猫と僕4コメント

1 虻瀬 id:UG2xe/U/

2011-11-09(水) 18:48:03 [削除依頼]
最近、僕は猫のカウンセラーに付きまとわれている。
そして今も、やっぱり僕はそいつに付きまとわれているので、かなり居心地が悪い。もうそろそろ本当にいい加減にして欲しい。
部屋でゴロゴロしている時や百歩譲って食事中も、まだいい。しかし、人が用を足している時にまで話しかけてくるのはどうなのか。なにか僕に恨みでもあるのか。
トイレと八畳ほどの部屋を隔てる扉。それを一枚はさんだ向こうにそいつは今も居る。
猫のくせに、べらべらべらべらと日本語で僕に話しかけてきている。
そう、こんな感じで。
「一人でトイレにゃんて相変わらず秀二くんは寂しいやつにゃ。そんなだから大学に入って一週間も経つのに未だに友達の一人もできないのにゃ」
「一人でトイレに入るのは当たり前だ。二人で入るトイレなんて聞いた事もない」
用を終えた僕はトイレの扉を開けると同時に、足元で鎮座していた猫に対してかなり当たり前の事実を述べてやった。
そして暫し沈思黙考。腕を組んで考える。
今更ながら、何故この猫は喋るのだろうか、と。
その理由は直ぐに思い当たった。
あれは、大学に入学してから間もない雨の日。
授業を終えて帰りの徒についていた僕は、ダンボールの中で雨水に打たれているこいつを見つけた。
いかにも捨て猫なオーラを如何なく滲みだしていた上に、圧倒されるほどの拾ってください的な視線で僕を見てくる猫。
だが、そこは僕。僕は、その猫を無視して何事もなかったかのようにアパートへと帰宅した。が、可哀想な捨て猫を見捨てた故に天罰でも当たったのか、見事に風邪をこじらせてしまったのだ。
三日三晩、高熱にうなされて幻覚まで見え始めていたが、ようやく正気に戻るとこの猫が素知らぬ顔で僕の部屋にいた。
冷蔵庫の食物を食い散らかし、フローリングの床に体毛を巻き散らかしていたそいつは病み上がりの僕に、しれっとした顔でこう言った。
「拾ってくれてありがとにゃ。恩返しに、にゃが秀二くんのカウンセラーになってあげるにゃ」
……ありがた迷惑にも程がある。拾った覚えなんて微塵もないし。いや、待て僕。問題はそこじゃない。
  • 2 虻瀬 id:UG2xe/U/

    2011-11-09(水) 18:52:51 [削除依頼]
    問題なのは、その時の僕は猫が喋ったというのに驚きもしなかったということだ。むしろ平穏な気分と穏やかな表情で猫を見つめていた、あの時の僕に驚きたいくらいである。
    なぜ驚かなかったか。それが最初の理由に繋がる。
    僕は熱を出して幻覚を見る程にうなされていた。つまり、これもまだ幻覚、あるいは声だから幻聴の続きなのではないか、というのが僕の推測だ。
    ようするにまだ風邪が治っていないのだろう。やけに長引く風邪だ。
    猫が喋りかけてくるように聞こえるのは僕の幻聴、ということで一つ答えが出た。
    思考終了。
    長々と考えた挙句、行き着いた極地は幻聴に対してツッコミを返している僕の薄ら寒さだけだった。
    そうして猫にツッコミを入れてしまった先刻の自分を客観視してみると、いよいよもって本気で具合が悪い気になってくる。そんなのは完全に気が狂っている人だ。
    「はぁ……」
    ぐしゃぐしゃと後頭部を掻き毟りながら溜息を一つ。
    大事をとって明日は大学を休もうなんて考えつつ、万年床へと僕は倒れ込んだ。
    布団は落ち着く。寝具は人類最高の発明品であると僕は思う。
    こうして布団の上で目を瞑っているだけで幸せな気分になれるのだから。
    しかし、それも最初の五分足らずで終わる。大体、こうやって目を閉じて瞑想の様な状態に入ると僕の場合、決まって嫌な記憶が脳髄の奥から湧きあがってくる。
    所謂トラウマという奴である。
    なにが「無口で何を考えてるか解らないよね」だ、誰が「あいつって動物とか虐待してそうじゃね」だ。僕が温厚という名のビビリでよかったな。お前らだけ爆破できる局地的爆弾がこの場にあれば僕は迷わずスイッチを押しているところである。
    と、いい具合にトラウマに精神を責め苛まれている僕の耳に何やら幻聴が……
    「秀二くん、秀二くん」
    「……」
    無視。答えると、また幻聴と会話している頭の中がお花畑の人になってしまうからだ。
    だが――
    「めーるがきてるにゃ」
    さすがに、そんな至って事務的なことを教えて貰ったとなると例え幻聴であったとしても反応せざるを得ない。
    僕は横になったまま、辺りをまさぐって携帯電話を手元に引き寄せた。
  • 3 虻瀬 id:UG2xe/U/

