オールド・リジー89コメント

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2011-12-01(木) 04:58:50 [削除依頼]
 リジー・オールドフィールドは高貴な騎士だ。
 戦闘に用いる主流武器が、剣から魔法に移り変わった現代においても、未だ変わらず鉄の塊を振り回す変わり者である。
 耐魔法の呪印が施された軽装に身を包み、時代遅れの騎士と周りからの嘲笑を受けつつも、めげることなく今日もリジーは戦う。
 一体、誰と? もちろん世界の平和をおびやかすモンスターや悪魔達とである。
 リジーの戦いが終わる事はない……世界に平和が訪れるその時まで。
 ――ここまでが俺の考えた彼女の設定である。

 厳しい冬が過ぎ、春が到来。
 高校二年生になった俺は学校にも行かず、ネットゲームにどっぷりと嵌っていた。
 サービス開始から既に数十年が経過しているゲームではあるが、年季の分だけシステム面も修正を繰り返しているのでプレイしていてもストレスを感じる事は少ない。
 当時は『ありえない』とまで称されたグラフィックも今となると若干、古臭さと粗さを感じさせるものの、それでもまだまだ一線で通用するモノだ。
 接続しているユーザー数は平日の昼間であるというのに千五百人を軽く超えている。未だにユーザーから愛されている証拠だろう。
 そんなネットゲームの中に、リジー・オールドフィールドは存在している。そう、彼女はゲーム内で俺が作成した使用キャラクターであり、架空の人物なのである。
 つまり、リジーがどれだけ必死に戦い、世界の平和を守っていたとしても現実世界には何の影響も無い。
 そう、何の影響もないはずだった。
 ……俺が昼飯のうどんを作って自室に戻ってくるまでは。
  • 70 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 01:31:29 [削除依頼]
    「……で、一体ドコまで歩かせるつもりなんだ?」
     先程から、町内をぐるぐると一周しているだけのような気がする。
    「もう少しだ……我を信用しろ……」
     凍らされた家の呪縛を解くべくして庭を後にした俺達は、杖の出す指示に従って町を徘徊していた。
    「人間よ……その道を右折だ……」
    「へいへい……」
     先頭を歩くのは俺。その直ぐ後ろにリジー、そして殿(しんがり)を務めているのは興味本位でついてきたナツキだ。
     そして、そんな俺達の進路を決定しているのが杖だった。
     俺は、手にしている杖に視線を向けて、溜息を吐いた。
    「それにしても格好悪すぎるだろう、これ……」
     先端部分が青く発光している杖(しかもガムテープで修復済)を天にかざして歩行する俺の姿は、だいぶん面白い人の部類に入ると思う。
     すれちがう人達が皆、俺を見て笑っているような気さえしてくる。と、いうか隠すことなく思いっきり笑われていた。
    「匠くんは人気者だな、皆が君を見て笑っているよ。もしかして旅芸人かい?」
    「ただの高校生だ!」
     語気だけ強めて、振り向きもせずリジーに主張しておく。
    「リジーちゃんも笑われてるけどね……あたし、一緒に歩いてて恥ずかしいわよ……ついてこなきゃよかった……」
     と、最後尾から聞こえてくるナツキの恥じらいを孕んだ声。
     現に、リジーも悪い意味で町ゆく人々の注目を集めていた。鋼製の甲冑姿かつ背中に大剣を帯びた、ありえない格好で街中を闊歩しているのだから無理もないが。
     もっとも、リジーのほうは俺と違って、コスプレと思われているようなので幾分マシだろう。それに比べて俺は、もはやただの『青く光る杖を天空に向けて掲げながら歩く青年』という訳のわからない存在、いわゆるイレギュラーだ。時代が時代なら、その滑稽さゆえに辻斬りされていたかもしれない。
    「いやぁ、人から注目されるというのも悪くないものだね」
     などと俺の心中など知るよしもなく、戯言をぬかすリジー。
    「どこがだ……」
     少なくとも今は、一片たりとも同意できなかった。
    「ブリシディアでの私は、魔法のひとつも使えない古臭い騎士なんて馬鹿にされるばかりで、こんなふうに人からワーワー言われることなどなかったからね」
    「……」
    「ハハハ、なんだか嬉しくてね、すまない匠くん」
    「……なぁ」
    「ん、なんだい?」
    「魔法、使ってみたかったか?」
     なにが言いたいのか分かったので、先駆けて聞いてみた。
    「……いや」
     数秒、間を置いて後ろから聞こえてくる含み笑いの混じった返答。
    「私は魔法が使えずとも戦えるよ、匠くんがいればね」
     聞いてるこっちが恥しくなる台詞を、おくびもなく口に出してくる。
     妙に気恥しくなった俺は、訳もなく視線を下に落とし、かゆくもない後頭部をぼりぼりとかきむしった。
  • 71 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 02:56:40 [削除依頼]
     と、まぁ、そんな感じで町を歩くちょっとしたチンドン屋のような三人パーティーの俺達であった。
     が、歩くこと二時間弱。
    「ちょっと杖! どういうつもりなのよ!」
     ずずいと前に進み出て来たナツキは、俺の手から杖を奪い取り、その喋る木の枝に向かってそう吠えた。
     見た感じ、穏やかではない。察するに、ついに我が妹、ナツキの怒りボルテージも頂点に達したようだ。
    「どういうつもりとは……?」
     なんら悪びれる様子もなく、どこから出ているか分からない声で言う杖。
    「だーかーら、さっきからずっと同じところをぐるぐる周ってるだけじゃない!」
     ナツキは、忌々しいものでも見るような目で手中の杖を睨みつけた。
    「あんた、あたしたちを見せ物にでもして遊んでるんでしょ! 絶対、そうだわ!」
    「否……そんなつもりはない……娘……我を信じよ……」
    「信じた結果がコレじゃん! 結局、出発地点に戻ってきてるのよ!」
     息荒く杖に向かって言いきったナツキは、霜かかる氷漬けの家を指さした。
     そう、杖の指示に従って右往左往した俺達は何故か自宅に戻ってきていた。
    「これは一体……どういうことだ……?」
     皆に問うというよりは、独白のように杖は呟いた。
    「こっちが聞きたいわよ!」
     はからずとも、杖の独り言はナツキの怒りという名の火に油を注いだようだ。
    「もしや、最初から匠くんの家にロウランは居たというオチかい?」
     リジーの発言で、ナツキの険しかった表情が柔らかくなる。
    「そ、そうなの? どうなのよ、杖!」
    「いや……その線はない……ここに我が主の魔力は感じ取れん……」
    「ヘシ折るわよ!」
     妹の顔は、再び阿修羅のような表情に戻った。
