流砂の川と孤高のボート7コメント

1 N id:RWgpXPo/

2011-12-10(土) 20:10:23 [削除依頼]
初投稿です。
青春小説のつもりです。
どうか温かい目で見てやってください。
  • 2 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:13:52 [削除依頼]
      △  ▼  △

     それは中学三年生の九月だった。
     十四、五歳の九月というのは、人生を総合的に見ても最も切ない時期の一つだ。夏の残滓が名残惜しそうに街に纏わり付きながらも確実に消えていく、無意味に切ない時期だ。それに思春期が重なっていると、たいていの人間はセンチメンタリズムに情緒が揺れ動き、思慮に瞑想する。
  • 3 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:16:06 [削除依頼]
     僕が雑居ビルの年中かび臭い階段を降りB2・バーの扉を開けた時、すでに鴇田は酷く酔っていた。バーテンのハチも全く困っている様子で、扉を開けて僕と目が合うと助けを求めるような眼差しを投げかけ、カウンターの影に消えた。
     カウンター席に座っている鴇田に近寄っていくと、背中越しに7本の空になった瓶ビールが鴇田の目の前にきっちりと、寸分狂わず横に並べてあるのが見えた。これを見て僕は少し安心した。鴇田がこの癖を守っているという事は、虫の居心地が悪くないということになる。
    「ちょっと飲みすぎじゃないか?」と僕は聞いた。
     鴇田はそこにずっと前から僕がいたかのように、こちらには目も顔も向けずに答えた。
    「そうだな。ちょっと飲みすぎた。喉がすっかり慣れちまって全く美味しくない」
     そういいながらも鴇田は八本目のビールをグラスになみなみと注いでいる。
     僕は鴇田の隣のカウンターに座った。B2・バーのフロア内にはボン・ジョビのハブ・ア・ナイス・デイが掛かっていた。この店ではいつだって時代遅れのロックンロールが天井のスピーカーから反社会的な歌詞を流してる。ロック以外に例外は無い。
    「何かあったのか?」と僕は聞いた。
  • 4 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:17:54 [削除依頼]
    「今に始まった事じゃないさ」
     鴇田は無愛想にそう答えると、一口でグラスの半分までビールを飲んだ。
    「学校の話だってさ」
     ハチがカウンターの向こうから一口挟んだ。唐突に会話に割り込んでくるのが彼の悪い癖だ。
    「学校の話?」
    「意味の無い愚痴さ」と鴇田は言って、グラスの残りのビールを飲み干すと再びグラスに注いだ。
     僕はこれ見よがしの溜め息をついた。
    「今更愚痴ったってしょうがないだろ?俺たちはもう三年なんだぜ。ここまできたらもう最後までやるしかないさ」
     僕がそういうと鴇田はばつが悪そうな顔をした。
    「分かってるさ。俺たちはもう三年で、今はもう九月だ。あと半年で卒業なんだ」
    「名残惜しいのか?」
    「まさか」鴇田は笑ってそう答えた。
    「あと半年もあそこにいるのかと考えたら酒を飲まずにはいられなかったんだ」
     確かにそうだ、と僕は思った。
    「にしたって今日は飲みすぎだよ。警察にパクられたら学校にも行かなくても良いかもしれないけどさ」
    「それもいい」
     そういって鴇田は一気にグラスを空にした。
    「あんなとこに毎日通うぐらいなら少年院の方がマシだ」
     ハチは僕と見合わせて溜め息をついた。結局、酔いつぶれて歩けなくなった鴇田を補導されないように車に積んで返るのはいつだって彼だからだ。そして彼が酔いつぶれるまで僕がそれに付き合わなければならない。
  • 5 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:20:02 [削除依頼]

      △  ▼  △

     当時僕と鴇田は中学三年生で、それぞれ十四歳と十五歳だった。それにもかかわらず僕等はB2というバーに週に三日は通い、酒を飲んだ。
     そうでもしなければ生きていられないような気がするほど、当時の僕等にとっては世界は退屈に見えた。良くある若さゆえの幻想だ。
     この九月から卒業に掛けての半年間の間で、B2・バーで酒を飲んでいろんなことを語るのが僕等の常識であり慣習だった。他の十四、五歳の人間が、学校行事やら受験勉強やら思い出作りの薄い恋愛やらに勤しんでいる間に、僕等は軽い酒と煙草の味を覚えていった。
     時代的に、過保護で過干渉な保護者やPTAや少年非行防止団体が、エゴに駆られた理論を振り回していた時代だったので、未成年の飲酒・喫煙はかなり厳しい社会だった。自販機で煙草を買うには年齢認証カードが必要だったし、店で酒を買うにも運転免許証の提示が求められていた。
     しかしそれでも僕たちが、文字通り溺れるようにくだらない酒を飲めたのはB2・バーとそこのバーテンのハチのおかげだった。ハチはB2・バーのバーテンでありながらその店長だったからだ。そして彼も十四、五歳の頃は酒屋に入り浸っていたらしく、僕たちが中学生である事を知っていても酒と煙草を振舞ってくれる。
     ハチに直接、僕達をどう思うか聞いた事がある。
  • 6 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:21:41 [削除依頼]
     ハチはウイスキーのつまみとして出すピスタチオを炒りながら答えた。
    「おれ自身にもお前等と同じように物事を感じていた時期があったからね。俺はお前達がその時間を有意義に暮らせるような環境を与えてやりたいと思ってるだけだよ。今の時代じゃあ、子供はろくに煙草も吸えないんだろ?」
     僕はジム・ビームのストレートを口に含めながら頷いた。
    「ねぇ、ハチ……あんたが俺たちと同じ歳だったとき、こんな時期はいつまでも続いたかい?それともあっという間に終わっちまったのか?」
     ハチは少し考えるふりをしてから答えた。
    「今でも分からないよ。ただ、俺は俺の気付かない間に思春期が終わって、ふと自分を見てみたら大人になってて、他にやりたい事もなかったからこの街に酒屋を開いた。それだけだ」
  • 7 N id:RWgpXPo/

