花紺青の靴12コメント

1 かえで id:ARNF6Ogb

2016-12-13(火) 13:48:47 [削除依頼]






花紺青の靴をベランダに並べた、まるで夜のきみだった。







  • 2 かえで id:ARNF6Ogb

    2016-12-13(火) 13:50:48 [削除依頼]




    こんにちは、かえでです。

    深い意味がなかったりで曖昧ですが新しいスレッドを立てさせていただきました。

    前のSSはそっと流れに置いてゆきます。

    こちらでまた、拙いですが、どうぞよろしくお願いします。







  • 3 かえで id:ARNF6Ogb

    2016-12-13(火) 14:38:44 [削除依頼]






    「サキ、一緒に帰ろうや」



    きみがまたわたしの手を引いて、白いセーラーの裾をくしゃくしゃにした。

    わたしは、そんなきみが微笑む様子がひどく苦手だった。

    男のくせに細い睫毛が白い肌に影を落として、薄く覗かせた大きな黒目が三日月に割れている。すこし口角を上げる、もうひとつの小さな三日月はリップが嫌いだからと、いつもかさついていた。

    男のくせにこんなにも華奢なきみがいつか壊れてしまいそうだった。でも、そんなことはないのかもしれない。放課後にわたしの裾をくしゃくしゃにしてゆく手を見る度に、わたしより大きな靴が昇降口に落ちる度にそう感じて、今日も同じようにしわを残すきみ、どうしてなんだろう。

    伸びた前髪をゆるりと傾けて、きみはいつもその微笑みをわたしに向けながら何かことばを並べては満足そうな表情(かお)をしていた。

    わたしは無意識にきみの前を歩くようになっていたけど、きみはそんなことはどうでもいいという風にまた微笑んでいた。

    歩くスピードが速くなる。きみの影も速くなったから、ああ追いかけてくれているんだなと自分自身が嫌になった。ばかなわたし、こんな自分自身で恥ずかしいことをしている、こんな幼稚なわたし。消えたくなりたかった。もうやめたかった。こんなわたしをやめたかった。



    ああ、ああ、きみのそれはどうしてこんなにわたしを苦しくさせるのだろう。ひどいはなしだ。本当にひどい。わたしは、わたしはいつだってきみのそれを知っていたのだから。いつも、いつも、きみの、きみの、



    「サキは速いなあ、速いよ、ねえ、サキ」



    きみがわたしの裾をくしゃくしゃにして、ぐいと引き寄せたような気がした。本当は違ったけれど。

    空気はもういたいくらい寒いはずなのに、自分の白いセーラーの中のくぼみには薄く汗を滲ませているような気がした。ひやりとして背中がふるえる。

    振り返る。ことばがつっかえる。途切れて、途切れて、わたしは自分が何を言っているのかわからなくなって、きみの手を掴もうとする。自分の小指にこっそりと塗られた青色が日を浴びて反射していた。



    「なんで、なんでなの、ねえ、違う、違うよ、わたしは」



    きみがまた微笑んだ。

    ああ、ああ。もう、もうわたしは。

    わたしはもう堰が切れそうでふるえたゆびさきを閉じ込めた。閉じ込めてわたしはきみに背中を向けた。もうぜんぶがきらいになっていた。そのときの時間も、自分も、きみもぜんぶぜんぶ壊れてしねばいいとおもった。しんじゃえ、こんなわたしなんて。しんじゃえ……



    もう明日がきてしまったのなら、わたしはきみと二人きりになりたい。それ以外はいやだよ。いやだよ。

    フラッシュバックのように浮かんだきみの微笑みが消えなかった。わたしは堰を自分で切り崩していた。明日のわたしがどうか、上手にきみと話せますように。きっと明日もきみとわたしは、何も変わらないのだろうだから。あの細い睫毛が影に浮かぶことでさえ。







    /歩幅



  • 4 かえで id:ARNF6Ogb

    2016-12-14(水) 15:31:07 [削除依頼]






