あの日、あの場所、あの約束

小説投稿投稿掲示板より。


1    るりるん  [id : 8oPs5Ek.] [2016-03-09(水) 19:15:43] 削除依頼

  
  「あたしは『セイトの宝箱』と、あたしの宝箱の鍵を」
   
  「ぼくは『レイハの宝箱』と、ぼくの宝箱の鍵を」

   ーいつかまた会.えた時、一緒に開けよう!

2 るりるん  [id : 8oPs5Ek.] [2016-03-09(水) 19:17:03] 削除依頼




   1◆ 俺が「ぼく」だった頃

3 るりるん  [id : 8oPs5Ek.] [2016-03-09(水) 19:32:11] 削除依頼

 
 ぼく、倉橋星斗(くらはし せいと)には、明るくて可愛くて活発な幼なじみがいる。名前は、汐川鈴葉(しおかわ れいは)。家が近所で、親同士の仲も良かったぼくらは、すぐに仲良くなった。人見知りだったぼくにたくさんの友達がいるのも、鈴葉がそばにいてくれたからだとぼくは思う。皆、鈴葉の明るさに引かれて周りに来てくれたんだ。彼女には、人を集める力があるのだろう。

 そんなぼくと鈴葉が一番よく遊んだ場所がある。ぼくの家から15分くらい歩くと着く、丘。鈴葉が見つけた場所で、初めて丘に行った時のことをぼくは今でもはっきり思い出せる。

 小学1年生だった鈴葉が、ランドセルを背負ったままぼくの家に駆け込んできて、
  
 「すっごーくきれいなところがあったから、星斗もいこっ!! 」

 と言い終えると同時に、ぼくを引っ張って家から飛び出したんだ。
 
 「どこいくの、鈴葉? ぼく、アニメ見てたのに! 」
 「そんなのいつでもみれるよ。 アニメなんかよりずーっといいとこなんだから! 」

 ギャーギャー言い合いながら、ぼくらは走った。鈴葉の家を通り越し、普段は通らないような路地へ入って、そこを抜けると目の前に一本の砂利道が現れた。「道」といっても、木や草が生い茂っていてなかなか気付けないような道だったけれど。

4 るりるん  [id : MD4wFtF0] [2016-03-10(木) 19:33:09] 削除依頼

 「……ここ、とおれるの? 」
 「うん。 だって、あたしさっきとおったもん」
 「あ、そっか」

 鈴葉の言葉を信じて二人でその道を進むと、その先には、見たことの無い景色があった。その丘は、僕らが住む、五月町(さつきちょう)が一望できる場所だったのだ。いつもは自分の何倍も大きく見える人が、車が、建物が小さく見えるのが面白い。家の屋根を上から見下ろしたのは、初めてだった。

 ぼくより大きかったのは、山。五月町を囲むようにそびえる、どっしりとした山。それから、空。青く、青くどこまでも広がっていく空が、いつもより近く感じた。

 「だからいったでしょ。 アニメなんかより、ずうっといいって」
 「うん……」

 なぜか偉そうな鈴葉の隣で、ぼくはあることを思っていた。
 
 また、ともだちにここのことをいっちゃうのかな。ぼくらだけの、ひみつにしたいな。

 ふと、そう思った。どこからその気持ちが出てきたのかは、今も分からない。こんなに綺麗な場所を、他の誰にも教えたくないという、おかしなプライドだったのかもしれない。

 鈴葉が、急にぼくを呼んだ。

5 るりるん  [id : MD4wFtF0] [2016-03-10(木) 19:38:26] 削除依頼

 「ねえ、星斗」
 「なに? 」
 「ここのことさ、だれにもいわないようにしない? パパやママはいいけど」
 「どうして………? 」

 そう尋ねると、鈴葉は少し恥ずかしそうにはにかんで、それから言った。

 「ふたりのね、ひみつのばしょが、ほしかったの……! 」

 まさか、鈴葉が同じことを考えているとは思わなくて、あの時は本当に驚いた。同時に、すごく、すごく嬉しかった。だからぼくは、

 「うん、そうしよっ! 」

 笑顔で、返事をしたんだ。

6 るりるん  [id : sZGw6Y80] [2016-03-11(金) 22:30:47] 削除依頼

 こうして、ぼくと鈴葉の秘密の場所が出来た。ぼくらは、ほぼ毎日そこで遊んだ。あんまり二人で遊んでいると、他の子に怪しまれるかもしれないから、という鈴葉の言葉もあり、週二、三回は、公園や学校のグラウンドで他の友達と遊ぶ、なんてこともした。

 春は、桜が咲き誇り
 夏は、虫取りをして、近くを流れる小川で涼み
 秋は、紅葉や銀杏の木の下を駆け回り
 冬は、そこら中に雪だるまをつくって遊ぶことが出来る。

 そして、いつでも街全体が見渡せる丘が、大好きだった。ずっと、ずっとここで遊んでいたいと、本気で思っていた。

 思っていた、のに。

 それは、突然終わりを告げたんだ。

7 るりるん  [id : 8lS6cKN.] [2016-04-16(土) 21:14:46] 削除依頼



 ぼくらが小学4年生になってから1ヶ月、5月の終わりの頃だった。その日、ぼくはいつものように丘で遊ぼうと思い、鈴葉の家へ向かった。
 
 ピンポーンと、軽やかなチャイムを鳴らしてから、ぼくは言う。

 「れーいはっ、丘に行こう! 」

 普段はぼくが言い終わらないうちに鈴葉が家から飛び出してくるのに。その日はしばらく待っても誰も出てこなかった。もう一度鳴らしても、呼びかけても、汐川家はシンとしていた。