     溜息をひとつ。
    「じゃあ、なんで家に戻ってきてるんだよ……」
     俺からしてみても、いい加減、嫌がらせにしか思えなかった。
    「魔力が……足りんのかもしれん……」
     ナツキによって、先端部分をガンガンと地面に叩きつけられている杖がのたもうた。
    「魔力?」
     意味は不明だが、それらしいことを言う杖に復唱で尋ねる。
    「我単体に残されていた魔力は……プライム・ブリザードの不発によって消滅した……それゆえ……主の魔力を辿るだけの魔力が……我にはないのであろう……」
    「ふむ、まるで『服を買いに着て行く服がない』みたいな状況だった訳だね」
     一人で納得しているリジーには悪いが、その例えも俺はどうかと思う。
  • 72 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 02:56:53 [削除依頼]
     それはさておき、
    「じゃあ、どうやったらお前の魔力は回復するんだ?」
    「我が主の元に戻れば……我の魔力は元に戻ろう……」
     杖は、かなりの無茶を平然と言う。
    「それでは『服を買いに行く服がない上に服を買うお小遣いをくれるお母さんは失踪中』状態では……?」
     リジーの表現も、かなりややこしくなってきた。しかも分かりづらい。
    「ロウランと会う以外で、お前の魔力を充電できる他の方法はないのか?」
    「ないことはない……」
     もったいぶった言い方で答えてくる。
    「それをとっとと教えてくれよ」
    「我は本来、持ち主の魔力を貯めておく為の器……ゆえに使役する者がその魔力を我に分け与えれば、魔力は蓄積される……」
    「つまり、魔力を持つ者が杖くんに魔力を分け与えればいいと言う訳かい?」
     ほとんどそのまんま、杖の言葉を復唱するリジー。
    「ザッツライト……」
     で、杖もザッツライトじゃないだろ、この阿呆。
    「だが、残念ながら私に魔力はない……」
     リジーは、がっくりと肩を落として顔を俯せた。なにやら芝居がかっているのは気のせいか。
    「誰か魔力を持っている人はいないのだろうか」
     やはり、気のせいではなかった。横目でわざとらしく、チラチラと俺を見てくるリジーがいた。
    「ま、待てよ! 俺か、俺に期待してるのか?」
    「やってくれるか、匠くん!」
     パァっと晴れた笑顔で俺の両手を握るリジー。
    「いや、まだなんにも言ってない!」
    「しかし、私には無くとも、君になら! 匠くんにならあるだろう! 女にはなくとも男にはついているものが!」
    「いきなり下ネタか!」
     つっこまずにはいられなかった。
    「こいつから魔力は感じ取れん……ただの生ごみにすぎぬ……」
     リジーに気をとられて聞き逃しそうになったが、杖から酷い言い様で馬鹿にされていた。いつの間にか『こいつ』呼ばわりされているし。
     杖にまで投げやりな扱いをされる俺って一体……
    「匠くんならば、と思ったが駄目だったか……」
    「リジー、俺に過度な期待をするのはやめてくれよ……」
     ともかく、ここにきて思いっきり躓いた感じだ。手段がない。
  • 73 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 14:56:24 [削除依頼]
    「こうなってしまっては仕方ないね。皆で手を繋いで輪になり、歌でもうたってそれで終わりにするかい?」
    「そんな爽やかなエンディング、誰が認めるか!」
     神様が許しても、俺は許さん。
    「まだ……希望は残されている……」
     声の主がいるであろう方向に振り返ってみると、宙に浮いている杖がそこにあった。
    「うわっ、ビックリするだろが! い、いきなり浮くな!」
     心臓を押さえて抗議する。
    「お前にも……オールド・リジーにも……魔力はない……」
    「空中でホバリングしてる説明はなしかよ……」
    「だが、この中に魔力を持つ者がいるのも……また確か……」
    「おーい、無視かー?」
    「それは……娘……主だ……」
     それを受けて、リジーは自分の顔を指でさし、首を少しだけ右に傾けた。
    「お前じゃないと思うぞ」
     行動の意味するところがわかったので、否定しておいてやった。リジーは既に、魔力が無いと杖に断言されている。
    「では、一体だれなのだろう?」
    「ナツキのこと言ってるんだろ、たぶん」
     リジーを除けば『娘』なるキーワードに該当するのはナツキしかいない。妹に魔の力が宿っていたなんて、兄としても驚きを隠せないが。
    「なるほど、ナツキくんだったのだね」
    「ああ、ナツキだな」
    「……ナツキという娘だ……」
     いきなり二人の人間と杖に名前を連呼されたナツキは、意表を突かれたのか無駄に驚いていた。杖への暴力で疲れ果てた体を休めていたのであろうベンチから派手に転げ落ちる妹。
    「あ、あたし?」
     『何の話よ!』と怒らないので、話だけは聞いていたらしい。
    「魔力を切実に欲している杖が、そう言ってるんだからお前なんだろ」
    「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、私に魔力なんて、そんな胡散臭いパワーないわよ」
     立ち上がり、両手を胸の前でワタワタと振りながら否定する。
    「でも杖が言ってるぞ」
    「うるさいのよ、おにぃ!」
     なぜだか思いっきり怒られた。理不尽にも程がある。
    「魔力を持つ娘……我と契約を結び……我に魔力を分け与えよ……さすれば我が主の元へ導こう……」
     貰う側である立場のくせに上から目線の杖は、その先端から青い光を零しながら、ゆっくりとナツキに近づいていく。無論、浮遊しつつだ。
    「ちょっとタイム」
     ナツキは、フワフワと接近する不気味な杖に掌を向けて休止を訴えた。
    「どうしたというのだ……娘よ……」
    「その契約とか言うの結ぶ前に聞いときたいことがあるんだけど」
    「我との契約を前に……怖じ気づいたか……」
    「やっぱり腹立つわね、この杖……」
    「なんだよ、聞いておきたいことって?」
     杖に任せておくと話が進みそうにないので、俺が代わりに聞いてみる。
     するとナツキは、納得がいかないといった様子でかぶりを振った。
    「だってさ、おかしいじゃん」
    「なにが」
    「あたしに魔力があるなんてさ」
     確かに。攻撃力なら間違いなく高いと思うが。
    「だから杖、どうしてあたしに、その魔力っていうのがあると思ったのかちゃんと説明しなさいよ」
     ナツキは、人差し指をビシリと杖に突きつけて真偽を問うた。
     数秒、間を置き、
