JAM39コメント

1 ウォルター id:ez-.s7Gqtz.

2011-12-01(木) 17:23:54 [削除依頼]

 僕等が、途方もない過去達の上に立っているのだとしたら、〈潜〉という表現は実に的を得ていたのだろう。
 この〈潜〉が一体どういった理屈でまかり通っていたのか、それだけは最後まで判らないままだった。


   JAM
  • 20 ウォルター id:ez-fOuEj8g1

    2011-12-10(土) 20:08:59 [削除依頼]
    >19 1日1更新を続けていければと思ってます。 表せてますかね? こんなに重い過去を背負った(それも立ち直り切れていない)主人公は書いたことがないので、そう言って頂けると安心します。有難う御座います。
  • 21 ウォルター id:ez-fOuEj8g1

    2011-12-10(土) 22:43:02 [削除依頼]
     バリアフリーにはなっていたけれど、基本的には伝統的な日本家屋といった造り。東京では自宅も友人宅もマンションだったので、こんなに長い廊下の家は初めてだった。何かは分からないけど、木の匂いがする。その事が僕には凄く新鮮。
     ただでさえ最近は他人と直接会話する機会が少なかった事もあって、我ながらかなり緊張していた。前回に会ったのが(というか見掛けたのが)葬式で難しい顔をしていた姿だった事も原因の一つかも知れない。失礼の無いよう、予めメモ帳に書いた簡単な挨拶文をSOLVに映し出しておく。
     オロ婆さんの部屋は廊下の突き当たりにある、家の長いでも一番北に位置すると思われる所の一階にあった。

    「オロ婆、佐為が来たよ」

     佐為とは僕の名だ。
     叔父さんが声を掛けると、襖越しに「ん」とだけ返事が合ったので、叔父さんは襖を引いた。するとなんだか甘い匂いが鼻を突いた。これはチョコレート?
     中は六畳間だった。座布団に座るオロ婆さんを中心に、本やらパソコンやら、その他色々な物が恐らく無秩序に広がっている。老人の部屋は簡素なイメージがあったから意外だった。この部屋は寧ろ、若者の部屋に有りがちな散らかり方をしているように見える。

    「こんにちは……」
    「ん、よく来たね」

     先細りな僕の挨拶と、やや早口言葉なオロ婆さんの一言。どちらもギリギリ失礼でない、という感じ。
     部屋の隅に積んであった座布団を叔父さんが敷いてくれたので、僕はそこに座ったのだが、その座布団が何故かとても冷たく感じる。
  • 22 ウォルター id:ez-lD/jDMS0

    2011-12-11(日) 23:18:48 [削除依頼]
     目と目を合わせてお話し。なんていうのが根っから苦手で、ドラゴンをいくらレベルを上げよしようが回復魔法は覚えないように、今後どんな人生が待ち受けていようが、積極性が僕の内に宿る見込みは無いと思う。そのくらい直接的なコミュニケーションってモノが駄目な質だった。そういう性格は父から受け継いだのだろう。しかし遺伝的要因以上に、SOLVからのネットワーク環境があれば直接的なコミュニケーションなんて必要の無い日常を生きて来た事の方が大問題なのは確かなのだけど。何故確かだと言えるのかって、僕はコミュニケーションが「苦手」で済んでいるけど、世の中にはコミュニケーションに対して拒絶反応を示す人も結構いるからだ。
     ぐだぐだと何が言いたいのかと言うと、つまり僕は挨拶文を用意した努力も虚しく、畳を見詰めながら黙り込んでしまったのである。
     話出すタイミングをどこで逃したのか分からないけど、逃した事だけは確かだ。

    「……そうだ、お茶淹れてくるな」

     沈黙からの上手い逃げ道を見つけ出した叔父さんは、そそくさと元来た廊下を戻っていった。

    「……」
    「……」

     再開される沈黙。
     最早、用意した挨拶文が活かされる見込みはないので、僕はその文に注目しながら人差し指で×印を描いた。勿論、目の前のオロ婆さんに気付かれないような小さい動作で。すると役立たずの挨拶文を表示したメモ帳は、紙を割いたような効果音と共に視界から消えた。
  • 23 ウォルター id:ez-d1mRhzP0