 「珍しい……。 出かけてるのかな? 」

 遊びたかったなーなんて思いながら、来た道を引き返そうとした、その時だった。

8 るりるん  [id : KXJAK9A.] [2016-04-29(金) 22:55:35] 削除依頼

 「星斗っ!」

 ガラガラッと、音がして、聞き慣れた声が僕の耳に飛び込んできた。

 「鈴葉! なあんだ、いたのかー。 ママとパパは?」
 「お買い物だってさ」
 「珍しいね、今日は出てくるのが」
 「ね、ねえ! 丘に行くんでしょう? 早く行こうよっ」

 “今日は出てくるのが遅かったけど、なにかあったの?” そう聞きたかったのに、何故か鈴葉はそれを遮った。少し不思議に思ったけど、ぼくは気にしないことにした。

 「そうだね、行こう!」

9   [id : mqUFaPE.] [2016-04-29(金) 23:01:26] 削除依頼

二セコイ感?

10 るりるん  [id : KXJAK9A.] [2016-04-29(金) 23:10:01] 削除依頼



 丘へ行く時、ぼくらは色んなことを話しながら歩く。家のこと、学校のこと、近所の野良猫のこと。そんな他愛無いことを延々と話しながら歩く。

 だけど、その日はあまり話さなかった。いつもなら率先して話す鈴葉が何も言わなかったから、なんだかぼくも話せなかった。

 鈴葉がおかしい。きっと何かあったんだ。ぼくの中でそんな気持ちが出てきた。一度考え始めると、なんだか悪いことしか考えられなくなる。

 ぼくはブンブンと頭を振って、悪い考えを追い出す。鈴葉と一緒にいるんだから、こんなことを考える必要ないんだ、と自分に言い聞かせて。

11 るりるん  [id : KXJAK9A.] [2016-04-29(金) 23:14:13] 削除依頼

>9 葵さん
ニセコイ感ですか・・・
ニセコイは題名だけ知ってて内容知らないんですよね
この小説と似ているのですか?
もしかして、二次創作レベルまでいってますか...?

12 るりるん  [id : KXJAK9A.] [2016-04-29(金) 23:34:44] 削除依頼


 普段より長い時間をかけて、やっと丘に着いた。そのまま二人で街全体が見渡せる所まで進む。鈴葉はいまだに静かなままだ。

 ぼくは街を見下ろしながら考えた。鈴葉はぼくの後ろにいる。ぼくが笑顔で振り向けば、きっといつもの鈴葉に戻るっ!

 そんなことを考えたぼくは、大きく深呼吸して、なんとか笑ってから、思い切り振り向いた。

 「やっぱりここはいいよね、れいーー」

 覚悟を決めて振り向いたのに、ぼくの笑顔は一瞬でどこかへ吹き飛ばされてしまった。

 鈴葉が、ぼくの後ろで、静かに泣いていたんだ。

13 時雨  [id : ez-xGe6n9A/] [2016-04-30(土) 00:23:47] 削除依頼

るりるん
面白いね!復帰してこんな作品書けるなんて…
くそ、天才め!
応援してるよ〜w

14 叶奏  [id : 6aF8zLB0] [2016-04-30(土) 21:30:09] 削除依頼

るりちゃんるりちゃん、更新応援してますがんばって!

15 るりるん  [id : p7ijf7A.] [2016-04-30(土) 23:02:47] 削除依頼

>13 時雨
ありがとー!拙い文章力と表現力でぽちぽちと笑
時雨の小説、楽しく読ませてもらってますっ
お互い頑張ろーね!

>13 かなちゃん
わお、ありがとー!頑張りまーす!
かなちゃんの小説、続きがとても気になるっ
更新頑張ってください!!

16 るりるん  [id : p7ijf7A.] [2016-04-30(土) 23:27:51] 削除依頼

 ぼくは驚いて、声が出せなかった。
 鈴葉が泣いているところを初めて見た、なんてことはさすがに無いけれど。でも、鈴葉はめったに泣かないから。だから、驚いてしまったのかもしれない。

 ぼくは、パニックで頭が真っ白になってしまった。そんな使えない頭より速く、体が動いた。

 ぼくの両手が、鈴葉の両手を、そっと包んだんだ。
 
 ぼくの行動に驚いたのか、鈴葉が大きく目を見開いて、ぼくを見た。そして、とうとう声をあげて泣き出してしまった。ぼくは鈴葉の手を握り続けた。鈴葉が泣き止むまで、ずっと。