    「……わからぬ」
     と、低いトーンの声で衝撃的な発言をする杖。
    「えっ、わからないのかい?」
     これには流石のリジーも驚きを隠せなかったようだ。
    「じゃあ杖、お前……わからないのにナツキを選んだのか……」
     ここまでいい加減な性格の杖は未だかつて見たことがない。喋る杖もないが。
    「強いて言えば、直感とでも答えておこう……」
     全然、威張れないことを誇らしげに言う。
  • 74 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 19:37:31 [削除依頼]
     それから杖とナツキが口論すること約一時間。
     謙虚さの欠片もない高圧的な態度の杖を前に結局、ナツキの意思も折れた。折れるしかなかった。
    「わかったわよ、やるわよ。やればいいんでしょっ!」
     ナツキも、もう自暴自棄だ。
    「私に魔力っていうのがあるって言うなら、あんたにくれてやるわよ! そんかわし、次は絶対に持ち主のところへ連れていきなさいよね」
    「……御意」
     で、いよいよナツキの魔力を杖に分け与える儀式のようなものが始まろうとしていた。
     まず、庭に移動した俺達は杖の指示に従って土の上に円形を描く。次も、やはり杖の出す指示というか命令通りに、その丸の中にひと筆書きでペンタグラムを付けたした。手伝いもせずにテントでゴソゴソやっていたリジーは戻ってくるやいな、その星形の中心部にたっぷりと塩を盛った。
    「なんのつもりだよ……」
    「ハハハ、お清めをしておこうと思ってね」
     グっと親指を立てやがるリジー。
    「西洋の魔術と日本のお清めみたいなのを合体させるな!」
     ようするに、余計なことをしないでほしかった。
     俺は塩の山を蹴飛ばして除去し、長嘆息をひとつ。
     とまれ、これにて準備は完了した。
    「おい、言われた通りにやったぞ」
     やんややんやと横から口を出していただけの、浮遊している変な枝に伝えた。
    「……では娘……魔法陣の中心部に立つがよい……」
    「はいはい……」
     生返事をしたナツキは、やる気ない足取りで指定地へと足を進める。到着するのを見届けた杖も、ナツキの横にプカプカと浮き進んで行った。
    「いよいよ儀式が始まるのだね。わくわくしないかい、匠くん?」
     すぐ横に立つリジーが、俺の脇腹を肘で小突きながら小声で言う。
    「ちっともしない」
     俺は、家の庭にでかでかと描かれた紋様の中に立つ妹の姿を見つめながら答えた。たぶん、死んだ魚のような目をしていると思う。なんていうか、現実は何処にいったのだろうとしみじみ感じさせてくれる光景だ。
    「またまた、匠くんも本当はワクワクしてるくせに」
     本気で楽しいと思っているのはリジーだけだろう。違いこそあれど、俺もナツキも不安のほうが大きい。
    「緊張することはない……我の言うとおりにすれば上手くゆく……」
    「別に緊張してないわよ、悲観してるのよ」
     溜息まじりに答えたナツキだが、それでもやるしかないと腹をくくったのか、すぐ傍の宙空で漂っている杖を片手でパシリと掴んだ。
    「その意気や良し……では、まず、我を天にかかげよ……」
     どうやら、町を歩いていた時と同じく、杖は上にあげて使うのが基本らしい。恥ずかしいので松葉杖のようにして歩いていたら、俺も何度か杖に注意された。もっと胸を張って上へ掲げよ、と。とにかく偉そうな杖だ。
    「これでいいの?」
     ナツキは杖を持っている利き手を持ち上げた。
    「では、次に空いた手を軽く握り、頬の横にそえるがいい……」
     問いには答えず、新たな指示をナツキに出す杖。
    「こ、こう?」
    「違う……もっとこう……クイっと……クイっとするのだ……」
    「そんなこと言われても分かんないわよ!」
    「あー、ナツキ、たぶん杖は、招き猫みたいなポージングをとれって言ってるんじゃないのか?」
     当たっているか定かではないが一応、言ってみる。
    「ま、招き猫、って、こんな感じでいいの?」
     ナツキは左腕の肘を曲げ、猫の手に模した手の甲をこめかみのあたりに近づけた。
    「そ、それでいいんじゃないのか?」
     発光する杖を青空に突きあげつつ招き猫のモノマネをしている妹の絵面には、見ているこっちを悲しくさせるモノがある。
  • 75 toto id:D3VnL.6/

    2012-08-29(水) 19:38:07 [削除依頼]
    「ハハハ、可愛いよナツキくん」
     と、笑うリジーではあるが、俺はそうは思えない。はっきりいってドン引きだ。
    「では、次に腰を左に突き出せ、ただし少しだ……少しだけだ……」
     注文の多い杖であった。招き猫で正解だったのかもわからない。
    「こ、腰を左ね、えっと、こんな感じ?」
     ナツキは、キャピッという音がどこからか聞こえてきそうなポーズをとった。
    「よくぞやった娘よ……これで最後だ……」
    「やっと最後な訳ね……」
    「片膝を上げて、左目を閉じよ……」
    「えーと、片膝をあげて、で、左目を閉じればいいのね」
    「……後は魔法陣の中心部で三回転した後、その姿勢にシフトし『マジカル・マジック・ラル・ラ・ルラ! 我に眠る魔の鼓動、眠るる力を供与せん、プライム・ゲイン・パワー』と叫べ……それで娘の持つ魔力は我に分け与えられよう」
    「……」
     変身もののアニメにでてくるヒロインのようなユーモア溢れるポーズをとったまま、ナツキは動かなくなってしまった。いや、眉だけヒクヒクと上下させている。
    「どうした娘よ……さぁ、やるのだ……」
    「出来るわけないでしょがっ!」
     一喝と共に、ナツキは杖を地面に叩きつけた。
  • 76 にごりん id:svbQVEp.

    2012-08-30(木) 00:55:36 [削除依頼]
    久しぶりに覗いたら復活してて喜んでいる隠れ読者です
    レスしていいものか悩みましたがさせて頂きますw
    トトさんのギャグセンスに魅せられた読者として
    これからも応援しています
  • 77 toto id:19XzGNN.

    2012-08-30(木) 14:34:03 [削除依頼]
    >にこりんさん
    初めまして、応援ありがとうございます。
    今現在この作品と同時進行で、よくわからないものをよくわからない感じで書いています。(掲載はしていません)そのため、更新すると宣言しておきながら遅れてしまいました。
    どちらも完結させられればいいな、とは思っておりますので、更新頻度についてはご容赦ください。
    頑張ります、超がんばりまする。励みになる応援、ありがとうでした!
  • 78 toto id:19XzGNN.

