瑠璃色の海と月と葉っぱ

小説投稿投稿掲示板より。


1    坂口  [id : OEGlbdx1] [2016-05-04(水) 23:01:27] 削除依頼

 タン タン タン タン タン タタタ ターン

これはあなたが好きな曲だった。いつもいつも何かいいことが
あるたびに口ずさむ。それは、あまりにも有名になりすぎた
サティの「ジムノぺティ」。
もう、聞けないんだ。あの優しい鼻歌も。
いつも私を励ましてくれた優しい手のひらも、もうこの世にはない。
私が奪ったのだ。奪ってしまったのだ。
あなたの人生を。あなたの家族の人生を。
私は、あなた達を殺した。
あの、夏の夜私はもう、二度と許されない罪を犯した。

142 坂口  [id : zq0U0Oa/] [2016-10-19(水) 18:17:07] 削除依頼

「ヨウが食べるわけじゃないでしょ。」
これで静かになると思ったのにヨウはなんでもないと
いう風に手をひらひらとした。
「ツキちゃんが大食いってことにして多めに頼む。
 それを僕が食べる。最高でしょ。」
私はため息をついてヨウの背中をたたく。けれど
するりと抜けられてヨウを思い切り睨む。
まともに話したこともないのにそんなに注文できないし
私は大食いキャラになりたくない!

143 sakaguti  [id : zq0U0Oa/] [2016-10-19(水) 23:37:24] 削除依頼

心の中で叫ぶ。だけど、行ったほうが良いのだろうか。
今日これきりにすればよいだけの話だし、せっかく
誘ってくれてるのに断るのも悪い。
それに、私も無料飯は嬉しいし…。
引き出しの中から取り出した。
「やったー!ツキちゃん、行くんだね!」
ヨウはかなり喜んでいる。
鉛筆を握り、どう返事をしようか考える。だけど
いちいち手紙でやり取りするのも変なので直接
伝えに行くことにした。

144 sakaguti  [id : JIKF1na.] [2016-10-21(金) 23:02:55] 削除依頼

「明野さん。」
私は周りに溶け込むように小さな声で言った。
黒髪の女の子が明野という名字だったことに
気づき、今まで何してたんだろうという自分の
情けなさが強くなった。
明野さんは私の顔を見て少し驚いた。意外だったのだろう。
「誘ってくれてありがとう。一緒に帰りましょう。」
明野さんは控えめに笑ってうなずいた。いちいち
何気なくするしぐさがとても奇麗に見える。
いいなあ…。という感じだ。

145 sakaguti  [id : VJyqS5o/] [2016-10-23(日) 22:11:28] 削除依頼

明野さんを見ていたら、一瞬すごくぼうっと
してしまった。一瞬の深い眠りのように。
「早く用意しろよ〜!」
級長のどなり声で一瞬で現実に戻った私は
すぐに席に着いた。
なんだか、不思議な気分だ。

146 sakaguti  [id : 3RJqmir/] [2016-10-25(火) 23:14:44] 削除依頼

やがて授業も終わって、二人で廊下を歩いた。
私はなんの会話もしようとしなかった。
よく考えてみれば、それって失礼だし人として
ちょっとだめな気もした。私は今まで気がついて
いなかったけれど、もっともっとよく考えれば
そういうことが出てくるんじゃないだろうか。
階段を降りたところで明野さんが口を開いた。
「何か、奢るって言ったけど、どこがいい・・・?」
声が小さい。
「そうねえ。」私は考える。リーズナブルなところがいいわ。
ファミレスとかかしら?