17 るりるん  [id : u/tJHR60] [2016-05-01(日) 21:19:56] 削除依頼


 しばらくして、ようやく鈴葉が泣き止んだ。ぼくの手の中から自分の手を抜いて、目を乱暴にぬぐう。それから少しだけぼくの方を見て、口を開きかけたけど、何かを迷っているのか、うつむいてしまった。

 ぼくは何も言わずに待ち続けた。きっと鈴葉は話してくれると思ったから。……こういう時に何を言えばいいのか分からなかった、というのもあるのだけど。

 鈴葉が顔をあげて、ぼくの目を見た。涙で濡れた瞳が、不安げに揺れているのが見える。

 「あの、ね、星斗。あたしね」

 鈴葉は、静かに、でもはっきりと聞こえる声で話し始めた。

18 るりるん  [id : u/tJHR60] [2016-05-01(日) 22:08:11] 削除依頼

 「あたし、今度、引っ越すことに、なったの……」
 
 まさか、まさか、そんなことを言われるだなんて、ぼくは全く予想していなかった。鈴葉が突然泣き出したことよりも驚いた。同時に、ものすごいショックを受けて。鈴葉の言ったことが信じられなかった。

 「え……、うそ、でしょ? あれ、今日うそついていい日だっけ!?」
 「エイプリルフールは今日じゃないし、あたしが言ったことは、うそじゃ、ないの。」

 引っ越しの理由は、親の仕事の都合だと鈴葉は言った。場所は、ぼくが聞いたことも無い街だった。

 「最初はね、パパだけで行くって言ってたの。 でも、家族がバラバラになるのはよくないって、ママとパパがもう一度話し合って、それで、あたしも一緒に行くことになったの」

 家族がバラバラになるなんてよくない。そんなことがあっちゃ駄目だということくらい、ぼくでも理解できた。

 でも、嫌だった。信じたくなかった。生まれた時からずっと一緒にいた鈴葉が、本当の兄弟のように仲良しな鈴葉が、この街からいなくなることが、悲しくて、泣きたくなった。

19 るりるん  [id : u/tJHR60] [2016-05-01(日) 22:16:56] 削除依頼

 「……だ。 いやだ、嫌だよ! そんなの、嫌だあ!!」

 叫んだってどうにもならないことくらい、知っていたけど、それでもぼくは叫ばずにはいられなかった。ぼくの叫びに、鈴葉の顔が歪む。

 「そりゃ、あたしだって嫌だよ! ずっとここにいたいもん! でも、でも、それは無理だから……」

 鈴葉はそこで言葉を止めて、空を見上げた。しばらくそのままじっと空を見つめて、それからまたぼくを見た。

20 るりるん  [id : u/tJHR60] [2016-05-01(日) 22:29:55] 削除依頼

 「だからあたしね、すっごいいいこと考えたんだっ!」

 鈴葉は、さっきまで泣いていたのが嘘だったんじゃないか、と思わせるような満面の笑みで、ぼくにそう言ったんだ。

 「いい、こと……?」
 「そ、いいこと! だから、お家帰ろ?」
 「え、もう帰るの?」
 「だって、お家に置いてきちゃったんだもん」

 だから帰るの! と、鈴葉はぼくの手を取って、来た道を走り始めた。

 走っている鈴葉は、丘に行く時と全然違っていて、すごく楽しそうだった。いつもの鈴葉に戻ったんだって思ったら、ぼくも安心したんだ。

21 るりるん  [id : pKLf8pV0] [2016-05-25(水) 21:22:36] 削除依頼



 「ただいまー!」
 「こんにちは! お邪魔しまーす」

 ぼくらが鈴葉の家に帰ってくると、中から鈴葉のママが出てきた。

 「お帰りー。 星斗くん、いらっしゃい。 また丘に行ってきたの?」
 「うん! そうそう、あたしね、星斗に引っ越すこと話したの」

 引っ越す、の言葉にまた胸がズキッと痛んだ。やはりぼくはまだ受け入れきれていなかったようだ。

 「あら、そうなの! ……ごめんね、急な話で驚いたでしょ星斗くん」
 「えっ! あ、うん。 でもっお仕事なら仕方ない、し……」

 仕方ない、と言いながらもなぜか泣きそうになってしまい、ぼくは唇をかんでうつむいた。すると、鈴葉のママは、ぼくの体をそっと引き寄せて抱きしめた。小さい時は、ぼくが泣くと必ずこうしてくれた鈴葉のママ。その懐かしい感覚にぼくは少し落ち着いた。