    2012-08-30(木) 15:44:15 [削除依頼]
    「やはり……怖じ気づいたか……」
    「恥ずかしいのよっ!」
     まっとうなつっこみを杖に吐き捨てるナツキ。無理もない。あの一連の動作が許されるのは小学生までだろう。
     とは言えど
    「これしか方法はないのだぞ……」
     と、杖は言う。
    「わ、わかってるわよ!」
     自分が放った杖を拾いなおしたナツキは、やりきれない表情で溜息を吐いた。顔は赤く、目には、うっすらと涙まで滲んでいる。余程あれをやるのが嫌なのだろう。
    「いいなぁ、私もやってみたいものだよ。『マジカル・マジック・ラル・ラ・ルラ!』とね、ハハハ」
    「代われるものなら代わってあげたいわよ。でも、あたしにしか出来ないんだからしょうがないでしょ……」
     ナツキは、苦虫を噛み潰したような顔でリジーに答えた。
    「しっかりな、ナツキ!」
     俺は、気休めの応援をしておいてやった。
    「べ、べつに、おにぃのためにやるんじゃないんだからねっ!」
     そりゃそうだ。あんなことを俺のためにやられても反応に困る。
    「共有財産のために、やってくれ……」
     背にそびえる氷漬けの建造物を指さす。
     ナツキは、それに頷きをもって答えた。どうにも力ないが。
    「それじゃ、いくわよ……」
     悪い方向に吹っ切ることはできたようだ。
     魔法陣の中心部に立ち直り、両目を閉じて呼吸するナツキ。深呼吸だ。
    「よし!」
     開眼と同時、自分を鼓舞するように言い放つ。なにも良くはなかったが、それで奮い立つならそれもよし、だ。
    「マジカル・マジック・ラル・ラ・ルラ……」
     舞うように、その場でクルクルと回転する。それに合わせて、杖の先端の光が、その光源を大きくしていく。
     そして正面に向き直り、ビシっと決めポーズ。笑顔でウインクしてはいるものの、ナツキの顔は耳まで真っ赤だった。
    「……我に眠る魔の鼓動、眠るる力を供与せん、プライム・ゲイン・パワー!」
     もう二度と口にすることもなければ、耳にもしないであろう呪文を叫ぶナツキ。
     次の瞬間、魔法陣から庭一面を覆い尽くす程の光が溢れた。
    「うぁっ」
    「目、目が……」
     こうなる説明をしていなかった杖のせいで、俺とリジーは目を焼かれた。
    「わ、わわっ、ちょっ、まぶしっ、杖、杖っ!」
     光源の渦中にいるナツキも参っているようだ。杖に助けを求めている。
    「ふはは……心地よい……心地よい魔力だ、娘……やはり我の目に狂いはなかった……」
    「そんなのどうでもいいから光を消しなさい!」
    「我が魔力……ここに極まれり……今こそ冥府の門が開かんぞ……ふはは……」
    「消せって言ってんのよ!」
     光の渦の中から、ドスの効いた声が轟く。
    「む、娘よ……落ち着け……」
     溢れ出ていた光は、フっと収束した。
  • 79 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 03:33:30 [削除依頼]
    「ああ、目がチカチカする。ナツキ、大丈夫か?」
     目頭を押さえながら、妹の安否を確認する。 
    「恥ずかしすぎて死ぬかと思ったわよ……」
     とりあえず、体のほうは大丈夫のようだ。
    「うう、どうだいナツキくん、それで、なにか変わりは?」
     光にやられた目を擦りながら尋ねるリジー。
     ナツキは自分の体をキョロキョロと見回した。
    「あたしは、特に変わりないけど……」
     フリフリのコスチュームに変身している訳でもなければ、筋骨隆々になってもいない。そこに立っているのは、いつものナツキだった。それは杖も同じで、特に変化は見受けられない。ド派手だったのは弾けた光とナツキのポーズだけだ。
    「もしかして失敗か?」
    「冗談じゃないわよ! あんなの、もう二度としないからね!」
     俺だって二回も光の暴力を受けたくはない。
    「でも、なにも起こらないぞ。やっぱり失敗だったんじゃ?」
     それどころか今気付いたが、大失敗の可能性すらあった。
     何しろ、肝心の杖がうんともすんとも言わなくなったのだから。もしや、壊れたのでは。
     そう思った矢先、
    「ククク……」
     不気味な笑い声をあげた。杖が。
     違う方向に壊れつつあるようだが、喋れるのだから応答もできるだろう。
    「おい杖、今ので成功だったのかよ?」
    「ああ……見事な詠唱だったぞ……娘よ……」
    「ど、どーも」
     杖に褒められたナツキは、俯き加減で答えた。先刻の痴態を思いだしてしまったのか、頬がまた朱色になっている。
     一仕事終えた妹に労いの言葉をかけてやりたいところだが、まずは杖に確認する必要があった。
    「で、成功したのなら魔力が貯まったってことでいいんだよな?」
    「そう取ってもらって構わぬ……」
     まわりくどかった。むしろ、ほかにどんな捉え方をしろと。まぁいい、本題から逸れそうなのでつっこみはしない。先を続ける。
    「じゃあ今度こそ、ロウランのところに俺達を連れて行けるんだろ、そうなんだろ?」
     わざと声量をあげ、強調して訊く。
    「生ごみよ……我に万事、任せておけ……」
     口の悪い杖だった。火をつけて消し炭にかえてやろうかとさえ思う。と、その邪悪な俺の考えを中断するように、杖の先端から光の糸が伸び始めた。光は、それそのものに意思があるかのように蠢きながら天に向かって長さを増していく。
    「な、なにが始まるっていうんだ」
    「きしょくわるっ!」
     突然すぎる杖の変化に唖然とする俺と、酷い言い様で持っていた杖を投げ捨てるナツキ。そして、くるくると宙を舞い、こちらに飛んできた杖をキャッチするリジー。
    「これが、人の優しさを具現化した光なのだね……」
     手にした杖から伸びてゆく妖しげな青い光を、儚げな表情で見つめて訳のわからないことを言う。
    「俺にはクラゲの触手みたいに見えるけど、人の優しさの光なのか?」
    「ハハハ、適当なことを言っただけだよ。なんだかソレっぽくなるしね」
    「ドレっぽくなるんだよ……」
     俺には理解できなかった。
    「なんなのよこれ……」
     改めて杖を凝視し、目を細めて呟くナツキ。杖を見つめるその目は、不快なものを遠巻きから覗く時の目つきだった。
    「俺に聞くな……」
     杖本人から何の説明もないので、気持ち悪い光の糸の正体は依然として意味不明だ。