    「酷いと思わないかい。私達の真似事をして菓子を貰うだなんて行事をやってるなんて」

    「僕は下界の人達が酷いと思わないけどなあ。君はそういうの嫌いなのかい」



    魔女はふんと鼻息を荒くして、当たり前じゃないかと踏ん反る。

    それを聞いた悪魔は自らの羽を波打ちさせ、黒色をはためかせたと思うと軽く相槌を打った。

    温厚な悪魔は珍しいからと嫌われているが、魔女はその本人が嫌いではなかった、寧ろ自分も嫌われていたからなのかもしれない。こんなわがままな魔女だから。

    柳の樹さえ、魔女が来れば振るえてしまう。本当は淋しいのだ。



    「私なんて甘味を頂いたことさえないからね。苛立つんだよ」



    魔女は長髪の黒をなびかせてフイとそっぽを向いた。

    その横顔は白く細く美しく、瞳は青く青く潤んでいるようで悪魔はどきりとした。悪魔のこころは他人に干渉しないというのは嘘なのかもしれない。こんなにも魔女にこころ震わせてしまっているのに、不思議だ。



    「じゃあ、僕が君に甘味をあげよう」

    「はあ? 同情だなんていらないよ」



    悪魔はくすりと笑って片手を魔女の頬に伸ばした。頬に悪魔の長い爪先が触れ、魔女はびくりと肩を震わせて振り返った。悪魔の瞳に魅入られることだけはしたくなかった。

    気付けば魔女が立ち上がる前に、悪魔に抱き締められていた。

    体温が冷たい。



    徐々に浸食されていく、こころにある何かに気付かぬまま、悪魔は魔女に口付けをのこした。

    今宵、嫌われ者の二人だけが紅い三日月の下で、下界の甘味を口にしていたのだ。





    /Trick but Treat



     (以前のスレッドからの引用です)季節はずれ



  • 5 かえで id:ARNF6Ogb

    2016-12-14(水) 15:58:40 [削除依頼]




    「絵を描きたいなぁって思うんだ」



    彼女はほんのりと柔らかい笑顔をしていたのだと思う。女の子らしいそれは、とてもやさしくてふんわりとした、きっとそうなんだろうなと思った。

    そのやさしさと笑顔は、彼女のさらさらとなびく後ろ髪をチラリと見ただけでは到底わかるものじゃなかったから、僕はただパイプ椅子に折り曲げた膝に拳を乗せていた。



    じゃあいますぐにその転がっている鉛筆に手を掛けて、そこにある適当な紙になんでも物を描けばいいんじゃないか、なんて言えるわけもない。言えるわけもない。言えるわけがないだろ!

    そんな、絵を描く当たり前のことさえできないように彼女の未来を奪ったのは僕自身だった。わかってる、わかっているんだよそんなこと、そんなことは。

    それなのにこうやって顔を合わせに来る僕は、きっと彼女からしてみれば罪滅ぼしでもなんでもないのに、来なければ来ないで、きっと彼女じゃない誰かに僕は杭を打たれていた。

    その杭はきっと僕を貫いてすぐに消えるものなのだろうけど、僕はその瞬間にアッサリ、という風にしんでしまうし、彼女はそれでも僕にやさしくわらうのだろうなと思ったら顔を合わせに来るしか他ない。

    しんでくれ、僕。どうか誰の目に入らないままにしんでくれ。



    「ごめんね」



    ぽつりと落とした自分の声は思った以上にちいさくてよわくて、ひょろりと抜けていて苦しくなった。ひゅ、と息が喉仏を通り越す。

    自分は彼女よりも声が低くて、それが至極普通なのにどうしようもなく恐ろしくなったし、彼女が僕のこの薄っぺらい謝罪をどう受け止めるのかさえ考えるだけで嗚咽が漏れそうになる。

