水色の青、63コメント

1 ちさ id:ez-QmBMvyT/

2011-11-14(月) 23:59:59 [削除依頼]



「あたしとあんたはまったくちがうし、あたしはあんたみたいになりたくない」

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  • 44 ちさ id:yoa8P3R.

    2013-02-15(金) 10:44:32 [削除依頼]

    「そのときあたしは、あたしの家は、叔母がいなくなった。毎日狂い続けてついに、叔母まで家を出て行ったわ。学校から家に帰ってきたら空き巣でも入ったかと思うくらい家中めちゃくちゃになってて、いつも床に突っ伏してわめいていた叔母の姿はどこにも見当たらなかった。あれから消息はわからないし、たぶんもう戻って来ない。あたしのいるべき場所ではないのに、あたしだけがあの家に残された」

     瀬戸ちゃんの長い睫がゆらりと動く。静かにそれが上向きになって、憂いを帯びた漆黒の瞳が露わになった。彼女はそばにあった机に寄り掛かるように片足に重心をかけ、机の表面を白い指でなぞっていた。瀬戸ちゃんと目が合う。時が止まった。その深い底なしの黒に、わたしは引きずり込まれていく。
  • 45 ちさ id:yoa8P3R.

    2013-02-15(金) 10:45:38 [削除依頼]



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  • 46 ちさ id:UWIGIPj.

    2013-02-19(火) 10:01:47 [削除依頼]

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     いまが、あたしが「消える」ときなのかもしれない。そう確信にも似た感情があたしを支配した。食事を摂らなくなった。このまま飢えて死んでもきっと誰にも悲しまれないで、あたしという存在は人々の世界の中から「消える」んだと思った。それでいいんだと、やっとあたしが此処からいなくなることができるんだと、そう思った。
     何をする気も起きなくて学校にも行かなくなり始めてたから、その日、なんで学校にいたかはよく覚えてないの。確かに制服に身を包んでいたし、通学鞄も持っていたのだけれど、何も覚えてない。担任に呼び出されたのかもしれないし、無意識の内に廃墟じみた家から抜け出したのかもしれない。とにかくあたしはそこにいた。教室に行くまでの間、めまいがひどくて立ち上がれなくなった。階段でずっと座り込んでいたところに、先生がやってきた。
  • 47 ちさ id:UWIGIPj.

    2013-02-19(火) 18:15:51 [削除依頼]

     あたしを見てひどく驚いた様子であわてて保健室に連れて行こうとしたけれど、あたしが嫌がったらとりあえずこっちで休めって化学準備室に入れてくれた。相当あたしがやつれてたのか、ずっと不安そうでどこかおどおどしてて落ち着きがなくて、本当にこれで大丈夫なのかなって顔に書いてあったわ。それまで米山先生を見た覚えはなかったけど、生徒かと一瞬思ったくらい童顔で、その容姿とか挙動とかが一丁前に着てる白衣とアンバランスで不思議にさえ思った。久しぶりに人と触れ合ったのもあって、なんだかそれがすごく新鮮に感じた。
     なぜかそのときだけ、あたしは周囲に抱いていた不信感を忘れた。他人と関わりを持つことを避け続けていたのに、周りと自分との間に境界線を張り続けていたのに、そのときだけ思考の外へと消えたの。そうする気力がもう残ってなかったのかもしれないけれど、あまりにも先生がわかりやすい人だったから、疑うのが馬鹿らしいくらいに思えて。あんなに教師らしくない人、あんなに穢れを感じさせない人、初めて見たから。
  • 48 ちさ id:mhtwjrC0

    2013-02-28(木) 11:37:33 [削除依頼]