147 坂口  [id : P6pFkz7/] [2016-10-26(水) 18:51:24] 削除依頼

そして、窓から見える瑠璃色の海を見る。
そういえばヨウが、海の浜辺においしい
喫茶店があるなんて言ってたっけ…。
でも、海の近くとかだと少しお値段が張る
ものなのだろうか?
「どうしたの?」明野さんが悩み顔の私を
見る。
「あの、海の浜辺に喫茶店があるじゃない?
 そこって、どうかしら…?」
明野さんがぽかんとした。

148 坂口  [id : OZnRHgS1] [2016-10-28(金) 23:28:29] 削除依頼

「瑠璃喫茶のこと?よく知ってるのね。きっと
 この学校でもあなたと私くらいよ。何しろ浜辺の
 隅の方で外装はぼろぼろだし…。」
私は思わずのどを鳴らした。正直渋い雰囲気の喫茶店なんて
入ったことがないし、ヨウはなんでおいしそうとか
言ったのだろう…。でも、そろそろ決めていきたい。
私は笑顔で、そこで、といった。

149 坂口  [id : Y.xChgH1] [2016-10-30(日) 18:03:31] 削除依頼

私たちは決定し、外へと出た。
さっさと行ってさっさと食べて帰ろうとしてたのに
校門であの二人につかまってしまった。
「忘れた頃にやってくるのよ。」
「逃れられないぞ。」
そして私の腕を強くつかんだ。盛大にため息をつく。
明野さんはなぜかほほ笑んでいる。
もう、どうして私にばっかり…。
「いやいや、誰でもいいわけではないのよ。私にはわかる。
 あなたの将棋の才能が!!」
この覇気のある先輩はヒカル先輩に内緒話をした。やけに近い。
そして私の学生鞄とついでに明野さんの学生鞄に
何かを押しこんだ。それは入部届けだった。
しかも、名前以外は全部将棋部と記入してあった。

150 坂口  [id : sJWisP01] [2016-10-31(月) 18:14:15] 削除依頼

「どうして、部活にはいらないの?」
明野さんが私に聞いた。「面倒だから。」
即答でそれだけ答えた。部活に入るなんて
考えたこともない。
「あなたは何か入ってるの?」
明野さんは首を振る。ふさふさとした浜辺に
たどり着いた。
「私、習い事たくさんしてるの。だからそんな
 時間ないのよ。」なぜか寂しそうだった。

151 坂口  [id : qHd/QYt/] [2016-11-01(火) 23:15:39] 削除依頼

そして私たちは店に入った。店名は「瑠璃喫茶」。
外観は海に会う洋風でだけど無駄のない素敵な
店だった。中に入ると、少し驚いた「くるみ割り人形」
の大きなBGMが鳴り響いていた。店主さん…、マスター
というのだろうか。マスターはそれに合わせて踊っていた。
明野さんは私の後ろに隠れた。私は「あの…」と
声をかけた。でも、全然聞こえてなかった。
「あの!!!!」私は叫んだ。マスターは驚く。
そして何事もなかったかのようにBGMの音量を下げ私たちを
席へと案内した。

152 坂口  [id : 1n.cP8S.] [2016-11-02(水) 18:35:37] 削除依頼

完全に動揺した私たちは、席へと着いた。
メニューを取って何気なく見る。私は思わず
目を向いた。
コーヒー一杯400円。ケーキ一個950円。
高すぎる…。サンドイッチなんて1000円を超えている。
またも私は動揺する。明野さんを見ると落ち着いている。
「あの…、ちょっと何か食べるだけでも
 すごく高いと思うんだけど・・・。」
明野さんは首をかしげた。私はギョッとする。
「高い?そう?でも気にしないで。私、父が社長でね。
 おかねはもってるのよ。」
それだけいって、またメニューを選び始めた。明野さんは
私が思ってるほど平凡な女の子じゃないことに気づいた。

153 sakaguti  [id : tR7MrXC0] [2016-11-03(木) 22:16:07] 削除依頼

たとえ明野さんが大金持ちだったとしても高い
ケーキを遠慮なく注文するのは私にはできない。
心の中で葛藤し悩みに悩んだ結果、一番安かった
紅茶とゼリーを頼んだ。
「そんなのでいいの?」明野さんは不思議そうだったけど
それでも800円はしてるんだよ…。
明野さんはパフェを頼んだ。値段はあえて見なかった。
「お嬢様だなんて知らなかったわ。」私は言った。