    こわくてこわくて仕方無いのに彼女はやさしいのだ。それがいやだ。いやだ。

    もういっそ彼女は僕のことを思い切り殴り蹴飛ばして、なにからなにまで奪い戻そうとする勢いで僕に物を投げて傷をつけてくれたなら、僕はすこしでもこころを軽くできたのかもしれないしイコールにしてほしい僕がいるのだ。たとえその重さが違えども、感情のなかにあるイコールが欲しい。

    きみと同じになりたい。きみとしにたい。



    「全然気にしてないから。私がふざけてたのが悪いんだし、全然、スイ君の所為じゃないからね」



    しぬ。

    やさしい嘘だなんて綺麗なことばで流せるものじゃないと悟った。

    しぬ。

    彼女のことばはいつだって僕を刺し殺す杭をつくる。きみのぜんぶがもういやで仕方がなくなるほどに、もう、もうどうしようもなくそれは嫌いだった。どうしようもないばかで幼稚な八つ当たりな気持ちだった。

    ずるいよ。ずるい。

    こわくて憎くなるのにどうしようもなく僕がよわくて握り締めた拳が小刻みにふるえた。



    「……ご、めん」

    「そんな謝らないで。ね、私は大丈夫だから」



    そう言って彼女はやっとこちらを向いた。

    それは、やっぱり、やっぱり僕の想像していた通りの笑顔をしていた。

    二度と彼女は僕をゆるしてはくれないのだろう。きみは僕をいつだってころしてくる。ころしてくれ、きみとしにたいと思う。それなのに僕はもう彼女の前ではいきることもしぬこともゆるされなかった。

    彼女は僕をころすのだ。ころしたくて仕方ないのだ。





    「……ホシナが、きみが描く絵が好きだったから…………ごめん」

    「ありがとう。私もスイ君が描いた絵、好きだよ」





     

    /甘



     殺伐





  • 6 かえで id:ARNF6Ogb

    2017-02-18(土) 19:23:42 [削除依頼]


    わたしはわたしがいつかしぬときに優しくしてくれるひとがいたら、それでいいなとおもっていた。
    さよならをするときは笑顔でいてほしくはない、泣いて悲しんでほしい。縋ってくれ、最後くらいわたしを求めてほしいな、そう思いながら白に染まる。そんな虚無感を感じてはわたしは今日を過ぎて行くのを眺めていた。
    電車がゴオと音を立てて通り過ぎる。風が髪を煽るのがすきで、わたしは何度も何度もここをわざとゆっくり歩く。きみはいない。きみはしんだ。

    「同級生の葬式なんて映画でしかみたことないよ。クラスメイトみんなできみの顔を見に行くなんて、最悪だね。だってきみは一人で弁当食べてたのにさ」

    あざけわらう。
    踏み切りのところまで来ると、夕暮れに照らされた線路がきらきらとしていた。この時間帯は普段は自転車でいっぱいになるのだけど、今日はみんな葬式に行ったから誰ひとりいない場所になっていたのだ。さびれてゆく。時間がこのままいっしょにさびれてゆく。

    きみがしんだときに泣いたひとは学級委員くらいだった。学級委員ときみは同じ近所で道がいっしょだったから、すこしだけ思い出してしまったのだろうな。
    彼女の黒髪がひくひくと涙と揺れていたこと、覚えている。

    いつかきみに読んでほしい本があったような気がする。きみと最後に話したのはその話をしたきりだったから、きっと、そうなんだろう。読んでほしい本があったような。もしかしたらきみがわたしに勧めていたのかもしれないけど、忘れた。
    夕暮れに溶けた黄色がもうかたちを成してはいなくて、ひとつになる。
    カンカンと鳴り響くそれは命日みたいだ。タイムリミット。いつかわたしはしぬ。そのときに泣いてくれるひとはきっと、涙もろいきみだけだったのかもしれない。いや、きみはそこにいる?
    きみも口をまともに開いたのは、きっとわたしとの会話で最後なんでしょ。無口でいつもひとりぼっちの、はずれくじで隅っこでしにそうなくらい白い。
    そんなきみがわたしをみて泣いていたら、と思った
    電車がゴオと音を立てて通り過ぎる。
    さよなら。好きな風に煽られながらわたしは命日の音を聴いた。きみはもういなかった。
    やがてゆっくりと開かれた線路を、わたしはゆっくりと進んで、曲がって消えた。