     いつの間にか、瀬戸ちゃんがわたしの目の前まで来ていた。彼女の瞳に、その漆黒の渦に呑まれていたわたしは、一面に広がる闇の世界で彼女の声だけを聴きながら浮遊しているような感覚にあったが、はっと意識が現実に引き戻せられたときにはもう、彼女の確かな容(かたち)がそこにあった。手を伸ばせば触れられる距離。微かな息遣いもが鼓膜を震わすような距離。漠然と、「近い」と思った。「近い」けれど、「現実味」はない。
     確かに在るのに、眼前の彼女が幻だといわれてもわたしはなんら不思議に思わないだろう。瀬戸ちゃんの声を、言葉を、こんなに多く聴くことはなかった。瀬戸ちゃんがこんなに語ることをいままでに見たことがなかった。だけどいま、瀬戸ちゃんはわたしを前にして、わたしに聴かせるために、わたしに話をしている。そう思うともう一人の自分を傍観しているような、夢心地を感じる。瀬戸ちゃんの告白はあくまで兄への想いだとしても、いまこの時間を独占しているのはわたしだけだということがこの上ない歓びだった。
     兄の話をするときの瀬戸ちゃんは、女だった。その声には妖艶さがにじむ。兄を想って話すときの瀬戸ちゃんは、たしかに女なのだ。
  • 49 ちさ id:mhtwjrC0

    2013-02-28(木) 12:09:37 [削除依頼]

    「先生はあたしに多くを聞いたりしなかった。ただもう一度、準備室で座ってるだけで本当に大丈夫か確認して、あたしがうなずいたらあとは、あたしの気を紛らわすためかずっと自分の話してた」

     首をすくめて俯いた瀬戸ちゃんの口から、ふっと吐息の漏れる音がした。影になって表情は見えないけれど、もしかしたら笑ったのかもしれない。

    「今朝学校に来る途中で近所の犬に足を噛まれたとか、校内で白衣を着ていないときに教頭に生徒と間違えられたとか、一限目の化学の実験で転んだ拍子に試験管割ったとか、今日は牡羊座が十二位だからやっぱりツイてないとか」
    「兄貴らしい」

     思わず、心の声がそのまま外へと吐き出されていた。あわてて口を閉ざし手を当てたけれど、「そうね」と瀬戸ちゃんの凛とした声がわたしに答えた。

    「本当、全然教師らしくなくて、子供みたいで。でも、少しでもあたしが楽になれるように気遣ってたんだろうけど、それが取り繕った風でも無理やりな風でもなかった。素、っていうのかな。あたしはいままでいろんな人間を観察してきて、いろんな醜い面があることも知ってたけれど、あのときの先生は紛れもなく素だった。嘘がないってわかった。それであたしは、いつの間にか笑ってた」
  • 50 冬瀬アヤ id:FcJwGFR0

    2013-02-28(木) 14:01:44 [削除依頼]
    本当に惹き込まれる……


     
  • 51 ちさ id:mhtwjrC0

    2013-02-28(木) 21:20:29 [削除依頼]

    冬瀬アヤさん
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    どんどん謎の方向に突き進んでますが(笑)
    そういっていただけてうれしいです、ありがとうございます( ^ω^ )
  • 52 ちさ id:raHNuDd.

    2013-03-05(火) 11:10:38 [削除依頼]

     反射的に瀬戸ちゃんの顔を見る。以前俯き加減のまま静かに言葉を紡ぐ瀬戸ちゃんは、美しすぎる無表情だった。それが崩れ、口元を綻ばせ目を細める瀬戸ちゃんの微笑を想像しながら、わたしは兄への嫉妬をますます募らせる。瀬戸ちゃんの笑った姿も泣いた姿も、兄は独り占めできたのだと。そう思うといくらこの時間はわたしのものだと考えても、さっきまで抱いていた高揚感は一瞬にして消え去った。
     そんなわたしの心情に気づくわけもなく、瀬戸ちゃんは声の調子を変えずに続ける。

    「あたしが笑ったのを見て、先生もうれしそうに笑った。それを見て、なんか急に胸の内が熱くなって。あんなにまっすぐあたしの目を見てくれた人、いままで一人もいなかった。胸の内が熱くなることなんて、一度もなかった。からからに乾いた体の中から、いままで気づかないふりをしていた感情が熱を持って迸って。頬の上を滑る濡れた感触で、初めて自分が泣いてることに気づいた」
  • 53 ちさ id:raHNuDd.