 「今日はこれからここで遊ぶの?」

 鈴葉のママは、ぼくを離しながら鈴葉にそう聞いた。

 「うん。 そうしてもいい?」
 「もちろんいいわよ。 そうだ! ケーキあるけどた」
 「「食べる!」」

 ぼくと鈴葉は2人同時に答える。その勢いに少し驚いた顔をした鈴葉のママだったが、ふふっと笑うと、

 「じゃあ、後でもっていくからね」

 そう言って家の奥に入っていった。

22 るりるん  [id : pKLf8pV0] [2016-05-25(水) 23:03:52] 削除依頼

 「さっ、こっちだよ星斗」
 「あ、うん! いつも通り鈴葉の部屋?」
 
 そうだよ、と返事をしながら2階へ上がっていく鈴葉の後に続いてぼくも階段を上った。

 部屋に入って床に座ると、鈴葉が机の上から二つの箱を持ってきた。

 「……これは?」
 「宝箱! と、鍵!」

 どうやらおもちゃの宝箱のようだけど、ちゃんと鍵がついていて、中も色々入れられるようになっている。

 「これにね、手紙と、星斗が大切だって思うものを入れてほしいの」
 「手紙、と大切なもの? ……あ、もしかして、さっき言ってた、『いいもの』ってこれ?」
 
 おおー、正解!と鈴葉は笑った。

 「ここに色々入れて、私が引っ越す日にお互いの宝箱を交換するの。 それで……」

 鈴葉はそこで言葉を止めて、黙ってしまった。すると、ポタッと水が一滴、床に落ちた。

 

23 るりるん  [id : pKLf8pV0] [2016-05-25(水) 23:05:26] 削除依頼

 「あ、れ、おかしいなぁ、さっきいっぱい、泣いた、のにっ」

 ぼくが水だと思ったのは、鈴葉の涙だった。

 「鈴葉………?」
 「やっぱり、悲しいよっ、だってさ、あたしたち、ずっと、いっしょだ、ったんだよ?」

 腕で一生懸命涙をぬぐいながら話す鈴葉を見ていたら、なんだかぼくまでまた泣いてしまいそうになったから、ちょっとだけ鈴葉から目を反らした。ふっとぼくの視界に入ったのは、鈴葉が用意した、宝箱。ぼくはそれを持ち上げて、言った。

 「それで、いつかまた会.えたときに、これを開けるんでしょ?」

 精一杯笑いながら、ぼくは言った。ちゃんと笑顔だったかは、分からないけれど。
 
 鈴葉は驚いたように目を丸くして、

 「な、んで、あたしの言いたかったこと、分かったの?」

 なんて聞いてきたけれど、その答えはぼくにも分からなかった。ただ、なんとなく、鈴葉ならそう言うかなって思っただけだった。

24 るりるん  [id : PVcTHYS.] [2016-05-26(木) 21:07:09] 削除依頼


 それからぼくらは、鈴葉のママが持ってきてくれたケーキをゆっくりと食べた。
 いつもみたいに他愛の無い話をして、2人で笑った。

 
 「そうだ、ねぇ鈴葉。 これは、いつまでに入れればいいの?」

 ぼくは、自分の宝箱を持って尋ねた。

 「宝箱は……、引っ越す日までには中身を入れてほしいからえっと……」

 突然、鈴葉は立ち上がって部屋を飛び出していった。ぼくは驚いて立ち上がったけれど、1階から、

 「ママー! 引っ越しの日っていつ!?」

 という声が聞こえてきたから、ほっとしてまた座ると、鈴葉はすぐに戻ってきた。

 「6月の、11日だって」
 「ってことは、今日が5月の28日だから……2週間!?」
 「あれ、結構短いね。 あたし作るの間に合うかなぁ?」
 「え、ちょっと!? これを作ろうって言ったの鈴葉じゃん!」

 うっそだよー、と鈴葉は楽しそうに笑っていた。

 「あれ、もうこんな時間だ」

 ふと外を見ると、空が徐々に赤くなっている時間だった。

 「帰る? じゃあこれ持ってってね。 星斗の宝箱と鍵!」
 「うん。 ……明日も、丘で遊べる?」

 それがどうしても気になって、ぼくはそっと尋ねた。すると鈴葉は大きくうなずいて、応えてくれた。

 「もちろん! 明日も遊ぼうね、星斗!」
 「! うんっ!」

25 るりるん  [id : PVcTHYS.] [2016-05-26(木) 23:02:17] 削除依頼



 家に帰ってすぐ、ぼくは戸棚から便箋を探し出して、自分の部屋に向かった。机の引き出しから鉛筆を取り出して、丁寧に削る。


 汐川鈴葉様
 お元気ですか? 今のぼくらは何才でしょ

 「……絶対おかしい」

 引き出しから消しゴムを取り出して、便箋が破れないようにそっと消す。

 その後もぼくは最初の数行を書いたり消したりしていて、なかなか書き進めることができないまま、夕飯の時間になってしまった。

26 るりるん  [id : 47fi0C40] [2016-05-29(日) 18:08:26] 削除依頼


 夕飯の時、お母さんが言った。
 
 「鈴葉ちゃん、引っ越すんだってね。 聞いた?星斗」
 「うん、今日聞いたよ」
 「そう。 寂しくなるねえ、あんたたち、いつも一緒だったからさ」
 
 それからお母さんはぼくらの昔の話をたくさんしてくれた。

 丘で遊んでいたことはもちろん、倉橋家と汐川家で一緒に旅行したこと、初めての海で、ぼくらは2人そろって浮き輪ごとひっくり返り、塩水を大量に飲んだこと等、鈴葉との思い出がお母さんの口から次々と飛び出してきた。ぼくがまだ小さくて、覚えていないようなこともたくさんあった。