  • 7 かえで id:vnGiyrDo

    2017-03-08(水) 00:00:06 [削除依頼]

    パレードを覆う観客達の中にきみが立っていた。駆け寄るときみがこちらをふいと向いた。大きな骨ばった肩が僅かにこちらを覗いた。

    「久しぶりだね、遅れてごめん」
    「そんなに待ってない」

    それもそうだね。
    わたしが前髪を切った。ヒールを履いた。新しい桜色のリップクリームはちゃんとわたしの桜色になれているだろうか。ただの、わたしがつけさせられている、春になっていないだろうか。
    ちらっときみを見上げる。きみがまっすぐにパレードを見ていた。狭い道をぎゅうぎゅうにして人はそれに吸い込まれていった。赤、黄色、水色、降り注ぐ音が聞こえる。悲しみがひとつも落ちてはいなかった。

    「最初の演目も見たかったな、遅れなければ見れたのに。ねえどんなのだった?」
    「忘れたよ」
    「そんなあ。ねえ、ちゃんと見ていた?」
    「うん。でも、多分そんな大したものじゃなかったよ、多分。きれいだった気はするけど」

    本当は憶えているんじゃないの。
    口を噤んでおく。足がふるえた。すると急に人が押し寄せてきて、わたしの横をどんと打ち寄せた。
    波のようにぐわりぐわりと目眩がする。色々な春の匂いがわたしの視界をまっしろにした。春の匂いが沈み込んで、おちる。
    アッと声をあげた途端だった。きみがわたしの腕を掴んでくれていた。わたしの桜色の袖をきみがくしゃくしゃにして。
    骨ばった大きな手はわたしよりも白かった。どきどきどきどきと急に胸が苦しくなる。ぎゅうぎゅうになる。まっしろになった視界はきみの柔らかな青いシャツでいっぱいになった。
    わたしはどっと座り込んでしまった。
    するときみは呆れた顔をしたから恥ずかしくなったけれど、でも、もう慣れないヒールも痛くなってしまったんだ。溜めていたつばをのむ。

    「あ、ありがとう」
    「うん」

    するとパレードが終わりの挨拶をしていたことに気づかなかった。みんなが拍手を送る中でわたしときみだけが春の匂いに沈んでいた。
    一人じゃ立てないような気がした。
    きみの差し出される手を待つ。するときみがわたしの桜色の肩に手をまわす。肩を揺らしたらきみがまたわらった。
    きみのまっすぐな目がわたしに向けられて、ああ、綺麗な二重をした、大きな目だった。



    赤、黄色、水色の紙吹雪がわたしの前髪に落ちて、それを払うことができずにいた。
    リップクリームよりも艶めかしいものがぬるりと伝う。上塗りされたような生温かいそれをわたしは一瞬だけ気持ち悪いとおもった。

    「すきだよ」

    きみはヒールを拾い、わたしの足に置かせてくれた。
    枯れた花瓶が捨てられるように、きみがいるように、わたしはきみの一部になる。パレードはもういいんだ。
    きみが大きな鯨のようにわたしを見下ろしていた。影が辺りを覆う、そのきみの影にわたしはいない。
    わたしの前髪を撫でた手が、ゆびが、紙吹雪に散らされた赤色のそれをきみが払う。きみがわらう。
    それは確かに、うそつきな春だった。




  • 8 かえで id:vnGiyrDo

    2017-03-08(水) 20:25:24 [削除依頼]