154 坂口  [id : YHZ8aoh/] [2016-11-05(土) 00:07:15] 削除依頼

「そうなの?結構有名よ?」明野さんは某車メーカーの
名前を言った。驚きすぎてひっくり返りそうになった。
そんなに大きな会社なのにどうしてここに住んでいるのだろう?
「父は東京で働いているわ。私と母と兄はこっちにいるの。」
それだけいってパフェをもりもりと食べ始めた。
私も水晶みたいなゼリーを食べた。じっと見つめてしまうほど
おいしかった。
「今日はありがとう。私、大勢の人にああやって言われると
 頭がショートするの。心臓が苦しくなって…。だめだなあ。私。」
明野さんは震えていた。

155 坂口  [id : YHZ8aoh/] [2016-11-05(土) 17:47:56] 削除依頼

こんなに裕福でこんなにきれいに生まれてきた子だって
いろいろなことで悩んでいるのか。明野さんの手の震え
を見ながら私は思った。
人間って悩みが尽きないなあ…。そんなことを一瞬ぼうっと
考え口を拭いた。
「一応フォローだけど。」私の言葉に明野さんの手が止まる。
「そんなに毎回悩むのはやめなさいよ。あなた、向こうより
 もっといろいろなもの持ってるのに。」
私は後悔した。フォローといいながら全然フォローになっていなかった。
だけど、今の私には明野さんに慰めの言葉など思いつかなかった。

156 坂口  [id : Km7fUQV0] [2016-11-06(日) 23:01:59] 削除依頼

けれども、明野さんは私を見つめ笑った。フォローに
なったかどうかは知らないが一応笑顔になったので
よかった。
「ねえ、一緒に将棋部にはいらない?」
私は紅茶を吹き出しそうになった。唐突すぎる。
「は?」嘆かわしいことにこれくらいの言葉しか
出てこなかった。
「入りましょうよ。なんだか楽しそうだし。それに
 私、将棋好きだし。それに…。」
明野さんは言葉を詰まらせた。
「ヒカル先輩、すごくかっこいいし…。」
今度は完全に紅茶を吹き出した。

157 坂口  [id : Km7fUQV0] [2016-11-06(日) 23:08:17] 削除依頼

いきなりの提案で頭がパニックになる。
せっかく渋い純喫茶で落ち着いた雰囲気で
話していたって言うのにどうしてくれるんだ。
将棋部?しょうぎぶ?ショウギブ?syougibu?
しかも、希望理由が八割九割、ヒカル先輩な気がしてならない。
私は落ち着いて、冷静に拒んだ。
「別に、私と一緒じゃなくていいと思うわ。部活は
 入らないって決めてるの。」
明野さんは納得いかない表情をした。

158 坂口  [id : LnSogQz.] [2016-11-08(火) 17:36:55] 削除依頼

「でも、明野さん習い事あるんでしょ?」
私は、切り札を出した。明野さんはこれ以上に
ないくらい首を振る。
「そんなの、いくつかやめて時間をとれば済む話!!
 ずっと考えてたのよ。お願い!」
私はうなだれた。もしかしたらあの先輩たちより
しつこいかもしれない。腕時計をちらりと見る。
ただいま、六時三十分。夏だからまだまだ明るいけど
夕飯作らないと…。あと、買い物も…。
「考えるから!今日はもう帰りましょ!!」

159 坂口  [id : LnSogQz.] [2016-11-08(火) 23:37:23] 削除依頼

私はもう、自分で払うと言った。だけど明野さんが
駄々をこねるという謎の展開に陥ったので払って
もらった。そして、かすかに群青に染まった夏の
空を見上げながら二人で自転車を漕いだ。風が
綺麗になびいて瑠璃色の海はもっと深くなって
美しさに息がつまりそうだった。
だから二人とも、黙ってただ家路へと向かっていた。
二人ともひらひらと手を振って別れた。
「おなかすいた…。」思わず呟いた。
ヨウのが待っている。急いで買い物して帰らなきゃ!