    「杖、なんなんだよコレは……」
     誰も質問しないので、俺が訊いてみる。
    「ククク……」
     杖は笑うだけで答えない。頭?の部分から変な線をだしてるし怖いばかりだ。
  • 80 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 03:34:03 [削除依頼]
    「ふむ、この糸の続く先にロウランが居る、とかではないかい?」
     天へと伸びる線を辿るように顔を上げて、リジーが言う。
    「そ、そうなのか?」
     だとすれば、かなりの高所にいることになるが。
    「ザッツライト……」
     答える杖。その通りであった。
    「ふむ、ならばロウランは空の上という訳だね」
    「いやいや待て待て、たぶん、どこかの屋上とかじゃないのか?」
     いくらゲーム世界から出て来た魔術師でも、流石に空は飛べないだろう。人として飛ばないでほしい。
     と、ふと視界の隅に映るナツキの姿。顎元に手を当てて俯きつつ、考えるような素振りをしていた。妙にハマっている姿のまま制止すること約三秒。なにかを閃いたのか、ナツキは、はっと顔を上げた。
    「『秘宝を求め進撃する者達が集う、天高く聳え立つあの塔』……」
     いきなり解釈不能なことを言う。
    「どうしたナツキ、さっきの出来事が恥ずかしすぎて頭でも狂ったのか?」
    「ちがうわよ! ほら、杖が言ってたでしょ。そこに自分の持ち主がいるって」
    「ふむ、いわれてみればそんなことを言っていたね。タコワサには白米が一番合う、と」
     俺はリジーを無視した。
    「そういえば、言ってた気がするな」
    「でしょ?」
     今度ばかりは、ナツキもリジーを無視するスタンスでいくようだ。
     兄妹の意思が一致したところで話を続ける。
    「『天高く聳え立つあの塔』ってのは、ようするに高い建物の上のほうにいるってことだよな?」
    「そうね」
     杖の放つ光も上に伸びているので、これに関しては間違いないだろう。
    「でも『秘宝を求め進撃する者達が集う』ってのは、どこを指してるんだ?」
    「そこなのよね、問題は」
     ナツキは肩をすくめて息を吐いた。
    「さっぱりわかんない」
    「お前にわからないなら、俺には絶対わからないな……」
     俺よりは頭の出来がいいであろう妹に諦められると手詰まりだ。
    「ハハハ、わかったよ匠くん。『秘宝を求め進撃する者達が集う、天高く聳え立つあの塔』、おそらくコレはデパートなのだよ。『秘宝』は『特売セール品』、『進撃する者たち』は走る主婦! ふぅ、流石わたしだね、解いてしまった」
     無視されてもさほど堪えていないようなので、なにやら喋っているリジーは引き続き放っておくことにした。
    「ほんとにどこなのか見当もつかないわ。杖の案内っていうのも、あんな恥ずかしい思いまでして、こんなアバウトな気持ち悪い糸だけだし……」
     心底、恨めしそうな顔で杖に嫌味を言うナツキ。もう完璧にリジーは蚊帳の外だったが、まぁ、それはどうでもいい。ここにきて肝心なことに気付いたからだ。分からないのなら、杖に聞けばいいのだった。
    「おい杖」
     とりあえず声をかける。
    「どうした……生ゴミ……」
     一瞬『なんでもねえよ、この腐れ杖』と言いそうになったが、それでは会話にならないので、頭に沸き出た暴言を消去。普通に聞く。
    「お前、魔力が戻ったのなら、そんな微妙な光の道しるべより、俺達をバビューンとロウランのとこへワープさせるとかできないのか?」
    「ククク……馬鹿が……我にそのような低俗な魔法が使える訳なかろう……やはり馬鹿だな……」
     ……ああ、へし折りたい。低俗な魔法すら使えないのに威張っている杖を真っ二つにしたい衝動に駆られる。
  • 81 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 07:31:26 [削除依頼]
     だが、それは許されない。この怒りをダイレクトに伝え、杖を破壊しようものならロウランの元に辿りつく術は絶たれてしまう。そうなると家は一生、凍ったままだ。結果、俺だけ家なき青年になってしまう。それだけは嫌だった。が、杖とこれ以上、対話を続けたならば、不可抗力でポキっと折ってしまいそうな自分がいるのも、また確か。
    「ナツキ、交代してくれ……どうせ杖は俺の話なんて聞きやしない……」
     よって、こうするのが妥当だった。
    「なんで、あたしが……」
    「お前が話しかければ俺よりはマシな反応するだろ……」
     俺は兄としての責任を放棄し、全ての命運を妹に委ねた。当然、ナツキはぎゃあぎゃあと喚いたが、なんだかんだで頼みさえすれば引きうけてくれるのは長年の共同生活で熟知している。
    「おにぃ、ちょっと待ちなさいよ」
     待ちはしない。俺は振り返りもせずに、そのままよろよろと直進する。
     リジーが、この世界にやってきてからナツキに小遣いを減らされたり、家が凍らされたり、杖が喋ったり、杖にけなされたり、目は未だにショボショボするわ、雛形には呪われるわ、つばさは馬鹿だし、で疲れていた。最後の二つはリジーに関係ない気もするが、とにかく、その諸々の疲労が今になって波のように押し寄せてきたのだ。
    「つかれた……」
     手頃な木を見つけた俺は、その幹に背を預けて座り込み、ふぅ、と息を吐いた。
     それにしても、事実は小説より奇なり、とはよくいったものだ。いや、この場合は事実はネットゲームより奇なり、か。まぁ、どっちでもいい。不思議なことが次から次へと起こるのだから。それに順応していく自分もどうかと思うが。それでも、楽しいのかもしれなかった。リジーが出てきてからの数日で、俺はここ三カ月分くらいの声を出し、言葉を喋っていると思う。リジーと出会うまでは、部屋に閉じこもってキーボードを叩く日々だった。声なんて出しやしなかった。学校にも行きやしなかった。楽しくなかったからだ。あれほど好きだったはずのゲームも、学校も。
     呆けていると、どうしても頭の中に雑念が浮かぶ。妙にセンチメンタルな気分になってきた。これ以上、考えるのはやめておこう。
     視線を正しい方向に戻すと、そこにはナツキと、また浮かんでいる杖の姿。距離が少し遠いので、なにを話しているか詳しくは聞きとれないが、ナツキの口の動きがやたらと早い上に杖をはたいているので、漫才の練習をしているようだ。いや、喧嘩か。それか一方的な暴力。そして、はて……確か杖はリジーが握っていた筈だが、あいつは……?