    2013-03-05(火) 11:14:42 [削除依頼]

     そうか、瀬戸ちゃんはそれで兄が好きになったのか。

    「先生はきっと、あたしの涙の理由なんて知らないわ。でも言葉はなくても、先生はあたしの心を理解していた。あたしがずっと、諦めていたはずだけれどどこかで誰かに助けを求めていたのを、わかっていた。何も知らないけれど、あたしのすべてを受け止めてくれたの。そのときに、ああ、あたし生きててもいいのかもしれないって。『あたし』を見つけてくれたこの人の隣でなら、いままで感じることのなかった『幸せ』を感じられるかもしれないって。そう思った。生きて、この人の隣にいたいと思った」

     わたしの知っている、いつもわたしが見つめていた教室の隅の瀬戸ちゃんはきっと、彼女のいっていた「抜け殻」の姿だったんだろう。あまりにも儚く、あまりにも空虚じみていて、あまりにも現実離れした美しい姿。そしていま、かつてわたしが一度も見たことのないほど饒舌な瀬戸ちゃんが、兄への想いを吐露する瀬戸ちゃんが、兄が闇の底から引き上げた「本物」の彼女なんだろう。人形のように思えたあの無機的な美しさではなく、動態する生命の力を携えた、「生きた美しさ」がいま、わたしの目の前にはある。
  • 54 ちさ id:raHNuDd.

    2013-03-05(火) 17:56:45 [削除依頼]

     同じように見える無表情もよく観察すると頬には紅みがさし、紅い唇も心なしか艶を増していた。漆黒の闇に思えた瞳に一筋の光が浮かび、きらめく。それはわたしの知らなかった瀬戸ちゃんで、いままでにないくらい美しかった。胸が苦しくなって熱を帯びるほど、ふいに泣き出してしまいそうになるほど、美しかった。
     彼女の目の奥に浮かんでいた光がゆらりと歪んで、とたんに頬の紅もさっとひき青白いそれになる。「でも」と瀬戸ちゃんが唇を震わした。

    「あるとき先生がいったの、あんたとあたしが似てるって。はじめ、先生が何をいってるのかわからなかった。先生の妹がこの学校にいることも、その妹があたしのクラスメートだってことも先生に聞いて知ってた。いままではさほど気にしたこともなかったのに、その一言にあたしは愕然とした。でもそれは冗談じゃなくて本気でいってるんだと、あたしにはわかった。先生の目は初めて会ったときと同じように、まっすぐあたしの目を見ていたから。なんで、あたしがあんたなんかと似てるのよ。あんたはあたしとは全然違うじゃない。いつもへらへら笑ってて、不幸とは無縁みたいな世界の中にいて、先生がそばにいて、愛されてて。何一つちがうじゃない。何がいっしょなのよ。あんたみたいなやつ嫌いよ。闇なんか知らないでのうのうと生きてて、あたしとは真逆な人間。あたしはあんたとはまったくちがう。あたしはあんたみたいになりたくない!」
  • 55 ``理文" id:oFZ8CWN/

    2013-03-06(水) 08:49:10 [削除依頼]
    コメントも残さずにあげる奴←

    はっ、と思い出したように、頑張れ!と応援の言葉を発して察していく理文であった。
    もうちょい時間あるときに感想書くよ←それが何時になるんだ
  • 56 ちさ id:jkzKj7V1

    2013-03-06(水) 09:37:17 [削除依頼]

    理文
    .
    朝からびっくりしたやないか(笑)

    この小説上がってると恥ずかしい(´Д`)
    しかしありがとう!いつかを待ってるね(笑)
  • 57 ちさ id:BuxgMrw/

    2013-03-07(木) 11:45:18 [削除依頼]

     ぱんっと何かが弾けるような乾いた音が部屋中に響き、静まっていた空気の波を揺らした。それと同時に頬に走る衝撃。少し遅れて、熱を持った痛みがじわじわと広がっていく。瀬戸ちゃんの透けるように白い手のひらがわたしに触れた感覚が、まだ残っていた。彼女の熱い吐息がこちらまで伝わってくる。充血した目を潤ませ唇をきつく噛みしめて、瀬戸ちゃんがわたしを睨み上げていた。
     「瀬戸ちゃん」と、気づいたときには彼女に伸ばしていたわたしの手を叩き落として、瀬戸ちゃんは背を向け走り出した。一瞬の出来事に思えた。思考が追いつかないままぼんやりと、戸の向こうへと消え行く彼女の背中を見つめる。頬の熱が冷めきったのを合図に、夢から醒めたようにはっと意識が冴え、ようやく体が動き出した。駆け出した足はまるで自分のものではないかのように、地を踏みしめている感覚がなかった。
     実験室から出たときもう瀬戸ちゃんの後ろ姿は遠く、廊下の奥の角を曲がって完全になくなってしまった。急いで追いつこうと右足を前に出したそのとき、実験室の隣の部屋のドアがガラガラと音を立て開き、ぬっと人影が現れた。
  • 58 ちさ id:BuxgMrw/