    2011-12-12(月) 20:00:59 [削除依頼]
    「ゆうすけ」

     オロ婆さんがいきなり口を利いたので、僕は肩を震わせる程驚いた。
     挨拶文が表示されていた所から視線を上げてオロ婆さんを見ると、オロ婆さんは皺せいで開いているのか閉じているのかが視認出来ない瞳で僕を見ていた。感じる強い視線からのみ、その瞳が開いている事が分かる。
     しわくちゃな顔からは表情が今一つ、というか全く読めなかったので僕は恐る恐る聞く。

    「……あの、僕は佐為です」
    「あぁ、そうだった。ごめんねぇ」

     ゆうすけって誰!?
     頭の半分でその名前の人を探しつつ、頭のもう半分で僕は安堵した。名前を言った途端にオロ婆さんの声色が和らいだからだ。忘れられてたんだから少しは傷付けよ、と自分にツッコミ。
     難しそうな顔で黙り込んでいた理由は名前を忘れていたからというだけらしく、オロ婆さんは楽しそうに近くの引き出しから何やら御札のような物を取り出した。

    「お前にコレをやろうね」

     そう言って、僕の膝元まで畳の上をスッと滑らせてそれを寄越す。
     本当に御札みたいだ。白い紙に文字というか模様というか、兎に角、僕には到底読み解けそうにない黒が敷き詰められている。なんだろう。越してきた祝に御札を渡される……僕が使う部屋は曰わく付きなんだろうか。オロ婆さんの顔を見ても、隠しておいた美味い和菓子があるから、アンタにも一つ分けてあげるよ。みたいな茶目っ気を含んだ笑顔で此方を見るばかりだ。
     その笑顔が返って僕の不安を煽ったことは言うまでもない。
     コレは一体なんなの? と聞こうとした時、部屋の外から足音がした。

    「緑茶で良かったかなぁ?」

     廊下から発された叔父さんの声を聞くや否や、オロ婆さんは酷く慌てながらシッシッと手を振った。どうやら、早く御札をしまえ、という事らしいので、僕は叔父さんが部屋に入って来るよりも前にポケットへ御札を突っ込んだ。
  • 24 ウォルター id:ez-q2kp1ze/

    2011-12-13(火) 22:53:12 [削除依頼]
     お盆を片手に叔父さんが襖を引いた時には、オロ婆さんは元の笑顔に戻っていた。一連の挙動はなんだか子供のようだ。
     それから僕らは叔父さんが淹れたお茶と、オロ婆さんが引き出しから出した醤油煎餅を食べながら三人で少し世間話をしたけれど、矢張りというか、あまり盛り上がることは無かった。よく笑うオロ婆さんにも、次から次へと話題を出す晴海叔父さんにも、それに対して何時もより余計に相槌を打つ僕にしても、皆どこか影があった。勿論原因は両親の事故にある。

    「じゃあ、僕は部屋で荷物を解いて来ます」

     いい加減話題がなくなってきたことや、これ以上白々しく面と向かっているのが辛くなったこともあって、話が一段落したところで僕は立ち上がった。
     鞄を持って部屋を出る前に僕は振り返って、二人に頭を下げる。

    「これから宜しくお願いします」

     挨拶文なんて無くとも言える一言、新しく家族として暮らす二人へ言っておかなければならない一言だった。

    「こちらこそ」

     叔父さんは穏やかな声で応えてくれる。矢張り、それまでの笑顔は無理に作っていたのだと分かる、自然な笑みで頷くオロ婆さん。
     凄く単純で、如何にも子供っぽい感覚のような気がしないでもないけれど、その時の二人を見て僕は「嗚呼、ここに来てよかったんだな」と思った。事故以来感じた事の無い感情が胸の内から込み上げて来て、思わず泣きそうになったけれど、それをなんとか堪える。
     両親のことを忘れる事は出来ないだろう。忘れる必要も無いだろう。けれど、そろそろ前を見て生きよう。この霧緒村で。そんな決心をした。
  • 25 ウォルター id:ez-lKMZZIy0

    2011-12-23(金) 15:03:20 [削除依頼]
    [tag log]