     と、視線を少し右にずらしてみると、トコトコ歩いて近づいてくるリジーがいた。
    「塩、食べるかい?」
     俺の前で立ち止まったリジーは、白い袋を差し出してきた。
    「いらないです……」
     敬語で適当にあしらう。
    「ハハハ、知ってるかい匠くん、塩の自給率はたったの15%なのだよ」
     知ったこっちゃなかった。沖縄県民が明日の北海道の天気を知らされるくらいどうでもいい。
     その心、知ってか知らずか「海からいくらでもとれるのにね、不思議だ」と呟きながら、リジーは俺の傍らに腰掛けた。
    「ナツキの手伝いしなくていいのか?」
     リジーが混ざったら余計に悪戦苦闘しそうな気もするが、他に話すこともないので口に出す。
    「君は?」
     問いを問いで返されてしまった。
    「俺は休憩中」
    「では、私も負けじと休憩するよ」
     それは一体、どんな意地の張り方だ。負けず嫌いの度合いを越えている。余りにも馬鹿馬鹿しすぎて、笑いが零れた。
     そんな俺を見てリジーも笑った。
  • 82 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 07:31:35 [削除依頼]
    「私でも匠くんの役に立てたようで至極光栄につかまつるよ」
     意が組みとれないことを微笑みながら言う。
    「なんだよそれ」
    「ふむ、匠くんがどうにも暗い顔をしていたからね。ここは交渉スキル12の私がひとつ笑わせてあげようと思って、それで来たのだよ」
     考え事をしていた時の俺は、やはり微妙な表情だったようだ。で、リジーなりに気を遣ってくれた訳か。
    「というか、よくそんな低いスキル値で来ようと思ったな」
     いってしまえば無謀だ。俺が笑ったのは奇跡か。
    「本当は塩のくだりで爆笑のはずだったのだがね……」
     真顔で無茶を言う。
    「まぁ、ありがとな」
     悪い気はしない。自分のために人から何かして貰うことなど滅多にないからだ。
    「私を作ったのは匠くんだ。いわば私は、匠くんの分身なのだよ。もう一人の自分が悲しそうな顔をしたら、笑わせてあげたくもなる」
     そう言って、リジーは苦笑した。
    「似ても似つかない分身だけどな」
    「いや、そうでもないよ」
    「例えばどこらへんが似てるんだ?」
    「私と匠くんの血液型は同じではないか」
    「……うん、そうだな」
     赤の他人といっても差し支えないが、肯定しておいてやった。
    「よし、ではナツキ君のところに戻るとしよう」
     パンっと膝を叩き、立ち上がるリジー。どうやら、本当にただ俺を笑わすためだけにやって来たようだった。
     そう思った俺だったが、
    「行こう」
     と、続く声。柔らかい笑みと共に差しのべられた手を見て思いなおす。
     もしかしたら、リジーはドン底にいた俺を救い出すべく神様が……
    「ああ」
     リジーの手を握る。その感触はキーボードよりも柔らかく、温かった。
  • 83 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 21:47:56 [削除依頼]
    test
  • 84 toto id:7BGkCZc1

    2012-09-02(日) 02:39:47 [削除依頼]
     ナツキと杖の元に戻る俺とリジー。
     帰って来た俺達を見るなり、ナツキは「丁度、呼びに行こうと思ってたところよ」と笑った。笑みを称える妹の表情を確認した俺は、話の流れが良い方向に転がったことを悟った。
    「ロウランの居場所、分かったのか?」
    「うん。杖が教えてくれるってさ」
     それならそうと最初から教えてくれればいいものを……
     とりあえず、
    「どうやってだ?」
     方法を訊く。
    「口と光の線で導いてやるって言ってたけど」
    「できるなら最初からそうしろよ……」
     頭を抱える俺。無駄に考えた、あの時間は一体なんだったのか。時間を返せ。


     再度、家を後にした俺達は今度こそロウランに会うべく杖の案内に従って町を練り歩く。
     どれくらい歩いたのだろうか。一時間か、それとも五時間か。それは分からないが、既に日は落ちていた。暗い道を照らしだす杖の先端から放たれる光の線を辿って、俺達は歩いた。
     歩いた。ひたすら歩いた。当たり前だが、疲れた。腹も減った。それでも歩き続けた。
     が、いい加減、限界だった。それは俺だけでなく、リジーとナツキも同じらしく、振り返ってみれば、二人とも死相が漂う表情で俺の後ろに続いていた。もはや杖に文句を垂れるだけの気力も失せているのだろう。思考停止状態だ。
     頭を垂れ、杖から照射される光を追って歩いていると
    「着いたぞ……」
     と、杖の声。その声に、顔を持ち上げる。
    「よっしゃ!」
    「やったわね!」
    「ふむ、ようやく到着という訳だね」
     全員、やり遂げたといった表情で顔を見合わせた。最低まで落ち込んでいたテンションも、一気に平常値まで回復する。富士山頂に到着したほどの達成感があった。
     で、あらためて到着した場所に顔を向け、
    『『『デパート!?』』』
     俺達、三人は驚きの声を唱和させた。
     数瞬、沈黙。そして
    「まさか……」
     俺は、視線の先にでかでかとそびえ立つ建物を前に我の目を疑った。
    「ほんと、まさかね……」
     嘆息するナツキ。
    「ハハハ、見たまえ二人とも、私の言った通りだったろう?」
     リジーだけは、俺達と真逆の表情で勝ち誇ったように笑っている。
     『秘宝を求め進撃する者達が集う、天高く聳え立つあの塔』……それが、まさか、リジーの推理にもなっていない妄想で正解だったなど夢にも思わなかった。
    「……こ、これを人間はデパートと呼ぶのか……」
     俺達をここに案内した本人が一番驚いていたが。
  • 85 toto id:7BGkCZc1

    2012-09-02(日) 05:05:59 [削除依頼]
     柵を乗り越えた俺達一行は、自動ドアを踏み越えてデパートの中に歩を進めた。
     営業を終え、本来稼働するはずのない自動ドアが反応したのは杖いわく「主が手を回したのだろう」だからだそうだ。誰もなにも言わなかったので、それで納得したのだろう。あらかた魔法かなにか使っているのか。とにかく、もはや驚きもしない。宙に浮いている杖が先導しているのだから、そいつにそう説明されれば納得するしかない。もうなんでもありだ。
     そうして、フワフワと浮遊する杖に続いて静まりかえったデパートの中を歩く俺達。響くのは、足音だけだ。無論、俺達以外に人はいない。
