際その認識自体は間違っていない。
だが彼が出向く事柄ではなかった。
彼と言うよりは新兵が出向く事ではない。

156   [id : LgF6X9h.] [2016-11-22(火) 18:05:05] 削除依頼


「だからと言ってアスタが必要な存在である、
という事には一切繋がらない。
君は君自身の考えすぎな責任とやらに囚われきっている。
自分の所為だと考えすぎているんだ。
……君はあの盤上の中で頭を働かしただけだ」

新兵の眉が微かに動いた。

「君は貢献以外は何もしていない」
「そんなことは――」
「あるよ」
言い切った。言い切ってみせた。

「認めないというならば、レヴァン少将。
君の目から見てアスタ=ユークリッドはどうだった?」
今度はベルが敢えてレヴァンに尋ねた。
当然わざとであって、そこから言葉を引き出すつもりでいた。

「……俺は……コイツに……アスタに大量に助けられました。
アスタがいなきゃ恐らくもっと後手後手になっていた。
アイツの責任だなんてとんでもない。とるべきは俺であるべきですし
遠征兵まで倒しておいて更に
ソラ=シリカンの責任をとる……つーのは物言いが過ぎる……」
「だ、そうだ。
……此方としても君を高く評価している……だからこそ
君の不手際だとソラ=シリカンの一件を問い質す気は全くもって無い、
という意図は察しがつく筈だろう?君が無理して出張らなくていい」
「そうですね」
「……随分口ぶりが変わったな」

アスタの顔は知らぬ間にもとに……若干の険しさが消えていた。

「いえ……普通に考えて囮にしたレベルでもない限り
向こうの世界に連れて行って貰えないでしょうからね。
必要な存在と言うのを責任ではなくて、有能性から示していこうか、と。
"遠征兵を一人で倒したという事""混乱する戦場でそれだけ動けた事"
……レヴァン隊長、ベル=ジンクルス総大将……
御両名が散々述べた僕の要素です」

「……なんだと?」
「ですから、あなた方が僕に下した評価ですよ。
責任だなんてまどろっこしい事を言うよりも
自分が自分で望んでいる上で選択しているとしたら
能力値としては問題ないと推測できますし、
僕が参加しても大丈夫なのではないですか?」

「……ではなぜ……君はそこまでして向こうの世界に行きたがる?
下手に言い過ぎれば、下手に望み過ぎれば、
向こうの人間だと疑われるかもしれないんだぞ?」
「ソラ=シリカンをまずは奪還したいという事。
そして向こうの世界を知りたいんです。真実を」

真実。
アスタはそう口にした。
まるで何かが間違っている、と言いたげであった。
彼のその言葉の二文字、それをベルは聞き返した。

「今の我々の現状は、敵が攻めてきたから防衛しているというだけです。
そこにそもそもの原因だとか発端だとか、
向こう側の理由を教えられたことが全くなかったので……
今の授業でも行われるのは歴史だとかだけですから……」
アスタの言葉は止まない。

157   [id : Hatc9/U/] [2016-11-25(金) 18:44:02] 削除依頼


「今までにも"何度か"遠征をしている……という事であれば
向こうの世界で事情だとか技術だとかが分かるはずでしょう……?
それが無いのであれば僕は今の時点では
技術革新しか行えなかったと判断しています。
案外、向こうの事情を知れば何かもっと根本が変わるかもしれない」

「……君の夢は……遠大だな」
「遠大ではなくて、平和主義であるだけです」
「……正式決定とは言い切れないが……いいだろう、
君のその願いは極力受け入れよう。
その代わり君は正式に少尉だ」
ありがとうございます、とアスタはベルにお辞儀をした。

「話は以上だ。質問はないか?」
「出来た時にでも、また」
「そうか、時間を取らせたな」
「いえ……有難うございます」
そうしてアスタはもう一度礼をしてから
レヴァン=ロジリアと共に会議室を出た。

158   [id : Hatc9/U/] [2016-11-25(金) 18:44:28] 削除依頼


その道中。
アスタがレヴァンに対して軽く笑いながら話しかけた。

「レヴァン隊長、丸くなりましたね。敬語を使いすぎておられますよ」
「はぁ?」
「前……通信室での時は
そこまでしっかりとした言葉遣いではなかったですから」
「丸くなったんじゃねーよ、学んだだけだ」
「そうですか」
「それよりも、だ」
レヴァンがアスタの頭を掴んだ。

「手前に限ってありゃしねーだろうが、
軍階級を持ったからって浮かれすぎんなよ。
まだ少尉だ。少尉はスタートラインだ」
「そうですね。じゃなきゃ軍寮長からの繰り上がりなんて
可笑しな規則は出来るはずがない……」
「それと、第四隊にまだ残るっつーなら人一倍シゴかれるぞ」
でしょうね、とアスタは返事をした。