     SOLVが右端に映し出したのは通話相手の顔写真と名前だった。大学教授をしている初老の男だ。視界の主である男は何時も通り商売の話をしながら、オフィスビルの廊下を歩く。白い壁に、眩しいに磨かれた大理石の床の真ん中を進むと、すれ違う社員は皆脇に避けて頭を下げた。このビル、もっと言えばこの会社は視界の主の所有物だった。
     時々ジョークなんかを交え、ご機嫌な調子で会話を続けながら、突き当たりの社長室の黒く重々しい扉を開ける。と言っても、扉の脇にあるセンサーが、男の体内に埋め込まれたタグを読み込んでロックを解除したので、男が触れただけで扉が自動で左右にスライドしたのである。
     周りを気にせずに声を出して笑っていた男の笑いが、部屋に入った所で止まった。
     視界の中央、つまり社長室中央に置かれたデスクの椅子が、百八十度回転して後ろの窓に向いている。そして、その椅子に腰掛けている者の頭、厳密に言えば灰色のニット帽だけが背もたれの上からヒョコッと飛び出ていた。

    「誰だ?」

     視界の主は、通話時とは打って変わった低い声で言った。が、返事は無い。
     椅子に座っている人間は、窓の外に広がるオフィスビル群を眺めている様だった。他と比較しても、視界の主が持つこのビルは相当高いグループに入るようだ。そしてそれは、そのまま社会的の地位を示していると言っても過言でない。
     無反応である事に腹を立てた視界の主は、ズカズカと進み、力一杯デスクを叩いた。

    「誰だと聞いている!」

     矢張り返事は無いが、椅子はくるりと男の方へ向いた。途端に男の体は強張る。
     椅子に座っていた人間が男なのか女なのかは分からなかった。何故なら、そいつが被っていたのはニット帽ではなく目出し帽だったからだ。そして、そいつの手には拳銃が握られていた。
     男はそれを避ける為に、少なくとも上半身をデスクの下に持って行く必要があったが、そいつは人差し指を引くだけで良かった。そいつは躊躇無くそれをやってのける。
     大きな発砲音が無かったのはサイレンサーを付けていたからだろう。弾を眉間に受けた男は後ろに倒れたようで、視界一杯に天井が広がる。が、タグもSOLVも直ぐに機能を停止し、視界は暗転した。
  • 26 ウォルター id:ez-1x73ITn.

    2011-12-28(水) 17:37:22 [削除依頼]

    [2]


     学生は在学中、SOLVに専用データのインストールが義務付けられている。それは例えば違法サイトへのアクセス制限等の防犯目的であったり、学校からの通知事項をトピとして強制的に視界に映し出す事で確実に連絡を取る機能だったり、昔で言う黒板の役割を果たす電子板の利用の為だったりする。
     そして今、教室内にいる二十人弱の同級生達の視界には、僕の顔写真と簡単なプロフィールが映し出されていることだろう。正直、心地良い感じはしない。

    「つい昨日、東京からやってきた井坂 佐為クンです」
    「よろしく、お願いします」

     若い女性の先生の紹介に合わせて、詰まりながらも挨拶する。が、緊張する僕とは裏腹に半分の生徒は僕の事なんか見ちゃいなかった。
     皆、SOLVが映し出した何かを見ている。現実の何かと、SOLVが映すトピとでは、見ている時の眼の焦点が違うので、対面していれば直ぐに分かるのだ。しかし変だと思われるかも知れないが、そんな新しい同級生達を冷たいとはあまり思わなかった。何故って、同じ立場なら僕だってそんな態度を取っただろうから。
     僕へ視線を投げる残りの半分も、別段興味があるわけでも無さ気だったし、僕もそんな彼らに対して興味は湧かなかった。というか、湧く分けがない。
     反応の薄さは先生もとっくの昔に慣れてしまっていたようで、僕に適当な席を与えてから淡々とホームルームを始めた。
  • 27 ウォルター id:ez-SwGZoPw.