    2013-03-07(木) 12:03:40 [削除依頼]

    「わっ」
    「うお! ……って、なんだあやじゃないか」

     わたしの声に驚き少し大げさに体を仰け反らせた彼は、わたしの存在を認識するとほっと息を吐き出して能天気そうに笑う。兄貴、なんていうか、なんてタイミングなんだろう。
     兄は授業でわたしのクラスを担当していないし、わたし自身も用もなく三年の校舎まで来ることはないので、わたしたちが学校で会うことはほとんどなかった。偶然もいいところすぎるという思いで、わたしとは全然似ていない、わたしにとって唯一の家族を見つめる。

    「なんで実験室なんかいたんだ? さっきもなんか物音したけれど誰かといっしょだっ……」
    「兄貴、瀬戸ちゃんのこと好き?」

     兄の言葉を遮って唐突にわたしはそう訊ねた。この状況もその言葉の真意も何も知らない兄は、ほとんど反射的に「え?」と聞き返してきた。兄のことでいまわたしと瀬戸ちゃんは奇妙な関係にあるのに、その中心人物であるはずの兄は一人だけちがうところにいるのもおかしな話だと思う。
     急すぎるわたしの問いかけに、実直といってもいいほど当然の反応を返す上擦った声。わたしといえば切羽詰まった表情でも浮かべてるかもしれない。兄は口を開けたまま二、三度ゆっくり瞬きをしてから、すっと目を細めた。

    「好きだよ」

     何も知らないはずの兄が何もかも理解したように、それらを包み込むような柔らかな笑みを浮かべた。

    「あやと同じくらい、好きだよ」
  • 59 ちさ id:BuxgMrw/

    2013-03-07(木) 18:21:04 [削除依頼]

     さっきまでの呆けた様子とは打って変わって、ひどく穏やかな表情でわたしの頭に手のひらを置いた。十分すぎるほど、残酷な答えだと思った。兄は誰をも愛するし、誰をも愛さない。自分の心は誰にも貸さない、博愛主義者。わたしはそのことをよく知っているし、彼は「妹」という「弱き存在」を守りたかったにすぎないのだ。この手のひらにあるのは残酷な優しさと、そんな義務感のかけらだ。

    「そっか」
    「うん」

     いつだって彼が見てるのは、「わたし」じゃない。それはきっと、瀬戸ちゃんに対しても同じ。
     瀬戸ちゃんを追わなくてはいけない。彼女はまだ、わたしの話を聞いていない。わたしは彼女に、話すべきことがある。


    .
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  • 60 ちさ id:t8GNcYD.

    2013-03-08(金) 10:48:34 [削除依頼]

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     瀬戸ちゃんは生徒玄関のところでうずくまっていた。もう帰ってしまったかもしれないという思いでここに駆け付けたわたしは、その小さな背中を見つけて安堵したのと同時に無性にせつなく感じた。ブレザーの肩のあたりの生地が余っている。骨ばった手で自分の両腕を抱いていた。ひどく頼りなく儚げで、触れてしまったらいとも簡単に崩れてしまいそうな脆さがある。だからわたしは彼女の数歩後ろで立ち止ったまま何もすることができず、いまにも消え入ってしまいそうな危うい後ろ姿の彼女を見下ろしていた。
     瀬戸ちゃんはわたしがいることに気づいているだろう。わたしの息切れの音やサンダルの底が簀子をこする音が、人気のない玄関ではやけにはっきりと響いていた。それでも少しも彼女の体が動くことはなかった。抱えた腕の中に顔をうずめて微動だにしない。泣いている、のかもしれない。