27 るりるん  [id : nyXCYmh0] [2016-07-30(土) 18:41:44] 削除依頼

 「ほんとにべったりだったのねあんた達」

 中学1年生の姉ちゃんが、クスクスと笑いながらぼくを見た。

 「なんだよ−、いいじゃんか」
 「別に悪いなんて言ってないでしょ? 仲良いのはいいことだし。 だからね星斗、お別れで悲しいかもしれないけど、こういう時だからこそ、あんたは鈴葉ちゃんを笑顔にしてあげるんだよ」

 姉ちゃんは、ごちそうさまー、と言って食器を片付けてリビングを出て行った。

 「ぼくもごちそうさま!」

 姉ちゃんは、ぼくが悲しんでいることに気付いてくれたんだ、と分かったら、少し恥ずかしくなったけれど、ほんの少し嬉しかった。なんだか今なら手紙が書ける気がして、ぼくは急いで部屋に戻った。

 

28 るりるん  [id : we9iw921] [2016-07-31(日) 08:23:21] 削除依頼



 それから毎日、ぼくらは学校や公園で皆と遊んで、皆よりちょっと早く帰ってそのまま二人きりで丘に行くという生活を繰り返した。引っ越しの準備は、自分の部屋だけ片付けたら後はいいから遊んでおいで、と鈴葉のママとパパが言ってくれたらしい。

 「だから一日で片付けちゃった!」

 と、鈴葉は笑っていた。
 ぼくは、引っ越しのことは気にせずに今まで通り鈴葉と思いっ切り遊んだ。姉ちゃんが言ったことを守るためにはそれが一番いいって自分で分かったから。思いっ切り遊んでいたら、鈴葉もぼくも自然と笑顔になっていたんだ。


 そして今日、6月11日。
 汐川家が、鈴葉が、引っ越す日。

29 るりるん  [id : kpyxlXa/] [2016-08-02(火) 22:34:08] 削除依頼


 朝、いつもより一時間も早く目が覚めた。机の上に置いてある宝箱と鍵を取ってきてベットの上で開ける。悩み悩んで書き上げた手紙と、ぼくの宝物が入っていることを確認した。最後に手紙をもう一度見ておこうかな、と思ったけど、また書き直したくなるだろうと思って、手紙に伸ばした手でふたを持ち、静かに閉じた。それから鍵を差し込んで回す。かちゃりと音がして、鍵がかかったのが分かる。これでもう開かないし、開けるつもりもない。そっと鍵を抜いて、また机の上に戻した。
 
 まだ皆寝ているだろうな、と思い、静かにリビングへ向かう。しかし、そこには既に父さんがいて、ソファで新聞を読んでいた。

 「父さん、おはよう」
 「お、早いな星斗。 おはよう、何か飲むか?」
 「うん、のむ」
 「よぅし、じゃあ少し待っててくれ」

 父さんは立ち上がってキッチンに入っていった。しばらくすると、ふわっといい匂いがして、父さんが二人分のスープカップを持って戻ってきた。

 「ほい、野菜スープ出来たぞ」
 「わぁ、おいしそう! いただきまーす!」

 料理好きの父さんは、よくこうやって簡単に何かを作ってくれる。ぼくは特に父さんがつくるスープが大好きだ。 今日の食材は、キャベツと玉ねぎと卵とトマトそれから......!

 「セロリ!」
 「ん、よく分かったなぁ、刻んでいれたのに」
 「父さんぼくセロリ嫌いなのに......」
 「いいじゃないか、食べられたんだから」

 楽しそうに父さんが笑ったら、リビングの入口から声がした。

 「おはよう、いい匂いねー」
 「誰かセロリって言った−? どこどこ? あ、おはよう」
 「母さん、姉ちゃんおはよう! 父さんがスープ作ってくれたよ」
 「おはよう、鍋の中にまだあるから。 そうか、華乃(はなの)はセロリが好きだったな」

 そだよー、と応えた姉ちゃんと、ご飯にするからテーブル片づけてね、と声をかける母さん。ぼくは、はぁい、と返事をして、父さんと一緒に片づけを始めた。

 少しして、倉橋家は朝ご飯の時間になった。母さんの料理も、おかわりした父さんのスープもどれもおいしかった。

30 るりるん  [id : XprZNES.] [2016-08-03(水) 09:53:44] 削除依頼

 「今日は父さんたちも鈴葉の家に行くんだよね?」

 朝ご飯の後、食器を片づけながらぼくは聞いた。

 「そうだな、皆で行くぞ」
 「ぼく先に行ってもいい?」

 ぼくは今日、鈴葉と一つ約束をしている。

 「いいわよ、行ってらっしゃい」
 「ありがとう母さん!」

片づけていた食器は、母さんが受け取ってくれた。ぼくは自室に駆け戻り、宝箱を腕で抱えて、鍵はズボンのポケットに入れた。

 「行ってきまーす!!」

 そしてぼくは家を飛び出した。

31 るりるん  [id : AUycN9v.] [2016-08-14(日) 23:21:54] 削除依頼


 ゆるやかに吹く風の中にかすかに残っている、雨のにおい。昨日の夜、雨が降ったから、道にはいくつか水たまりが出来ていた。パシャ、と水をはねながら、ぼくは走る。

 鈴葉との約束、それは最後の日も丘に行くこと。そこで宝箱を交換することになっているのだ。

 いつも二人で行く丘に、今日は一人で向かっている。ほぼ毎日丘に行っていたから、頭で考えなくても体が勝手に連れていってくれる。鈴葉の家を通り過ぎ、濡れた草の間を通ると、その先に広がる、大好きな場所。青や紫色の紫陽花が綺麗に咲いていた。