    2011-12-31(土) 14:13:30 [削除依頼]
     勉強は東京で通っていた学校の方が進んでいたので、そのことはかなり救いだった。お陰で授業中も心此処に在らずでいられる。
     肘をついた上に顎を乗せて、視界に貼り付けられたトピの隙間から窓の外を眺める。地平線が確認出来る事に、ます感動。天候は昨日の雨から少しずつ好転しているらしく、切れ切れな雲の間から青空が見えた。それに更に感動。とは言っても、僕は別に野を駆け自然を愛でる青少年でもなんでもなく、唯単に新鮮だったのだ。昨日車の窓から見た景色とは違い、確かな色彩が在ることに、安心したのだ。
     もしかしたら、SOLVなんて物が流通している世界で、未だに学校というものが残っている事が利に適って無いと思うかも知れない。しかし、僕が思う以上に「勉学だけが教育の本分ではない」という大人は多かったのだ。青春を謳歌したのかも知れない。熱心な担任教師が記憶に残っているのかも知れない。なんにせよ、僕がイマイチ理解出来ない理由で、教育は昔ながらの学校というシステムを取り続けている。たとえ実情が、田舎学校では二十人足らずが余所余所しく詰め込まれているだけの空間だとしても、だ。
     なんてグダグダ言っても、今日から僕も立派にその一員なワケだけれども。
  • 28 ウォルター id:ez-dpeGNA01

    2012-01-02(月) 23:47:41 [削除依頼]
     予期していた通り、午前中の授業は素っ気ないまま経過していまった。授業と授業の間の休み時間には孤独にならざるを得なかったけれど、そんなものは両親が死んでから毎日感じてきたものだ。今更どうとも思うことはない。
     幸いだったのは給食の時間で、机を移動して仲良しグループで食べる、という形式じゃなかったことだ。もしそうだったら周りに気を使わせただろうし、気を使ってくるクラスメート達に対して僕はその三倍は気を使うことになっただろう。そんなわけで転校初日で一番の心配事を難なくクリアした僕は、そのまま適当に午後の授業をやり過ごし、さっさと身支度をして教室を出た。
     災害時等の避難場所としての役割もあるからだろう。生徒は少なくとも、校舎そのものは都会のそれとも見劣りしない規模と造りになっている。僕はまっすぐに下駄箱へ向かった。その途中で後ろから声を掛けられる。誰も使用していなさそうな教室が幾つも続く廊下で、僕は声の方へと振り返る。

    「井坂クン」

     高くて可愛らしいが、芯の通った聴き心地の良い声。
     振り返った所にいたのは、声によく似合う凛とした顔立ちの少女だった。白くて華奢な体だけれど、委員長キャラが似合いそうな風格がある。

    「……なんでしょう?」
    「もう帰るの?」

     小さく、敬語かよ、と呟いたのが聞こえた。

    「まぁ、用事もないので」
    「そう、この後は暇なのね。良かったわ。皆で井坂クンの歓迎会をしようと思ったのよ」
    「え、本当ですか?」

     意外だった。歓迎されていることが。会を開くようなノリであったことが。

    「嘘よ。それより非道いのね。歓迎会するってのに嫌な顔するなんて」

     非道いのはどっちだ。と思いつつも、痛い所を突かれたのは確かだったので、僕は返答に困った。
     相手の目を見ることは出来なかったが、相手の口には確かに笑みが浮かんでいる。なんなんだ、この女は。
  • 29 ウォルター id:ez-iYBnEvB.

    2012-01-05(木) 09:47:43 [削除依頼]
     暫く沈黙が続く。僕は何も言えなかったし、そもそも話し掛けてきたのは向こうだったから、ただ相手が口を開くのを待った。しかしどうやら彼女は話し出す気はなく、僕を観察して面白がっているようだった。SOLVでプロフィールを映し出されるよりくすぐったい感じがする。
     いよいよ僕は彼女の視線に耐え兼ねた。

    「用事がないなら行くけど」
    「アラ待って」

     振り返り掛けた僕を彼女は呼び止め、スッと僕の横まで距離を詰めた。彼女の長い黒髪が簾のように広がる。
     美少女と呼んで差し支えない子と並んでいるのに、この胸の高鳴りが喜びからなのかどうか分からない。

