砂丘の果て15コメント

1 玄冬 id:DabM4E1.

2011-12-02(金) 00:52:20 [削除依頼]
-砂丘の果て-

 少年は往く。少年は往く。
 砂塵にまみれ、風に煽られ。
 見守るは月の光。天に瞬く星屑の灯火。

 少年は往く。少年は往く。
 道無き道を、ただひたすらに。
 帰るべき場所を無くしたまま、何処を目指して……
 
 
 
  • 2 玄冬 id:DabM4E1.

    2011-12-02(金) 01:10:42 [削除依頼]
    1.

     錆び付いた風見鶏が、きぃきぃと耳障りな音をたてて向きを変えた。滑りが悪くなったそれさえ動かしてしまうような強い風が吹いたのである。
     風見鶏が立っているのは街を囲む大きな砦の上にある小屋の屋根だった。白い大きな石を巧妙に積み重ねてつくられた砦は何百年も前に作られたとは思えないほどに大きく、小綺麗だった。
     砦に護られた街はこの国のなかでも二番目に大きい、行商人と闘士と芸の街・カカラという名の土地だった。一番大きな街である首都・バロンは『早足』に乗って3日ほどかかる距離にある。
     バロンが規律の厳守と引き替えに約束された安全を与える、洗練された貴族と上〜中流市民たちの街ならば、カカラはある程度の自衛を問われる代わりに堅く法に縛られない街だ。
     カカラは闘士育成に力を入れていることでも名前が知られている。
     優秀な闘士と砦が代々守ってきたカカラは、これまでの史上に、一度たりとも敗北という文字を刻んだことはなかった。
     
     
  • 3 玄冬 id:DabM4E1.

    2011-12-02(金) 18:48:55 [削除依頼]
     
     少年が働くのは、砦の北門近くの小さな酒場だった。少年の名はキサといった。キサは身寄りのない子供だった。砂漠狼に喰い散らかされたあとの駱駝のような襤褸をまとい、悪漢の乱暴による傷から滲む赤色に身を包んで野垂れ死にかけていたところを、酒屋の主人に拾われたのである。
     キサは主人にそういった点で恩があった。たとえ助けられた理由が善意からではなかったとしても、命を救われたというありがたみの意味が薄れることはない。
     助けられ、傷も癒えぬうちこそ助けられたことを恨まずにはいられなかったが、時が経ち内も外も傷に瘡蓋が出来、人の温もりを再び思い出せば、恨みは感謝へと変わっていった。
     人というものはいくら頭が良くたって、結局は生物のひとつの種なのである。
     生物は生きることに熱心だ。人が生物である限り生きたがらずにはいられない。生きるために、人は生きることを苦痛と取らないようにしなければならない。
     キサは生きている限り、いつかその恨みを忘れていくさだめにあったのだ。
    「キサ、シュカの酒はあるか」
    「はい、ただいま!」
     時刻は夜。更けた闇の中、賑わうのが酒場である。
     今日も今日とて、少年は忙しく働いていた。
  • 4 玄冬 id:YmfIhcz/

    2011-12-04(日) 00:45:25 [削除依頼]
    ***

     ある日の昼下がり、とある一枚の貼り紙を前にして二人の少年が立ち話をしていた。二人はともに年相応とは言い難い服装をしていた。良いところの子なら中等学校に通い、普通の子どもでも親の庇護下でそれなりに仕事を手伝いつつ、遊びにも精を出すような年代である。少年らは、彼らが既に就業していることを示す服装をしていた。
     自ら望まぬこととしても、それは多くの大人によしと思われないことである。なぜならば、その年代で就業しているのは親に十分な扶養力がないか孤児であり、それらの子どもらは大抵の場合、十分な教育を受けさせられていないとみなされているからだ。
     片や、品こそあるものの、どこかおどけた雰囲気のある正装。片や、くたびれた酒屋のウェイターの制服を着ていた。渡国曲技団“鬼灯”の組員ザシと、酒屋のみなしごキサである。
     ザシは小道具の入った紙袋を抱え、キサは手にした箒の柄に気怠げに寄り掛かっていた。
    「“急遽募集開始! 来期闘士候補生志願者 連絡は......”だってさ、キサ」
    「ザシよ。だってさ、とは何だ。だってさ、とは」
    「いやあ、キサってこういうのに興味あるだろ」
     あるにはあるが、とキサは額に皺を寄せる。
  • 5 玄冬 id:YmfIhcz/