32 るりるん  [id : UGUCWWi.] [2016-08-15(月) 00:01:46] 削除依頼


 紫陽花の近くに鈴葉を見つけた。先に来ていたみたい。

 「鈴葉! ごめん、お待たせ」
 
 ぱっと振り返った鈴葉の目が、少し潤んでいるのに気がついて、ぼくの胸がチクリと痛んだ。もしかして、泣いて、た?

 「れいー、あ、いやなんでもない」
 「? どしたの星斗」

 本当に泣いていたのか、なんで泣いていたのか聞こうとしたけどやめた。今はそれを聞くときじゃないと思うし、こういう時こそ『笑顔』だ。

 「ん? なんでもないよ。 それより鈴葉、持ってきた?」

 ぼくは宝箱を頭の上で持って笑った。

 「もちろん! ......交換、しよっか」

 うん、と頷いて、ポケットから鍵を取り出した。

 「」
 

33 るりるん  [id : QFdki.i.] [2016-08-19(金) 20:28:34] 削除依頼

 「あ! 待ってごめん、わすれてた」

 鈴葉がポケットから取り出したのは、白いシール。そこには鈴葉の字で『セイトの宝箱』『レイハの宝箱』と書かれていた。

 「これ、貼るの?」
 「そういうことっ。 はい、どうぞ」

 ぼくらは、それぞれの宝箱にシールを貼った。

34 るりるん  [id : QFdki.i.] [2016-08-19(金) 20:56:51] 削除依頼


 「じゃあ、あたしは『セイトの宝箱』と、あたしの宝箱の鍵を」

 鈴葉の手に、ぼくの宝箱が乗り、

 「ぼくは『レイハの宝箱』と、ぼくの宝箱の鍵を!」

 ぼくの手に、鈴葉の宝箱が乗った。俯いて宝箱を見つめる鈴葉に、ぼくは言った。

 「いつかまた会.えたとき」

 すると、鈴葉が顔を上げて口を開いた。ぼくが何を言おうとしたか分かったみたい。ぼくらは大きく息を吸って、

 「「一緒に開けよう!」」

 思いっ切り叫んで、それから二人で笑った。

35 るりるん  [id : B7Oy/w./] [2016-10-01(土) 00:05:02] 削除依頼


 「ぜっったい開けちゃだめだからね?」
 
 丘からの帰り道。鈴葉はずっとこの言葉ばかり言っていた。本人はぼくに言ってるけど、なんだか自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

 「だから、ぼくは開けないよって何回言わせるの? 開けちゃうのは鈴葉でしょ?」
 「!? あたしは開けないもん!」

 そう笑って、くるりと回った鈴葉。ぼくは鈴葉より前に出て、大きな木の根を飛び越えて振り返った。

 「ねえ鈴葉、この宝箱はどこで見つけたの?」

 尋ねるのと同時に鈴葉の方へ手を差し出した。

 「どこだっけ? 忘れちゃったよっ」

 ぼくの手に自分の手を重ねて、鈴葉も木の根を飛び越える。帰り道はいつもこうしてたけど、これももう出来ないんだな、なんて考えて少し胸がチクリとした。

 「すごい宝箱だなぁって思ってさ。 だってこれ、同じ形に見えるのに、鍵の穴と鍵の形だけちょっと違うんだもんね」
 
 「そうそう。 だから、鍵を交換しちゃえば開かないんだ、すごいでしょー?」

 なぜか得意顔で聞いてくる鈴葉に、そうだね、と返して空を見上げた。真っ白な鳥が、ぼくらの上を飛んで行った。

36 るりるん  [id : B7Oy/w./] [2016-10-01(土) 23:57:23] 削除依頼


 鈴葉の家まで戻ると、外で鈴葉とぼくの家族が笑いながら話していた。

 「おぉ、鈴葉、星斗君、お帰り」
 「ただいまー!」
 「ごめんなさい、ずっとぼくたち待ってた?」
 「いやいや! そんなところは気にしなくていいんだよ」

 荷物を取りに家の中へはいっていった鈴葉を待つ間、ぼくは鈴葉のパパと話していた。

 「いつも鈴葉といてくれてありがとな、星斗君」
 「へへ、鈴葉と遊ぶのすっごい楽しいから!」
 
 そおか、と笑った鈴葉のパパは、こんな話をしてくれた。

 「……引っ越しの話をした日から、鈴葉は毎日泣くようになってしまって心配していたんだ。 でも、ある日を境に全く泣かなくなった。 それは、鈴葉が君に引っ越しのことを伝えた日だったんだよ」
 
 「! ぼくに、言った日……?」

 「あぁ。 それまで自分の部屋で泣いてばかりだったが、また前みたいにその日のことを楽しそうに話してくれるようになったんだ。 きっと、星斗君がいてくれたからだろうね」