    「用事って程のものではないのだけれど、井坂クンとお話しでもして帰ろうかと、思って」

     思って、で顔を覗き込んで来るもんだから、僕は情け無くも俯いた。

    「そう……「思って」……ねぇ」
    「井坂さんと言ったらあれよね。木葉川沿いの割と上流の所の、井坂さんん家よね?」
    「あぁ、そうだよ」
    「私は八千草、八千草 千胡。井坂クンの家から二、三分の所に住んでるの」

     ふぅん、と相槌にもなっていない声を洩らす。
     ヤチグサ チコ。田舎って変わった名字が多いよなぁ。と改めて感じるような名字だ。
     それにしても僕の名字だけでどこの家か分かるとは。彼女、八千草 千胡が特にこの村に詳しいのか、家の数が少ないから皆が把握しているのか、それは分からないけれど。
  • 30 ウォルター id:ez-iYBnEvB.

    2012-01-05(木) 09:57:16 [削除依頼]
    >29 千胡の台詞の「井坂さんん家」を「井坂さん家」に訂正です。 失礼致しました。
  • 31 ウォルター id:ez-rG0rS0m/

    2012-01-07(土) 16:20:49 [削除依頼]
     木葉川は、霧緒村の真ん中を北から南へと流れている。僕が住む井坂家が川の上流に建っているというのはつまり、村の北に建っているということになる。
     僕が村に訪れた時に通ったトンネルは村の東側にあって、小中高一貫校になっている霧緒学園は村の反対側だ。

    「井坂クンは東京から来たんでしょう? 都会ってどんな感じなの?」

     学園から取り敢えず木葉川へ足を向け、僕らはとぼとぼ歩いていた。
     舗装したコンクリートに白線を引き、所々に標識を立てただけの道。電信柱が現役なのも僕には新鮮だったりする。

    「どんな感じって言われても……こことは違ってビルが馬鹿みたいに建ってるよ」
    「そんなのはテレビやネットで分かるわよ。私が聞いてるのはもっと、こう、生の感じよ。東京で生きていたのは、一体どんな感じがしていたのか、という事。そういうのは電波に乗せる事は不可能だわ。本当にそこにいた人間にしか分からないでしょう?」
    「お前なぁ……」
    「何よ。お前にお前呼ばわりされる筋合いはないわ」

     真顔で言いやがる。僕は深く溜め息をついた。
     木葉川にぶつかり、僕らは左に折れた。七、八メートルの川幅の両側には、薄や青々と生えている。もしかしたら薄に似た雑草かも知れないけれど。

    「東京で生きのが感じだったか、なんていきなり聞かれてもなぁ……ヤ・チ・グ・サさんはさぁ、霧緒村で生きてる今、一体どんな感じがしているか応えられるの?」

     八千草 千胡と、バチリと目が合った。僕は少し挑戦的な目をしていたかも知れない。八千草の吸い込まれそうな大きな眼からは、何を考えているのかは読み取れなかった。
     そうねぇ、と演技掛かった動作で右手を小さな顎に当てて、八千草は呟くように応える。
     川のせせらぎで聞き逃さないように、僕は耳を澄ます。

    「ヒドく……酷く退屈だわ」
  • 32 ウォルター id:ez-rG0rS0m/

    2012-01-07(土) 17:59:08 [削除依頼]
    >31  木葉川にぶつかり、僕らは左に折れた。七、八メートルの川幅の両側には、薄が青々と生えている。もしかしたら薄に似た雑草かも知れないけれど。 「東京で生きるのがどんな感じだったか、なんていきなり聞かれてもなぁ……ヤ・チ・グ・サさんはさぁ、霧緒村で生きてる今、一体どんな感じがしているか応えられるの?」 に訂正です。 本当に誤字が多くて自己嫌悪ですわ……他にもあるっぽいですが、汲み取って下さいませ。
  • 33 ウォルター id:ez-tU7cTJu/

    2012-01-09(月) 16:51:00 [削除依頼]
     僕に聞かせると言うよりは自分に言い聞かせるような積もりだったらしく、僕の反応を待たずして八千草は話を変えてしまった。垣間見せた影を隠さんとする、不似合いな明るさで。

    「実は私、井坂クンのお祖母さんのオロ婆とお友達なの」
    「はぁ……?」

     オトモダチって……年齢差七十歳位じゃないか。
     訝しむ僕の心を汲み取ったのか、八千草は少し眉をひそめて「アラ、ご免なさいね」と言う。なんの事か分からず、僕も眉をひそめる。