160 坂口  [id : yf45qSg.] [2016-11-09(水) 23:28:24] 削除依頼

自転車の漕ぐスピードがさらに速くなる。
遠くで、素?を干しているところが見えた。
そういや、お母さんに素?をもらったんだ。
私は方向転換して家へと向かった。
ドアを開けたらヨウが脹れ顔で待っていた。
「ツキちゃん、どうしてゼリーしか頼まなかったのさ!
 あんなお嬢様、いくらでもお金はあるんだよ!」
怒られる方向が少し違っていてクスッと笑ってしまった。
ヨウが私の顔を不思議そうにのぞきこむ。
「なんだか、いつもより楽しそうだったからいいけどさ。」
そういって、そうめんの袋を出してアピールした。
私は笑顔で受け取り急いで支度した。

161 坂口  [id : yf45qSg.] [2016-11-09(水) 23:37:53] 削除依頼

ご飯の支度をするのに正直エプロンなんていらない。
だけど、私のエプロンは特別だ。このエプロンで
料理をすると失敗しない。ヨウのお母さんとお父さんは
本当に家族思いだ。だけどヨウは、私がこのエプロンを
着けるのも家族の話をするのも昔から露骨に嫌がった。
ヨウの方をちらりと見て、そしてヨウの家族のことを
思い出して自分の存在が無性に嫌なものに思えてしまう。
そんなときは決まって、ヨウは私のほっぺを引っ張るのだ。

162 坂口  [id : .hVf/eS/] [2016-11-13(日) 18:49:39] 削除依頼

「痛いよ。」
私は、ヨウにつぶやく。
「だって痛くしてるもん。」
ヨウは平然と言う。それから、手を離した。
そして、台所の上に入部届けの紙を出した。
「部活、入りなよ。入りたいんでしょ?」
無言で私は首を振る。
「じゃあ、僕のために入ってよ。」
ヨウはいつになく真剣な顔をした。
「これが、なんでヨウのためになるのよ?」
「なんとなく。だけど僕のためになる。」
私はそうめんの袋をあけ沸騰した水に広げた。
面が放射線状に広がって白く伸びていった。
私は入部届けに名前を記入し印鑑を押した。

163 坂口  [id : 8evAYiQ0] [2016-11-14(月) 22:55:59] 削除依頼

「えっ、入るの。」
私は、そうめんをかき回せながらうなずいた。
ヨウは、にこりとし「頑張ってね」とだけ言って
つゆを作り始めた。
心の中で、思い切ったことをしたなという気持ちと
ちょっとした後悔が生まれていた。
だけど、ヨウのためになるのなら即決だった。
今の私の心はヨウにしか動かせないと思った瞬間だった。
ヨウの未練が無くなって成仏したら私は、どうするのだろう。
私は、罪から解放されるのだろうか。
ヨウが、未練から解放されるだけだろうか。
私は、それを願うのと同時に、自分が生きえいる意味が無くなり
そうな気がしてとても怖くなった。

164 坂口  [id : FsjrS29/] [2016-11-15(火) 17:40:52] 削除依頼

つややかに光るそうめんが冷たい水に浮かんでいる。
それと一緒にヨウが作った生ハムの金魚も綺麗に
泳いでいた。
わたしたちは手を合わせて食べ始めた。つるんとした
冷たさがとても美味だった。
「夏がきたねー!」
ヨウが、箸を中にかざして叫んだ。
「もう、とっくに来てるわよ。」
そう言ったら、「そうだけど〜。」と不服そうだった。

165 坂口  [id : i45IrQP1] [2016-11-17(木) 23:51:30] 削除依頼

私たちは、そうめんを食べ終わりそれぞれのことをした。
正直、何もすることがなかったので一生懸命トランプ
タワーを積み上げているヨウをよそに、将棋を少し
練習することにした。さっきまで絶対入りたくないと
思ってたのに不思議だ。意欲ではないし、正直マイナーな
部活だからサボってもいいと思っているけれど、こうやって
それなりに頑張るのは私の性分なのかもしれない。ここ数か月
本当に何もしない生活だったからいいのかもしれないけれど。
そして、私が将棋を思い出してきた頃にヨウがトランプタワーを
崩した。

166 坂口  [id : i45IrQP1] [2016-11-17(木) 23:56:19] 削除依頼

「あちゃー。」わざと崩しておいてそんなことを
言っている。
私は知っている。この時間帯はヨウがピアノを弾いている
時間なのだ。だから、私が終わらないかと時々見ている。
「ヨウ。」
私は本当に平静なカジュアルな感じを装った。
「何?」
ヨウはにこりとする。笑顔がぎこちない。
「ピアノ、弾きたいなら弾きなさいよ。私、もう
 使わないし、久し振りのヨウのピアノ聞きたいわ。
 キーボードだけど。」