 だからありがとう、と鈴葉のパパは、ぼくの頭をなでてくれた。そう言ってもらえたことがすごく嬉しくて、ぼくも笑った。

 「荷物ぜんぶ外出したよー!」
 「ありがとな鈴葉。 じゃあ、そろそろ行くか」
 
 大人たちが最後のあいさつをしている時、姉ちゃんが鈴葉になにか言うと、鈴葉の顔が赤くなったように見えた。

 「姉ちゃん、鈴葉になに言ったの?」
 「んー? 内緒」
 「……気になるんだけど」
 
 自分で気づいてー、とよく分からない言葉を残して、姉ちゃんは母さんたちのところへ行ってしまった。

37 るりるん  [id : zDLNntD/] [2016-10-02(日) 00:35:55] 削除依頼

 その後、ぼくは荷物を車に入れるのを手伝ったりして、汐川家は全員車に乗った。

 鈴葉が窓から顔を出してぼくに言う。

 「元気でね!」
 「うん。 けがとか気をつけて」
 「そうだ、手出して! 握手しよっ」

 鈴葉の手が伸びてきたから、ぼくはそっと握ったのに、鈴葉はすごい力で握り締めてきた。

 「ちょっと、痛い痛い!」
 「あはは、ごめんごめん」

 最後まで相変わらずだなあ、なんて思いながらぼくらは笑いあう。

 「さ、もう行くぞ」
 「星斗、危ないから離れて」

 父さんが後ろからぼくの服をくい、と引っ張った。後ろに下がったぼくは、鈴葉にお別れのあいさつをする。

 「じゃあね、鈴葉」
 「ん、ばいばい。 星斗」

 ゆっくりと動き出した車が、少しずつ遠ざかっていく。鈴葉はずっと手を振っていたから、ぼくも車が見えなくなるまで思いっきり振り続けた。

 「行っちゃったね……」

 そっと呟いたら、涙が出てきちゃってぼくは慌ててそれを拭う。寂しいけど、もう泣かないって決めたんだ。


 

 その日、ぼくは夢を見た。ぼくと鈴葉が、あの丘で楽しそうに笑っている、そんな夢だった。

 「れーはぁ……ぼくは、えがおでがんばる、からね……」

38 るりるん  [id : zDLNntD/] [2016-10-02(日) 00:39:43] 削除依頼




   2◆ 私の新しい世界

39 髪上園 瑠璃  [id : RZewY/4.] [2016-10-12(水) 22:53:48] 削除依頼

 
 汐川鈴葉、中学2年生。あの街から引っ越して、3年ーーー。

       ◇  ◇

 「鈴葉、今日一緒に帰ろ!」
 「ごめん奏(かなで)ちゃん、日誌書いてなかった……っ」
 「あー、当番だったっけ。 じゃ、ここで待っててもいい?」

 そう言いながら、さりげなく窓の鍵を閉めてくれる、三条奏(さんじょう かなで)ちゃん。鍵閉めも本当は私がやらないといけないことだ。

 「ありがとう、すぐ書くからっ!」
 「そんな急がなくてもいいよ。 てか、もう一人は? 当番って二人いるはずじゃん」
 
 自分の席に座りながら、奏ちゃんが聞いてくる。『さんじょう』と『しおかわ』だから、席が近くて嬉しい。

 「純(じゅん)くんなら、部活行ってもらった」
 「なんで! 当番なんだからやらせりゃいいのに」
 「純くん、今度の大会のレギュラー入りしたんだって。 本人は『俺が日誌書く』って言ってくれたけど、そんな大事な時は練習してもらわないとなって思って」

 瀬尾純(せお じゅん)くんは、隣の席の男の子。サッカー部で、この間やっとレギュラー入りできたと嬉しそうに話していた。

 「相変わらず優しすぎるよ、鈴葉は」

 奏ちゃんがため息混じりに苦笑したから、えー、そうかなぁ、なんて笑ってごまかした。

40 るりるん(38 作者名間違えました)  [id : 0JtMlja/] [2016-10-23(日) 15:59:16] 削除依頼

 「じゃあさ、恋バナしよう。 好きな人いる?」
 「唐突だね……。 しかも私から? 奏ちゃんだって好きな」
 「私はいないけど。 でも鈴葉ならいそうだなーって思って」

 なにそれって笑ったけど、ふっと一人の顔が浮かんでしまった私には、嘘をつくことも誤魔化すことも出来そうにない。それに、今まで誰かにこんな話をしたことないし、奏ちゃんには話してみたいかも、なんて思いながら口を開いた。

 「うん、いるよ」
 「やっぱり! 誰? この学校の人?」

 ガタッと椅子ごと近づいてくる奏ちゃん。う、やっぱり話すの恥ずかしい……けど、今更後戻りできる訳もなく。

 「……前に、私が遠い街から転校してきたことは話したよね? 私の好きな人は、その街にいるの」

41 るりるん  [id : NKmGV3Q.] [2016-11-01(火) 22:16:45] 削除依頼

 小さい時は人見知りで、私がいないとクラスメートとも遊べなかったりしたけど、私の我がままにいつも付き合ってくれて、泣いたら慰めてくれて、優しくて、一緒にいて楽しい人。倉橋星斗は、そんな幼なじみだっていう話を奏ちゃんにした。