    「ご免なさいって、なにが?」
    「お友達と言うのはね、親類以外の、普段から親しく交流のある対等な存在の事よ。私とオロ婆はつまり、そういう仲なの」
    「友達がどんなもんかくらい知ってんだよぉっ!!」
    「いいわ。さっきより大分砕けた話し方になったじゃない。私達、近い内にお友達になれそうよ」

     川に突き落としてやろうかと思ったけど、転校初日から問題は起こしたくなかった。
     物好きなのか、余程暇なのか、それともお友達であるオロ婆の孫だからか、結局、八千草は僕に用があるのか無いのかが分からなかった。ただの下校中だし、用件なんて別に無くてもいいのだけれど、用もない会話でこんなに疲れるとは。
  • 34 ウォルター id:ez-TYSFzkw.

    2012-01-11(水) 17:02:50 [削除依頼]
     ほとんど一方的にいじられるだけのコミュニケーションを八千草と取りながら、二十分弱歩いて家の前に着いた。以前述べた通り、升目状に道が敷かれている村なので、迷う事は全くなかった。そもそも、学校から川へ直進して、そこから上流へ曲がっただけなので迷う方が難しい。

    「オロ婆、今日はいるかしら?」
    「え? 結構いなかったりするんだ」
    「まぁね。ここじゃない時は大概、山野辺さんの所にいるわ」

     チラと僕の方を見て「まぁ彼の事は追々」と言いながら、井坂家(まだ僕ん家と言うには抵抗がある)の庭の方へとズカズカ入って行った。僕も後に付いて行く。
     庭は長細く続いていて、オロ婆か晴海叔父さんかどちらの趣味かは分からないけれど、庭の脇には点々と植木鉢が置いてある。どれも手入れがされていて活き活きとしていた。八千草は頻繁に此処へ訪れているのだろう。上品に歩く猫のように植木鉢をかわしながらスムーズに進む。
     建物をおよそ半周した所で庭は右に折れ、オロ婆の部屋が見える所まで出た。
  • 35 ウォルター id:ez-cy6JbrM0

    2012-01-13(金) 18:36:44 [削除依頼]
    「アラ、ロッソじゃない」

     オロ婆の部屋を覗き込んだ八千草の声はいつもの調子だったが、眉間には皺が寄っていた。
     ロッソ……全然想像つかないけれども、真逆、オロ婆に外国人の知り合いでもいるのか。と興味を惹かれたが、八千草は小さく開いている襖に頭を挟んで覗いているので、僕が中を覗くにはその後ろから密着に近い状態にならなければならない。

    「おぉ、チんコ(千胡)か。婆ちゃんならいねーぞ。」
    「次にその呼び方したら、そうね……左右の眼球をくり抜いて入れ替えてあげるから」
    「ハハッ、おめぇーの愛は昔っから重いんだよ」
    「愛じゃねーよ」

     襖の向こうのロッソは、八千草と負けず劣らずの口の悪い男性のようだ。また、外国人とは思えない流暢な日本語だった。
     どうやらオロ婆はいないらしい。いない事自体は別になんの問題もないが、だとしたら、なんでロッソという男がいるのか分からなかった。八千草と言い、オロ婆の周りは何時もこんな調子なのだろうか。それとも、都会では体内に埋め込まれているタグでしかキー解除出来ない程にセキュリティーが完備されているのに、田舎ではどの家でも未だに鍵を掛ける習慣がなかったりするのだろうか。
     東京とのギャップに少しうろたえつつ、いい加減、襖の奥が気になっていた僕は八千草の肩を突っついた。

    「あの、誰いるの?」

     振り返ると八千草は蚊帳の外だった僕の存在を思い出して、あぁ、ごめんなさいね、と言いながら襖を一気に開いた。
  • 36 ウォルター id:ez-ZcD88cQ/

