あの日、あの場所、あの約束45コメント

1 るりるん id:8oPs5Ek.

2016-03-09(水) 19:15:43 [削除依頼]
  
  「あたしは『セイトの宝箱』と、あたしの宝箱の鍵を」
   
  「ぼくは『レイハの宝箱』と、ぼくの宝箱の鍵を」

   ーいつかまた会.えた時、一緒に開けよう!
  • 26 るりるん id:47fi0C40

    2016-05-29(日) 18:08:26 [削除依頼]

     夕飯の時、お母さんが言った。
     
     「鈴葉ちゃん、引っ越すんだってね。 聞いた?星斗」
     「うん、今日聞いたよ」
     「そう。 寂しくなるねえ、あんたたち、いつも一緒だったからさ」
     
     それからお母さんはぼくらの昔の話をたくさんしてくれた。

     丘で遊んでいたことはもちろん、倉橋家と汐川家で一緒に旅行したこと、初めての海で、ぼくらは2人そろって浮き輪ごとひっくり返り、塩水を大量に飲んだこと等、鈴葉との思い出がお母さんの口から次々と飛び出してきた。ぼくがまだ小さくて、覚えていないようなこともたくさんあった。
  • 27 るりるん id:nyXCYmh0

    2016-07-30(土) 18:41:44 [削除依頼]
     「ほんとにべったりだったのねあんた達」

     中学1年生の姉ちゃんが、クスクスと笑いながらぼくを見た。

     「なんだよ−、いいじゃんか」
     「別に悪いなんて言ってないでしょ? 仲良いのはいいことだし。 だからね星斗、お別れで悲しいかもしれないけど、こういう時だからこそ、あんたは鈴葉ちゃんを笑顔にしてあげるんだよ」

     姉ちゃんは、ごちそうさまー、と言って食器を片付けてリビングを出て行った。

     「ぼくもごちそうさま!」

     姉ちゃんは、ぼくが悲しんでいることに気付いてくれたんだ、と分かったら、少し恥ずかしくなったけれど、ほんの少し嬉しかった。なんだか今なら手紙が書ける気がして、ぼくは急いで部屋に戻った。

     
  • 28 るりるん id:we9iw921

    2016-07-31(日) 08:23:21 [削除依頼]


     それから毎日、ぼくらは学校や公園で皆と遊んで、皆よりちょっと早く帰ってそのまま二人きりで丘に行くという生活を繰り返した。引っ越しの準備は、自分の部屋だけ片付けたら後はいいから遊んでおいで、と鈴葉のママとパパが言ってくれたらしい。

     「だから一日で片付けちゃった!」

     と、鈴葉は笑っていた。
     ぼくは、引っ越しのことは気にせずに今まで通り鈴葉と思いっ切り遊んだ。姉ちゃんが言ったことを守るためにはそれが一番いいって自分で分かったから。思いっ切り遊んでいたら、鈴葉もぼくも自然と笑顔になっていたんだ。


     そして今日、6月11日。
     汐川家が、鈴葉が、引っ越す日。
  • 29 るりるん id:kpyxlXa/

    2016-08-02(火) 22:34:08 [削除依頼]

     朝、いつもより一時間も早く目が覚めた。机の上に置いてある宝箱と鍵を取ってきてベットの上で開ける。悩み悩んで書き上げた手紙と、ぼくの宝物が入っていることを確認した。最後に手紙をもう一度見ておこうかな、と思ったけど、また書き直したくなるだろうと思って、手紙に伸ばした手でふたを持ち、静かに閉じた。それから鍵を差し込んで回す。かちゃりと音がして、鍵がかかったのが分かる。これでもう開かないし、開けるつもりもない。そっと鍵を抜いて、また机の上に戻した。
     