167 坂口  [id : X6Wog5Y1] [2016-11-19(土) 00:05:05] 削除依頼

ヨウは、一瞬動揺し驚いた。けれど、すぐににこりとして
ピアノを弾きはじめた。
こんな時間にピアノはやばいと思ったが、住人は私の隣には
いないし最小限の音だったのでもういいやという気持ちに
なってしまった。
ヨウがひいたのは、やっぱり「ジムノぺディ」だった。
キーボードでも美しく個性を出す術を知っているヨウの
手から生み出される音色は空間を満たし、私の心を満たした。

168 坂口  [id : eqGDGOu/] [2016-11-21(月) 23:42:13] 削除依頼

「ツキちゃんはなんで弾かないの?」
不意打ちだった。あまりにも急すぎて一瞬頭が
真っ白になった。どうしてピアノを弾かないのか?
ヨウのためになんて言えなかった。別にヨウがそんな
ことを願っているはずもない分かっていた。
私のために、ピアノを弾いていないといえばいいのだろうか。
ピアノは私の中ですごく特別だった。何よりも好きで
何よりも努力した。プロになりたくてヨウを必死で追いかけた。
だから、ヨウが死んで以来ピアノを弾くのが怖くなった。
ヨウのために言い聞かせていたけれど本当はピアノに弾くのを
受け入れてもらえない気がした。

169 モナリザ  [id : U0tpb6K/] [2016-11-24(木) 23:28:04] 削除依頼

「もう、いいのよ。飽きちゃったの。」
私は軽く返事した。ヨウは「へぇー、飽きるなんてことがあるんだね。」
とだけ言ってまた弾きはじめた。私はなんだか心がもやもやして
お風呂に入って寝た。

朝、起きてフライパンに豪快に卵ときゅうりを入れ、かき混ぜる。
今が旬のキュウリはみずみずしくてとてもおいしい。
つまみ食いを超えたつまみ食いをしているとヨウがのぞいていた。
私は何事もなかったかのように知らんぷりしてお弁当に詰めた。

170 坂口  [id : nUmtWm91] [2016-11-28(月) 23:58:57] 削除依頼

鋭く照らす朝の光が私に思い切り照りつけて肌を焼いた。
海からくるしおかぜも思い切り吹付ける。
今日も生き生きと赤い自転車に鍵を掛け乗り込む。
「ツキちゃん、いってらっしゃい。」
ヨウの優しい声を聞いて私は手を振った。
そういえば、部活に入るんだ。将棋部。
まだ、ためらいがあるしヨウのことを気にしてしまう
気持ちがあるけれどこれはヨウが望んでいる。
うねる坂道を漕いだ。
どこまでも、果てなく続く空がある。
「あ、鷹。」
空には鷹らしき鳥が飛んでいた。私は都会育ちなので
鷹を見たことはないが羽を動かさずひとりで飛んでいた。
私も鷹みたいになろうかな。
そんなバカなことを考えた。

171 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-01(木) 18:56:57] 削除依頼

明野さんに私が将棋部に入ることを伝えるとすごく驚いた。
私はそれだけいって先生のもとへと届けに行く。
先生も普段、ロボットのような私が部活に入ることを
すごく驚いていた。
「進路で悩んでいるのか?」
とさえも聞いてきた。
職員室を出て内心すごく緊張していた私はげた箱の近くの
自動販売機で檸檬の水を買った。
暑くて暑くてたまらない。すると、肩をぽんと感触があった。

172 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-06(火) 23:40:08] 削除依頼

思わず檸檬水を吹き出しそうになる。振り向くと、将棋部の
女の方の先輩だった。名前覚えないとな、と思った。
「豪快に飲んでるわね。」にこにこが怖い。
「そうでしょうか。」
「わたしもそれを飲むわ。」
「将棋部入部します。」
今度は先輩が吹き出しそうになった。タイミングを間違えたと
申し訳なくなる。
「まさか、仕返しが来るなんて思ってなかったわ。」
「すみません。」