    2012-01-15(日) 11:52:16 [削除依頼]
     最初に受けたイメージは「赤」だった。燃え盛るように天を突かんとする髪と、真っ黒の繋ぎ服が目に突き刺さる程強烈だ。僕が生まれるより大分昔の、八十年代の不良、ヤンキー像に近い。庭と畳の上という高低差もあってか、僕を見詰めるその男がやたら大きく見えた。
     雰囲気に呑まれ掛けて、僕はなんと言えば良いか分からない。

    「……誰?」
    「あ、あの」
    「今日、クラスに転校して来た井坂 佐為クンよ。因みにオロ婆のお孫さん」

     予め用意された台本を読むかのようにスラスラと八千草が代弁する。

    「クラスメートか。宜しく……井坂 佐為……ふーん、井坂 佐為、井坂 佐為、逆から読んでもイサカサイ」
    「アラ、ホントね」

     自分でも気付かなかった事を発見されてショックだった。が、言ってる本人は差して面白がっている風でもない。
     はっきり言って、リアクションに困る。

    「……っていうか、オロ婆がいないのに部屋で何やってんのよ。チクるわよ」
    「ちょっとね。探し物」

     引き出しを物色しながらロッソという男は答える。真逆、空き巣じゃなかろうか。
  • 37 ウォルター id:ez-ZcD88cQ/

    2012-01-15(日) 12:58:59 [削除依頼]
    「真逆アンタ、また潜る気?」

     八千草は呆れ気味だ。

    「その真逆なんだなぁ〜。だって退屈なんだもん」
    「だもん、じゃないわよ。私としても潜った先で咎ってくれば良いとは思うけど、そんな所に御札を隠しておく程、オロ婆も不用心じゃ無いと思うけど?」
    「やっぱり?」

     ロッソは溜め息をつくと物探しを止め、その場に座り込む。
     モグルとかトガッテとか、よく分からない言葉が行き交ったけれど、御札については僕も心当たりがあった。オロ婆に挨拶するために、この部屋に初めて訪れた際に貰った、謎の御札である。あの時、晴海叔父さんの邪魔が入って以来、結局なんの御札なのか聞きそびれていた事を、今思い出した。
     その事を話そうかと考えていると、その様子を目敏く感じ取ったらしいロッソが聞いてきた。

    「佐為はなんか知らない? オロ婆が隠し物をしてる場所とかさ」

     いきなり呼び捨てかよ。それにしても、名乗りもしないなんて。このロッソという奴も他のクラスメート同様、僕に興味を示さないみたいだ。外見や挙動に他のとは違った印象を受けたが、結局は同じ。
     あの時と変わっていなければ、仕舞ってあるのがどの引き出しだかは分かる。が……

    「そういうのは知らない」
    「そっかぁ……やっぱり何時も持ち歩いてんのかねぇ」
    「あの、その御札って、なんに使うの?」

     遠慮がちに僕が疑問を放つと、二人が目配せして何かを確認しているのが分かった。
  • 38 ウォルター id:ez-ZcD88cQ/

    2012-01-15(日) 13:29:03 [削除依頼]
     返事を躊躇っているという事は、矢張り何かいかがわしい物であるという事なのだろう。オロ婆もあの御札を叔父さんには見られたくないようだったし。モグルとかトガッテに関連する事なんだろうけど、この調子だと答えてくれそうにはない。
     何時もなら、僕の興味はそこで途絶えていただろう。クラスメート達を卑下するような言い方をした僕自身も、物事に対する興味関心は薄氷の如しだ。
     けれども、どうしてかこの時には興味がくすぶったまま冷めなかった。

    「隠し場所は知らないけど、多分だけど君らの言う御札を持ってるよ。僕」
    「え?」

     驚いた八千草から思わずといった感じで声が漏れた。
     ロッソもこの時になって、初めてまともに僕へ興味を示したようだった。他人の注目を集めるのって、意外と気分が良いもんだな。と、そんな事を感じる。
  • 39 路石(元ウォルター) id:ez-Qh/gwe30

    2012-02-05(日) 15:23:18 [削除依頼]
    放置ご免なさい。
    更新に当たって読み返し、自分で「はて?」のなったのですが、ちょいちょい出て来る「真逆」は「まぎゃく」ではなく「まさか」です。何故、紛らわしい漢字を使ったのかは覚えていませんが、多分、格好付けです。
    今後も宜しくお願いします。
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