     まだ皆寝ているだろうな、と思い、静かにリビングへ向かう。しかし、そこには既に父さんがいて、ソファで新聞を読んでいた。

     「父さん、おはよう」
     「お、早いな星斗。 おはよう、何か飲むか?」
     「うん、のむ」
     「よぅし、じゃあ少し待っててくれ」

     父さんは立ち上がってキッチンに入っていった。しばらくすると、ふわっといい匂いがして、父さんが二人分のスープカップを持って戻ってきた。

     「ほい、野菜スープ出来たぞ」
     「わぁ、おいしそう! いただきまーす!」

     料理好きの父さんは、よくこうやって簡単に何かを作ってくれる。ぼくは特に父さんがつくるスープが大好きだ。 今日の食材は、キャベツと玉ねぎと卵とトマトそれから......!

     「セロリ!」
     「ん、よく分かったなぁ、刻んでいれたのに」
     「父さんぼくセロリ嫌いなのに......」
     「いいじゃないか、食べられたんだから」

     楽しそうに父さんが笑ったら、リビングの入口から声がした。

     「おはよう、いい匂いねー」
     「誰かセロリって言った−? どこどこ? あ、おはよう」
     「母さん、姉ちゃんおはよう! 父さんがスープ作ってくれたよ」
     「おはよう、鍋の中にまだあるから。 そうか、華乃(はなの)はセロリが好きだったな」

     そだよー、と応えた姉ちゃんと、ご飯にするからテーブル片づけてね、と声をかける母さん。ぼくは、はぁい、と返事をして、父さんと一緒に片づけを始めた。

     少しして、倉橋家は朝ご飯の時間になった。母さんの料理も、おかわりした父さんのスープもどれもおいしかった。
  • 30 るりるん id:XprZNES.

    2016-08-03(水) 09:53:44 [削除依頼]
     「今日は父さんたちも鈴葉の家に行くんだよね?」

     朝ご飯の後、食器を片づけながらぼくは聞いた。

     「そうだな、皆で行くぞ」
     「ぼく先に行ってもいい?」

     ぼくは今日、鈴葉と一つ約束をしている。

     「いいわよ、行ってらっしゃい」
     「ありがとう母さん!」

    片づけていた食器は、母さんが受け取ってくれた。ぼくは自室に駆け戻り、宝箱を腕で抱えて、鍵はズボンのポケットに入れた。

     「行ってきまーす!!」

     そしてぼくは家を飛び出した。
  • 31 るりるん id:AUycN9v.

    2016-08-14(日) 23:21:54 [削除依頼]

     ゆるやかに吹く風の中にかすかに残っている、雨のにおい。昨日の夜、雨が降ったから、道にはいくつか水たまりが出来ていた。パシャ、と水をはねながら、ぼくは走る。

     鈴葉との約束、それは最後の日も丘に行くこと。そこで宝箱を交換することになっているのだ。

     いつも二人で行く丘に、今日は一人で向かっている。ほぼ毎日丘に行っていたから、頭で考えなくても体が勝手に連れていってくれる。鈴葉の家を通り過ぎ、濡れた草の間を通ると、その先に広がる、大好きな場所。青や紫色の紫陽花が綺麗に咲いていた。
  • 32 るりるん id:UGUCWWi.

    2016-08-15(月) 00:01:46 [削除依頼]

     紫陽花の近くに鈴葉を見つけた。先に来ていたみたい。

     「鈴葉! ごめん、お待たせ」
     
     ぱっと振り返った鈴葉の目が、少し潤んでいるのに気がついて、ぼくの胸がチクリと痛んだ。もしかして、泣いて、た?

     「れいー、あ、いやなんでもない」
     「? どしたの星斗」

     本当に泣いていたのか、なんで泣いていたのか聞こうとしたけどやめた。今はそれを聞くときじゃないと思うし、こういう時こそ『笑顔』だ。

     「ん? なんでもないよ。 それより鈴葉、持ってきた?」

     ぼくは宝箱を頭の上で持って笑った。

     「もちろん! ......交換、しよっか」

     うん、と頷いて、ポケットから鍵を取り出した。

     「」
     
  • 33 るりるん id:QFdki.i.