    「瀬戸ちゃん」

     反応はないとわかっていながらもわたしには話すことしかできない。

    「わたしの話、まだ聞いてないよ瀬戸ちゃんは。わたしは瀬戸ちゃんに話したいことがある。兄貴のこと。それと、わたしのこと」

     瀬戸ちゃんは動かない。目の前の彼女がブラウン管の向こうの世界で静止しているような、現実味のない遠いものに思えた。その耳にわたしの声が届いていることを信じて、ずっとわたしが封じていた忌々しい記憶を呼び覚ます。

    .
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  • 61 ちさ id:1p.skKy/

    2013-03-16(土) 19:39:18 [削除依頼]

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     わたしの家は四人家族だった。父と母と兄とわたし。父は、わたしのことを疎んでいた。優秀な家族の中で一人だけ劣っていたし、疎まれるだけの理由がわたしにはあった。母がわたしを妊娠したころ、どうやら母は不倫をしていたらしかった。証拠にこの世に誕生したわたしは、血液型がA型同士の両親から生まれるはずのないB型だった。そこで初めて母に疑いがかかり、結果的にその予想は当たっていた。母の不倫相手は、父の部下だった。
     厳格な父がそのことを許すはずもなかったが、彼が一番気にかけていたのは社会的体裁だった。自ら立ち上げた事業が成功し、これから波に乗っていくというところでの不倫の発覚。誰からも祝福され生まれたはずの長女が、我が子ではないこと。そのすべてを、父は隠蔽しようとした。
     不審がられぬよう自然な成り行きを装って、不倫相手の部下に濡れ衣をきせ退職させ、わたしのこともれっきとした自分の娘だと、家族の一員として扱った。母と離婚もしなかった。その代わり家では、わたしと母は忌み嫌われていた。自責の念に駆られ耐え切れず母が家を飛び出したあとは、その矛先はわたしにだけ集中した。母はひどい女だと思う。勝手に不倫相手との間に子どもをつくり、望まれないはずのその子を置き去りにして自分は逃げるだなんて。それから一度も、母には会っていない。
  • 62 ちさ id:1p.skKy/

    2013-03-16(土) 19:54:48 [削除依頼]

     父は何よりも周りからの目を気にかけていた。自分の実の娘だと言い張っても、出来の悪いわたしのせいで周囲から親子でないのではないかと疑われるのを恐れた。家では暴力を振るわれ続けた。どうしてこんなに出来ないのかと、あの男の遺伝子を受け継ぐ汚らわしい子だと。我が子でないわたしを育てることを考えてみれば、それは仕方のないことだったかもしれない。わたしは母を憎んだけれど、父には同情した。父のやり方が正しいとか正しくないとかは考えたことがなかった。ただ、他人(よそ)の子を家族に仕立て上げるのには、それ相応の労力が必要なんだと思った。
     兄は、そんなわたしにも優しかった。父に殴られ蹴られ傷をつくるたびに、影ではそっとわたしを抱きしめ泣いてくれた。ごめんね、といってくれた。守ってあげられなくてごめんね、と。どうして兄が謝るのかわからなかったけれど、その大きな手のひらがわたしの頭をなでるときは、泣きそうになるくらいの安堵感に包まれた。
  • 63 ちさ id:RDyRKw41

    2013-03-19(火) 18:41:27 [削除依頼]

     わたしが中学三年生になったとき、兄が「家を出よう」とわたしにいった。「いっしょに家を出よう」と。そのときにはもう、父の暴力は躾を域を超えていた。わたしは日頃の鬱憤を晴らす道具でしかなかった。それでも居場所を作ってくれるだけ十分なのかもしれないと、わたしはそのすべてを受け入れて生活していたが、兄はもうわたしに傷ついてほしくないと泣いた。兄はわたしのためによく泣いてくれた。そして、わたしを守ろうとしていた。
     
    「二人で暮らそう、あや。父さんの手が届かないもっと安全な場所で、しあわせになろう」
    「しあわせ?」
    「うん。あやが傷つかない居場所を、僕がつくるから」
    「わたし、平気だよ?」
    「そんな目をしていないよ」

     目?とわたしが聞き返すと兄が深くうなずいた。いつものように優しくわたしの頭をなでながら、悲しそうな笑みを浮かべる兄の顔がわたしの目には映った。

    「傷ついてる人の目はちがうんだ。そこにはがらんどうな空間があるだけ。光が、ないんだ。あやは自分が認めないだけで、押し隠しているだけで、本当はずっと傷ついてる」
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