173 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-06(火) 23:45:31] 削除依頼

「私たちの熱意が伝わったのね。」
「そうですね。」
「棒読みなのは気のせい?」
「ええ。」
少しの会話をするのも緊張してしまう。それは先輩の
迫力がすごいからだ。こんな勘は全く当てにならないが
この人は将来すごい人になりそうな気がする。
「あなた、きっと強いわよ。」
「ありがとうございます。」
「よろしくね。」
先輩はそう言って友達の方へ駆け寄っていった。

174 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-11(日) 23:12:55] 削除依頼

私は強いと言われた自分の手を見た。あの先輩が言うのだから
もしかしたら私は本当に強いのかしらなんて思ってしまう。
明野さんが私のもとへ駆け寄ってきた。
「ひどいわ。置いて行くなんて!」心なしか息が切れている。
「別に、一緒に行くなんて思ってなかったもの。」
「こういうのはね、流れで一緒に行くものでしょ。」
私は納得して、謝った。

175 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-12(月) 23:56:40] 削除依頼

そして、私たちは学校が終わり少し緊張した面持ちで
「第二学習室」将棋部の部室へ向かった。
「入ったら、あの二人いるのかな?」明野さんはわくわくしていた。
「あの、二人って?」
「ヒカル先輩とマドカ先輩に決まってるじゃない!あの二人が
 私たちと部活が一緒だなんて信じられない!」
私は、そんなにあの二人がすごいものなのかと考えていた。
どっちもすごい人だという印象は受けたが…。
そして、私たちはいよいよ部室の前に着いた。
がくがくと緊張をしている明野さんをよそに私は、勢いよくドアを開けた。
すると、ドアからパンとはじけたクラッカーが色とりどりの風になって
飛び出した。

176 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-16(金) 23:41:29] 削除依頼

「二人とも、入部おめでとう!」
私たちは思いもよらないサプライズにとても驚いた。
「これから、よろしくおねがいします。」
私はお辞儀をした。明野さんもそれにつられる。
部室をよく見ると、いろいろなトロフィーが飾ってある。
もしかしたら、思った以上に本格的なのかもしれない。
「いやー、本当に入部してくれるとは!本当にうれしいよ
 もうちょっとで廃部寸前だったし。マドカもきみを認めてるしね。」
ヒカル先輩に握手を求められる。
私より先に明野さんがその手を取った。

177 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-18(日) 23:39:54] 削除依頼

私は驚いたけれど、明野さんは嬉しそうだからまあいいやと思った。
そして、私たちはそれからの一週間毎日将棋地獄だった。
明野さんはルールを覚えること、駒の役割を知ること、作戦を
頭で考えることの三拍子をしごかれた。
私はとにかく、勝つことだけを教えられた。
「とにかく、将棋は相手を焦らせることに限る!自分独自の
 プレイで相手の脳みそをかき回すのよ!」
これは佐々木先輩の口癖だ。私たち二人は全く歯が立たない。

178 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-21(水) 23:59:34] 削除依頼

強くなりたいとはそんなに思わないけれど、なんとなく
まじめに取り組んでしまう。
「そこがツキちゃんのいいとこだよ。」
私はびっくりして後ろを振り向いた。誰もいない。
きょろきょろして探す。いない。どこにいるんだ。
「対戦中に、きょろきょろしない!」
「すみません。」私は我に返る。ため息をついた。
「ため息もなし!」
「すみません。」
天井を見たら、案の定ヨウがいた。私は思いっきり睨んだ。

179 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-27(火) 00:35:20] 削除依頼

ぁぁ!もう!ヨウのせいで二回も怒られた。今日はヨウのおかずは
少なめにしてやろう。そういえば今日は何のおかずにしようか?
どうしよう、全然考えてなかったけれど今日はスーパーの特売日だ。
それよりも、部活からで間に合うだろうか…?そもそも、何作ろう?
そうだ!卵があったからヨウの好きなオムレツにしてやろうか。
違う違う!今日はヨウのおかずは少なめなんでしょ!!
「もう!さっきからどうしたの!邪念が入りすぎよ!」
「すみません。」
自分の世界と会話して私はハッと我に返る。またヨウのせいで怒られてしまった。
いや、これは私のせいか。