    2016-08-19(金) 20:28:34 [削除依頼]
     「あ! 待ってごめん、わすれてた」

     鈴葉がポケットから取り出したのは、白いシール。そこには鈴葉の字で『セイトの宝箱』『レイハの宝箱』と書かれていた。

     「これ、貼るの?」
     「そういうことっ。 はい、どうぞ」

     ぼくらは、それぞれの宝箱にシールを貼った。
  • 34 るりるん id:QFdki.i.

    2016-08-19(金) 20:56:51 [削除依頼]

     「じゃあ、あたしは『セイトの宝箱』と、あたしの宝箱の鍵を」

     鈴葉の手に、ぼくの宝箱が乗り、

     「ぼくは『レイハの宝箱』と、ぼくの宝箱の鍵を!」

     ぼくの手に、鈴葉の宝箱が乗った。俯いて宝箱を見つめる鈴葉に、ぼくは言った。

     「いつかまた会.えたとき」

     すると、鈴葉が顔を上げて口を開いた。ぼくが何を言おうとしたか分かったみたい。ぼくらは大きく息を吸って、

     「「一緒に開けよう!」」

     思いっ切り叫んで、それから二人で笑った。
  • 35 るりるん id:B7Oy/w./

    2016-10-01(土) 00:05:02 [削除依頼]

     「ぜっったい開けちゃだめだからね?」
     
     丘からの帰り道。鈴葉はずっとこの言葉ばかり言っていた。本人はぼくに言ってるけど、なんだか自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

     「だから、ぼくは開けないよって何回言わせるの? 開けちゃうのは鈴葉でしょ?」
     「!? あたしは開けないもん!」

     そう笑って、くるりと回った鈴葉。ぼくは鈴葉より前に出て、大きな木の根を飛び越えて振り返った。

     「ねえ鈴葉、この宝箱はどこで見つけたの?」

     尋ねるのと同時に鈴葉の方へ手を差し出した。

     「どこだっけ? 忘れちゃったよっ」

     ぼくの手に自分の手を重ねて、鈴葉も木の根を飛び越える。帰り道はいつもこうしてたけど、これももう出来ないんだな、なんて考えて少し胸がチクリとした。

     「すごい宝箱だなぁって思ってさ。 だってこれ、同じ形に見えるのに、鍵の穴と鍵の形だけちょっと違うんだもんね」
     
     「そうそう。 だから、鍵を交換しちゃえば開かないんだ、すごいでしょー?」

     なぜか得意顔で聞いてくる鈴葉に、そうだね、と返して空を見上げた。真っ白な鳥が、ぼくらの上を飛んで行った。
  • 36 るりるん id:B7Oy/w./

    2016-10-01(土) 23:57:23 [削除依頼]

     鈴葉の家まで戻ると、外で鈴葉とぼくの家族が笑いながら話していた。

     「おぉ、鈴葉、星斗君、お帰り」
     「ただいまー!」
     「ごめんなさい、ずっとぼくたち待ってた?」
     「いやいや! そんなところは気にしなくていいんだよ」

     荷物を取りに家の中へはいっていった鈴葉を待つ間、ぼくは鈴葉のパパと話していた。

     「いつも鈴葉といてくれてありがとな、星斗君」
     「へへ、鈴葉と遊ぶのすっごい楽しいから!」
     
     そおか、と笑った鈴葉のパパは、こんな話をしてくれた。

     「……引っ越しの話をした日から、鈴葉は毎日泣くようになってしまって心配していたんだ。 でも、ある日を境に全く泣かなくなった。 それは、鈴葉が君に引っ越しのことを伝えた日だったんだよ」
     
     「! ぼくに、言った日……?」

     「あぁ。 それまで自分の部屋で泣いてばかりだったが、また前みたいにその日のことを楽しそうに話してくれるようになったんだ。 きっと、星斗君がいてくれたからだろうね」