    2011-11-09(水) 18:56:31 [削除依頼]
    「……なっ!」
    液晶画面に映し出された差出人の名前とメールの内容を見た僕の口から思わず声が漏れる。と、同時に先程までの鬱々とした気分と僅かな眠気が一瞬で吹き飛んでしまった。
    それもそうだ。
    「だれからのめーるにゃ?」
    「……す、須藤さんからだ」
    「すどうさんってだれにゃ?」
    「こ、高校の同級生」
    「おとこのこにゃ?」
    「お、おんなのこだ」
    僕は携帯を握りしめたまま小さくガッツポーズしつつ、目の前の猫が繰り出す質問の数々に一片の狂いなく答えてやった。
    すると猫は携帯を覗きこむようにして僕の手に顔を擦りつけてきた。
    「すごいにゃ、秀二くんモテモテにゃ。めーる、めーるなんて書いてあるにゃ?」
    「待て待て落ち着け。今、お前にも分かるように読んでやる。ふむふむ、これはあれだな。秀二くん元気ですか?って書いてあるな」
    僕は、とてつもないほどの上機嫌で十文字のメール内容を猫に伝えた。
    「……それだけにゃ?」
    無駄に高かった猫のテンションと声のトーンがスゥっと落ちたのが見て取れる。
    「それだけ……だな」
    猫の、まるで弥勒菩薩のような無の表情に変容した顔を見た僕の頭もようやく冷静になってきた。
    確かに高校の同級生、しかも女子からメールが来た。が、これは内容からして
    「秀二くん、それって社交辞令めーるだとおもうにゃ」
    猫の言うとおり、これはただの社交辞令メールなのでは。大学生になって間もないこの時期に、そんな大人のメールを僕に送りつけてくるなんて須藤さんも侮れない人である。
    大体、僕が元気だったらどうだっていうんだ。僕の健康事情が須藤さんの生活に何らかの影響をもたらすのだろうか。
    などと半ばヤケクソ気味になってきた思考を深呼吸を挟んで一旦、冷却。
    そうして自称カウンセラーを名乗る猫に、ふと生じた疑問を投げかけてみることにした。
    「なぁ」
    「にゃ?」
    「こういう場合、どういうメールを返すのが正解なんだ?」
    「そうだにゃあ、うーん、元気ですって返すのはどうにゃ?」
    かなり考えるような素振りを見せた割には、あっさりと普通な答えを返す猫。
    「なんか普通だな……」
    「それは違うにゃ。普通と違うことをするのがすごいことじゃないにゃ、普通をつみかさねれる人が凄いのにゃ」
    猫のくせに、したり顔で知ったような事を言う。
  • 4 虻瀬 id:UG2xe/U/

    2011-11-09(水) 19:00:05 [削除依頼]
    「……じゃあ、元気ですって返した後はどうするんだ? 元気ですか、元気ですよってオウム返しにも程があるだろ」
    「そのあとは秀二くんが自分でなんとかするにゃ! にゃをあんまりアテにしないでほしいにゃ!」
    と、非情なる答えを返した猫は僕から、ぷいっと顔を逸らしてしまった。完璧に質疑応答拒否モード突入だ。
    一週間程、一緒に暮らして分かった事だが、はっきり言って、この猫は何の役にもたたない。
    そして今この時こそ、こいつはコンビニの割り箸についてくる爪楊枝ほどの価値すらないのでは、と僕が本気で思った瞬間である。
    ともあれ、女子からメールが来た時には速やかに返信するのが鉄則だと何処かで聞きかじっていた僕はメールを返す事にした。
    「お前に言われた通り、元気ですって送るぞ?」
    一応、猫に確認を取る。
    「だめにゃ!」
    「だ、駄目なのか?」
    フェイント的に猫から制止の言葉を受けた僕の体は硬直した。
    「元気です、だけじゃだめにゃ。すてきな言葉を添えておくるといいにゃ」
    ……なるほど。
    この手の話には疎い僕なので、幻聴とはいえど猫の助言は有り難い。
    「……例えば、今日は大学の帰りに土手道でタンポポを見つけたよ。まるで須藤さんみたいに綺麗だったよ、とかか?」
    「なにそれ、きもいにゃ。ストーカーみたいにゃ。にゃだったらドンビキにゃ」
    例え話の冗談で言ったつもりだが、猫は明らかに蔑んだ瞳を僕に向けつつ三歩ほど身を引いていた。どうやら本気に受け取られたようだ。
    何やら場の空気が一気に氷点下マイナスに突入してしまった様な気がしたので、とりあえず苦笑してみる僕。
    「……と、まぁ今のは冗談だけど」
    それを聞いて、猫は僕に憐れみと同情が混じった視線を向けて、やれやれとばかりに首を振った。
    「つまんない冗談にゃ。きっと普通の人と普通の会話をあまりしてこなかったからにゃ。そんなだからずっと友達もできないにゃ。秀二くんはダメダメにゃ」
    「……はぁ」
    たかが猫に、ここまでボロクソに言われると流石に胸にくるものがある。
    「溜息をつきたいのは、にゃのほうにゃ」
    ……はぁ、と猫が呆れたように溜息をつく。
    「で、にゃんて送るか決めたにゃ?」
    僕は無言で首を横に振った。
    と、いうより今は何を言っても猫に駄目出しされそうな心持ちだった。
    「まったく、秀二くんはしょうがないにゃ。それじゃ、にゃの言うとおりに送ればいいにゃ」
    最初から、そういう方向に持っていきたかっただけともとれる台詞を吐きながら、猫は前足を鼻の辺りにかかげて猫には不用のメガネをクイっと上げるような動作をしてみせた。
    「にゃは、こう見えても恋愛ますたーにゃ」
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