    2011-12-04(日) 08:45:39 [削除依頼]
    「ロトさんの店を放り出していくわけにはいかない」
     ロト、という名を聞いて、ザシはあからさまに嫌そうな顔をした。隠そうという気もないらしい、とキサはある意味感心した。人間、我慢が過ぎると壊れてしまうというが、しなさすぎるとどうなるのだろう。どうでもいい疑問がキサの脳裏を横切った。
    「ロトって、あの赤ら顔の酒.飲み爺さんか。いいじゃないか、放っておいたってあのひとはもうすぐ死.ぬぜ。妻も子どももないロト爺さんがいなくなってしまったら、酒屋も自然に閉まるだろうよ。キサはその後どうする。酒屋を継がせてもらえはしないだろう、血縁者じゃないんだから。闘士になれれば危険はあるが将来は安泰だ」
    「だとしても、受験するとしても一回聞いてみるよ」
    「あの酔っぱらいが許すと思うか」
    「……説得すれば、なんとか」
     ロトとは酒屋の主人である。ろ.くでなしの酔.っぱらいとささやかれ、そんな彼の店に来る客は黒い噂を聞くようなものたちばかりだった。キサは彼らが危ない人物だとわかっていたし、そんな客が来る店は継いでくれと言われたって継ぐ気はしなかった。
     
  • 6 玄冬 id:YmfIhcz/

    2011-12-04(日) 21:08:58 [削除依頼]
     キサは考える。果たしてロトは闘士候補生への受験など許してくれるだろうか。そうして出した結論は、やはり否定的なものだった。
     ロトはきっと、許さない。ロトはキサを自分のしもべのように扱うのが好きなのだ。そういったことを、キサは十分に承知していた。そんな男が、キサがその位置から出ていこうとするのを許すはずがない。
     申し訳なさそうに笑みをうかべ、キサはザシの提案を断った。
    「やっぱりやめておくよ」
    「……そうか。まあ、結局どうするかなんてキサの自由だしな」
    「ごめんなザシ。心配してくれたんだろ」
    「心配なんて高尚なものじゃない。ただのお節介さ」
     一瞬おりた沈黙の間に、犬が吠えた。なんとはなしに、ここでお開きが妥当かという空気になる。キサは箒を手に持ち直し、背筋をのばした。仕事に戻るのだ。ザシも袋を抱え直した。
    「じゃあな、仕事頑張れよ」
    「ザシもな。今度観に行く」
    「ああ」
     味気ない挨拶で、二人は分かれた。太陽の光は麦の穂の黄金のような色に変わりつつある。傾きかけた陽に少しばかり焦りつつ、キサは酒屋の開店の準備に勤しんだ。
     やがて、六時の鐘が鳴る。西の地平に太陽が沈み、また、夜が訪れた。
  • 7 玄冬 id:YmfIhcz/

    2011-12-04(日) 21:21:33 [削除依頼]
    ***
     
     いつもより店の主であるロトの顔が赤らんでいて、どことなく上機嫌なことをのぞけば、それはいつもと同じような夜だった。キサは酒をもって店内を忙しく動きまわり、注文をとって、野次にも対応した。
     開店してしばらくして、数人の男が店の中へ入ってきた。その男たちの粘っこい視線に悪寒を感じながらも、キサは彼らの注文をとった。彼らが注文したのはボスラ地区のビールだった。高くも安くも美味くも不味くもない酒だ。男たちは三人組で、三人三様な出で立ちが印象強かった。釘のような男と、達磨のような男と、土小人のような男らだった。彼らに共通していたのは下.卑た眼差しだけだった。
     彼らに酒をだすと、おもむろにロトが腰をあげ、彼らの机に同席した。
     キサは四人の関係が気になったが、他の客の対応に追われて様子を盗み見ることは出来なかった。
  • 8 玄冬 id:5aViALQ1

    2011-12-08(木) 23:30:54 [削除依頼]
     
     
     
    「キサ、来い」
     そうやってキサがロトに声をかけられたのは、客も少なくなった明け方近くのことだった。見れば、店の中に残っているのはキサとロトと、例の三人の男たちだけだった。二十人も入れば一杯になってしまう小さな酒場だが、五人だけともなると、逆に、何やら心許なく感じられた。
    「……何用でしょうか、ロト様」
     素早く箒を仕舞い、ロトの座る椅子の前に膝をつく。呼ばれたときにそうしないと痛い目にあうことは、身を持って知っていた。
     ロトがくわえた火草を吹かしながら足を組み替える。常とは少しだけ違う空気に、キサは体を固くした。ぷは、という音とともに吐き出された紫煙が渦を巻き、ゆらぎ、天井に消えた。
    「お前に話があるんだがな、お前を売ることにした」
     唐突に告げられた言葉に、キサは耳を疑った。
    「…………何、を」
    「聞こえなかったのか」
     キサはそれでも尚、ロトに問おうと口を開いた。が、声は言葉にならなかった。後ろから、口に布を咬まされたのだ。それをしたのは三人いた男のうちの一人だった。
    「っ、が」
     どん、とわき腹に強い衝撃が与えられる。蹴.飛ばされて、キサは床に転がった。
  • 9 玄冬 id:hmQuTTb.