     だからありがとう、と鈴葉のパパは、ぼくの頭をなでてくれた。そう言ってもらえたことがすごく嬉しくて、ぼくも笑った。

     「荷物ぜんぶ外出したよー!」
     「ありがとな鈴葉。 じゃあ、そろそろ行くか」
     
     大人たちが最後のあいさつをしている時、姉ちゃんが鈴葉になにか言うと、鈴葉の顔が赤くなったように見えた。

     「姉ちゃん、鈴葉になに言ったの?」
     「んー? 内緒」
     「……気になるんだけど」
     
     自分で気づいてー、とよく分からない言葉を残して、姉ちゃんは母さんたちのところへ行ってしまった。
  • 37 るりるん id:zDLNntD/

    2016-10-02(日) 00:35:55 [削除依頼]
     その後、ぼくは荷物を車に入れるのを手伝ったりして、汐川家は全員車に乗った。

     鈴葉が窓から顔を出してぼくに言う。

     「元気でね!」
     「うん。 けがとか気をつけて」
     「そうだ、手出して! 握手しよっ」

     鈴葉の手が伸びてきたから、ぼくはそっと握ったのに、鈴葉はすごい力で握り締めてきた。

     「ちょっと、痛い痛い!」
     「あはは、ごめんごめん」

     最後まで相変わらずだなあ、なんて思いながらぼくらは笑いあう。

     「さ、もう行くぞ」
     「星斗、危ないから離れて」

     父さんが後ろからぼくの服をくい、と引っ張った。後ろに下がったぼくは、鈴葉にお別れのあいさつをする。

     「じゃあね、鈴葉」
     「ん、ばいばい。 星斗」

     ゆっくりと動き出した車が、少しずつ遠ざかっていく。鈴葉はずっと手を振っていたから、ぼくも車が見えなくなるまで思いっきり振り続けた。

     「行っちゃったね……」

     そっと呟いたら、涙が出てきちゃってぼくは慌ててそれを拭う。寂しいけど、もう泣かないって決めたんだ。


     

     その日、ぼくは夢を見た。ぼくと鈴葉が、あの丘で楽しそうに笑っている、そんな夢だった。

     「れーはぁ……ぼくは、えがおでがんばる、からね……」
  • 38 るりるん id:zDLNntD/

    2016-10-02(日) 00:39:43 [削除依頼]



       2◆ 私の新しい世界
  • 39 髪上園 瑠璃 id:RZewY/4.

    2016-10-12(水) 22:53:48 [削除依頼]
     
     汐川鈴葉、中学2年生。あの街から引っ越して、3年ーーー。

           ◇  ◇

     「鈴葉、今日一緒に帰ろ!」
     「ごめん奏(かなで)ちゃん、日誌書いてなかった……っ」
     「あー、当番だったっけ。 じゃ、ここで待っててもいい?」

     そう言いながら、さりげなく窓の鍵を閉めてくれる、三条奏(さんじょう かなで)ちゃん。鍵閉めも本当は私がやらないといけないことだ。

     「ありがとう、すぐ書くからっ!」
     「そんな急がなくてもいいよ。 てか、もう一人は? 当番って二人いるはずじゃん」
     
     自分の席に座りながら、奏ちゃんが聞いてくる。『さんじょう』と『しおかわ』だから、席が近くて嬉しい。

     「純(じゅん)くんなら、部活行ってもらった」
     「なんで! 当番なんだからやらせりゃいいのに」
     「純くん、今度の大会のレギュラー入りしたんだって。 本人は『俺が日誌書く』って言ってくれたけど、そんな大事な時は練習してもらわないとなって思って」

