.ハル4コメント

1 yuru id:Po/rNNp0

2011-11-03(木) 22:33:51 [削除依頼]
*花と夢*
  • 2 yuru id:Po/rNNp0

    2011-11-03(木) 22:38:01 [削除依頼]
    ハル

    「ねぇ」
    「ん?」
    「世界って本当にひとつだと思う?」
     ミーコは真鯛のポワレを丁寧に崩しながら言った。彼女は魚の骨という骨が嫌いなのだ。
    「つまりね、世界がもうひとつあってもいいんじゃないかなと思うのね」
     タケルはうまく答えることができなかった。ナイフとフォークを一旦、お皿の上にハの字に置く。まだお皿にはテルミドールが半分残っていた。
     店内のBGMが切り替わる。
    「むつかしいな」
     タケルにとってもうひとつの世界があろうが、なかろうがどっちでもよかった。こうしてミーコと少し早いディナーを楽しめるだけで十分だった。仮にもうひとつの世界があったとして、彼はそこに憧憬を抱くことはないだろう。
    「わたしね、ときどき思うんだけど、世界からもっと隔絶されたい」
     ミーコはタケルを気にすることなくポワレを口に運んだ。白ワインのソースが香る。彼女が白ワインのソースのおいしさを理解したのはつい最近になってからだった。タケルには少し早い香りである。
    「そうだね、なにかと世界は干渉したがるし、たまに面倒なことがあるね」
     タケルはまたテルミドールに手をつけた。そういえば昼食は映画館のポップコーンとコーラだけだった。キャラメルの甘いポップコーンをミーコがどうしても食べたいと言い出した。しかし実際、ミワコは映画に夢中になってほとんど残してしまった。代わりにタケルがそれを食べたが、ポップコーンは存外、お腹を膨らますことなく静かに消化された。
     タケルは映画のことを思い出す。つまらない映画ではなかった。それなりの山場があって、美しい映像があった。役者の演技が悪いわけでもない。でもタケルにとってはもう二度と観ることのない映画になった。何が悪かったのか理由を探すのもむつかしかった。
    「もっと純粋な世界があったっていいと思わない?」
    「たとえば?」
    「水しかない世界とかさ」
    「人間じゃ暮らせないなあ」
     あらゆる要素が世界に必要なことはミーコにもわかってはいたが、同時に不必要なものも至るところに存在していることも知っていた。彼女はさっぱりとした性格だったし、そういうことははっきりとわけて考えていた。
    「可能性としての話ね」
    「悪くはないと思うよ」
     テーブルの上のグラスにタケルは白ワインを注いだ。ミーコは微笑んで礼を言った。それから彼は自分のグラスに入ったジンジャーエールを一口飲んだ。
  • 3 yuru id:Po/rNNp0