     本来の役割を忘れ、動かぬ段差と化しているエレベーターを上がり、二階へ。丁度、婦人服売り場に差し掛かったあたりで、不意に杖は動きを止めた。
    「どうした?」
     と、尋ねる。
    「ここから主の魔力を感じる……」
     そう言って、小刻みに揺れ出す杖。なにやらパワーのようなものを受信したようだ。
    「ってことは……」
     『ここにロウランはいるのか?』と続けようとした俺の発言はかき消された。天から降ってきた、馬鹿でかい音によって。それは無意識に聞けばやかましいだけだが、意識して耳にすればテクノ調の軽快な音楽だった。
     そして、その音楽に混じって、誰だかよく分からないが元気満点な少女の声が聞こえてきた。
    「やっほー! リジー元気? 私は元気だよー!」
    「な、何者だ!」
     姿なき声に対し、きょろきょろと辺りを見回した後、とりあえず声の聞こえている上に顔を向けてリジーが問う。
    「私のレーヴァンテイテンを届けにきてくれてありがとねー!」
     リジーの問いに答える気はないらしく、正体を明かさないまま続ける声の主。まぁ、大体見当はついたが。
    「まさかロウラン……ロウラン・レヴィ・セルム……君かい?」
    「あったりー!」
     やはり、そうであったらしい。
    「主……主よ……助けてくれ……我は、こやつらに酷い拷問を受け、ここまで連れてこさせられたのだ……」
     いきなり人聞きの悪いことを叫び出す杖。案内するから連れてけと懇願したのは自分だろうに。
    「リジーなら、きっと来てくれると思ってたよー、昔からお人好しだもんねー! あ、そうそう、あんまり来るのが遅いから、ちょっとゲーム世界ふうに色々と細工をしてみたよー」
     見事に無視されている杖。ざまぁみろだ、慰めてはやらない。
    「主……主よ……我はどうすれば……」
    「さしづめ、私はボスってことでー、ボス部屋めざして頑張ってねー。あ、レーヴァンテイテンも私のところに戻りたいなら、リジー達の力になってあげてねー。それじゃ、生きて来られたらまた会おうねーバイバーイ」
     白状な杖の持ち主は、危険な香り漂う台詞を言いきると、一方的に通信を切ってしまった。脳に直接響いていたのか、それとも単にスピーカーから流れていただけか分からない声と音楽が止んだ次の瞬間、婦人服売り場に設置されていた多数のスポットライトが、俺達をバンっと照らし出した。
  • 86 toto id:7BGkCZc1

    2012-09-02(日) 05:06:14 [削除依頼]
    「うあっ」
     本日二回目となる光の不意打ちを受けた俺は、その眩さに目を細める。そして、薄らぼんやりとした視界の中で、多数の何かが蠢いているのが見えた。
    「げっ……なんなのよっ……」
     素早い身のこなしで、ナツキは俺の背に身を隠した。俺も、隠れるものがあるならそうしたかった。なにせ、煌びやかな服を着た大量のマネキンが突然、一斉にその身と手足を、ウネウネ動かし始めていたからだ。人間では考えられない挙動だった。ありえない方向に体をよじっている。本能的に拒絶したくなるほどに気持ちが悪い。
    「勘弁してくれよ……」
     意図せず呟きが漏れた。これがロウランの言った、ゲーム世界ふうのアレンジだとすれば悪趣味すぎる。
     それで、見るにこの動くマネキン達……
    「おい、襲ってこようとしてないか……?」
     ゴクリ、と唾を飲んで、誰に言うでもなく呟く。
     かたん、かたん、と音を立てて不健康な足取りとリズムでこちらに向かって来だす白塗りの魂なき人形達の手には、いつの間にかハンガーやポールといった、使い方によっては鈍器という名の武器になり得る物が握られていた。危害を加えられるような気がしてならない。『生きて来られたらまた会おうねーバイバーイ』などと聞いた後では、尚更そう思えて仕方がない。
    「器となる物に魂を与え使役する、使い魔といったところだね。ロウランらしい魔法だよ、ハハハ」
     暢気に解説してくれるリジー。それどころではない。
    「ええい、そんなのはいいから、どうにかしてくれ!」
     それができる唯一の存在であろうリジーに哀願する。相手が現実では考えられない手段でくるなら、元は同じ土俵にいたリジーにすがる他ないのだ。
     するとリジーは、すっ、と背に帯びた身の丈ほどもあろう大剣『デュランダウル』に手を伸ばし、
    「ふむ、私も丁度、血がみたくてウズウズしていたところだよ」
     飢えた人斬りのようなことを言う。
  • 87 toto id:7BGkCZc1

    2012-09-02(日) 05:09:20 [削除依頼]
    訂正 >>85の前をすっとばしていました。  いろいろと紆余曲折あったが、とうとうここまでやって来た。後は、このデパートのどこか(上のほう?)にいるロウランに杖を届け、適当に機嫌をとったうえで家を元に戻すよう交渉するだけだ。  ここまできたらやるしかない。と、気合いを入れ直す俺をよそに 「くっ……これは……」  リジーが、デパートへの入り口を守るように閉ざす鉄製の柵と一人で戦っていた。 「もう八時、過ぎちゃってるみたいね……」  呆れ混じりの声色で言いながら、看板に顔を向けるナツキ。そこには『営業時間9時〜20時』の文字。柵で閉鎖されているということは、デパートの営業は終了しているのだった。 「かくなる上は、斬って進むしかないね」 「斬らんでいい……」  背に帯びた大剣に手をかけるリジーを止めておく。器物破損の重罪になりかねない。 「主め……人避けの結界を張りおったか……やりおるわ……」 「ただの柵だ……」  手元で戯言をぬかす杖も見たまんまの返事で黙らせる。 「のりこえて進むのが妥当じゃない?」  と、唯一、知性の光をみせる発言をしてくれるナツキ。不法侵入という犯罪だが、ここまできて引き返す訳にもいかず、そうすることになった。  最初に柵を乗り越えたのはリジーだ。まるで、映画にでてくるアクション俳優のように跳躍し、空中で無駄に一回転まで決めて軽々と柵一枚隔てた位置に着地。身に付けた甲冑と大剣の重量を感じさせない動きだった。 「おー」  俺とナツキは感嘆の声を大にしつつ拍手をもって讃えた。  続いてナツキも、難なく目の前の障害物を突破していく。リジー程ではないが、柵の頂点に片手を乗せて、それを支柱としてジャンプし、行く手を阻む壁を飛び越すという見ていて様になるものだった。  そして、いよいよ俺の番だ。  ここは、失いつつある兄の威厳を取り戻すチャンスだと思った俺は、ナツキを真似て同じ動作で挑戦してみた。が、失敗して盛大に転げ落ち、尻を強打した。 「ださっ」  指をさされ、妹から大いに笑われる。兄としての威厳は失墜していくばかりだ。それでも、第一の関門は突破できたのだから何も言うまい。笑いたければ笑え。別に情けなくて泣いているのではない、尻が痛いだけだ。
  • 88 toto id:7BGkCZc1

    2012-09-02(日) 20:06:09 [削除依頼]