    2011-12-10(土) 20:23:01 [削除依頼]

      △  ▼  △

     中学三年生としての鴇田は、美術に精通している生徒だというのが世間の認識だった。そして事実、彼は世間に認められるほどの美術作品の功績を残している。数多くの中学生作品展や美術コンクール、時には美術館や芸術系の財団法人が開催する美術展にも作品が並ぶ事がある。芸術の世界では若き天才として名が知れている者の一人ではあるが、まだ中学生ということもあり作品が画廊に並んだり金銭取引が行なわれることは無い。本人はそれを悔しがっている。
     鴇田は自分の日常に酷い閉塞感とストレスを感じているようだった。
    「なんで毎日毎日、あんな下らんところに足を運ばなきゃならないんだ」
     鴇田が学校の話をするのはたいてい愚痴話をする時だ。
    「そもそも義務教育なんて小学生までで良いんだよ。十二歳の知識でも十分社会生活は果たせる。社会的な責任こそ果たせないとしても、社会活動は行なえるだろう。なんで中学校まで義務的に通わないといけないんだ?学びたくも無い奴が学ぶ世の中だからガキが世の中を舐め腐るんだよ。学びたい奴だけ学校に通うようにすりゃいいんだ」
    「でも日本は学歴社会だろ?かつ資本主義経済国家で経済的な立場が無いと裕福な暮らしが出来ないんだよ。大学行くためには高校に、高校行くためには中学に通わないといけないじゃないか。社会的なシステムが出来上がってるんだよ。俺たち子供の意思で同行できる問題じゃないんだ」
     僕がそういうと、鴇田は心の底から不愉快さを表した表情になって言った。
    「でも俺は学歴社会に頼らなくたって生きていける。学歴を必要とするやつはな、学歴社会で上を目指そうという出世願望がある奴だけなんだよ。等身大の人生を頭に浮かべる事のできない奴等なんだよ。まったく知性と想像力が不足してる。学歴を自分で引け散らかしてる奴等なんて見てると反吐が出るね。自分が馬鹿だって風潮してるような物なのに、それにも気付かずさも自分は高尚だって顔してやがる。クソだよ。あんな奴等は」
    「でもお前の父親は確か東大だったよな?」と僕が指摘すると鴇田は、
    「知るか」と一言で吐き捨てた。
    「あの男の話なんて俺は知らない。あいつが高学歴っておかげで俺が裕福暮らしをしてきたとしても、こっちから願い下げだ」
     鴇田はそういって黙り込んでしまった。僕が話す事もほかに無かったのでセブンスターに火をつけた咥えると、煙に触発されたのか鴇田もショートホープに火をつけた。肺から取り込まれたニコチンに、素早く脳が反応して開放的な快楽が意識を駆ける。
     こうしてしばらくすれば互いに気分が良くなる。そしてまた意味の無い愚痴話を始める。そしてまた不機嫌になって煙草を吸う。それの繰り返しだった。その繰り返しを行なって、互いに少しでも相手の話を聞こうとして、僕たちは煙草の味を覚えたのだった。
コメントを投稿する
名前必須

投稿内容必須

残り文字

投稿前の確認事項
  • 掲示板ガイドを守っていますか?
  • 個人特定できるような内容ではありませんか?
  • 他人を不快にさせる内容ではありませんか?
最近作られた掲示板
古典研究部 居合道部 キックボクシング・ムエタイ部 いじめの悩み相談 写真・カメラ 太極拳部 不登校 ウクレレ ローラースケート部 応援歌

閲覧履歴

  • 最近見たスレッドはありません

キャスフィへのご意見・ご感想

貴重なご意見
ありがとうございました!

今後ともキャスフィを
よろしくお願い申し上げます。

※こちらから削除依頼は受け付けておりません。ご了承ください。もし依頼された場合、こちらからの削除対応はいたしかねます。
※また大変恐縮ではございますが、個々のご意見にお返事できないことを予めご了承ください。