「自覚がアンなら良いけどな」

レヴァンもかすかに笑った。
多少なりとも和らいだような雰囲気と言えど、
全てが全て和らいでいるという訳ではないけれど。

当然問題は山積みのままな訳で、
それこそ先刻のソラ=シリカンの問題にしたってそうであるし
アスタが勝手に進めている
ムーリベ=トレイヤル関連の事にしたってそうである。

「……」

159   [id : Hatc9/U/] [2016-11-25(金) 18:44:41] 削除依頼

   ■   ■

160   [id : rdLPEJql] [2016-12-02(金) 21:09:19] 削除依頼


「う……ん」
少年は言葉を漏らした。
ゆっくりと開けた眼の先に見える景色を確かめようとしたが、
彼は先程まで眠っていたようで光景は全てぼやけて見えた。
そう理解してから次に少年は自分の名前を確認した。

「ソラ……シリカン……だ……よな」

名前を呟くとようやく目が改善されて、
幾らか景色も見えるようになっていた。
そして今いる状況を確認する。

(……天井は見た事ない……気がする……
照明……かなんかの明かりか……?眩しいな)
目を細めた。
今までの視界の不鮮明さにはこれも関わっているのだとここで理解した。

161   [id : rdLPEJql] [2016-12-02(金) 21:10:20] 削除依頼


(……えっと……敵がやってきて……それで……どうなったんだ……?)
自分の最後の記憶は
同じクリーガーの新兵第四隊であるレントと多少話しながら
帰還を急いでいたというもの。
それから今の今までの記憶が無い。
光こそ見えるがそれは人工の光であって外からではない。
時間もわからなかった。

動きたい、と次に思った。
しかし動かなかった。腕も、足も。
だが首だけは動くらしく彼はゆっくり左右を見た。
(どこ……ここ)
両手がよく分からないものでそれぞれ繋がれていた。
(台……か何かにいるのか……?
あぁ、アスタくらい頭良ければ抜け出せたのかな……)

162   [id : rdLPEJql] [2016-12-02(金) 21:10:59] 削除依頼


クリーガーの人間の顔がチラついた。
(イブク、アスタ、レント、ファイ……
あぁダメだなんか憂鬱になりそうだ)

改めて彼は見える限りの景色を見た。
ぐるりと首を左右百八十度に回転させてみると、
窓の一つもない鉄らしきものに囲まれた場所だった。
己の角度の問題かもしれないけれどそうだとしても
少なからず今言えるだけのことではそうである。

163   [id : Q5fsl2SV] [2016-12-17(土) 20:55:35] 削除依頼


「……流石に手は引きちぎれない……よな……」
ソラ=シリカンの能力は、体の欠損を生み出すことで、
在り得ない位のパワーを一時的に手にするというもので、
その力一つで戦力を簡単にひっくり返せる。
但し勿論欠落しない限り彼は弱い。とても弱い。

プツン。

電気的な音がした。
何かの電源が入ったかのような。
「……!?」

『やあ』
「だ……だれ……」
ソラは小声でそう呟いた。
しかし小さすぎて相手には届いていないのか、
はたまた一方通行の伝達なのか相手の反応は特になかった。

『まずは問わせて貰おう。君はソラ=シリカンで間違いないか?
声ははっきりと頼むぞ』
「え……」
一方通行の伝達ではないらしい。がしかし、
これは答えていいものなのか、とソラの中で思考させている。
そして数秒と経たぬうちに答えるべきではないと彼はそう判断した。

『……黙秘か……流石にただの凡常の兵とはいえ分かっているようだな。
ならばもしここで我々の質問に答えたならば、
元の世界に帰すとすれば……君はどうでるかね』
「……」
『更に言えば君に関することのみの……
つまりクリーガー全体の事ではないものだとしても……か?』
「それだったら……」
『まぁ……そんな都合のいい話ではないのだがね。
君が黙秘を続けるのであれば、
此方としても幾つか手段を講じねばならんから面倒だったのだがな』

164   [id : ED0Lngrx] [2016-12-24(土) 15:58:10] 削除依頼


ソラははっとした。
途端に思い出したのだ。
(……レヴァン隊長が……ずっと前に言ってた……
蜂……のファイント……)

レヴァン曰く戦闘能力は極めて低い代わりに
相手の情報を幾らか盗み取る小さな蜂の形をファイント。
(もう……遅いのか……?)
相手の声は少しの間止んでいた。
そして再び何か聞こえた時には若干ノイズのような、
雑音交じりの音だった。

『君がソラ=シリカンであれば知っているだろうが
我々には蜂を模したファイント……ビーネがある……
コイツにはさした人間の情報を抜き取る性能があり、
君らの情報も一部とってある……そして今から
違うものを放って照らし合わせればすべてがすむことだ』
「…………」

嘘をつけばいいだけじゃないのか、とソラは思った。
照らし合わせがどうのこうのとファイント陣営は言っていた。
しかし彼らはソラがソラであるか否かを問い尋ねてきた。
(僕の顔までは読み取られていない……のか?
しかし……)