    >>86続き  冗談なのかマジなのか。ともかく、物理的な方法でなんとかしてはくれるようだ。  そう黙考する視界の中、こちらに向かって駆け出してくる影が一つ。その後ろを同程度の速さで追いすがる、やたらと顔の白い人形、その数は三。計四体のマネキンが接近してくる。表情から感情を読み取ることはできないが、手にした凶器を一斉に掲げて迫ってくる奴らは、攻撃衝動の塊のように見えた。  俺は、それらの様子をやけにゆっくりと見ながら、やっぱり俺達に危害を加えるつもりなのか、これから、あのハンガーや棒のようなもので頭をゴツンと叩かれるのだな、などと考えて 「うぉっ!」  殴られればタダでは済まないと気が付き、咄嗟に後ずさる。  俺が下がったことにより隊列の順序が入れ替わった。矢面に立つのは強制的に先頭となったリジーだ。  このままでは、リジーは袋叩きにされてしまう。 「リジー!」 「心得た、匠くん!」  鞘から大剣を引きぬくリジー。逃げろ、と伝えたかったのだが、違った方向に勘違いされてしまった。  リジーが正眼で剣を構える。それと同時、先頭を駆けるマネキンの速度が飛躍的に上昇した。ひときわ強く地を蹴り、跳ぶようにしてリジーの懐に潜り込んできたのだ。そして、その手に持つ金属製のポールをリジーの頭部めがけて何の躊躇いもなく振り下ろすマネキン。 「南無三!」  リジーではなく、俺が言う。しまった、と思った。リジーがやられちまう、と。  だが、そうは問屋がおろさなかった。問屋がなんなのか詳しくは知らないが。  腹の底に響くような重低音が空気を震わせる。リジーは見事に、マネキンの振るう一撃を分厚い鉄の板、大剣で受け止めてみせていた。 「悪くない太刀筋だね、だが……」  不敵な笑みを浮かべ、そう言ったリジーは大剣の腹に左手を当てて、勢いよく前へ押し出した。当然、その先にいるマネキンの体は重心がずれ、その身はよろめく。その隙を見逃すまいとばかりに、両手で剣柄を握ったリジーは体全体を捻って一閃。というよりはバットのフルスイングにも見えたが。  なんにせよ、その一撃は物言わぬ人形の意識を狩り取るには充分すぎる威力だった。  横薙ぎ受けたマネキンの上半身と下半身が剥離する。それら二つの異物が地へと崩れ落ちたのを完全に見届けて、フっとリジーは笑う。 「魂のこもらぬ攻撃では、私を倒すことなどできないのだよ」  一応、格好はついていたが、囲まれていた。残り三体のマネキンに。
  • 89 toto id:jBn099i.

    2012-09-04(火) 03:17:18 [削除依頼]
    「行ったか?」
     俺はリジーに問うた。
    「うむ、そのようだね」
     答えるリジー。
     なにが、というとマネキンがである。
     あの後、多勢に無勢となった俺達(戦えるのはリジーだけだが)は階段を駆け下り、デパートの一階へ逃走したのだ。
     こういう場合、身を隠すのは、やはり食品売り場であった。
     リジーは両手に大根を持って台の下に身を潜め、ナツキはカボチャを顔の前に掲げてレジの傍に隠れ、杖はゴボウに擬態してカートの中に紛れていた。杖はさておき、前者の二人は普通に身を隠せばよかったと思う。はっきりいってバレなかったのが奇跡だ。気付かずに真横を通りすぎて行った奴らは相当なマヌケか、それとも目が見えないのか。それは不明だが、一時の安全は確保された。
     ナツキは南瓜から、ひょこっと顔を覗かせた。
    「もう行った?」
    「たぶんな」
     右にも左にも奴らの姿はない。
     カボチャをレジ台の上に置きながら、はぁ、と長嘆息するナツキ。
    「こんな目に会うなら、ついてくるんじゃなかったわ……」
     仮に未来予知が出来ていたら、俺だって来たくはなかった。
    「ハハハ、確かに、洒落になっていなかったね」
     あんな目にあって笑っていられるリジーも、それはそれで尋常ではない。
    「……なにか打開策を考えねばならんな……」
     ゴボウの山から埋もれ出て来た杖が言う。
     俺は、素直に驚いた。
    「お前から、そんな言葉を聞けるとは思わなかった」
    「我とて契約者でもない人間に手を貸すなど不本意だが……協力せねばなるまい……主からそう命令を受けた……」
     随分と軽い命令に聞こえたが、まぁいい。
     ロウランが操る魔法を、一番近い位置で見続けて来た杖が味方についてくれるなら心強いのは確かだ。あのマネキン達の弱点などを知っているかもしれない。
    「で、肝心の『打開策』ってのは、あるのかよ?」
    「物理攻撃は通じるようだ……オールド・リジーを主体とした最大火力での一点突破しかあるまい……」
     無茶を言う。
     だいたい、それは
    「さっき失敗したばかりだろうが……」
     と、リジーに目を向けて言う俺。いくらリジーが強くとも、多人数と一人の戦いでは分が悪すぎるのだ。先程、見ていてわかったことだが、実際の戦いでは、相手はゲームの戦闘のように都合よく動いてはくれない。一人を相手にしていると、もう一人が攻撃を仕掛けてくる、それをよしんば防御しても、残りの奴らが一斉に畳みかけてくるのだ。あれは数の暴力、いわゆるリンチだった。それでも手傷を負っていないのは、流石ゲーム世界の騎士リジーといったところだ。が、なんの対策もたてずに根性論やなんかでチャレンジし直すには危険が大きすぎる。
     なにか他に方法はないのか、と沈思黙考。確か、自分でヒントになるようなことを思考していたような気もするのだが、杖の役にもたたない『打開策』がどれだけ馬鹿げてるか解説しているうちに、ところてん式にスッポリと頭から抜けてしまった。
     ああ、杖のせいだ。
     意図せず表情も険しくなる。いや、杖のせいか。
     難しい顔の俺を見て、責任の一端は自分にあると勘違いしたのか、リジーの表情が不安げになる。
    「あ、あのだね匠くん。アレだったら私がもう一度、戦ってみようか?」
     手にしている大根の腹をひとさし指でなぞりながら聞いてきた。分かり易く、しょんぼりとしている
    「いや、いい。リジーは良くやったよ」
     一応、フォローしておく。
     するとリジーは、大根に落としていた目線を少しだけ上げて
    「しかし、それしか方法はないのだろう?」
     と、上目遣いに聞いてくる。
     結論に行きつくまでが早すぎだった。
     溜息をひとつ。
    「考えれば他に方法は幾らでもあるだろ、たぶん。なんせ現実世界だからな、ゲームじゃ戦わなきゃ勝てなくても、ここなら戦わずして勝つ方法があるはずだ」
    「さすがは匠くん! では、既に方法も?」
     大根を後ろに放り投げ、輝く瞳で俺を見つめながら聞くリジー。感情の起伏が新幹線より早い奴だ。
     だが生憎、リジーが期待する名案は未だ俺の頭に浮かんでいなかった。
    「それを今、考えてるんだ……」
     前述の格好いい台詞も台無しだ。
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