 「それが私の好きな人なんだけど......ねぇ、なんでそんなにニヤニヤしてるの」

 「んふふ、私こういう話、大.好きなの。 星斗くん、だっけ? の話をしてる時、赤くなっちゃっててさ−、かーわいいねぇもう」

 「はっ、恥ずかしいんだから仕方ないじゃん!」

 ふっふっふっー、と上機嫌で笑う奏ちゃん。中1から同じクラスだけど、こんな彼女を見るのは初めてだ。

 「それだけ好きならさ、告白、したの?」

 告白、という言葉に心臓がはねる。

 「しししないよ! だって引っ越したの小5だし、片想いだしっ」

 「連絡取り合ったりしてないの?」

 「手紙、書きたかったんだけど、星斗から返事が来たら寂しくなりそうで書けなくてさ。 だから連絡先はなにも教えてない、けど......奏ちゃんどしたの?」

 なぜか頭を抱えて、重いため息をついた奏ちゃん。急にどうしたんだろう。

42 るりるん  [id : H40R7/g/] [2016-11-27(日) 22:56:42] 削除依頼

 「えっと、いくつか質問してもいい?」

 さっきから全く進んでいなかった日誌に目を落として、書きながらでよければー、と軽く返事をする。

 「星斗くんって、同い年?」
 「うん、だから今は中2だね」
 「イケメン?」
 「どうかな......かっこいい、と思うよ」
 「............」

 急に静かになったから、ちらっと前を見ると、ぶつぶつと呟きながらなにかを考えているようだった。こういう時はそっとしておくのが一番いい。

 しばらくシャーペンが紙の上を走る音だけが響き、後少しで書き終えるところまで進んだとき、奏ちゃんが口を開いた。

 「ねぇ鈴葉」
 「んー?」
 「......星斗くんが、誰か他の人に取られちゃうかも、って考えたこと、ないの?」

 パキッ、と芯が折れる音がした。書いていた文字が可笑しな形に歪む。カチ、カチ、カチ、とゆっくり新しい芯を出しながら、私は考えていた。

43 るりるん  [id : 96yoILG2] [2016-12-18(日) 17:58:30] 削除依頼

 「星斗はーー」

 その時、いきなり教室のドアが開いて、誰かが勢いよく飛び込んできた。
 
 「よかった......まだ、ここにいた」

 ゼェゼェと肩で息をしていたのは、純くんだった。

 「あれ、どしたの瀬尾。部活中じゃなかった?」

 「あー、まぁそうなんだけど。汐川に日誌任せたのやっぱ悪かったなと思って、こっそり抜けてきた」

 「え!? だっ駄目だよそんなことしちゃ! 顧問の先生に見つかったらどうするの?」

 慌てる私を見て、職員会議終わるまでに戻ってれば大丈夫、と笑う純くん。サッカー部の先生は滅茶苦茶怖いって聞いたことあるけど、本当に大丈夫かな......。

 「そんな不安そうな顔すんなって。でー、これ。一人でやらせてごめんっていうのと、部活行っていいって言ってくれて、ありがと」

 純くんのポケットから出てきたのは、かっこいい柄の小袋に入った飴。それが手のひらに2つ乗っている。

 「わ、これもらっていいの? ありがとう」

 「うちの学校お菓子禁止なのにいーんですかー」

 「そこは黙ってもらっとけよ、汐川みたいに! ほら、三条のもあるんだから」

 ぽん、と放られた飴を片手でキャッチした奏ちゃんは、いたずらっ子のような顔で、ありがと、と笑った。

 あ、いい空気。楽しい。放課後で3人しかいない教室は、昼間の騒がしい空間より静かで、だけど居心地がよかった。奏ちゃんと話していた時の明るい空気が一気になくなっちゃった時はどうしようかと思ったけど、いいタイミングで純くんが入ってきてくれて助かったと思う。

 奏ちゃんとは後でちゃんと話をしよう。なんでそんなこと言うの、と思えるようなことでも彼女の言葉で気付かされたり、考えを改めることができた時が今までに何回もあった。今回も多分、そうだから。

44 るりるん  [id : 96yoILG2] [2017-01-07(土) 18:36:41] 削除依頼


 「じゃ、俺そろそろ戻るわ-。また明日な!」
 「うん、また明日!」
 「ばいばーい」

 部活に戻る純くんを見送ってから、私は奏ちゃんに声をかけた。

 「私たちも帰ろっか」
 「ん、書けたんだ」
 「ごめんね、お待たせ」

 いいよ、って笑った奏ちゃんと一旦別れて先に昇降口に行ってもらう。私は別の廊下を通って職員室に向かった。

名前:

(書き込む前に利用規約の確認を) 掲示板ガイドと利用規約 (投稿前にお読みください)
あの日、あの場所、あの約束 - 最新50レスだけ見る。
このスレッドの投稿を全表示 - ここの書き込みをぜんぶ一気読み。
小説投稿投稿掲示板に戻る