     
    「あたし、あんたが好きだったんだよ」

    ふとしたらいつの間にかすっぽりと、世界は白くなっていていますぐ亡んでしまいそうな程につめたかった。
    冬なんてあっさり終わればいい。春もきらい。
    いつだってあたしはわがまましか言うことが出来ないこどもで、あんたはそんなあたしをどうやって見ているのかなんて、そんなことを考えてばっかりだよ。最近の朝はゆっくりしている。気のせいかな。
    ひやりとした風があたしの短い黒を撫でながら去って、スカートから覗く膝を抜ける。じわりとした瞼は、きっとすごくくっきりとあかい。最後に風はあたしの顔をあかくあかく染めた。
    泣きたくなるつめたさって不思議で、すごく近くにあって、やっぱり嫌い。

    「なんで今更そんなこと言うの」
    「だってあんた彼女できたんでしょ。何だっけ、隣のクラスの」
    「ミキ?」

    そう、ミキちゃんって子。 確かあの子すごいかわいかったよね。すごく良い子だってきいたよ。今まで隣のクラスのミキちゃんなんてこれぽっちも興味無かったんだけど、あんたの彼女だって知って、それで、色々と知っちゃったよ。
    優しくてすごくかわいいって、本当。

    「うん。だからね、未練とかあったらやだなって」

    にひひとマフラー越しにわらう。
    赤いチェック柄が定番で一番かわいいって聞いたからずっと付けていたものだった。
    きっとあたしのその笑顔はまだ未熟でかわいい女子になりきれてない。チェック柄も浮いてる。女子はみんなかわいくわらえるんだって思い出した時に、真っ先にミキちゃんの笑顔を知りたくなった。
    あたし、女子らしくなろうって思ったのが本当に遅くて、だから、まだ上手くできないんだ。きっといつか上手になるよ。あたしかわいい笑顔になるよ。

    これからもずっと馬鹿みたいにくだらないはなしをあんたとしていられれば良かったんだけど、 あたし、あんたのこと判ってなかったみたい。帰り道、チェック柄をつけただけで強くなった気になっていたあたし、あんたの隣に居たと思っていたのに、ミキちゃん知らなかったなんてわらえる。
    いつのまに冬になって、彼女とかできてたの?


    「ごめん。俺、チセのことずっと友達だと思ってたから」
    「だよね」


    わらった。
    あんたの明るくなった茶髪もあたしのマフラーも揺れる。
    今だけおんなじになれてる。もう二度とこんなことなくなるのかな。そうなる位なら、ずっと冬のままでいい。
    白くなって、ずっとずっと白くなって、あたしはあたしよりもかわいくなってみせたい。あんたにみてほしい。冬の間にみてほしいんだよ。
    ミキちゃんの笑顔はきっと鮮やかな春に似合うから。


    「もう帰ろっか。寒いし」

    唇が乾いてことばが上手にこぼれてこない。
    くるしいよ。泣きたくなるから顔があかくなるなんて信じない。
    唇を手の甲で小さく拭う。期待していたあたしは白くなる。
    しらない。こんな気持ちはずっと知らないままでよかった。

    あたしが昨日、初めてピンク色のリップを買ったことを、あんたは知らない。


     
    /リップ

     付け足し

  • 9 ろの id:FZexoz2J

    2017-03-18(土) 20:20:00 [削除依頼]
    お久しぶりです。ろのです、
    >>7がめちゃめちゃ好きで、つい声をかけたくなってしまいました
    応援してます、お邪魔しました……!!
  • 10 かえで id:ITRlMuBZ

    2017-03-21(火) 00:01:13 [削除依頼]
    >>9
    ろのさんお久しぶりです……!
    ありがとうございます。ろのさんにそう言っていただけるととっても嬉しくてどきどきします
    こちらこそありがとうございました……!!
  • 11 かえで id:ITRlMuBZ

    2017-03-21(火) 00:27:37 [削除依頼]

    改札が妙にざわついていた。春だと思わされる風景に息を呑んでいた。
    青や紺混じりなずしりとした色がどれも真新しくて、きらきらとしている。それらがざわめきの中で交差する。明るい幸せそうな笑顔がぱらぱらとそこらに広がって、交差して、さようならよりもずっとずっと大きい鮮やかさだ。
    だからふと、きみの笑顔がそこにあったのを見たとき、悲しいままでつぶれてしまわないようにと僕は手を振っていた。