    2011-11-03(木) 22:42:16 [削除依頼]
    「悪くはないけど、どうしてそんなことを思うの?」
     タケルはミーコの話を聞いていると彼女がいまのこの世界に満足していないのではないかと不安になっていた。彼が彼女を何かから妨げているのではないか。
    「そうね、何となく。そういうことも考えるとね、この世界から隔絶されたいと思うの」
     タケルは何となしに窓の外をみた。そこには四車線の国道があって、当たり前の午後五時三十分があった。赤いスポーツカーが高い音をたてて走り去り、その後ろを白いバンがとろとろとついていった。自転車に跨る高校生もいれば、駅に向かうOL風の女性がいた。街路樹が時折風になびいてさわさわと葉を揺らし、それに反応して鳩やカラスが飛び立った。アスファルトの凹みとマンホールの対比が彼には平衡に思えた。大型の観光バスが凹みにバウンドした。季節は春だった。誰もが頭に思い浮かべるような単調な景色がそこら中を満たし、排ガスがやわらかに流れていた。空は高く、世界は伸びをしたように広がり、彼はまたもうひとつの世界の存在を疑ってしまった。この世界以外にどんな世界が必要なんだろう。隔絶されればこの春はどこにいくんだろう。タケルはジンジャーエールの氷を見つめ、その不恰好な姿が世界の均一性を表しているような気がした。グラスの表面にはりついた水滴も、ウェイターの低い声も、ざらついたエビの甲殻も、ショーウィンドウに飾られたモンブランも、彼はすべてを信じていた。勿論、ミーコのことも。
    「隔絶されたところにぼくはいていいのかな?」
     鯛のポワレのお皿の隅には鯛の骨がきちんと残されていた。ミーコは最後の一切れを口に運び、ゆっくりと咀嚼した。白ワインは細かな泡の粒を水面に浮かべ、店内の照明に反射して輝いていた。
    「当たり前でしょう」
     そして彼女は白ワインを飲んだ。シチリアのワインだとウェイターは言っていた。それがどういうものなのかミーコにはわからなかったがとにかくワインは舌触りがよくおいしかった。グラスの彫刻も美しく、彼女ははじめうっとりした。香りがすっと鼻腔を綻ばせた。
     彼女はタケルがテルミドールを食べ終わるのを見届けてからウェイターを呼んだ。
     ごちそうさま、とふたりは声を揃えて言った。それからホットコーヒーを注文した。ウェイターは微笑みを浮かべてお皿を下げていった。背筋がピンと伸びていてミーコはそれに見とれてしまった。タケルも素直にきれいだと思った。
     ホットコーヒーが運ばれてきたときにはふたりのグラスが空になっていた。ミーコはショートボトルの底に残った白ワインを飲み干し、タケルはジンジャーエールの氷が静かに溶けていくのをじっと見ていた。ふたりは申し合わせたようにコーヒーにミルクだけをいれて飲んだ。淡い白い渦はスプーンの軌跡を辿り、やがて完全に消えた。
    「ねぇ」
    「ん?」
    「もうひとつの世界に行ってみたくない?」
    「ミーコがいるならどこでも、ぼくは構わないよ」
    「すこし遠いけれど」
    「どれくらい?」
    「ここから鳥取くらいかな」
    「車で四時間か五時間はかかるくらい」
    「ちょうどそれくらい」
    「ナビで検索して出てくるかな?」
    「わたしは出ないと思う」
    「ぼくもそう思う」
     そこでふたりは笑いあった。木の椅子が小さく音を立てた。壁に掛かったベージュの時計は午後六時を示している。秒針が動く度に店内の声は区切られる。フォンドボー、オイルサーディン、アンファン、飛び交うのはカタカナばかりだった。その合間を縫うようにわずかな客は愚痴をこぼしたり、立派な映画評論家になったりする。照明の角度に嫉妬する。BGMは最低限の音量を保ちながらクラシックに切り替わった。
    「どうやったら着けるのかな」
    「わたしにはわからないな」
    「じゃあぼくにもわからないな」
     街は徐々に藍色に染まっていった。フレンチレストランの照明が淡く苦々しくなると二人は席を立った。
  • 4 yuru id:qmu37.j.

    2011-11-15(火) 00:29:14 [削除依頼]
    *夢

     寒いと呟くとより一層寒く感じられるような、そんな冬が街を包み、悲しげに揺れる裸の枝が欠けた街灯に照らされている。レンガでできた橋を渡り、針を十時十分で止めた時計台がある円い広場に着く頃、薄っすらとした雪が肩に染みをつくって、私ははっとした。この街には雪が降るんだと知ったのは本当に今だった。欠けた月が雲に隠れ、しんとした闇にふらふらと雪が降る。どこかで犬の鳴き声がする。目を閉じて寒さに従順になるとすかさず指の先がじわじわとなくなるような感覚になり、コートのポケットに思わず逃げてしまう。ポケットの中に入っている鍵を確かめる。それは何だか妙な形で、どこか現実味がなかった。けれどもきっと私の家の鍵だ。
     広場を過ぎて私の家に向かう。私の家は以前、地下鉄の沿線にあった。今は違う。
     ぽつぽつと灯る家々の隙間を過ぎ、コンクリートの小さな家に着く。鍵穴にぴったりと収まり、私は中に入った。
     中には簡単なキッチンがあって、本棚とベッドがその奥の部屋にあった。洗面所とお風呂とトイレが木のドアで隔たれてあった。私は雪に少し濡れたリュックを床に置いてベッドに腰掛けた。ひんやりしていた。
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