「照らし合わせ……って……そもそもが僕が
ソラ=シリカンっていう大前提の下……の話……?」
敬語をつけるべきが一瞬迷ったが結局覚束ない口調で終わった。
『君の腕をもげばいいだけの話だろう?』
「……」
ソラの疑いがさらに深まった。
恐怖はもちろんある筈なのだがそれ以上に今の、
この現状のどうにも穴が多そうな敵方の言葉に
どうするべきか、という事ばかりに意識を注いでいた。

165   [id : svdZMNml] [2016-12-28(水) 14:55:01] 削除依頼


「復活すれば事は全て済む。
君がソラでなければそれでついでに殺処分してしまうだけである」
1人の人間がそう言って笑っていた。
ソラ=シリカンに話しかけていた人間だった。

「……シュヴァハさん……語りすぎるのは愚策か……と」
老齢の兵士にしてファイント陣営随一の戦士の
フェルゼン=ノームがそう提言した。
フェルゼン等は基本的に兵士としての仕事ばかりを
任されるのだが、こうして何かしら有能な敵側の人間をとらえた時に
対応……つまり今のシュヴァハと呼ばれた人間が行っている
事を本来はしている。

「フェルゼン=ノーム殿、御安心ください下手な真似はしませんから」
(現にもうしていますが……)
「……一先ずはシャオム隊長の回復を待つべきかと。
そういう経験に関してはシュヴァハさんは低いでしょうから……」
出来るだけ波が立たないように言った。
つもりだったというだけなのだがしかし、
当のシュヴァハ……シュヴァハ=シュターツマン
はその意味が通じていなかったようで
言葉を突っぱねて返事をした。

「侮らないで頂きたい!私とて文官ですが故、
こうした経験が無いわけではないのですぞ!」
(……だからと言ってシャオム隊長には遠く及ばないと
いう事なのですが……老齢とて、
私も交渉術が下手ですねぇ……)

呆れ軽く笑った。

シュヴァハ=シュターツマンはファイント陣営の文官である。
簡単に言えば国の運営……政治関連を担当する役職である。
その中で、ではあるがシュヴァハは地位は低い。
シャオム=ウンディーネはそれに対して武官であり、
基本的に数日前程の規模ではないにしろ
侵略における総指揮と、こうした……
今シュヴァハが行っているようなことを本来であれば請け負っている。
但し彼はアスタとの傷がまだ癒えておらずずっと病院にいた。
どころか意識を失ったままで起きていない。

166   [id : gR6YUqC9] [2017-01-07(土) 10:11:39] 削除依頼


(こうして見ると……シャオムさんは相当に
知力だったようですね……彼が負ける姿は……
いままで見たでしょうか……。
相手が如何様な者なのか……残念ながら彼にしか分かりませんが
それ程の手練れがいるとは……)

眉雪の兵士は口元を手で押さえて考えていた。
今の状況の事を。
つまりは眼前に広がるソラ=シリカンに関することと
意識を失ったままのシャオム=ウンディーネに関することである。
(まずは……このシュヴァハさんがこのまま対応していては……
孺子とは言え侮ってかかるべきではありません……)

「どうした、ソラ=シリカン。大人しく答えろ」
シュヴァハは依然として自分の失態というものに気づかず
ソラ相手に語り掛けている。
(私がいるとはいえ……
ソラ=シリカンの能力の底を除けている訳ではありません……)

「シュヴァハさん……下手に、ソラ=シリカンの
能力を発動させてしまうと形成がどうなるかは分かりませんよ」
「そうはいっても、フェルゼン殿が居られるではないですか」
その本人が苦言を呈しているというのに、と再び呆れた。
(シャオムさんの回復を待つしかないのでしょうかねぇ……
この方の意識を気絶させようにも……加減が難しいところですねぇ……)

前述したようにシュヴァハ=シュターツマンは文官である。
つまりはフェルゼン等のように戦闘にたけているということは
全くもって無いし寧ろ専門外であり、当然能力を持っている訳でもない。
対してフェルゼンは老輩にして戦闘能力としても
経験値としてもファイント陣営において1、2位を争う。
偏に彼の能力が協力過ぎるからであり
逆に彼は手加減することは苦手であった。

能力がないままでは流石に気絶させるに至れない。
が地亀(アンデッドノーム)を使用してしまえば死ぬことは間違いない。
元より破壊がメインの能力である。
流石に彼としても死をもってしてまで事態を防ごうとは思わなかった。
と言うかむしろ肥大化してしまう。

名前:

(書き込む前に利用規約の確認を) 掲示板ガイドと利用規約 (投稿前にお読みください)
Suicidal War.2 - 最新50レスだけ見る。
このスレッドの投稿を全表示 - ここの書き込みをぜんぶ一気読み。
小説投稿投稿掲示板に戻る