180 坂口  [id : AayYPV5H] [2016-12-31(土) 23:53:20] 削除依頼

私は完全にじぶんのペースを乱してしまった。気を取り直して
一手一手に集中する。
やがて日も静まり、終了の時刻となったときには疲れ果てた。
ヒカル先輩と明野さんと一緒に帰ることになってしまった。
ササキ先輩は残念なことに家が違う方向なのだ。
私はなんとなく緊張してしまう。
「なんだか今日はおかしかったね。」ヒカル先輩が言う。
私は一瞬誰のことか分からなくなって、返事が遅くなってしまった。
「今日は、ちょっとかぜだったので。」
完全に口から出まかせだ。
「でも、今日が一番進歩した一日だった。」
それから、私はつぶやいた。
ヒカル先輩も明野さんも笑っていた。

この小説を見てくれた方、メッセージをくれた方今年はありがとうございました。
2017年もよろしくお願いいたします。

181 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-05(木) 22:57:40] 削除依頼

私が自分がこんなことを呟いてしまったのに驚いた。私は
中身のないスカスカ人間のはずだったのに、いつの間にか
過去に必死で追い求めてきた「進歩」とやらをまた実感して
いるようになった。
ヨウだって、それを心から望んでいた。
だけど、まだヨウはこの世界にいる。

ヨウの未練ってなんなんだろう?

本人はわからないって言ってたけれど本当は分かってると思う。
莫迦な私の憶測だけれど。

182 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-09(月) 14:33:14] 削除依頼

難しい顔をしていたらしくヒカル先輩が「大丈夫?」と
私の顔をのぞきこんだ。そのまぶしい顔立ちに私は一瞬
引き込まれそうになった。
この人は、やっぱり金色の髪が似合うな。
ヒカル先輩の心配をよそに私はそんなバカなことを思っていたけれど
口は「ボーっとしてしまっただけですよ。」と動いていた。
「月野さんはほんとにクールだね。」
私は首を振って二人と別れた。

183 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-13(金) 00:36:02] 削除依頼

「ツキちゃん!!おかえり!」
家に帰ったらヨウがいた。こんな光景ヨウの両親が知ったら
どうなるんだろう?私は想像したら怖くなった。
「ただいま。」
「今日は、学校どうだった?友達できた?部活楽しかった?
 なんかおいしいもの買ってきてくれた?」
いつものようにキャンキャンと聞いてくる。
「学校はふつう。友達もなし。部活はヨウのせいで怒られたわよ。
 だからおいしいものはなしね。」
ヨウはごめんと言って落ち込んだ。おいしいものさえあれば大体の
いうことは聞くんだよね。
「ヒカル先輩とは仲良くなれた?」
「それはどういう意味で?」
「ラヴ的な意味でかなぁ?」
「莫迦なこと言ってたら一生おいしいもの作ってあげないし買わないんだから!」
「ちょっと、聞いただけじゃんか!」
そのあいだに私が茄子を切りヨウが焼いて剥く。私たちは着々と
この何カ月かで料理の連係プレーを取っていた。
ヨウと料理するなんて思わなかったなあ。私は茄子を切りながら、ふと、思った。
 

184 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-15(日) 01:08:10] 削除依頼

「ツキちゃんと料理するなんて思いもよらなかったなあ。」
「本当は私となんか料理してる場合じゃないのよ。早く未練を…。」
私は自分がヨウに一番言ってはいけないことを言ってしまった。
心の中で後悔の念があふれだす。すごくモヤモヤしてくる。
ぁあ、私ってどうしていつもこうなんだろう。
「ツキちゃん。」
「ヨウ、落ち着いて探せば大丈夫よ。」何のフォローにもなってない。
「僕は後悔してるよ。」
「何を?」

185 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-15(日) 01:29:15] 削除依頼

「あの、車に乗ったことを。」
「どういうこと?」
「近いうちに、必ず話すよ。もしかしたら僕の未練かもしれないから。
 だけど、まだ。」
私は、ニコッと笑ったヨウを見てモヤモヤが残る。
お鍋の水がシューシューとあふれだした。
「ツキちゃん、ごはん食べたら将棋教えてよ。僕、まったく知らないから。」
「いいわよ、わたしもあいまいだけどね。」