     瀬尾純(せお じゅん)くんは、隣の席の男の子。サッカー部で、この間やっとレギュラー入りできたと嬉しそうに話していた。

     「相変わらず優しすぎるよ、鈴葉は」

     奏ちゃんがため息混じりに苦笑したから、えー、そうかなぁ、なんて笑ってごまかした。
  • 40 るりるん(38 作者名間違えました) id:0JtMlja/

    2016-10-23(日) 15:59:16 [削除依頼]
     「じゃあさ、恋バナしよう。 好きな人いる?」
     「唐突だね……。 しかも私から? 奏ちゃんだって好きな」
     「私はいないけど。 でも鈴葉ならいそうだなーって思って」

     なにそれって笑ったけど、ふっと一人の顔が浮かんでしまった私には、嘘をつくことも誤魔化すことも出来そうにない。それに、今まで誰かにこんな話をしたことないし、奏ちゃんには話してみたいかも、なんて思いながら口を開いた。

     「うん、いるよ」
     「やっぱり! 誰? この学校の人?」

     ガタッと椅子ごと近づいてくる奏ちゃん。う、やっぱり話すの恥ずかしい……けど、今更後戻りできる訳もなく。

     「……前に、私が遠い街から転校してきたことは話したよね? 私の好きな人は、その街にいるの」
  • 41 るりるん id:NKmGV3Q.

    2016-11-01(火) 22:16:45 [削除依頼]
     小さい時は人見知りで、私がいないとクラスメートとも遊べなかったりしたけど、私の我がままにいつも付き合ってくれて、泣いたら慰めてくれて、優しくて、一緒にいて楽しい人。倉橋星斗は、そんな幼なじみだっていう話を奏ちゃんにした。

     「それが私の好きな人なんだけど......ねぇ、なんでそんなにニヤニヤしてるの」

     「んふふ、私こういう話、大.好きなの。 星斗くん、だっけ? の話をしてる時、赤くなっちゃっててさ−、かーわいいねぇもう」

     「はっ、恥ずかしいんだから仕方ないじゃん!」

     ふっふっふっー、と上機嫌で笑う奏ちゃん。中1から同じクラスだけど、こんな彼女を見るのは初めてだ。

     「それだけ好きならさ、告白、したの?」

     告白、という言葉に心臓がはねる。

     「しししないよ! だって引っ越したの小5だし、片想いだしっ」

     「連絡取り合ったりしてないの?」

     「手紙、書きたかったんだけど、星斗から返事が来たら寂しくなりそうで書けなくてさ。 だから連絡先はなにも教えてない、けど......奏ちゃんどしたの?」

     なぜか頭を抱えて、重いため息をついた奏ちゃん。急にどうしたんだろう。
  • 42 るりるん id:H40R7/g/

    2016-11-27(日) 22:56:42 [削除依頼]
     「えっと、いくつか質問してもいい?」

     さっきから全く進んでいなかった日誌に目を落として、書きながらでよければー、と軽く返事をする。

     「星斗くんって、同い年?」
     「うん、だから今は中2だね」
     「イケメン?」
     「どうかな......かっこいい、と思うよ」
     「............」

     急に静かになったから、ちらっと前を見ると、ぶつぶつと呟きながらなにかを考えているようだった。こういう時はそっとしておくのが一番いい。

     しばらくシャーペンが紙の上を走る音だけが響き、後少しで書き終えるところまで進んだとき、奏ちゃんが口を開いた。

     「ねぇ鈴葉」
     「んー?」
     「......星斗くんが、誰か他の人に取られちゃうかも、って考えたこと、ないの?」

     パキッ、と芯が折れる音がした。書いていた文字が可笑しな形に歪む。カチ、カチ、カチ、とゆっくり新しい芯を出しながら、私は考えていた。
  • 43 るりるん id:96yoILG2

    2016-12-18(日) 17:58:30 [削除依頼]
     「星斗はーー」



     その時、いきなり教室のドアが開いて、誰かが勢いよく飛び込んできた。

     