    使命感を感じたからだ。
    きみとここで手を繋いだことを思い出したからだ。きみも僕も夏になればお互いのことをすこしだけ忘れる。それがわかっていたとしても、どうしてもこの季節を憎まずにはいられなかったのだ。
    きみの名前を小さく呼ぶ。
    きっと、唇だけが動いているように見えたと思う。喉まですっかり渇いていて、春の陽気に肩を預けたまま、きみの笑顔を焼き付ける。
    えくぼが浮かぶきみ。きっちりと結ばれた三つ編みが桜のように揺れていた。僕は息を呑んでいた。

    「元気でいてね、ありがとう」

    きみの声がそう、はっきりと聞こえたとき僕はやっと焦りを覚えた。ぞくりとした寒気のような痛みが、陽気と共に僕の肩から、胸にかけてまっすぐに突き刺さっていた。
    じわじわと汗ばんだブレザーの内側から鼓動が速くなるのがわかる。ああ、ああそうか。もうそろそろ本当に行かなくちゃいけない。
    桜が降り積もるのを拒むことはできないし、きみの三つ編みを解くのは僕じゃない。わかってる。

    「うん。元気で」

    ざわめきの中で、はっきりとした鮮やかさの中で、きみだけが僕の悲しみだった。
    水彩が弾けるように春雨が降るように、それが桜をいつか散らすときがくるように、僕はきみの笑顔を忘れるときがくる。それは誰にも、僕すら分からない瞬間にそのときがくる。そう思う。
    目を閉じたら、涙が出そうだった。満たされない手のひらをずっときみへ振り続けていたら、気付いたらきみはざわめきに溶けて見えなくなっていた。

    またねは言わなかった。
    愛しくなる。きみのことが好きだった。



  • 12 かえで id:ITRlMuBZ

    2017-04-19(水) 00:30:58 [削除依頼]


    ふと深夜の二時を回った春の日に、バニラアイスを食べたくなるときがある。
    それは様々な考えを止めたことと同様に、わたしは深夜になるとその時間にひとり埋まりながら月や星の流れに揺蕩う。そのときのわたしはとてもセンチメンタルだと思う。

    わたしは普段からバニラアイスを買うことがない。
    アイスクリームをワンコインで買うときに単純に好きな味のものを頼んでしまうから、どこへ歩みを進めてもバニラアイスだけは手にしたことはなかった。分かりきっている世界観だからじゃないか、と思う。
    バニラアイスを最後に食べた日は遥か遠かった気がするのに、わたしの中では、バニラ味は一口め二口めだけで世界が終わるものだった。とてもさみしい。

    昨日は春雨が降った。桜が葉桜になりつつあるのを見て、鈍い緑が混じる葉桜はあまり好きじゃないなあと高校生になって感じていた。
    バニラアイスを買うことも今までなかった。だからわたしははじめてのことをこの一夜でいっぱいする。
    分類名に記された、ちょっぴりリッチな印であるアイスクリームの文字をうっとりと眺める。銀の匙がそこにゆるやかに白く溶けてゆく様を見ては、わたしは夜の世界観に埋もれる。

    「太る」

    こころがいっぱいになりたい。
    そんな風に思わされてしまうから、この時間は無性にバニラアイスを食べたくなる。
    ラブレターを今書いたらきっと朝になったらわたしは泣きたくなるほど恥ずかしくなりそうな、そんな気持ちに駆られている。どうしようもなくことばを吐き出したくなる。バニラアイスをまた一口掬って食べた。
    じんわりとしたミルクの風味が僅かに抜けてゆく。はじめて食べた気持ちになる。やさしい。やみつきになりそう。
    長くならないうちにワンカップのバニラアイスを食べ終えたあとに、わたしは朝のことを考えるのをやめていた。全てを忘れたい。

    まだ喉元に流れるバニラの甘さがわたしの声を焼くように、確かにそこにのこっていた。


    日記


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