哀闘記.5コメント

1 Lua id:TiuiUDy0

2011-12-08(木) 17:56:53 [削除依頼]



 はじめて、心の底から笑えた。


    ―― 哀闘記 ――
  • 2 Lua id:TiuiUDy0

    2011-12-08(木) 19:20:06 [削除依頼]


    プロローグ


     人の顔をした煙が空を覆った。怖くて目を伏せたらその先には炎の海が広がっていた。僕は安全な場所で、国を相手に炎の海の中で闘っている父さんの力を感じた。
     避難したこの小高い山から戦場を見下ろしていると、銃声も金属音も悲鳴もしだいに遠くなっていった。CGをふんだんに使った、ちょっと完成度の高いアクション映画を見ているような気がした。
     でも、戦火にやられて軽く火傷した肌に触れると痛みを感じ、これは映画なんかではないんだと目が覚めた。
     「政府軍!やっちまえ」「殺.せ」「俺たちを守れよ」耳をつんざくような奇声は、どこか興奮していた。
     政府軍が大きな爆発音とともに高性能な兵器を消費していく。その度に歓声が上がった。そして僕は、急に底知れない恐怖を感じた。
     弾かれたように上を見上げれば人の顔をした煙が罵声の雨を降らせた。消えろ、死.ね、そう歌いながら徐々に僕に近づいてくる。
     「うわああああああああぁぁぁぁぁああ!!!」
     父さんの味方は僕しかいない。僕の味方は父さんしかいない?父さんは何処?下の戦場で殺.されるところだ。じゃあ僕は?此処に居たら僕は殺.されるのだろうか?
     興奮した大人たちを掻きわけて湿っぽい木陰で嘔吐した。形ばかりの政府も、正義の意味も知らない国民も、戦争を試合観戦のように喜ぶ大人も全部吐き出した。
     人間が気持ち悪かった。自分も同じ人間なのだと思うと死にたくなった。
     
     父さんの死.を知らせる歓声が、国を揺らした。

     ガクガクと痙攣する足をどうにか機能させ、再び戦場が見える場所へ人を縫って進んだ。雪崩のように大人が山を下って政府軍のもとへ向かっていく。僕は逆流に飲み込まれないように足に力を込めた。
     すぐに視界が開け、力なくその場に座り込んだ。息をするのも忘れた。
     晴れあがっていく煙の隙間から露わになる兵器の数々、山の上からでも確認できる死体の山。
     最後に目にとまったのはひときわ目立つ大地の抉れ。父さんが戦った場所。父さんは……いなかった。

     悲しみというには惨め過ぎるし、悔しさというには物足りなかった。
     僕だけが昨日の夜、父さんの想いを聞いていた。12歳の僕にでも、父さんの話を聞いた時は誰が悪いかなんてすぐにわかったのに。
     「父さんはお前がこれ以上間違った方向に進むのが耐えられなかったんだ。父さんはただ、正しい国になって欲しかっただけなんだ」
     静まり返った戦場に向かって僕は無意識に呟いた。

     "間違ったことは正してやるのが友達だろう?"

     そう話した時の頭に置かれた大きな手のぬくもりが蘇った。
     少し視線をずらせば色とりどりの人間が抱き合って叫んでいた。
     また大地の抉れに目を向けて、僕は独り静かに誓った。

     僕は父さんの息子だ。僕が父さんの意思を受け継ぐ。


     火薬の匂いをもう一度吸い込んで、父さんのいなくなった今を進むことを決めた。

     たとえ国中が狂っても、僕だけは人として生きる。 
  • 3 Lua id:TiuiUDy0

    2011-12-08(木) 19:34:19 [削除依頼]