    2011-12-10(土) 05:59:20 [削除依頼]
     手際よく、両手首と両足首が麻紐のようなもので拘束される。思わぬ出来事に混乱に陥っていたキサの脳みそは、正常な働きなどしてくれず縄を抜け出そうと、埃っぽい床の上をただ無闇矢鱈に暴れ回ることしかできなかった。
    「ううーっ、うーッ!」
     言葉を吐きだそうとしたが、変にこもった呻き声のようなものしか出てこない。キサはロトに悲しみと失望こそ覚えていたが、怒りは感じておらず、寧ろ「ああ、なっぱり」という妙に納得さえしていた。
     だからこそ、キサがロトに伝えようとしたものは、罵.りの類の言葉ではなかった。キサが彼に問いたかったのは「自分を売るほどに金に.困っていたのか」ということと、「ならばなぜ、相談さえもしてくれなかったのか」ということだった。その答えは既にキサの中に出ていたが、それでもキサは訊きたかったのだ。
     キサが出した答えは、いつものロトがキサに抱く意識と同じような理由であり、それはキサがひとりの人間である以上、認めるには少しばかり悲しくなるようなものだった。
     あなたのためとは言わないが、こんなにも尽くしてきたのに。
     自分は、あなたにとっての「人間」になることさえ叶わなかったのでしょうか。
  • 10 玄冬 id:hmQuTTb.

    2011-12-10(土) 06:10:43 [削除依頼]
     キサの心は悲鳴に似た叫びをあげていたが、キサは泣かなかった。ぐるぐると、芸人の回すお手玉のように目まぐるしく巡っていく心の中は、未だ静まってはいない。キサは泣かなかった。泣いてどうにかなるようなことではないと理解していたし、泣いたって自分の望む最低限の状況に成る確率は月が西から昇るより低いようなものだと、頭のどこかで感じていたからだった。
     なにやら薬のようなものを嗅がされて、キサの意識は混濁していった。葉が水面に落ち、そして水を含んで沈んでいくように、キサは暗闇におちていく。
     持ち上げられた感覚がした。
     視界の端に、麻袋が見えた気がした。
     そして全てが混沌とした世界に呑み込まれる寸前、キサは最後に、ロトを見た。
     嗚呼、こんなにも。
     こんなにも、醜.く笑うひとだったか。
     瞬きをする間よりも短く、そのときだけ妙に冴えた頭でキサは思う。
     そして、全てが無くなった。
     
  • 11 玄冬 id:hmQuTTb.

    2011-12-10(土) 06:33:17 [削除依頼]
    【第一話】fin. >>2-10 (4000文字程度?) -御挨拶1- 劇的なことが起こる予定もなく、ただ淡々と黙々と鬱々と、起こっていることが時間のままに流れていくような文章が書きたいと思い立ち書きました。この小説のテーマは、まあ、だからそんな感じです。続いていけばそのうち変わるかもしれません。が、如何せん予定は未定といいますので。変わらないかもしれません。 それでは、また。
  • 12 玄冬 id:hmQuTTb.

    2011-12-10(土) 13:16:47 [削除依頼]
    2.

     鼠の糞が散らばる、カビ臭い地下の一室。決して広いとはいえないその空間に、十数人の人間が押し込められていた。部屋は、動物の檻のように一面だけ格子となっている。そこにいる人々は、皆、一様に疲れはてた顔をしていた。
     髪、肌、光彩の色。衣服、年代、性別。集められた人々の特徴には何の規則性もなかった。少女がいたり少年がいたり。働き盛りの男もいれば、絶望した顔さえも美しい女もいた。ただ、年をとった者は少ないようだった。
     彼らに共通していることといえば、手と首にかせられた、手錠と首輪だった。
     金属、おそらくは鉄と何かの合金で出来た首輪には、それぞれに違った数字と文字の羅列が彫られていた。自らの首にあるそれを指先でなぞり、キサは息を吐いた。
     無知なふりはよそう。キサは思った。何も知らないと自分に言い聞かせて、この先起こるであろう現実を現実だと認めないようにしたかったのだ。
     それが競売にかける前の奴.隷の登録番号であると、キサは知っていた。
     前に、ロトに連れられて競売所に行ったことがあったのだ。
     そのときロトは何も買わなかったが、舞台の上にいた首輪をつけられた人々が惨めだと思った記憶があった。
  • 13 玄冬 id:xZQqx.50

    2011-12-11(日) 18:39:20 [削除依頼]
    明日から金曜まで期末テスト故、報告。
  • 14 玄冬 id:or/9c9c/

    2012-01-01(日) 10:36:03 [削除依頼]
    ——
  • 15 あ id:ZPyLwvM.

    2012-02-05(日) 09:35:20 [削除依頼]
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