     「よかった......まだ、ここにいた」



     ゼェゼェと肩で息をしていたのは、純くんだった。



     「あれ、どしたの瀬尾。部活中じゃなかった?」



     「あー、まぁそうなんだけど。汐川に日誌任せたのやっぱ悪かったなと思って、こっそり抜けてきた」



     「え!? だっ駄目だよそんなことしちゃ! 顧問の先生に見つかったらどうするの?」



     慌てる私を見て、職員会議終わるまでに戻ってれば大丈夫、と笑う純くん。サッカー部の先生は滅茶苦茶怖いって聞いたことあるけど、本当に大丈夫かな......。



     「そんな不安そうな顔すんなって。でー、これ。一人でやらせてごめんっていうのと、部活行っていいって言ってくれて、ありがと」



     純くんのポケットから出てきたのは、かっこいい柄の小袋に入った飴。それが手のひらに2つ乗っている。



     「わ、これもらっていいの? ありがとう」



     「うちの学校お菓子禁止なのにいーんですかー」



     「そこは黙ってもらっとけよ、汐川みたいに! ほら、三条のもあるんだから」



     ぽん、と放られた飴を片手でキャッチした奏ちゃんは、いたずらっ子のような顔で、ありがと、と笑った。



     あ、いい空気。楽しい。放課後で3人しかいない教室は、昼間の騒がしい空間より静かで、だけど居心地がよかった。奏ちゃんと話していた時の明るい空気が一気になくなっちゃった時はどうしようかと思ったけど、いいタイミングで純くんが入ってきてくれて助かったと思う。



     奏ちゃんとは後でちゃんと話をしよう。なんでそんなこと言うの、と思えるようなことでも彼女の言葉で気付かされたり、考えを改めることができた時が今までに何回もあった。今回も多分、そうだから。
  • 44 るりるん id:96yoILG2

    2017-01-07(土) 18:36:41 [削除依頼]


     「じゃ、俺そろそろ戻るわ-。また明日な!」

     「うん、また明日!」

     「ばいばーい」



     部活に戻る純くんを見送ってから、私は奏ちゃんに声をかけた。



     「私たちも帰ろっか」

     「ん、書けたんだ」

     「ごめんね、お待たせ」



     いいよ、って笑った奏ちゃんと一旦別れて先に昇降口に行ってもらう。私は別の廊下を通って職員室に向かった。
  • 45 るりるん id:CvoucQWO

    2017-02-19(日) 23:47:31 [削除依頼]
     階段の踊り場から窓の外を見ると、サッカー部がはっきりと見えた。その中には純くんの姿もある。顧問の先生はいないみたいだから、ちゃんと戻れたんだなと少し安心した。

     試合形式での練習なのか、シュートを決めた純くんがチームメイトとハイタッチしている。かっこよかったな今の。ボールがゴールに吸い込まれていくみたいだった。

     星斗も、出来るのかな。
     私は小学校のグラウンドでクラスメートとボールを追っていた頃を思い出していた。星斗、シュート上手かったよね。私が星斗に向けて蹴って、それを星斗が確実に決める。最強幼なじみペアって、言われてたよね。

     彼よりはるかに背が高い人が相手でも、するりとかわしてドリブルをしていく純くんが、星斗と重なって見えた。あれが星斗だったらーー

     「あら? 汐川さんどうしたの?」
     
     「ふぁい!? あっ先生!」

     突然後ろから声をかけられ、慌てて振り返ると、担任が階段を降りてくるところだった。

     「先生に学級日誌渡しに行くところだったんです! 今、渡していいですか?」

     「ええ、それは構わないわ」

     「ありがとうございます、お願いします! さようなら!」

     「はい、さようなら。気をつけてー」

     先生に背を向けて、パタパタと駆け出す。別に悪いことをしていた訳じゃないのだから慌てる必要はなかったのだけど。急に恥ずかしくなったのだ。

     「なんで、星斗と純くん重ねてるんだろ......」

     少し熱を帯びた頬を、ぶんぶんと振って冷ます。
     
     そんな私を見た先生が、

     「......青春ねぇ」

     なんて笑っていたことは、私は知らなかった。



    >45
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