    第1話 埋めた人


     父親似の漆黒の髪と深緑色の瞳をした僕は、母親と母親似のブロンドの髪と青い目をした双子の兄にとってはこれ以上なく邪魔な存在だった。せっかく罪人の父親の影を振りはらって引っ越しても僕がいれば、その罪人と関係があるのではないかと疑われてしまうから。罪人の父親との縁を切った母親は再婚した。現在俯く僕と無理して作った笑顔を浮かべる兄の正面に、何処か手の届かない余裕を浮かべて座ってる男が再婚相手である。男は僕の姿を一目見た瞬間、遠慮や気遣いのかけらもなく顔をしかめてから、僕を此処には存在していないのかのようにふるまいだした。一方で兄には非常に穏やかな声で語りかけ、目を細めて微笑みさえ浮かべている。気まずいことこの上ない。出会ってほんの数秒間で、なぜこんなにも嫌われてしまうのだろうか。今日からこの落ち着かないほど輝いた建物の中で共に暮らさなければならないのかと思うと気が遠くなる。さっきから僕を睨みつける金色のライオンの彫刻も、噎せ返るような蘭の香りも不愉快なことこの上ない。親子となる儀式なんだか知らないが、こんな窮屈な面談は早く終わってほしい。さっきから「ヴァイス君、ヴァイス君」と馬鹿みたいに兄の名前を連呼する声を聞くと、その度に自分の存在が消されていくような気分に支配された。僕らを隔てる小さなガラスのテーブルにはうっすらと男の姿が映っている。母親や兄と同じ青い目、ブロンドの髪。完全に仲間外れにされたような気がした。首から下げた銀色のチェーンの先にある藍色の石をぎゅっと握れば、母親と兄と男の声は次第に遠ざかっていった。
  • 4 Lua id:TiuiUDy0

    2011-12-08(木) 19:39:25 [削除依頼]

    僕は罪人になった父親が好きだった。僕と同じ漆黒の髪と、深緑色の目をしていた。いつも炒りたてのコーヒーみたいな匂いがして、誰にでも慕われる温厚な性格と一目置かれる知性を兼ねていた。僕はそんな父親にいつもぴったりとくっつき、こっそり書斎に忍び込んでは父親のような人になった気分を味わっているふりをしたりもした。3週間前――あの事件の昨晩――僕が12歳を迎えたとき父親は僕だけにこっそり教えてくれたことがあった。「ヴァルツ」と意味深な笑みを浮かべて僕を呼び、書斎に入れてソファに座らせ、まだ苦くて飲めないコーヒーを置いてくれた。寒かったからマグカップの表面だけを両手で包んでいた僕に、父親は静かな声で語り出した。後で考えてみれば、あれは僕のためだけに残した遺言だったんじゃないかと思う。
    「私は、この国の政府をどうしても許すことができないんだ」
    そう切り出した父親は自分の分のコーヒーを淹れて僕の隣に座った。
    「どうして」
    国とか政府とか、大きな言葉は僕にとってはあまり馴染みがなかった。
    「ヴァルツ、この国は本来生まれるべきじゃなかったんだ。政府の総帥はもともとこの地にいた先住民殺してこの国を作ったんだ。私は、自分がそんな国に住んでいる民だなんて恥ずかしくてならない」
    父親はコーヒーを一口すすった。僕もまねてみたが、口の中が渋くなって顔をしかめた。
    「先週、"奴隷制解禁令"が発布されたんだ。どれい、って何だかわかるか?」
    僕は静かに首を振った。
    「人間を動物みたいに扱うんだよ。朝から晩まで働かせて、仲間外れにするんだ」
  • 5 Lua id:TiuiUDy0

    2011-12-08(木) 19:40:04 [削除依頼]

    僕は黙って父親の声を聞いていた。声の速さもトーンも変わらないが、徐々に怒りを含んできていることが感じられたから。
    「国の総帥はかつての俺の親友だ」
    「親友?えっ、父さん総帥の友達だったの」
    「ああ。私はもう、どんどん周りが見えなくなっていく親友の姿を見たくはないんだ……だから……」
    僕は次の言葉を待っていた。「だから」、何?
    「ごめんな、ヴァルツ」
    マグカップに暖められた大きい手が僕の頭に置かれた。はじめてみる切なげな父親の表情に、僕は何て言ったらいいのか分からなかった。
    「ヴァルツ。例え裏切られたとしても、友達を見捨てるようなことをしてはいけない。人は、ひとりじゃ生きていけないから。間違ったことは正してやるのが友達だろう?」
    僕が大きくうなずくと、マグカップの中のコーヒーが静かな波を打った。父親は穏やかにほほ笑んだ。
    「もう遅いから、寝なさい」
    自分の部屋に戻って布団の中に入っても、コーヒーの匂いにやられてなかなか眠れずにいた。カーテンの隙間から洩れる月明かりが、その夜は赤かったような気がした。
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