ご飯を食べた後ヨウに将棋を教えた。ヨウがわからなくなって目茶苦茶なことを
するので笑わずにはいられなかった。
そうやって笑ったいるうちにモヤモヤも不安も消えた。
でも、消えたらだめな、ものだった。

186 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-16(月) 23:19:52] 削除依頼

朝起きて、時計を見て絶句する。私は思わず叫んだ。
「ちょっと!ヨウ!何で起こしてくれなかったの!!」
叫んでもヨウはいない。私は急に不安になった。
もしかして、昨日の間に成仏したとかないよね?
私は恐くなった。
机の上に置手紙があってほっとする。
『ちょっとだけ、遊びに行ってくるね。目覚しセットしといたからね!
 寝坊しても僕は知らないからね!』
いきなり目覚まし時計がじりじりとなった。5分おきにセットしてある。
私、こんなに起きれない人だったんだ…。
それにしても、どこへ遊びに行ったのかな…。もしかして、未練のある場所へ
行っているのかも…。
ヨウの成仏が喜べないなんてどうすればいいんだろう。

187 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-18(水) 00:02:30] 削除依頼

潮風の吹く道をとぼとぼと走る。学校には、ぎりぎりで間に合った。
「珍しく遅かったね。どうかしたの?」
明野さんが私を心配してくれる。
「寝坊した。」はぁ、とため息をつく。
「間に合ったからよかったじゃない。」明野さんが私の肩をぽんと
押した。
自分の友達と呼べる人に、肩を押されたのなんて久しぶりだな。
ふと思った。
元気を出そう。ヨウの未練が無くなって誰にも気づいてもらえない
世界から抜け出してまた生まれることが一番大切なことだから。

188 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-19(木) 00:21:34] 削除依頼

それにしても、今日は暑い。まだ、七月だ。いや、七月は十分に暑いか。
一時間目の体育祭の練習が終わって、もうばてばてだ。
「私、運動が嫌いで嫌いでさ。」明野さんに愚痴る。
「へぇ、意外ね。」
「どうしてよ?」
「だって足、はやいじゃない。」
私は明野さんと関わるのが嫌で逃げていた時を思い出す。
「逃げ足が速いだけか。」
「そうね。」
私たちは納得して教室へ入る。そのあと、何気ない話をしながら
将棋の勉強をした。真面目な二人なので一応は頑張っている。

189 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-20(金) 00:26:21] 削除依頼

「ねえ、夏祭り行かない?」
明野さんが突然呟いた。
「瑠璃町ではね、夏に瑠璃まつりっていってなんとなくの普通の
 祭りがあるんだけど。結構古典的で面白いのよ。」
私は少し興味が湧いた。祭りなんて言ったことなかったし。
そういう屋台とかがいっぱいで回っている祭りに一度訪れて
みたかった。
「でね、先輩たちも誘おうかと思ってるんだけど。」
一瞬考えてしまったけど、私はそれに賛同した。でも、二人も
行く人がいそうだけどな。
ヨウも誘ったら、絶対喜ぶだろうな。誘ってしまおうかな。
少し、心が弾んだ。

190 坂口  [id : AayYPV5H] [2017-01-20(金) 23:58:21] 削除依頼

部活が終わって家に帰るとヨウがいた。いつもと変わらない様子で。
「どこに行ってたの?」
「うーん、ちょっとね。」なんだか、親に知られたくないからごまかす
みたいな言い方だ。
「ちょっとって、なんだよ。」私はヨウにわざと聞こえるように
独り言をいう。普通に笑われてしまった。
私は夏祭りの件を思い出してヨウに行かないかと誘った。
ヨウはすごく驚いていたけれど、すごくうれしそうだった。
「夏祭りって僕もツキちゃんも初めてだよね!金魚すくいとか!りんご飴とか!」
「そうね。でも、ヨウはどうやっていけばいいんだろ?」
私たちは少し考えて私と明野さんそして先輩二人の計四人の中にこっそり
ヨウも連れて行くことに決めた。

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